検査装置
【課題】分析に要する時間がわずかで、効率的に広範囲の構造物表面の検査が可能な検査装置及びそれを用いた検査方法を提供する。
【解決手段】検査面所定位置を所定周波数で打突する打突振動子100と、前記検査面第1位置に固定される第1受信子201と、前記検査面第2位置に固定される第2受信子202と、前記所定位置と前記第1位置との間の距離に応じた第1補正物理量と、前記所定位置と前記第2位置との間の距離に応じた第2補正物理量と、前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と前記第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、前記第1物理量と、前記第2物理量との比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子100による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有する。
【解決手段】検査面所定位置を所定周波数で打突する打突振動子100と、前記検査面第1位置に固定される第1受信子201と、前記検査面第2位置に固定される第2受信子202と、前記所定位置と前記第1位置との間の距離に応じた第1補正物理量と、前記所定位置と前記第2位置との間の距離に応じた第2補正物理量と、前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と前記第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、前記第1物理量と、前記第2物理量との比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子100による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物におけるひび割れ深さ及び位置を検査するために用いられる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物は、コンクリートの性質上その表面に微細なひび割れが生じやすいが、このひび割れが進展し鉄筋に到達すると、鉄筋が腐食する原因となり、構造物の耐久性や構造物の安全性に影響を及ぼすこととなる。
【0003】
そこで、鉄筋コンクリート構造物においては、維持管理のための定期検査や地震後の健全性評価で、目視による観察やひび割れ幅の調査を行っている。ところで、このような調査は人手によるものであり労力及び時間を要するものであるので、これをより効率的に行うために、鉄筋コンクリート構造物の内部状況を検査・把握するための検査装置が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2003−35703号公報)には、コンクリート構造物の測定面に配置されたダンパと、このダンパを介して前記測定面の振動を電気信号に変換する振動検出器とを備え、前記振動に含まれるほぼ5キロヘルツ以下の周波数の振動成分を前記ダンパを介して前記振動検出器により検出し、その検出出力に基づいてコンクリート構造物の内部を非破壊検査することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−35703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の検査装置におけるコンクリート構造物の検査では、縦弾性波の減衰をセンシングする方法が採用されているが、このような方法に基づくものでは、コンクリート構造物中のひび割れによる減衰が大きく、ひび割れの近傍で測定を実施する必要があると共に、測定と分析にかなりの時間を要することから、適用範囲が限定されてしまう、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、前記検査面における第1位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第1受信子と、前記検査面における第2位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第2受信子と、前記第1受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第1位置との間の距離に応じた補正を行い、第1補正物理量を得る第1補正手段と、前記第2受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第2位置との間の距離に応じた補正を行い、第2補正物理量を得る第2補正手段と、前記第1補正手段によって得られた前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と、前記第2受信子によって検知された前第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量との比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置である。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、前記検査面の複数の位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する複数の受信子と、前記複数の受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記複数の受信子それぞれの固定位置との間の距離に応じた補正を行い、複数の補正物理量を得る補正手段と、前記補正手段によって得られた前記複数の補正物理量から、表面波の大きさと関連する複数の物理量を抽出するフィルタ手段と、前記フィルタ手段によって抽出された前記複数の物理量のうちの任意の2つの物理量の比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置である。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の検査装置において、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ深さを特定するひび割れ深さ特定手段を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1に記載の検査装置において、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ位置を特定するひび割れ位置特定手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る検査装置によれば、予め所定位置に固定しておいた複数の受信子から取得した、表面波の大きさと関連する物理量の比(又は対数表示の場合は差分)に基づいて、検査対象領域におけるひび割れに関する情報を推定することが可能となる。本発明に係る検査装置によれば、ひび割れの近傍で検査を実施する必要はなく、また、分析に要する時間もわずかであり、効率的に広範囲の構造物表面を検査することが可能となる。そして、このような本発明に係る検査装置によれば、合理的な補修計画を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理の流れの概略を示す図である。
【図3】第1受信子、第2受信子で取得され補正された検出振動波形を略式的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る検査装置10による検査結果表示例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る検査装置10による検査の一つのシチュエーションを示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る検査装置10の測定原理の概略を説明する図である。
【図7】表面波の垂直分布の概略を示す図である。
【図8】本発明に係る検査装置における表面波の捉え方を実測値に基づいて説明する図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る検査装置10における打突振動子の位置情報取得方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る検査装置の概要を模式的に示す図である。図1において、1はコンクリート構造物、10は検査装置、100は打突振動子、201は第1受信子、202は第2受信子、300はパーソナルコンピュータをそれぞれ示している。また、1は検査装置10の検査対象となるコンクリート構造物を示している。
【0013】
本発明の実施形態に係る検査装置10は、概略、コンクリート構造物1における検査対象領域(斜線部)の2つの端部位置に固定される第1受信子201及び第2受信子202、コンクリート構造物1の表面部を打突する打突振動子100及び、第1受信子201及び第2受信子202で取得されたデータを処理するパーソナルコンピュータ300から構成されている。
【0014】
打突振動子100は、検査対象であるコンクリート構造物1の表面を打突部本体(打突子)によって所定の周波数(振動数)で打突するものである。本実施形態に係る検査装置10では、打突部本体を11kHzで振動させて、コンクリート構造物1表面を打突するようにしたが、検査対象のコンクリート構造物1の特性や対象とするひび割れ深さに応じて、打突部本体の振動周波数は適宜変更することが好ましい。本実施形態に係る検査装置10においては、打突振動子100による打突位置については適当な方法でパーソナルコンピュータ300にも入力される構成とされる。
【0015】
第1受信子201は所定の第1位置にて固定され、コンクリート構造物1の振動に係る物理量として加速度を検知する。同様に、第2受信子202は所定の第2位置にて固定され、コンクリート構造物1の表面(検査面)の振動に係る物理量として加速度を検知する。なお、本実施形態においては、第1受信子201及び第2受信子202によって取得する物理量を加速度としたが、第1受信子201及び第2受信子202によって取得する物理量を振幅、音のエネルギー、音圧などとすることもできる。
【0016】
第1受信子201及び第2受信子202は規格が共通のものを用い、検査面への接触状態等が同じ条件となるようにコンクリート構造物1の表面に取り付けられている。本発明の実施形態に係る検査装置10では、第1受信子201及び第2受信子202として加速度センサを用いたが、受信子としては加速度センサに限らず、コンクリート構造物1表面の振動状態を検知するものであれば、マイクロホン或いはレーザー振動計などの非接触型の振動検出センサなどといったものを用いることができる。
【0017】
また、第1受信子201や第2受信子202などの本実施形態に係る検査装置10で用いられる受信子には、検知した振動に係る物理量データをパーソナルコンピュータ300に送信可能なデータ出力部が設けられている。
【0018】
パーソナルコンピュータ300は現在普及している一般的なものを用いることができるが、本実施形態においては、少なくとも第1受信子201及び第2受信子202から送信される振動に係る物理量データを受信可能なインターフェイス手段を有するパーソナルコンピュータ300が用いられる。
【0019】
また、パーソナルコンピュータ300には、第1受信子201及び第2受信子202から取得された振動に係る物理量データをデータ処理することためのCPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなど基本的な情報処理機構を有している。また、パーソナルコンピュータ300は、データ処理を行った結果を表示することが可能なディスプレイなどの表示手段を備えてなるものである。
【0020】
以上のように構成される本実施形態に係る検査装置10による検査手順としては、検査
対象領域上に仮想的な格子点を設定しておき、打突振動子100により一つの格子点を打突して振動を発生させて、この振動を第1受信子201及び第2受信子202によって取得する。これを全ての格子点について、順次実施することによって、検査対象領域全てに対する検査を完了する。
【0021】
次に、以上のように構成される本実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理について説明する。図2は本発明の実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理の流れの概略を示す図である。
【0022】
図2において、ステップS100でデータ処理が開始されると、続いてステップS101で、第1受信子201によりコンクリート構造物1表面の振動に係る物理量を取得する。次のステップS102においては、打突振動子100による打突位置と第1受信子201との間の距離r1に応じた補正を行い、第1補正物理量を取得する。ここで、ステップ
S102における補正は打突振動子100による打突位置から第1受信子201が固定されている第1位置までに、振動に係る物理量が伝達する間に、距離によって当該物理量が減衰する分を補う補正である。すなわち、打突位置と第1位置との間の距離に基づく距離減衰分が補正された物理量が、第1補正物理量である。ステップS103においては、第1補正物理量から表面波に係る第1物理量(A1)抽出する処理を実行する。
【0023】
ステップS104においては、第2受信子202によりコンクリート構造物1表面の振動に係る物理量を取得する。次のステップS105においては、打突振動子100による打突位置と第2受信子202との間の距離r2に応じた補正を行い、第2補正物理量を取
得する。先ほどと同様に、ステップS105における補正は打突振動子100による打突位置から第2受信子202が固定されている第2位置までに、振動に係る物理量が伝達する間に、距離によって当該物理量が減衰する分を補う補正である。すなわち、打突位置と第2位置との間の距離に基づく距離減衰分が補正された物理量が、第2補正物理量である。ステップS106においては、第2補正物理量から表面波に係る第2物理量(A2)抽出する処理を実行する。
【0024】
ステップS107においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)を算出する。なお、本実施形態においては、第2物理量を第1物理量によって除するような算出を行ったが、第1物理量を第2物理量によって除するような算出を行うように定義することもできる。また、加速度を対数表示した場合は差分をとればよい。
【0025】
第1受信子201及び第2受信子202として、加速度計を使用する場合は振動を、また、マイクロホンを使用する場合は音圧を測定するが、いずれの場合においても、ステップS107においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)、すなわち比を算出する。
【0026】
ステップS108においては、打突位置に応じたステップS107による算出値をマッピングする。
【0027】
ステップS109では、予め決められた検査対象領域の全てについて、マッビングが済んだか否かが判定される。ステップS109における判定がNOであるときには、ステップS110に進み、打突振動子100を移動して、次の移動先の物理量を取得するループに戻る。
【0028】
一方、ステップS109における判定がYESであるときには、ステップS111に進み、マップに基づき, 検査対象領域の全てのマッビング結果を表示する。また、このステップS111においては、マップに基づきひび割れ深さ及び位置を特定する。ステップS
111に続く、ステップS112で、処理を終了する。
【0029】
ステップS111において、マップに基づき,ひび割れ深さ及び位置を特定するが、本
発明に係る検査装置においては、ひび割れ深さ及び位置を特定する方法については、例えば、呉佳曄・堤知明・江川顕一郎「表面波を用いたひび割れ深さの新しい測定技術」,JSDNIシンポジウム「コンクリート構造物の非破壊検査への期待」論文集,pp.243−252,2003などに開示されている方法を適宜採用することができる。ステップS111は、特許請求の範囲において、ひび割れ深さ特定手段、及び、ひび割れ位置特定手段として現されるものである。
【0030】
ここで、ステップS103における第1物理量(A1)を抽出する処理、ステップS106における第2補正物理量(A2)を抽出する処理についてより詳しく説明する。図3は第1受信子201(図3(A))及び第2受信子202(図3(B))で取得された物理量に対して、ステップS102、S105で距離減衰補正を行った振動波形を略式的に示す図である。
【0031】
図3において、振幅が小さい方の波形は第1受信子201で検出されるP波(縦波成分)であり、振幅の大きい方の波形は第1受信子201で検出される表面波(成分)である。打突振動子100と第1受信子201との間の距離r1は既知であり、なおかつ打突振
動子100がコンクリート構造物1表面を打突する周波数、打突振動子100が打突を開始する時刻t1はコントロールされたものであるので、第1受信子201にP波が到達す
る時刻t2、及び、第1受信子201に表面波が到達する時刻t3の概略についてはある程度予想することができる。
【0032】
そこで、本発明の実施形態に係る検査装置10においては、第1受信子201に時刻t2前後に到達する振幅の小さい波についてはデータとして取得せず、第1受信子201に
時刻t3前後に到達する振幅の大きい波の振幅データを、表面波の大きさと関連する物理
量として抽出するようにされている。より具体的には、図3に示す振幅の大きい波の最初の振幅A1を、第1受信子201での測定から抽出される第1物理量A1として取得する。本実施形態に係る検査装置10が、このような物理量を抽出する工程については、フィルタ工程と称することとする。
【0033】
同様に、打突振動子100と第2受信子202との間の距離r2は既知であり、なおか
つ打突振動子100がコンクリート構造物1表面を打突する周波数、打突振動子100が打突を開始する時刻は制御可能であるので、本実施形態に係る検査装置10においては、第2受信子202に時刻t4前後に到達する振幅の小さい波についてはデータとして取得
せず、第2受信子202に時刻t5前後に到達する振幅の大きい波の振幅データを、第2
受信子202における表面波の大きさと関連する第2物理量A2として取得する。
【0034】
本実施形態に係る検査装置10によるデータ処理を行った結果について図4を参照して説明する。図4は、予め定められた格子点上を打突振動子100で打突して、第1受信子201及び第2受信子202によって収集した検査データを処理したものであり、格子点における(第2物理量A2)/(第1物理量A1)の算出値が、20〜30であるとき、10〜20であるとき、0〜10であるとき、−10〜0であるとき、−20〜−10であるとき、−30〜−20であるとき、−40〜−30であるとき、それぞれに応じて色分けして表示したものである。
【0035】
検査装置10によって検査データを取得する上で、ひび割れを模擬するため意図的に2本のスリットを図4に示すように予め設けておいた。図4からわかるように、スリットを境界として、表示パターンが変化する傾向があることがわかる。
【0036】
このように、本発明に係る検査装置10によれば、予め所定位置に固定しておいた複数の受信子から取得した、表面波の大きさと関連する物理量の比(又は対数表示の場合は差分)に基づいて、検査対象領域におけるひび割れに関する情報を推定することが可能となる。本発明に係る検査装置10によれば、ひび割れの近傍で検査を実施する必要はなく、また、分析に要する時間もわずかであり、効率的に広範囲の構造物表面を検査することが可能となる。そして、このような本発明に係る検査装置10によれば、合理的な補修計画を行うことができる。
【0037】
ところで、コンクリート壁に近接して、図5に示すような配管などが設けられているなどの理由により、検査対象領域によっては、全ての検査対象領域にわたって打突振動子100による打突を行うことができない場合があるが、本発明に係る検査装置10によれば、打突振動子100による打突を行うことができない箇所を除く箇所から検査データを取得することにより、ひび割れに関する情報をおおよそ推定することが可能となる。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係る検査装置10が用いる測定原理について説明する。図6は本発明の実施形態に係る検査装置10の測定原理の概略を説明する図であり、図7は表面波の垂直分布の概略を示す図である。以下に説明する測定原理においては、ひび割れによる表面波のエネルギーの減衰について論じている。
【0039】
ひび割れ(スリット)による表面波の減衰量は、スリットによって伝搬を阻害された表面波のエネルギーが減衰するとして理論化することができる。上下方向の振幅を持つ表面波の振幅分布は、図7のようになるとされている。
このときの分布式は
【0040】
【数1】
として現すことができる。
【0041】
ここで、λは入力波動の波長、Dはひび割れ(スリット)の深さである。係数Aはスリット深さが波長と等しいとき、振幅が1/4になると仮定すると、A=−1.3863となる。
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
スリット深さがDの時、その深さまでに分布するエネルギー量は、
【0044】
【数4】
である。なお、全エネルギーは、D→∞とすれば良いので、Eo=−λ/2Aである。減
衰量の比率は、
【0045】
【数5】
となる。
スリット通過後は、このエネルギーで再び表面波として振幅分布する。すなわち、
【0046】
【数6】
これから、ひび割れ(スリット)深さDの時、測定した振動の減衰量(dB)は、
【0047】
【数7】
となる。なおuは、ひび割れ(スリット)に関係なく上下方向振動成分を持つ表面波の深さDでの振幅である。
【0048】
次に、本発明に係る検査装置に用いられている表面波の捉え方について説明する。図8に本発明に係る検査装置における表面波の捉え方を実測値に基づいて説明する図である。波動が上向きになる最初のピーク(▽印)は、その到達時間から、スリットの先端を回折した縦弾性波と考えられる。波動が下向きになる最初のピーク(▲印)は表面波と見なせる。減衰量(dB)は、第1受信子201に対する第2受信子202のレベル差から算出している。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図9は本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。先の実施形態においては検査対象領域の両端に第1受信子201及び第2受信子202の2つの受信子を設けるようにしていたが、本実施形態においては、検査対象領域の4隅に第1受信子201、第2受信子202、第3受信子203、第4受信子204からなる4つの受信子を設けるようにした。また、第1受信子201から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第1物理量(A1)を抽出し、同じく、第2受信子202から、先の実施形態で説明したものと同様の処理に
より第2物理量(A2)を抽出し、第3受信子203から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第3物理量(A3)を抽出し、第4受信子204から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第4物理量(A4)を抽出する。
【0050】
先の実施形態においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)を算出しマッピングを行う処理を行ったが、本実施形態においては、第1物理量(A1)、第2物理量(A2)、第3物理量(A3)、第4物理量(A4)のうちの任意の2つの物理量の比を算出してマッピングを行うことにより合計6種類の異なるマップを表示させることが可能となる。このような実施形態によれば、検査対象領域におけるひび割れに関する情報をより確度高く推定することが可能となる。
【0051】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図10は本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。本実施形態においては、打突振動子にはその位置情報を取得するための情報を発信することが可能な位置情報発信機能付き打突振動子110が用いられており、また、受信子としても打突振動子から発信される位置情報を取得可能な位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212が用いられる。また、位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212は、パーソナルコンピュータ300に出力するようになっている。本発明においては、打突振動子の位置情報を自動的に取得することが可能である点を除いて、検査データの処理等はこれまで説明した実施形態と同様のものが用いられるので、本実施形態に係る、打突振動子の位置情報を取得するための原理について以下説明する。
【0052】
図11は本発明の他の実施形態に係る検査装置10における打突振動子の位置情報取得方法を説明する図である。
【0053】
位置情報発信機能付き打突振動子110には、赤外線発生回路と超音波発生回路とこれらを制御する制御手段を有している。この制御手段は、位置情報発信機能付き打突振動子110で検査対象領域の打突を行ったときに、赤外線発生回路によって赤外線信号を発生させ、また、超音波発生回路によって超音波信号を発生させるように構成されている。
【0054】
また、一方、位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212には、赤外線受光部と超音波受信部を有しており、位置情報発信機能付き打突振動子110から発生させる赤外線信号及び超音波信号を受信可能に構成されている。
【0055】
赤外線信号が赤外線受光部に到達する時間と、超音波信号が超音波受信部に到達する時間の差分から、位置情報受信機能付き第1受信子211で受信される信号から図11に示す距離r1が算出され、また、位置情報受信機能付き第2受信子212で受信される信号
から図11に示す距離r2が算出される。このようにして、本実施形態では、位置情報発
信機能付き打突振動子110と位置情報受信機能付き第1受信子211との間の距離r1
、及び位置情報発信機能付き打突振動子110と位置情報受信機能付き第2受信子212との間の距離r2が求まり、これにより位置情報発信機能付き打突振動子110の打突位
置の座標(x,y)を算出することができるようになる。
【0056】
本実施形態によれば、これまで説明した実施形態と同様の効果に加えて、打突振動子の位置情報を簡便に取得することが可能となり、検査工程やデータ処理を効率的に行うことが可能となる、という効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0057】
1・・・コンクリート構造物、10・・・検査装置、100・・・打突振動子、110・・・位置情報発信機能付き打突振動子、201・・・第1受信子、202・・・第2受信
子、203・・・第3受信子、204・・・第4受信子、211・・・位置情報受信機能付き第1受信子、212・・・位置情報受信機能付き第2受信子、300・・・パーソナルコンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物におけるひび割れ深さ及び位置を検査するために用いられる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物は、コンクリートの性質上その表面に微細なひび割れが生じやすいが、このひび割れが進展し鉄筋に到達すると、鉄筋が腐食する原因となり、構造物の耐久性や構造物の安全性に影響を及ぼすこととなる。
【0003】
そこで、鉄筋コンクリート構造物においては、維持管理のための定期検査や地震後の健全性評価で、目視による観察やひび割れ幅の調査を行っている。ところで、このような調査は人手によるものであり労力及び時間を要するものであるので、これをより効率的に行うために、鉄筋コンクリート構造物の内部状況を検査・把握するための検査装置が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2003−35703号公報)には、コンクリート構造物の測定面に配置されたダンパと、このダンパを介して前記測定面の振動を電気信号に変換する振動検出器とを備え、前記振動に含まれるほぼ5キロヘルツ以下の周波数の振動成分を前記ダンパを介して前記振動検出器により検出し、その検出出力に基づいてコンクリート構造物の内部を非破壊検査することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−35703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の検査装置におけるコンクリート構造物の検査では、縦弾性波の減衰をセンシングする方法が採用されているが、このような方法に基づくものでは、コンクリート構造物中のひび割れによる減衰が大きく、ひび割れの近傍で測定を実施する必要があると共に、測定と分析にかなりの時間を要することから、適用範囲が限定されてしまう、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、前記検査面における第1位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第1受信子と、前記検査面における第2位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第2受信子と、前記第1受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第1位置との間の距離に応じた補正を行い、第1補正物理量を得る第1補正手段と、前記第2受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第2位置との間の距離に応じた補正を行い、第2補正物理量を得る第2補正手段と、前記第1補正手段によって得られた前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と、前記第2受信子によって検知された前第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量との比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置である。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、前記検査面の複数の位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する複数の受信子と、前記複数の受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記複数の受信子それぞれの固定位置との間の距離に応じた補正を行い、複数の補正物理量を得る補正手段と、前記補正手段によって得られた前記複数の補正物理量から、表面波の大きさと関連する複数の物理量を抽出するフィルタ手段と、前記フィルタ手段によって抽出された前記複数の物理量のうちの任意の2つの物理量の比を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置である。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の検査装置において、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ深さを特定するひび割れ深さ特定手段を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1に記載の検査装置において、前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ位置を特定するひび割れ位置特定手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る検査装置によれば、予め所定位置に固定しておいた複数の受信子から取得した、表面波の大きさと関連する物理量の比(又は対数表示の場合は差分)に基づいて、検査対象領域におけるひび割れに関する情報を推定することが可能となる。本発明に係る検査装置によれば、ひび割れの近傍で検査を実施する必要はなく、また、分析に要する時間もわずかであり、効率的に広範囲の構造物表面を検査することが可能となる。そして、このような本発明に係る検査装置によれば、合理的な補修計画を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理の流れの概略を示す図である。
【図3】第1受信子、第2受信子で取得され補正された検出振動波形を略式的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る検査装置10による検査結果表示例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る検査装置10による検査の一つのシチュエーションを示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る検査装置10の測定原理の概略を説明する図である。
【図7】表面波の垂直分布の概略を示す図である。
【図8】本発明に係る検査装置における表面波の捉え方を実測値に基づいて説明する図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る検査装置10における打突振動子の位置情報取得方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る検査装置の概要を模式的に示す図である。図1において、1はコンクリート構造物、10は検査装置、100は打突振動子、201は第1受信子、202は第2受信子、300はパーソナルコンピュータをそれぞれ示している。また、1は検査装置10の検査対象となるコンクリート構造物を示している。
【0013】
本発明の実施形態に係る検査装置10は、概略、コンクリート構造物1における検査対象領域(斜線部)の2つの端部位置に固定される第1受信子201及び第2受信子202、コンクリート構造物1の表面部を打突する打突振動子100及び、第1受信子201及び第2受信子202で取得されたデータを処理するパーソナルコンピュータ300から構成されている。
【0014】
打突振動子100は、検査対象であるコンクリート構造物1の表面を打突部本体(打突子)によって所定の周波数(振動数)で打突するものである。本実施形態に係る検査装置10では、打突部本体を11kHzで振動させて、コンクリート構造物1表面を打突するようにしたが、検査対象のコンクリート構造物1の特性や対象とするひび割れ深さに応じて、打突部本体の振動周波数は適宜変更することが好ましい。本実施形態に係る検査装置10においては、打突振動子100による打突位置については適当な方法でパーソナルコンピュータ300にも入力される構成とされる。
【0015】
第1受信子201は所定の第1位置にて固定され、コンクリート構造物1の振動に係る物理量として加速度を検知する。同様に、第2受信子202は所定の第2位置にて固定され、コンクリート構造物1の表面(検査面)の振動に係る物理量として加速度を検知する。なお、本実施形態においては、第1受信子201及び第2受信子202によって取得する物理量を加速度としたが、第1受信子201及び第2受信子202によって取得する物理量を振幅、音のエネルギー、音圧などとすることもできる。
【0016】
第1受信子201及び第2受信子202は規格が共通のものを用い、検査面への接触状態等が同じ条件となるようにコンクリート構造物1の表面に取り付けられている。本発明の実施形態に係る検査装置10では、第1受信子201及び第2受信子202として加速度センサを用いたが、受信子としては加速度センサに限らず、コンクリート構造物1表面の振動状態を検知するものであれば、マイクロホン或いはレーザー振動計などの非接触型の振動検出センサなどといったものを用いることができる。
【0017】
また、第1受信子201や第2受信子202などの本実施形態に係る検査装置10で用いられる受信子には、検知した振動に係る物理量データをパーソナルコンピュータ300に送信可能なデータ出力部が設けられている。
【0018】
パーソナルコンピュータ300は現在普及している一般的なものを用いることができるが、本実施形態においては、少なくとも第1受信子201及び第2受信子202から送信される振動に係る物理量データを受信可能なインターフェイス手段を有するパーソナルコンピュータ300が用いられる。
【0019】
また、パーソナルコンピュータ300には、第1受信子201及び第2受信子202から取得された振動に係る物理量データをデータ処理することためのCPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなど基本的な情報処理機構を有している。また、パーソナルコンピュータ300は、データ処理を行った結果を表示することが可能なディスプレイなどの表示手段を備えてなるものである。
【0020】
以上のように構成される本実施形態に係る検査装置10による検査手順としては、検査
対象領域上に仮想的な格子点を設定しておき、打突振動子100により一つの格子点を打突して振動を発生させて、この振動を第1受信子201及び第2受信子202によって取得する。これを全ての格子点について、順次実施することによって、検査対象領域全てに対する検査を完了する。
【0021】
次に、以上のように構成される本実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理について説明する。図2は本発明の実施形態に係る検査装置10におけるデータ処理の流れの概略を示す図である。
【0022】
図2において、ステップS100でデータ処理が開始されると、続いてステップS101で、第1受信子201によりコンクリート構造物1表面の振動に係る物理量を取得する。次のステップS102においては、打突振動子100による打突位置と第1受信子201との間の距離r1に応じた補正を行い、第1補正物理量を取得する。ここで、ステップ
S102における補正は打突振動子100による打突位置から第1受信子201が固定されている第1位置までに、振動に係る物理量が伝達する間に、距離によって当該物理量が減衰する分を補う補正である。すなわち、打突位置と第1位置との間の距離に基づく距離減衰分が補正された物理量が、第1補正物理量である。ステップS103においては、第1補正物理量から表面波に係る第1物理量(A1)抽出する処理を実行する。
【0023】
ステップS104においては、第2受信子202によりコンクリート構造物1表面の振動に係る物理量を取得する。次のステップS105においては、打突振動子100による打突位置と第2受信子202との間の距離r2に応じた補正を行い、第2補正物理量を取
得する。先ほどと同様に、ステップS105における補正は打突振動子100による打突位置から第2受信子202が固定されている第2位置までに、振動に係る物理量が伝達する間に、距離によって当該物理量が減衰する分を補う補正である。すなわち、打突位置と第2位置との間の距離に基づく距離減衰分が補正された物理量が、第2補正物理量である。ステップS106においては、第2補正物理量から表面波に係る第2物理量(A2)抽出する処理を実行する。
【0024】
ステップS107においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)を算出する。なお、本実施形態においては、第2物理量を第1物理量によって除するような算出を行ったが、第1物理量を第2物理量によって除するような算出を行うように定義することもできる。また、加速度を対数表示した場合は差分をとればよい。
【0025】
第1受信子201及び第2受信子202として、加速度計を使用する場合は振動を、また、マイクロホンを使用する場合は音圧を測定するが、いずれの場合においても、ステップS107においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)、すなわち比を算出する。
【0026】
ステップS108においては、打突位置に応じたステップS107による算出値をマッピングする。
【0027】
ステップS109では、予め決められた検査対象領域の全てについて、マッビングが済んだか否かが判定される。ステップS109における判定がNOであるときには、ステップS110に進み、打突振動子100を移動して、次の移動先の物理量を取得するループに戻る。
【0028】
一方、ステップS109における判定がYESであるときには、ステップS111に進み、マップに基づき, 検査対象領域の全てのマッビング結果を表示する。また、このステップS111においては、マップに基づきひび割れ深さ及び位置を特定する。ステップS
111に続く、ステップS112で、処理を終了する。
【0029】
ステップS111において、マップに基づき,ひび割れ深さ及び位置を特定するが、本
発明に係る検査装置においては、ひび割れ深さ及び位置を特定する方法については、例えば、呉佳曄・堤知明・江川顕一郎「表面波を用いたひび割れ深さの新しい測定技術」,JSDNIシンポジウム「コンクリート構造物の非破壊検査への期待」論文集,pp.243−252,2003などに開示されている方法を適宜採用することができる。ステップS111は、特許請求の範囲において、ひび割れ深さ特定手段、及び、ひび割れ位置特定手段として現されるものである。
【0030】
ここで、ステップS103における第1物理量(A1)を抽出する処理、ステップS106における第2補正物理量(A2)を抽出する処理についてより詳しく説明する。図3は第1受信子201(図3(A))及び第2受信子202(図3(B))で取得された物理量に対して、ステップS102、S105で距離減衰補正を行った振動波形を略式的に示す図である。
【0031】
図3において、振幅が小さい方の波形は第1受信子201で検出されるP波(縦波成分)であり、振幅の大きい方の波形は第1受信子201で検出される表面波(成分)である。打突振動子100と第1受信子201との間の距離r1は既知であり、なおかつ打突振
動子100がコンクリート構造物1表面を打突する周波数、打突振動子100が打突を開始する時刻t1はコントロールされたものであるので、第1受信子201にP波が到達す
る時刻t2、及び、第1受信子201に表面波が到達する時刻t3の概略についてはある程度予想することができる。
【0032】
そこで、本発明の実施形態に係る検査装置10においては、第1受信子201に時刻t2前後に到達する振幅の小さい波についてはデータとして取得せず、第1受信子201に
時刻t3前後に到達する振幅の大きい波の振幅データを、表面波の大きさと関連する物理
量として抽出するようにされている。より具体的には、図3に示す振幅の大きい波の最初の振幅A1を、第1受信子201での測定から抽出される第1物理量A1として取得する。本実施形態に係る検査装置10が、このような物理量を抽出する工程については、フィルタ工程と称することとする。
【0033】
同様に、打突振動子100と第2受信子202との間の距離r2は既知であり、なおか
つ打突振動子100がコンクリート構造物1表面を打突する周波数、打突振動子100が打突を開始する時刻は制御可能であるので、本実施形態に係る検査装置10においては、第2受信子202に時刻t4前後に到達する振幅の小さい波についてはデータとして取得
せず、第2受信子202に時刻t5前後に到達する振幅の大きい波の振幅データを、第2
受信子202における表面波の大きさと関連する第2物理量A2として取得する。
【0034】
本実施形態に係る検査装置10によるデータ処理を行った結果について図4を参照して説明する。図4は、予め定められた格子点上を打突振動子100で打突して、第1受信子201及び第2受信子202によって収集した検査データを処理したものであり、格子点における(第2物理量A2)/(第1物理量A1)の算出値が、20〜30であるとき、10〜20であるとき、0〜10であるとき、−10〜0であるとき、−20〜−10であるとき、−30〜−20であるとき、−40〜−30であるとき、それぞれに応じて色分けして表示したものである。
【0035】
検査装置10によって検査データを取得する上で、ひび割れを模擬するため意図的に2本のスリットを図4に示すように予め設けておいた。図4からわかるように、スリットを境界として、表示パターンが変化する傾向があることがわかる。
【0036】
このように、本発明に係る検査装置10によれば、予め所定位置に固定しておいた複数の受信子から取得した、表面波の大きさと関連する物理量の比(又は対数表示の場合は差分)に基づいて、検査対象領域におけるひび割れに関する情報を推定することが可能となる。本発明に係る検査装置10によれば、ひび割れの近傍で検査を実施する必要はなく、また、分析に要する時間もわずかであり、効率的に広範囲の構造物表面を検査することが可能となる。そして、このような本発明に係る検査装置10によれば、合理的な補修計画を行うことができる。
【0037】
ところで、コンクリート壁に近接して、図5に示すような配管などが設けられているなどの理由により、検査対象領域によっては、全ての検査対象領域にわたって打突振動子100による打突を行うことができない場合があるが、本発明に係る検査装置10によれば、打突振動子100による打突を行うことができない箇所を除く箇所から検査データを取得することにより、ひび割れに関する情報をおおよそ推定することが可能となる。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係る検査装置10が用いる測定原理について説明する。図6は本発明の実施形態に係る検査装置10の測定原理の概略を説明する図であり、図7は表面波の垂直分布の概略を示す図である。以下に説明する測定原理においては、ひび割れによる表面波のエネルギーの減衰について論じている。
【0039】
ひび割れ(スリット)による表面波の減衰量は、スリットによって伝搬を阻害された表面波のエネルギーが減衰するとして理論化することができる。上下方向の振幅を持つ表面波の振幅分布は、図7のようになるとされている。
このときの分布式は
【0040】
【数1】
として現すことができる。
【0041】
ここで、λは入力波動の波長、Dはひび割れ(スリット)の深さである。係数Aはスリット深さが波長と等しいとき、振幅が1/4になると仮定すると、A=−1.3863となる。
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
スリット深さがDの時、その深さまでに分布するエネルギー量は、
【0044】
【数4】
である。なお、全エネルギーは、D→∞とすれば良いので、Eo=−λ/2Aである。減
衰量の比率は、
【0045】
【数5】
となる。
スリット通過後は、このエネルギーで再び表面波として振幅分布する。すなわち、
【0046】
【数6】
これから、ひび割れ(スリット)深さDの時、測定した振動の減衰量(dB)は、
【0047】
【数7】
となる。なおuは、ひび割れ(スリット)に関係なく上下方向振動成分を持つ表面波の深さDでの振幅である。
【0048】
次に、本発明に係る検査装置に用いられている表面波の捉え方について説明する。図8に本発明に係る検査装置における表面波の捉え方を実測値に基づいて説明する図である。波動が上向きになる最初のピーク(▽印)は、その到達時間から、スリットの先端を回折した縦弾性波と考えられる。波動が下向きになる最初のピーク(▲印)は表面波と見なせる。減衰量(dB)は、第1受信子201に対する第2受信子202のレベル差から算出している。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図9は本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。先の実施形態においては検査対象領域の両端に第1受信子201及び第2受信子202の2つの受信子を設けるようにしていたが、本実施形態においては、検査対象領域の4隅に第1受信子201、第2受信子202、第3受信子203、第4受信子204からなる4つの受信子を設けるようにした。また、第1受信子201から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第1物理量(A1)を抽出し、同じく、第2受信子202から、先の実施形態で説明したものと同様の処理に
より第2物理量(A2)を抽出し、第3受信子203から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第3物理量(A3)を抽出し、第4受信子204から、先の実施形態で説明したものと同様の処理により第4物理量(A4)を抽出する。
【0050】
先の実施形態においては、(第2物理量A2)/(第1物理量A1)を算出しマッピングを行う処理を行ったが、本実施形態においては、第1物理量(A1)、第2物理量(A2)、第3物理量(A3)、第4物理量(A4)のうちの任意の2つの物理量の比を算出してマッピングを行うことにより合計6種類の異なるマップを表示させることが可能となる。このような実施形態によれば、検査対象領域におけるひび割れに関する情報をより確度高く推定することが可能となる。
【0051】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図10は本発明の他の実施形態に係る検査装置10の概要を模式的に示す図である。本実施形態においては、打突振動子にはその位置情報を取得するための情報を発信することが可能な位置情報発信機能付き打突振動子110が用いられており、また、受信子としても打突振動子から発信される位置情報を取得可能な位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212が用いられる。また、位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212は、パーソナルコンピュータ300に出力するようになっている。本発明においては、打突振動子の位置情報を自動的に取得することが可能である点を除いて、検査データの処理等はこれまで説明した実施形態と同様のものが用いられるので、本実施形態に係る、打突振動子の位置情報を取得するための原理について以下説明する。
【0052】
図11は本発明の他の実施形態に係る検査装置10における打突振動子の位置情報取得方法を説明する図である。
【0053】
位置情報発信機能付き打突振動子110には、赤外線発生回路と超音波発生回路とこれらを制御する制御手段を有している。この制御手段は、位置情報発信機能付き打突振動子110で検査対象領域の打突を行ったときに、赤外線発生回路によって赤外線信号を発生させ、また、超音波発生回路によって超音波信号を発生させるように構成されている。
【0054】
また、一方、位置情報受信機能付き第1受信子211及び位置情報受信機能付き第2受信子212には、赤外線受光部と超音波受信部を有しており、位置情報発信機能付き打突振動子110から発生させる赤外線信号及び超音波信号を受信可能に構成されている。
【0055】
赤外線信号が赤外線受光部に到達する時間と、超音波信号が超音波受信部に到達する時間の差分から、位置情報受信機能付き第1受信子211で受信される信号から図11に示す距離r1が算出され、また、位置情報受信機能付き第2受信子212で受信される信号
から図11に示す距離r2が算出される。このようにして、本実施形態では、位置情報発
信機能付き打突振動子110と位置情報受信機能付き第1受信子211との間の距離r1
、及び位置情報発信機能付き打突振動子110と位置情報受信機能付き第2受信子212との間の距離r2が求まり、これにより位置情報発信機能付き打突振動子110の打突位
置の座標(x,y)を算出することができるようになる。
【0056】
本実施形態によれば、これまで説明した実施形態と同様の効果に加えて、打突振動子の位置情報を簡便に取得することが可能となり、検査工程やデータ処理を効率的に行うことが可能となる、という効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0057】
1・・・コンクリート構造物、10・・・検査装置、100・・・打突振動子、110・・・位置情報発信機能付き打突振動子、201・・・第1受信子、202・・・第2受信
子、203・・・第3受信子、204・・・第4受信子、211・・・位置情報受信機能付き第1受信子、212・・・位置情報受信機能付き第2受信子、300・・・パーソナルコンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、
前記検査面における第1位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第1受信子と、
前記検査面における第2位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第2受信子と、
前記第1受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第1位置との間の距離に応じた補正を行い、第1補正物理量を得る第1補正手段と、
前記第2受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第2位置との間の距離に応じた補正を行い、第2補正物理量を得る第2補正手段と、
前記第1補正手段によって得られた前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と、
前記第2受信子によって検知された前第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量との比を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、
前記検査面の複数の位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する複数の受信子と、
前記複数の受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記複数の受信子それぞれの固定位置との間の距離に応じた補正を行い、複数の補正物理量を得る補正手段と、
前記補正手段によって得られた前記複数の補正物理量から、表面波の大きさと関連する複数の物理量を抽出するフィルタ手段と、
前記フィルタ手段によって抽出された前記複数の物理量のうちの任意の2つの物理量の比を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ深さを特定するひび割れ深さ特定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ位置を特定するひび割れ位置特定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項1】
検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、
前記検査面における第1位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第1受信子と、
前記検査面における第2位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する第2受信子と、
前記第1受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第1位置との間の距離に応じた補正を行い、第1補正物理量を得る第1補正手段と、
前記第2受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記第2位置との間の距離に応じた補正を行い、第2補正物理量を得る第2補正手段と、
前記第1補正手段によって得られた前記第1補正物理量から、表面波の大きさと関連する第1物理量を抽出する第1フィルタ手段と、
前記第2受信子によって検知された前第2補正物理量から、表面波の大きさと関連する第2物理量を抽出する第2フィルタ手段と、
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量との比を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
検査面における所定位置を所定周波数で打突する打突振動子と、
前記検査面の複数の位置に固定されると共に、前記検査面の振動に係る物理量を検知する複数の受信子と、
前記複数の受信子によって検知された前記検査面の振動に係る物理量に対し、前記打突振動子による打突位置と前記複数の受信子それぞれの固定位置との間の距離に応じた補正を行い、複数の補正物理量を得る補正手段と、
前記補正手段によって得られた前記複数の補正物理量から、表面波の大きさと関連する複数の物理量を抽出するフィルタ手段と、
前記フィルタ手段によって抽出された前記複数の物理量のうちの任意の2つの物理量の比を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された比を、前記打突振動子による打突位置と対応させて表示する表示手段と、を有することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ深さを特定するひび割れ深さ特定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第1フィルタ手段によって抽出された第1物理量と、前記第2フィルタ手段によって抽出された第2物理量から、ひび割れ位置を特定するひび割れ位置特定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−242269(P2011−242269A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115166(P2010−115166)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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