説明

検査装置および検査方法

【課題】シリンジのような製品におけるシリコンなど透明微粒子体の塗布状態を、素早く簡単に、しかも精度よく検査することのできる検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】透過光21を照明する照明部20と、透光部26と遮光部27とが交互に穿設されてなり、製品11に対して、明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成するスリット板25と、透過光21aを受光して、製品11を撮影する撮影部30と、撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する画像処理部36と、
濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と上記明部または上記暗部との階調差により、上記微粒子の境界を明暗の変化点として検出する検出部37と、上記変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する判定部38と、を備えて検査装置10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および検査方法に関し、より詳しくは、シリンジのような製品において、シリコンなど透明微粒子体の塗布状態を検査する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンジのような製品を検査するものとして、製品を撮影するカメラと、このカメラによる画像を2値化する2値化回路と、この2値化回路により2値化された画像に基づいて当該製品の良否を判定する判定手段を備えた検査装置が知られている。
【0003】
上記検査装置では、2値化された画像における黒又は白の画素数をカウントして、その総画素数が所定範囲以内となっていないときに当該製品が不良であると判定する。製品にゴミや傷があれば黒の画素数が増え、その分、白の画素数が減るため、それによって製品の良否を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−183401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シリンジは近年、プレフィルドシリンジとして用いられることが増えている。プレフィルドシリンジは、シリンジ内に薬剤を充填し、ガスケットが連結された押し子を挿入して密封形成される。プレフィルドシリンジでは、押し子をスムーズに操作して薬剤投与できるように、シリンジ胴体部の内壁面に、潤滑剤としてのシリコンが塗布されている。
【0006】
このようなシリンジおよびシリコンは何れも透明であり、塗布できるシリコンも微量であるため、シリンジにシリコンが塗布されているか否かを目視で検査することは非常に困難である。現在、シリンジを製作するメーカーなどでは、シリコンを塗布するノズルの先端を介して、シリコン塗布の有無を感知するようにしているが、検査精度として十分なものが得られていない。また、シリコンを塗布する際、とりわけシリコンの粘度が高いような場合には、塗布量にばらつきが生じることがある。
【0007】
一方で、従来の上記検査装置によれば、シリンジにおけるゴミや傷などの有無を検査することはできるものの、2値化した画像においてシリコンは現れ得ないため、シリンジにシリコンが塗布されているか否か、あるいは塗布量が適切か否か、といったシリコンの塗布状態を検査することは難しかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリンジのような製品におけるシリコンなど透明微粒子体の塗布状態を、素早く簡単に、しかも精度よく検査することのできる検査装置および検査方法を提供することにある。本発明の他の目的は、以下の説明により明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の検査装置は、製品における透明微粒子体の塗布状態を検査する検査装置であって、透過光を照明する照明部と、透光部と遮光部とが交互に穿設されてなり、製品と該照明部との間に配置され、該製品に対して、明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成するスリット板と、該製品を透過した該透過光を受光して、該製品を撮影する撮影部と、該撮影部により撮影された撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する画像処理部と、該濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と該明部または該暗部との階調差により、該微粒子の境界を明暗の変化点として検出する検出部と、該変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する判定部と、を備えている。
【0010】
本発明の検査装置の好ましい例では、該検出部が、該明暗縞に平行する走査方向に沿って、該変化点を検出するようになされている。
【0011】
本発明の検査装置のさらに好ましい例では、該検出部が、該微粒子の該走査方向に沿う両側縁で該変化点を検出することにより、各微粒子につき2個ずつの該変化点を検出するようになされている。
【0012】
本発明の検査装置のさらに好ましい例では、該検査領域が、複数の検査ブロックからなり、該検出部が、各検査ブロックごとに該変化点を検出するとともに、該判定部が、検出された該変化点の個数を合算した合計値と、所定の判定基準とを比較することにより、該透明微粒子体の塗布状態を判定するようになされている。
【0013】
本発明の検査装置のさらに好ましい例では、該製品がシリンジであって、該シリンジの内壁面におけるシリコンの塗布状態を検査するものである。
【0014】
また、本発明の検査方法は、製品における透明微粒子体の塗布状態を検査する検査方法であって、透過光を照明して、製品に対して明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成する工程と、該製品を透過した該透過光を受光して、該製品を撮影する工程と、撮影された撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する工程と、該濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と該明部または該暗部との階調差により、該微粒子の境界を明暗の変化点として検出する工程と、該変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記のとおり、透過光を照明する照明部と、透光部と遮光部とが交互に穿設されてなり、製品と該照明部との間に配置され、該製品に対して、明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成するスリット板と、該製品を透過した該透過光を受光して、該製品を撮影する撮影部と、該撮影部により撮影された撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する画像処理部と、該濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と該明部または該暗部との階調差により、該微粒子の境界を明暗の変化点として検出する検出部と、該変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する判定部と、を備えて検査装置を構成したため、シリンジのような製品におけるシリコンなど透明微粒子体の塗布状態を、素早く簡単に、しかも精度よく検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る検査装置を示す全体構成図である。
【図2】実施形態に係る濃淡画像を示す説明図である。
【図3】スリット板を用いない場合の濃淡画像の例を示す図である。
【図4】スリット板を用いた場合の濃淡画像の例を示す図である。
【図5】実施形態に係る検査手順を示す説明図である。
【図6】実施形態に係る検査手順を示す説明図である。
【図7】実施形態に係る検査システムを示す概略平面図である。
【図8】実施例(サンプルA)に係る濃淡画像を示す図である。
【図9】実施例(サンプルA)に係る検査画像を示す図である。
【図10】実施例(サンプルB)に係る濃淡画像を示す図である。
【図11】実施例(サンプルB)に係る検査画像を示す図である。
【図12】実施例の検査領域および検査ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、実施形態に係る検査装置10を示す全体構成図である。
【0018】
検査装置10は、製品としてのシリンジにおけるシリコンの塗布状態を検査するものであり、図1に示すように、シリンジ11を挟んで一方側に照明部20を、他方側に撮影部30をそれぞれ配設して構成されている。
シリンジ11は、容積5〜10ミリリットル程度の透明なプラスチックまたはガラス製で、円筒状の胴体部12の上下に、フランジ部13と、先端部15に向けて漸次縮径する縮径部14とがそれぞれ連成された公知の構造を有している。この胴体部12の内壁面16に潤滑剤たるシリコンが塗布される。シリンジ11は、先端部15を下方にし、図示しない把持手段を介して鉛直状態に適宜把持されている。
【0019】
シリコンは、所定基準(例えば薬機第327号「注射針及び注射筒等に潤滑剤として用いるシリコン油の基準について(平成7年12月20日厚生省薬務局医療機器開発課長通知)」)を満たすものであるが、オイルシリコンまたはエマルジョンシリコンが、シリンジ11の材質や充填される薬剤との適合性などに応じて適宜選択して用いられる。
【0020】
照明部20は、図1に示すように、透過光21を略水平に照明する。照明部20は、多数のLED光源(図示せず)が縦横碁盤目状に密に植設されるとともに、アクリル板23で被装された薄箱状をなし、少なくともシリンジ胴体部12よりも一回り大きい鉛直の投光面を有している。アクリル板23は、上記LED光源による透過光21を適度に拡散させる働きをなしている。LEDは、長寿命で明るさの均一性を保ち易く、しかも照明部20をコンパクトに構成できる点から、好ましい光源である。
【0021】
シリンジ11と照明部20との間には、図1に示すように、複数の透光部26と遮光部27とが交互に穿設されてなるスリット板25が、照明部20の上記投光面と平行状態で配置されている。これにより、スリット板25は、シリンジ11に対して、明部41と暗部42とが交互に繰り返される所定の明暗縞40をシリンジ11の軸方向に沿って形成する(図2参照)。
【0022】
この実施形態では、スリット板25のピッチを、W=2(mm)、W=2(mm)の寸法で形成しているが(図1)、W、Wの好ましい範囲は、シリンジ胴体部12の径をおおむね5〜20(mm)とすると、1〜5(mm)であり、より好ましくは、W=Wとするのがよい。
また、スリット板25の厚みDは、上記W、Wの寸法や、照明部20とスリット板25との間隔などを勘案して適宜設定することができる。この実施形態では、D=2(mm)の寸法で形成している。
【0023】
スリット板25は、シリンジ11の搬送態様によるスペース的な制限などに応じ、適当な位置に配設してよい。スリット板25を、照明部20のアクリル板23表面に固着することもできる。また、照明部20やスリット板25を、水平移動可能な構成とすれば、検査するシリンジ11の種類(胴体部12の径)などにより、これらを都度最適な位置に調整して配設することが容易となる。
【0024】
撮影部30は、図1に示すように、照明部20から照明されシリンジ11を透過する透過光21aを反対側から受光して、シリンジ11を撮影する。この実施形態では、撮影部30は倍速ランダムカメラ(4倍速)からなり、シリンジ胴体部12の略全体的な投影像を、約16(ミリ秒)で撮影して画像取り込みできる。
撮影部30は、透過光21aを正面から受光できる位置に配設されるのが最適であるが、1台に限らず、複数台を設けるようにしても構わない。
【0025】
撮影部30には、図1に示すように、所定の検査部35が接続されている。検査部35は、画像処理部36と、検出部37と、判定部38と、を主として備える。画像処理部36は、撮影部30により撮影された撮影画像に画像処理を施して濃淡画像を形成し、この濃淡画像を用いて、検出部37が、所定の検出処理を施す。そして、検出処理の結果に基づき、判定部38が、シリンジ11におけるシリコンの塗布状態を判定するものである。
【0026】
なお、図示しないが、検査部35は、メモリなどの記憶手段、CPUなどの演算処理手段、所定のプログラム、インターフェース、電源ポートなど必要なハードウェアおよびソフトウェアを備えており、さらに検査部35には、モニタ、ディスプレイなどの表示手段、キーパッド、タッチパネル、ジョイスティックなどの入力手段その他の周辺機器が適宜接続されるようになっている。
【0027】
上記の如く構成される検査装置10を用いた具体的な検査手順について説明する。まず、撮影部30によって、所定状態にセットされたシリンジ11を撮影し、撮影画像を得る。
【0028】
上記撮影画像はデジタルデータ化され、画像処理部36によって、濃淡画像を形成するための所定の画像処理が施される。この画像処理の手法自体は、公知の技術が用いられる。つまり、多数の画素の集合に標本化された画像データにおいて、各画素を、例えば0〜255の256階調の濃淡レベルに量子化し、多階調で表現されたグレースケールの濃淡画像(多値画像)を形成する。
【0029】
このとき、濃淡画像中のシリンジ11では、上記した照明部20およびスリット板25によって、図2に示すように、ハイライト近傍の白色をなす明部41とシャドウ近傍の黒色をなす暗部42とが交互に繰り返される明暗縞40が形成されているが、さらに、シリコンの各微粒子45が中間調のグレーの陰影として現れることとなる。
【0030】
図3は、シリコンを塗布したシリンジ11に対して、スリット板を用いないで形成した濃淡画像の例であり、一方で図4は、同じシリンジ11に対して、上記の如くスリット板を用いて形成した濃淡画像の例を示している。これらの図から明らかなように、本来、粒子周囲に透過光21aがまわり込み濃淡画像には現れ得ない透明なシリコンを、一定のスリット板を介することで、上記所定の陰影をもってくっきりと浮かび上がらせることができるのである。
【0031】
これは、スリット板25の透光部26と遮光部27との作用により、明部41に位置することになるシリコンの微粒子45は、その両サイドの遮光部27の影響で黒みを帯び、逆に暗部42に位置することになるシリコンの微粒子45は、その両サイドの透光部26の影響で白みを帯びて現れることによるものと考えられる(図2参照)。
【0032】
上記濃淡画像を形成した後には、位置補正を施しておくことが好ましい。シリンジ11の胴体部12の輪郭部分やフランジ部13は、透過光21aを通し難く、黒い輪郭線状に現れるため、これに基づいてシリンジ11を基準位置にくるように位置補正することができる。特に搬送途中のシリンジ11を断続撮影して検査する場合には、各画像ごとにシリンジ11の位置が異なり得るが、このような位置補正によって以下の検出処理をよりおこない易くできる。
【0033】
検出部37による検出処理は、図5に示すように、上記濃淡画像中に、一定の検査領域50を設けておこなわれる。この検査領域50の設け方は任意であり、シリンジ11の全体または一部の何れに設けてもよい。また、検査領域50を複数の検査ブロックに分けることもできる。複数の検査ブロックに分け、これを総合することで、より検査精度を向上させることができる。
シリンジ11にあっては、胴体部12の先端部15側のシリコン塗布状態の確認が特に重要となってくるため、少なくともこの近辺に検査領域50を設けるのがよい。
【0034】
検出処理は、上記検査領域50内で、上記中間調にて現れるシリコンの各微粒子45と、その背景(明部41または暗部42)との階調差により、各微粒子45の境界を明暗の変化点として検出することによりおこなわれる。
シリコンが塗布されているシリンジ11の場合について、図5を用いて、より具体的に説明すると、濃淡画像中の適宜位置に矩形状の検査領域50を設定し、前処理として、所定のエッジ検出により、各微粒子45の境界(エッジ)を検出する。エッジ検出では、検査領域50内で各画素の明暗階調を順次抽出し、画素間の明暗階調の変化量を計算するとともに、この変化量とあらかじめ設定された所定のしきい値とを比較して、当該変化量が所定のしきい値以上であれば、エッジとして検出する。例えば、設定しきい値が「30」であれば、上記明暗階調が30以上減少するところは「明から暗へ」のエッジとして検出し、逆に上記明暗階調が30以上増加するところは「暗から明へ」のエッジとして検出する。上記変化量の計算に際しては、差分処理などの手法が適宜用いられる。
このエッジ検出は、明暗縞40に平行する走査方向Aに沿っておこなわれるが、シリコンの各微粒子45が、上記中間調のグレーの陰影として出現しているため、明部41または暗部42との階調差により、それらの境界を簡単に精度よくエッジ検出できる。上記走査方向Aに沿ってエッジ検出をおこなうことで、複雑な処理を要することなく、各微粒子45の境界のみを検出し易くなる。
【0035】
そして、上記エッジ検出に基づき、明暗の変化点を検出する。図5中、51は走査方向Aに沿って明暗の変化点を探査するエッジチェッカである。この実施形態では、各微粒子45のエッジ検出された上記境界における走査方向Aに沿う両側縁を、それぞれ明暗の変化点として検出するように設定してあり、図5の例は、検査領域50内で、計6個の変化点が検出され得ることを示している。このような実施態様によれば、各微粒子45につき一定数(2個)ずつの変化点が検出されるため、微粒子45の点在状態をより正確に反映させ易いものとできる。
シリコンが塗布されたシリンジ11の場合、上記説明したようにして明暗の変化点が多数検出されることとなる。
【0036】
一方、図6に示すように、シリコンを塗布されていないシリンジ11’の場合には、濃淡画像中にシリコンがグレーの陰影として出現することはないため、理論的には明暗の変化点は検出されない。
【0037】
なお、各微粒子45の境界として検出され得る画素サイズを設定できるような構成とするのが好ましい。例えば、画素サイズを「走査方向Aに5画素」というように設定する。すると、走査方向Aに平行する画素の並びが「0、0、0、0、0、50、60、30、70、70、0、0、0、0、0」(数値は各画素の階調を示す;しきい値は30)というような場合には、5番目の「0」と6番目の「50」との間、10番目の「70」と11番目の「0」との間で、それぞれ「暗から明へ」と「明から暗へ」の境界が検出され、「0、0、0、0、0、50、60、0、0、0、0、0」(同上)というような場合には、5番目の「0」と6番目の「50」との間、7番目の「60」と8番目の「0」との間で、境界が検出されないようにできる。
これによれば、シリンジ11に付着する微細な凹凸や傷など、シリコンの微粒子45以外のノイズを効果的に排除することが可能となる。上記画素サイズは、シリコンの各微粒子45の粒子径などを考慮して設定するのがよい。
【0038】
そして、判定部38により、上記検出された変化点の個数がカウントされ、これに基づき、シリンジ11におけるシリコンの塗布状態の判定処理がおこなわれる。検査部35の記憶手段には、あらかじめ検査ごとにそれぞれの正常な判定基準(上限値、下限値、あるいは一定の数値範囲)が記憶されており、判定部38が、この判定基準と上記カウントした変化点の個数とを比較して、シリンジ11の良否などの判定をおこなうのである。
【0039】
このように検査装置10によれば、本来、濃淡画像中には現れ得ないシリコンの微粒子45を、中間調のグレーの陰影としてくっきりと浮かび上がらせ、背景との階調差により、微粒子45の境界を明暗の変化点として検出することができる。そのため、当該変化点の個数に基づき、シリンジ11にシリコンが塗布されているか否か、あるいは塗布量が適切か否か、といったシリコンの塗布状態を、簡単に精度よく検査することが可能となる。
【0040】
上記検査装置10によれば、撮影部30による撮影から検査部35による判定まで、1本のシリンジ11あたり約50(ミリ秒)程度で検査を完了することができる。
【0041】
上記した如くの検査装置10を用いて構成した検査システムの一例について、さらに図7を参照して説明する。図7は、実施形態に係る検査システム60を示す概略平面図である。
【0042】
検査システム60は、図7に示すように、スターホイール61、63と、回転テーブル62と、検査装置10と、を備えている。シリンジ11は、先端部15を下方に向けた状態で、コンベヤ65を一列に搬送されており、スターホイール61を介して、スターホイール61と同期して回転する回転テーブル62に搬入される。搬入されたシリンジ11は、回転テーブル62の回転に伴って移動している間に、シリコン塗布機67によって、内壁面16にシリコンが塗布される。
【0043】
回転テーブル62の外周には、各シリンジ11の胴体部12を着脱自在に挟持する挟持片70が等間隔に形成されており、さらに4個の挟持片70が1組となってアーム71に連結されている。各アーム71は、上下反転手段72を備えており、スターホイール61から搬入されたシリンジ11が、適時反転されて先端部15を上方に向けた状態で、シリコン塗布機67のノズル68が、このシリンジ11の下方(フランジ13側)から臨んでシリコンを噴霧する。ノズル68からは均一にシリコンが噴霧され、部分的不良を減少させるようになされている。シリコンを噴霧されたシリンジ11は、さらに適時反転されて先端部15を下方に向けた状態で、回転テーブル62と同期して回転するスターホイール63を介して搬出される。
【0044】
検査装置10の照明部20およびスリット板25は、スターホイール63の下方において、適宜の方向を向けて固設されており、撮影部30が、スターホイール63の外方に配設されている。スターホイール63の凹部64に、シリンジ11のフランジ部13が掛止されることで、シリンジ11が鉛直に懸吊された状態となされ、シリンジ11が、照明部20およびスリット板25と、撮影部30との間を通過する際に、撮影部30がこれを間欠的に撮影して、上記説明した如くシリンジ11におけるシリコンの塗布状態を検査できる。
【0045】
検査装置10を通過したシリンジ11は、直後に、検査装置10から出力される良否の判定信号と連携する振り分け手段を介して、良品と判定された場合にはコンベヤ74で次工程(薬剤の充填・閉塞)へと送出され、不良品と判定された場合にはコンベヤ75で排出される。
このような検査システム60によれば、1分間当たり200本以上のシリンジ11を処理することが可能である。
【0046】
検査装置10を、シリコン塗布機67の近くに配設すると、飛散したシリコンの影響で、適正な検査がおこなえなくなるおそれがある。一方で、シリコンが塗布されてから長時間が経過すると、検査装置10によりシリコンの各微粒子45の境界を正確に検出し難くなる。上記検査システム60であれば、シリコンを塗布されたシリンジ11を、好適な位置とタイミングで検査することが可能となる。
【実施例】
【0047】
既存の5ミリリットル用プラスチック製シリンジを用意し、内壁面にシリコン(ダウコーニング社製360 Medical Fluid)を適量(約6g)塗布したものを、サンプルAとして、上記検査装置10による検査実験をおこなった。
また、同一のプラスチック製シリンジを用意し、シリコンを塗布していないものを、サンプルBとして、上記検査装置10による検査実験をおこなった。
【0048】
図8は、サンプルAの濃淡画像を示し、図9は、同濃淡画像に検出処理を施して得られた検査画像を示している。
また、図10は、サンプルBの濃淡画像を示し、図11は、同濃淡画像に検出処理を施して得られた検査画像を示している。
【0049】
なお、本検査実験では、図12に示すように、検査領域50’を設定し、さらに検査領域50’を1〜8の8つの検査ブロックに分けて、明暗の変化点を検出した。
【0050】
サンプルAにおける、各検査ブロックごとの明暗の変化点の検出個数は、以下のとおりであった。
(1)27(2)23(3)21(4)14(5)11(6)16(7)24(8)20;(1〜8の合計値)156
【0051】
一方、サンプルBにおける、各検査ブロックごとの明暗の変化点の検出個数は、以下のとおりであった。
(1)5(2)5(3)3(4)1(5)3(6)1(7)2(8)6、(1〜8の合計値)26
【0052】
この結果から明らかなように、サンプルAでは、サンプルBに比べて、著しく多数の変化点が検出された。サンプルBで、明暗の変化点が少数ながら検出されているのは、シリンジの微細な凹凸や傷などによるものであると考えられる。
【0053】
本検査実験では、シリンジの良否を判定する判定基準として、「変化点の検出数の合計値50」とあらかじめ設定してあり、合計値156であるサンプルAは良品、合計値26であるサンプルBは不良品として検査装置10が判定した。さらにこれらのサンプルA、B以外にも複数のサンプルを作製して検査実験を繰り返したが、シリコン塗布の有無に対応して、同様の結果が得られた。
【0054】
このように適当な判定基準を設定しておくことで、シリンジにおけるシリコン塗布の有無(シリコンが塗布されているか否か、あるいは塗布量が足りているか否か)を簡易かつ正確に検査可能であることが理解される。判定基準は、例えば、シリコンが適切に塗布されているシリンジ数本をあらかじめ抜き取り調査し、それらの変化点の検出数を実際に計測することで得られる。
【0055】
さらに、上記のようなシリコン塗布の有無といった定性的な検査だけでなく、判定基準を適宜変更することにより、如何なる量のシリコンが塗布されているかといった定量的な検査に適用することも可能である。
また、検査データをもとに、例えば、縦軸を変化点の検出数(合計値)、横軸をシリコンの塗布量とする検量線を最小二乗法などを用いて作成しておくことで、得られる変化点の検出数から、シリコンの塗布量を推測することも可能となる。
【0056】
以上の実施形態の記述は、本発明をこれに限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更等が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態では、シリンジ11の軸方向に沿って、明部41と暗部42が繰り返される明暗縞40が形成されるようにしたが、これと直交する向きの明暗縞を形成するようにしてもよい。また、斜め状に明暗縞を形成することもできる。
【0057】
また、上記実施形態では、シリンジ11にシリコンを塗布する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限らず、透明の製品における透明微粒子体の塗布状態を検査する場合に、幅広く適用することができる。本発明で言う「透明」とは完全な透明だけでなく、肉眼では塗布状態を判定し難い、半透明なども含む概念である。対象となる製品は、シリンジ11のような筒状以外に、板状その他の形状であってよい。微粒子体にも制限は無いが、とりわけ霧状に散点して塗布されたものに対して、本発明は優れた効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、シリンジのような製品におけるシリコンなど透明微粒子体の塗布状態の検査に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 検査装置
11 シリンジ
12 胴体部
16 内壁面
20 照明部
21、21a 透過光
25 スリット板
26 透光部
27 遮光部
30 撮影部
36 画像処理部
37 検出部
38 判定部
40 明暗縞
41 明部
42 暗部
45 微粒子
50 検査領域
A 走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品における透明微粒子体の塗布状態を検査する検査装置であって、
透過光を照明する照明部と、
透光部と遮光部とが交互に穿設されてなり、製品と該照明部との間に配置され、該製品に対して、明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成するスリット板と、
該製品を透過した該透過光を受光して、該製品を撮影する撮影部と、
該撮影部により撮影された撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する画像処理部と、
該濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と該明部または該暗部との階調差により、該微粒子の境界を明暗の変化点として検出する検出部と、
該変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する判定部と、を備えた検査装置。
【請求項2】
該検出部が、該明暗縞に平行する走査方向に沿って、該変化点を検出するようになされた請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
該検出部が、該微粒子の該走査方向に沿う両側縁で該変化点を検出することにより、各微粒子につき2個ずつの該変化点を検出するようになされた請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
該検査領域が、複数の検査ブロックからなり、
該検出部が、各検査ブロックごとに該変化点を検出するとともに、
該判定部が、検出された該変化点の個数を合算した合計値と、所定の判定基準とを比較することにより、該透明微粒子体の塗布状態を判定するようになされた請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
該製品がシリンジであって、
該シリンジの内壁面におけるシリコンの塗布状態を検査するものである請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
製品における透明微粒子体の塗布状態を検査する検査方法であって、
透過光を照明して、製品に対して明部と暗部とが交互に繰り返される明暗縞を形成する工程と、
該製品を透過した該透過光を受光して、該製品を撮影する工程と、
撮影された撮影画像に画像処理を施して、多階調の濃淡画像を形成する工程と、
該濃淡画像中の検査領域内で、中間調にて現れる透明微粒子体の各微粒子と該明部または該暗部との階調差により、該微粒子の境界を明暗の変化点として検出する工程と、
該変化点の個数に基づき、透明微粒子体の塗布状態を判定する工程と、を備えた検査方法。

【図1】
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【図7】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−204051(P2010−204051A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52638(P2009−52638)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000137904)株式会社ミューチュアル (37)
【出願人】(506369911)株式会社日本電商ビジョンシステム (4)
【Fターム(参考)】