説明

検査装置、及び検査方法

【課題】高速に検査することができる検査装置、及び検査方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様にかかる検査装置は、照明光が入射する偏光ビームスプリッタ11と、偏光ビームスプリッタ11からの照明光を集光して、EUVマスク40に照射する対物レンズ13と、EUVマスク40で反射して対物レンズ13を通過した反射光の一部の光路を変化させて、反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割する分割ミラー15と、一方の光ビームを受光して、対物レンズ13の視野における第1の領域を撮像する検出器16と、偏光ビームスプリッタからの光学距離が検出器17の偏光ビームスプリッタ11からの光学距離と異なる位置に配置され、他方の光ビームを受光して対物レンズ13の視野における第2の領域を撮像する検出器17と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、及び検査方法に関し、特に詳しくは2つの検出器を用いて検査を行う検査装置、及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化を担うリソグラフィ技術に関しては、現在、露光波長193nmのArFエキシマレーザを露光光源としたArFリソグラフィが量産適用されている。また、露光装置の対物レンズとウエハとの間を水で満たして、解像度を高める液浸技術(ArF液浸リソグラフィと呼ばれる。)も量産に利用され始めている。さらに一層の微細化を実現するために、露光波長13.5nmのEUVL(Extreme UltraViolet Lithography)の実用化に向けて様々な技術開発が行われている。
【0003】
EUVマスクの構造に関しては、図7に示したように、低熱膨張性ガラスから成る基板41の上に、EUV光を反射させるための多層膜42が付けられている。多層膜42は、通常、モリブデンとシリコンを交互に数十層積み重ねた構造になっており、これによって波長13.5nmのEUV光を垂直で約65%も反射させることができる。これは多層膜基板と呼ばれ、この多層膜の上にEUV光を吸収する吸収体44が付けられ、ブランクスが完成する。ただし吸収体44と多層膜42の間には保護膜43(バッファレイヤー、及びキャッピングレイヤーと呼ばれる膜)が付けられる。実際に露光に使うためにレジストにパターン形成させることで、パターン付きEUVマスクが完成する。
【0004】
EUVマスクの多層膜基板では、図8に示したように、多層膜を形成する際に、基板上や、多層膜の中間で付着する異物45によって、多層膜が変形することがある。つまり多層膜の表面に異物45が無くても、露光時には多層膜で反射する露光光の位相がシフトすることから、ウエハ上にパターン転写するため、欠陥として識別される。そこで、この欠陥は位相欠陥と呼ばれている。また、多層膜内部に異物が存在することで多層膜表面が飛び出す欠陥はバンプと呼ばれており、その逆に、基板に微小なへこみがあり、それによって多層膜表面がへこむような欠陥はピットと呼ばれている。
【0005】
また、位相欠陥を高感度に検出するために、検査光源にEUV光、すなわち波長13.5nmの露光光と同じ波長の照明光によって検査するアクティニック(Actinic)検査が用いられるようになっている。なお、このようなアクティニック検査装置に関しては、例えば、下記非特許文献1において示されている。
【0006】
一方、アクティニック検査装置を用いずに、従来の光(通常は深紫外光であり、これはDUV光と呼ばれる。)によってEUVマスクの位相欠陥を検出する試みも行われている。その手法の一例としては、非特許文献2、3に示されている。位相欠陥の拡大投影像におけるコントラストは、ピットとバンプによってフォーカス依存性が異なることから、フォーカスを変化させることで、ピットとバンプの違いが判別できるとされている。
【0007】
フォーカスを変化させて検出する場合、マスクにおける同じ場所で、対物レンズかマスク自体をフォーカス方向(一般に上下方向)に微動させる必要がある。しかしながら、対物レンズで観察できる視野の大きさ(一般に直径約0.1mmの領域)はマスク全面に比べると極めて僅かな割合であるため、フォーカスを変化させながらマスク全面を検査しようとすれば、何十時間も掛ってしまう。このため、上記の検査は、非現実的な技術であり、量産マスクの検査に用いるような実用化はほとんど不可能であった。
【0008】
これに対して、例えば2台の検出器を備えた検査装置を用いて、検査対象であるマスクのパターン面の近傍で異なるフォーカス位置の像を検出器に投影する装置が提案されていた(特許文献2)。これを用いれば、多層膜基板の表面には何も観察されない位相欠陥に対しても、1台の検出器のみ多層膜基板の表面より深い位置にフォーカスを合わせることができるため、位相欠陥の検出確率が高められると考えられる。なお、2台の検出器で異なる面にフォーカスを合わせられる検査装置に関しては下記特許文献1に示されている。
【0009】
これによると、このような検査装置は、石英基板を用いたフォトマスクを対象としているため、マスクに対して対物レンズと反対側から照明光を照射させる方式(一般に透過照明と呼ばれる照明方式。)を用いたものであり、この照明光の照射によってマスク面から発生する光が対物レンズを通過してから、偏光ビームスプリッタ(以下、PBSと呼ぶ。)等で偏光を利用して分離することで、2台の検出器で検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4181159号
【特許文献2】米国特許出願公開2002/171825
【特許文献3】特開2011−106965号公報
【非特許文献1】Tsuneo Terasawa, et.al., "EUVL Mask Inspection and Metrology Capability,"The 2009 Lithography Workshop, June 30, 2009.
【非特許文献2】Joshua Glasser, et.al., "Inspecting EUV mask blanks with a 193-nm system," SPIE, Vol. 7748, 2010.
【非特許文献3】Shmoolik Mangan,et.al.,"Evaluation of novel EUV mask inspection technologies,", SPIE, Vol. 7748, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように偏光を利用して2つの照明を用いて2台の検出器で検査するような検査装置に関して、図9、図10に示した具体例を用いて説明する。例えば2台のCCD91a、91bを用いた検査装置900では、直交する偏光のP波とS波を透過照明光La、Lbとして用いている。透過照明光La、LbをPBS97aによって結合させてからコンデンサレンズ94を通して、マスク40のパターン面に集光する。これによって発生する光は対物レンズ96を通過してPBS97bに入射する。従って、PBS97bで反射光Ldと透過光Lcに分けられる。P波である透過光Lcはリレーレンズ98aを通って、CCD91aに当たる。一方、PBS97でS波となる反射光Ldはリレーレンズ98bを通り、CCD91bに当たる。すなわち、対物レンズ96の視野に観察されるマスク95の像が2台の異なるCCD91a、91bに投影されることになる。
【0012】
透過照明光Lbは補正レンズ99を通過しており、その結果、図9に示したように、マスク40内で少し手前側に集光するようになる。そこで、2台のCCD91a、91bを異なる位置に配置することで、結果的にマスク95の表面付近における異なるフォーカスに合わせられることになり、これらの異なるフォーカス位置に合わせられた透過照明光La、Lbによって発生する光を検出するようになる。
【0013】
EUVマスクは光を通さないため、EUVマスクを対象とする場合は、照明光は反射照明のみしか利用できない。投影光学系の光路間にPBSを用いて反射照明光を導入することになるため、前述したように2台の検出器を用いた上記の検査装置のように、PBS97bによって2台の検出器に投影像を分岐することは困難であった。すなわち、PBSによって偏光方向が制限されてしまうため、偏光状態の異なる光を検出器まで導くことが困難である。従って、従来の検査装置では、反射照明の場合、2台の検出器で異なるフォーカス位置に合わせた検査を同時に行うことが困難であった。
【0014】
また、本件の出願人が、別の検査装置を開示している(特許文献3)。特許文献3では、対物レンズの視野の片側半分をS偏光で照明し、もう半分をP偏光で照明している。そして、EUVマスクで反射した反射光を空間分割ミラーで分割して、異なる検出器に入射させている。しかしながら、特許文献3の方法では、異なるフォーカス位置を同時に検査する点について何ら開示していない。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高速に検査できる検査装置、及び検査方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様に係る検査装置は、EUVマスクに用いられる試料の検査装置であって、照明光が入射する偏光ビームスプリッタと、前記偏光ビームスプリッタからの照明光を集光して、試料に照射する対物レンズと、前記試料で反射して前記対物レンズを通過した反射光の一部の光路の向きを変化させて、前記反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割する分割手段と、前記分割手段で分割された一方の光ビームを受光して、前記対物レンズの視野における第1の領域を撮像する第1の検出器と、前記偏光ビームスプリッタからの光学距離が前記第1の検出器の前記偏光ビームスプリッタからの光学距離と異なる位置に配置され、前記分割手段で分割された他方の光ビームを受光して前記対物レンズの視野における第2の領域を撮像する第2の検出器と、を備えるものである。この構成によると、2台の検出器で、異なるフォーカス位置の検査を行うことができるため。高速な検査が可能となる。
【0017】
本発明の第2の態様に係る検査装置は、上記の検査装置であって、前記第1及び第2の領域が同じ偏光状態の照明光で照明されていることを特徴とするものである。これにより、正確に検査することができる。
【0018】
本発明の第3の態様に係る検査装置は、上記の検査装置であって、前記分割手段で分割された一方の光ビームの光路中に挿脱可能に設けられ、前記分割手段で分割された一方の光ビームの光学距離を調整する平行平板が設けられているものである。これにより、単純な構成の平行平板を出し入れするだけで、フォーカス位置の調整を容易に行うことができる。
【0019】
本発明の第4の態様に係る検査装置は、上記の検査装置であって、前記第1及び第2の検出器への投影倍率が20倍以上であることを特徴とするものである。これにより、視野をより確実に分割することができるため、正確な検査が可能になる。
【0020】
本発明の第5の態様に係る検査装置は、上記の検査装置であって、前記対物レンズから前記第1及び第2の検出器までの間に前記試料の中間投影像を形成するリレー光学系が配置され、前記中間投影像が形成される面の近傍に前記分割手段が配置されているものである。これにより、前記第1及び第2の検出器への投影倍率が高くない場合でも、視野をより確実に分割することができるため、正確な検査が可能になる。
【0021】
本発明の第6の態様に係る検査方法は、EUVマスクに用いられる試料の検査装置であって、偏光ビームスプリッタに照明光を入射させるステップと、前記偏光ビームスプリッタからの照明光を対物レンズにより集光して、試料に照射するステップと、前記試料で反射して前記対物レンズを通過した反射光の一部の光路の向きを変化させて、前記反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割するステップと、分割された一方の光ビームを第1の検出器で受光し、前記対物レンズの視野における第1の領域を撮像するステップと、前記偏光ビームスプリッタからの光学距離が前記第1の検出器の前記偏光ビームスプリッタからの光学距離と異なる位置に配置された第2の検出器で分割された他方の光ビームを受光し、前記対物レンズの視野における第2の領域を撮像するステップと、を備えるものである。この方法によると、2台の検出器で、異なるフォーカス位置の検査を行うことができるため。高速な検査が可能となる。
【0022】
本発明の第7の態様に係る検査方法は、上記の検査方法であって、前記第1及び第2の領域が同じ偏光状態の照明光で照明されていることを特徴とするものである。これにより、正確な検査が可能になる。
【0023】
本発明の第8の態様に係る検査方法は、上記の検査方法であって、分割された一方の光ビームの光路中に挿脱可能に設けられた平行平板が、分割された一方の光ビームの光学距離を調整することを特徴とするものである。これにより、単純な構成の平行平板を出し入れするだけで、フォーカス位置の調整を容易に行うことができる。
【0024】
本発明の第9の態様に係る検査方法は、上記の検査方法であって、前記第1及び第2の検出器への投影倍率が20倍以上であることを特徴とするものである。これにより、視野をより確実に分割することができるため、正確な検査が可能になる。
【0025】
本発明の第10の態様に係る検査方法は、上記の検査方法であって、前記対物レンズから前記第1及び第2の検出器までの間に前記試料の中間投影像を形成するリレー光学系が配置され、前記中間投影像が形成される面の近傍で前記反射光を分割しているものである。これにより、前記第1及び第2の検出器への投影倍率が高くない場合でも、視野をより確実に分割することができるため、正確な検査が可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高速に検査することができる検査装置、及び検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1にかかる検査装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態1にかかる検査装置の一部の光学系を模式的に示す拡大図である。
【図3】実施形態2にかかる検査装置の光学系を簡略化して示す図である。
【図4】補正板による焦点位置の違いを示す図である。
【図5】倍率によるスポットダイアグラムの違いを示す図である。
【図6】実施形態3にかかる検査装置の構成を示す図である。
【図7】EUVマスクの構成を拡大して示す断面図である。
【図8】EUVマスクの多層膜に異物が付着した状態を示す断面図である。
【図9】透過照明によって検査を行う検査装置の構成を示す図である。
【図10】透過照明による検査装置の焦点位置の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に基づく好適な実施形態に付いて説明する。上記したように、EUVマスクを高速に検査するという目標を達成するために、2次元センサに基づく検出器を少なくとも2台用いている。検出器の直前における投影光を空間分割させることで、2台の検出器にEUVマスク面の拡大像を投影させてもよい。また、EUVマスク面からこれらの検出器への投影倍率を20倍以上に高く設定することが好ましく、50倍以上とすることがより好ましい。
【0029】
一般にマスクの検査装置に用いられる対物レンズの開口数(NA)は0.7〜0.9であることから、投影倍率を例えば100倍にすると、検出器側のNAは0.008前後と非常に小さく、角度としては約0.5°の平行に近い光が検出器に当たる。従って、光の偏光状態に依らずに、検出器の直前にミラー等を用いて空間分割することで、投影像をほぼ2分割できることから、視野分割と呼ばれる手法と同様な分割手法を適用でき、それぞれを多層膜表面の異なるフォーカス位置から発生する光に対応させることが可能になる。
【0030】
ところが、EUVマスクの多層膜基板の検査ではなく、通常のマスクのパターン検査も行えるようにするには、2台の検出器でEUVマスクの同じ面にフォーカスさせる必要がある。その場合、リレーレンズから2台の検出器までの光学距離(すなわちEUVマスクから検出器までの投影光学系の光学距離)が同じになるように1台の検出器を、リニアーガイド等を用いて検出器16、17をスムーズに移動できるような構成にすれば良いが、検出器16、17は場合によって重いため、瞬時に移動させることが困難になってしまう。
【0031】
そこで、本発明における好適な付加的手段としては、最初に2台の検出器までの光学距離を等しくしておき、多層膜基板の検査の際に、片側の検出器の直前に平行平板を挿入したものである。これによると、前述したように、検出器の直前では光はほぼ平行光であることから、平行平板を挿入すると、単に光路長が変わるだけで、投影像に大きな歪みが生じることはない。すなわち、片側の検出器までの光学距離を調整することができ、これは多層膜表面に合わせたフォーカス位置を微調整するのと同様な効果になる。
【0032】
この構成によると、従来のDUV検査装置によって、EUVマスクの多層膜基板の位相欠陥を検出しやすくなった。さらに通常のパターン検査も2台の検出器を用いて高速にできる。なお、以下の説明では、検査対象となる試料をEUVマスクとするが、本明細書においてEUVマスクにはパターン付きのEUVマスクだけでなく、マスクブランクス、多層膜基板等も含まれるものとする。すなわち、検査対象となる試料は、EUVマスクに用いられるものであればよく、例えばパターン付きEUVマスク、多層膜基板、マスクブランクスのいずれであってもよい。また、他の用途に用いられる多層膜付きの試料についても検査することができる。
【0033】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態1に係る検査装置について、図1を用いて説明する。図1は、EUVマスクの多層膜基板を検査するための検査装置100の断面構造を示した構成図である。検査装置100では、照明光としてS波の反射照明光Lのみが図示されていない光源から導かれており、PBS11に入射して下方に反射される。なお、非アクティニック検査を行うため、反射照明光Lとして、例えば193nmのDUV光を用いることができる。PBS11で反射された反射照明光Lは、1/4波長板12を通過して円偏光となる。円偏光となった反射照明光Lは、対物レンズ13を通って、EUVマスク40の表面に集光する。
【0034】
EUVマスク40は、図3に示したような多層膜を有している。EUVマスクの表面から発生する光は対物レンズ13を通り、再び1/4波長板12を通ることで、PBS11に対してP波となって入射する。このため、光はPBS11を透過して、リレーレンズ14を通過する。検査装置100では、例えば、2台のTDIカメラが検出器16、17として用いられている。そして、検出器16、17の直前に分割ミラー15が配置されており、投影光が空間的に2分割される。すなわち、分割ミラー15は、光路の半分の位置まで挿入されており、反射光の一部のみが入射する。すると、EUV40で反射した反射光の一部の光路の向きが変化するため、反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割することができる。これによって、対物レンズ13の視野の半分は検出器16に投影され、残りの半分は検出器17に投影される。
【0035】
本実施形態における対物レンズ13のNAは0.9であり、投影倍率は300倍になっている。その結果、検出器16に投影される光のNAは0.0003となり、角度としては0.17°と、ほぼ平行なビームになっている。そのため、分割ミラー15によってビームの片側を折り返すことで、検出器17の方に投影させることができる。その際に、PBS11から検出器17までの光学距離(光学長)は、PBS11から検出器16までの光学距離(光学長)よりも約9mm長くなっており、その結果、検出器17のフォーカス位置は、検出器16のフォーカス位置よりも約0.1ミクロン浅い位置になる。つまり2台の検出器16、17によって、EUVマスク40の表面付近の異なるフォーカス面で検査ができるようになる。
【0036】
なお、この焦点位置の差に関して、図2を用いて説明する。図2は図1に示された検査装置100における一部分と光路を示した略図である。2台の検出器16、17への拡大投影像の元となる物体面は、EUVマスク40上の視野であり、それが図2で左右に2分割されている。ここでは、視野の右半分の領域を領域Aとし、左半分の領域を領域Bとしている。対物レンズ13の視野において、領域Aと領域Bは重なっていない領域である。2台の検出器16、17にはEUVマスク40上の異なる領域A、Bを投影させることができる。つまり、図2の点線で示すように、左右に分割するための分割ミラー15を検出器16の直前に配置することになる。ここで、検出器16に対して、投影光はほぼ平行に入射するため、光路のほぼ半分の位置まで分割ミラー15が挿入されると、検出器16の左側半分のみに投影像が当たる。検出器16の右側半分に向かって進んでいる投影光は分割ミラー15で反射して、検出器17の方に進む。従って、領域Aの投影像が検出器16に投影され、領域Bの投影像が検出器17に投影される。このように、検出器16、17に対物レンズ13の視野の片側半分の領域の投影像が形成され、対物レンズ13の視野の一部である領域Aと、残りの一部である領域Bが別の検出器16、17で同時に撮像される。なお、検出器16、17に投影される領域A,Bは、対物レンズ13の半分の領域と厳密に等しい大きさでなくてもよい。
【0037】
以上に説明したように、本発明の検査装置100では、反射照明光Lだけで、2台の検出器16、17で異なるフォーカス面の検査が可能になったことから、EUVマスク40の多層膜基板の位相欠陥がピットかバンプの判別が瞬時に行うことができる。加えて、多層膜基板の基板表面に付着しているパーティクルにフォーカスを合わせることも可能になり、その場合は、位相欠陥とパーティクルのどちらも感度良く検出できるようになる。さらに、領域A,領域Bが同じ向きの円偏光によって照明されているため、パターン等の方向によらず検査することができる。また、分割ミラー15を配置するだけでよいため、装置構成を簡素化することができる。領域A,Bを同じ偏光状態の照明光で照明しているため、異なる偏光状態を作り出す必要がなく、装置構成を簡素化することができる。
【0038】
また、検出器16、17の分割ミラー15で反射した反射光の光軸に沿って、検出器16、17の少なくとも一方の位置を調整可能としてもよい。これにより、2つの検出器16、17でEUVマスク40上におけるフォーカス位置を光軸方向にシフトすることができ、検査するフォーカス面の高さを調整することができる。よって、フォーカス面の高さの差を所望の値として検査を行うことができる。さらには、2台の検出器16、17でEUVマスク40の同じ面にフォーカスさせることで、EUVマスク40の多層膜基板の検査ではなく、通常のマスクのパターン検査も行うこともできる。また、検出器16、17として、TDIセンサ以外の2次元アレイ検出器を用いてもよい。さらに、PBS11と1/4波長板12を組み合わせて、EUVマスク40に反射照明光Lを照射しているので、PBS11における光のロスを低減することができる。
【0039】
実施の形態2.
次に本発明の実施形態2に係る検査装置200について、図3を用いて説明する。なお、本実施形態にかかる検査装置200の基本的構成は、実施の形態1に係る検査装置100と同様であるため、重複する構成については、適宜説明を省略する。特に、PBS11、及び波長板12については、実施の形態1と同様にリレーレンズ14と対物レンズ13の間に配置されているため、本実施形態では図示を省略している。
【0040】
検査装置200では、2台の検出器16、17の内、一台の検出器16と分割ミラー15との間に、2枚の平行平板がそれぞれ補正板21、補正板22として光路中に出し入れ可能に備わっている。これら2枚の補正板21、22を光路中から外すと、PBS11から2台の検出器16、17の光学長が等しくなり、検査対象のEUVマスク40における同じフォーカス位置を検査するようになる。なお、これらの補正板21、22には、紫外域で高い透過率を有する合成石英を用いるのが好ましい。補正板21、22は、厚みが異なっている。
【0041】
一方、補正板21のみを光路内に入れると、検出器16は検出器17に対して、約0.05ミクロン上側にフォーカスシフトするようになり、補正板22のみを挿入すると、約0.1ミクロン上側にフォーカスシフトする。さらに補正板21と補正板22の2枚とも光路中に入れることで、約0.15ミクロン上側にフォーカスシフトする。
【0042】
なお、本実施形態のように投影光学系の光路中に補正板21、22を挿入することで、対物レンズ13のフォーカスをシフトできる原理を図4で簡単に説明する。補正板21、22を挿入しない通常のマスク検査の場合の光路を図4(a)に示し、補正板21を挿入することで変化する光路を図4(b)に示す。
【0043】
図4(a)に示したように、通常はリレーレンズ14と検出器16までの光学距離はリレーレンズ14の焦点距離と等しくなるように、検出器16が配置される。その結果、対物レンズ13とリレーレンズ14との間の光線はほぼ平行になっている。
【0044】
一方、図4(b)に示したように、ガラス製の補正板21は屈折率が1.5〜1.6であるため、ここに入射する光線は図4(b)に示されたように屈折する。その結果、リレーレンズ14と検出器16までの光学距離が、リレーレンズ14の焦点距離よりも少し短くなってしまう。その結果、対物レンズ13とリレーレンズ14との間の光線は平行ではなくなってしまい、対物レンズ13によるEUVマスク40内の焦点位置が左側にシフトする。
【0045】
以上のように、本実施形態の検査装置200では、2台の検出器16、17で異なるフォーカス位置の検査を行えるようにするために、補正板21、22を出し入れするだけでよく、検出器16、17自体を移動させる必要はない。したがって、瞬時にフォーカス位置を切り替えることができ、しかも3通りのフォーカス位置を設定できる。特に、TDIセンサは重量が大きいため、移動が困難であるが、補正板21、22を用いることで容易にフォーカス調整を行うことができる。もちろん、挿脱可能な補正板21、22の枚数は2枚に限られるものではなく、1枚のみ補正板21のみを光路中に挿脱可能としてもよく、さらには3枚以上の補正板を光路中に挿脱可能としてもよい。さらには、補正板を入れた状態でPBS11から2台の検出器16、17の光学距離を一致させてもよい。この場合、補正板を抜いた状態でPBS11から検出器16、17までの光学距離がずれる。
【0046】
ところで、以上の実施形態のように、補正板21、22を光路中に挿入することで対物レンズ13のフォーカス位置をシフトさせているのは、検出器16への投影倍率が300倍と高いからである。つまり、投影倍率が低いと、このような手法を取ることが困難になる。これに関して図5を用いて説明する。図5はEUVマスク40の像を検出器16に投影する光学系を示したものであり、対物レンズ13とリレーレンズ14とで構成されるテレセントリック光学系が示されている。図5(a)では投影倍率が10倍であり、図5(b)では投影倍率が20倍であり、図5(c)では投影倍率が50倍である。この光学系におけるリレーレンズ14と検出器16との間の光路中に補正板21を挿入する場合の投影像に関してシミュレーションした結果が示されている。ここでは、シミュレーションによって計算されるスポットダイアグラムを光学系の右側に示している。
【0047】
なお、検出器16が配置される位置は、スポットダイアグラムが最小になるように最適化したものである。また、シミュレーションでは対物レンズ13とリレーレンズ14は収差が無い理想レンズとして仮定している。
【0048】
計算結果から判るように、投影倍率が10倍と低い場合、検出器16上でのスポットダイアグラムは直径が数十ミクロンにも拡大してしまう。これに対して、投影倍率が50倍になると、スポットダイアグラムの直径は1ミクロン以下となり、収差はほぼ無視できるような光学系になっている。すなわち、投影倍率が高くなると、補正板中での光路はほぼ平行なビームになるため、収差は小さくなる。
【0049】
特にEUVマスクの検査装置では、一般に100倍以上の高い投影倍率が用いられることから、このような補正板21、22を用いてフォーカスシフトすることによる投影像の収差は全く問題にならない。また、EUVマスク40から検出器16、17への投影倍率を20倍以上とすることが好ましく、50倍以上とすることがより好ましい。これにより、対物レンズ13の視野を確実に分割することができるため、正確な検査が可能になる。
【0050】
実施の形態3.
次に実施形態3の係る検査装置の構成に付いて図6を用いて説明する。図6は本実施形態にかかる検査装置300の構成図である。検査装置300では、上記の実施形態と同様に2台の検出器16、17が用いられている。ただし、上記の実施形態と異なる点は、これら検出器16、17へ投影する光学像を分割するための分割ミラー15が、検出器16、17直前ではなく、中間投影像の近傍に配置されていることである。そのため、その中間投影像の前後でリレー光学系19が形成されている。リレー光学系19はリレーレンズ14a〜14eを備えている。
【0051】
ただし、この分割ミラー15から次のリレーレンズ14b、14dまでの光学距離L1、L2が僅かに異なり、その結果、2台の検出器16、17に投影される中間投影像の位置が僅かに異なっている。すなわち対物レンズ13によって観察しているEUVマスク40の表面のフォーカス位置が異なることになり、実施形態1と同様に2台の検出器16、17で異なるフォーカス位置での検査が行われるようになっている。また、リレーレンズの位置を光軸に沿って移動するだけで光学距離を調整することができるため、実施の形態2と同様に瞬時にフォーカス位置を切り替えることができる。また、検出器16、17への投影倍率が高くない場合であっても、反射光を確実に分割することができる。
【0052】
本発明に係るEUVマスク検査装置は、以上に説明したように、EUVマスクの多層膜基板の位相欠陥の検査だけでなく、EUVマスクのパターン検査にも利用できる。また、反射光の光路を分割する分割手段は、ミラー以外の素子であってもよい。なお、上記の実施の形態1〜3を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0053】
11 PBS
12 1/4波長板
13 対物レンズ
14 リレーレンズ
15 分割ミラー
16 検出器
17 検出器
21 補正板
22 補正板
40 EUVマスク
41 基板
42 多層膜
43 保護膜
44 吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVマスクに用いられる試料の検査装置であって、
照明光が入射する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタからの照明光を集光して、試料に照射する対物レンズと、
前記試料で反射して前記対物レンズを通過した反射光の一部の光路の向きを変化させて、前記反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割する分割手段と、
前記分割手段で分割された一方の光ビームを受光して、前記対物レンズの視野における第1の領域を撮像する第1の検出器と、
前記偏光ビームスプリッタからの光学距離が前記第1の検出器の前記偏光ビームスプリッタからの光学距離と異なる位置に配置され、前記分割手段で分割された他方の光ビームを受光して前記対物レンズの視野における第2の領域を撮像する第2の検出器と、を備える検査装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の領域が同じ偏光状態の照明光で照明されていることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記分割手段で分割された一方の光ビームの光路中に挿脱可能に設けられ、前記一方の光ビームの光学距離を調整する平行平板が設けられている請求項1、又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の検出器への投影倍率が20倍以上であることを特徴とする請求項1、2、又は3に記載の検査装置
【請求項5】
前記対物レンズから前記第1及び第2の検出器までの間に前記試料の中間投影像を形成するリレー光学系が配置され、
前記中間投影像が形成される面の近傍に前記分割手段が配置されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
EUVマスクに用いられる試料の検査方法であって、
偏光ビームスプリッタに照明光を入射させるステップと、
前記偏光ビームスプリッタからの照明光を対物レンズにより集光して、試料に照射するステップと、
前記試料で反射して前記対物レンズを通過した反射光の一部の光路の向きを変化させて、前記反射光の光軸と垂直な面における位置に応じて反射光を分割するステップと、
分割された一方の光ビームを第1の検出器で受光し、前記対物レンズの視野における第1の領域を撮像するステップと、
前記偏光ビームスプリッタからの光学距離が前記第1の検出器の前記偏光ビームスプリッタからの光学距離と異なる位置に配置された第2の検出器で分割された他方の光ビームを受光し、前記対物レンズの視野における第2の領域を撮像するステップと、を備える検査方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の領域が同じ偏光状態の照明光で照明されていることを特徴とする請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
分割された一方の光ビームの光路中に挿脱可能に設けられた平行平板が、分割された一方の反射光の光学距離を調整することを特徴とする請求項6、又は7に記載の検査方法。
【請求項9】
前記第1及び第2の検出器への投影倍率が20倍以上であることを特徴とする請求項6、7、又は8に記載の検査方法
【請求項10】
前記対物レンズから前記第1及び第2の検出器までの間に前記試料の中間投影像を形成するリレー光学系が配置され、
前記中間投影像が形成される面の近傍で前記反射光を分割している請求項6〜9のいずれか1項に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24772(P2013−24772A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160926(P2011−160926)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【特許番号】特許第5024842号(P5024842)
【特許公報発行日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】