検査装置
【課題】検査手段がより溶接部の形状に倣うことが可能な検査装置。
【解決手段】少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置1であって、基部2と、基部2に対して、溶接部Wに平行な軸線8回りに回転可能に支持されたアーム3,4,5,6,7と、アームに設けられ、探傷手段9を有する検出部19と、アームを回転方向一方側に付勢することによって、検出部19を溶接部Wに密着させる付勢部材25と、を備える検査装置。
【解決手段】少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置1であって、基部2と、基部2に対して、溶接部Wに平行な軸線8回りに回転可能に支持されたアーム3,4,5,6,7と、アームに設けられ、探傷手段9を有する検出部19と、アームを回転方向一方側に付勢することによって、検出部19を溶接部Wに密着させる付勢部材25と、を備える検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に係り、特に溶接部の欠陥を検出する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の非破壊検査方法として、渦電流探傷法(ECT; Eddy Current Testing)が知られている。この方法は、励磁電流が供給されたECTコイルが発生する磁束により被検査体に渦電流を発生させ、さらにこの渦電流により発生する磁束を表す検出信号をECTコイルの出力信号として得て、この時の検出信号が被検査体の欠陥(傷)の位置、形状、深さ等を反映したものとなることから、この検出信号に基づき被検査体の探傷を行うものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、ECTコイルを有するプローブを備える従来の検査装置が記載されている。ECTコイルはプローブの先端に設けられており、被検査体の隅肉溶接部の形状に倣って一方向に進退可能に構成されている。また、プローブの先端は、検査装置に設けられた付勢機構によって隅肉溶接部に向うように付勢されており、これによりプローブと隅肉溶接部と常に密着するように構成されている。即ち、渦電流により発生する磁束をより検出できるように、ECTコイルと隅肉溶接部との距離が離れないようにする機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の検査装置においては、プローブが隅肉溶接部の斜面に対して直交する方向にのみ進退する構成となっている。これにより、隅肉溶接部の形状によっては、プローブの隅肉溶接部に対する追従性が悪く、ECTコイルと隅肉溶接部との距離、所謂リフトオフ量が離れてしまうという問題があった。
【0006】
この問題について図14を参照して説明する。図14(b)に示すように、プローブ119は、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°である場合に最もよく斜面Sに倣うように設定されている。即ち、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°のときに、プローブ面122と隅肉溶接部の斜面Sとが面接触するように構成されている。この場合には、ECTコイル9と斜面Sとの距離Dが0.5mmとなっている。
【0007】
しかしながら、図14(a)に示すように、隅肉溶接部の斜面Sの角度が55°であった場合、距離Dは約0.9mmとなり、斜面Sの角度が45°の場合と比較して大幅に増加する。また、図14(c)に示すように、隅肉溶接部の斜面Sの角度が35°であった場合、距離Dは約0.9mmとなり、やはり距離Dは大幅に増加する。
【0008】
これは、プローブ119が斜面Sに対して斜面Sと直交する方向にのみの進退移動する構成であるためである。即ち、このような構成では、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°からより大きくなったり小さくなったりした場合、プローブ面122の斜面Sへの追従性が悪くなる。これにより、ECTコイル9と被検査体である隅肉溶接部との距離が大きくなってしまい、所謂リフトオフ量が増大してしまう。
【0009】
このように、リフトオフ量が増大することで、隅肉溶接部に流れる渦電流の量が少なくなり、プローブの感度が低下してしまう。また、探傷中に距離が変化した場合、渦電流の流れる量が変化するため、ノイズ信号として検出されてしまうという問題もある。
【0010】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、溶接部に当接して溶接部を探傷するプローブを有する検査装置において、より溶接部の形状に倣うことが可能な検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の検査装置は、少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置であって、基部と、前記基部に対して、前記溶接部に平行な軸線回りに回転可能に支持されたアームと、前記アームに設けられ、探傷手段を有する検出部と、前記アームを回転方向一方側に付勢することによって、前記検出部を前記溶接部に密着させる付勢部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、探傷手段を有する検出部が溶接部に平行な軸線回りに回転可能なアームに設けられているため、より溶接部の形状に倣うことが可能となり、溶接部の角度が変化した場合においても検出部と溶接部との距離の変化を少なくすることができる。
【0013】
また、上記検査装置において、前記検出部は、前記溶接部に沿う方向に複数設けられ、前記複数の検出部のうち少なくとも一つの検出部は、他の検出部とは異なる位置に密着するように配置されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、複数の検出部によって溶接部の異なる箇所を検査することができるため、一度の走査でより広い箇所を検査することが可能となり、検査時間を短縮することができる。
【0015】
また、上記検査装置において、前記検出部は前記アームに対して回動可能に設けられている構成としてもよい。
【0016】
上記構成によれば、検出部が回動可能に構成されていることによって、検出部がより溶接部に倣うことが可能となる。
【0017】
また、上記検査装置において、前記アームは、一端が前記基部に回動可能に支持された基部アームと、前記基部アームの他端に回動可能に取り付けられた先端アームと、前記基部アームと前記先端アームとが略一直線上となるように付勢する第二付勢部材とを有し、前記検出部は前記先端アームに対して回動可能に設けられている構成としてもよい。
【0018】
上記構成によれば、検査装置が突合せ溶接部にも適用可能となるため、検査可能な溶接部範囲が広がり、検査の効率化を図ることができる。
【0019】
また、上記検査装置において、前記探傷手段は、渦電流探傷用コイルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、探傷手段を有する検出部が溶接部に平行な軸線回りに回転可能なアームに設けられているため、より溶接部の形状に倣うことが可能となり、溶接部の角度が変化した場合においても検出部と溶接部との距離の変化を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る検査装置の側断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ECTコイルの形状を説明する斜視図である。
【図4】検査装置の第三アームを示す図であって(a)側面図、(b)図4(a)のG矢視図である。
【図5】図2のB−B断面図であって、第一アームの配置を説明する図である。
【図6】図2のC−C断面図であって、第二アームの配置を説明する図である。
【図7】図2のD−D断面図であって、第三アームの配置を説明する図である。
【図8】図2のE−E断面図であって、第四アームの配置を説明する図である。
【図9】図2のF−F断面図であって、第五アームの配置を説明する図である。
【図10】検査装置の第三アームにおけるプローブ面と隅肉溶接部との密着の様子を説明する図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る検査装置のアームを示す図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る検査装置のアームを示す図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係る検査装置のアームが突合せ溶接部を探傷する様子を示す図である。
【図14】従来の検査装置プローブにおけるにおけるプローブ面と隅肉溶接部との密着の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の検査装置1の側断面図を示すものであって、被検査体である隅肉溶接部Wを検査するために、隅肉溶接部Wを覆うように検査装置1を適用させた例を示すものである。
【0023】
なお、以下の説明においては、図1の上方向を上方、図1の下方向を下方と称し、図1の左右方向を幅方向と称す。また、図1の紙面奥行き方向であって、線状の隅肉溶接部Wに沿う方向を移動方向と称す。また、隅肉溶接部Wは、接合板51と接合板52とを所謂重ね継手で溶接した際の線状の溶接部である。隅肉溶接部Wは、その上下方向の厚さである、のど厚が、接合板51の厚さと略同一とされている。
【0024】
本実施形態の検査装置1は、ブラケットYを介して図示しない駆動装置に固定されており、この駆動装置によって、隅肉溶接部Wに沿って移動方向に移動可能に構成されている。以下、移動可能に構成された部位である検査装置1について説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態の検査装置1は、略箱形状を有するケーシング2と、ケーシング2の内部に設けられた回動軸8と、一端が回動軸8に回動可能に支持された5つのアーム3,4,5,6,7と、このアーム3,4,5,6,7に設けられた5つの渦電流探傷プローブ19を主な構成要素として有している。
渦電流探傷プローブ19は、この渦電流探傷プローブ19内に内蔵されたECTコイル9を利用して隅肉溶接部Wの検査を行うためのプローブである。渦電流探傷プローブ19は、制御ケーブルZによって図示しない制御装置と接続されている。
【0026】
ECTコイル9は、一つのECTコイル9によって検査される検査範囲に対して被検査体である隅肉溶接部Wの斜面の検査範囲が大きくなっていることにより、斜面に平行な方向に複数設ける必要がある。本実施形態の検査装置1は、複数のECTコイル9が異なる範囲を検査可能なようにアームの形状をアーム毎に変更することによって、広い検査範囲をカバーできるように構成されている。
【0027】
各々のアーム3,4,5,6,7の他端は、ケーシング2の開口部10から露出されている。ECTコイル9は、アーム3,4,5,6,7の他端に設けられた渦電流探傷プローブ19内に設置されている。即ち、検査装置1には5つのECTコイル9が設けられており、このECTコイル9に電流を流すことによって被検査体である隅肉溶接部Wに渦電流を発生させる構成である。
【0028】
これら5つの渦電流探傷プローブ19は、隅肉溶接部Wに沿うように、かつ、5つの渦電流探傷プローブ19が協働して隅肉溶接部Wの幅方向全域を覆うように配置されている。本実施形態の検査装置1は、このように配置された5つの渦電流探傷プローブ19を移動方向に移動させることによって検査を行う装置である。以下、検査装置1の各構成要素の詳細について説明する。
【0029】
ケーシング2は、略箱形状をなし、その内部に5つのアーム3,4,5,6,7を内蔵可能とされている。詳しくは、ケーシング2は、矩形板形状の上カバー部11と、四角筒形状のケーシング本体部12とから構成されている。上カバー部11は、ケーシング本体部12の上端を覆うように取り付けられている。
【0030】
ケーシング本体部12の下端は、ケーシング2の開口部10とされている。開口部10の周囲を構成する四辺のうち、移動方向に沿う一辺には段差部23が形成されている。段差部23には、幅方向に延在する長尺状の板バネ25が取り付けられている。板バネ25については後述する。
【0031】
また、ケーシング本体部12には、回動軸8と、制限軸13が固定されている。回動軸8及び制限軸13は、移動方向に延在する軸状部材であり、ケーシング本体部12を構成する4面のうち、移動方向に対して直交する2面に固定されている。
【0032】
回動軸8は、ケーシング2の幅方向略中央の所定の位置に固定されており、制限軸13は、回動軸8のやや下方に固定されている。
板バネ25は、回動軸8を中心に回動するアーム3,4,5,6,7の一端を上方に付勢することによって、アーム3,4,5,6,7の他端を下方に付勢するための部材である。即ち、板バネ25によって、渦電流探傷プローブ19が隅肉溶接部Wの斜面に接近する方向に付勢される。
制限軸13は、常に一方向に回動するように付勢されたアーム3,4,5,6,7の回転を制限するための部材である。
【0033】
ケーシング2の開口部10の周囲であって、ケーシング2の下面には、複数の半球形状のパッド24が取り付けられている。即ち、隅肉溶接部Wの検査を行う際には、検査装置1は、このパッド24が隅肉溶接部Wの周囲の接合板51,52に当接するように設置される。
【0034】
図3に示すように、渦電流探傷プローブ19を構成するECTコイル9は、矩形枠形状の第一コイル20と第二コイル21とが交差するように組み合わされたコイルである。本実施形態のECTコイル9は、クロス型と呼ばれるものであり、二組のコイル20,21によって検出される二つの信号の差分を用いて、より精度よく検出を行っている。探傷を行う際は、第一コイル20及び第二コイル21のそれぞれに交流の電流を流すことにより、隅肉溶接部W内に発生する渦電流の変化を利用して傷を検出する。
【0035】
次にアーム3,4,5,6,7について説明する。5つのアーム3,4,5,6,7は、ECTコイル9の取り付けるためのコイル取付穴15の形状以外は共通の形状を有しているため、以下の説明においては、5つのアーム3,4,5,6,7のうち中央に配置された第三アーム5について説明する。
【0036】
図4示すように、第三アーム5は、略四角柱形状の棒状部材であり、一端には回動軸8が挿入される貫通孔16が形成されていると共に、他端にECTコイル9が設けられるコイル取付穴15が形成されている。第三アーム5の他端のコイル取付穴15にECTコイル9が取り付けられることによって、第三アーム5の他端は、渦電流探傷プローブ19の機能を有するようになる。
また、第三アーム5の一端には、第三アーム5の長手方向に対して略直角に折れ曲がった突起部14が形成されている。
【0037】
ECTコイル9が挿入されるコイル取付穴15は、ECTコイル9を挿入可能な有底の丸穴であって、穴の底までECTコイル9を挿入することによってECTコイル9の位置を規定するものである。コイル取付穴15の底部であって、ECTコイル9が配置される側とは反対側は第三アーム5のプローブ面22とされており、プローブ面22を構成する部位は薄板状となっている。
【0038】
この第三アーム5においては、第三アーム5のコイル取付穴15の中心軸が第三アーム5の長手方向及び移動方向に直交するように形成されている。
また、貫通孔16は、第三アーム5の両側面17を貫通するように形成されている。
【0039】
板バネ25は、5つのアーム3,4,5,6,7を独立して付勢できるように、5つ設けられている。板バネ25は、長尺板状の部材であり、その長手方向が検査装置1の幅方向に延在するように一端が段差部23に取り付けられている。また、板バネ25は、板バネ25の他端がアーム3,4,5,6,7の突起部14を下方から上方に付勢するように配置されている。アーム3,4,5,6,7は、回動軸8を中心に回転するように付勢されるため、アーム3,4,5,6,7の突起部14とは反対側の他端(渦電流探傷プローブ19)は下方に付勢される。
【0040】
制限軸13は、上述したようにアーム3,4,5,6,7が板バネ25によって回動軸8を中心に回転するように付勢された際に、アーム3,4,5,6,7の回転を制限するように、ケーシング2の所定の位置に固定されている。
【0041】
次に、複数のアーム3,4,5,6,7のそれぞれの詳細について詳細に説明する。
コイル取付穴15は、5つのアーム3,4,5,6,7のそれぞれで異なっており、これにより、渦電流探傷プローブ19が隅肉溶接部Wの異なる検査範囲を有するようになっている。即ち、複数のアーム3,4,5,6,7の形状は、隅肉溶接部Wの形状を考慮して決定されており、接合される接合板51の厚さ、及び隅肉溶接部Wの、のど厚などによって適宜設定される。
【0042】
図5に示すように、第一アーム3は、隅肉溶接部Wの上端付近を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。この第一アーム3のコイル取付穴15及びプローブ面22は、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が接合板51の面と平行となり、プローブ面22の中心が接合板51の端部と溶着金属Mとの境界に位置されるように形成されている。
【0043】
また、図6に示すように、第二アーム4は、隅肉溶接部Wの上方を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。第二アーム4のコイル取付穴15及びプローブ面22は、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が隅肉溶接部Wの斜面の上方に当接するように形成されている。
【0044】
同様に、図7に示すように、第三アーム5は、隅肉溶接部Wの略中央を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームであり、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が隅肉溶接部Wの中央に当接するように形成されている。
同様に、図8に示すように、第四アーム6は、隅肉溶接部Wの下方を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。
図9に示すように、第五アーム7は、隅肉溶接部Wの下端を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。
【0045】
以上のような構成によって、アーム3,4,5,6,7のそれぞれによって位置決めされた5つのECTコイル9が隅肉溶接部Wの上端から下端までカバーする。即ち、検査装置1を被検査体に対して所定の位置に配置することによって、アーム3,4,5,6,7の長手方向が、隅肉溶接部Wの斜面と平行、かつ、プローブ面22が隅肉溶接部Wの斜面に当接するように配置される。
【0046】
次に、本実施形態の検査装置1の作用について説明する。
まず、検査装置1を線状の隅肉溶接部Wに対して、適切な所定の位置に配置する。即ち、第一アーム3のプローブ面22が接合板51に当接し、第五アーム7のプローブ面22が接合板52に当接するように検査装置1を配置する。
アーム3,4,5,6,7は、それぞれ回動軸8を中心に回動可能とされ、かつ、板バネ25によってプローブ面22が被検査体に当接する方向に付勢されているため、各々のプローブ面22は被検査体に密着する。
【0047】
ここで、第三アーム5におけるプローブ面22と隅肉溶接部Wとの密着の様子を説明する。
まず、図10(b)に示すように、第三アーム5のプローブ面22は、隅肉溶接部Wの斜面の角度が45°である場合に、45°の斜面に対して最適に当接するように形成されている。これにより、隅肉溶接部Wの斜面の角度が45°である場合は、プローブ面22と隅肉溶接部Wの斜面とが密着する。即ち、ECTコイル9と斜面Sとの距離Dは、最小値となる。具体的には、距離Dは、コイル取付穴15の底面の厚さである0.5mmとなる。
【0048】
ここで、図10(a)に示すように、斜面Sの角度が55°であった場合、第三アーム5が回動軸8を中心に回動することによって、プローブ面22と斜面Sとの距離Dは約0.66mmとなる。
また、図10(c)に示すように、斜面Sの角度が35°であった場合、第三アーム5が回動軸8を中心に回動することによって、プローブ面22と斜面Sとの距離Dは、約0.65mmとなる。
【0049】
上記実施形態によれば、本実施形態の検査装置1は、ECTコイル9を回転可能なアーム3,4,5,6,7の先端に取り付けた構成としたことによって、従来の検査装置と比較して、リフトオフ量が小さくなる。
即ち、検査対象物である隅肉溶接部Wに流れる渦電流量の低下を最小限に抑えることができ、渦電流探傷プローブ19としての感度の低下を抑えることができる。また、探傷中におけるリフト量の変化も最小限に抑えることができるため、探傷中の渦電流の変化に起因するノイズ信号も抑えることができる。
【0050】
(第二実施形態)
以下、本発明に係る検査装置の第二実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
【0051】
図11に示すように、本実施形態の検査装置1Bのアーム5Bは、アーム本体部30と、プローブ部31とからなり、アーム本体部30とプローブ部31とは、第二回動軸32によって接続されている構成となっている。プローブ部31は、第一実施形態の渦電流探傷プローブ19に相当する部位であり、第二回動軸32回りに回動可能に構成されている。即ち、板バネ25によって、アーム5Bが回動するように付勢され、プローブ面22Bが検査対象面に当接する際、検査対象面に倣ってプローブ部31が回動するように構成されている。
【0052】
本実施形態によれば、プローブ部31が回動可能に構成されていることによって、プローブ部31に設けられたプローブ面22Bがより隅肉溶接部の斜面に倣うことが可能となる。
【0053】
(第三実施形態)
以下、本発明に係る検査装置の第三実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第二実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図12に示すように、本実施形態の検査装置1Cのアーム5Cは、第二実施形態のアーム5Bと比較して、第二実施形態のアーム本体部30が基部アーム40と先端アーム41とに分割されていることが異なる。
【0054】
基部アーム40は、回動軸8に回動可能に支持されているアームの基部であり、先端アーム41は、基部アーム40の先端側に第三回動軸42を介して回動可能に連結されている。この先端アーム41の先端には、第二実施形態と同様に、プローブ部31が回動可能に設けられている。
【0055】
また、第三回動軸42には、基部アーム40と先端アーム41とが略一直線上となるように付勢する巻バネ43が格納されている。
また、第三実施形態の検査装置1Cには、制限軸13と同様に、アームの回動を制限する第二制限軸44が設けられている。第二制限軸44は、基部アーム40の上方への回動を制限する位置に設けられている。
【0056】
次に、本実施形態の検査装置1Cの作用について説明する。
図12に示すように、隅肉溶接部W1を検査する際は、第一実施形態及び第二実施形態と同様に、アームが伸びた状態で探傷を行う。
図13に示すように、検査装置1Cを突合せ溶接部W2の方向に移動させると、アーム5Cの先端が接合板51に乗り上げることによって、アーム5Cが上方に回動する。次いで、アーム5Cが上方に回動することによって、基部アーム40が第二制限軸44と干渉する。なお、第二制限軸44は、この際に基部アーム40の回動を制限する位置となるように予め設定する。
【0057】
次いで、第三回動軸42回りに先端アーム41のみが回動し、先端アーム41が接合板51と略平行となる。なお、この際に先端アーム41が接合板51と略平行となるように、第三回動軸42の位置を予め設定する。そして、さらに検査装置1Cを幅方向に移動させることによって、プローブ部31を突合せ溶接部W2の上方に位置させる。
【0058】
この状態において、プローブ部31(ECTコイル9)は、巻バネ43によって突合せ溶接部W2に押え付けられる。さらに、回動可能なプローブ部31が突合せ溶接部W2の形状に倣うため、突合せ溶接部W2の探傷が可能となる。
また、アーム5Cを隅肉溶接部W1の方向に戻すと、アーム5Cが真っ直ぐに伸びた状態に戻ることによって、図12に示すような状態となり、隅肉溶接部W1を探傷可能となる。
【0059】
上記実施形態によれば、検査装置1Cが突合せ溶接部にも適用可能となるため、検査可能な溶接部範囲が広がり、検査の効率化を図ることができる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、ECTコイルの個数は5つに限ることはなく、製造コストを勘案して増減させることができる。
また、上記実施形態においては、渦電流探傷プローブを用いて探傷を行う構成としたが、探傷に用いる検査手段については、渦電流探傷プローブのみならず、例えば、レーザー走査による探傷や、超音波探傷を用いてもよい。
【0061】
また、上記検査装置に関する説明おいては、検査装置が平板状の接合板同士を接合する重ね継手を検査する例を用いたが、上記検査装置は、大小の管状部材同士を接合する重ね継手の溶接部に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
W…隅肉溶接部
1…検査装置
2…ケーシング(基部)
3…第一アーム
4…第二アーム
5…第三アーム
6…第四アーム
7…第五アーム
8…回動軸(軸線)
9…ECTコイル(探傷手段)
19…渦電流探傷プローブ(検出部)
25…板バネ(付勢部材)
40…基部アーム
41…先端アーム
43…巻バネ(第二付勢部材)
51…接合板(部材)
52…接合板(部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に係り、特に溶接部の欠陥を検出する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の非破壊検査方法として、渦電流探傷法(ECT; Eddy Current Testing)が知られている。この方法は、励磁電流が供給されたECTコイルが発生する磁束により被検査体に渦電流を発生させ、さらにこの渦電流により発生する磁束を表す検出信号をECTコイルの出力信号として得て、この時の検出信号が被検査体の欠陥(傷)の位置、形状、深さ等を反映したものとなることから、この検出信号に基づき被検査体の探傷を行うものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、ECTコイルを有するプローブを備える従来の検査装置が記載されている。ECTコイルはプローブの先端に設けられており、被検査体の隅肉溶接部の形状に倣って一方向に進退可能に構成されている。また、プローブの先端は、検査装置に設けられた付勢機構によって隅肉溶接部に向うように付勢されており、これによりプローブと隅肉溶接部と常に密着するように構成されている。即ち、渦電流により発生する磁束をより検出できるように、ECTコイルと隅肉溶接部との距離が離れないようにする機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の検査装置においては、プローブが隅肉溶接部の斜面に対して直交する方向にのみ進退する構成となっている。これにより、隅肉溶接部の形状によっては、プローブの隅肉溶接部に対する追従性が悪く、ECTコイルと隅肉溶接部との距離、所謂リフトオフ量が離れてしまうという問題があった。
【0006】
この問題について図14を参照して説明する。図14(b)に示すように、プローブ119は、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°である場合に最もよく斜面Sに倣うように設定されている。即ち、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°のときに、プローブ面122と隅肉溶接部の斜面Sとが面接触するように構成されている。この場合には、ECTコイル9と斜面Sとの距離Dが0.5mmとなっている。
【0007】
しかしながら、図14(a)に示すように、隅肉溶接部の斜面Sの角度が55°であった場合、距離Dは約0.9mmとなり、斜面Sの角度が45°の場合と比較して大幅に増加する。また、図14(c)に示すように、隅肉溶接部の斜面Sの角度が35°であった場合、距離Dは約0.9mmとなり、やはり距離Dは大幅に増加する。
【0008】
これは、プローブ119が斜面Sに対して斜面Sと直交する方向にのみの進退移動する構成であるためである。即ち、このような構成では、隅肉溶接部の斜面Sの角度が45°からより大きくなったり小さくなったりした場合、プローブ面122の斜面Sへの追従性が悪くなる。これにより、ECTコイル9と被検査体である隅肉溶接部との距離が大きくなってしまい、所謂リフトオフ量が増大してしまう。
【0009】
このように、リフトオフ量が増大することで、隅肉溶接部に流れる渦電流の量が少なくなり、プローブの感度が低下してしまう。また、探傷中に距離が変化した場合、渦電流の流れる量が変化するため、ノイズ信号として検出されてしまうという問題もある。
【0010】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、溶接部に当接して溶接部を探傷するプローブを有する検査装置において、より溶接部の形状に倣うことが可能な検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の検査装置は、少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置であって、基部と、前記基部に対して、前記溶接部に平行な軸線回りに回転可能に支持されたアームと、前記アームに設けられ、探傷手段を有する検出部と、前記アームを回転方向一方側に付勢することによって、前記検出部を前記溶接部に密着させる付勢部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、探傷手段を有する検出部が溶接部に平行な軸線回りに回転可能なアームに設けられているため、より溶接部の形状に倣うことが可能となり、溶接部の角度が変化した場合においても検出部と溶接部との距離の変化を少なくすることができる。
【0013】
また、上記検査装置において、前記検出部は、前記溶接部に沿う方向に複数設けられ、前記複数の検出部のうち少なくとも一つの検出部は、他の検出部とは異なる位置に密着するように配置されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、複数の検出部によって溶接部の異なる箇所を検査することができるため、一度の走査でより広い箇所を検査することが可能となり、検査時間を短縮することができる。
【0015】
また、上記検査装置において、前記検出部は前記アームに対して回動可能に設けられている構成としてもよい。
【0016】
上記構成によれば、検出部が回動可能に構成されていることによって、検出部がより溶接部に倣うことが可能となる。
【0017】
また、上記検査装置において、前記アームは、一端が前記基部に回動可能に支持された基部アームと、前記基部アームの他端に回動可能に取り付けられた先端アームと、前記基部アームと前記先端アームとが略一直線上となるように付勢する第二付勢部材とを有し、前記検出部は前記先端アームに対して回動可能に設けられている構成としてもよい。
【0018】
上記構成によれば、検査装置が突合せ溶接部にも適用可能となるため、検査可能な溶接部範囲が広がり、検査の効率化を図ることができる。
【0019】
また、上記検査装置において、前記探傷手段は、渦電流探傷用コイルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、探傷手段を有する検出部が溶接部に平行な軸線回りに回転可能なアームに設けられているため、より溶接部の形状に倣うことが可能となり、溶接部の角度が変化した場合においても検出部と溶接部との距離の変化を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る検査装置の側断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ECTコイルの形状を説明する斜視図である。
【図4】検査装置の第三アームを示す図であって(a)側面図、(b)図4(a)のG矢視図である。
【図5】図2のB−B断面図であって、第一アームの配置を説明する図である。
【図6】図2のC−C断面図であって、第二アームの配置を説明する図である。
【図7】図2のD−D断面図であって、第三アームの配置を説明する図である。
【図8】図2のE−E断面図であって、第四アームの配置を説明する図である。
【図9】図2のF−F断面図であって、第五アームの配置を説明する図である。
【図10】検査装置の第三アームにおけるプローブ面と隅肉溶接部との密着の様子を説明する図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る検査装置のアームを示す図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る検査装置のアームを示す図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係る検査装置のアームが突合せ溶接部を探傷する様子を示す図である。
【図14】従来の検査装置プローブにおけるにおけるプローブ面と隅肉溶接部との密着の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の検査装置1の側断面図を示すものであって、被検査体である隅肉溶接部Wを検査するために、隅肉溶接部Wを覆うように検査装置1を適用させた例を示すものである。
【0023】
なお、以下の説明においては、図1の上方向を上方、図1の下方向を下方と称し、図1の左右方向を幅方向と称す。また、図1の紙面奥行き方向であって、線状の隅肉溶接部Wに沿う方向を移動方向と称す。また、隅肉溶接部Wは、接合板51と接合板52とを所謂重ね継手で溶接した際の線状の溶接部である。隅肉溶接部Wは、その上下方向の厚さである、のど厚が、接合板51の厚さと略同一とされている。
【0024】
本実施形態の検査装置1は、ブラケットYを介して図示しない駆動装置に固定されており、この駆動装置によって、隅肉溶接部Wに沿って移動方向に移動可能に構成されている。以下、移動可能に構成された部位である検査装置1について説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態の検査装置1は、略箱形状を有するケーシング2と、ケーシング2の内部に設けられた回動軸8と、一端が回動軸8に回動可能に支持された5つのアーム3,4,5,6,7と、このアーム3,4,5,6,7に設けられた5つの渦電流探傷プローブ19を主な構成要素として有している。
渦電流探傷プローブ19は、この渦電流探傷プローブ19内に内蔵されたECTコイル9を利用して隅肉溶接部Wの検査を行うためのプローブである。渦電流探傷プローブ19は、制御ケーブルZによって図示しない制御装置と接続されている。
【0026】
ECTコイル9は、一つのECTコイル9によって検査される検査範囲に対して被検査体である隅肉溶接部Wの斜面の検査範囲が大きくなっていることにより、斜面に平行な方向に複数設ける必要がある。本実施形態の検査装置1は、複数のECTコイル9が異なる範囲を検査可能なようにアームの形状をアーム毎に変更することによって、広い検査範囲をカバーできるように構成されている。
【0027】
各々のアーム3,4,5,6,7の他端は、ケーシング2の開口部10から露出されている。ECTコイル9は、アーム3,4,5,6,7の他端に設けられた渦電流探傷プローブ19内に設置されている。即ち、検査装置1には5つのECTコイル9が設けられており、このECTコイル9に電流を流すことによって被検査体である隅肉溶接部Wに渦電流を発生させる構成である。
【0028】
これら5つの渦電流探傷プローブ19は、隅肉溶接部Wに沿うように、かつ、5つの渦電流探傷プローブ19が協働して隅肉溶接部Wの幅方向全域を覆うように配置されている。本実施形態の検査装置1は、このように配置された5つの渦電流探傷プローブ19を移動方向に移動させることによって検査を行う装置である。以下、検査装置1の各構成要素の詳細について説明する。
【0029】
ケーシング2は、略箱形状をなし、その内部に5つのアーム3,4,5,6,7を内蔵可能とされている。詳しくは、ケーシング2は、矩形板形状の上カバー部11と、四角筒形状のケーシング本体部12とから構成されている。上カバー部11は、ケーシング本体部12の上端を覆うように取り付けられている。
【0030】
ケーシング本体部12の下端は、ケーシング2の開口部10とされている。開口部10の周囲を構成する四辺のうち、移動方向に沿う一辺には段差部23が形成されている。段差部23には、幅方向に延在する長尺状の板バネ25が取り付けられている。板バネ25については後述する。
【0031】
また、ケーシング本体部12には、回動軸8と、制限軸13が固定されている。回動軸8及び制限軸13は、移動方向に延在する軸状部材であり、ケーシング本体部12を構成する4面のうち、移動方向に対して直交する2面に固定されている。
【0032】
回動軸8は、ケーシング2の幅方向略中央の所定の位置に固定されており、制限軸13は、回動軸8のやや下方に固定されている。
板バネ25は、回動軸8を中心に回動するアーム3,4,5,6,7の一端を上方に付勢することによって、アーム3,4,5,6,7の他端を下方に付勢するための部材である。即ち、板バネ25によって、渦電流探傷プローブ19が隅肉溶接部Wの斜面に接近する方向に付勢される。
制限軸13は、常に一方向に回動するように付勢されたアーム3,4,5,6,7の回転を制限するための部材である。
【0033】
ケーシング2の開口部10の周囲であって、ケーシング2の下面には、複数の半球形状のパッド24が取り付けられている。即ち、隅肉溶接部Wの検査を行う際には、検査装置1は、このパッド24が隅肉溶接部Wの周囲の接合板51,52に当接するように設置される。
【0034】
図3に示すように、渦電流探傷プローブ19を構成するECTコイル9は、矩形枠形状の第一コイル20と第二コイル21とが交差するように組み合わされたコイルである。本実施形態のECTコイル9は、クロス型と呼ばれるものであり、二組のコイル20,21によって検出される二つの信号の差分を用いて、より精度よく検出を行っている。探傷を行う際は、第一コイル20及び第二コイル21のそれぞれに交流の電流を流すことにより、隅肉溶接部W内に発生する渦電流の変化を利用して傷を検出する。
【0035】
次にアーム3,4,5,6,7について説明する。5つのアーム3,4,5,6,7は、ECTコイル9の取り付けるためのコイル取付穴15の形状以外は共通の形状を有しているため、以下の説明においては、5つのアーム3,4,5,6,7のうち中央に配置された第三アーム5について説明する。
【0036】
図4示すように、第三アーム5は、略四角柱形状の棒状部材であり、一端には回動軸8が挿入される貫通孔16が形成されていると共に、他端にECTコイル9が設けられるコイル取付穴15が形成されている。第三アーム5の他端のコイル取付穴15にECTコイル9が取り付けられることによって、第三アーム5の他端は、渦電流探傷プローブ19の機能を有するようになる。
また、第三アーム5の一端には、第三アーム5の長手方向に対して略直角に折れ曲がった突起部14が形成されている。
【0037】
ECTコイル9が挿入されるコイル取付穴15は、ECTコイル9を挿入可能な有底の丸穴であって、穴の底までECTコイル9を挿入することによってECTコイル9の位置を規定するものである。コイル取付穴15の底部であって、ECTコイル9が配置される側とは反対側は第三アーム5のプローブ面22とされており、プローブ面22を構成する部位は薄板状となっている。
【0038】
この第三アーム5においては、第三アーム5のコイル取付穴15の中心軸が第三アーム5の長手方向及び移動方向に直交するように形成されている。
また、貫通孔16は、第三アーム5の両側面17を貫通するように形成されている。
【0039】
板バネ25は、5つのアーム3,4,5,6,7を独立して付勢できるように、5つ設けられている。板バネ25は、長尺板状の部材であり、その長手方向が検査装置1の幅方向に延在するように一端が段差部23に取り付けられている。また、板バネ25は、板バネ25の他端がアーム3,4,5,6,7の突起部14を下方から上方に付勢するように配置されている。アーム3,4,5,6,7は、回動軸8を中心に回転するように付勢されるため、アーム3,4,5,6,7の突起部14とは反対側の他端(渦電流探傷プローブ19)は下方に付勢される。
【0040】
制限軸13は、上述したようにアーム3,4,5,6,7が板バネ25によって回動軸8を中心に回転するように付勢された際に、アーム3,4,5,6,7の回転を制限するように、ケーシング2の所定の位置に固定されている。
【0041】
次に、複数のアーム3,4,5,6,7のそれぞれの詳細について詳細に説明する。
コイル取付穴15は、5つのアーム3,4,5,6,7のそれぞれで異なっており、これにより、渦電流探傷プローブ19が隅肉溶接部Wの異なる検査範囲を有するようになっている。即ち、複数のアーム3,4,5,6,7の形状は、隅肉溶接部Wの形状を考慮して決定されており、接合される接合板51の厚さ、及び隅肉溶接部Wの、のど厚などによって適宜設定される。
【0042】
図5に示すように、第一アーム3は、隅肉溶接部Wの上端付近を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。この第一アーム3のコイル取付穴15及びプローブ面22は、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が接合板51の面と平行となり、プローブ面22の中心が接合板51の端部と溶着金属Mとの境界に位置されるように形成されている。
【0043】
また、図6に示すように、第二アーム4は、隅肉溶接部Wの上方を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。第二アーム4のコイル取付穴15及びプローブ面22は、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が隅肉溶接部Wの斜面の上方に当接するように形成されている。
【0044】
同様に、図7に示すように、第三アーム5は、隅肉溶接部Wの略中央を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームであり、検査装置1を所定の位置に設置したときに、プローブ面22が隅肉溶接部Wの中央に当接するように形成されている。
同様に、図8に示すように、第四アーム6は、隅肉溶接部Wの下方を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。
図9に示すように、第五アーム7は、隅肉溶接部Wの下端を検査するECTコイル9を保持するように形成されたアームである。
【0045】
以上のような構成によって、アーム3,4,5,6,7のそれぞれによって位置決めされた5つのECTコイル9が隅肉溶接部Wの上端から下端までカバーする。即ち、検査装置1を被検査体に対して所定の位置に配置することによって、アーム3,4,5,6,7の長手方向が、隅肉溶接部Wの斜面と平行、かつ、プローブ面22が隅肉溶接部Wの斜面に当接するように配置される。
【0046】
次に、本実施形態の検査装置1の作用について説明する。
まず、検査装置1を線状の隅肉溶接部Wに対して、適切な所定の位置に配置する。即ち、第一アーム3のプローブ面22が接合板51に当接し、第五アーム7のプローブ面22が接合板52に当接するように検査装置1を配置する。
アーム3,4,5,6,7は、それぞれ回動軸8を中心に回動可能とされ、かつ、板バネ25によってプローブ面22が被検査体に当接する方向に付勢されているため、各々のプローブ面22は被検査体に密着する。
【0047】
ここで、第三アーム5におけるプローブ面22と隅肉溶接部Wとの密着の様子を説明する。
まず、図10(b)に示すように、第三アーム5のプローブ面22は、隅肉溶接部Wの斜面の角度が45°である場合に、45°の斜面に対して最適に当接するように形成されている。これにより、隅肉溶接部Wの斜面の角度が45°である場合は、プローブ面22と隅肉溶接部Wの斜面とが密着する。即ち、ECTコイル9と斜面Sとの距離Dは、最小値となる。具体的には、距離Dは、コイル取付穴15の底面の厚さである0.5mmとなる。
【0048】
ここで、図10(a)に示すように、斜面Sの角度が55°であった場合、第三アーム5が回動軸8を中心に回動することによって、プローブ面22と斜面Sとの距離Dは約0.66mmとなる。
また、図10(c)に示すように、斜面Sの角度が35°であった場合、第三アーム5が回動軸8を中心に回動することによって、プローブ面22と斜面Sとの距離Dは、約0.65mmとなる。
【0049】
上記実施形態によれば、本実施形態の検査装置1は、ECTコイル9を回転可能なアーム3,4,5,6,7の先端に取り付けた構成としたことによって、従来の検査装置と比較して、リフトオフ量が小さくなる。
即ち、検査対象物である隅肉溶接部Wに流れる渦電流量の低下を最小限に抑えることができ、渦電流探傷プローブ19としての感度の低下を抑えることができる。また、探傷中におけるリフト量の変化も最小限に抑えることができるため、探傷中の渦電流の変化に起因するノイズ信号も抑えることができる。
【0050】
(第二実施形態)
以下、本発明に係る検査装置の第二実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
【0051】
図11に示すように、本実施形態の検査装置1Bのアーム5Bは、アーム本体部30と、プローブ部31とからなり、アーム本体部30とプローブ部31とは、第二回動軸32によって接続されている構成となっている。プローブ部31は、第一実施形態の渦電流探傷プローブ19に相当する部位であり、第二回動軸32回りに回動可能に構成されている。即ち、板バネ25によって、アーム5Bが回動するように付勢され、プローブ面22Bが検査対象面に当接する際、検査対象面に倣ってプローブ部31が回動するように構成されている。
【0052】
本実施形態によれば、プローブ部31が回動可能に構成されていることによって、プローブ部31に設けられたプローブ面22Bがより隅肉溶接部の斜面に倣うことが可能となる。
【0053】
(第三実施形態)
以下、本発明に係る検査装置の第三実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第二実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図12に示すように、本実施形態の検査装置1Cのアーム5Cは、第二実施形態のアーム5Bと比較して、第二実施形態のアーム本体部30が基部アーム40と先端アーム41とに分割されていることが異なる。
【0054】
基部アーム40は、回動軸8に回動可能に支持されているアームの基部であり、先端アーム41は、基部アーム40の先端側に第三回動軸42を介して回動可能に連結されている。この先端アーム41の先端には、第二実施形態と同様に、プローブ部31が回動可能に設けられている。
【0055】
また、第三回動軸42には、基部アーム40と先端アーム41とが略一直線上となるように付勢する巻バネ43が格納されている。
また、第三実施形態の検査装置1Cには、制限軸13と同様に、アームの回動を制限する第二制限軸44が設けられている。第二制限軸44は、基部アーム40の上方への回動を制限する位置に設けられている。
【0056】
次に、本実施形態の検査装置1Cの作用について説明する。
図12に示すように、隅肉溶接部W1を検査する際は、第一実施形態及び第二実施形態と同様に、アームが伸びた状態で探傷を行う。
図13に示すように、検査装置1Cを突合せ溶接部W2の方向に移動させると、アーム5Cの先端が接合板51に乗り上げることによって、アーム5Cが上方に回動する。次いで、アーム5Cが上方に回動することによって、基部アーム40が第二制限軸44と干渉する。なお、第二制限軸44は、この際に基部アーム40の回動を制限する位置となるように予め設定する。
【0057】
次いで、第三回動軸42回りに先端アーム41のみが回動し、先端アーム41が接合板51と略平行となる。なお、この際に先端アーム41が接合板51と略平行となるように、第三回動軸42の位置を予め設定する。そして、さらに検査装置1Cを幅方向に移動させることによって、プローブ部31を突合せ溶接部W2の上方に位置させる。
【0058】
この状態において、プローブ部31(ECTコイル9)は、巻バネ43によって突合せ溶接部W2に押え付けられる。さらに、回動可能なプローブ部31が突合せ溶接部W2の形状に倣うため、突合せ溶接部W2の探傷が可能となる。
また、アーム5Cを隅肉溶接部W1の方向に戻すと、アーム5Cが真っ直ぐに伸びた状態に戻ることによって、図12に示すような状態となり、隅肉溶接部W1を探傷可能となる。
【0059】
上記実施形態によれば、検査装置1Cが突合せ溶接部にも適用可能となるため、検査可能な溶接部範囲が広がり、検査の効率化を図ることができる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、ECTコイルの個数は5つに限ることはなく、製造コストを勘案して増減させることができる。
また、上記実施形態においては、渦電流探傷プローブを用いて探傷を行う構成としたが、探傷に用いる検査手段については、渦電流探傷プローブのみならず、例えば、レーザー走査による探傷や、超音波探傷を用いてもよい。
【0061】
また、上記検査装置に関する説明おいては、検査装置が平板状の接合板同士を接合する重ね継手を検査する例を用いたが、上記検査装置は、大小の管状部材同士を接合する重ね継手の溶接部に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
W…隅肉溶接部
1…検査装置
2…ケーシング(基部)
3…第一アーム
4…第二アーム
5…第三アーム
6…第四アーム
7…第五アーム
8…回動軸(軸線)
9…ECTコイル(探傷手段)
19…渦電流探傷プローブ(検出部)
25…板バネ(付勢部材)
40…基部アーム
41…先端アーム
43…巻バネ(第二付勢部材)
51…接合板(部材)
52…接合板(部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置であって、
基部と、
前記基部に対して、前記溶接部に平行な軸線回りに回転可能に支持されたアームと、
前記アームに設けられ、探傷手段を有する検出部と、
前記アームを回転方向一方側に付勢することによって、前記検出部を前記溶接部に密着させる付勢部材と、を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記アーム及び前記検出部は、前記溶接部に沿う方向に複数設けられ、
前記複数の検出部のうち少なくとも一つの検出部は、他の検出部とは異なる位置に密着するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記検出部は前記アームに対して回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記アームは、
一端が前記基部に回動可能に支持された基部アームと、
前記基部アームの他端に回動可能に取り付けられた先端アームと、
前記基部アームと前記先端アームとが略一直線上となるように付勢する第二付勢部材とを有し、
前記検出部は前記先端アームに対して回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記探傷手段は、渦電流探傷用コイルであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項1】
少なくとも2つの部材を接合する線状の溶接部を探傷する検査装置であって、
基部と、
前記基部に対して、前記溶接部に平行な軸線回りに回転可能に支持されたアームと、
前記アームに設けられ、探傷手段を有する検出部と、
前記アームを回転方向一方側に付勢することによって、前記検出部を前記溶接部に密着させる付勢部材と、を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記アーム及び前記検出部は、前記溶接部に沿う方向に複数設けられ、
前記複数の検出部のうち少なくとも一つの検出部は、他の検出部とは異なる位置に密着するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記検出部は前記アームに対して回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記アームは、
一端が前記基部に回動可能に支持された基部アームと、
前記基部アームの他端に回動可能に取り付けられた先端アームと、
前記基部アームと前記先端アームとが略一直線上となるように付勢する第二付勢部材とを有し、
前記検出部は前記先端アームに対して回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記探傷手段は、渦電流探傷用コイルであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−113708(P2013−113708A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260042(P2011−260042)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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