説明

検査用プレート及びその検査用プレートを用いた検査方法

【課題】 検体あるいは試薬等の溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に側収納部から流出させることができる検査用プレートを提供することを目的とする。
【解決手段】 上流側収納部4に、長さL0を有する底面4aと傾斜角θを有する側面4b2とを形成し、底面4aと側面4b2等を撥水面とする。
このようにすると、上流側収納部4内に収納される検体7が球形状になり、検体7は、収納最大球K0の、長さL0および傾斜角θによって決定される収納最大体積となったときに、上流側収納部4から流路5に自動的に流出する。その結果、検体7を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に上流側収納部4から流出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液検査、尿検査、あるいはDNA検査を医療機関や個人などで行うことが可能な簡易な検査用プレートに係わり、特に、検体あるいは試薬等の溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に収納部から流出させることができる検査用プレート及びその検査用プレートを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ごく微量の試料を対象とする分析、検査用の器具、たとえば血液や尿などの、人体からの採取物(検体)に対する検査用のチップの開発が盛んになっている。その1例である、DNAチップは、ガラスなどの基板上に多種類のDNA断片(プローブ)が予め埋め込まれたもので、人体から採取した遺伝子の働き具合等を一度に測定することができる。
【0003】
下記の特許文献1には、各種液体の合成、反応により産生される液体の化学分析を行うにあたり、廃液の量を減らすために微小量の液体を混合することができる、微小流路を有するセル基板に関する発明が開示されている。
【0004】
図6Aは前記セル基板を示す斜視図、図6Bは図6Aの10−10線における中央横断面図である。
【0005】
合成、反応させる液体は、キャピラリー等で、カナル100の上流側に設けられた注入口101a,101bから注入され、カナル100に沿って流れながら合成、反応させられる。そして、合成、反応させられた液体は、カナル100の下流部で、透明な樹脂基板102とカバー101とを通して光学特性等の測定が行われる。
【特許文献1】特開2003−181257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の発明では、図6Aおよび図6Bに示すように、注入口101a,101bは円柱形状で、単に、合成、反応に使用され、カナル100に流される液体を通過させるものであるため、所定量の液体を注入口101a,101bに注入する場合には、その量を予め測定しておかなければならない。その結果、注入量の測定に時間を要し、検査に要する合計時間が長くなる。また、所定量が微量な場合には、繰り返し正確に測定することが困難であり、その測定誤差のために、合成、反応が所望の条件からずれてしまうという問題もある。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、特に、検体あるいは試薬等の溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に側収納部から流出させることができる検査用プレートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の検査用プレートは、流路と、前記流路の上流側に連結され、検査に使用する溶液を収納するための上流側収納部とを有し、前記上流側収納部から前記流路にまで至る空間を構成する表面のうち、少なくとも前記上流側収納部の表面が撥水面であり、
前記上流側収納部には、前記溶液が所定量未満のときに前記溶液を前記上流側収納部内に保持する保持手段が形成されており、前記溶液が前記所定量となったときに前記保持手段による保持が解除されて、前記溶液が前記上流側収納部から前記流路に流出することを特徴とする。
【0009】
このようにすると、検査に必要な所定の量を予め測定しておくことが不要となり、検査全体にかかる時間を短縮することができる。また、所定量が微量である場合には、繰り返し正確に測定することが困難であるが、本発明では、所定量が上流側収納部の形状により自動的に決まるため、正確な量を容易に、かつ再現性よく上流側収納部から流出させることができる。
【0010】
本発明の検査用プレートは、前記流路の下流側に、前記流路と連結している下流側収納部を有する。
【0011】
この構造により、所定量の溶液が上流側収納部から流出すると、流路を経由して下流側収納部内に至る。その結果、下流側収納部内で、上流側から流出した溶液と下流側収納部に収納されていた他の溶液とが混合される。そして、生成した混合物が所定の反応をしたか否か等が測定される。
【0012】
本発明では、上流側の溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく上流側収納部から流出させることができる。このため、正確な量の上流側溶液を下流側の溶液と混合させることができ、また、前記測定および検査にかかる時間を短縮することができる。
【0013】
また本発明では、前記上流側収納部および前記流路が複数設けられ、前記下流側収納部が、前記流路の下流側でそれぞれの前記流路と連結している構成としてもよい。
【0014】
このようにすると、上流側溶液が多量に必要な場合、あるいは複数種類必要な場合においても、正確な量の上流側溶液を複数の上流側収納部から下流側収納部へ移動させることができ、下流側溶液と適切に混合させることができる。
【0015】
本発明では、前記上流側収納部の底面はくぼみ状の凹面で形成され、前記凹面が前記保持手段であることが好ましい。
【0016】
このようにすると、上流側の溶液を、所定量に至るまで上流側収納部内に確実に収納することができる。
【0017】
本発明では、前記溶液は前記上流側収納部内において球形状となり、前記球の中心が、前記上流側収納部と前記流路との連結部よりも前記流路側に位置したときに、前記溶液が前記上流側収納部から前記流路に流出する。
【0018】
溶液が球形状となって上流側収納部内に収納されるため、溶液を所定量だけ、再現性よく正確に上流側収納部から流出させることができる。
【0019】
本発明では、前記流路の底面が前記流路の下流へ向けて下方向へ傾く傾斜面で形成されることが好ましい。
【0020】
流路の底面が傾斜面であると、上流側収納部から流出した溶液を、特に移動させるための操作を加えることなく、下流側収納部に移動させることができる。
【0021】
また、本発明では、前記撥水面は、前記空間を構成する表面の全てに形成されていることが好ましい。
【0022】
このようにすると、マスキング等の煩雑な作業が不要となり、コーティング層の形成作業の作業性を向上させることができる。さらに、上記のようにすると、流路の底面および側面の表面にもコーティング層が形成される。このため、撥水効果が発揮され、流路の底面上においても上流側溶液の球形状が維持され、上流側溶液が、傾斜面となっている流路の底面上を移動しやすくなる。
【0023】
本発明では、前記撥水面は、前記空間を構成する表面に撥水剤がコーティングされて形成されており、
前記撥水剤はトリアジン環を有し、前記トリアジン環は、フッ素を含む置換基を1個または2個有するものである。
【0024】
このため、撥水面が、従来の、フッ素が含有された樹脂によって形成される場合と比べて、撥水効果を高くすることができる。撥水効果が高くなると、上流側溶液は、より真球に近い状態で、上流側収納部内に保持される。その結果、所定量未満の溶液を確実に上流側収納部に保持できるとともに、より正確な量の上流側溶液を、上流側収納部から流出させることができる。
【0025】
上記においては、前記撥水剤は、チオールあるいはアルコキシシランのどちらかまたは両方を置換基として含むものであることが好ましい。
【0026】
このようにすると、プレート基板と、撥水面を形成するコーティング層との間の接着力が強まり、コーティング層がプレート基板から剥がれ、撥水効果が低下するというトラブルを防止することができる。
【0027】
本発明の検査方法は、上記の検査用プレートを用いた検査方法において、
前記溶液を前記上流側収納部内に徐々に供給し、前記溶液が所定量となったときに、前記上流側溶液が前記上流側収納部から前記流路を通過して、他の溶液を収納した前記下流側収納部に移動し、前記下流側収納部内で、前記溶液と前記他の溶液とが混合されることを特徴とする。
【0028】
このようにすると、上流側溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に上流側収納部から流出させ、下流側溶液と混合させることができる。また、前記測定および検査にかかる時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の検査用プレートでは、検体あるいは試薬等の溶液を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に収納部から流出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は本発明の検査用プレートを示す斜視図、図2は本発明のプレート基板を示す平面図、図3は上流側の溶液が流路に流出する直前の状態を示す断面図である。なお、図1において、プレート基板の構造を明確にするために、蓋体を点線で示している。また、図3においては、上流側溶液も切断断面が示されているが、流路と区別するために、上流側溶液には断面であることを示す斜線等は施していない。
【0031】
本発明の検査用プレート1は、例えば人体から血液や尿などを採取し、これら採取物(検体)を、所定の試薬などと反応させて検査を行うためのものである。検査用プレート1を例えばDNAチップとして用いる場合には、採取した血液に必要な処理を施して検体とする。
【0032】
以下では、上流側の溶液が検体であり、下流側の溶液が試薬の場合について説明する。
図1に示すように、検査用プレート1は、例えば、幅方向(図示X1−X2方向)の両端から直角に長さ方向(図示Y1−Y2方向)に延びる略直方形状である。なお、検査用プレート1は、前記略直方形状以外の形状であってもよい。
【0033】
検査用プレート1は、プレート基板2と蓋体3とで構成される。プレート基板2および蓋体3は、ガラスや樹脂などで形成されており、適当な蛍光強度を有する材質で形成される。特に、検査用プレート1をDNAチップやプロテインチップ等として用いる場合には、検査用プレート1は、低蛍光性で、耐薬品性に優れた材質で形成されることが好ましく、例えば石英ガラス、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などで形成される。
【0034】
検査用プレート1が樹脂で形成される場合には、検査用プレート1を射出成形によって成形することが好ましく、場合によっては熱プレスを施して、プレート基板2の表面2aに形成される溝を高アスペクト比のものとして成形する。また、検査用プレート1がガラスで形成される場合には、検査用プレート1を熱プレスにより成形する。
【0035】
プレート基板2の表面2aの、図示Y2側の端部に上流側収納部4が球面に近いくぼみ状の溝形状で形成され、上流側収納部4から、一定の幅を有し、図示Y1方向に延びる流路5が溝形状で形成されている。プレート基板2の表面2aの、図示Y1側の端部には下流側収納部6が溝形状で形成されている。
【0036】
上流側収納部4は流路5を流れる検体の流れ方向の上流側に位置して、流路5と連結され、下流側収納部6は前記検体の流れ方向の下流側に位置して、流路5と連結されている。
【0037】
図2に示すように、流路5は、一定の幅を有する直線状に形成されている。流路5を直線状に形成すると、流路5内に前記検体が流れる際、素早く前記検体を下流側収納部6まで導くことができて好ましい。なお、流路5は直線状以外の形状であってもよい。
【0038】
また、図1および図2に示すように、下流側収納部6の平面形状は略円形状で形成されているが、円形状以外の形状であってもよい。
【0039】
上流側収納部4は、底面4aと、底面4aからプレート基板2の表面2aに向けて延びる左右(図示X1−X2方向)両側面4b1および上流側側面4b2とを有し、底面4aと側面4b1,4b2とで前記溝が構成される。底面4aは、図3に示すように、所定の長さL0を有し、くぼみ状の凹面となっている。上流側側面4b2はXY平面に対して傾斜角θを有する傾斜面となっている。
【0040】
流路5および下流側収納部6は、それぞれ底面5a,6aと、底面5a,6aからプレート基板2の表面2aに向けて延びる側面5b,6bとを有し、前記底面と前記側面とで前記溝が構成される。
【0041】
すなわち、プレート基板2の表面2aと、上流側収納部4の底面4aおよび側面4b1,4b2の表面と、流路5の底面5aおよび側面5bの表面と、下流側収納部6の底面6aおよび側面6bの表面とが、上流側収納部4から下流側収納部6まで至る空間を構成する表面となっている。
【0042】
図3に示すように、上流側収納部4の底面4aは、下流側収納部6の底面6aよりも上方(図示Z1方向)に位置し、流路5の底面5aが下流側収納部6へ向けて下方向へ傾く傾斜面となっている。
【0043】
次に、本発明の検査用プレート1の構造的な特徴部分を検査方法と合わせて説明する。
まず、下流側収納部6内に試薬8を収納する。検査用プレート1をDNAチップ等として用いる場合には、多数のプローブ(DNA断片)が下流側収納部6内に収納される。
【0044】
次に、図2および図3に点線で示すように、人体から採取した血液や尿等の検体7を上流側収納部4内に、上方から滴下して徐々に収納していく。DNA検査の場合には、前記血液に所定の処理が施された検体7が上流側収納部4内に収納される。
【0045】
上流側収納部4の底面4aと側面4b1,4b2の表面は撥水処理されており、撥水面となっている。以下では、底面4a、側面4b1,4b2のことを撥水底面4a、撥水側面4b1,4b2と称する場合がある。
【0046】
撥水処理としては、図3に太線で示すように、底面4a、側面4b1,4b2に撥水剤をコーティングし、撥水性に優れたコーティング層9を形成する。
【0047】
底面4a、側面4b1,4b2が撥水面であるため、検体7は撥水底面4a、撥水側面4b1,4b2によって反発力を受け、球状となる。その結果、検体7の流路5への流出が防止され、検体7を所定量に至るまで上流側収納部4内に適切に留めておくことができる。
【0048】
また、本発明では、図3に示すように、上流側収納部4の底面4aが、検体7を上流側収納部4内に保持する保持手段として機能しており、くぼみ状の凹面となっている。このため、検体7を、所定量に至るまで上流側収納部4内に確実に保持することができる。なお、底面4aの凹面の曲率は大きく、底面4aはほぼ平面に近い、ゆるやかな曲面となっている。
【0049】
また、上流側側面4b2の傾斜角θは、90度以下であることが好ましい。傾斜角θが90度以下であると、検体7を上流側収納部4内に保持しやすくなる。
【0050】
検体7を上流側収納部4内に徐々に収納していくと、上流側収納部4の底面4a、側面4b1,4b2が撥水面であるため、上流側収納部4内で保持される検体7が、図3に点線で示すように、球形状になる。そして、図3に矢印で示すように、上流側収納部4内での検体7の量が増加していく。すなわち、検体7の半径rが増加し、半径rの増加に伴って検体7の体積Vが増加していく。その後、検体7は、図3に実線で示すような収納最大半径r0を有する収納最大球K0になる。このとき、収納最大球K0の中心C0が、上流側収納部4と流路5の連結部Pの図示Z1−Z2方向の真上に位置する。その後、さらに検体7を上流側収納部4内に収納すると、検体7は、収納最大半径r0よりも大きな半径を有する球K1となり、球K1の中心C1は、連結部Pの図示Z1−Z2方向の真上の位置よりも流路5側に位置するようになる。このような状態になると、検体7を上流側収納部4内に留めておくことができず、検体7の上流側収納部4内での保持が解除され、流路5に流出する。すなわち、検体7は、収納最大球K0の収納最大体積V0になったときに、上流側収納部4から流路5に自動的に流出する。ここで、収納最大半径r0は、上流側収納部4の断面形状、すなわち底面4aの長さL0および上流側側面4b2の傾斜角θによって決定される。よって、収納最大体積V0が、上流側収納部4の断面形状によって決定される。このため、たとえば、DNA検査に必要な検体7の量が所定量に決まっている場合には、上流側収納部4の断面形状を前記所定量に適合する形状とすることができる。その結果、検体7を上流側収納部4内に徐々に収納していくと、検体7が前記所定量になったときに、上流側収納部4から流路5に自動的に流出するので、検体7を所定量だけ容易に、かつ再現性よく正確に上流側収納部4から流出させることができる。このようにすると、所定量を予め測定しておくことが不要となり、測定にかかる時間を短縮することができる。よって、検査全体にかかる時間を短縮することができる。また、特に、前記所定量が微量である場合には、その量を正確に測定することが困難であるが、上記のようにすると、前記所定量が上流側収納部4の断面形状により自動的に決まるため、測定誤差等の発生を防ぐことができる。
【0051】
なお、上流側収納部4の側面4b1,4b2の形状は、図1および図2に示す形状には限定されず、検体7が上流側収納部4から流出することが妨げられないような形状であればよい。
【0052】
図4は撥水剤が、テフロン(登録商標)樹脂によって形成される従来の場合と、トリアジン環を有し、前記トリアジン環は、フッ素を含む置換基を1個または2個有するものである本発明の場合とを、表面張力と接触角の余弦値との関係で比較したグラフである。図4では、黒丸プロットを含むグラフが本発明の場合のグラフで、白丸プロットを含むグラフが従来の場合のグラフである。
【0053】
本発明では、前記撥水剤が、たとえば、下記の化学式1のような、トリアジン環を有し、前記トリアジン環は、フッ素を含む置換基を1個または2個有するものである。
【化1】

【0054】
上記の化学式1において、nはたとえば8である。
このため、図4に示すように、従来の、フッ素が含有された樹脂、すなわちテフロン(登録商標)によって形成される場合における、臨界表面張力γc0(図中白丸プロットをcosθ=1に外挿したときの表面張力の値)と比べて、本発明の場合における臨界表面張力γc1(図中黒丸プロットをcosθ=1に外挿したときの表面張力の値)が、小さくなっている。このことは、本発明の場合のほうが、従来のテフロン(登録商標)の場合と比べて、接触角θが大きいことを示している。すなわち、本発明のように、前記撥水剤を、トリアジン環を有し、前記トリアジン環を構成する元素の一部がフッ素に置換されたものとすると、従来の、テフロン(登録商標)によって形成される場合と比べて、撥水効果を高くすることができる。撥水効果が高くなると、検体7は、より真球に近い状態で、上流側収納部4内に保持される。その結果、所定量未満の検体7を確実に上流側収納部4に保持できるとともに、より正確な量の検体7を、上流側収納部4から流出させることができる。
【0055】
また、本発明では、前記撥水剤は、チオールあるいはアルコキシシランのどちらかまたは両方を置換基として含むものであることが好ましい。このようにすると、プレート基板2とコーティング層9との間の接着力が強まり、コーティング層9がプレート基板2から剥がれ、前記撥水効果が低下するというようなトラブルを防止することができる。
【0056】
図2に点線と矢印で示すように、所定量の検体7が上流側収納部4から流出すると、検体7は流路5の底面5a上に移動し、流路5を通って、下流側収納部6内に至る。検体7が下流側収納部6内に至ると、下流側収納部6内で検体7と試薬8とが混合される。そして、検体7と試薬8との混合物が所定の反応をしたか否か等が測定される。
【0057】
本発明では、検体7を所定量だけ容易に、かつ再現性よく上流側収納部4から流出させることができる。このため、正確な量の検体7を試薬8と混合させることができ、また、前記測定および検査にかかる時間を短縮することができる。
【0058】
また本発明では、流路5の底面5aは、図3に示すように、流路5の下流に向かって、所定の角度αを有する傾斜面であることが好ましい。底面5aが傾斜面であると、上流側収納部4から流出した検体7が下流側収納部6に移動しやすくなる。
【0059】
また、コーティング層9を、上流側収納部4の底面4a、側面4b1,4b2のみに形成する場合には、流路5の底面5aおよび側面5bのようなコーティング層9を形成しない部分にマスクをかけておかなければならず、煩雑な作業となる。そこで、コーティング層9は、上流側収納部4の底面4a、側面4b1,4b2だけに形成するのではなく、プレート基板2の表面2aも含め全体的に、すなわち、流路5の底面5aおよび側面5bの表面と下流側収納部6の底面6aおよび側面6bの表面にも形成することが好ましい。このようにすると、前記煩雑な作業が不要となり、コーティング層9の形成作業の作業性を向上させることができる。
【0060】
さらに、上記のように、流路5の底面5aおよび側面5bの表面にコーティング層9を形成すると、撥水効果が発揮されるため、流路5の底面5a上においても検体7の球形状が維持され、検体7が、傾斜面となっている流路5の底面5a上を移動しやすくなる。
【0061】
図5は本発明のプレート基板の変形例を示す平面図である。
本変形例では、上流側収納部が上流側収納部40a,40bといったように二つ設けられ、上流側収納部40a,40bからそれぞれ下流側収納部6に向けて流路50a,50bが形成されている。流路50a,50bは、それぞれ、流路50a,50bの下流側で下流側収納部6と連結している。本変形例では、これらの点が図1および図2の場合と異なっており、他の構造等は、図1および図2の場合と同様である。図1および図2の場合と同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。なお本変形例においては、少なくとも上流側収納部40a,40bを構成する底面および側面の表面が撥水面となっている。
【0062】
本変形例では、上流側収納部が2つ設けられている。このため、検体7が多量に必要な場合、あるいは複数種類必要な場合においても、正確な量の検体7を上流側収納部40a,40bから下流側収納部6へ移動させることができ、試薬8と適切に混合させることができる。
【0063】
なお、プレート基板2に設けられる上流側収納部は2つには限定されず、複数個設けられていればよい。
【0064】
また、上記においては、プレート基板2の表面2aの、図示Y2側の端部に上流側収納部が形成され、図示Y1側の端部に下流側収納部が形成されている構造について説明したが、図示Y2側の端部に下流側収納部が形成され、図示Y1側の端部に上流側収納部が形成されていてもよい。
【0065】
本発明の検査用プレート1は、血液検査や尿検査、あるいは、DNAチップやプロテインチップの簡便な診断用として使用でき、また反応、分離、分析等を一つのプレート上で行うことができるμ−TAS(micro-total analysis system)や、Lab−on−chip、あるいはマイクロファクトリー用のプレートの一部として用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の検査用プレートを示す斜視図、
【図2】本発明のプレート基板を示す平面図、
【図3】上流側の溶液が流路に流出する直前の状態を示す断面図、
【図4】撥水剤が、テフロン(登録商標)樹脂によって形成される従来の場合と、トリアジン環を有し、前記トリアジン環は、フッ素を含む置換基を1個または2個有するものである本発明の場合とを、表面張力と接触角の余弦値との関係で比較したグラフ、
【図5】本発明のプレート基板の変形例を示す平面図、
【図6】図6Aは従来のセル基板を示す斜視図、図6Bは図6Aの10−10線における中央横断面図
【符号の説明】
【0067】
1 検査用プレート
2 プレート基板
3 蓋体
4,40a,40b 上流側収納部
4a,5a 底面
4b2 上流側側面
5,50a,50b 流路
6 下流側収納部
7 上流側物質
8 下流側物質
9 コーティング層
C0 中心
K0 収納最大球
P 連結部
V0 収納最大体積
r0 収納最大半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、前記流路の上流側に連結され、検査に使用する溶液を収納するための上流側収納部とを有し、前記上流側収納部から前記流路にまで至る空間を構成する表面のうち、少なくとも前記上流側収納部の表面が撥水面であり、
前記上流側収納部には、前記溶液が所定量未満のときに前記溶液を前記上流側収納部内に保持する保持手段が形成されており、前記溶液が前記所定量となったときに前記保持手段による保持が解除されて、前記溶液が前記上流側収納部から前記流路に流出することを特徴とする検査用プレート。
【請求項2】
前記流路の下流側に、前記流路と連結している下流側収納部を有する請求項1記載の検査用プレート。
【請求項3】
前記上流側収納部および前記流路が複数設けられ、前記下流側収納部が、前記流路の下流側でそれぞれの前記流路と連結している請求項2記載の検査用プレート。
【請求項4】
前記上流側収納部の底面はくぼみ状の凹面で形成され、前記凹面が前記保持手段である請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項5】
前記溶液は前記上流側収納部内において球形状となり、前記球の中心が、前記上流側収納部と前記流路との連結部よりも前記流路側に位置したときに、前記溶液が前記上流側収納部から前記流路に流出する請求項1ないし4のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項6】
前記流路の底面が前記流路の下流へ向けて下方向へ傾く傾斜面で形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項7】
前記撥水面は、前記空間を構成する表面の全てに形成されている請求項1ないし6のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項8】
前記撥水面は、前記空間を構成する表面に撥水剤がコーティングされて形成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項9】
前記撥水剤はトリアジン環を有し、前記トリアジン環は、フッ素を含む置換基を1個または2個有するものである請求項8記載の検査用プレート。
【請求項10】
前記撥水剤は、チオールあるいはアルコキシシランのどちらかまたは両方を置換基として含むものである請求項8または9記載の検査用プレート。
【請求項11】
請求項2または3記載の検査用プレートを用いた検査方法において、
前記溶液を前記上流側収納部内に徐々に供給し、前記溶液が所定量となったときに、前記上流側溶液が前記上流側収納部から前記流路を通過して、他の溶液を収納した前記下流側収納部に移動し、前記下流側収納部内で、前記溶液と前記他の溶液とが混合されることを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−105813(P2006−105813A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293807(P2004−293807)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】