検査装置およびその制御方法、ならびに検査装置制御プログラム
【課題】稼働条件を変化させても、良否判定の基準を変更する必要がない検査装置などを提供する。
【解決手段】回転体の検査を行う検査装置の検査部34は、検査対象の回転体を含む対象装置からの振動信号を取得するセンサ情報取得部33と、回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス生成部42と、振動信号のうち、所定数の対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出するフレーム抽出部45と、複数のフレームを用いて代表特徴量を算出して良否の判定を行う代表特徴量算出部49とを備えている。
【解決手段】回転体の検査を行う検査装置の検査部34は、検査対象の回転体を含む対象装置からの振動信号を取得するセンサ情報取得部33と、回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス生成部42と、振動信号のうち、所定数の対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出するフレーム抽出部45と、複数のフレームを用いて代表特徴量を算出して良否の判定を行う代表特徴量算出部49とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の検査を行う検査装置およびその制御方法、ならびに検査装置制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン、トランスミッションなどの回転体と呼ばれる機器の製品検査では、製品を稼働させた場合に発生する振動に基づいて良否判定が行われている。従来、この良否判定は、検査員が上記振動の音を聴いたり、上記機器に手を触れたりすることにより行われていた。しかしながら、この場合、検査員の官能評価によって上記良否判定が行われるため、判定基準を定量化することが困難であり、論理的な妥当性を示すことが困難であった。そこで、近時では、上記振動をセンサによって検出し、検出した信号に基づいて、上記良否判定を自動的に行う検査装置が開発されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【特許文献1】特開平8−43257号公報(1996年2月16日公開)
【特許文献2】特開2001−21455号公報(2001年1月26日公開)
【特許文献3】特開2001−221683号公報(2001年8月17日公開)
【特許文献4】実開昭63−90128号公報(1988年6月11日公開)
【特許文献5】特開昭61−66140号公報(1986年4月4日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
回転体の検査において検出を所望する不良の特性は、例えば回転数(回転速度)を一定にするなど、安定した稼働条件の下で検出できるものが大半である。しかしながら、例えばオーダトラッキング解析などのように、稼働条件を変化させて検出する必要があるものも一部存在する。このような特性を検出するため、従来の検査装置では、稼働条件の変化に応じて、良否判定の基準を変更していた。
【0004】
しかしながら、この場合、安定した稼働条件の下で不良の特性を検出することを前提としているために、良否判定の基準を変更できない既存の検査装置を利用することができない。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、稼働条件を変化させても、良否判定の基準を変更する必要がない検査装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る検査装置は、回転体の検査を行う検査装置であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る検査装置の制御方法は、回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出ステップと、複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴としている。
【0008】
上記の構成および方法によると、振動信号の抽出は、対象周期パルスのパルス単位で行われるので、抽出された複数のフレームのそれぞれには、検査対象の回転体が所定数回転する間に発生する振動成分が含まれている。従って、これらのフレームを利用することにより、同じ判定基準で検査することができる。
【0009】
ところで、通常、回転体の回転数が増加すると、発生する振動の振幅も増加する。このため、抽出された各フレームの波形は類似していても、振幅の大きさが著しく異なることがある。
【0010】
そこで、本発明に係る検査装置では、上記フレームの正規化を行う正規化手段をさらに備えており、上記検査手段は、正規化した複数の上記フレームを用いて上記検査を行うことが好ましい。正規化により、例えば振幅の大きさを揃えることができるので、同じ判定基準でさらに精度良く検査することができる。
【0011】
ところで、検査対象の装置によっては、検査対象の回転体の回転を検出できないが、別の回転体の回転を検出できる場合がある。
【0012】
そこで、本発明に係る検査装置では、上記対象装置は、複数の回転体を備えており、上記複数の回転体のうち、基準となる回転体の回転に対応して生成される基準回転パルスを取得する基準回転パルス取得手段をさらに備えており、上記対象周期パルス取得手段は、基準となる回転体と検査対象となる回転体との回転比率を利用して、上記基準回転パルスから上記対象周期パルスを生成してもよい。この場合、検査対象の回転体の回転を検出できなくても、別の回転体の回転を検出することにより、対象周期パルスを取得することができる。ここで、回転比率とは、基準となる回転体が1回転する間に検査対象となる回転体が回転する回転数をいう。
【0013】
本発明に係る検査装置では、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、上記振動信号のうち、上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段をさらに備えることが好ましい。
【0014】
上記の構成によると、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになる。従って、検査対象となる振動成分を含む振動信号を通過させ、それ以外の振動信号を遮断することにより、さらに精度良く検査することができる。
【0015】
本発明に係る検査装置は、回転体の検査を行う検査装置であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る検査装置の制御方法は、回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得ステップと、上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタステップと、該フィルタステップにより通過された振動信号を用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴としている。
【0017】
上記の構成および方法によると、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになる。従って、稼働条件が変化しても、検査対象となる振動成分を含む振動信号のみを通過させることにより、同じ判定基準で検査することができる。
【0018】
なお、上記検査装置における各手段を、検査装置制御プログラムによりコンピュータ上で機能させることができる。さらに、上記検査装置制御プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶させることにより、任意のコンピュータ上で上記検査装置制御プログラムを実行させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る検査装置では、振動信号の抽出は、対象周期パルスのパルス単位で行われるので、抽出された複数のフレームのそれぞれには、検査対象の回転体が所定数回転する間に発生する振動成分が含まれており、これらのフレームを利用することにより、同じ判定基準で検査できるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る検査装置では、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになり、その結果、稼働条件が変化しても、検査対象となる振動成分を含む振動信号のみを通過させることにより、同じ判定基準で検査できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態について図1〜図23を参照して説明する。図2は、本実施形態の検査システムの概略構成を示している。検査システム10は、例えばエンジンのような、回転体を有する製品11の稼働時に生ずる振動を利用して、製品11の検査(良否判定)を行うものである。
【0022】
製品11の振動は、振動センサ12・13にて検出され、検出された振動の時系列データ(以下「振動データ」と略称する。)が検査装置14に送信される。また、製品11の運転状態は、運転状態検出センサ15にて検出され、検出結果が運転状態データとして運転制御装置16に送信される。運転制御装置16は、受信した運転状態データに基づいて、製品11を駆動制御すると共に、上記運転状態データを検査装置14に送信する。
【0023】
検査装置14は、振動センサ12・13から受信した振動データと、検査員17が設定した検査用パラメータとを用いて、振動の特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいて製品11の良否判定を行う。
【0024】
本実施形態では、検査装置14は、運転制御装置16から受信した運転状態データと、検査員17などによって外部から入力された製品11の構造情報とを用いて、上記振動の特徴量を、運転状態に依存しないものに補正している。図3は、本実施形態の検査システム10において、製品11の運転状態を示す回転数の時間変化と、検査装置14が補正した振動の特徴量(以下、「補正特徴量」と称す。)の時間変化とを概念的に示している。同図における一点鎖線は、良否の判定基準の閾値を示している。また、図23は、図3の比較例であり、従来の検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、検査装置が算出した振動の特徴量の時間変化とを概念的に示している。
【0025】
ここで、特徴量の例としては、振動データの平均値、標準偏差、最大値、ピーク値、ボトム値、波形率、衝撃指数、波高率、歪度、尖り度などが挙げられる。
【0026】
図23に示されるように、従来の検査システムは、回転数の変化に応じて、特徴量も変化していた。このため、回転数の変化に合わせて良否の判定基準を変化させる必要があった。これに対し、本実施形態の検査システム10では、図3に示されるように、回転数が変化しても、補正特徴量は変化しないことが理解できる。従って、運転状態が変化しても、良否の判定基準を変更する必要が無い。
【0027】
次に、検査装置14の詳細について図4を参照して説明する。図4は、検査装置14の概略構成を示している。図示のように、検査装置14は、制御部21、記憶部22、受信部23、入力部24、および表示部25を備える構成である。
【0028】
制御部21は、検査装置14における各部の動作を統括的に制御するものであり、例えばPCベースのコンピュータによって構成される。そして、各部の動作制御は、制御プログラムをコンピュータに実行させることによって行われる。また、記憶部22は、各種の情報を記憶するものであり、例えばハードディスク装置などの不揮発性の記録媒体によって構成される。なお、制御部21および記憶部22の詳細については後述する。
【0029】
受信部23は、外部から信号を受信するものであり、受信した信号を制御部21に送信する。具体的には、受信部23は、振動センサ12・13から振動データを受信すると共に、運転制御装置16から運転状態データを受信している。なお、受信部23は、信号を有線で受信してもよいし、無線で受信してもよい。
【0030】
入力部24は、検査員17からの指示入力、情報入力などを受け付けるものであり、例えばキーボードやボタンなどのキー入力デバイスや、マウスなどのポインティングデバイスなどによって構成される。なお、入力部24と共に、或いは入力部24の代わりに、印刷された情報を読取るスキャナデバイス、無線または有線の伝送媒体を介して信号を受信する受信デバイス、外部または自装置内の記録媒体に記録されたデータを再生する再生デバイスなどを用いて、外部からの情報の入力を受け付けても良い。
【0031】
表示部25は、制御部21からの指示に基づいて情報を表示するものであり、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、CRT(Cathode Ray Tube)などの表示デバイスによって構成される。なお、表示部25と共に、或いは表示部25の代わりに、紙などの印刷媒体に情報を印刷する印刷出力デバイス、上記伝送媒体を介して信号を送信する送信デバイス、上記記録媒体にデータを記録する記録デバイスなどを用いて、外部に情報を出力しても良い。
【0032】
次に、制御部21および記憶部22の詳細について説明する。図4に示されるように、制御部21は、構造情報取得部31、検査用パラメータ取得部32、センサ情報取得部33、検査部34、および検査結果表示制御部35を備える構成である。また、記憶部22は、構造情報36および検査用パラメータ37を記憶している。
【0033】
構造情報取得部31は、製品11の構造情報を、検査員17から入力部24を介して取得するものであり、取得した構造情報を記憶部22に記憶する。本実施形態では、製品11の構造情報36として、基準となる回転体(以下「基準回転体」と称する。)の1回転に対する、検査対象となる回転体(以下「対象回転体」と称する。)の回転数を示す回転比率と、運転状態を検出するために、基準回転体に設けられた歯の構造を示す歯構造と、対象回転体において、基準となる位置から不良要因の発生する位置までの角度を示す位相のずれとを利用している。ここで、製品11が内燃機関である場合、基準回転体の例としてカムシャフトを挙げることができる。
【0034】
検査用パラメータ取得部32は、検査に利用される各種のパラメータである検査用パラメータを、検査員17から入力部24を介して取得するものであり、取得した検査用パラメータを記憶部22に記憶する。本実施形態では、検査用パラメータ37として、重み関数の種類と、位相フィルタ区間の幅と、1フレーム当りのパルス信号の回転数と、フレームシフトを示すパルス信号の回転数と、正規化の要否とを利用している。
【0035】
センサ情報取得部33は、センサからのセンサ情報を、受信部23を介して取得し、取得したセンサ情報に対し増幅、整形などの所定の処理を行うものである。本実施形態では、上記センサ情報として、振動センサ12・13からの振動データと、運転状態検出センサ15から運転制御装置16を介しての運転状態データとを取得している。センサ情報取得部33は、取得し処理されたセンサ情報を、検査部34に送出する。
【0036】
検査部34は、センサ情報取得部33から受信するセンサ情報と、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して、対象回転体の検査を行うものである。検査部34は、検査結果を検査結果表示制御部35に送出する。検査結果表示制御部35は、検査部34からの検査結果を表示するように、表示部25を制御するものである。
【0037】
次に、検査部34の詳細について、図1および図5を参照して説明する。図1は、検査部34の概略構成を示している。図示のように、検査部34は、周波数フィルタ部41、対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、位相フィルタ部44、フレーム抽出部45、正規化部46、周期性強調部47、フレーム特徴量算出部48、および代表特徴量算出部49を備える構成である。
【0038】
図5は、上記構成の検査部34における検査工程の流れを示している。図示のように、上記検査工程では、センサ情報取得部33から取得した振動データに対し、周波数フィルタ部41が周波数フィルタ処理(ステップS11。以下、単に「S11」と記載することがある。他のステップについても同様である。)を実行し、位相フィルタ部44が位相フィルタ処理(S12)を実行し、フレーム抽出部45がフレーム抽出処理(S13)を実行し、周期性強調部47が周期性強調処理(S14)を実行し、フレーム特徴量算出部48がフレーム特徴量算出処理(S15)を実行し、代表特徴量算出部49が代表特徴量算出処理(S16)を実行することにより、良否の判定指標となる1つの代表的特徴量が算出される。
【0039】
周波数フィルタ部41は、振動センサ12・13が検出した振動データをセンサ情報取得部33から取得し、取得した振動データのうち、検査対象となる振動(以下「対象振動」と称する。)に固有の周波数帯域のものを通過させ、その他の帯域のものを遮断させるものである。これにより、検査対象以外の振動成分を振動データから或る程度除去することができる。周波数フィルタ部41は、処理した振動データを位相フィルタ部44に送出する。
【0040】
対象周期パルス生成部42は、対象回転体の1回転の周期に対応して発生するパルスである対象周期パルスを生成するものである。この対象周期パルスは、センサ情報取得部33が取得した運転状態データと、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して生成される。対象周期パルス生成部42は、生成した対象周期パルスを位相フィルタ用波形生成部43およびフレーム抽出部45に送出する。なお、対象周期パルス生成部42は、対象周期パルスを生成する代わりに、対象周期パルスの発生時刻を生成してもよい。
【0041】
位相フィルタ用波形生成部43は、対象回転体において基準位置から対象振動の発生位置までの位相を特定し、特定した位相を含む所定区間の振動データを通過させるための波形データを生成するものである。この波形データは、対象周期パルス生成部42が生成した対象周期パルスと、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して生成される。位相フィルタ用波形生成部43は、生成した位相フィルタ用波形データを位相フィルタ部44に送出する。
【0042】
位相フィルタ部44は、位相フィルタ用波形生成部43からの波形データを利用して、周波数フィルタ部41からの振動データのうち、上記所定区間のものを通過させるものである。これにより、検査対象以外の振動成分を振動データから確実に除去することができる。位相フィルタ部44は、処理した振動データを濾波データとしてフレーム抽出部45に送信する。
【0043】
フレーム抽出部45は、位相フィルタ部44からの濾波データに対し、対象回転体の回転に同期して、濾波データの部分集合であるフレームを切り出すものである。フレームは、対象周期パルス生成部42からの対象周期パルスと、記憶部22が記憶する検査用パラメータ37とを利用して切り出される。フレーム抽出部45は、切り出したフレームを正規化部46に送出する。
【0044】
正規化部46は、フレーム抽出部45からのフレームの濾波データを正規化するものである。正規化部46は、正規化したフレームを周期性強調部47に送出する。なお、上記正規化を省略することもできる。上記正規化の要否は検査用パラメータ37に含まれている。
【0045】
周期性強調部47は、正規化部46からのフレームの濾波データに対し、周期性を有する成分を強調するものである。周期性強調部47は、強調されたフレームをフレーム特徴量算出部48に送出する。なお、上記周期性成分の強調は、濾波データの特徴が顕著ではない場合に行われる。
【0046】
フレーム特徴量算出部48は、周期性強調部47からのフレームの濾波データに対し統計的処理を行うことにより、上記フレームの統計的な特徴量を算出するものである。フレーム特徴量算出部48は、算出した特徴量を代表特徴量算出部49に送出する。
【0047】
代表特徴量算出部49は、フレーム特徴量算出部48から受け取る全フレームに関して、フレームの特徴量の時間的推移を示す1つの値を代表特徴量として算出するものである。この代表特徴量の例としては、特徴量の最大値、最小値などが挙げられる。代表特徴量算出部49は、算出した代表特徴量を検査結果表示制御部35に送出する。
【0048】
次に、検査部34における対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、および位相フィルタ部44の詳細について、図6〜図22を参照して説明する。図6は、周波数フィルタ部41、対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、および位相フィルタ部44において利用される情報および生成される情報の概要を示している。また、図7は、図5に示される位相フィルタ処理(S12)において、対象周期パルス生成部42が実行する処理の流れを示している。そして、図8は、位相フィルタ処理(S12)において、位相フィルタ用波形生成部43および位相フィルタ部44が実行する処理の流れを示している。
【0049】
まず、図6に示されるように、センサ情報取得部33は、振動センサ12・13から取得した振動データに対し、増幅、整形などの所定の処理を施した上で、周波数フィルタ部41に送出している。また、センサ情報取得部33は、運転制御装置16から取得した運転状態データに対し、増幅、整形などの所定の処理を施した上で、対象周期パルス生成部42に送出している。
【0050】
対象周期パルス生成部42は、センサ情報取得部33から取得した運転状態データと、記憶部22が記憶する構造情報36に含まれる回転比率の情報およびセンサの歯の情報とを利用して、上述の対象周期パルスを生成している。具体的には、図7に示されるように、対象周期パルス生成部42は、基準周期パルスを生成する処理(S21)と、対象周期パルスを生成する処理(S22)と、対象周期パルスの発生時刻を算出する処理(S23)とを行っている。ここで、基準周期パルスは、基準回転体の1回転の周期に対応して発生するパルスである。
【0051】
まず、基準周期パルスを生成する処理(S21)について、図9および図10を参照して説明する。図9は、運転状態検出センサ15の構成要素であるセンサ素子の概要を示している。また、図10は2つのパルスの時間変化を示している。
【0052】
上記センサ素子は、基準回転体と共に回転するものであり、基準回転体の回転量を検知するために、周方向に1または複数の歯が設けられている。なお、複数の歯が設けられる場合、隣り合う歯どうしの間隔は、等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。また、等間隔で設けられた複数の歯のうち、一部の歯が省略された構成であってもよい。
【0053】
図9に示される例では、センサ素子61は、周方向に等間隔な12箇所のうち、11箇所に歯62が設けられている。このようなセンサ素子61は、例えば、自動車のエンジンにおいて、点火のタイミングなどをとるためにカムシャフトに設けられている。
【0054】
上記構成のセンサ素子61に対し、撮影したり、センサ素子61に光を照射し、その反射光を受光したり、センサ素子61に電圧を印加したりすることにより、運転制御装置16は、センサ素子61の歯62に対応して発生するパルスを取得できる。このパルスは、センサ素子61が高速で回転すると、パルス間隔およびパルス幅が短くなり、センサ素子61が低速で回転すると、パルス間隔およびパルス幅が長くなる。すなわち、上記パルスは、基準回転体の回転に対応して生成されるので、以下では「基準回転パルス」と称する。運転制御装置16は、上記基準回転パルスの時系列データ(以下「基準回転パルスデータ」と略称する。)を運転状態データとして検査装置14に送信している。
【0055】
検査装置14の対象周期パルス生成部42は、運転制御装置16から受信部23およびセンサ情報取得部33を介して取得する基準回転パルスデータを利用して、上記基準周期パルスを生成する。図10は、上記基準回転パルスの時間変化を上段に示し、上記基準周期パルスの時間変化を下段に示している。図示のように、基準回転パルスは、センサ素子61が1回転する間に、11個発生し、1個分空くことになる。
【0056】
従って、対象周期パルス生成部42は、まず、記憶部22の構造情報36からセンサ素子61の構造情報、すなわちセンサ素子61における歯62の設置数および空き数を取得する。次に、対象周期パルス生成部42は、取得した歯62の設置数および空き数に対応するパルスのパターンを基準回転パルスデータから探し出し、見つかったパターンにおける先頭の基準回転パルスの立ち上がり時刻に、パルスを発生させる。これにより、対象周期パルス生成部42は、図10の下段に示すような、基準回転体(センサ素子61)の1回転の周期に対応して発生するパルスである基準周期パルスを生成することができる。
【0057】
次に、図7に示される対象周期パルスを生成する処理(S22)と、対象周期パルスの発生時刻を算出する処理(S23)とについて説明する。通常、基準回転体が1回転する間に対象回転体が回転する回転数、すなわち回転比率は一定である。従って、対象回転体の単位時間当りの回転数は、基準回転体の単位時間当りの回転数に上記回転比率を乗算したものとなる。すなわち、対象周期パルスの単位時間当りの発生数は、基準周期パルスの単位時間当りの発生数に上記回転比率を乗算したものとなる。
【0058】
そこで、対象周期パルス生成部42は、まず、生成した基準周期パルスの現在の単位時間当りの発生数を算出する。次に、対象周期パルス生成部42は、算出した発生数に、記憶部22の構造情報36から取得した回転比率を乗算することにより、対象周期パルスの現在の単位時間当りの発生数を算出する。これにより、対象周期パルス生成部42は、算出した発生数に基づいて、対象周期パルスの時系列データq(t)(以下「対象周期パルスデータq(t)」と略称する。)を生成できると共に(S22)、i番目(iは自然数)の対象周期パルスの発生時刻qiを算出できる(S23)
図11は、上から順に、基準周期パルスの時間変化と、回転比率が0.5である場合の対象周期パルスの時間変化と、回転比率が1.5である場合の対象周期パルスの時間変化とを示している。同図を参照すると、基準周期パルスと回転比率とから対象周期パルスが生成できることが理解できる。
【0059】
図6に戻ると、位相フィルタ用波形生成部43は、対象周期パルス生成部42が生成した対象周期パルスの発生時刻qiと、記憶部22の構造情報36に含まれる位相のずれと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる位相フィルタ区間の幅と、重み関数の種類とを利用して、位相フィルタ用波形データを生成している。具体的には、図8に示されるように、位相フィルタ用波形生成部43は、不良要因の発生時刻を特定する処理(S24)と、位相フィルタ区間を設定する処理(S25)と、位相フィルタ用波形データを生成する処理(S26)とを行っている。なお、ここでの不良要因は、製品11に含まれる部品における不良要因のうち、特に周期的な衝撃成分が発生するものである。
【0060】
まず、不良要因の発生時刻を特定する処理(S24)と位相フィルタ区間を設定する処理(S25)とについて、図12および図13を参照して説明する。図12および図13は、対象回転体65の回転時において、対象周期パルスが発生するタイミングqiと、検査対象となるj番目(jは自然数)の不良要因の衝撃成分が発生するタイミングq’i,jと、j番目の不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間ljとを示している。
【0061】
図12および図13に示されるように、対象周期パルスが発生してから、対象回転体65が所定角度回転すると、不良要因の衝撃成分が発生している。すなわち、対象周期パルスが発生するタイミングqiと、不良要因の衝撃成分が発生するタイミングq’i,jとの間には、位相のずれdj(単位は度)が存在している。従って、位相フィルタ用波形生成部43は、対象周期パルスの発生時刻qiと不良要因の位相のずれdjとを用いて、不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,jを次式で求めることができる。
【0062】
【数1】
【0063】
ここで、Tiは対象周期パルスの現在の発生周期である。なお、この位相のずれdjは、不良要因によって決まる数値である。また、上記位相のずれdjは、対象回転体65の回転周期に比例し、すなわち対象周期パルスの発生周期に比例することになる。
【0064】
また、図12および図13に示されるように、不良要因の衝撃成分が発生する区間ljは、有限であり、かつ、不良要因ごとに決まる。そこで、位相フィルタ用波形生成部43は、上記区間ljを位相フィルタ区間として次式のように設定する。
【0065】
【数2】
【0066】
次に、位相フィルタ用波形データを生成する処理(S26)について、図14および図15を参照して説明する。位相フィルタ用波形生成部43は、設定した位相フィルタ区間ljと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる重み関数とを用いて、位相フィルタ用波形データを生成する。
【0067】
上記重み関数は、位相フィルタ区間ljにて計測される波形を強調するために振動データに施されるマスク関数である。検査装置14には、複数の重み関数が記憶されており、検査員17によって選択された重み関数が、記憶部22の検査用パラメータ37に記憶されることになる。
【0068】
図14(a)〜(c)は、上記重み関数w(τ,a)の一例を示している。同図(a)〜(c)は、それぞれ矩形、三角形、およびガウス関数の重み関数w(τ,a)を示している。各重み関数w(τ,a)は次式で表される。
【0069】
【数3】
【0070】
従って、或る不良要因の衝撃成分を強調するための位相フィルタ用波形データgj(t)は、次式で表される。
【0071】
【数4】
【0072】
そして、位相フィルタ用波形生成部43は、各不良要因に関する位相フィルタ用波形データgj(t)を用いて、全体の位相フィルタ用波形データg(t)を作成する。図15は、上から順に、2つの不良要因に関する位相フィルタ用波形データg1(t)、g2(t)と、全体の位相フィルタ用波形データg(t)との一例をそれぞれ示している。図示の例では、重み関数として三角形が利用されている。
【0073】
図15に示されるように、位相フィルタ用波形データg(t)は、各不良要因に関する位相フィルタ用波形データgj(t)に関して、或る時刻tの最大値を算出し、これを他の時刻tについても繰り返すことにより生成される。図示の例では、全体の位相フィルタ用波形データg(t)は、第1の不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,1と、第2の不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,2との中間の時刻以前は、第1の不良要因に関する位相フィルタ用波形データg1(t)が選択され、該時刻以降は、第2の不良要因に関する位相フィルタ用波形データg2(t)が選択されたものとなっている。
【0074】
図6に戻ると、位相フィルタ部44は、位相フィルタ用波形生成部43からの位相フィルタ用波形データg(t)を利用して、周波数フィルタ部41からの振動データx(t)のうち、位相フィルタ区間のものを通過させることにより、濾波データy(t)を生成する。具体的には、次式に従って、濾波データy(t)を算出する。
y(t)=g(t)×x(t)。
【0075】
図16は、上記位相フィルタ用波形データg(t)、振動データx(t)、および濾波データy(t)の時間変化の一例をそれぞれ示すグラフである。図示の例では、重み関数として矩形が利用されている。振動データx(t)のグラフのうち破線は、周波数フィルタ部41に入力される振動データを示しており、実線は、周波数フィルタ部41から出力される振動データを示している。同図を参照すると、不良要因が発生する区間に関する振動のみが残り、その他の区間の振動がほぼゼロとなっていることが理解できる。
【0076】
次に、検査部34におけるフレーム抽出部45および正規化部46の詳細について、図17〜図22を参照して説明する。図17は、フレーム抽出部45および正規化部46において利用される情報および生成される情報の概要を示している。また、図18は、図5に示されるフレーム抽出処理(S13)において、フレーム抽出部45が実行する処理の流れを示している。
【0077】
まず、図17に示されるように、フレーム抽出部45は、位相フィルタ部44から取得した濾波データと、対象周期パルス生成部42から取得した対象周期パルスデータと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる1フレーム当りのパルス数およびフレームシフト量とを利用して、上述のフレームを切り出すものである。また、正規化部46は、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる正規化の要否に基づいて、フレーム抽出部45が抽出したフレームの正規化を行うものである。具体的には、図18に示されるように、フレーム抽出部45は、フレーム数を求める処理(S31)と、フレーム切り出し処理(S33)、正規化判断処理(S34)、および正規化処理(S35)を上記フレーム数だけ繰り返す処理(S32)とを行っている。
【0078】
ここで、フレームシフト量は、隣り合うフレーム同士のずれの量であり、本実施形態では、対象周期パルスの数で設定されている。図19は、或る測定波形と、該測定波形から切り出した、隣り合うフレームとの一例を示している。なお、測定波形のグラフには、対象周期パルスが棒線で示されている。図示の例では、13個の対象周期パルス(対象回転体の13回転に相当)分の測定波形が1フレームとして切り出されている。また、フレームシフト量は、2個の対象周期パルス分である。
【0079】
まず、フレーム数を求める処理(S31)について説明する。この処理は、濾波データ全体から取得可能なフレーム数を求める処理である。フレーム数Nfは次式によって求められる。
【0080】
【数5】
【0081】
ここで、Nqは、対象周期パルスのパルス数であり、nは、1フレーム当りの対象周期パルスの数であり、mは、フレームシフト量である。また、floor関数は、小数点以下を切り捨てるものである。
【0082】
次に、フレーム切り出し処理(S33)について説明する。まず、1フレーム当りの対象周期パルスの数と、フレームシフト量とから、k番目(kは1〜Nfの自然数)のフレームの開始時刻q(k−1)m+1と終了時刻q(k−1)m+n+1とを算出する。そして、算出した開始時刻および終了時刻に基づいて、濾波データからk番目のフレームを切り出す。すなわち、k番目のフレームのデータxk(tk)は、濾波データx(t)から次式によって切り出される。
xk(tk)=x(tk+q(k−1)m+1)
なお、計測開始時刻から最初のフレームq1までの濾波データと、最後のフレームq(Nf−1)m+n+1から計測終了時刻までの濾波データとは無視される。
【0083】
次に、正規化判断処理(S34)および正規化処理(S35)について説明する。正規化部46は、検査用パラメータ37に含まれる正規化の要否の設定情報に基づいて、正規化が必要であるか否かを判断する。正規化が必要である場合、正規化部46は、正規化処理を行う。この正規化処理には、種々の統計的手法を利用できるが、本実施形態では、標準偏差による除算を行っている。すなわち、正規化部46は、k番目のフレームに対して、次式を適用する。
【0084】
【数6】
【0085】
ここで、Pkは、次式の通りである。
【0086】
【数7】
【0087】
図20〜図21は、フレーム切り出し処理(S33)および正規化処理(S35)を説明するためのものである。図20は、振動データと、基準回転体の回転数の時間変化とを、上段および下段に同期して示している。同図を参照すると、回転数の上昇により、振動データの周波数が増加していることが理解できる。
【0088】
図21(a)・(b)は、図20の振動データから切り出されたフレームF1・F2をそれぞれ示している。図20(a)・(b)を比較すると、振幅の大きさや、フレームの時間幅が大きく異なるが、波形が類似していることが理解できる。
【0089】
図22(a)・(b)は、図21(a)・(b)のフレームに対し、上記正規化処理を行ったものである。図22(a)・(b)を比較すると、度数分布が類似していることが理解できる。
【0090】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
最後に、検査装置14の各ブロック、特に制御部21は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0092】
すなわち、検査装置14は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである検査装置14の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記検査装置14に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0093】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0094】
また、検査装置14を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る検査装置は、検査対象の装置の稼働条件が変化しても、同じ判定基準で検査できるので、例えば、プリンタ、コピー機、モータ、タービンなど、回転体を有する任意の装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態である検査システムにおける検査装置の検査部の概略構成を示すブロック図である。
【図2】上記検査システムの概要図である。
【図3】上記検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、上記検査装置が補正した振動の特徴量の時間変化とを概念的に示すグラフである。
【図4】上記検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】上記検査部における検査工程の流れを示すフローチャートである。
【図6】上記検査部の周波数フィルタ部、対象周期パルス生成部、位相フィルタ用波形生成部、および位相フィルタ部において利用される情報および生成される情報の概要を示すブロック図である。
【図7】上記検査工程の位相フィルタ処理において、上記対象周期パルス生成部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】上記検査工程の位相フィルタ処理において、上記位相フィルタ用波形生成部および上記位相フィルタ部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】上記検査システムにおける運転状態検出センサの構成要素であるセンサ素子の概要図である。
【図10】基準回転パルスの時間変化と、基準周期パルスの時間変化とを示すグラフである。
【図11】基準周期パルスの時間変化と、回転比率が0.5である場合の対象周期パルスの時間変化と、回転比率が1.5である場合の対象周期パルスの時間変化とを示すグラフである。
【図12】対象回転体の概要図であり、対象回転体の回転時において、対象周期パルスが発生するタイミングと、不良要因の衝撃成分が発生するタイミングと、該不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間とを示す図である。
【図13】上記対象周期パルスが発生する時刻と、上記不良要因の衝撃成分が発生する時刻と、該不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間とを示すグラフである。
【図14】同図(a)〜(c)は、それぞれ矩形、三角形、およびガウス関数の重み関数を示すグラフである。
【図15】2つの不良要因に関する位相フィルタ用波形データの一例と、全体の位相フィルタ用波形データの一例とを示すグラフである。
【図16】位相フィルタ用波形データ、振動データ、および濾波データの時間変化の一例をそれぞれ示すグラフである。
【図17】上記検査部のフレーム抽出部および正規化部において利用される情報および生成される情報の概要を示すブロック図である。
【図18】上記検査工程のフレーム抽出処理において、フレーム抽出部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】或る測定波形と、該測定波形から切り出した、隣り合うフレームとの一例を示すグラフである。
【図20】振動データと基準回転体の回転数の時間変化とを同期させて示すグラフである。
【図21】同図(a)・(b)は、上記振動データから切り出されたフレームをそれぞれ示すグラフである。
【図22】同図(a)・(b)は、上記フレームのそれぞれに対し正規化処理を行ったものを示すグラフである。
【図23】従来の検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、上記検査装置が検査する振動の特徴量の時間変化とを概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
14 検査装置
33 センサ情報取得部(振動信号取得手段、基準回転パルス取得手段)
42 対象周期パルス生成部(対象周期パルス取得手段)
43 位相フィルタ用波形生成部(位相範囲取得手段)
44 位相フィルタ部(フィルタ手段)
45 フレーム抽出部(抽出手段)
46 正規化部(正規化手段)
49 代表特徴量算出部(検査手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の検査を行う検査装置およびその制御方法、ならびに検査装置制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン、トランスミッションなどの回転体と呼ばれる機器の製品検査では、製品を稼働させた場合に発生する振動に基づいて良否判定が行われている。従来、この良否判定は、検査員が上記振動の音を聴いたり、上記機器に手を触れたりすることにより行われていた。しかしながら、この場合、検査員の官能評価によって上記良否判定が行われるため、判定基準を定量化することが困難であり、論理的な妥当性を示すことが困難であった。そこで、近時では、上記振動をセンサによって検出し、検出した信号に基づいて、上記良否判定を自動的に行う検査装置が開発されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【特許文献1】特開平8−43257号公報(1996年2月16日公開)
【特許文献2】特開2001−21455号公報(2001年1月26日公開)
【特許文献3】特開2001−221683号公報(2001年8月17日公開)
【特許文献4】実開昭63−90128号公報(1988年6月11日公開)
【特許文献5】特開昭61−66140号公報(1986年4月4日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
回転体の検査において検出を所望する不良の特性は、例えば回転数(回転速度)を一定にするなど、安定した稼働条件の下で検出できるものが大半である。しかしながら、例えばオーダトラッキング解析などのように、稼働条件を変化させて検出する必要があるものも一部存在する。このような特性を検出するため、従来の検査装置では、稼働条件の変化に応じて、良否判定の基準を変更していた。
【0004】
しかしながら、この場合、安定した稼働条件の下で不良の特性を検出することを前提としているために、良否判定の基準を変更できない既存の検査装置を利用することができない。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、稼働条件を変化させても、良否判定の基準を変更する必要がない検査装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る検査装置は、回転体の検査を行う検査装置であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る検査装置の制御方法は、回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出ステップと、複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴としている。
【0008】
上記の構成および方法によると、振動信号の抽出は、対象周期パルスのパルス単位で行われるので、抽出された複数のフレームのそれぞれには、検査対象の回転体が所定数回転する間に発生する振動成分が含まれている。従って、これらのフレームを利用することにより、同じ判定基準で検査することができる。
【0009】
ところで、通常、回転体の回転数が増加すると、発生する振動の振幅も増加する。このため、抽出された各フレームの波形は類似していても、振幅の大きさが著しく異なることがある。
【0010】
そこで、本発明に係る検査装置では、上記フレームの正規化を行う正規化手段をさらに備えており、上記検査手段は、正規化した複数の上記フレームを用いて上記検査を行うことが好ましい。正規化により、例えば振幅の大きさを揃えることができるので、同じ判定基準でさらに精度良く検査することができる。
【0011】
ところで、検査対象の装置によっては、検査対象の回転体の回転を検出できないが、別の回転体の回転を検出できる場合がある。
【0012】
そこで、本発明に係る検査装置では、上記対象装置は、複数の回転体を備えており、上記複数の回転体のうち、基準となる回転体の回転に対応して生成される基準回転パルスを取得する基準回転パルス取得手段をさらに備えており、上記対象周期パルス取得手段は、基準となる回転体と検査対象となる回転体との回転比率を利用して、上記基準回転パルスから上記対象周期パルスを生成してもよい。この場合、検査対象の回転体の回転を検出できなくても、別の回転体の回転を検出することにより、対象周期パルスを取得することができる。ここで、回転比率とは、基準となる回転体が1回転する間に検査対象となる回転体が回転する回転数をいう。
【0013】
本発明に係る検査装置では、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、上記振動信号のうち、上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段をさらに備えることが好ましい。
【0014】
上記の構成によると、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになる。従って、検査対象となる振動成分を含む振動信号を通過させ、それ以外の振動信号を遮断することにより、さらに精度良く検査することができる。
【0015】
本発明に係る検査装置は、回転体の検査を行う検査装置であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る検査装置の制御方法は、回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、上記課題を解決するために、検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得ステップと、上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタステップと、該フィルタステップにより通過された振動信号を用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴としている。
【0017】
上記の構成および方法によると、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになる。従って、稼働条件が変化しても、検査対象となる振動成分を含む振動信号のみを通過させることにより、同じ判定基準で検査することができる。
【0018】
なお、上記検査装置における各手段を、検査装置制御プログラムによりコンピュータ上で機能させることができる。さらに、上記検査装置制御プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶させることにより、任意のコンピュータ上で上記検査装置制御プログラムを実行させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る検査装置では、振動信号の抽出は、対象周期パルスのパルス単位で行われるので、抽出された複数のフレームのそれぞれには、検査対象の回転体が所定数回転する間に発生する振動成分が含まれており、これらのフレームを利用することにより、同じ判定基準で検査できるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る検査装置では、検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、基準位置からの位相で示しているため、対象周期パルスの周期が変化しても、該周期において位相範囲に対応する区間の振動信号には、検査対象となる振動成分が含まれることになり、その結果、稼働条件が変化しても、検査対象となる振動成分を含む振動信号のみを通過させることにより、同じ判定基準で検査できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態について図1〜図23を参照して説明する。図2は、本実施形態の検査システムの概略構成を示している。検査システム10は、例えばエンジンのような、回転体を有する製品11の稼働時に生ずる振動を利用して、製品11の検査(良否判定)を行うものである。
【0022】
製品11の振動は、振動センサ12・13にて検出され、検出された振動の時系列データ(以下「振動データ」と略称する。)が検査装置14に送信される。また、製品11の運転状態は、運転状態検出センサ15にて検出され、検出結果が運転状態データとして運転制御装置16に送信される。運転制御装置16は、受信した運転状態データに基づいて、製品11を駆動制御すると共に、上記運転状態データを検査装置14に送信する。
【0023】
検査装置14は、振動センサ12・13から受信した振動データと、検査員17が設定した検査用パラメータとを用いて、振動の特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいて製品11の良否判定を行う。
【0024】
本実施形態では、検査装置14は、運転制御装置16から受信した運転状態データと、検査員17などによって外部から入力された製品11の構造情報とを用いて、上記振動の特徴量を、運転状態に依存しないものに補正している。図3は、本実施形態の検査システム10において、製品11の運転状態を示す回転数の時間変化と、検査装置14が補正した振動の特徴量(以下、「補正特徴量」と称す。)の時間変化とを概念的に示している。同図における一点鎖線は、良否の判定基準の閾値を示している。また、図23は、図3の比較例であり、従来の検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、検査装置が算出した振動の特徴量の時間変化とを概念的に示している。
【0025】
ここで、特徴量の例としては、振動データの平均値、標準偏差、最大値、ピーク値、ボトム値、波形率、衝撃指数、波高率、歪度、尖り度などが挙げられる。
【0026】
図23に示されるように、従来の検査システムは、回転数の変化に応じて、特徴量も変化していた。このため、回転数の変化に合わせて良否の判定基準を変化させる必要があった。これに対し、本実施形態の検査システム10では、図3に示されるように、回転数が変化しても、補正特徴量は変化しないことが理解できる。従って、運転状態が変化しても、良否の判定基準を変更する必要が無い。
【0027】
次に、検査装置14の詳細について図4を参照して説明する。図4は、検査装置14の概略構成を示している。図示のように、検査装置14は、制御部21、記憶部22、受信部23、入力部24、および表示部25を備える構成である。
【0028】
制御部21は、検査装置14における各部の動作を統括的に制御するものであり、例えばPCベースのコンピュータによって構成される。そして、各部の動作制御は、制御プログラムをコンピュータに実行させることによって行われる。また、記憶部22は、各種の情報を記憶するものであり、例えばハードディスク装置などの不揮発性の記録媒体によって構成される。なお、制御部21および記憶部22の詳細については後述する。
【0029】
受信部23は、外部から信号を受信するものであり、受信した信号を制御部21に送信する。具体的には、受信部23は、振動センサ12・13から振動データを受信すると共に、運転制御装置16から運転状態データを受信している。なお、受信部23は、信号を有線で受信してもよいし、無線で受信してもよい。
【0030】
入力部24は、検査員17からの指示入力、情報入力などを受け付けるものであり、例えばキーボードやボタンなどのキー入力デバイスや、マウスなどのポインティングデバイスなどによって構成される。なお、入力部24と共に、或いは入力部24の代わりに、印刷された情報を読取るスキャナデバイス、無線または有線の伝送媒体を介して信号を受信する受信デバイス、外部または自装置内の記録媒体に記録されたデータを再生する再生デバイスなどを用いて、外部からの情報の入力を受け付けても良い。
【0031】
表示部25は、制御部21からの指示に基づいて情報を表示するものであり、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、CRT(Cathode Ray Tube)などの表示デバイスによって構成される。なお、表示部25と共に、或いは表示部25の代わりに、紙などの印刷媒体に情報を印刷する印刷出力デバイス、上記伝送媒体を介して信号を送信する送信デバイス、上記記録媒体にデータを記録する記録デバイスなどを用いて、外部に情報を出力しても良い。
【0032】
次に、制御部21および記憶部22の詳細について説明する。図4に示されるように、制御部21は、構造情報取得部31、検査用パラメータ取得部32、センサ情報取得部33、検査部34、および検査結果表示制御部35を備える構成である。また、記憶部22は、構造情報36および検査用パラメータ37を記憶している。
【0033】
構造情報取得部31は、製品11の構造情報を、検査員17から入力部24を介して取得するものであり、取得した構造情報を記憶部22に記憶する。本実施形態では、製品11の構造情報36として、基準となる回転体(以下「基準回転体」と称する。)の1回転に対する、検査対象となる回転体(以下「対象回転体」と称する。)の回転数を示す回転比率と、運転状態を検出するために、基準回転体に設けられた歯の構造を示す歯構造と、対象回転体において、基準となる位置から不良要因の発生する位置までの角度を示す位相のずれとを利用している。ここで、製品11が内燃機関である場合、基準回転体の例としてカムシャフトを挙げることができる。
【0034】
検査用パラメータ取得部32は、検査に利用される各種のパラメータである検査用パラメータを、検査員17から入力部24を介して取得するものであり、取得した検査用パラメータを記憶部22に記憶する。本実施形態では、検査用パラメータ37として、重み関数の種類と、位相フィルタ区間の幅と、1フレーム当りのパルス信号の回転数と、フレームシフトを示すパルス信号の回転数と、正規化の要否とを利用している。
【0035】
センサ情報取得部33は、センサからのセンサ情報を、受信部23を介して取得し、取得したセンサ情報に対し増幅、整形などの所定の処理を行うものである。本実施形態では、上記センサ情報として、振動センサ12・13からの振動データと、運転状態検出センサ15から運転制御装置16を介しての運転状態データとを取得している。センサ情報取得部33は、取得し処理されたセンサ情報を、検査部34に送出する。
【0036】
検査部34は、センサ情報取得部33から受信するセンサ情報と、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して、対象回転体の検査を行うものである。検査部34は、検査結果を検査結果表示制御部35に送出する。検査結果表示制御部35は、検査部34からの検査結果を表示するように、表示部25を制御するものである。
【0037】
次に、検査部34の詳細について、図1および図5を参照して説明する。図1は、検査部34の概略構成を示している。図示のように、検査部34は、周波数フィルタ部41、対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、位相フィルタ部44、フレーム抽出部45、正規化部46、周期性強調部47、フレーム特徴量算出部48、および代表特徴量算出部49を備える構成である。
【0038】
図5は、上記構成の検査部34における検査工程の流れを示している。図示のように、上記検査工程では、センサ情報取得部33から取得した振動データに対し、周波数フィルタ部41が周波数フィルタ処理(ステップS11。以下、単に「S11」と記載することがある。他のステップについても同様である。)を実行し、位相フィルタ部44が位相フィルタ処理(S12)を実行し、フレーム抽出部45がフレーム抽出処理(S13)を実行し、周期性強調部47が周期性強調処理(S14)を実行し、フレーム特徴量算出部48がフレーム特徴量算出処理(S15)を実行し、代表特徴量算出部49が代表特徴量算出処理(S16)を実行することにより、良否の判定指標となる1つの代表的特徴量が算出される。
【0039】
周波数フィルタ部41は、振動センサ12・13が検出した振動データをセンサ情報取得部33から取得し、取得した振動データのうち、検査対象となる振動(以下「対象振動」と称する。)に固有の周波数帯域のものを通過させ、その他の帯域のものを遮断させるものである。これにより、検査対象以外の振動成分を振動データから或る程度除去することができる。周波数フィルタ部41は、処理した振動データを位相フィルタ部44に送出する。
【0040】
対象周期パルス生成部42は、対象回転体の1回転の周期に対応して発生するパルスである対象周期パルスを生成するものである。この対象周期パルスは、センサ情報取得部33が取得した運転状態データと、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して生成される。対象周期パルス生成部42は、生成した対象周期パルスを位相フィルタ用波形生成部43およびフレーム抽出部45に送出する。なお、対象周期パルス生成部42は、対象周期パルスを生成する代わりに、対象周期パルスの発生時刻を生成してもよい。
【0041】
位相フィルタ用波形生成部43は、対象回転体において基準位置から対象振動の発生位置までの位相を特定し、特定した位相を含む所定区間の振動データを通過させるための波形データを生成するものである。この波形データは、対象周期パルス生成部42が生成した対象周期パルスと、記憶部22が記憶する構造情報36および検査用パラメータ37とを利用して生成される。位相フィルタ用波形生成部43は、生成した位相フィルタ用波形データを位相フィルタ部44に送出する。
【0042】
位相フィルタ部44は、位相フィルタ用波形生成部43からの波形データを利用して、周波数フィルタ部41からの振動データのうち、上記所定区間のものを通過させるものである。これにより、検査対象以外の振動成分を振動データから確実に除去することができる。位相フィルタ部44は、処理した振動データを濾波データとしてフレーム抽出部45に送信する。
【0043】
フレーム抽出部45は、位相フィルタ部44からの濾波データに対し、対象回転体の回転に同期して、濾波データの部分集合であるフレームを切り出すものである。フレームは、対象周期パルス生成部42からの対象周期パルスと、記憶部22が記憶する検査用パラメータ37とを利用して切り出される。フレーム抽出部45は、切り出したフレームを正規化部46に送出する。
【0044】
正規化部46は、フレーム抽出部45からのフレームの濾波データを正規化するものである。正規化部46は、正規化したフレームを周期性強調部47に送出する。なお、上記正規化を省略することもできる。上記正規化の要否は検査用パラメータ37に含まれている。
【0045】
周期性強調部47は、正規化部46からのフレームの濾波データに対し、周期性を有する成分を強調するものである。周期性強調部47は、強調されたフレームをフレーム特徴量算出部48に送出する。なお、上記周期性成分の強調は、濾波データの特徴が顕著ではない場合に行われる。
【0046】
フレーム特徴量算出部48は、周期性強調部47からのフレームの濾波データに対し統計的処理を行うことにより、上記フレームの統計的な特徴量を算出するものである。フレーム特徴量算出部48は、算出した特徴量を代表特徴量算出部49に送出する。
【0047】
代表特徴量算出部49は、フレーム特徴量算出部48から受け取る全フレームに関して、フレームの特徴量の時間的推移を示す1つの値を代表特徴量として算出するものである。この代表特徴量の例としては、特徴量の最大値、最小値などが挙げられる。代表特徴量算出部49は、算出した代表特徴量を検査結果表示制御部35に送出する。
【0048】
次に、検査部34における対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、および位相フィルタ部44の詳細について、図6〜図22を参照して説明する。図6は、周波数フィルタ部41、対象周期パルス生成部42、位相フィルタ用波形生成部43、および位相フィルタ部44において利用される情報および生成される情報の概要を示している。また、図7は、図5に示される位相フィルタ処理(S12)において、対象周期パルス生成部42が実行する処理の流れを示している。そして、図8は、位相フィルタ処理(S12)において、位相フィルタ用波形生成部43および位相フィルタ部44が実行する処理の流れを示している。
【0049】
まず、図6に示されるように、センサ情報取得部33は、振動センサ12・13から取得した振動データに対し、増幅、整形などの所定の処理を施した上で、周波数フィルタ部41に送出している。また、センサ情報取得部33は、運転制御装置16から取得した運転状態データに対し、増幅、整形などの所定の処理を施した上で、対象周期パルス生成部42に送出している。
【0050】
対象周期パルス生成部42は、センサ情報取得部33から取得した運転状態データと、記憶部22が記憶する構造情報36に含まれる回転比率の情報およびセンサの歯の情報とを利用して、上述の対象周期パルスを生成している。具体的には、図7に示されるように、対象周期パルス生成部42は、基準周期パルスを生成する処理(S21)と、対象周期パルスを生成する処理(S22)と、対象周期パルスの発生時刻を算出する処理(S23)とを行っている。ここで、基準周期パルスは、基準回転体の1回転の周期に対応して発生するパルスである。
【0051】
まず、基準周期パルスを生成する処理(S21)について、図9および図10を参照して説明する。図9は、運転状態検出センサ15の構成要素であるセンサ素子の概要を示している。また、図10は2つのパルスの時間変化を示している。
【0052】
上記センサ素子は、基準回転体と共に回転するものであり、基準回転体の回転量を検知するために、周方向に1または複数の歯が設けられている。なお、複数の歯が設けられる場合、隣り合う歯どうしの間隔は、等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。また、等間隔で設けられた複数の歯のうち、一部の歯が省略された構成であってもよい。
【0053】
図9に示される例では、センサ素子61は、周方向に等間隔な12箇所のうち、11箇所に歯62が設けられている。このようなセンサ素子61は、例えば、自動車のエンジンにおいて、点火のタイミングなどをとるためにカムシャフトに設けられている。
【0054】
上記構成のセンサ素子61に対し、撮影したり、センサ素子61に光を照射し、その反射光を受光したり、センサ素子61に電圧を印加したりすることにより、運転制御装置16は、センサ素子61の歯62に対応して発生するパルスを取得できる。このパルスは、センサ素子61が高速で回転すると、パルス間隔およびパルス幅が短くなり、センサ素子61が低速で回転すると、パルス間隔およびパルス幅が長くなる。すなわち、上記パルスは、基準回転体の回転に対応して生成されるので、以下では「基準回転パルス」と称する。運転制御装置16は、上記基準回転パルスの時系列データ(以下「基準回転パルスデータ」と略称する。)を運転状態データとして検査装置14に送信している。
【0055】
検査装置14の対象周期パルス生成部42は、運転制御装置16から受信部23およびセンサ情報取得部33を介して取得する基準回転パルスデータを利用して、上記基準周期パルスを生成する。図10は、上記基準回転パルスの時間変化を上段に示し、上記基準周期パルスの時間変化を下段に示している。図示のように、基準回転パルスは、センサ素子61が1回転する間に、11個発生し、1個分空くことになる。
【0056】
従って、対象周期パルス生成部42は、まず、記憶部22の構造情報36からセンサ素子61の構造情報、すなわちセンサ素子61における歯62の設置数および空き数を取得する。次に、対象周期パルス生成部42は、取得した歯62の設置数および空き数に対応するパルスのパターンを基準回転パルスデータから探し出し、見つかったパターンにおける先頭の基準回転パルスの立ち上がり時刻に、パルスを発生させる。これにより、対象周期パルス生成部42は、図10の下段に示すような、基準回転体(センサ素子61)の1回転の周期に対応して発生するパルスである基準周期パルスを生成することができる。
【0057】
次に、図7に示される対象周期パルスを生成する処理(S22)と、対象周期パルスの発生時刻を算出する処理(S23)とについて説明する。通常、基準回転体が1回転する間に対象回転体が回転する回転数、すなわち回転比率は一定である。従って、対象回転体の単位時間当りの回転数は、基準回転体の単位時間当りの回転数に上記回転比率を乗算したものとなる。すなわち、対象周期パルスの単位時間当りの発生数は、基準周期パルスの単位時間当りの発生数に上記回転比率を乗算したものとなる。
【0058】
そこで、対象周期パルス生成部42は、まず、生成した基準周期パルスの現在の単位時間当りの発生数を算出する。次に、対象周期パルス生成部42は、算出した発生数に、記憶部22の構造情報36から取得した回転比率を乗算することにより、対象周期パルスの現在の単位時間当りの発生数を算出する。これにより、対象周期パルス生成部42は、算出した発生数に基づいて、対象周期パルスの時系列データq(t)(以下「対象周期パルスデータq(t)」と略称する。)を生成できると共に(S22)、i番目(iは自然数)の対象周期パルスの発生時刻qiを算出できる(S23)
図11は、上から順に、基準周期パルスの時間変化と、回転比率が0.5である場合の対象周期パルスの時間変化と、回転比率が1.5である場合の対象周期パルスの時間変化とを示している。同図を参照すると、基準周期パルスと回転比率とから対象周期パルスが生成できることが理解できる。
【0059】
図6に戻ると、位相フィルタ用波形生成部43は、対象周期パルス生成部42が生成した対象周期パルスの発生時刻qiと、記憶部22の構造情報36に含まれる位相のずれと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる位相フィルタ区間の幅と、重み関数の種類とを利用して、位相フィルタ用波形データを生成している。具体的には、図8に示されるように、位相フィルタ用波形生成部43は、不良要因の発生時刻を特定する処理(S24)と、位相フィルタ区間を設定する処理(S25)と、位相フィルタ用波形データを生成する処理(S26)とを行っている。なお、ここでの不良要因は、製品11に含まれる部品における不良要因のうち、特に周期的な衝撃成分が発生するものである。
【0060】
まず、不良要因の発生時刻を特定する処理(S24)と位相フィルタ区間を設定する処理(S25)とについて、図12および図13を参照して説明する。図12および図13は、対象回転体65の回転時において、対象周期パルスが発生するタイミングqiと、検査対象となるj番目(jは自然数)の不良要因の衝撃成分が発生するタイミングq’i,jと、j番目の不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間ljとを示している。
【0061】
図12および図13に示されるように、対象周期パルスが発生してから、対象回転体65が所定角度回転すると、不良要因の衝撃成分が発生している。すなわち、対象周期パルスが発生するタイミングqiと、不良要因の衝撃成分が発生するタイミングq’i,jとの間には、位相のずれdj(単位は度)が存在している。従って、位相フィルタ用波形生成部43は、対象周期パルスの発生時刻qiと不良要因の位相のずれdjとを用いて、不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,jを次式で求めることができる。
【0062】
【数1】
【0063】
ここで、Tiは対象周期パルスの現在の発生周期である。なお、この位相のずれdjは、不良要因によって決まる数値である。また、上記位相のずれdjは、対象回転体65の回転周期に比例し、すなわち対象周期パルスの発生周期に比例することになる。
【0064】
また、図12および図13に示されるように、不良要因の衝撃成分が発生する区間ljは、有限であり、かつ、不良要因ごとに決まる。そこで、位相フィルタ用波形生成部43は、上記区間ljを位相フィルタ区間として次式のように設定する。
【0065】
【数2】
【0066】
次に、位相フィルタ用波形データを生成する処理(S26)について、図14および図15を参照して説明する。位相フィルタ用波形生成部43は、設定した位相フィルタ区間ljと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる重み関数とを用いて、位相フィルタ用波形データを生成する。
【0067】
上記重み関数は、位相フィルタ区間ljにて計測される波形を強調するために振動データに施されるマスク関数である。検査装置14には、複数の重み関数が記憶されており、検査員17によって選択された重み関数が、記憶部22の検査用パラメータ37に記憶されることになる。
【0068】
図14(a)〜(c)は、上記重み関数w(τ,a)の一例を示している。同図(a)〜(c)は、それぞれ矩形、三角形、およびガウス関数の重み関数w(τ,a)を示している。各重み関数w(τ,a)は次式で表される。
【0069】
【数3】
【0070】
従って、或る不良要因の衝撃成分を強調するための位相フィルタ用波形データgj(t)は、次式で表される。
【0071】
【数4】
【0072】
そして、位相フィルタ用波形生成部43は、各不良要因に関する位相フィルタ用波形データgj(t)を用いて、全体の位相フィルタ用波形データg(t)を作成する。図15は、上から順に、2つの不良要因に関する位相フィルタ用波形データg1(t)、g2(t)と、全体の位相フィルタ用波形データg(t)との一例をそれぞれ示している。図示の例では、重み関数として三角形が利用されている。
【0073】
図15に示されるように、位相フィルタ用波形データg(t)は、各不良要因に関する位相フィルタ用波形データgj(t)に関して、或る時刻tの最大値を算出し、これを他の時刻tについても繰り返すことにより生成される。図示の例では、全体の位相フィルタ用波形データg(t)は、第1の不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,1と、第2の不良要因の衝撃成分が発生する時刻q’i,2との中間の時刻以前は、第1の不良要因に関する位相フィルタ用波形データg1(t)が選択され、該時刻以降は、第2の不良要因に関する位相フィルタ用波形データg2(t)が選択されたものとなっている。
【0074】
図6に戻ると、位相フィルタ部44は、位相フィルタ用波形生成部43からの位相フィルタ用波形データg(t)を利用して、周波数フィルタ部41からの振動データx(t)のうち、位相フィルタ区間のものを通過させることにより、濾波データy(t)を生成する。具体的には、次式に従って、濾波データy(t)を算出する。
y(t)=g(t)×x(t)。
【0075】
図16は、上記位相フィルタ用波形データg(t)、振動データx(t)、および濾波データy(t)の時間変化の一例をそれぞれ示すグラフである。図示の例では、重み関数として矩形が利用されている。振動データx(t)のグラフのうち破線は、周波数フィルタ部41に入力される振動データを示しており、実線は、周波数フィルタ部41から出力される振動データを示している。同図を参照すると、不良要因が発生する区間に関する振動のみが残り、その他の区間の振動がほぼゼロとなっていることが理解できる。
【0076】
次に、検査部34におけるフレーム抽出部45および正規化部46の詳細について、図17〜図22を参照して説明する。図17は、フレーム抽出部45および正規化部46において利用される情報および生成される情報の概要を示している。また、図18は、図5に示されるフレーム抽出処理(S13)において、フレーム抽出部45が実行する処理の流れを示している。
【0077】
まず、図17に示されるように、フレーム抽出部45は、位相フィルタ部44から取得した濾波データと、対象周期パルス生成部42から取得した対象周期パルスデータと、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる1フレーム当りのパルス数およびフレームシフト量とを利用して、上述のフレームを切り出すものである。また、正規化部46は、記憶部22の検査用パラメータ37に含まれる正規化の要否に基づいて、フレーム抽出部45が抽出したフレームの正規化を行うものである。具体的には、図18に示されるように、フレーム抽出部45は、フレーム数を求める処理(S31)と、フレーム切り出し処理(S33)、正規化判断処理(S34)、および正規化処理(S35)を上記フレーム数だけ繰り返す処理(S32)とを行っている。
【0078】
ここで、フレームシフト量は、隣り合うフレーム同士のずれの量であり、本実施形態では、対象周期パルスの数で設定されている。図19は、或る測定波形と、該測定波形から切り出した、隣り合うフレームとの一例を示している。なお、測定波形のグラフには、対象周期パルスが棒線で示されている。図示の例では、13個の対象周期パルス(対象回転体の13回転に相当)分の測定波形が1フレームとして切り出されている。また、フレームシフト量は、2個の対象周期パルス分である。
【0079】
まず、フレーム数を求める処理(S31)について説明する。この処理は、濾波データ全体から取得可能なフレーム数を求める処理である。フレーム数Nfは次式によって求められる。
【0080】
【数5】
【0081】
ここで、Nqは、対象周期パルスのパルス数であり、nは、1フレーム当りの対象周期パルスの数であり、mは、フレームシフト量である。また、floor関数は、小数点以下を切り捨てるものである。
【0082】
次に、フレーム切り出し処理(S33)について説明する。まず、1フレーム当りの対象周期パルスの数と、フレームシフト量とから、k番目(kは1〜Nfの自然数)のフレームの開始時刻q(k−1)m+1と終了時刻q(k−1)m+n+1とを算出する。そして、算出した開始時刻および終了時刻に基づいて、濾波データからk番目のフレームを切り出す。すなわち、k番目のフレームのデータxk(tk)は、濾波データx(t)から次式によって切り出される。
xk(tk)=x(tk+q(k−1)m+1)
なお、計測開始時刻から最初のフレームq1までの濾波データと、最後のフレームq(Nf−1)m+n+1から計測終了時刻までの濾波データとは無視される。
【0083】
次に、正規化判断処理(S34)および正規化処理(S35)について説明する。正規化部46は、検査用パラメータ37に含まれる正規化の要否の設定情報に基づいて、正規化が必要であるか否かを判断する。正規化が必要である場合、正規化部46は、正規化処理を行う。この正規化処理には、種々の統計的手法を利用できるが、本実施形態では、標準偏差による除算を行っている。すなわち、正規化部46は、k番目のフレームに対して、次式を適用する。
【0084】
【数6】
【0085】
ここで、Pkは、次式の通りである。
【0086】
【数7】
【0087】
図20〜図21は、フレーム切り出し処理(S33)および正規化処理(S35)を説明するためのものである。図20は、振動データと、基準回転体の回転数の時間変化とを、上段および下段に同期して示している。同図を参照すると、回転数の上昇により、振動データの周波数が増加していることが理解できる。
【0088】
図21(a)・(b)は、図20の振動データから切り出されたフレームF1・F2をそれぞれ示している。図20(a)・(b)を比較すると、振幅の大きさや、フレームの時間幅が大きく異なるが、波形が類似していることが理解できる。
【0089】
図22(a)・(b)は、図21(a)・(b)のフレームに対し、上記正規化処理を行ったものである。図22(a)・(b)を比較すると、度数分布が類似していることが理解できる。
【0090】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
最後に、検査装置14の各ブロック、特に制御部21は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0092】
すなわち、検査装置14は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである検査装置14の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記検査装置14に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0093】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0094】
また、検査装置14を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る検査装置は、検査対象の装置の稼働条件が変化しても、同じ判定基準で検査できるので、例えば、プリンタ、コピー機、モータ、タービンなど、回転体を有する任意の装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態である検査システムにおける検査装置の検査部の概略構成を示すブロック図である。
【図2】上記検査システムの概要図である。
【図3】上記検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、上記検査装置が補正した振動の特徴量の時間変化とを概念的に示すグラフである。
【図4】上記検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】上記検査部における検査工程の流れを示すフローチャートである。
【図6】上記検査部の周波数フィルタ部、対象周期パルス生成部、位相フィルタ用波形生成部、および位相フィルタ部において利用される情報および生成される情報の概要を示すブロック図である。
【図7】上記検査工程の位相フィルタ処理において、上記対象周期パルス生成部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】上記検査工程の位相フィルタ処理において、上記位相フィルタ用波形生成部および上記位相フィルタ部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】上記検査システムにおける運転状態検出センサの構成要素であるセンサ素子の概要図である。
【図10】基準回転パルスの時間変化と、基準周期パルスの時間変化とを示すグラフである。
【図11】基準周期パルスの時間変化と、回転比率が0.5である場合の対象周期パルスの時間変化と、回転比率が1.5である場合の対象周期パルスの時間変化とを示すグラフである。
【図12】対象回転体の概要図であり、対象回転体の回転時において、対象周期パルスが発生するタイミングと、不良要因の衝撃成分が発生するタイミングと、該不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間とを示す図である。
【図13】上記対象周期パルスが発生する時刻と、上記不良要因の衝撃成分が発生する時刻と、該不良要因の衝撃成分が発生する可能性の高い区間とを示すグラフである。
【図14】同図(a)〜(c)は、それぞれ矩形、三角形、およびガウス関数の重み関数を示すグラフである。
【図15】2つの不良要因に関する位相フィルタ用波形データの一例と、全体の位相フィルタ用波形データの一例とを示すグラフである。
【図16】位相フィルタ用波形データ、振動データ、および濾波データの時間変化の一例をそれぞれ示すグラフである。
【図17】上記検査部のフレーム抽出部および正規化部において利用される情報および生成される情報の概要を示すブロック図である。
【図18】上記検査工程のフレーム抽出処理において、フレーム抽出部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】或る測定波形と、該測定波形から切り出した、隣り合うフレームとの一例を示すグラフである。
【図20】振動データと基準回転体の回転数の時間変化とを同期させて示すグラフである。
【図21】同図(a)・(b)は、上記振動データから切り出されたフレームをそれぞれ示すグラフである。
【図22】同図(a)・(b)は、上記フレームのそれぞれに対し正規化処理を行ったものを示すグラフである。
【図23】従来の検査システムにおいて、製品の運転状態を示す回転数の時間変化と、上記検査装置が検査する振動の特徴量の時間変化とを概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
14 検査装置
33 センサ情報取得部(振動信号取得手段、基準回転パルス取得手段)
42 対象周期パルス生成部(対象周期パルス取得手段)
43 位相フィルタ用波形生成部(位相範囲取得手段)
44 位相フィルタ部(フィルタ手段)
45 フレーム抽出部(抽出手段)
46 正規化部(正規化手段)
49 代表特徴量算出部(検査手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の検査を行う検査装置であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記フレームの正規化を行う正規化手段をさらに備えており、
上記検査手段は、正規化した複数の上記フレームを用いて上記検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
上記対象装置は、複数の回転体を備えており、
上記複数の回転体のうち、基準となる回転体の回転に対応して生成される基準回転パルスを取得する基準回転パルス取得手段をさらに備えており、
上記対象周期パルス取得手段は、基準となる回転体と検査対象となる回転体との回転比率を利用して、上記基準回転パルスから上記対象周期パルスを生成することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
回転体の検査を行う検査装置であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、
該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項6】
回転体の検査を行う検査装置を動作させるための検査装置制御プログラムであって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段としてコンピュータを機能させるための検査装置制御プログラム。
【請求項7】
回転体の検査を行う検査装置を動作させるための検査装置制御プログラムであって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、上記基準位置から所定位相を中心とする区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、
該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段としてコンピュータを機能させるための検査装置制御プログラム。
【請求項8】
回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出ステップと、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴とする検査装置の制御方法。
【請求項9】
回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得ステップと、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタステップと、
該フィルタステップにより通過された振動信号を用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴とする検査装置の制御方法。
【請求項1】
回転体の検査を行う検査装置であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記フレームの正規化を行う正規化手段をさらに備えており、
上記検査手段は、正規化した複数の上記フレームを用いて上記検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
上記対象装置は、複数の回転体を備えており、
上記複数の回転体のうち、基準となる回転体の回転に対応して生成される基準回転パルスを取得する基準回転パルス取得手段をさらに備えており、
上記対象周期パルス取得手段は、基準となる回転体と検査対象となる回転体との回転比率を利用して、上記基準回転パルスから上記対象周期パルスを生成することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
回転体の検査を行う検査装置であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得手段と、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、
該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項6】
回転体の検査を行う検査装置を動作させるための検査装置制御プログラムであって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出手段と、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査手段としてコンピュータを機能させるための検査装置制御プログラム。
【請求項7】
回転体の検査を行う検査装置を動作させるための検査装置制御プログラムであって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得手段と、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得手段と、
上記振動信号のうち、上記基準位置から所定位相を中心とする区間の振動信号のみを通過させるフィルタ手段と、
該フィルタ手段が通過させた振動信号を用いて上記検査を行う検査手段としてコンピュータを機能させるための検査装置制御プログラム。
【請求項8】
回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、
上記振動信号のうち、所定数の上記対象周期パルスを取得する期間の振動信号をフレームとして抽出する抽出ステップと、
複数の上記フレームを用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴とする検査装置の制御方法。
【請求項9】
回転体の検査を行う検査装置の制御方法であって、
検査対象の上記回転体を含む対象装置からの振動信号を取得する振動信号取得ステップと、
上記回転体の基準位置が1回転するごとに生成される対象周期パルスを取得する対象周期パルス取得ステップと、
上記回転体において検査対象となる振動が発生する位置とその周辺を、上記基準位置からの位相で示した位相範囲を取得する位相範囲取得ステップと、
上記振動信号のうち、上記対象周期パルスの周期において上記位相範囲に対応する区間の振動信号のみを通過させるフィルタステップと、
該フィルタステップにより通過された振動信号を用いて上記検査を行う検査ステップとを含むことを特徴とする検査装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−170400(P2008−170400A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6397(P2007−6397)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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