説明

検査用キット

【課題】検体を2種類の薬剤で処理して調製した被検試料について検査を行う場合に用いられる検査用キットであって、小型で、被検試料を容易かつ確実に調製することが可能な利便性の高い検査用キットを提供する。
【解決手段】インナーチャンバー2の底部20の外側表面の周辺部に、環状の溝21が形成され、溝の底22となる薄膜状部分23により、底部20がインナーチャンバー2の他の部分とつながった構成とし、検体採取治具4により底部の周辺部の所定箇所Qが押圧されて薄膜状部分に伸びが生じて底部が傾いた状態となったときに、溝21を構成する側面21a,21bどうしが底部の周方向の所定位置Pで当接してその近傍では薄膜状部分23の伸びが規制され、さらに上記所定位置Qに検体採取治具による押圧力が加わった場合に、位置Qの近傍で薄膜部分23がさらに伸びて破断し、検体採取治具がインナーチャンバーの底部を貫通するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査用キットに関し、詳しくは、例えば患者の咽頭などから採取される検体について、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する場合のように、検体を2種類の薬剤を用いて処理して調製した被検試料について検査を行う場合に用いられる検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する場合、第1の薬剤(例えば2mol/Lの亜硝酸ナトリウム)と、第2の薬剤(例えば0.3mol/Lの酢酸)とを混合した混合薬剤に、患者の咽頭などから採取された検体(例えば、綿棒の検体採取部である綿球に付着させて採取した検体))を浸漬し、検体を十分に混合薬剤に移行させた後の被検試料(検体抽出液)を、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の検出に供することが行われる。
【0003】
そして、上述のような第1の薬剤と第2の薬剤を混ぜ合わせることが必要になる場合に用いられる検査用キットとしては、例えば、第1の薬剤を収容する第1の容器と、第2の薬剤を収容する第2の容器と、検体を採取するための検体採取治具と、第1の薬剤と第2の薬剤を混ぜ合わせるとともに、混ぜ合わせた混合薬剤に検体を採取した検体採取治具を浸漬して検体を移行させる処理を行うための処理容器とを備えた検査用キットが用いられている。
【0004】
この検査用キットの場合、第1の容器と第2の容器を別体としてとして用意するとともに、さらに処理容器を用意することが必要で、検体採取治具を含めると、少なくとも4つの部品を別体として備えている必要があり、部品点数が多くなって保管などにも差し支えるという問題がある。
【0005】
また、検体を移行させた後の混合薬剤を検査室などに搬送しようとすると、上述の処理容器を封止するための封止部材が必要となり、さらに部品点数が増加するという問題点がある。
【0006】
また、第1の薬剤と第2の薬剤を混ぜ合わせることが必要になる場合に用いられる検査用キットの他の例として、図7,8に示すように、内部に第1の薬剤51が収容される樹脂製の第1の容器(チャンバー)61と、第1の容器61の開口部61aから第1の容器61の内部に挿入され、第1の容器61の開口部61aを封止する機能を果たすとともに、内部に第2の薬剤52が収容される樹脂製の第2の容器(インナーチャンバー)62と、第1の容器61の内部に挿入されて開口部61aを封止している状態の第2の容器62の開口部62aを封止するとともに、第2の容器62を第1の容器61の開口部61aに係合した状態で保持することにより、第1の容器61の開口部61aを封止する機能を果たす封止部材63と、検体を採取・保持する例えば綿球などの検体採取部を一方端に有する綿棒などの検体採取治具(図示せず)とを備えた検査用キットも提案されている。
【0007】
なお、この検査用キットの場合、第1の容器61の開口部61aの周囲にはフランジ部61bが設けられ、第2の容器62の開口部62aの周囲にはフランジ部62bが設けられており、この第2の容器62のフランジ部62bを第1の容器61の開口部61aに係合させることにより、第1の容器61の開口部61aに第2の容器62が保持されるとともに、フランジ部62bの下面と第1の容器61の開口部61aとが当接し、ここでも第1の容器61のシールが行われる。
【0008】
また、封止部材63としては、接合用の樹脂フィルムを備えたアルミニウム箔が用いられており、このアルミニウム箔(封止部材)63を第1の容器61の開口部61a、第2の容器62の開口部62aおよび、第1および第2の容器61,62のフランジ部61b,62bを全体的に覆うように貼り付けることにより、第1の容器61、第2の容器62が、それぞれ第1の薬剤51および第2の薬剤52を内部に密閉、収容した状態で、一体に保持されることになる。
【0009】
そして、この検査用キットは、検体を採取した後、封止部材63を除去した後、検体採取治具(例えば綿棒)の検体採取部(例えば綿球)を第2の容器62内に挿入し、さらに押し込んで第2の容器62の底部を貫通させることにより、検体が付着した検体採取部(綿球)を第1の容器61内に到達させ、第2の容器62内の第2の薬剤52を第1の容器61内に導入して、第1の容器61内の第1の薬剤51と混合させるとともに、第1の薬剤と第2の薬剤とが混合した混合薬剤に、検体採取治具の検体が付着した検体採取部を浸漬して、検体を混合薬剤に移行させることにより、第1の容器61内に、検体が、第1および第2の薬剤が混合された混合薬剤中に移行した状態の被検試料が得られるように構成されている。
【0010】
しかしながら、この検査用キットの場合、検体採取治具(綿棒)を押し込んで第2の容器の底部を突き破る際に、第2の容器62の構成材料などにもよるが、底部が伸びてしまい、かなり奥まで検体採取治具(綿棒)押し込んでも、底部を貫通させる(突き破る)ことができない場合や、底部が厚くて、特に大きな力を加えないと突き破ることができない場合などがあり、作業性が悪いという問題点がある。
【0011】
また、この検査用キットの場合、封止部材63であるアルミニウム箔を除去して、検体を混合薬剤に移行させた後の段階では、第1の容器を封止することができないため、例えば、被検試料を検査室に搬送したりすることが事実上できないという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、例えば患者の咽頭などから採取される検体について、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する場合のように、検体を2種類の薬剤を用いて処理して調製した被検試料について検査を行う場合に用いられる検査用キットであって、小型で、被検試料を容易かつ確実に調製することが可能な検査用キット、さらには、調製した被検試料を検査室などに搬送することが可能で、利便性の高い検査用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および効果】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明(請求項1)の検査用キットは、
(a)一方端が開口部とされ、他方端が封止された筒状部材であって、内部に第1の薬剤が収容されるチャンバーと、
(b)一方端が開口部とされ、他方端が底部により封止され、かつ、前記開口部の周囲にフランジ部が配設された筒状部材であって、前記他方端から、前記チャンバーの前記開口部を経て前記チャンバーの内部に挿入され、前記チャンバーの前記開口部を封止する機能を果たすとともに、前記一方端の前記フランジ部が前記チャンバーの前記一方端と当接してその位置に保持されるように構成された、内部に第2の薬剤が収容されるインナーチャンバーと、
(c)前記インナーチャンバーの開口部を封止するとともに、前記インナーチャンバーの前記フランジ部を、前記チャンバーの前記開口部とされた前記一方端に当接させて前記チャンバーの開口部を封止する封止部材と、
(d)軸状部材の少なくとも一方端に、検体を採取・保持する検体採取部を有する検体採取治具と
を備えており、
採取された検体が付着した前記検体採取治具の前記検体採取部を、前記開口部から前記インナーチャンバーに挿入し、前記底部を貫通させて前記検体採取部を前記チャンバー内に到達させ、前記インナーチャンバー内の前記第2の薬剤を前記チャンバー内に導入して、前記チャンバー内の前記第1の薬剤と混合させるとともに、第1の薬剤と第2の薬剤が混合した混合薬剤に検体の付着した前記検体採取部を浸漬して、検体を前記混合薬剤に移行させた後、前記検体採取治具を、前記インナーチャンバーとともに、前記チャンバーから取り出すことにより、前記チャンバー内に、検体が、第1および第2の薬剤が混合された混合薬剤中に移行した状態の被検試料が得られるように構成されており、
前記インナーチャンバーの底部の内側表面は、周辺部から中央部に向かって上り勾配となるように形成されているとともに、
前記インナーチャンバーの底部の外側表面の周辺部には、前記底部を周回する環状の溝が形成され、前記溝の底となる部分を構成する薄膜状部分により、前記インナーチャンバーの底部が他の部分とつながっており、かつ、前記検体採取治具により前記インナーチャンバーの前記底部の周辺部の所定箇所が押圧され、当該押圧された箇所およびその近傍の前記薄膜状部分に伸びが生じて前記底部が傾いた状態となったときに、前記溝を構成する互いに対向する側面どうしが前記底部の周方向の所定の位置で当接して、この当接位置の近傍では前記薄膜状部分の伸びが規制され、さらに前記所定位置に前記検体採取治具による押圧力が加わった場合に、前記薄膜状部分の伸びが規制されない位置で前記薄膜部分がさらに伸びて破断し、前記検体採取治具が前記インナーチャンバーの底部を貫通するように構成されていること
を特徴としている。
【0014】
本発明の検査用キットは、上述のように、インナーチャンバーの底部の外側表面の周辺部に、底部を周回する環状の溝が形成され、溝の底となる部分を構成する薄膜状部分により、インナーチャンバーの底部がインナーチャンバーの他の部分とつながっており、検体採取治具により底部の周辺部の所定箇所が押圧され、当該押圧された箇所およびその近傍の薄膜状部分に伸びが生じて底部が傾いた状態となったときに、溝を構成する互いに対向する側面どうしが底部の周方向の所定の位置で当接して、この当接位置の近傍では薄膜状部分の伸びが規制され、さらに所定位置に検体採取治具による押圧力が加わった場合に、薄膜状部分の伸びが規制されない位置で薄膜部分がさらに伸びて破断し、検体採取治具がインナーチャンバーの底部を貫通するように構成されているので、検体を採取した後の検体採取治具により、容易かつ確実にインナーチャンバーの底部を突き破ることが可能になる。その結果、検体採取後に、第1の薬剤と第2の薬剤を混合するとともに、検体を混合薬剤に移行させることができる。したがって、本発明によれば、検体を2種類の薬剤を用いて処理することにより調製される被検試料を、容易かつ確実に調製することが可能な、利便性の高い検査用キットを提供することが可能になる。
なお、第1および第2の薬剤としては、通常、液体状薬剤が用いられるが、請求項4の発明のように、第1の薬剤として粉末状薬剤を用いることが可能であることは後述の通りである。
【0015】
また、請求項2の検査用キットは、前記検体採取治具と前記インナーチャンバーとを前記チャンバーから取り出した後に、前記チャンバーの前記開口部に取り付けられる、検査に供するために前記チャンバー内の前記被検試料を滴下させるための滴下用チップをさらに備えていることを特徴としている。
【0016】
チャンバーの開口部に取り付けられて、チャンバー内の被検試料を滴下させるための滴下用チップをさらに備えた構成とした場合、チャンバー内の混合薬剤中に検体が移行した状態の被検試料を、検体採取治具とインナーチャンバーとをチャンバーから取り出した後に、容易かつ確実に検査に供することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0017】
また、請求項3の検査用キットは、前記検体採取治具が、前記少なくとも一方端に、検体採取部として綿球を備えた綿棒であることを特徴としている。
【0018】
上述のように、検体採取治具として、少なくとも一方端に、検体採取部として綿球を備えた綿棒を用いるようにした場合、特殊な治具を必要とせずに検体を採取することが可能な検査用キットを提供することが可能になるとともに、底部を貫通させた後において、綿球部を該底部に形成された貫通孔に係合させながら検体採取治具(綿棒)を引き抜くことにより、容易に検体採取治具とインナーチャンバーとをチャンバーから取り出すことが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0019】
また、請求項4の検査用キットは、前記チャンバー内に収容された第1の薬剤が粉末状薬剤であり、前記インナーチャンバー内に収容された第2の薬剤が液体状薬剤であることを特徴としている。
【0020】
本発明の検査用キットにおいては、検体採取後の検体採取治具によりインナーチャンバーの底部を貫通させるようにしているので、第1および第2の薬剤が液体状薬剤である場合はもちろん、請求項4のように、チャンバー内に収容された第1の薬剤が粉末状薬剤であり、インナーチャンバー内に収容された第2の薬剤が液体状薬剤である場合にも適用することができる。すなわち、インナーチャンバーの底部が貫通することにより、インナーチャンバー内の液体状薬剤がチャンバーに流下して、第1の薬剤と混合され、第1の薬剤が溶解することにより混合薬剤が調製される。
【0021】
ただし、第2の薬剤が粉末状薬剤である場合には、インナーチャンバーの底部が貫通しても、インナーチャンバー内の粉末状薬剤が確実にチャンバー内に流下しない場合もあり得るので、インナーチャンバー内に収容される第2の薬剤としては液体状薬剤を用いることが望ましい。
【0022】
また、請求項5の検査用キットは、前記封止部材が、前記チャンバーの外周部に形成されたねじと螺合するねじを内周面に備えたねじ式のキャップであって、内側天面が前記インナーチャンバーの前記開口部と当接してインナーチャンバーを封止するとともに、前記インナーチャンバーの前記フランジ部を前記チャンバーの前記開口部に当接させて、前記インナーチャンバーを介して前記チャンバーを封止し、前記インナーチャンバーが前記チャンバーから取り出された状態においては、内側天面が前記チャンバーの開口部と当接してチャンバーを封止するように構成されていることを特徴としている。
【0023】
封止部材を、上述のような構成とすることにより、検査に使用する前は、薬剤が収容された状態でチャンバーとインナーチャンバーの両方を確実に封止することができるとともに、検体採取後に検体を混合薬剤に移行させることにより調製された被検試料が収容されたチャンバー(すなわち、インナーチャンバーおよび検体採取治具が取り除かれた後のチャンバー)を確実に封止することが可能になり、調製した被検試料を検査室などに安全、確実に搬送することができるようになり、さらに有意義である。
【0024】
また、請求項6の検査用キットは、前記インナーチャンバーの軸方向中央よりも底部に近い位置において、前記チャンバーの内周面を周回する領域と、前記インナーチャンバーの外周面を周回する領域とが当接して前記チャンバーが封止されるように構成されていることを特徴としている。
【0025】
インナーチャンバーの軸方向中央よりも底部に近い位置において、チャンバーの内周面を周回する領域とインナーチャンバーの外周面を周回する領域とが当接してチャンバーが封止されるようにした場合、上述の封止部材による封止だけではなく、チャンバーの内周面とインナーチャンバーの外周面との当接部における封止効果を得ることが可能になり、使用時に封止部材を取り除いたときに、チャンバーの開口部付近に内部の薬剤(第1の薬剤)が滲み出しているというような事態が起こりにくくなり、より信頼性を向上させることが可能になる。
【0026】
また、請求項7の検査用キットは、前記滴下用チップの前記被検試料の通路に、固形物を濾過して除去するためのフィルタが配設されていることを特徴としている。
【0027】
上述のように、滴下用チップの被検試料の通路にフィルタを設けた構成とすることにより、例えば、検体に由来する浮遊物や懸濁物などを除去して、固形分を含まない被検試料を検査に供することが可能になる。
【0028】
請求項8の検査用キットは、溶血性連鎖球菌感染症の検査に用いられるものであることを特徴としている。
【0029】
また、本発明の検査用キットを用いることにより、検体を2種類の薬剤を用いて処理して調製した被検試料について検査を行うことが必要な、溶血性連鎖球菌感染症の検査を効率よく確実に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例にかかる検査用キットの構成を示す分解図(要部断面図)である。
【図2】本発明の一実施例にかかる検査用キットを構成する、第1の薬剤を収容したチャンバー、第2の薬剤を収容したインナーチャンバーおよび封止部材を一体に組み合わせた状態を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる検査用キットを用いる方法を示す図であり、検体採取治具をインナーチャンバーの底部に当接させた状態を示す要部拡大図である。
【図4】本発明の一実施例にかかる検査用キットを用いる方法を示す図であり、検体採取治具をインナーチャンバーの底部に押圧して、インナーチャンバーの底部を貫通させた状態を示す要部拡大図である。
【図5】本発明の一実施例にかかる検査用キットを用いる方法を示す図であり、検体採取治具の検体採取部をチャンバー内の混合薬剤に浸漬している状態を示す図である。
【図6】本発明の一実施例にかかる検査用キットを用いる方法を示す図であり、検体を混合薬剤に移行させて調製した被検試料を、滴下用チップを介して検査に供する方法を示す図である。
【図7】従来の検査用キットを示す分解図である。
【図8】従来の検査用キットを構成する第1の容器(チャンバー)と第2の容器(インナーチャンバー)を一体に組み合わせた状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0032】
この実施例1では、検体を2種類の薬剤を用いて処理して調製した被検試料について検査を行う、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する際に用いられる検査用キットを例にとって説明する。
【0033】
この実施例の検査用キットは、図1および図2に示すように、
(a)一方端が開口部1aとされ、他方端が封止された筒状部材であって、内部に第1の薬剤11(図2)が収容される樹脂製のチャンバー1と、
(b)一方端が開口部2aとされ、他方端が底部20により封止され、かつ、開口部2aの周囲にフランジ部2bが配設された筒状部材であって、他方端側から、チャンバー1の開口部1aを経てチャンバー1の内部に挿入され、チャンバー1の開口部1aを封止する機能を果たすとともに、一方端のフランジ部2bがチャンバー1の開口部1aとされた一方端と当接してその位置に保持されるように構成された、内部に第2の薬剤12(図2)が収容される樹脂製のインナーチャンバー2と、
(c)インナーチャンバー2の開口部2aを封止するとともに、インナーチャンバー2のフランジ部2bをチャンバー1の開口部1aとされた一方端に当接させてチャンバー1の開口部1aを封止する封止部材3と、
(d)軸状部材4aの少なくとも一方端に、検体を採取・保持する検体採取部4bを有する検体採取治具4と、
(e)検体が、第1および第2の薬剤11,12が混合された混合薬剤中に移行した状態の被検試料S(図5)を検査に供するために、チャンバー1から被検試料を滴下させるための滴下用チップ5を備えている。
【0034】
なお、第1の薬剤としては、例えば、2mol/Lの亜硝酸ナトリウム、第2の薬剤としては、例えば、0.3mol/Lの酢酸の液体薬剤が用いられている。
【0035】
上述の検体採取治具4としては、例えばポリスチレンなどからなる樹脂製の軸状部材4aの一方端に、検体を採取・保持する検体採取部4bとして綿球が配設されたいわゆる綿棒が用いられている。なお、綿球としては、合成繊維をフロック加工して形成した、検体の採取性・保持性能に優れたものが用いられている 。
【0036】
なお、本発明においては、検体採取治具4として、上述のような綿棒に限らず、一方端にブラシなど、検体を採取し、保持することが可能な検体採取部を備えた種々の構成のものを用いることが可能である。
【0037】
また、この実施例の検査用キットでは、検体採取治具4を除いて、検査用キットを構成する各構成部材は、透明または半透明で、かつ可撓性を備えた材料(この実施例では低密度ポリエチレン)から形成されている。ただし、本発明の検査用キットの構成材料に特別の制約はなく、本発明の作用効果を損なわない範囲において、種々の材料を用いることができる。
【0038】
また、この実施例の検査用キットにおいて、インナーチャンバー2の底部の内側表面は、周辺部から中央部に向かって上り勾配となるように形成されている。
【0039】
さらに、インナーチャンバー2の底部20の外側表面の周辺部には、底部20を周回する環状の溝21が形成されており、図3,4に示すように、溝21の底(溝底部)22となる部分を構成する薄膜状部分23により、インナーチャンバー2の底部20がインナーチャンバー2の他の部分とつながっている。
すなわち、底部20を周回する溝21は、互いに対向する側壁21a,21b、および溝底部22(薄膜状部分)から形成されている。
【0040】
また、溝21は、後述するように、検体採取治具を押し付けて底部20を貫通させる工程で、溝21の動作を規定するために、その深さ方向がインナーチャンバー2の軸方向に対して少し角度を持つように形成されているとともに、互いに対向する側壁21a,21bも、溝底部22に向かって間隔が小さくなるように所定の角度を持つように形成されている。
ただし、溝21の具体的な構成に特別の制約はなく、本発明の目的を達成することが可能な範囲内において、必要な変形を加えることが可能である。
【0041】
そして、検体採取後に、検体が付着した検体採取治具4の検体採取部4bを、開口部2aからインナーチャンバー2に挿入し、底部20を貫通させて検体が付着した検体採取治具4の検体採取部4bをチャンバー1内に到達させるとともに、インナーチャンバー2内の第2の薬剤12をチャンバー1内に導入して、チャンバー1内の第1の薬剤11と混合させるとともに、第1の薬剤11と第2の薬剤12が混合した混合薬剤13に検体の付着した検体採取部4bを浸漬して、検体を混合薬剤13に移行させることにより、検体が、第1および第2の薬剤11,12が混合された混合薬剤13(図5)中に移行して被検試料Sが調製されるとともに、検体採取治具4を、インナーチャンバー2とともに、チャンバー1から取り出すことにより、チャンバー1内に、検体が混合薬剤13(図5)中に移行した被検試料Sが得られるように構成されている。
【0042】
また、封止部材3は、チャンバー1の外周部に形成されたねじ1bと螺合するねじ3aを内周面に備えたねじ式のキャップであって、内側天面3bがインナーチャンバー2の開口部2a(インナーチャンバー2の一方端)と当接してインナーチャンバー2を封止するとともに、インナーチャンバー2のフランジ部2bをチャンバー1の開口部1a(チャンバー1の一方端の段部)に当接させて、インナーチャンバー2を介してチャンバー1を封止し、インナーチャンバー2がチャンバー1から取り出された状態においては、内側天面3bがチャンバー1の開口部1aと当接してチャンバー1を封止するように構成されている。
なお、インナーチャンバー2の一方端側の端面には突起2cが形成されており、封止部材(キャップ)3の内側天面3bと確実に当接して高い封止信頼性が得られるように構成されている。
【0043】
また、インナーチャンバー2がチャンバー1から取り出された状態において、内側天面3bをチャンバー1の開口部1aと当接させてチャンバー1を封止する場合に、同様にチャンバー1の開口部1aとされている一方端側の端面に突起を形成して封止信頼性を向上させるようにすることも可能である。
【0044】
また、この実施例の検査用キットにおいては、図2に示すように、インナーチャンバー2の軸方向中央よりも底部に近い位置において、チャンバー1の内周面とインナーチャンバー2の外周面とが確実に当接し、チャンバー1が該当接部において封止されるように、チャンバー1の内周を周回するように微小な凸条1cが形成されている。
【0045】
なお、インナーチャンバー2の軸方向中央よりも底部に近い位置において、チャンバー1の内周面とインナーチャンバー2の外周面とが確実に当接するための構造としては、これに限らず、この実施例の場合とは逆に、インナーチャンバー2の外周面に凸条を設けるようにしてもよい。
また、チャンバー1の内周面に凸条を設けるとともに、凸条1cが形成されている位置に対応する、インナーチャンバー2の外周面の所定の位置に、インナーチャンバー2の外周面を周回する、前記凸条1cに嵌合する浅い凹溝を形成したりすることも可能である。
そのほかにも、チャンバー1の内周面に凹溝を設け、インナーチャンバー2の外周面に凸条を設けるようにしたりすることも可能であり、チャンバー1の内周面とインナーチャンバー2の外周面とが確実に当接するための具体的な構造に特別の制約はない。
【0046】
また、滴下用チップ5は、検体が、第1および第2の薬剤11,12が混合された混合薬剤13中に移行した状態の被検試料Sを検査に供するために、チャンバー1から被検試料Sを滴下させる際に用いられるものである。
【0047】
この滴下用チップ5は、図6に示すように、封止部材3が施されていない状態で、チャンバー1の開口部1aにはめ込まれて用いられるものであり、内側に被検試料Sが通過する液通路5aが設けられている。
【0048】
なお、この滴下用チップ5は、液通路5aの一部にフィルタを備えた構成とすることも可能である。滴下用チップ5の被検試料Sの通路(液通路)5aにフィルタを設けた構成とすることにより、例えば、検体に由来する浮遊物や懸濁物などを除去して、固形分を含まない清澄な被検試料Sを検査に供することが可能になる。
【0049】
次に、図2に示すように、各部材が一体に組み合わされた状態の検査用キットを用いて検体を処理し、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する際の検体の処理方法について説明する。
【0050】
(1)まず、検体採取治具4を用いて、例えば患者の咽頭などから検体を採取する。
【0051】
(2)それから、図2に示す検査用キットの封止部材(キャップ)3を取り外し、採取された検体が付着した検体採取治具4の検体採取部4aを、開口部2aからインナーチャンバー2に挿入する。
そして、図3に示すように、検体採取治具4の一方端の検体採取部4bによりインナーチャンバー2の底部20の所定箇所を押圧する。
なお、この実施例の検査用キットにおいては、インナーチャンバー2の底部20の内側表面は、周辺部から中央部に向かって上り勾配となるように形成されているため、検体採取治具4の検体採取部4bは、インナーチャンバー2の底部20の、中央部より標高の低い周辺部の所定箇所に当接し、該所定箇所が押圧されることになる。
【0052】
検体採取治具4でインナーチャンバー2の底部20の所定箇所を押圧して、図4に示すように、当該押圧された箇所の薄膜状部分23に伸びが生じて底部20が傾いた状態になると、溝21を構成する互いに対向する側面21a,21bどうしが、底部20の周方向の所定の位置P、すなわち、検体採取治具4で押圧されていない方の所定の位置P(図4)で当接し、この当接位置の近傍では底部20が下方に移動できず、薄膜状部分23の伸びも規制されることになる。
【0053】
そして、そのような状態で、検体採取治具4による底部20への押圧がさらに継続して行われた場合、薄膜状部分23の伸びが規制されない位置Q(上記Pの位置から離れた位置ほど、薄膜状部分23の伸びが規制されなくなる)では薄膜状部分23がさらに伸びて破断する。その結果、検体採取治具4の検体採取部4aは、インナーチャンバー2の底部20を貫通してチャンバー1にまで達する。このとき、インナーチャンバー2内の第2の薬剤12は、貫通したインナーチャンバー2の底部20を経て、チャンバー1内に流下し、チャンバー1内の第1の薬剤と混ざり合って混合薬剤13となる。
【0054】
(3)その後、図5に示すように、検体が付着した検体採取治具4をチャンバー1内の混合薬剤13に浸漬し、検体を十分に混合薬剤13に移行させる。
【0055】
(4)それから、検体採取治具4を引き上げることにより、インナーチャンバー2とともに、チャンバー1から取り出す。これにより、チャンバー1の内部に、検体が混合薬剤13中に移行した状態の被検試料Sが得られる
なお、検体採取治具4を引き上げる際に、検体採取治具4の一方端に設けられた検体採取部(綿球)4bが、インナーチャンバー2の貫通した部分、すなわち、貫通孔の周辺部や、一部がインナーチャンバー2の本体につながった底部20に引っかかるため、通常は、検体採取治具4を引き上げるだけで、インナーチャンバー2が、検体採取治具4とともにチャンバー1から容易に取り除かれる。
【0056】
(5)その後、図6に示すように、滴下チップ5をチャンバー1の開口部1aに装着した後、滴下チップ5が装着されたチャンバー1の開口部1aを下向きにして、滴下チップ5から被検試料Sを滴下して試験に供する。
これにより、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無の検査を効率よく実施することができる。
【0057】
なお、この実施例では、上記(4)の工程で、チャンバー1からインナーチャンバー2と検体採取治具4とを取り除いた後、直ちに検査を行う場合を例にとって説明したが、被検試料Sを検査室などに持ち込んで検査することも可能である。そして、その場合、上述の封止部材3をチャンバー1の開口部1aに装着してチャンバー1を封止することにより、検査室などに安全に搬送することができる。
【0058】
また、この実施例では、第1の薬剤および第2薬剤として、液体薬剤(第1の薬剤:2mol/Lの亜硝酸ナトリウム、第2の薬剤:0.3mol/Lの酢酸)を用いた、A群ベータ溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査するための検査用キットを例にとって説明したが、本発明の検査用キットは、第1の薬剤として、粉末状、粒状などの固体薬剤を用い、第2の薬剤として、液体薬剤を用いた検査用キットにも適用することが可能である。
すなわち、検体採取治具によりインナーチャンバーの底部を貫通させて、液体薬剤である第2の薬剤をチャンバー内に導き、第1の薬剤(固体薬剤)を第2の薬剤(液体薬剤)により溶解させるような構成とすることも可能である。
このように本発明の検査用キットにおいては、チャンバーに収容される第1の薬剤として、液体薬剤以外の固体薬剤を用いることが可能で、用途の自由度を向上させることができる。
【0059】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、チャンバー、インナーチャンバー、検体採取治具、封止部材、滴下チップなどの具体的な構成、インナーチャンバーの底部を容易に貫通させるための溝の具体的な構成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 チャンバー
1a チャンバーの開口部
1b ねじ
1c チャンバーの内周を周回する微小な凸条
2 インナーチャンバー
2a インナーチャンバーの開口部
2b フランジ部
2c インナーチャンバーの一方端側の端面に形成された突起
3 封止部材
3a ねじ(封止部材の内周面のねじ)
3b 内側天面(封止部材の内側天面)
4 検体採取治具
4a 軸状部材
4b 検体採取部(綿球)
5 滴下用チップ
5a 滴下チップの液通路
11 第1の薬剤
12 第2の薬剤
13 混合薬剤
20 インナーチャンバーの底部
21 溝(環状の溝)
21a,21b 溝を構成する互いに対向する側面
22 底(溝底部)
23 薄膜状部分(底となる部分を構成する薄膜状部分)
P 溝を構成する互いに対向する側面どうしが当接する位置
Q 薄膜状部分の伸びが規制されない位置
S 被検試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一方端が開口部とされ、他方端が封止された筒状部材であって、内部に第1の薬剤が収容されるチャンバーと、
(b)一方端が開口部とされ、他方端が底部により封止され、かつ、前記開口部の周囲にフランジ部が配設された筒状部材であって、前記他方端から、前記チャンバーの前記開口部を経て前記チャンバーの内部に挿入され、前記チャンバーの前記開口部を封止する機能を果たすとともに、前記一方端の前記フランジ部が前記チャンバーの前記一方端と当接してその位置に保持されるように構成された、内部に第2の薬剤が収容されるインナーチャンバーと、
(c)前記インナーチャンバーの開口部を封止するとともに、前記インナーチャンバーの前記フランジ部を、前記チャンバーの前記開口部とされた前記一方端に当接させて前記チャンバーの開口部を封止する封止部材と、
(d)軸状部材の少なくとも一方端に、検体を採取・保持する検体採取部を有する検体採取治具と
を備えており、
採取された検体が付着した前記検体採取治具の前記検体採取部を、前記開口部から前記インナーチャンバーに挿入し、前記底部を貫通させて前記検体採取部を前記チャンバー内に到達させ、前記インナーチャンバー内の前記第2の薬剤を前記チャンバー内に導入して、前記チャンバー内の前記第1の薬剤と混合させるとともに、第1の薬剤と第2の薬剤が混合した混合薬剤に検体の付着した前記検体採取部を浸漬して、検体を前記混合薬剤に移行させた後、前記検体採取治具を、前記インナーチャンバーとともに、前記チャンバーから取り出すことにより、前記チャンバー内に、検体が、第1および第2の薬剤が混合された混合薬剤中に移行した状態の被検試料が得られるように構成されており、
前記インナーチャンバーの底部の内側表面は、周辺部から中央部に向かって上り勾配となるように形成されているとともに、
前記インナーチャンバーの底部の外側表面の周辺部には、前記底部を周回する環状の溝が形成され、前記溝の底となる部分を構成する薄膜状部分により、前記インナーチャンバーの底部が他の部分とつながっており、かつ、前記検体採取治具により前記インナーチャンバーの前記底部の周辺部の所定箇所が押圧され、当該押圧された箇所およびその近傍の前記薄膜状部分に伸びが生じて前記底部が傾いた状態となったときに、前記溝を構成する互いに対向する側面どうしが前記底部の周方向の所定の位置で当接して、この当接位置の近傍では前記薄膜状部分の伸びが規制され、さらに前記所定位置に前記検体採取治具による押圧力が加わった場合に、前記薄膜状部分の伸びが規制されない位置で前記薄膜部分がさらに伸びて破断し、前記検体採取治具が前記インナーチャンバーの底部を貫通するように構成されていること
を特徴とする検査用キット。
【請求項2】
前記検体採取治具と前記インナーチャンバーとを前記チャンバーから取り出した後に、前記チャンバーの前記開口部に取り付けられる、検査に供するために前記チャンバー内の前記被検試料を滴下させるための滴下用チップをさらに備えていることを特徴とする請求項1記載の検査用キット。
【請求項3】
前記検体採取治具が、前記少なくとも一方端に、検体採取部として綿球を備えた綿棒であることを特徴とする請求項1または2記載の検査用キット。
【請求項4】
前記チャンバー内に収容された第1の薬剤が粉末状薬剤であり、前記インナーチャンバー内に収容された第2の薬剤が液体状薬剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の検査用キット。
【請求項5】
前記封止部材が、前記チャンバーの外周部に形成されたねじと螺合するねじを内周面に備えたねじ式のキャップであって、内側天面が前記インナーチャンバーの前記開口部と当接してインナーチャンバーを封止するとともに、前記インナーチャンバーの前記フランジ部を前記チャンバーの前記開口部に当接させて、前記インナーチャンバーを介して前記チャンバーを封止し、前記インナーチャンバーが前記チャンバーから取り出された状態においては、内側天面が前記チャンバーの開口部と当接してチャンバーを封止するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の検査用キット。
【請求項6】
前記インナーチャンバーの軸方向中央よりも底部に近い位置において、前記チャンバーの内周面を周回する領域と、前記インナーチャンバーの外周面を周回する領域とが当接して前記チャンバーが封止されるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の検査用キット。
【請求項7】
前記滴下用チップの前記被検試料の通路に、固形物を濾過して除去するためのフィルタが配設されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の検査用キット。
【請求項8】
溶血性連鎖球菌感染症の検査に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の検査用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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