説明

検査装置とその検査方法

【課題】簡便性を損なわずに回転に関する性能の検査を可能にする。
【解決手段】本検査装置は、回転軸1と、回転軸1を回転自在に支持する支持機構40と、回転軸1に固定された索条巻付用プーリ4と、索条巻付用プーリ4に一端側が固定されて巻き掛けられた索条5と、索条5の他端側に固定された重錘6とを備え、回転軸1に被検査物Wを装着した状態で重錘6を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下させ、この自由落下状態から被検査物Wの回転に関する性能を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受や一方向クラッチを検査するための検査装置とその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受や一方向クラッチ等においては、最終の組立てが完了した製品状態の被検査物に対して、工場出荷前にその起動トルク(内外一方の軌道輪を固定した状態で、他方の軌道輪が回転を開始する際の抵抗)が規定範囲であるか否かを検査する検査工程がある。
【0003】
このような検査工程での検査装置としては、例えばプッシュプルゲージ(検査ゲージ)を用いた装置が知られている。この検査装置としては、上記被検査物を固定軸に装着した状態で、被検査物の回転部分に検査紐を巻き付け、その検査紐の引き出し端に取り付けた検査ゲージを被検査物から遠ざかる方向に検査者により引っ張り、そのときの検査ゲージの表示等から被検査物の起動トルクを求めるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このような検査装置の場合、その検査を検査者に依存するために、簡便でそれほど高い検査精度を要求されないものの、検査者の状況次第ではその要求に満たない検査結果を提供するおそれがあるという課題がある。
【0005】
そこで、検査ゲージや被検査物を検査者によらずに電動モータ等の機械を用いることが考えられるが、このような機械では高い検査精度を提供できるとしても、検査装置としての簡便性が大きく損なわれるという課題がある。特に、それほど高い検査精度が要求されない場合では、機械を用いた高価な検査装置となる場合は、採用し難い。
【特許文献1】特開2001−330031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、検査装置において、簡便ではあるが、比較的高い検査精度を提供できるようにすることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による検査装置は、回転軸と、回転軸を回転自在に支持する支持機構と、回転軸に固定された索条巻付用プーリと、索条巻付用プーリに一端側が固定されて巻き掛けられた索条と、索条の他端側に固定された重錘とを備え、回転軸に被検査物を装着した状態で重錘を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下させ、この自由落下状態から被検査物の回転に関する性能を検査することを特徴とするものである。
【0008】
好ましくは、回転軸に一端側が固定されて索条の巻き方向とは逆の方向に巻き付けられた巻上げ紐を備える。さらに、好ましくは、重錘の自由落下終了位置またはこの位置の近傍に配置された近接スイッチを備える。
【0009】
本発明による検査方法は、上記の近接スイッチを備えた検査装置を用いて被検査物を検査する方法であって、回転軸に被検査物を装着するステップと、巻上げ紐を巻き上げて重錘を自由落下開始位置まで上昇させるステップと、被検査物が回転軸に装着してある状態から重錘を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下させるステップと、重錘が自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下して近接スイッチが応答するまでの時間に基づいて被検査物の回転に関する性能値が所定の範囲に含まれるか否かを検出するステップとを含むことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の検査装置では、重錘を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けてその自重で自由落下させると、その自由落下に伴ない、回転軸が回転する。その場合、被検査物の起動トルクが規定値以下であると、重錘は自由落下開始位置から自由落下終了位置、あるいはその近傍位置までを規定の時間以内で自由落下し、被検査物の起動トルクが規定値超過であるときは、重錘は自由落下開始位置から自由落下終了位置あるいはその近傍位置までを規定の時間以内で自由落下しない。したがって、この時間から起動トルク等、被検査物の回転に関する性能値が所定の範囲に含まれるか否かの検査を行うことができる。
【0011】
この場合、回転軸に一端側が固定されて索条の巻き方向とは逆の方向に巻き付けられた巻上げ紐を備えていると、1つの被検査物に対する検査の終了後は、巻上げ紐を巻き上げることで、重錘を自由落下開始位置まで引き上げることができ、次の被検査物の検査を容易に行うことができて好ましい。
【0012】
また、重錘の自由落下終了位置またはこの位置の近傍に配置された近接スイッチを備えていると、この近接スイッチにより重錘の自由落下終了が検出される。実際の検査現場では、被検査物の良否により、重錘は自由落下するか、しないかであるから、重錘の自由落下開始の直後に、上記近接スイッチにより自由落下終了が検出されるか否かで、被検査物の性能の検査を行うことができる。
【0013】
上記の近接スイッチのほかに、重錘の自由落下開始を検出する手段(重錘の自由落下開始時、検査者により操作されるスイッチでもよい)があれば、これらの出力信号に基づいて重錘が自由落下開始位置から自由落下終了位置またはこの近傍に自由落下してくる時間を計測でき、この計測の結果に基づいて、被検査物の性能値の検査をより高い精度で行うことが可能となって好ましい。
【0014】
なお、本発明において、被検査物の回転に関する性能値を簡便ではあるが、要求に沿う検査精度での検査を可能にするうえでは、重錘の自由落下開始位置から自由落下終了位置あるいはその近傍位置までの自由落下の様子は、目視等の観察により検出することが可能であるが、近接スイッチ等の検出手段や、この検出手段の検出に応答するタイマ等に基づいて、高精度に検出することができる。
【0015】
また、重錘の自由落下終了位置やその近傍に近接スイッチを配置し、その近接スイッチの出力を表示器に応答表示させ、この表示結果から、重錘が見えなくても、検査者に重錘の自由落下終了の遅速が分るようにして、被検査物の検査を行うようにしてもよい。あるいは、近接スイッチ等の出力に基づいてマイクロコンピュータ等の制御部等により検査を行うようにしてもよい。
【0016】
本発明の検査装置によると、重錘の自由落下だけが回転軸の回転駆動力として作用するから、従来のごとく、検査者の人力に依存せずに済むようになり、起動トルク等の回転に関する性能の検査精度が高まるとともに、単に、重錘を自由落下させるだけの検査作業であるから、検査を簡便に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便ではあるが、要求に沿う検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照して、本発明の最良の実施の形態に係る検査装置を詳細に説明する。図1は、同検査装置の正面図で、一部断面して内部を示している。図2は、図1の装置の一部である被検査物装着部に被検査物を装着する途中の状態を示す拡大断面図、図3は、図1の装置と、これに関連する部材との平面配置を示す平面図である。なお、説明の都合で、図1ないし図3において、図中の右側は軸方向一方側といい、左側は軸方向他方側ということにする。
【0019】
図1を参照して、本実施の形態に係る検査装置は、軸方向一端側に起動トルクを検査すべき被検査物W(図示例では一方向クラッチ)が装着される回転軸1と、この回転軸1を回転可能に支持する支持部材2,3と、回転軸1の軸方向他端側に装着された索条巻付用プーリ4と、索条巻付用プーリ4に巻き付けられる索条5と、索条5に取付けられる重錘6とを備えている。
【0020】
支持部材2,3は、板状で台座7上に互いに間隔をおいて2つ立設されている。回転軸1は、これら支持部材2,3を貫通する形で横架されて、転がり軸受8,9を介して支持部材2,3に回転可能に支持されている。転がり軸受8,9には、回転軸1の回転開始時の抵抗をできるだけ低減して検査精度を高めるため、好ましくは、グリースを用いない転がり軸受が採用されている。支持部材2,3と転がり軸受8,9とにより、回転軸1を回転自在に支持する支持機構40を構成している。
【0021】
回転軸1は、軸方向一端側に被検査物Wを装着するための小径装着部10と大径装着部11とを有する。回転軸1の軸方向一端側は、両装着部10,11の境界において段付き構造となっている。小径装着部10の軸方向一端側の先端にはネジ部10aが形成されている。大径装着部10または小径装着部11のいずれかに被検査物Wを装着固定した状態で、ネジ部10aにはクランプナット12が螺合される。例えば、小径装着部10には、小径装着部10の外径に合致する小さな内径を有する被検査物Wが装着されて、被検査物Wの軸方向一方側からクランプナット12が螺合により締め付けられ、これにより、被検査物Wの内輪Wiが、クランプナット12と、小径装着部10と大径装着部11との境界により形成される段部との間に挟持されて回転軸1に固定される。
【0022】
索条巻付用プーリ4は、回転軸1の軸方向他端側に同軸に固着されている。索条巻付用プーリ4には、索条5がその一端を固定された状態で巻き付けられている。索条5の他端側である引き出し端には重錘6が取付けられている。重錘6は、通常、被検査物Wの種類に応じて重量が異なるものが数種類、用意されるが、図1に示す実施の形態では1種類のみを示している。
【0023】
重錘6は、回転軸1を一方向に回転させるためのもので、その自由落下により索条5を索条巻付用プーリ4から下方に引き出して索条巻付用プーリ4に接線力を作用させて回転させ、この回転に伴い回転軸1を同期回転させるようになっている。
【0024】
回転軸1の軸方向中間部には、巻上げ紐13が一端を固定した状態で巻き付けられている。この巻上げ紐13は、索条巻付用プーリ4に対する索条5の巻き方向とは逆方向に巻かれている。したがって、索条巻付用プーリ4から索条5が引き出されるときは、巻き上げ紐13は回転軸1の外周部に巻き取られ、回転軸1の外周部から巻上げ紐13を引き出すときには、索条巻付用プーリ4に索条5が巻き取られる。
【0025】
重錘6が自由落下する自由落下経路は、床板14の下方に設定されている。重錘6の自由落下経路の下端側には重錘6の受座15が設けられ、この受座15に、重錘6が自由落下終了位置またはその近傍位置にまで自由落下して到達したことを検出する自由落下検出手段として近接スイッチ16が設けられている。また、重錘6の自由落下開始位置に対応する個所である床板14の下面側には、重錘6を受け止める受座17が設けられて、この受座17に、重錘6が自由落下開始位置にあることを検出する近接スイッチ18が設けられている。上下各近接スイッチ16,18それぞれの出力信号は制御部19に入力されるようになっている。
【0026】
制御部19は、例えば、マイクロコンピュータを含むもので、両近接スイッチ16,18の出力信号に基づいて、重錘6の自由落下に伴う物理量、具体的は、重錘6の自由落下開始位置から自由落下終了位置に至るまでの自由落下時間を検出して被検査物Wの起動トルク等、回転に関する性能を検査するようになっており、少なくともハードウェアとしてのタイマ、もしくはソフトウェアとしてのタイマを内蔵している。
【0027】
内蔵タイマ20は、近接スイッチ18の出力信号の状態に基づいてタイマ動作を開始し、近接スイッチ16の出力信号の状態に基づいてタイマ動作を終了する。制御部19は、内蔵タイマ20のタイマ出力から、重錘Wが自由落下開始位置である受座17側から自由落下終了位置である受座15までを自由落下する時間を検出し、被検査物Wの起動トルク等、回転に関する性能値が所定の範囲に含まれるか否かを判定する。
【0028】
制御部19には表示器22が接続されており、制御部19は、その判定結果を表示器22の2つのランプ22a,22bのいずれかを点灯させることにより表示させる。
【0029】
表示器22には、上記ランプ22a,22bのほかに、検査の工程の進捗を示す表示部分を設けるとともに、制御部19には、検査工程の管理機能をもたせ、制御部19の工程管理動作に応じて、表示器22の上記表示部分で、検査工程の進捗度等を表示させてもよい。
【0030】
以上においては、近接スイッチ16、18やそれの出力を処理する制御部19を設けたが、簡便でありながら、要求に沿う検査を行う上では、近接スイッチ16,18や制御部19を設けず、重錘6の自由落下状態の目視等の観察から、検査者の経験により被検査物Wの検査を行うものでもよい。実際の検査では、被検査物Wにより、重錘6は高速で自由落下するか、自由落下しないかの2つの状態に分れ、それらの中間的な状態はほとんどない。そのため、重錘6の自由落下状態の目視等の観察により、起動トルク等、回転に関する性能の検査を行うことが可能である。
【0031】
あるいは、重錘6の自由落下終了位置に配置した近接スイッチ16と、この近接スイッチ16の出力を表示する表示器22とを設け、近接スイッチ16の出力を表示器22に直接入力させ、近接スイッチ16が重錘6の近接に対応した出力を出力したときの表示器22の表示から、検査者が重錘6の自由落下終了を認識しうるようにして、検査者の、自由落下終了の遅速の判断により、被検査物Wの起動トルク等、回転に関する性能の検査を行ってもよい。この場合、近接スイッチ16の出力に応答して音声やその他、振動等で、重錘6の自由落下終了を報知するようにしてもよい。
【0032】
図2に、回転軸1に図1とは異なる被検査物を装着する場合を示す。図2に示すように、回転軸1の大径装着部11には、大径装着部11の外径と合致する大きな内径を有する被検査物Wbを装着する。そして、回転軸1の軸方向一端側に筒状の補助カラー23を装着し、この補助カラー23の軸方向一端側で、ネジ部10aにクランプナット12を螺合する。これで、大径の内径を有する被検査物Wbは、小径装着部10と大径装着部11との境界における段部と補助カラー23との間に挟持されて回転軸1に固定される。
【0033】
上記のように、回転軸1の大径装着部11に被検査物Wbを装着する際、必ずしも補助カラー23を用いる必要はないが、補助カラー23を用いた場合、クランプナット12を被検査物Wbの位置まで、ネジ回転させていく必要がなくなり、被検査物Wbの装脱操作に手間がかからなくて好ましい。
【0034】
なお、被検査物W(Wbのような被検査物を含む)が、一方向クラッチのように一方向に自由回転でき他方向に自由回転不可というごとくその回転方向に方向性があるものであって、かつ、被検査物Wの軸方向一端側端面の内径側の形状が軸方向他端側の端面と異なる場合、その被検査物Wの軸方向一端側と他端側の端面形状の相違に対応して、図示するごとく、補助カラー23の内端に、被検査物Wの内径側の凹部に嵌入する凸部23aが形成されていることが好ましい。補助カラー23に上記凸部23aが形成されていると、この凸部23aが被検査物Wの一端面側にある凹部に嵌入しているか否かにより、被検査物Wが適正な向きで回転軸1に装着されているか否かが分り、被検査物Wを所定の向きとは異なる向きで回転軸1に装着してしまうおそれがなくなる。これによって検査ミス等を効果的かつ確実に排除できるようになって好ましい。
【0035】
次に、図3を参照して、上記した構成の検査装置と、これに関連する部材との平面配置を説明する。
【0036】
検査装置の台座7の前面側には、検査作業を行う検査者Mが立ち姿勢で位置するが、通常、検査者Mの左右両側には、被検査物準備テーブル24と、被検査物保管テーブル25とが配置される。被検査物準備テーブル24には、組立てが完了したが、検査が未了の被検査物Wが載置される。被検査物準備テーブル24には、被検査物Wの検出領域24aが設定されていて、この領域24a内に被検査物Wが存在するか否かが近接スイッチ26により検出される。この近接スイッチ26の出力信号は制御部19に入力する。制御部19は、工程管理のために、この近接スイッチ26の出力信号に基づいて検査が未了の被検査物Wが準備されているか否かを判定する。
【0037】
被検査物保管テーブル25には、回転に関する性能が検査されて良品と判定された被検査物Wが載置される。この被検査物保管テーブル25にも被検査物Wの検出領域25aが設定されていて、この領域25a内に被検査物Wが存在するか否かが近接スイッチ27により検出される。この近接スイッチ27の出力信号は制御部19に入力し、制御部19は、この近接スイッチ27の出力信号に基づいて検査が終わった被検査物Wが回転軸1から外されて保管されているか否かを判定する。
【0038】
表示器22は、検査者Mの見やすい位置、例えば検査者Mの前方に配置されている。被検査物準備テーブル24と被検査物保管テーブル25とのいずれか、本実施の形態では被検査物準備テーブル24に隣接して、制御部19を始動させるスタートスイッチ28や、検査者Mが被検査物Wを回転軸1の装着部10,11に装着する毎に操作される装着完了スイッチ29等のスイッチが設けられている。
【0039】
次に、上記構成の検査装置により、検査者Mが被検査物Wを検査して、被検査物Wを良品と不良品とに区分けする手順と、その場合の検査装置の動作とを説明する。
【0040】
(イ)まず、検査者Mは、検査すべき被検査物Wを被検査物準備テーブル24上に準備して、そのうちの1個の被検査物Wを検出領域24aに置く。検出領域24aに被検査物Wが置かれたことは、近接スイッチ26により検出され、制御部19は、この近接スイッチ26の信号に基づいて、被検査物Wが準備されていることを確認する。表示器22に検査の工程の進み具合いを示す表示部分があれば、この表示部分により、被検査物準備工程が完了した状態にあることが表示される。
【0041】
(ロ)検査者Mは、被検査物準備テーブル24の検出領域24aに置かれている被検査物Wを取り上げて、これを回転軸1のいずれか径が合う装着部、例えば小径装着部10に装着する。その装着には、被検査物Wを小径装着部10の外周部に外嵌したのち、小径装着部10先端のネジ部10aにクランプナット12を螺合して締め付け、被検査物Wを小径装着部10に固定する。このようにして、被検査物装着の工程が完了すると、検査者Mは装着完了スイッチ29を押す。この装着完了スイッチ29の出力信号を受けることで、制御部19は、被検査物Wが回転軸1に装着されていることを確認する。
【0042】
(ハ)この段階では、重錘6は自由落下終了位置またはその近傍位置まで自由落下しており、そのため、巻上げ紐13は、図1に示すように、回転軸1の外周部に巻き取られている。検査者Mは、巻き取られている巻上げ紐13の先端を持って巻上げ紐13を引き出す。この巻上げ紐13と、重錘6が取付けられた索条5とは、巻き方向が逆であるから、巻上げ紐13の引き出しに伴って、索条5は索条巻付用プーリ4に巻き取られる。索条5の巻き取りにより、重錘6は自由落下開始位置方向へ上昇して受座17に受止められる。受座17に達した重錘6は近接スイッチ18により検出され、近接スイッチ18の出力信号により、制御部19は、重錘6および回転軸1が検査を開始できる状態にあることを確認する。
【0043】
(ニ)索条5が巻上げられ、重錘6が自由落下開始位置に達している状態で、検査者Mは、片手で索条巻付用プーリ4もしくは回転軸1を押えて回転軸1の回転を止め、他方の手で被検査物Wの回転部分である外輪Woを押えて、外輪Woが回転しないよう固定する。なお、起動トルクの検査の場合、転がり軸受等の被検査物Wには大きな負荷をかける必要はなく、検査者Mの手で軽負荷Pを加えて外輪Woを固定すればよい。
【0044】
(ホ)検査者Mは、被検査物Wの外輪Woを回転しないよう固定している状態で、回転軸1の回転を止めている手指を離す。そうすると、自由落下開始位置にある重錘6は、自重で自由落下を開始する。重錘6の自由落下の開始に伴い、索条巻付用プーリ4から索条5が下方に引き出され、これにより、回転軸1が回転を開始する。
【0045】
この場合、被検査物Wの起動トルクが規定値以下であると、重錘6は自重で自由落下する。被検査物Wの起動トルクが規定値超過であると、重錘6は自由落下しなくなる。重錘6の自由落下の状態は、近接スイッチ19,18を介して制御部19により検出され、その検出結果に基づいて、被検査物Wの起動トルク等、回転に関する性能が判定されて表示器22に表示される。
【0046】
この場合の制御部19の動作を、図4のフローチャートを参照して詳細に説明すると、ステップS1では、制御部19は、近接スイッチ18の出力信号により、重錘6が自由落下開始位置から自由落下を開始したか否かを判断する。近接スイッチ18の出力信号の状態が変化し、制御部19が、重錘6の自由落下開始であると判断すると、ステップS2に進み、そのステップS2でタイマ20のタイマ動作をスタートさせる。
【0047】
次のステップS3では、近接スイッチ16の出力信号が変化するまで、すなわち、重錘6が自由落下終了位置に到達するまで時間待ちをし、重錘6が自由落下終了位置に到達したと判断すると、ステップS4に進み、ステップS4でタイマ動作を停止させる。このように、重錘6の自由落下開始の時点から自由落下終了位置到達の時点までタイマ20を動作させることで、重錘6の自由落下開始位置から自由落下終了位置までの自由落下時間が計測される。
【0048】
ステップS5では、重錘6の自由落下時間から被検査物Wの回転に関する性能値を判定する。重錘6の自由落下時間は、当該被検査物Wの回転に関する性能値に対応しており、両数値の間の換算式により性能値を算出してもよいし、実験や計算により得られた換算表、換算グラフがある場合は、これらを参照して性能値を求めてもよい。
【0049】
次のステップS6では、起動トルクおよび求めた性能値(検査値)を、被検査物Wが必要とする性能値(基準値)と比較して、被検査物Wが良品であるか否かを判断する。検査値が規定値の範囲内で、被検査物Wが良品であると判断すると、ステップS7に進んで、表示器22の良品を示すランプ22aを点灯し、検査値が規定値の範囲を越えていて、被検査物Wが良品でないと判断すると、ステップS8に移って、表示器22の不良品を示すランプ22bを点灯する。
【0050】
(ヘ)上記のように、被検査物Wの良否が判定されてそのことが表示器22に表示された後は、その被検査物Wを装着部10(もしくは11)から取り外す。そして、不良品と判断された被検査物Wは、図外のケース等に収容するが、良品と判断された被検査物Wは、被検査物保管テーブル25の検出領域25aに置く。検出領域25aに被検査物Wが置かれたことは、近接スイッチ27により検出され、制御部19は、この近接スイッチ27の信号に基づいて、良品と判定された被検査物Wが装着部10(もしくは11)から取り外されたことを確認する。
【0051】
被検査物Wが良品であれば、特別な対応は不要であるから、次の検査の工程に入ることが可能になり、上記した手順、工程を繰り返す。
【0052】
なお、被検査物Wが装着される回転軸1を、重錘6の落下や下降により回転させる機構は、上記実施の形態に示す機構に限定されず、他の種々の機構が採用可能である。図5および図6を参照して、本発明の他の実施の形態を説明する。
【0053】
図5に示す実施の形態では、被検査物Wが装着される回転軸1は、支持部材30,31により縦軸周りに回転可能に支持されている。回転軸1の上端には、図1の実施の形態に示したのと同様の装着部10,11が形成されている。回転軸1には同軸に索条巻付用プーリ4が設けられ、この索条巻付用プーリ4には索条5が巻き付けられている。索条5は索条巻付用プーリ4から横方向に引き出した上で、滑車32で引き出し方向が下方に変更されている。そして、索条5の下方の引き出し端に重錘6が取付けられている。なお、図1の実施の形態の各部と対応する部分、部材は、図1と同一の符号で示している。
【0054】
この実施の形態では、図1の実施の形態と同様に、重錘6が落下することで、回転軸1に接線力が作用して回転軸1が回転する。被検査物Wの回転に関する性能値を求めるには、重錘Wの自由落下時間等、自由落下に伴う物理量を検出すればよい。
【0055】
図6に示すさらに他の実施の形態では、被検査物Wを装着する回転軸1に、径方向外向きに延出するアーム33が設けられている。このアーム33の延出先端側はネジ部33aとなっており、このネジ部33aに重錘6が貫通して取付けられて、ネジ部33aに螺合するナット34により、所要の位置に固定されている。
【0056】
この構成では、重錘6は円弧軌道に沿って下降することで、回転軸1を回転させる。ネジ部33aに対してナット34をネジ回転させて、重錘6の取付け位置をネジ部33aの長さ方向に変更することで、回転軸1に作用する回転力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の最良の形態に係る検査装置の正面図で、一部断面して内部を示している。
【図2】図1の装置の一部である被検査物装着部の、被検査物装着途中の状態を示す拡大断面図
【図3】図1の装置と、これに関連する部材との平面配置を示す平面図
【図4】図1の装置の制御部における検査の動作を示すフローチャート
【図5】本発明の他の実施の形態に係る検査装置の概略構成図
【図6】本発明のさらに他の実施の形態に係る検査装置の概略構成図
【符号の説明】
【0058】
1 回転軸
4 索条巻付用プーリ
5 索条
6 重錘
40 支持機構
W 被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、回転軸を回転自在に支持する支持機構と、回転軸に固定された索条巻付用プーリと、索条巻付用プーリに一端側が固定されて巻き掛けられた索条と、索条の他端側に固定された重錘とを備え、
回転軸に被検査物を装着した状態で重錘を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下させ、この自由落下状態から被検査物の回転に関する性能を検査する、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
回転軸に一端側が固定されて索条の巻き方向とは逆の方向に巻き付けられた巻上げ紐を備えることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
重錘の自由落下終了位置またはこの位置の近傍に配置された近接スイッチを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検査装置を用いて被検査物を検査する方法であって、
回転軸に被検査物を装着するステップと、巻上げ紐を巻き上げて重錘を自由落下開始位置まで上昇させるステップと、被検査物が回転軸に装着してある状態から重錘を自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下させるステップと、重錘が自由落下開始位置から自由落下終了位置に向けて自由落下して近接スイッチが応答するまでの時間に基づいて被検査物の回転に関する性能値が所定の範囲に含まれるか否かを検出するステップとを含む検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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