説明

検査素子、検査装置、及び検査システム

【課題】従来は検体検査では毎回の検査の前にキャリブレーションを行う必要があり、そのたびにキャリブレーション用の試薬が必要となり、さらにはキャリブレーションに時間がかかるため検査システムのトータルのTAT(Turn Around Time)が悪化することになるため検査の効率の改善が難しいという問題があった。
【解決手段】検体検査を行うための検査素子であって、前記検査素子はその表面及び/又は内部に情報記録部を有し、前記情報記録部には前記検査素子の特性に関する情報が格納されていることを特徴とする検査素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体検査を行う検査システム、検査装置、検査素子に関するもので、例えば遺伝子検査若しくはタンパク質検査などの医療検査、農作物若しくは生物の検査、又は環境中の物質検査等に用いられる検査システム、検査装置及び検査素子、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の検体検査では、化学分析や試薬調合、化学合成、反応検出のために、mlからμlレベルの試薬が必要とされていた。最近では、リソプロセスや厚膜プロセス技術を応用して、試験管レベルよりも微細な反応場を形成することにより、nlレベルでの検査が可能となってきている。μ-TAS(Micro Total Analysis system)技術とは、このような微細な反応場を利用した検体検査を、遺伝子検査、染色体検査及び細胞検査などの医療検査・診断、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、並びに農作物等の飼育環境の調査及び農作物の遺伝子検査などに応用する技術である。これまでの検体検査では、主として検査技師の手技により試薬を扱っていたが、検体検査の工程は一般に複雑であり、機器の熟練操作が必要とされていた。これに対し、μ-TAS技術の導入により、工程の簡素化及び操作の簡便化が図られ、のみならず自動化、高速化、高精度化、低コスト化、迅速性の向上及び環境インパクトの低減などの大きな効果を得られることが期待されている。
【0003】
また、特に医療検査の分野では、前処理と複数回行われる分析との間の情報共有を可能にし、処理される多数の検体の管理を容易にし、又は検体検査の高速化を実現するため、複数の検査装置をネットワークで接続した検査システムが用いられている。医療検査システムでは、前記のμ-TAS技術などを用いた医療検査素子が医療検査装置の機能デバイスとして用いられる。このような検査システムでは、それぞれの検査素子ごとにどのように使用されるが異なっていることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような高度な検査システムが一般的に用いられるようになると、その検査システムで利用する検査装置と検査素子で用いられる情報やそれらの装置・素子の管理が問題になる。
【0005】
μ-TAS技術で用いられる試薬の量は、これまでの検査で用いられる試薬量とはオーダーが異なる。そのため、μ-TAS技術が用いられる検査素子では、構造中で試薬をハンドリングするための微細なチャネル流路と、試薬を反応させるための能動的な電気回路とが載置され、さらに流路と回路を制御するための手段が設けられている。これらの素子は微細構造を持つため、それぞれの素子が有する特性のわずかな違いが最終的な検査結果を大きく狂わせる可能性がある。一方で特に医療の現場などでは精細な素子の制御や正確なデータの取得が要求されることから、実際に使用する前には検査システムに用いられる各々の検査素子の特性を取得し、機器の調整や結果の補正等の校正作業(キャリブレーション)をすることが求められている。
【0006】
しかし、毎回の検査の前にキャリブレーションを行わなければならないと、そのたびにキャリブレーション用の試薬が必要となり、さらにはキャリブレーションに時間がかかるため検査システムのトータルのTAT(Turn Around Time)が悪化することになる。これらの要因により、従来のμ-TAS技術を用いた検査システムでは、検査の効率の改善が難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記したような課題に対応すべく、本発明では、検査素子の特性を予め測定し、検査素子に記録しておくための手段を持つことを提案する。検査装置は、記録された検査素子の特性を読み出し、予めテーブルに保存されている使用条件を読み出し、読み出した使用条件を検査装置に設定する。検査システムは、読み出された検査素子の特性が、最新のものかどうかをデータベースと照合し、検査装置が設定した使用条件が妥当なものかどうかを判断する。検査システムは、一連の検査装置からの検査結果をまとめ、例えば統計学的な処理を行うことで、それぞれの検査素子の、使用される現場での最適な使用条件に微修正し、検査装置が参照するテーブルをアップデートする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検査素子に事前のキャリブレーションを行う必要がなくなる。このために、正確な検査をより短時間に行うことができる。また、諸所で用いられる検査装置の使用条件を微修正することで、それぞれの現場に適した使用条件を測定することが可能となり、設置場所の温度や気圧や振動などの外乱条件に左右されることのない検査を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1に係る検査素子。
【図2】本発明の実施例1に係る検査装置。
【図3】本発明の実施例1に係る検査システム。
【図4】本発明の実施例1に係る他の検査素子。
【図5】本発明の実施例2に係る検査素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は検体検査に用いられる検査素子、検査装置及び検査システムに関する。検体検査としては、例えば生化学反応などの化学反応を主たる分析機序とするものが挙げられ、それらの中には、限定されないが、例えば遺伝子検査やタンパク質検査などが挙げられる。
【0011】
本発明の第1の態様は、検体検査に用いられる検査素子に関する。本発明の検査素子はその表面及び/又は内部に情報記録部を有し、情報記録部には検査素子の特性に関する情報が格納されている。
【0012】
検査装置において、検査に必要な値を検出するために用いられる検査素子の中には、その素子の特性によって検出する値が変化する可能性のあるものも多い。これらの素子は、その素子によって得られる値が基準測定法やベンダー等が規定している測定法によって得られる値と等価になるように、各回の使用前にキャリブレーションが必要であるとされている。
【0013】
ここで、検査素子の特性とは、測定値のばらつきに影響を与える可能性のある素子固有のパラメータを意味する。これらには、製造時に生じる素子の個体差や経時変化により発生するもののほか、温度、湿度又は試薬ロット等の各回の検出条件によって発生するものや、使用により生じるものも含む。製造時に発生する個体差としては、製造プロセス時に発生するもののほか、組立時に発生するものがあり、設計時にマージンとして見込めるものも多いが、やむなく発生してしまうものもある。経時変化による個体差としては、例えば、輸送中の振動などに起因するもののほか、空気中の酸素による酸化、湿度による吸湿や乾燥、検査素子の設置時に発生するオペレーションミスなどによるものが考えられる。なお、検査素子の使用のされかたはそれぞれの素子ごとに異なるため、何をもって素子の特性とするかも、それぞれの素子ごとに異なる。例えば、後述する実施例1ではヒーター電極の系を通して使用される抵抗値であり、実施例2ではチャネル流路の圧力抵抗に関与するディメンジョンや表面粗さ等である。そのほかにも、電気化学測定における電流値など、それぞれの素子による測定値にばらつきを与える要因となり、キャリブレーションを必要とするパラメータであれば、限定されることなく本発明の検査素子の特性とすることができる。これらの要因により個々の素子ごとに測定値のばらつきが生じるため、検体検査の場では各回の測定時にその素子により得られる値が基準の値からどれだけずれているかをあらかじめ計測し、実際の測定で得られた値を調整(キャリブレーション)する必要がある。
【0014】
本発明では、この素子の特性を、特性に関する情報としてあらかじめ計測しておき、検査素子の表面及び/又は内部に設置する情報記録部に格納しておく。測定時に、その素子の特性に関する情報に対する使用条件や結果の補正条件をあらかじめ用意したテーブルから読み出して設定することで、毎回の測定前にキャリブレーションをすることなく、測定値を正確な値に調整することが可能となる。使用条件とは、素子の特性を調整するために設定される素子を使用する際の条件であり、結果の補正条件とは、素子の特性に合わせて得られた結果を補正する際の条件であり、これらは制御パラメータとしてテーブルに用意されるものである。
【0015】
また、本発明の検査素子に設置される、その素子の特性に関する情報を格納するための情報記録部としては、格納する情報の量と、検査素子のコストとの兼ね合いにより、いかなる手段を採用することも可能である。例えば一次元バーコードや二次元バーコード(QRコード(登録商標)など)のほか、RF-ICやFeliCa(登録商標)のような非接触式半導体記録素子(無線通信により情報を読み出す半導体チップ)を用いて記録し、非接触式無線方式での読み出しを作用してもよい。情報記録部には、前述のあらかじめ計測した素子の特性に関する情報のほか、素子の製造工場や製造年月日時間等を記録してもよい。
【0016】
本発明は、特に、微細構造を有し、微細な反応試薬量で検体検査を行う検査素子に好適に用いることができる。このような検査素子としては、例えば、1μm〜900μm、好ましくは10μm〜500μmの幅数、10μm〜1000μm、好ましくは10μm〜300μmの深さにより形成されるマイクロメーターオーダー幅の微細流路を持つ検査素子が挙げられる。また、このような反応試薬量としては、5nl〜500μlの範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明の第2の態様は、検査を行うための検査装置に関する。本発明の検査装置は、検査素子がセットされると、検査素子の情報記録部に格納されている情報を赤外線リーダー等で読み出し、読み出した検査素子の特性に関する情報を基に、それぞれの素子の使用条件や結果の補正条件をセットする。
【0018】
また、本発明の検査装置はデータ記録を有し、検査装置にセットされた個々の検査素子の認識番号、使用した際の素子の特性、使用条件及び結果を記録する。これらの結果を統計的に処理することで、さらに誤差の少ないそれぞれの検査素子の使用条件や結果の補正条件を算出することが可能となる。
【0019】
データ記録には、その他にも、検査の種類、使用した試薬及び検査の日時等を格納してもよい。また、読み出しを行った使用条件を基に、検査を行った結果を統計的に処理し、検査種類や試薬種類、試薬量等、検査に必要な項目について保存する。これらもテーブルに蓄積し、同様の検査を行う際にフィードバックすることで、迅速かつ効率的な検査が可能となる。
【0020】
そのほか、検査素子の製造工場や製造年月日時間等を記録して、製造過程におけるばらつきの調整に使用することも可能である。また、検査素子の製造日と使用日とから使用するまでの経過時間を算出し、記録しておくことで、経時的変化による結果の補正に使用することも可能となる。また、装置の設置環境の気温や湿度や気圧、装置周辺の振動等を計測して、検査結果と同時にデータを格納してもよい。これにより、例えば晴天の日と雨天の日とで検査結果に誤差が生じるといった、これまで経験的に言われていたことを、データとして検証して校正に適用することが可能となり、より精密な検査を行うことが可能となる。
【0021】
本発明の第3の態様は、検査を行うための検査システムに関する。本発明においては、1又は複数の検査装置がネットワークを介して検査システムに接続され、検査装置間の利用環境が調整されている。本発明の検査システムはデータベースと通信手段とを具備する。データベースには広域ネットワークからダウンロードしたテーブルセットが格納されている。検査装置は検査システムにアクセスし、検査システムに保存されているテーブルを参照してそれぞれの検査装置のテーブル内の使用条件や結果の補正条件をアップデートした上で、検査素子の使用条件や結果の補正条件をセットする。一方、通信手段は広域ネットワークに接続されており、検査システムはベンダー各社が準備したリモートサーバーへ広域ネットワークを通してアクセスし、それぞれの検査装置が参照すべきテーブルセットをリモートサーバーからデータベースへダウンロードする。また、検査装置からの検査結果と使用条件、素子の固有の認識番号等のそれぞれの検査素子固有の情報等を収集し、データベースに保存されているテーブルセットを補完する。
【0022】
このような構成とすることで、常に最新のテーブルセットをベンダーのリモートサーバーからダウンロードし、異常品(使用不可ロット)が発見された時には、その検査素子の使用を取りやめるなどの情報を取得して、検査装置に配布することができる。また、検査システムは、検査装置から収集した情報を統計的に処理し、広域ネットワークにアップロードすることで、ネットワークによって接続された検査システム間で情報の共有を行い、以降の検査をより精度よく行うことができるようになる。また、ベンダーが用意したリモートサーバーに接続することで、最新の情報を基に、対象としている検査項目の更新や、改良を行うことが常に可能となる。
【実施例1】
【0023】
以下に、図1〜図4を参照して本発明の第1の実施例を説明する。
【0024】
本実施例では、微細なチャネル流路の中に試薬を導入し、試薬を連続的に加熱することで、試薬中の蛍光量が変化するという反応を利用した検査を説明する。試薬を連続的に加熱する手段としては、試薬の導入されたチャネル流路に、保護膜を介して発熱するヒーター金属を接することにより、迅速で安定した加熱が可能になる。同時に、発熱するヒーターに白金を用いて、その抵抗値を測定することで、物理定数から発熱体の温度を検出する。これにより、試薬の温度とその温度のときに発光し測定された蛍光量との関係を知ることができる。
【0025】
図1は、本実施例に使用する検査素子である。図2は、本実施例に使用する検査装置である。
【0026】
試薬は試薬導入孔1から導入され、試薬排出孔2から排出される。試薬排出孔2には、不図示のポンプが接続されており、ポンプによって負圧を発生させ、試薬を吸引する。試薬はヒーター電極4に接する流路チャネル3中を移動する。流路チャネル3中の試薬は、配線電極5(a)及び5(b)を介してパワーを投入することで、ヒーター電極4により加熱される。
【0027】
ヒーター電極4の、系を通して使用される抵抗値は、情報記録部10に記録されており、読み取り装置11により情報が取り出される。読み取り装置11は、検出光12を発光し、その戻り反射光を利用して、情報記録部10に記録された情報を取得する。
【0028】
本実施例では、検査素子の製造過程の中で発生する個々の検査素子の製造プロセス誤差を測定する。測定する項目は抵抗値である。プロセス要因により膜厚や金属の全系中の量が異なることになり、抵抗値にずれが生じる。また、配線金属との接触の状態によっても、抵抗値は変動する。
【0029】
検査素子中の抵抗値が変動すると、投入するパワーによる発熱量が変動する。ある一定の昇温レートを維持したい場合には、接しているチャネルごとに配されているヒーター金属の抵抗値の差に従って、投入するパワーを変化させる必要がある。また、検査素子中の抵抗値が変動すると、測定する温度にもエラーが発生する。このために、検査素子ごとに、それぞれのチャネル流路ごとの抵抗値をあらかじめ測定し、検査素子の表面にQRコード(登録商標)やバーコードを用いて記録しておく。同時に、製造工場や製造年月日時間も、検査素子の特性に関する情報として記録する。本実施例では、一般的に用いられている手段として、QRコード(登録商標)やバーコードを使用した事例を記述しているが、例えばRF-ICやFeliCa(登録商標)のような非接触式半導体記録素子を用いて記録し、非接触式無線方式での読み出しを作用することもできる。これらは、使用する情報量と、検査素子のコストとの兼ね合いにより、それぞれの場合に適した手段を採用することが可能である。
【0030】
検査素子を検査装置にセットすると同時に、QRコード(登録商標)やバーコードを赤外線リーダーで読み、記録されている情報を検査装置に使用条件値として引き渡す。検査装置は、読み出した使用条件値を基に、テーブルを参照し、使用条件や結果の補正条件をセットする。
【0031】
図2の検査装置において、情報記録部10に記録された情報は、読み取り装置11によって取り出され、制御回路15に引き渡される。制御回路15は、引き渡された情報を基に、配線電極(a)21及び配線電極(b)22によりパワーを投入する。
【0032】
検査素子40を使用した条件や結果は、データ記録30に記録される。これらの結果を統計的に処理して、さらに誤差のない検査素子40の使用条件を算出することが可能となる。
【0033】
検査装置は、検査結果と共に、検査する種類、使用した試薬、使用した日時、素子の認識番号等をデータとしてデータ記録30へ格納する。それぞれの検査素子に記録され、読み出しを行った使用条件や結果の補正条件を基に検査を行った結果を、統計的に処理し、検査種類や試薬種類、試薬量等、検査に必要な項目について保存する。また、製造日と使用日とを計算することで、使用するまでの経過時間を算出し、経時的変化による結果の校正に使用することも可能となる。蓄積されたデータは、次の検査素子を使用する際に迅速にフィードバックすることができ、同様の検査をさらに効率的に行うことが可能となる。
【0034】
検査装置は、不図示の温度計、湿度計、振動センサーにより、装置の設置環境の気温や湿度や気圧、装置周辺の振動等を計測して、検査結果と同時にデータを格納してもよい。これにより、例えば晴天の日と雨天の日とで検査結果に誤差が生じるといった、これまで経験的に言われていたことを、データとして検証できるような環境を構築していくことで、より精密な検査を行うことが可能となる。
【0035】
続いて、図3の検査システムについて説明する。検査システム50は、1乃至複数の検査装置51とネットワーク52を介して接続されている。検査システム50は、データベース53と通信手段54を具備し、通信手段54は広域ネットワーク55に接続されている。検査システム50は、複数の検査装置50間の利用環境を調整する。たとえば、それぞれの検査装置に参照すべきテーブルセット(テーブルの一部でもよく、全部でもよい)を配付し、各検査装置内のテーブルのうち参照すべきものをアップデートする。また、検査装置からの検査結果と使用条件や結果の補正条件、素子の認識番号等のそれぞれの検査素子固有の情報等を収集し、補完する。検査システムとして、ベンダー各社が準備したリモートサーバー56(ネットワークによる接続が可能となっている)へアクセスすることで、最新のデータテーブルセットをダウンロードし、異常品(使用不可ロット)が発見された時には、その検査素子の使用を取りやめるなどの情報を取得して、検査装置に配布する。検査システムは、検査装置からの使用情報や結果の補正条件を収集し、各検査素子、検査装置の使用条件や結果の補正条件を統計的に処理し、以降の検査をより精度よく行うことができる様、ネットワークによって接続された検査システム間で情報の共有を行う。また、ベンダーが用意したリモートサーバーに接続することで、対象としている検査項目の更新や、改良を行うことが可能となる。
【0036】
本実施例中では、QRコード(登録商標)を利用した説明を行ったが、例えば図4に示すように情報記録部19に無線を用いて情報を読み出すRF-ICのような半導体チップを埋め込むことでも、検査素子を使用するために付随する使用条件等の情報の読み出しが可能となることは言うまでもない。
【実施例2】
【0037】
以下に、図5を参照して本発明の第2の実施例を説明する。
【0038】
本実施例は、本発明を適用した医療検査素子、医療検査装置及び医療システムに関する。ここで医療検査素子とは、μ-TASに代表されるが、例えばDNAチップ、Lab on a Chip、マイクロアレイ、プロテインチップなど、医療検査・診断などに使用されるものを総称して使用する。
【0039】
本実施例では、微細なチャネル流路の中に連続的に試薬を導入して検査を行う医療検査について説明する。試薬を連続的に導入する手段としては、ピペット等で導入口に供給された試薬を、ポンプやシリンジなどの吸引手段を用いて吸引する方法と、逆に、導入口に供給された試薬をシリンジなどの加圧手段を用いて圧送する方法とがある。他の手段としては、超音波やSAW(表面弾性波)を利用して、試薬を液送する手段もある。ここでは、ポンプを用いて負圧を発生させ、その圧力差を利用して試薬を吸引する手段について説明する。
【0040】
微細なチャネル流路の中に試薬を導入するためには、微小な圧力の制御が必要になる。通常は、染料や蛍光色素を導入して試薬を可視化し、チャネル流路中の試薬の状態をモニタしながら圧力を制御することにより、所望の量の試薬を吸引して試薬を所望の位置に引き込む。試薬の状態が完全にモニタされており、また、モニタされた試薬の振る舞いに対して、ポンプの制御が完全にフィードバックされていれば、希望する試薬の量や位置を得ることが可能である。しかし、制御フィードバックループの遅れや、モニタ手段のスペック不足により、安定した量の試薬を導入したり、試薬を素早く所望の位置に留めたりすることは難しい。
【0041】
こういった場合に、チャネル流路の圧力抵抗を事前に測定し、医療検査素子ごとに異なる圧力抵抗を医療検査装置側に知らせることで、短時間で所望の試薬を取り扱うことが可能となる。以下に順を追って説明する。
【0042】
チャネル流路の圧力抵抗は、主としてチャネル流路のディメンジョン(開口面積)と、チャネル流路の内壁の表面粗さに起因する。チャネル流路の形成方法には、いくつかの手段があるが、本実施例では、サンドブラストを利用したチャネル流路の作成方法について説明する。
【0043】
基板を用意し、半導体プロセスで使用されるレジスト材料を塗布し、リソグラフィ等の手段を用いてパターンを描画する。不要な部分を除去することで、レジスト材料が、所望のパターンに残留する。これをマスクとして使用し、全面に微粒子状のガラスビーズを高速に吹き付ける。レジスト材料と基板材料との硬度の差により、描画されたパターン通りに基板材料が研磨され、微小な凹凸が形成される。所望の量のチャネル流路が彫りこまれた後に、レジスト材料を洗浄することで、基板表面が平滑面なパターン流路を得ることができる。パターン流路が彫刻された基板に対して、もう1枚の平坦な基板を圧着する。この時に、基板にガラス材料を使用し、貼りあわせる両面を超平滑面に加工しておくことで、オプティカルコンタクトを発生させ、基板双方を貼りあわせることができる。
【0044】
このようにして形成されたチャネル流路には、サンドブラスト加工を行った時の加工誤差として、彫りこまれた加工溝の深さや形状にばらつきが発生する。また、サンドブラスト加工の際に使用するガラスビーズの粒子径によっては、加工溝の表面にいくらかの表面粗さが発生する。通常、1枚の基板には複数のチャネル流路のパターンを形成し、加工後に切断するために、基板から切断して得られる20〜50の検査素子用チャネル流路は、比較的条件は揃っていると考えられるが、例えばサンドブラストの吹き付け方向の違いにより、ディメンジョンと表面粗さは異なることがある。また、別基板から切断されて得られる検査素子については、ロット誤差が乗るために、チャネル流路のディメンジョンも表面粗さも異なっていることが多い。
【0045】
本実施例について、図5を利用して説明する。図5は、本実施例に用いられる医療検査素子の模式図である。試薬は、試薬導入孔1から導入され、試薬排出孔2に接続されている不図示のポンプによって吸引される。チャネル流路には、反応させて検査を行うための混合試薬(a)62と混合試薬(b)63が配されている。混合試薬部は、圧力を制御する手段を具備し、チャネル流路中に任意の容量の試薬を混合させることができる。
【0046】
医療検査素子のチャネル流路には、製造時の形状誤差65や、表面粗さ64が形成しており、素子全体の流路抵抗がそれぞれに異なることの原因となっている。
【0047】
このようなチャネル流路ごとの製造プロセスによる差異に加えて、保管期間中の表面改質による影響も無視できない。微細流路中の液体試薬については、表面付近の流速がほぼゼロになり層流を形成するが、その流速差の作られ方は、表面状態に大きく依存する。石英などのガラス基板においても、紫外線の影響や酸素、二酸化炭素などの空気の被爆、輸送中や使用時のダストの吸着など、様々な影響を受けることが想定される。このような表面改質により、流路抵抗にばらつきが発生する。
【0048】
流路抵抗の違いによる、チャネル流路中の液体試薬のコントロール性への影響については、検査素子をセットした後に、チャネル流路中の液体試薬を可視化し、液体をモニタしながら制御パラメータを変更することで回避することができるが、機構も煩雑になる上に、所望の制御を行うことには困難が多い。このとき、製造プロセス時の誤差については、予めチャネルディメンジョンや表面粗さ等を測定して、医療検査素子に記録しておくことで回避できる。
【0049】
そこで、医療検査素子ごとに、それぞれのチャネル流路ごとのディメンジョンと表面粗さ等を予め測定し、測定値から当該医療検査素子それぞれのチャネルごとの流路抵抗値を算出する。算出した流路抵抗値を、医療検査素子の表面の情報記録部10に、QRコード(登録商標)やバーコードを用いて記録しておく。同時に、製造工場や製造年月日時間も、情報として記録する。本実施例では、一般的に用いられている手段として、QRコード(登録商標)やバーコードを使用した事例を記述しているが、例えばRF-ICやFelica(登録商標)のような非接触式半導体記録素子を用いて記録し、非接触式無線方式での読み出しを作用する場合もある。
【0050】
医療検査素子を医療検査装置にセットすると同時に、QRコード(登録商標)やバーコードを赤外線リーダーで読み、記録されている情報を医療検査装置に使用条件値として引き渡す。医療検査装置は、読み出した使用条件値を基に、テーブルを参照し、使用条件や結果の補正条件をセットする。
【0051】
医療検査装置は、検査結果と共に、検査する種類、使用した試薬、使用した日時、素子の認識番号等をデータとしてを格納する。それぞれの医療検査素子に記録され、読み出しを行った使用条件を基に、検査を行った結果を、統計的に処理し、検査種類や試薬種類、試薬量等、検査に必要な項目について保存する。また、製造日と使用日とを計算することで、使用するまでの経過時間を算出し、経時的変化による結果の校正に使用することも可能となる。これらの蓄積されたデータは次の医療検査素子を使用する際に迅速にフィードバックすることができ、同様の検査をさらに効率的に行うことが可能となる。
【0052】
医療検査装置は、装置の設置環境の気温や湿度や気圧、装置周辺の振動等を計測して、検査結果と同時にデータを格納する。例えば晴天の日と雨天の日とで検査結果に誤差が生じるといったような、これまで経験的に言われていたことを、データとして検証できるような環境を構築していくことで、より精密な検査を行うことが可能となる。
【0053】
医療検査システムは、複数の医療検査装置間の利用環境を調整し、それぞれの医療検査装置が、参照すべきテーブルセットを配付し、アップデートする。また、医療検査装置からの検査結果と使用条件や結果の補正条件、素子の認識番号等のそれぞれの医療検査素子固有の情報等を収集し、補完する。医療検査システムとして、ベンダー各社が準備したリモートサーバー(ネットワークによる接続が可能となっている)へアクセスすることで、最新のデータテーブルセットをダウンロードする。異常品(使用不可ロット)の発生が確認された時には、その医療検査素子の使用を取りやめるなどの情報を取得して、医療検査装置に配布する。医療検査システムは、医療検査装置からの使用情報や結果の補正条件を収集し、各医療検査素子、医療検査装置の使用条件を統計的に処理し、以降の検査をより精度よく行うことができる様、ネットワークによって接続された医療検査システム間で情報の共有を行う。また、ベンダーが用意したホストサーバーに接続することで、対象としている検査項目の更新や、改良を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 試薬導入孔
2 試薬排出孔
3 チャネル流路
4 ヒーター電極
5(a) 配線電極
5(b) 配線電極
10 情報記録部
11 読み取り装置
12 検出光
15 制御回路
19 情報記録部の他の実施例
21 配線電極(+)
22 配線電極(-)
30 データ記録部
40 検査素子
50 検査システム
51 検査素子
52 ネットワーク
53 データベース
54 通信手段
55 広域ネットワーク
56 リモートサーバー
61 反応部
62 混合試薬(a)
63 混合試薬(b)
64 チャネル流路内表面粗さ
65 チャネル流路内形状誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体検査を行うための検査素子であって、
前記検査素子はその表面及び/又は内部に情報記録部を有し、
前記情報記録部には前記検査素子の特性に関する情報が格納されていることを特徴とする検査素子。
【請求項2】
前記情報記録部は、一次元および/または二次元バーコードであることを特徴とする、請求項1に記載の検査素子。
【請求項3】
前記情報記録部は、無線通信により情報を読み出す半導体チップであることを特徴とする、請求項1に記載の検査素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査素子を用いて検体検査を行うための検査装置であって、
前記検査素子の表面及び/又は内部に設置の情報記録部に格納されている、前記検査素子の特性に関する情報を読み出す手段と
読み出された前記検査素子の特性に基づき、前記検査素子の制御パラメータを設定する手段と、
読み出した前記検査素子の制御パラメータを利用して、前記検査素子を使用する手段と、を有することを特徴とする、検査装置。
【請求項5】
検体検査を行うごとに、当該検査の結果と共に、使用した検査素子の固有の認識番号と、前記検査素子に利用した制御パラメータと、前記検査を行った際の装置の設置環境と、を保存することを特徴とする、請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
検査装置から受け渡される検査素子による検査の結果と、その際に使用した検査素子の固有の認識番号と、前記検査素子に利用した制御パラメータと、前記検査を行った際の装置の設置環境と、に基づき、前記制御パラメータをアップデートする手段を持つことを特徴とする、請求項5に記載の検査システム。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の検査装置を用いて検体検査を行うための検査システムであって、ネットワークで接続されたデータベースにアクセスする手段と、
検査装置が使用する検査素子の固有の認識番号に基づき、前記検査素子を使用する際に利用する制御パラメータを参照するための最新のテーブルセットを、前記データベースからダウンロードし、結果を前記検査装置に引き渡す手段と、を有することを特徴とする、検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233735(P2012−233735A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100981(P2011−100981)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】