説明

検査装置

【課題】本発明は、偽造が困難であり、信頼性の高い認証用情報媒体を備え、物品の真正性を保証する能力の高い検査装置を提供を目的とする。
【解決手段】本発明の検査装置は、核酸含有インキ層を一部に含む被検査体の検査装置であって、載置台と、光源と、光学フィルターと、検出部と、光を遮断する筐体と、からなり、前記被検査体に複数の異なる波長の励起光を照射し、所定の波長域の光学フィルターを介して被検査体からの励起光を検出することで、核酸含有インキに特有な波長の光を検出するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止分野において、クレジットカード等の物品に貼り付けて使用する真贋判定用媒体の真正性を判定するための検査装置に関するものであり、より具体的には、偽造が困難であり、信頼性の高い認証用情報媒体を備え、上記物品の真正性を保証する能力の高い真贋判定用媒体の真正性を判定するための検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の検査装置の検査対象である真贋判定用媒体の主なる用途としては、偽造防止分野において使用される転写箔、転写リボン、又はホログラムシート等であって、具体的には、クレジットカード等の偽造されて使用されるとカード保持者やカード会社等に損害を与え得るもの、運転免許証、社員証、会員証等の身分証明書、入学試験用の受験票、パスポート、紙幣、商品券、ポイントカード、株券、証券、抽選券、馬券、預金通帳、乗車券、通行券、航空券、種々の催事の入場券、遊戯券、交通機関や各種電話用のプリペイドカード等が挙げられる。すなわち、上記真贋判定用媒体は、経済的又は社会的な価値を有する情報や、本人識別等の情報を保持した情報記録媒体であり、偽造による損害を防止する目的で、記録媒体そのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる物品の検査に適用される。
【0003】
また、上記した用途以外であっても、高額商品、例えば高級腕時計、高級皮革製品、貴金属製品又は宝飾品等の、しばしば高級ブランド品と言われるもの、または、それら高額商品の収納箱やケース等、また量産品でも有名ブランドのもの、例えばオーディオ製品、電化製品等、またはそれらに吊り下げられるタグ、さらに、著作物である音楽ソフト、映像ソフト、コンピュータソフト又はゲームソフト等が記録された記憶媒体、又はそれらのケース等にも適用することができる。
さらにまた、プリンター用のトナーや用紙など、交換する備品を純正材料に限定している製品など、偽造による損害を防止する目的でそのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる物品にも適用することができる。
さらに、一層高い信頼性を必要とする社会的価値の非常に高いもの、例えば有名創作者による絵画、彫刻等の芸術品、世界的にその存在を認識されている古美術品、宝飾品、100年近く熟成されたワイン等の再び製造することが非常に困難な農産品、さらには、真正なものが世の中に僅かしか存在しないために高価なもの、または、真正なものが世の中に1つしか存在しない性質の書類等(契約書、遺言状等)にも好適に適用することができる。
【0004】
従来、上記物品の偽造を防止する目的で、その構造の精密さから、製造上の困難性を有
すると言われるホログラムを真正性の識別可能なものとして適用することが多く行なわれ
ている(例えば特許文献1参照)。
また、単に目視による判定ではなく機械的に判定する手段としては、特殊な印刷と蛍光染料とを組み合わせた媒体を用意しておき、当該媒体に対して特定の励起光を照射した際に生ずる蛍光を機械的に検出する装置もある(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、ホログラムの製造方法自体は知られており、その方法により精密な加工を施すことができることから、ホログラムが単に目視による判定だけのものであるときは、真正なホログラムと偽造されたホログラムとの区別は困難である。また、蛍光染料と組み合わせた印刷物も同様であって、新たな真正性識別方法を用いてその対象物の真正性を識別する必要が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−155199号公報
【特許文献2】特開2002−274000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決し、偽造が困難であり、信頼性の高い認証用情報媒体を備
え、上記物品の真正性を保証する能力の高い検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々研究の結果、核酸と蛍光染料とを含む核酸含有インキ組成物が特殊な条件下で発する光を検出することで、上記の目的を達成することを見出した。
【0008】
本発明の第一の態様は、核酸と蛍光染料を含有する核酸含有インキ層を少なくとも一部に含む被検査体の検査装置(20)であって、被検査体を所定位置にセッティングする被検査体の載置台(25)と、前記被検査体に複数の異なる波長の励起光を照射する光源(21)と、前記被検査体に照射した所定波長域の励起光(P1)によって励起されて発光した光(P2)の少なくとも一部を通過させる光学フィルター(23)と、前記光学フィルターを通過した光を検出する検出部(22)と、前記光源(21)、光学フィルター(23)ならびに検出部(22)を所定位置に固定し、かつ、前記被検査体に対する外部からの光を遮断する筐体(24)と、によって核酸と蛍光染料の組み合わせから決定される特有な波長の光を検出可能にしたことを特徴とする検査装置である。
【0009】
本発明の第二の態様は、上記光源は、核酸と蛍光染料の種類に応じて発光波長域が設定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第三の態様は、上記光学フィルターは、核酸と蛍光染料の種類に応じて通過波長域が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、核酸含有インキ層を極めて小さい領域に設け、且つ、その中に含有される核酸濃度を検出限界に設定した真贋判定用媒体に対して複数の異なる波長の励起光を当該領域に照射することで前記核酸と蛍光染料の組み合わせから決定される特有な波長の光の有無の検出だけで真正性の判定をなし得るものである。
このように本発明によれば簡便な装置ながら従来の単なる蛍光を検出する装置に比べて極めて信頼性の高い検査ができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の検査装置による検査対象となる核酸含有インキ層を極めて小さい領域に設ける一手段として採用した転写体の層構成を示す概略的断面図である。
【図2】本発明の検査装置の構造を示す概略的断面図である。
【図3】本発明の検査装置に用いる励起用光源の制御手段の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]初めに、本発明の検査装置による検査対象となる被検査体(真贋判定用媒体)について説明する。被検査体には核酸含有インキ層が極めて小さい領域に設けられている。
上記核酸含有インキ層を極めて小さい領域に設ける一手段として採用した転写体の層構成を例に挙げて説明する。
【0014】
[1−1]転写体の層構成
本発明にかかる転写体としては、例えば、図1に示すように、転写基材1、ホログラム形成層2、反射性薄膜層3、接着剤層4、反射性薄膜層3と接着剤層4との間に部分的に設けられた核酸含有インキ層5からなることを基本構造とする転写体を挙げることができる。
【0015】
また別の例としては、核酸含有インキ層を設けた部分と設けていない部分とからなる反射性薄膜層上の凹凸を平滑化するために、凹部を埋設するための平滑化層を積層し、次いで接着剤層を積層した転写体を挙げることができる。
また別の例としては、転写基材1とホログラム形成層2との間に剥離層及び保護層を設け、転写基材/剥離層/保護層/ホログラム形成層/反射性薄膜層/核酸含有インキ層/接着剤層の層構成を有する転写体とすることもできる(以下本発明において、層間に使用する「/」は層間の境界面を意味する)。ここでさらに、剥離層及び保護層のいずれか一方を有しない層構成であってよい。
【0016】
(転写基材)
上記転写体において使用される転写基材は、転写体の製造時に、被転写体へ転写される転写層を積層するための支持体となるものである。本発明の転写体を、被転写体となる物品上に、その接着剤層が物品表面と対向するように重ね合わせ、転写層を、支持体たる転写基材から物品表面に転写印刷し、その後、転写基材1を剥離して取り除く。
【0017】
(剥離層)
上記転写体の転写印刷時の加熱により、転写基材から、被転写体である物品へ転写する転写層の一部を構成する層として、場合により、基材と直接に接する層として剥離層を形成してもよい。この剥離層を有していることにより、その熱転写シートから転写層を確実に、かつ容易に被転写体へ転写させることができる。
【0018】
(保護層)
上記転写体の転写基材上に設ける転写層の一部を構成する層として、以下に説明するホログラム形成層と直接に接し、該層を保護するための層として、場合により、保護層を形成してもよい。
【0019】
(ホログラム形成層)
上記転写体の転写基材上に設ける転写層の一部を構成する層として、上記転写基材上に、又は剥離層を設けた場合は剥離層上に、及び/又は保護層を設けた場合は保護層上に、ホログラムを形成するホログラム形成層が設けてもよい。
上記転写体において、ホログラム形成層により形成されるホログラムは、従来より既知のいかなるホログラムであってもよく、またそれらの組み合わせであってもよい。例えば、その表面に凹凸が賦型された表面レリーフ型ホログラム形成層であってよく、また、その形成材料内に干渉縞が記録されることによりホログラムが形成されていることを特徴とする体積型ホログラム形成層であってもよい。特に、表面レリーフ型ホログラムは、熱による転写印刷に際して箔切れがよい点において好ましい。
【0020】
(反射性薄膜層)
上記転写体において、転写基材上又は剥離層上又は保護層上に設けたホログラム形成層の上に、ホログラムの反射及び/又は回折効果を高めるために、一部または全面に反射性薄膜層を形成する。形成方法としては、昇華、蒸着、CVD(化学蒸着)、スパッタリング、反応性スパッタリング、イオンプレーティング、電気メッキ等の公知の方法が使用可能である。
反射性薄膜層としては、ホログラム効果を発現できるものであればいかなるものも使用することができ、例えば、真空薄膜法などによる金属薄膜などの金属光沢反射性薄膜層、又は透明反射性薄膜層のいずれでもよい。
【0021】
透明反射性薄膜層としては、ほぼ無色透明な色相で、その光学的な屈折率がホログラム形成層のそれとは異なることにより、金属光沢が無いにもかかわらず、ホログラムなどの光輝性を視認できるから、透明なホログラムを作製することができる。例えば、ホログラム形成層よりも光屈折率の高い薄膜、および光屈折率の低い薄膜とがあり、前者の例としては、ZnS、TiO2、Al23、Sb23、SiO、SnO2、ITO等があり、後者の例としては、LiF、MgF2、AlF3がある。好ましくは、金属酸化物又は窒化物であり、具体的には、Be、Mg、Ca、Cr、Mn、Cu、Ag、Al、Sn、In、Te、Fe、Co、Zn、Ge、Pb、Cd、Bi、Se、Ga、Rb、Sb、Pb、Ni、Sr、Ba、La、Ce、Au等の酸化物又は窒化物他はそれらを2種以上を混合したもの等が例示できる。またアルミニウム等の一般的な光反射性の金属薄膜も、厚みが200Å以下になると、透明性が出て使用できる。透明金属化合物の形成は、金属の薄膜と同様、ホログラム形成層上に、10〜2000nm程度、好ましくは20〜1000nmの厚さになるよう設ければよい。
【0022】
[1−2]核酸含有インキ層
上記転写体おいて、反射性薄膜層上に、核酸含有インキ層が部分的に設けられる。核酸含有インキ層は、核酸と蛍光染料とを含む核酸含有インキ組成物からなる層である。
【0023】
(核酸)
核酸は、DNA(核内DNA及び核外DNAを含む)、RNA及びこれらの誘導体であって、天然由来及び人工型のいずれであってもよく、また、該核酸を構成するヌクレオチドは、天然に存在するものであっても、人工で製造されたものであってもよい。さらに、該核酸は、一本鎖断片及び二本鎖断片のいずれの形態であってもよく、またその長さは、真正性認証の用途に応じて、約100塩基/塩基対未満のオリゴマーであっても、それ以上のヌクレオチドからなるポリマーであってもよい。個体識別を目的とする場合には、好ましくは10塩基/塩基対以上、より好ましくは100塩基/塩基対以上の長さを有する核酸断片を使用することが好ましい。また、製造及び検出時の取り扱い性、並びに保存安定性、分解の受け易さ等の観点から、各断片の長さが1000塩基/塩基対以下、さらに適当には500塩基/塩基対以下となるように合成するか、又は制限酵素で切断すると好適である。
【0024】
本発明の検査装置の検査対象となる真贋判定用媒体おいて、生体、例えばヒトの細胞からDNAを注出し、これを例えば制限酵素により分解して得られるものを、核酸含有インキ組成物の他の成分と混合してもよい。また、その中の特定の配列、好ましくは特定の多型領域、好ましくはSTR配列をPCRで増幅して用いることもできる。さらに、ヒト以外の動物及び植物細胞由来のDNA又はRNAを用いることもできる。また一方で、従来より既知の化学合成法により合成された核酸を使用してもよい。
上述のようにして得られた核酸は、必要に応じて、1種類の配列を有する断片のみからなっても、それぞれ異なる配列を有する断片の混合物であってもよい。
上記核酸は、核酸含有インキ組成物中の固形分100gに対して、1×10-2〜1×105μg、好ましくは1〜1×104μgの割合で配合されることが好ましい。核酸含有インキ層中に、1以上の核酸が含まれていることが必須であり、1×10-2μgより少ないと、転写体から核酸含有インキ層が設けられた特定部位を切り出し、核酸を採取して配列決定することが困難と成り得る。また、1×105μgより多いと、核酸含有インキ層を取り囲む接着剤層又は平滑化層との屈折率を合わせることが難しくなり、外部から視認し易くなるため、好ましくない。また、製造時に目的の組成物外へも核酸が混入してしまうコンタミネーションの確率も高くなる。
【0025】
(蛍光染料)
また、上記核酸含有インキ層を構成する核酸含有インキ組成物において、蛍光染料は、従来より一般的に用いられる種々の蛍光染料を使用してよい。
具体的には、有機蛍光染料および無機蛍光染料等が使用でき、有機蛍光染料としては、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、イミダゾール誘導体、クマリン誘導体、トリアゾール、カルバゾール、ピリジン、ナフタル酸、イミダゾロン等の誘導体、フルオレセイン、エオシン等の色素、アントラセン等のベンゼン環を持つ化合物などが挙げられる。また、無機蛍光染料としては、例えば、Ca、Ba、Mg、Srなどの酸化物、硫化物、ケイ酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩のなどの結晶を主成分とし、Eu、Mn、Pb、Fe、Mn、Zn、Ag、Cuなどの金属元素または希土類元素をドープ剤として添加した顔料を用いることができる。
【0026】
さらに、核酸が二本鎖である場合には、その二重らせん構造内に入り込み、二本鎖核酸−蛍光染料複合体を形成する蛍光染料を好ましく使用することができる。本発明の核酸含有インキ組成物において、このような蛍光染料と二本鎖核酸との組み合わせを用いると、蛍光染料の有する電子雲が、二重らせん構造の塩基対の電子雲と強い相互作用を発揮し、該二重らせん構造を物理的に強固なものとし、分解に対する耐性及び安定性が高まる。このような蛍光染料としては、3次元立体構造をとらず、2次元平面構造であって、約0.4nm×1.0〜1.4nm程度のサイズを有し、ベンゼン環が3つ繋がるもの(アントラセン骨格、フェナントレン骨格)、又は2つのベンゼン環に一つのフェニル基が置換基として繋がるものを骨格とするものが挙げられる。具体的には、アントラセン骨格、フェナントレン骨格、ジベンゾフラン骨格、アントラキノン骨格、インジゴ、チオインジゴ骨格、ジフェニルメタン骨格、トリフェニルメタン骨格、キサンテン骨格、アントシアニン骨格、フルオロセイン骨格、ローダミン骨格、チアジン骨格、ベンジジン骨格、ジトリジン骨格、ジアニシジン骨格、ジアミノアクリジン骨格等に助色団等を置換したものが挙げられる。これらの蛍光染料は、炭素環又は複素環骨格が一平面を為し、その平面上にπ電子の繋がりからなる電子雲をその平面の上下に有し、この電子雲と、塩基対の電子雲とが0.2nm程度の距離にあって相互作用を発現し、且つ、蛍光染料の両端が、DNAらせん構造の柱を構成している燐酸・リボゾーム構造の酸素と相互作用する。フェナントレン骨格に一つのベンゼン環(フェニル基)が付加し、助色団として2つのアミノ基をもつ臭化エチジウム、アクリジンオレンジ、サイバーグリーンI及びII、ナフタレンジイミド骨格に置換基として、希土類錯体を付与した蛍光染料は、該複合体を形成することができる代表的な蛍光染料であり、またその物理的安定性から好適に使用することができる。
【0027】
本発明にの検査対象となる真贋判定用媒体おいて、核酸含有インキ組成物は、その物理的安定性の観点から、二本鎖DNAと、二重らせん構造中に入り込んで複合体を形成することができる蛍光染料との組み合わせを含有することが好ましい。このようなDNA含有インキ組成物は、本発明の転写体において、接着剤層や平滑化層の樹脂組成物に被覆されて存在する条件下で、極めて長期にわたって、高い構造安定性を示し、優れた耐光性及び耐候性といった保存安定性を有する。
さらに、二重らせん構造中に入り込んで複合体を形成する上記蛍光染料は、その際に、非共有結合性の相互作用による影響を受け、蛍光を発光する励起状態−基底状態間のエネルギーギャップが狭められ、蛍光波長の長波長シフトが発現する。例えば、アクリジンオレンジは、通常は励起光460nmに対して、650nmの蛍光を発するが、二重らせん構造中に入り込んで複合体を形成すると、励起光500nmに対して526nmの蛍光を発するようになる。この波長のシフトを厳密に管理することによって、例えば、転写層を切出して核酸を採取する破壊検査を行わずとも、特定の部分に特定の励起波長を照射することによって、特定の蛍光波長を発するかどうかの非破壊検査が可能になる。
【0028】
本発明の検査対象となる真贋判定用媒体おいて、上記蛍光染料は、核酸含有インキ組成物中の固形分100gに対して、0.001〜1000μg、好ましくは、0.01〜100μgの割合で配合されることが好ましい。0.001μgより少ないと、真正性を判定する際の信頼性が不十分となるため、また、1000μgより多いと、核酸に取り込まれていない蛍光染料の割合が増加し、その安定性が低下するとともに、蛍光染料そのものの存在自体が露呈しやすくなるため、好ましくない。
【0029】
(核酸含有インキ組成物)
上記の核酸及び蛍光染料を、従来より既知の方法によりインキ化することができる。例えば、核酸及び蛍光染料を、溶媒、及びその他の成分、例えばビヒクル及び種々の添加剤と適宜混合し、インキ組成物とすることができる。
【0030】
(層形成)
上記転写体において、上記のようにして得られた核酸含有インキ組成物を、反射性薄膜層上の任意の部分に、任意の厚さで、適宜に印刷形成することができる。印刷形成は、例えばグラビアコーティング方式、オフセット印刷方式、活版印刷方式、スクリーン印刷方式、カーテンコート方式、インクジェット方式等を使用することができる。
上記転写体は、従来の偽造防止技術より著しく高い信頼性を必要とするものであって、転写体中に含有される核酸濃度を、検出限界に近づけることにより、その効果は一層高まる。したがって、誤検出を限りなくゼロとし、精密な検出を行うために、核酸の僅かなコンタミネーションをも防ぐことが重要となる。このことから、印刷基材、印刷版、インキ等全てをバッチ式処理することが可能であるスクリーン印刷方式は、核酸のコンタミネーションを防ぎ、且つ反射性薄膜層上の目的の位置に正確にスポット印刷を行うことができるため、本発明において特に好適に用いることができる。特に、使用する核酸含有インキ組成物の飛沫の空中浮遊等による付着等を蛍光検出等により確認する場合には、検出精度の高いステンレススクリーン印刷方式を好適に使用することができる。また、スクリーン印刷を実施する際、そのインキ供給ユニットを完全密閉型とし、スクリーン版の印刷領域の周辺を隔離することも容易である。特に、上記核酸含有インキ層の印刷領域は小面積であることが望ましく、10μm2程度の大きさで1箇所に印刷することも、スクリーン印刷方式では可能である。
【0031】
上記核酸含有インキ層は、含有される核酸のサイズ及び濃度に応じて、適宜の厚さで形成することができるが、検出適性及び隠蔽性の観点から、0.1〜5μm、特に0.1〜2μmの厚さで形成することが好ましい。同様に、10〜5×108μm2、より好ましくは100〜5×106μm2の面積に形成することが好ましい。そしてこのときに、核酸含有インキ層の占有面積1cm3あたりに1012〜1020個、好ましくは1012〜1015個の核酸断片が存在するように、核酸のサイズ、濃度及び形成面積、形成厚さを調整することが好ましい。
【0032】
(接着剤層)
上記転写体において、反射性薄膜層上に、上記核酸含有インキ層を部分的に設けた後で、接着剤層が設けられる。
該接着剤層は、常温または常圧では接着性がなく、加熱または加圧した時にのみ接着力を発揮する感熱または感圧接着剤であれば特に限定されない。
【0033】
上記のような樹脂を熱で熔融させて液状とし、ロールコート法、コンマコート法、ホットマルトアプリケーター法等で、塗布し冷却すればよい。
接着剤層の厚さは適宜に設定することができるが、好ましくは1〜5μm、特に好ましくは2〜4μmである。1μm以下であると、十分な接着性が得られない場合があり、また5μm以上であると、加熱又は加圧時に箔切れが悪い場合がある。
上記接着剤層を構成する接着剤組成物中に、必要に応じて、白色顔料、体質顔料、蛍光増白剤等の種々の添加剤を加えてもよい。
なお、感熱又は感圧接着剤以外にも、種々の任意の粘着剤を使用することも可能ではあるが、その場合には、物品表面に適用する際に剥離される剥離フィルムが、層表面に貼着されて用いられる。
【0034】
(平滑化層(図示せず))
上記転写体において、反射性薄膜層上に、上記核酸含有インキ層を部分的に設けた後、必要に応じて、核酸含有インキ層を設けた部分と設けていない部分とからなる反射性薄膜層上の凹凸を平滑化するために、凹部を埋設するための平滑化層を積層し、その後で、上記接着剤層を積層してもよい。
【0035】
(物理的安定性)
本発明のような偽造防止分野において、転写体には、通常1年以上、さらには5年以上の安定した真正性保証能力が求められる。本発明の構成を有することにより、比較的易分解性とされる核酸であっても、上記要求に耐える耐候性、耐光性、物理的安定性を発揮することができる。なお、転写層を構成する各層、すなわち、剥離層、保護層、ホログラム形成層、反射性薄膜層、核酸含有インキ層、平滑化層及び接着剤層のうちの少なくとも1つの層に、紫外線吸収剤を含有させることにより、紫外線等による経時劣化を抑制し、含有される核酸の物理的安定性を更に高め、配列情報を長期にわたって保存することができる。
【0036】
[2]検出原理ならびに検出装置
[2−1]検出原理
上記で、核酸含有インキ層は好ましくは小面積に設けられ、且つ外部から視認されにくいため、偽造しようとする者だけでなく、正当な検出者にとっても不便が生じる場合もある。したがって、そのような不便を解消するために、転写層を構成する少なくとも1つの層に、核酸含有インキ層を設けた部分の位置を検出するための1つ又は複数の検出用マークを設けてもよい。これにより、正当な検出者は、当該検出用マークを基準に、上記転写体からの転写層が適用された物品の位置合わせを行い、核酸含有インキ層を設けた部分に蛍光が検出されるかどうか、またその蛍光波長が真正なものであるかどうか、さらに当該部分に含有される核酸が正当な配列情報を有しているかどうか、を検査する。
【0037】
このような検出用マークとしては、目視可能な印刷、切り欠き、ホログラム画像の一部等によるものであってもよく、又はレーザー再生ホログラムのように、通常の環境下では視認できないものであってもよい。
さらに、情報の漏出に対抗し、核酸の不正入手を防ぐために、核酸を含有せず蛍光染料のみを含有するインキ組成物を転写体中の一部分又はそれ以上の部分に設け、検出を複雑化してもよい。
【0038】
[2−2]検出装置
図2ならびに図3を参照して、本発明の検査装置について詳細に説明する。
図2は、本発明の検査装置20の概略的断面図である。図中、12は被検査体、21は光源、23は光学フィルター、22は検出部、24は筐体、25は載置台を示している。
筐体24には光源21、検出部22、光学フィルター23が所定の位置関係となるように取り付けられている。図2の例では、光学フィルター23は検出部22の受光側先端部分に取り付けられている。載置台25の所定箇所には被検査体12がセッティングされている。載置台25上にセッティングされた被検査体12を覆うように前記筐体24を載置台の所定位置に被せることで、検査装置20は全体として暗箱となる。
検査装置20の形態は上記のような図2に示す形態に限られるものではなく、例えば、筐体24に開口部を有する底板を設け、前記開口部に載置台25を嵌め込むような形態でもよい。
【0039】
光源21としては例えばLED(Light Emitting Diode)を用いることができる。LEDには様々な発光波長、発光輝度のものがあるので、本発明においては、その中から所定波長のLEDを選択して用いる。
以下、二つの異なる波長(λ1、λ2)のLEDを用いた場合について説明するが、LEDの個数は二つに限定されるものではない。さらに、本発明に使用する光源21はLEDに限定されるものでもなく、二つ以上の発光波長を切換えて発光できる光源であれば何でもよい。
【0040】
図3はLEDの切換え制御を行う制御手段の一例を示す回路図である。図3(a)は輝度を稼ぐためにLEDを直列接続した例である。図3(b)は光輝度を稼ぐためにLEDを並列接続した例である。図3(a)(b)ともにLED1の発光波長をλ1とし、LED2の発光波長をλ2とする(λ1≠λ2)。LED1とLED2に繋がるスイッチ(SW1、SW2)を切換えることによって光源21から発せられる励起光P1の波長λを変えることができる。なお、図中Eは駆動用の電源、R1、R2は電流調整用の抵抗である。
【0041】
光学フィルター23としては所定波長域の光を通過させるバンドパスタイプのフィルターを用いる。
なお、図示していないが、光学フィルター23は通過波長域の異なるものを複数用意しておき、これらを切換えるか、或いはフィルター同士を重ね合わせることにより通過波長域を選択することができる。
以下、二つの異なる波長域の光学フィルターを用いた場合について説明するが、二つに限定されるものではなく、二つ以上であればよい。
検出部22としては例えばフォトダイオード、フォトトランジスタ、光電管、光電子増倍管などに代表されるフォトセンサ、あるいは撮像素子を備えたカメラを用いることができる。
【0042】
図3の制御手段で選択されたLEDが発する励起光P1が被検査体21の所定箇所に形成された核酸含有インキ層5に照射され、仮に前記インキ中に所定の核酸と蛍光が存在すると、励起光P1の作用により核酸と蛍光染料の種類に応じた特有な波長の光P2が励起される。
前記特有な波長の光P2の大部分を通過させ、光P2以外の波長の光の大部分をカットさせるのが光学フィルター23である。前記光学フィルター23を通過した光P2は検出部22よって検知される。
以上のように本発明によれば、励起光P1の波長と、光学フィルター23を通過する特有な波長の光P2から当該核酸含有インキ層5に含有される核酸と蛍光染料の種類の組み合わせが所定のものか否か判別できる。
【0043】
[実施例]
本発明の検査装置の評価にあたり、核酸と蛍光染料からなる核酸含有インキによるサンプルAと、前記核酸含有インキから核酸を除き他の成分が同じになるようにした核酸非含有インキによるサンプルBを用意した。
なお、試作した上記サンプル自体の詳細は後述する。
【0044】
上記サンプルA,Bの特性に合わせて、以下の特性からなる光源(LED1,LED2)と光学フィルター(FL1,FL2)を用意した。
LED1・・・発光波長域は498〜510nm(青緑発光ダイオード)
LED2・・・発光波長域は390〜412nm(紫外発光ダイオード)
FL1・・・・通過波長域の中心値525nm
FL2・・・・通過波長域の中心値615nm
【0045】
本発明の検査装置による検出試験結果
(1)サンプルA(核酸+蛍光染料)の試験結果
LED1の光を照射しFL1を介して光の検知を行った結果、光が検知された。
LED1の光を照射しFL2を介して光の検知を行った結果、光が検知されなかった。
LED2の光を照射しFL1を介して光の検知を行った結果、光は検知されなかった。
LED2の光を照射しFL2を介して光の検知を行った結果、光は検知されなかった。
(2)サンプルB(蛍光染料のみ)の試験結果
LED1の光を照射しFL1を介して光の検知を行った結果、光が検知された。
LED1の光を照射しFL2を介して光の検知を行った結果、光は検知されなかった。
LED2の光を照射しFL1を介して光の検知を行った結果、光は検知されなかった。
LED2の光を照射しFL2を介して光の検知を行った結果、光が検知された。
【0046】
以上の結果から、光源(LED)の波長と、光学フィルター(FL)の通過波長域の組み合わせから、当該サンプルが核酸と蛍光染料の両方から構成されたインキによるものか、或いは、単に蛍光染料のみで構成されたインキなのかの判定が可能である。
即ち、本発明の検査装置により被検査体の所定部分に核酸含有インキが含まれているか否かの一次判定が可能となる。
【0047】
以下、上記試験に使用したサンプルの構成について詳述する。
(1)サンプルAの構成
転写基材として厚さ12μmのPETフィルムの表面に、メラミン系樹脂からなる熱硬化性樹脂組成物(ザ・インクテック株式会社製、ユピマーLZ)を塗布し、次いで、該塗布面に、画像位置検知パターン(1000μm×500μmサイズの回折格子)を有する表面レリーフ型ホログラム複製用型の型面を接触させ、加熱硬化処理に付すことによって表面レリーフ型ホログラムを形成し、厚さ3μmのホログラム形成層を得た。
次いで、このレリーフ型ホログラムが形成された面にZnSを真空蒸着して、厚み50nmの反射性透明薄膜層を形成した。
【0048】
一方、滅菌水74μl(μl:マイクロリットル)中のサケ白子由来DNA(株式会社ニチロ製、サケ白子から抽出したDNA溶液、300bp以下に断片化されている)1.3mg(塩基4000nmol)の溶液、及び、滅菌水3μl中の蛍光染料(アクリジンオレンジ)20nmol(1%/塩基対)の溶液、及び、滅菌水24μl中のアルキル脂質(C18 lipid)6000nmol(1塩基に対して1.5倍)の溶液、を用意し、これらを混合し、沈殿物を回収することによって過剰のアルキル脂質を除去し、洗浄し、凍結乾燥後、界面活性剤処理したDNA・蛍光染料複合体28mgを得た。得られた複合体1mgをエタノール50μl中に溶解し、セルロース樹脂/アクリル樹脂(2:1)10g及びエタノール/酢酸エチル(2:1)1gと混合し、核酸含有インキ組成物を得た。
【0049】
得られた核酸含有インキ組成物を、画像位置検知パターンを検知しながら反射性薄膜層上の所定の位置にシルクスクリーン印刷し、50℃で10分間乾燥後、200μm×200μmの大きさの核酸含有インキ層(厚さ2μm、屈折率n=1.55)を形成した。
その上に下記組成の接着剤組成物を塗工し、70℃で10分間乾燥させて、接着剤層(厚さ3μm、屈折率n=1.56)を形成し、本発明の転写体を得た。
<接着剤組成物>
・セルロース樹脂/アクリル樹脂(2:1)(株式会社セイコーアドバンス社製、STR T475) 30質量部
・体質顔料(炭酸カルシウム) 5質量部
・メチルイソブチルケトン 25質量部
・酢酸エチル 40質量部
【0050】
上記で得られた本発明の転写体10を、その接着剤層4と被転写体12表面とが対向するように重ね合わせ、サーマルプリンターにより転写形成したところ、目視により良好なホログラム再生画像が確認された。
なお、当該部分を切り出し、DNAを溶解抽出し、PCR増幅処理し、DNAシークエンサーにて含有DNA断片の塩基配列を読み取り、目的のサケ白子由来DNAであることを確認した。
【0051】
(2)サンプルBの構成
サンプルAと同様にして、転写体を得た。ただし、サンプルAにおいて核酸含有インキ層を部分的に設ける工程の代わりに、反射性薄膜層上の別の位置に、下記組成の核酸非含有インキ組成物を印刷し、200μm×200μmの大きさの核酸非含有インキ層(厚さ2μm、屈折率n=1.55)を形成した。
<核酸非含有インキ組成物>
・蛍光染料(アクリジンオレンジ) 20nmol/3μl滅菌水
・セルロース樹脂/アクリル樹脂(2:1)(株式会社セイコーアドバンス社製、S
TR T475) 10g
・エタノール/酢酸エチル(2:1) 1g
サンプルAと同様にして被転写体上に転写印刷し、ホログラム再生画像、蛍光、及びDNA配列を良好に確認した。
【符号の説明】
【0052】
1.転写基材
2.ホログラム形成層
3.反射性薄膜層
4.接着剤層
5.核酸含有インキ層
10.転写体
11.転写層
12.被転写体
20.検査装置
21.光源
22.検出部
23.光学フィルター
24.筐体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸と蛍光染料を含有する核酸含有インキ層を少なくとも一部に含む被検査体の検査装置であって、
被検査体を所定位置にセッティングする載置台と、
前記被検査体に複数の異なる波長の励起光を照射する光源と、
前記被検査体に照射した所定波長域の励起光によって励起されて発光した光の少なくとも一部を通過させる光学フィルターと、
前記光学フィルターを通過した光を検出する検出部と、
前記光源、光学フィルターならびに検出部を所定位置に固定し、かつ、前記被検査体に対する外部からの光を遮断する筐体と、
によって核酸と蛍光染料の組み合わせから決定される特有な波長の励起光を検出可能にしたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記光源は、核酸と蛍光染料の種類に応じて発光波長域が設定されていることを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記光学フィルターは、核酸と蛍光染料の種類に応じて通過波長域が設定されていることを特徴とする請求項1記載の検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−58925(P2012−58925A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200232(P2010−200232)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】