説明

検査方法

【課題】開口部から電解液が露出しない現象の発生を防止して、被検物の検査を行う検査方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は開口部とその上方に位置する電極とを有する容器を用い、前記開口部の下方に配置された被検物と前記電極とを前記容器内に貯留された電解液を介して電気的に接続して前記被検物の検査を行う検査方法であって、前記開口部に向けて縮径するテーパ形状を有する前記容器の前記開口部の上方に位置する注液口から予め設定した第1量の前記電解液を注液して前記開口部から前記電解液の液面を前記容器からはみ出させ、前記第1量よりも少ない液量である予め設定した第2量となるまで前記電解液を前記注液口から吸引し、前記第2量の前記電解液を介して前記被検物と前記電極とを電気的に接続して前記被検物の検査を行う検査方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気導電性を有する電解液で被検物を検査する検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶性のイオンである電解質は、血液の中に含まれており、神経の伝達、筋肉の収縮、体内や細胞内の水分量調節など、生命の維持に欠かせない役割を担う物質である。この電解質の濃度や割合は健康状態によって変動するため、血液中の電解質を検査することで健康状態をはかる指針を得ることができる。
【0003】
血液中の電解質を検査する手段として、特許文献1にバイオセンサが記載されている。
【0004】
図12は、特許文献1に記載されたバイオセンサ100を示す模式図である。絶縁性基板101に電極系である対極102と測定極103とが形成され、これらの電極系に酵素反応層104が形成されることでバイオセンサ100は構成される。また、対極102は第1伝送ライン105に、測定極103は第2伝送ライン106によって、ポテンショスタット107に接続されている。ポテンショスタット107により対極102と測定極103に一定の電位を印加した状態で、血液中の電解質が酵素反応層104と接触すると、酸化還元反応が起き、電解質の状態に応じた電流が生じる。ポテンショスタット107は、生じた電流を測定し、測定した電流の情報をコンピュータ108へ出力する。コンピュータ108は入力された電流の情報に基づいて血液中の電解質の検査を行う。
【0005】
このようなバイオセンサ100は、酵素反応層104の状態に起因して取得する電解質の情報にばらつきが生じる場合がある。例えば、均質な状態で酵素反応層104が形成されていない場合、酵素反応層104の場所によって異なる情報が取得される現象が生じうる。そこで、酵素反応層104が均質に形成されているか否かを検査するための手段として、従来の検査手段が特許文献2に記載されている。
【0006】
図13は、特許文献2に記載された従来の検査手段に用いるプローブ200を示した模式図である。プローブ200は容器201に収納された電極202を備え、電極202は容器201内で電解質の成分が既知の電解液203に浸されている。さらに、プローブ200は容器201の先端部204にアクチュエータ方式のシャッタ205を備えている。このシャッタ205が開くことで先端部204に開口部が形成され、容器201内に貯留された電解液203が、形成された開口部から露出する。シャッタ205の開いた先端部204を図12の酵素反応層104に接触させると、露出した図13の電解液203も酵素反応層104に接触し、酸化還元反応による電流が生じる。このとき、図12の第1伝送ライン105は、対極102のかわりに、図13の電極202と接続される。これにより、図12の酵素反応層104に図11の電解液203が接触することで生じる電流を、図12のポテンショスタット107で検出できる。
【0007】
酵素反応層104の状態を高い分解能で検査するために、図13の先端部204の開口部が微小な領域となるように、シャッタ205は設計されている。微小な領域の開口部を有する先端部204を、図12の酵素反応層104と接触させることで、酵素反応層104の微小な領域における状態を検査できる。酵素反応層104の微小な領域における検査をその全面に対して行うことで、酵素反応層104が正常な状態で均質に形成されているか否かを図13のプローブ200によって検査する。このようにして従来の検査手段により酵素反応層104の検査が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−245650号公報
【特許文献2】特開2000−180398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の検査手段では、図13のシャッタ205を開いて開口部を形成した際に、電解液203が先端部204まで充満されず、開口部から電解液203が露出しない現象が生じる場合がある。
【0010】
この現象が発生した場合、図13の容器201と図12の酵素反応層104とを接触させても、図13の電解液203による導通が確保されず、電流の測定が不可能となる。このため、図12のバイオセンサ100の検査を正確に行うことができない。つまり、従来の電解液を用いる検査手段では、電解液が露出せず、検査ができないという課題を有している。
【0011】
そこで本発明は、上記課題を解決するもので、開口部から電解液が露出しない現象の発生を防止した、検査方法の提供の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る検査方法は、開口部とその上方に位置する電極とを有する容器を用い、前記開口部の下方に配置された被検物と前記電極とを前記容器内に貯留された電解液を介して電気的に接続して前記被検物の検査を行う検査方法であって、前記開口部に向けて縮径するテーパ形状を有する前記容器の前記開口部の上方に位置する注液口から予め設定した第1量の前記電解液を注液して前記開口部から前記電解液の液面を前記容器からはみ出させ、前記第1量よりも少ない液量である予め設定した第2量となるまで前記電解液を前記注液口から吸引し、前記規定量の前記電解液を介して前記被検物と前記電極とを電気的に接続して前記被検物の検査を行うことを第一の特徴とする。また、前記被検物を含むチャンバの圧力が予め設定した圧力以下になるまで排気し、その状態で予め設定した時間保持し、その後前記チャンバにガスを導入して大気圧に戻した上で、規定量の前記電解液を介して前記被検物と前記電極とを電気的に接続して前記被検物の検査を行うことを第二の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、開口部から電解液が露出しない現象の発生を防止して、被検物の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1の検査装置の模式図
【図2】実施の形態1のプローブユニットの立体図
【図3】実施の形態1のプローブユニットの先端部に混入した空気を示した模式図
【図4】参考例のテーパを有さないプローブユニットの模式図
【図5】実施の形態1の容器の先端部におけるメニスカス形状を示した模式図
【図6】実施の形態1の容器の先端部から露出する電解液を示した模式図
【図7】実施の形態1の検査装置の動作を示したフローチャート
【図8】図7のステップS1〜S3の際のプローブユニットを示す図で、(a)ステップS1のプローブユニットを示す図、(b)ステップS2のプローブユニットを示す図、(c)ステップS3のプローブユニットを示す図
【図9】実施の形態2のプローブユニットの立体図
【図10】実施の形態3の検査装置の模式図
【図11】実施の形態3の検査装置の動作を示したフローチャート
【図12】バイオセンサの模式図
【図13】従来の検査手段のプローブを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る検査方法を実施するための検査装置1の模式図である。以下において、図12、図13と同じ構成要素については同じ符号を用いて説明を行う。
【0016】
まず、実施の形態1に係る検査装置1の構成について、図12に示したバイオセンサ100を被検物に用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、成分が既知の人工血液(以下、電解液3と記載する)が、タンク2に蓄えられている。このタンク2に備えられた電解液3は、ポンプ4により送り出され、流路5を通って、ノズル6の注液口6aから容器7内に注液される。このポンプ4にはチュービングポンプを適用し、1組の流路5とノズル6とで注液・吸引を行うことを可能とする。
【0018】
容器7は、電解液3や空気が自由に入出可能な開口部7aを容器7の先端部に有し、開口部7aと反対側の端部をジョイント8により保持されている。この容器7は、開口部7aに向けて縮径するテーパを有する円錐形状のケースである。容器7がテーパ形状を有する理由については後述する。ジョイント8は、注液口6aが容器7内に位置するようにノズル6を保持している。詳細は後述するが、開口部7aは、その大きさが微小となるように形成されているため、注液口6aから注液される電解液3は、一定量を超えるまで容器7内に貯留される。この場合、一定量を超える電解液3が容器7内に貯留されると、開口部7aから容器7の外部に電解液3が露出する。このとき、ジョイント8は、容器7内で電解液3と接触する位置に、電極9を保持している。すなわち、開口部7aが容器7の鉛直下側(図1のz軸方向)に位置するように容器7をジョイント8に保持させる。これらにより、容器7は、電極9及び注液口6aを内部に有し、また、容器7の開口部7aは、電極9、及び注液口6a両者の下方に位置することとなる。
【0019】
移動ステージ10は、電解液3が外部に露出した状態の開口部7aを、酵素反応層104と接触させることにより、酵素反応層104と電極9とを電解液3を介して電気的に接続する接続手段である。このとき、被検物であるバイオセンサ100は、開口部7aの下方に配置される。また、容器7を保持するジョイント8を移動ステージ10に固定することで、移動ステージ10により容器7を鉛直方向(z軸方向)に移動させる。さらに、移動ステージ10は、容器7を水平方向(x−y軸方向)にも移動させる。これらにより、移動ステージ10は、開口部7aとバイオセンサ100との相対距離を変化させる。なお、バイオセンサ100を移動させることで開口部7aとのx、y、z軸方向における相対位置関係を変化させてもよい。
【0020】
伝送ライン11は、電極9より得られた電気的特性を、検出部であるポテンショスタット12に伝送するものである。ポテンショスタット12は、被検ライン13により測定極103とも接続されているため、酵素反応層104と電極9との間における電気的特性を検出できる。ポテンショスタット12は、検出した電気的特性をコンピュータ14に出力する。実施の形態1では、電気的特性として電流を検出する。なお、被検ライン13を測定極103ではなく、図12の対極102と接続した場合でも酵素反応層104の状態の検査は可能である。
【0021】
コンピュータ14は、ポテンショスタット12から入力された電気的特性に基づいて、酵素反応層104の状態を検査する検査部14aを備える。さらに、コンピュータ14は記憶部14bを備えている。この記憶部14bには、電解液3の情報(電解液の成分・分量等)と、酵素反応層104が正常な場合に検出する電気的特性(例えば所定の幅を持たせた電流値)が正常時の値として記憶されている。検査部14aは、ポテンショスタット12から入力された電気的特性と、記憶部14bに記憶されている正常時の値とが一致する(所定の幅内に含まれる)か否かを比較することにより、酵素反応層104が正常であるか否かの検査を行う。検査部14aによる検査の結果は、表示機であるディスプレイ15に表示される。また、コンピュータ14は、制御部14cも備えている。制御部14cの制御により、移動ステージ10は、開口部7aと被検物であるバイオセンサ100との相対距離を変化させる。これにより、電解液3を介して電極9と電気的に接触させる酵素反応層104の位置を変化させ、酵素反応層104の各位置における状態を検査し、酵素反応層104の状態の分布を検出することができる。さらに、制御部14cは、ポンプ4による電解液3の注液、吸引を制御する機能も備えている。
【0022】
ここで、開口部7aの大きさについて説明する。酵素反応層104の状態の分布をより高精度に検出するためには、分解能を向上させる必要がある。分解能を向上させるためには、開口部7aの大きさを微小な形状にすることが必要である。開口部7aを微小な形状にすることで、酵素反応層104の微小な領域の検査が可能となる。すなわち、高い分解能で酵素反応層104の検査を行える。
【0023】
次に、検査に用いる電解液3の液量について説明する。微小な領域の検査を行うには、微量な電解液3を用いて検査する必要がある。酵素反応層104の微小な領域に、大量の電解液3を接触させると、実際の使用状況から逸脱した状態での検査を行うことになるからである。例えば、使用者への負担を軽減するため、バイオセンサ100は微量の血液から電解質を検査できるように工夫がされている。このような微量の血液が酵素反応層104全体と反応するため、この酵素反応層104の微小な領域に注目した場合、各微小領域で反応する血液量は極微量となる。このため、開口部7aの大きさを微小にすると、検査に用いる電解液3の量も微量にしなければ実際の使用状況に合わせた酵素反応層104の検査ができない。そこで、実施の形態1では、微量の電解液3を用いて検査を行う。この微量な電解液3の量を規定量(第2量)と称し、以下の説明を行う。この場合、被検物の種類や開口部7aの大きさにあわせた規定量を、図1の記憶部14bに予め記憶させておく。
【0024】
ここで、微小な開口部7aと微量な規定量の電解液3で検査を行う場合に生じうる問題について説明する。説明のために、図2に示すように、流路5、ノズル6、容器7、ジョイント8、電極9とで構成されるユニットをプローブユニット16とする。
【0025】
プローブユニット16のノズル6から容器7内に規定量(微量)の電解液3を注入すると、微小な開口部7aまで電解液3が充満されない現象が発生し得る。この現象の生じた状態を模式的に表したものを図3に示す。
【0026】
図3は、プローブユニット16の容器7にノズル6の注液口6aから規定量の電解液3を注入した場合における、開口部7aまで電解液3が充満されない現象を示した模式図である。容器7内における電解液3の下部液面と開口部7aとの間(容器7の先端部)には、空気が貯留されている。このような空気が貯留された状態を空気がみと称する。空気がみが発生した場合、開口部7aから電解液3が露出しないため、被検物と電極9とを電気的に接続することができない。すなわち、空気がみが発生すると検査ができなくなる。
【0027】
ここで、空気がみの発生するメカニズムについて説明する。注液口6aから注液された電解液3には、電解液3の質量に重力加速度を乗算した力(以下、第1力とする)が作用し、容器7の内側面を伝って開口部7aに向かって進行する。第1力が作用すると同時に、容器7の内側面を伝う電解液3には、電解液3の進行を妨げるダルシー・ワイスバッハの力が作用する。ダルシー・ワイスバッハの力(以下、第2力とする)とは、容器7の内半径に反比例する力である。これら第1力と第2力との釣り合う位置で電解液3は進行を停止する。つまり、図3に示した空気がみの状態とは、これらの力が、開口部7aの上方で釣り合ってしまった状態である。電解液3の液量が微量化するほど第1力は小さくなり、開口部7aが微小化するほど第2力は大きくなる。このため、微量な電解液3と微小な開口部7aを有するプローブユニット16では、空気がみが生じやすい。
【0028】
発明者らは、このメカニズムに鑑みて、次の手法をとることで、空気がみの発生を防止できることを見出した。この手法について説明する。まず、規定量(第2量)よりも多い液量(以下、超過量又は第1量とする)の電解液3を容器7に注入する(以下、注液工程とする)。これにより、規定量の場合よりも強い第1力を電解液3に作用させる。強い第1力を利用して、電解液3を開口部7aまで充満させることにより、容器7の先端部に貯留された空気を抜き出す。この場合、開口部7aまで充満されるような電解液3の液量(超過量)を予め測定しておく。次に、液量が規定量となるまで容器7内の電解液3を注液口6aから吸引して容器7の外へ排出する(以下、吸引工程とする)。これにより、容器7内で開口部7aまで充満された規定量の電解液3を保持することが可能となる。
【0029】
ここで、容器7が開口部7aに向かって縮径するテーパを有している理由について説明する。プローブユニット16において、容器7の形状を、テーパを有さない円柱容器17に変更したものを参考例として図4に示す。円柱容器17内のノズル6の注液口6aから電解液3が注液される。注液された電解液3は、円柱容器17の内側面に密着し、注液口6aの周囲に静止する。電解液3が静止するとき、第1力と第2力とは釣り合っている。電解液3は、注液口6aにより一定量ずつ注液されるため、円柱容器17内における電解液3の質量が増加する。電解液3の質量が増加すると、それに伴い、第1力も増加する。第1力が第2力を上回る程に増加すると、円柱容器17内の電解液3は、第1力の作用する方向(z軸方向)に進行を始める。このとき、円柱容器17は、z軸方向で常に内半径が等しいため、円柱容器17内で電解液3に作用する第2力はほとんど変わらない。このため、一度でも第1力が第2力を上回ると、電解液3は、円柱容器17内を進行し続け、(円柱容器17の)開口部17aで留まることなく、円柱容器17から漏液してしまう。これに対して、図3のプローブユニット16では、容器7がテーパ形状を有するため、開口部7aに近づくにつれ第2力が増加する。このため、注液口6aから注液される電解液3の液量を調節することで、容器7の先端部に貯留された空気を抜き出すと同時に、開口部7aに電解液3を留めることが可能である。
【0030】
このようなテーパ形状を有する容器7に対して、注液工程を行い、容器7の先端部に貯留された空気を押し出す。その後、吸引工程を行うことで、規定量の電解液3を容器7の先端部にまで充満させる。
【0031】
しかしながら、注液工程で容器7の先端部から空気を抜き出したにもかかわらず、吸引工程後の容器7内で空気がみの生じる場合がある。この場合における容器7の先端部の電解液3の模式図を図5に示す。図5に示すように、電解液3の下部液面にはメニスカス形状18が形成されている。このメニスカス形状18の形成が原因となって、電解液3の下部液面と開口部7aとの間に再び空気がみが発生する。メニスカス形状18は、吸引工程時に生じる圧力変動が原因となって、生じたと考察される。
【0032】
そこで、発明者らは更なる実験の結果、注液工程の際に、開口部7aから電解液3を容器7から下方(z軸方向)にはみ出させる必要があることを見出した。
【0033】
続いて、電解液3を容器7からはみ出させる具体的な条件について検討した。まず、図6に示すように、開口部7aから電解液3の下部液面の位置までの距離をdとすると、距離dが0.03mm未満の場合、図5のメニスカス形状18による空気がみが発生することを、発明者らは鋭意検討の結果見出した。さらに、距離dが0.5mmを越えると、開口部7aから電解液3の液漏れが発生することを発明者らは見出した。これらから、注液工程で、距離dが次の(数1)の条件を満たす必要があることを発明者らは導出した。
【0034】
【数1】

【0035】
つまり、図1の注液口6aから電解液を注液すると、開口部7aから下方への距離dが0.03mm以上0.5mm以下の位置に電解液3の下部液面が容器7からはみ出すような電解液3の液量を超過量とすべきである。このような超過量は、容器7の形状から予め求められ、図1の記憶部14bに記憶されている。一方、規定量の電解液3を注液口6aから注液した場合は、空気がみが生じることから、開口部7aからの下方への距離dが0.03mm未満の位置に電解液3の下部液面がはみ出すような電解液3の液量が規定量となる。ちなみに、図1の注液口6aから注液した際に、電解液3の下部液面が開口部7aから全くはみ出さないような液量であっても、メニスカス形状18が生じない場合は、規定量となる場合がある。規定量は、開口部7aの大きさと被検物によって最適な量が選択されるからである。なお、距離dをより厳密に表現すると、電解液3の下部液面における図6の鉛直(z軸)方向の最下点と開口部7aとの鉛直(z軸)方向における最短距離となる。また、(数1)の条件を満たす超過量の電解液3を注液する工程を特に、後述する空気抜き工程と称する。
【0036】
次に、図1に示した検査装置1の動作について図7のフローチャート、および図8を用いて説明する。この図8(a)〜(c)は、それぞれ図7のステップS1〜S3間におけるプローブユニット16の状態を示す図である。図8(a)〜(c)に、規定量の電解液3が容器7の先端部にまで充満された場合に、この場合における電解液3の上部液面の位置を点線で示す。
【0037】
図7のステップS1では、図1の制御部14cが、ポンプ4に、注液口6aから容器7内へ超過量(第1量)の電解液3の注液を行わせる。このようなステップS1を空気抜き工程とする。規定量よりも超過量の方が多いため、超過量の電解液3を容器7内に注入した際の上部液面の位置は、図8(a)の点線より上側に位置する。また、電解液3の下部液面の位置は、(数1)の条件を満たすように調整される。この場合、図1の制御部14cは、記憶部14bに予め記憶されている超過量に基づいて、ポンプ4に動作の指示を行う。
【0038】
ステップS2では、図1の制御部14cが、ポンプ4に、容器7内の電解液3の液量が規定量(第2量)となるまで、注液口6aから電解液3を吸引させる。このステップS2を吸引工程とする。ステップS2により、図8(b)に示すように、電解液3の上部液面が図中の点線の位置と重なり、空気がみの発生を防止しつつ内部の電解液3を規定量となるように調節できる。この場合、制御部14cは、記憶部14bに予め記憶されている規定量に基づいて、ポンプ4に動作の指示を行う。なお、規定量(第2量)は超過量(第1量)よりも少ない液量である。
【0039】
ステップS3では、図1の制御部14cが、移動ステージ10を用いて、開口部7aを被検物であるバイオセンサ100の酵素反応層104と接触させる。これにより、容器7の先端部に充満した電解液3を介して電極9と酵素反応層104とを電気的に接続する。このステップS3を接続工程とする。このステップS3では、図8(c)のように、先端部まで電解液3の充満された容器7を酵素反応層104と接触させる。
【0040】
ステップS4では、図1の電極9と酵素反応層104とを電気的に接続したことにより得られる電気的特性を、検出部であるポテンショスタット12で検出する。このステップS4を検出工程とする。
【0041】
ステップS5では、ステップS4の検出工程により検出した電気的特性に基づいて、図1の検査部14aが、酵素反応層104の良否の検査を行う。このステップS5を検査工程とする。
【0042】
ステップS6では、ステップS5の検査工程による検査結果を、図1のディスプレイ15に表示する。このステップS6を表示工程とする。
【0043】
ステップS7では、図1の制御部14cが、移動ステージ10に、開口部7aを酵素反応層104から離間させることで、電極9と酵素反応層104との電気的な接続を解除させる。このとき、酵素反応層104と電解液3との間に表面張力と重力とが働き、酵素反応層104に電解液3が引っ張られるようにして容器7から電解液3が排出される。これより、電解液3が全て排出され、容器7は空となる。このステップS7を接続解除工程とする。
【0044】
以上のステップS1〜ステップS7により、図1の検査装置1は、検査の動作を行う。なお、酵素反応層104の状態の分布を検出する際には、移動ステージ10により、酵素反応層104上で開口部7aを接触させる位置を変化させながらステップS1〜ステップS7をループさせる。
【0045】
ここで、容器7内におけるノズル6と電極9との位置関係について図3を用いて説明する。
【0046】
図7のステップS2(吸引工程)後の規定量の電解液3の上部液面よりも下側に位置するように、ノズル6の注液口6aを配置している。吸引工程時に、ノズル6内に空気が入るのを防止するためである。
【0047】
また、吸引工程後の規定量の電解液3の上部液面よりも下側に、電極9の下側の端面(z軸方向の最下面)が位置するように、電極9を配置している。ステップS3(接続工程)で電極9を電気的に接続させるためである。
【0048】
なお、電解液3と確実に接触させる必要のある電極9の下側の端面を、開口部7a側に配置することが好適である。開口部7aの上部に電極9のみが配置される領域を形成することで、開口部7aをより微小化することができる。
【0049】
ノズル6と容器7の材質は、被検物との短絡を防ぐために、絶縁体を用いる必要がある。さらに、血液などの電解液3に対して耐腐食性をもっていることが必要である。実施の形態1では容器7にポリエチレンを採用した。他の絶縁体として、ポリプロピレンやガラスを用いることが可能である。
【0050】
なお、図1の電極9、測定極103、対極102は同じ材質である。実施の形態1ではこれらを銅で形成した。
【0051】
以上、説明したように、実施の形態1に係る図1の検査装置1は、開口部7aから電解液3が露出しない現象の発生を防止して、被検物の検査を行うことが可能である。
【0052】
なお、図7のステップS1(空気抜き工程)の後に、電解液3の下部液面が適切に開口部7aから露出しているか否かを判断するため、変位計を設けて電解液3の下部液面の位置を測定してもよい。測定するタイミングは、空気がみの発生しうる工程であるステップS3(接続工程)の直前が好ましい。この場合、非接触で測定するためにレーザ変位計や、光干渉計を適用することが好ましい。カメラを用いて、画像認識により電解液3の下部液面の位置を測定してもよい。このとき、変位計による測定結果が、(数1)を満たさない場合は、制御部14cは、その後の動作を中止し、ディスプレイ15にエラー表示を行う。
【0053】
なお、ここでは、酵素反応層104の検査について説明したが、電解液3に反応する部分の検査であれば、他の被検物でも同様である。
【0054】
また、検出する電気的特性として、電圧を検出しても良いし、電位を計測してもよい。すなわち、検出部としてガルバノスタットを用いてもよいし、エレクトロメータを用いてもよい。
【0055】
<実施例1>
ここで、実施の形態1に係る実施例1について説明する。図3に示したように、容器7のテーパ角をθ、開口部7aの内半径rとする。本実施例1では、容器7のテーパ角θを4度、開口部7aの内半径rを0.845mmとし、超過量を2mg、規定量を1mgとした。また電解液3の粘度を5cP(センチポアズ)、比重を1.05とした。また、ノズル6の内半径を0.26mm、容器7の開口部7aからノズル6の注液口6aまでの高さを0.85mmとした。電極9を直方体形状とし、その厚みと幅を共に0.3mmとした。また、開口部7aから電極9の下側の端面までの高さを0.7mmとした。
【0056】
超過量の電解液3を容器7に注液した際の電解液3の上部液面の位置は、開口部7aから1.3mmの高さであった。また、図7のステップS1(空気抜き工程)後の規定量の電解液3の上部液面の位置は、開口部7aから1mmの高さであった。
【0057】
この実施例1に係るプローブユニット16で、図7に示した動作を行うことにより、開口部7aから電解液3が露出しない現象の発生を防止して、被検物の検査を行うことが可能である。
【0058】
なお、分解能を向上させるために、開口部7aの内半径を0.84mmよりもさらに微小化させる場合、超過量は増加し、規定量は減少する。
【0059】
(実施の形態2)
実施の形態2では、図9に示したプローブユニット20を用いる。このプローブユニット20は、図2に示した実施の形態1のプローブユニット16に、放熱板19を配置したものである。検査の動作は、図7の検査の動作と同じである。ここでは、プローブユニット20についてのみ説明する。
【0060】
まず、図9のプローブユニット20が、放熱部19を備える理由について説明する。検査を行う際に、電極9に電圧を印加すると、電気的な負荷が加わることで熱が発生する。発生した熱により温度が上昇すると電極系の抵抗値が変動し、電流値などの電気的特性が変動する。このため、発生した熱により、検出される電気的特性には検出誤差が生じる場合がある。そこで、実施の形態2では、検出誤差の発生を低減させるために、効率的に放熱を行うための放熱部19を設けている。
【0061】
次に、放熱部19の材料について説明する。放熱部19は、アルミ、銅、ステンレス、真鍮など、容器7に用いた材料よりも熱伝導率の高い加工材料であることが好ましい。また、放熱特性の効率のよいグラファイト(炭素材料)を用いることで放熱部19の軽量化が可能である。実施の形態2では、人工血液である電解液3に対して耐腐食性を有する、ステンレスを放熱部19として採用した。
【0062】
続いて、放熱部19の配置について説明する。放熱部19には、熱伝導率の高い材料を用いるが、このような材料は、導体である場合が多い。このため、検査時において、導体の放熱部19に電解液3が触れると、リークにより検出される電気的特性が変化する場合がある。リークを防止するため、図7のステップS2(吸引工程)後における規定量の電解液3の上部液面よりも上方に放熱部19が位置することが必要である。つまり、超過量の電解液3が規定量となるまで吸引された後には電解液3と離間する位置に放熱部19を配置しなければならない。一方、放熱部19は、図7のステップS1(空気抜き工程)後における超過量の電解液3の上部液面よりも下部に位置することで、この超過量の電解液3と接触することが必要である。すなわち、超過量の電解液3が注液された場合はこの電解液3と接触する位置に放熱部19を配置する必要がある。これらを同時に満たすような位置に放熱部19を配置することで、電解液3を介して電極9の熱を放熱部19で放熱することが可能である。
【0063】
以上説明したように、実施の形態2では、プローブユニット20に放熱部19を備えることで、発熱による検出誤差の発生を低減することが可能である。
【0064】
<実施例2>
ここで実施の形態2に係る実施例2について説明する。この実施例2では、図9の開口部7aからの高さが1.15mm以上の位置に放熱部19を形成した。放熱部19以外の構成の条件は、実施例1の場合と同じである。
【0065】
このように、図7のステップS1(空気抜き工程)後には電解液3と接触し、ステップS2(吸引工程)後には電解液3と接触しない位置に放熱部19を形成することで、検査時にリークの発生を防止しつつ、発生した熱を放熱することが可能である。このため、検出誤差の発生を抑えることが可能となる。
【0066】
(実施の形態3)
図10は実施の形態3に係る検査方法を実施するための検査装置200の模式図である。この検査装置200が図1に示した実施の形態1の検査装置1と異なるのは、容器7、ポンプ4、移動ステージ10など内に配置する検査チャンバ27が、ゲート24を介して、ロードロックチャンバ23と接続されていることである。ここで、ロードロックチャンバ23には、排気配管28、ガス導入配管21が取り付けられており、排気配管28は排気バルブ29を介して排気ポンプ20に、ガス導入配管21はガス導入バルブ22を通してガスボンベ26に接続されている。これ以外は、図1と同じであり説明を省略する。
【0067】
このような構成により、ロードロックチャンバ23を真空に排気すること、ガス導入によって大気圧に戻すこと、が可能になっている。なお、コンピュータ14、ポンプ4は検査チャンバ27の外にあってもよいが、流路5、伝送ライン11用の開口部以外は密閉されていなければならない。
【0068】
(動作の説明)
次に、図10に示した検査装置200を用いて検査を行う場合の動作について、図11のフローチャートを用いて説明する。検査開始時の状態としては、ロードロックチャンバ23の中に被検物であるバイオセンサ100(上記の実施の形態1、2と同じバイオセンサである)が試薬塗布直後の状態で配置されており、ロードロックチャンバ23は大気圧の状態である。塗布は通常ポンプにて液をノズルから吐出させることで行い、配置されるのは乾燥しておらず、濡れている状態である。
【0069】
なお、バイオセンサ100は図12の模式図で示されたものであるが、絶縁性基板である約12mm×約50mmのPETシート上に、スパッタによって成膜されたパラジウム薄膜電極が形成され、電極の先端に酵素反応層104が形成されたものである。酵素反応層は、カルボキシメチルセルロース(以下CMC)水溶液に、電子伝達体であるフェリシアン化カリウムを混合した試薬を塗布することで形成されるが、と塗布量は約1.2mg、塗布直後の厚みは約500μmであり、乾燥後の厚みは約1μmである。
【0070】
図11のステップS1では、図10の排気バルブ29を開けて、ロードロックチャンバ23の内部を真空排気する。このようなステップS1を真空乾燥工程とする。100Pa以下の状態まで排気したのち、10分程度保管することで、溶媒を乾燥させることができ、安定な状態にもっていくことができる。なお、長い時間乾燥させてもよい。前述どおり、溶媒は水である。温度は常温で実施した。
【0071】
ステップS2では、排気バルブ29を閉じ、ガス導入バルブ22を開くことで、ロードロックチャンバ23にガスを導入し、圧力を上げていく。大気圧程度まで到達したことを確認し、ガス導入バルブ22を閉じる。ここで用いるガスは、ロードロックチャンバ23を大気圧に回復するために導入されるもので、酵素反応層104と化学反応を起こしにくいN2やArなどの不活性ガスが望ましい。このようなステップS2を復圧工程とする。検査チャンバ27は常に大気圧であるので、ロードロックチャンバ23を大気圧に戻すことで、ゲート24を開くことができるようにすることがステップS2の目的である。
【0072】
ステップS3では、ゲート24を開いて被検物であるバイオセンサ100をロードロックチャンバ23から検査チャンバ27内の所定の位置に移載する。このようなステップS3を移載工程とする。
【0073】
検査チャンバ27内の雰囲気は、この場合、電解液が、空気中の水分と反応して変質してしまうので、ドライエアーまたはN2雰囲気に保つように、必要に応じて、フローしている。
【0074】
ステップS4〜ステップ10は図7のステップS1〜ステップS7と同じなので、ここでの説明は省略する。また、上記実施の形態1,2の方法をステップS1〜ステップS7として実施できる。
【0075】
以上のステップS1〜ステップS10により、図10の検査装置200は、検査の動作を行う。なお、酵素反応層104の状態の分布を検出する際には、移動ステージ10により、酵素反応層104上で開口部7aを接触させる位置を変化させながらステップS4〜ステップS10をループさせる。
【0076】
従来は試薬塗布後1時間以上かけて乾燥させた後でなければ安定して被検物の検査ができなかったが、ロードロックチャンバ23の内部での真空乾燥、ガス導入での復圧工程、および、検査チャンバ27内での検査により、試薬塗布後約10分で、安定して被検物の検査を行うことができる。
【0077】
真空乾燥を用いるので、被検物上に形成される膜が均質となり、測定しやすい。
【0078】
なお、被検物であるバイオセンサ100を例に説明したが、電解液と電極とが反応する他の被検物にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、血液中の電解質の検査に加えて、OPR計測、Ph計測、イオン濃度計測、分極電位計測等の電気化学デバイスの検査に利用できる。また、電気化学デバイスだけでなく電気・電子部品などのデバイスやメッキなどの検査にも適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 検査装置
2 タンク
3 電解液
4 ポンプ
6 ノズル
6a 注液口
7 容器
7a 開口部
9 電極
10 移動ステージ
12 ポテンショスタット
14a 検査部
14b 記憶部
14c 制御部
19 放熱部
20 排気ポンプ
21 ガス導入配管
22 ガス導入バルブ
23 ロードロックチャンバ
24 ゲート
26 ガスボンベ
27 検査チャンバ
28 排気配管
29 排気バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部とその上方に位置する電極とを有する容器を用い、前記開口部の下方に配置された被検物と前記電極とを前記容器内に貯留された電解液を介して電気的に接続して前記被検物の検査を行う検査方法であって、
前記開口部に向けて縮径するテーパ形状を有する前記容器の前記開口部の上方に位置する注液口から予め設定した第1量の前記電解液を注液して前記開口部から前記電解液の液面を前記容器からはみ出させ、
前記第1量よりも少ない液量である予め設定した第2量となるまで前記電解液を前記注液口から吸引し、
前記第2量の前記電解液を介して前記被検物と前記電極とを電気的に接続して前記被検物の検査を行う検査方法。
【請求項2】
前記容器は、前記第1量の前記電解液が前記容器内に貯留されている場合は該電解液と接触する位置であると共に、前記第2量の前記電解液が前記容器内に貯留されている場合には該電解液と離間する位置に配置される放熱部を備えることを特徴とする請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1量は、前記注液口から前記電解液を注液すると前記開口部から下方への距離が0.03mm以上0.5mm以下の位置に前記電解液の液面が前記容器からはみ出すこととなる液量である
請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項4】
前記被検物の表面に液を塗布した後、第1チャンバ内で、真空に排気して、前記被検物を乾燥させ膜を形成し、大気圧に戻した後、前記電解液を介して前記被検物の前記膜と前記電極とを電気的に接続して前記被検物の検査を行う請求項1から3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記第1チャンバと異なる第2チャンバにおいて、前記検査を行うことを特徴とする請求項4記載の検査方法。
【請求項6】
前記大気圧に戻した場合に、不活性ガスを導入する請求項4または5記載の検査方法。
【請求項7】
前記被検物の検査を行う場合に、前記第2チャンバーに、ドライエアーまたはN2をフローする請求項5または6記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−11585(P2013−11585A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52653(P2012−52653)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)