検知体
【課題】六価クロムを簡易に検知する。
【解決手段】評価対象から六価クロムを溶出するための溶出部2と、溶出部2で溶出された六価クロムと反応して変色するジフェニルカルバジド等の物質を含んだ反応部3を有する検知体1を構成する。検知体1を用いて評価対象の六価クロムの検知を行う際には、評価対象を分解したり加工したりすることなく、その溶出部2側を評価対象に貼り付けるのみで、あとはそのときの反応部3の変色状態から、評価対象の六価クロムの有無を判別することができる。これにより、六価クロムの検知を容易かつ迅速に、また、低コストで行うことが可能になる。
【解決手段】評価対象から六価クロムを溶出するための溶出部2と、溶出部2で溶出された六価クロムと反応して変色するジフェニルカルバジド等の物質を含んだ反応部3を有する検知体1を構成する。検知体1を用いて評価対象の六価クロムの検知を行う際には、評価対象を分解したり加工したりすることなく、その溶出部2側を評価対象に貼り付けるのみで、あとはそのときの反応部3の変色状態から、評価対象の六価クロムの有無を判別することができる。これにより、六価クロムの検知を容易かつ迅速に、また、低コストで行うことが可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検知体に関し、特に六価クロムを検知するための検知体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ等のメッキや板金等には、その防食性向上を図る等の目的で、クロメート処理が広く利用されてきた。これまでのクロメート処理には、主に六価クロムが使用されていたが、より安全性を高めるため、現在は六価クロメート処理が規制される傾向にあり、替わって三価クロムを使用した三価クロメート処理が注目され始めている。クロメート処理品は、現在広く用いられているが、今後、各種製品の部材・部品中のクロムの有無、特に六価クロムの有無を判別する手法が必要になってくるものと考えられる。
【0003】
部品等の六価クロムの検知方法としては、例えば、そのような部品等から液中に六価クロムを溶出しそれをジフェニルカルバジドと反応させてその変色状態(色や吸光度)を調べるジフェニルカルバジド法や、部品等を適当に加工してAES(Auger Electron Spectroscopy)、SAM(Scanning Auger electron Microscopy)、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の分析機器を用いて評価する方法がある。
【0004】
なお、従来、様々な分野で各種検知手法が提案されており、例えば、亜硝酸イオン検知紙を用いて亜硝酸イオン濃度を簡易測定する方法(特許文献1参照)、透水性フィルムの片面に水分によって発色する発色層を設けた水分検知ラベルを用いて水分を検知する方法(特許文献2参照)、フィルム状の支持体にガスの成分と接触して発色する検知試薬を担持したガス検知体を用いてガスを検知する方法(特許文献3参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2005−76038号公報
【特許文献2】特開平10−90244号公報
【特許文献3】特開平9−210985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の部品等を一括して入手する場合には、付属する品質データの利用や抜き取り検査等の分析・評価によって六価クロムの有無を知ることができ、比較的容易にそれら部品等の品質が保証できる。
【0006】
しかし、既成の組み立て品や他メーカーから供給されるOEM(Original Equipment Manufacture)品は、クロメート処理した部品等とそうでない部品等とが混在している可能性がある。六価クロムが使用されているか否かを知るためには、その組み立て品等を分解し、分解した各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならなくなる。特に、分析機器を用いて六価クロムの検出を行う場合には、分解した部品等をさらに各分析機器に適した形に加工しなければならないことが多い。このように、組み立て品等の六価クロムについての品質保証データを取得するためには、多大な労力と時間が必要であり、さらに、それに伴うコストの増加も無視できない。
【0007】
また、六価クロメート処理品の代替品とされる三価クロメート処理品は、六価クロメート処理品と外観上の見分けがつきにくく、これらの部品等が混在している場合にも、各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならないため、同様の問題が生じる。さらに、現在は、六価クロメート処理から三価クロメート処理への移行期であって、三価クロメート皮膜に六価クロムが混入するといったことも起こり得る。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、六価クロムを簡易に検知することのできる検知体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記課題を解決するために、六価クロムの検知に用いる検知体において、被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、を有することを特徴とする検知体が提供される。
【0010】
このような検知体によれば、被検知体に接触する溶出部で、その被検知体から六価クロムが溶出され、反応部に含まれている物質が、溶出部で溶出された六価クロムを検出する。溶出部を被検知体に接触させれば被検知体の六価クロムの有無を判別することができるため、六価クロムの検知が簡易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、検知体を、被検知体の六価クロムを溶出するための溶出部と、溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部を有する構成にした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、その溶出部を被検知体に接触させるのみで被検知体の六価クロムの有無を判別することができる。そのため、六価クロムの検知を容易かつ迅速に、低コストで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
まず、六価クロムの検知に用いる検知体とその検知の原理について説明する。
図1は検知体の概略図である。
【0013】
検知体1は、層状の溶出部2と反応部3が積層された構成を有している。検知体1は、例えば、シール状に形成されており、溶出部2側を被検知体である評価対象に貼り付けて、溶出部2の全部または一部をその評価対象の表面に密着させることができるようになっている。
【0014】
溶出部2には、評価対象の表面と密着したときにその評価対象から六価クロムを溶出させるための水または薬液(アセトン、エタノール等)が含有されている。溶出部2は、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、かつ、そのような水や薬液によって評価対象の表面から溶出された六価クロムを固定しないような材質で構成されている。なお、溶出部2の構成例については後述する。
【0015】
また、反応部3には、六価クロムと反応して変色(発色を含む。以下同じ。)する物質(変色剤)、例えばジフェニルカルバジドが含有されている。検知体1では、溶出された六価クロムが水や薬液を媒介に溶出部2内を移動して反応部3に到達し、反応部3に含有されている変色剤と反応すると、反応部3が変色するようになっている。なお、反応部3の構成例については後述する。
【0016】
検知体1の平面サイズは、評価対象に応じて任意に設定可能であり、例えば、ねじに用いる場合であればそのねじ頭に貼り付けられる程度の大きさにしたり、より大きな板材等に用いる場合にはそのサイズに応じた大きさにしたりすればよい。また、検知体1の厚みも任意に設定可能であるが、六価クロムの溶出量等を考慮して、その厚み、特に溶出部2の厚みを適切に設定することが望ましい。
【0017】
なお、上記のような構成の検知体1は、その材質にもよるが、例えば、シート状の溶出部2上に反応部3をシート状に形成する、シート状の反応部3上に溶出部2をシート状に形成する、シート状の溶出部2とシート状の反応部3を貼り合わせる、等の方法で形成することが可能である。
【0018】
図2から図4は検知体を用いた六価クロムの検知方法の流れを説明する図であって、図2は検知体貼付時の概略図、図3は六価クロム溶出時の概略図、図4は反応部変色時の概略図である。
【0019】
例えば、評価対象4として、素地層あるいはメッキ層である下地層5の表面に六価クロメート皮膜6が形成されているものを想定する。
検知体1を用いて検知を行う際には、まず、図2に示すように、検知体1を、そのような評価対象4の表面、ここでは六価クロメート皮膜6に、その溶出部2が密着するようにして貼り付ける。その際、溶出部2には、あらかじめ水や薬液を含有させておいたり、あるいは検知体1を評価対象4の表面に貼り付ける直前に水や薬液を含浸させたりして、水や薬液を含有させるようにする。
【0020】
六価クロメート皮膜6に検知体1が貼り付けられると、溶出部2に含有されている水や薬液によって、図3に示すように、六価クロメート皮膜6から六価クロムが溶出し始める。なお、便宜上、図3では、溶出部2内の六価クロムが溶出した領域を層状に図示している。
【0021】
そして、一定時間が経過し、図4に示すように、溶出した六価クロムが溶出部2内を移動して反応部3に到達すると、六価クロムが反応部3に含有される変色剤と反応し、反応部3が変色するようになる。この変色によって六価クロムの存在を検知することができる。
【0022】
ここでは、六価クロメート皮膜6を有する評価対象4を例にしているが、六価クロムを含まないような評価対象について同条件の処理を行った場合には、通常、反応部3は変色しないため、それによってその評価対象に六価クロムが含まれていないことを知ることができる。
【0023】
なお、反応部3の変色は、目視観察によって判別することができるほか、六価クロムの溶出量が一定レベル以上であれば、分光光度計を用いて判別することも可能である。
以上説明したように、上記のような検知体1を用いることにより、評価対象4を分解したり加工したりすることなく、検知体1を評価対象4に貼り付けるのみで、その皮膜中の六価クロムの有無を判別することができ、六価クロムの検知を非常に容易かつ迅速に行うことができるようになる。
【0024】
三価クロムは、六価クロムに比べると、水等に溶出しにくい。そのため、検知体1を三価クロメート皮膜とされている膜の表面に貼り付ければ、その膜に六価クロムが混入しているか否かの判別をすることも可能である。
【0025】
また、ジフェニルカルバジド溶液は、六価クロムの他に亜鉛メッキとも反応して変色する。このことから、クラック、剥離等による構造上の欠陥が存在する三価クロメート皮膜では検知体1にジフェニルカルバジド溶液と亜鉛メッキとの変色反応が生じることから、後述のように、この検知体1を三価クロメート皮膜の品質の判定に利用することも可能である(第2の実施例参照)。
【0026】
なお、以上の説明では、層状の溶出部2と反応部3が積層された検知体1を例示したが、これらは必ずしも明確に2層に分割されていることを要せず、1層で上記のような溶出部2と反応部3の両方の機能を有する構成にすることも可能である。
【0027】
以下、検知体の構成例について説明する。
まず、検知体の溶出部の構成について説明する。
図5は検知体の第1の構成例を示す図である。
【0028】
図5に示す検知体10は、その溶出部11に空孔11aを設けた構成になっている。この溶出部11の材質は、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであれば、特に限定されない。
【0029】
このような検知体10を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、検知体10を評価対象に貼り付ける前に、その空孔11a内に六価クロム溶出用の水や薬液を入れるようにする。これは、例えば、溶出部11側から水や薬液を滴下したり、溶出部11側を水や薬液に含浸したりすることで容易に行える。そして、その溶出部11が密着するように検知体10を評価対象の表面に貼り付ける。その際、検知体10は、溶出部11に含有されている水や薬液の表面張力によって、評価対象の表面に貼り付けられるようになる。
【0030】
これにより、評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されている場合には、空孔11a内の水や薬液によってその皮膜から六価クロムが溶出され、それが反応部3に到達して所定の反応が起きると、反応部3が変色する。一方、評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されていない場合には、通常、反応部3は変色しない。
【0031】
なお、ここでは、溶出部11に空孔11aが1つだけ形成されている構成を例示したが、このような空孔は、その内部に水や薬液を容易に入れることができれば、溶出部に複数形成されていても構わない。
【0032】
図6は検知体の第2の構成例を示す図である。
図6に示す検知体20は、その溶出部21がメッシュやフィルタ等の多孔質性の材料を用いて構成されている。なお、溶出部21には、このように多孔質性であるほか、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する材料が用いられる。
【0033】
このような検知体20を用いて六価クロムの検知を行う場合も、上記図5に示した検知体10と同様、これを評価対象に貼り付ける前に、その溶出部21に六価クロム溶出用の水や薬液を含浸する等して含有させるようにする。そして、その水や薬液の表面張力を利用して検知体20を評価対象の表面に貼り付け、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0034】
図7は検知体の第3の構成例を示す図である。
図7に示す検知体30は、その溶出部31が保水性を有する高分子を用いて構成されている。なお、溶出部31には、このような保水性のほか、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する高分子が用いられる。
【0035】
このような検知体30を用いて六価クロムの検知を行う場合には、それを評価対象に貼り付ける前に、その溶出部31に水や薬液を含浸する等して含有させ、それからその検知体30を評価対象の表面に貼り付ける。そして、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0036】
保水性高分子は、その分子量等を制御することにより、あらかじめ含有可能な水分量を制御することができる。これを利用すれば、溶出部31に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の量を制御することが可能である。溶出部31に含有される水や薬液の量を一定に制御しておけば、評価対象が変わっても、六価クロムを溶出する際の液量を一定にすることが可能になる。
【0037】
図8は検知体の第4の構成例を示す図である。
図8に示す検知体40は、その溶出部41がマイクロカプセル41aを用いて構成されている。なお、溶出部41のマイクロカプセル41aを除く部分には、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル41aを埋め込むことができるものが用いられる。
【0038】
マイクロカプセル41aには、例えば、六価クロム溶出用の水や薬液を内包させることができる。マイクロカプセル41aには、それが破壊されることによって中の水や薬液を放出するものや、非破壊で中の水や薬液を徐々に浸み出させるもの等、種々の形態が利用可能である。
【0039】
このような検知体40を用いて六価クロムの検知を行う場合には、それを評価対象に貼り付ける前に、マイクロカプセル41aを破壊して中の水や薬液を放出させたり、マイクロカプセル41aから水や薬液を浸み出させたりして、評価対象の表面に貼り付ける。そして、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0040】
マイクロカプセル41aを破壊して水や薬液を放出する形態では、溶出部41に外部から水や薬液を供給して含有させるという作業が不要になるため、より簡易に評価を行うことが可能になる。また、マイクロカプセル41aから水や薬液を浸み出させる形態では、その現象を利用して長期的な評価を行うことが可能になる。
【0041】
また、マイクロカプセル41aに水または薬液を内包させておき、検知体40を評価対象に貼り付ける前に、薬液または水でマイクロカプセル41aを溶解するような構成とすることも可能である。この場合、薬液または水でマイクロカプセル41aが溶解されて、その薬液または水がマイクロカプセル41aに内包されていた水または薬液と混合されたときに、溶出部41に所定の組成の薬液が含有されることとなるよう、制御することも可能である。また、マイクロカプセル41aの溶解には、薬液や水のほか、別の溶剤等を用いるようにしてもよい。
【0042】
次に、検知体の反応部の構成について説明する。
図9は検知体の第5の構成例を示す図である。
図9に示す検知体50は、その反応部51が樹脂を用いて構成されており、その樹脂中にジフェニルカルバジド等の変色剤が含有されている。
【0043】
このような反応部51に用いられる樹脂には、六価クロムと変色剤が反応したときにその変色が識別できること、六価クロム溶出用の水や薬液を溶出部2内に一定時間保持しておけること、六価クロムや変色剤と反応しないこと、等の性質を有していることが必要になり、例えばPET(Poly Ethylene Terephthalate)等を用いることができる。
【0044】
なお、このような検知体50の溶出部2には、上記図5から図8に例示した溶出部11,21,31,41を適用することが可能である。
図10は検知体の第6の構成例を示す図である。
【0045】
図10に示す検知体60は、マイクロカプセル61を用いて構成されており、そのマイクロカプセル61内に、ジフェニルカルバジド等の変色剤が内包されている。そして、このようなマイクロカプセル61が溶出部2内に埋め込まれている。
【0046】
このような検知体60を用いて六価クロムの検知を行う場合には、マイクロカプセル61を割る、マイクロカプセル61から徐々に染み出させる、あるいは六価クロムの溶出に用いる水や薬液によってマイクロカプセル61を溶解する、等の方法を用い、溶出部2内に変色剤を放出させる。これを評価対象の表面に貼り付け、変色の有無を見て、六価クロムの有無を判別する。このような構成の場合、変色剤が溶出部2内に放出されているため、評価対象から六価クロムが溶出されたときには、比較的早く変色が見られ、迅速に六価クロムを検知することが可能になる。
【0047】
なお、このような検知体60の溶出部2は、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル61を埋め込むことができるものであれば、その材質は特に限定されない。
【0048】
次に、検知体のその他の構成例について説明する。
図11は検知体の第7の構成例を示す図である。
図11に示す検知体70は、溶出部71並びに反応部72と、それらの周囲に設けられた接着剤層73、および表面に設けられた透光フィルム74を備えている。
【0049】
溶出部71および反応部72にはそれぞれ、上記のような種々の形態を適用することが可能である。
接着剤層73は、この検知体70を評価対象の表面に強く貼り付け、かつ、その表面に透光フィルム74を接着し、さらに、溶出部71に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ目的で設けられている。その材質は、特に限定されないが、例えば、接着剤として従来広く用いられているPVA(Poly Vinyl Alcohol)等を用いることができる。
【0050】
透光フィルム74は、反応部72等を外部から保護すると共に、溶出部71に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ保護フィルムとしての役割を果たす。この透光フィルム74は、六価クロムが検知されたときに、反応部72の変色が容易に確認できるよう、無色透明であることが望ましく、例えば、PETフィルム等が用いられる。
【0051】
このような構成の検知体70によれば、接着剤層73の接着力によって、これを評価対象の表面により確実に密着させることができるようになる。さらに、接着剤層73および透光フィルム74による封止効果により、溶出部71に含有される水や薬液の蒸発を抑え、六価クロムの検知に要する時間を長く確保することができるようになる。
【0052】
なお、このような検知体70は、例えば、層状の溶出部71と反応部72の積層体を形成して、その側面に接着剤層73を形成し、さらに反応部72側に透光フィルムを貼り付ける、等の方法を用いて形成することが可能である。
【0053】
図12は検知体の第8の構成例を示す図である。なお、図12では、図11に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図12に示す検知体80は、上記第7の構成例に示した検知体70と同様の構成であるが、不透光材料を用いて構成された溶出部81を有している点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。溶出部81には、例えば、セラミックフィルタ等を用いることができる。
【0054】
このような構成の検知体80によれば、溶出部81が不透光性であるため、六価クロムが検知されたときに、反応部72の変色の有無やその度合いを、評価対象表面の色の影響を抑えて、より明瞭に認識することができるようになる。
【0055】
図13は検知体の第9の構成例を示す図である。なお、図13では、図11に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図13に示す検知体90は、溶出部71aと反応部72で構成される六価クロム検知部のほか、溶出部71bとpH測定部91で構成されるpH評価部を備える点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。六価クロム検知部とpH評価部の各セル間は、接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0056】
pH測定部91には、従来公知のpH指示薬を用いることができ、これを樹脂に混ぜたり紙片に含ませたりすることによって構成される。
このような構成の検知体90によれば、六価クロム検知部側で六価クロムの有無を判別することができると共に、pH評価部側で六価クロム溶出時のpHを測定することができるようになる。
【0057】
図14は検知体の第10の構成例を示す図である。なお、図14では、図11に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図14に示す検知体100は、pHを調整する薬剤がそれぞれ加えられた複数の溶出部71c,71d,71e,71f,71gが設けられている点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。溶出部71c,71d,71e,71f,71gと反応部72で構成された各セル間は、互いに接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0058】
各溶出部71c,71d,71e,71f,71gには、六価クロム溶出用の水や薬液が供給されたときに、内部の液がそれぞれ異なるpHになるよう、pH調整用の薬剤が加えられている。
【0059】
このような構成の検知体100によれば、複数のpH条件での六価クロムの検知を行うことができる。したがって、例えば、いずれのpH条件で六価クロムが溶出しやすいか、といった情報を取得することが可能になる。このような情報は、例えば、部品等の酸性雨等の外的環境による影響を知る上で有用である。
【0060】
図15は検知体の第11の構成例を示す図である。なお、図15では、図13に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図15に示す検知体110は、溶出部71a,71bとは異なるpH条件になるようにpH調整用の薬剤が加えられた溶出部71h,71iを備え、これらの各溶出部71h,71iにもそれぞれ反応部72、pH測定部91が設けられている点で、上記第9の構成例に示した検知体90と相違している。この検知体110においても、各セル間は、互いに接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0061】
このような構成の検知体110によれば、溶出部71a,71bとそれぞれに設けられた反応部72およびpH測定部91によって、あるpH環境での六価クロムの検知とそのときのpHの評価を行うことができ、溶出部71h,71iとそれぞれに設けられた反応部72およびpH測定部91によって、別のpH環境での六価クロムの検知とそのときのpHの評価を行うことができるようになる。
【0062】
続いて、六価クロムの検知を実施した具体例について説明する。
まず、第1の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、鉄、ガラス(SiO2)、ステンレス(SUS304)、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜を用いた。なお、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜は、いずれも鉄の素地層に形成された亜鉛メッキ層上に形成されている。
【0063】
これらの各サンプルの表面にそれぞれ、平面サイズが約5mm角(縦約5mm×横約5mm)のコットンを乗せ、そのコットンに、ジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下した。そして、ジフェニルカルバジド溶液を滴下して10分後の変色状態と、そのジフェニルカルバジド溶液の乾燥後の変色状態をそれぞれ調べた。結果を表1に示す。なお、ここでは検知体としてコットンを用いており、各サンプル自体の色は、変色の有無やその度合いの判別には影響していない。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、ジフェニルカルバジド溶液の滴下前は、いずれのサンプルもコットンの白色であったが、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから10分後には、六価クロメート皮膜のみ薄桃色への変色が認められ、その他のサンプルについては変色は認められず、コットンの白色のままであった。
【0066】
また、ジフェニルカルバジド溶液が乾燥した後は、六価クロメート皮膜ではさらに変色が進行し、茶紫色を呈するようになった。ジフェニルカルバジド溶液の乾燥後は、その他のサンプルについてもそれぞれ変色が認められ、鉄で薄茶紫色、ガラスで薄紫色、ステンレスで薄紫色、三価クロメート皮膜で濃紫色を呈した。ただし、変色の度合いは、六価クロメート皮膜が最も大きかった。
【0067】
このように、コットンにジフェニルカルバジド溶液を滴下しただけの簡易な方法によっても、六価クロムの検知が可能であった。なお、ジフェニルカルバジド溶液の乾燥後は、色や変色度合いは異なるものの、すべてのサンプルが変色するようになるので、六価クロムの検知は、滴下したジフェニルカルバジド溶液が乾燥する前に行うことが望ましい。
【0068】
次に、第2の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、鉄の素地層に形成された亜鉛メッキ試料およびその試料上の三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜をそれぞれ、粒度#1000の研磨材を用い、表面にクロメート層と亜鉛メッキ層が共存する状態になるよう研磨したものを用いた。
【0069】
そして、そのように研磨した後の亜鉛メッキ試料および三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜の表面にそれぞれ、平面サイズ約5mm角のコットンを乗せ、それにジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下し、滴下10分後と乾燥後の変色状態をそれぞれ調べた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2より、ジフェニルカルバジド溶液の滴下前は、いずれのサンプルもコットンの白色であったが、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから10分後には、亜鉛メッキ試料、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜のいずれにも紫色への変色が認められた。また、乾燥後には、亜鉛メッキ試料および三価クロメート皮膜に濃紫色への変色が、六価クロメート皮膜に茶紫色への変色が、それぞれ認められた。
【0072】
このように、三価クロメート皮膜をある程度研磨すると、三価クロメート皮膜の下地層である亜鉛メッキが露出するため、ジフェニルカルバジド溶液が亜鉛メッキと反応して、滴下して10分後に変色する。したがって、この検知手法は、三価クロメート皮膜のクラック、剥離等による構造上の欠陥の有無を判別する手法としても利用可能である。
【0073】
以上説明したように、ここでは検知体をシール状に構成し、検知時にはそれを被検知体に貼り付けるようにした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、被検知体に検知体を貼り付け、変色の目視観察等によって六価クロムを検知することが可能になる。したがって、簡易かつ効率的に六価クロムの有無を判別することができ、さらに、分析・評価の低コスト化を図れるようになる。
【0074】
また、検知体を、三価クロメート層の欠陥の有無の判別に用いることも可能であり、それにより、三価クロメート層の品質管理を容易かつ迅速に、低コストで行うことが可能になる。
【0075】
なお、以上の説明では、クロムの検知を例にして述べたが、鉛、水銀、カドミウム等、その他の元素の検知を行う場合にも、上記と同様の構成を有する検知体を用いて検知を行うことも可能である。すなわち、被検知体に貼り付けられたときに、その表面から所定元素を溶出し、溶出された所定元素の存在を変色等によって人為的あるいは機械的に判別できるようにした検知体を用いることにより、種々の元素を簡易に検知することが可能になる。
【0076】
また、以上の説明では、変色の目視観察によって六価クロムを検知する例、つまり、六価クロムと反応して変色する材料で反応部を構成する例で説明したが、六価クロムと反応したことを識別できる材料であればこれに限るものではない。
【0077】
(付記1) 六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【0078】
(付記2) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記3) 前記溶出部は、前記被検知体からの六価クロムの溶出に用いられる液を保持することができるように構成されていることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0079】
(付記4) 前記溶出部は、前記液を保持することのできる空孔を有していることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記5) 前記溶出部は、前記液を保持することのできる多孔質材料を用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
【0080】
(付記6) 前記溶出部は、保水性高分子を用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記7) 前記溶出部は、前記液を内包するマイクロカプセルを用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
【0081】
(付記8) 前記反応部は、透光材料を用いて形成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記9) 前記溶出部は、不透光材料を用いて形成されていることを特徴とする付記8記載の検知体。
【0082】
(付記10) 前記反応部は、前記物質が含有された樹脂によって構成されていることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
(付記11) 前記反応部は、前記物質が内包されたマイクロカプセルであることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0083】
(付記12) 前記溶出部および前記反応部は、前記溶出部の前記被検知体との接触面を残して周囲を封止されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記13) 前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部を有することを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0084】
(付記14) 前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHが前記溶出部と異なる他の溶出部を1または2以上有していることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
(付記15) 前記溶出部で前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部と、前記他の溶出部で前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するための他のpH測定部と、を有していることを特徴とする付記14記載の検知体。
【0085】
(付記16) 前記溶出部の周囲に前記被検知体に接着する接着剤層を有していることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記17) 六価クロムの検知方法において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有する検知体を用い、
前記検知体の前記溶出部を前記被検知体に接触させ、前記反応部での変色の有無によって前記被検知体の六価クロムの有無を判別することを特徴とする検知方法。
【0086】
(付記18) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記17記載の検知方法。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】検知体の概略図である。
【図2】検知体貼付時の概略図である。
【図3】六価クロム溶出時の概略図である。
【図4】反応部変色時の概略図である。
【図5】検知体の第1の構成例を示す図である。
【図6】検知体の第2の構成例を示す図である。
【図7】検知体の第3の構成例を示す図である。
【図8】検知体の第4の構成例を示す図である。
【図9】検知体の第5の構成例を示す図である。
【図10】検知体の第6の構成例を示す図である。
【図11】検知体の第7の構成例を示す図である。
【図12】検知体の第8の構成例を示す図である。
【図13】検知体の第9の構成例を示す図である。
【図14】検知体の第10の構成例を示す図である。
【図15】検知体の第11の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110 検知体
2,11,21,31,41,71,71a,71b,71c,71d,71e,71f,71g,71h,71i,81 溶出部
3,51,72 反応部
4 評価対象
5 下地層
6 六価クロメート皮膜
11a 空孔
41a,61 マイクロカプセル
73 接着剤層
74 透光フィルム
91 pH測定部
【技術分野】
【0001】
本発明は検知体に関し、特に六価クロムを検知するための検知体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ等のメッキや板金等には、その防食性向上を図る等の目的で、クロメート処理が広く利用されてきた。これまでのクロメート処理には、主に六価クロムが使用されていたが、より安全性を高めるため、現在は六価クロメート処理が規制される傾向にあり、替わって三価クロムを使用した三価クロメート処理が注目され始めている。クロメート処理品は、現在広く用いられているが、今後、各種製品の部材・部品中のクロムの有無、特に六価クロムの有無を判別する手法が必要になってくるものと考えられる。
【0003】
部品等の六価クロムの検知方法としては、例えば、そのような部品等から液中に六価クロムを溶出しそれをジフェニルカルバジドと反応させてその変色状態(色や吸光度)を調べるジフェニルカルバジド法や、部品等を適当に加工してAES(Auger Electron Spectroscopy)、SAM(Scanning Auger electron Microscopy)、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の分析機器を用いて評価する方法がある。
【0004】
なお、従来、様々な分野で各種検知手法が提案されており、例えば、亜硝酸イオン検知紙を用いて亜硝酸イオン濃度を簡易測定する方法(特許文献1参照)、透水性フィルムの片面に水分によって発色する発色層を設けた水分検知ラベルを用いて水分を検知する方法(特許文献2参照)、フィルム状の支持体にガスの成分と接触して発色する検知試薬を担持したガス検知体を用いてガスを検知する方法(特許文献3参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2005−76038号公報
【特許文献2】特開平10−90244号公報
【特許文献3】特開平9−210985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の部品等を一括して入手する場合には、付属する品質データの利用や抜き取り検査等の分析・評価によって六価クロムの有無を知ることができ、比較的容易にそれら部品等の品質が保証できる。
【0006】
しかし、既成の組み立て品や他メーカーから供給されるOEM(Original Equipment Manufacture)品は、クロメート処理した部品等とそうでない部品等とが混在している可能性がある。六価クロムが使用されているか否かを知るためには、その組み立て品等を分解し、分解した各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならなくなる。特に、分析機器を用いて六価クロムの検出を行う場合には、分解した部品等をさらに各分析機器に適した形に加工しなければならないことが多い。このように、組み立て品等の六価クロムについての品質保証データを取得するためには、多大な労力と時間が必要であり、さらに、それに伴うコストの増加も無視できない。
【0007】
また、六価クロメート処理品の代替品とされる三価クロメート処理品は、六価クロメート処理品と外観上の見分けがつきにくく、これらの部品等が混在している場合にも、各部品等についてそれぞれ分析・評価を行わなければならないため、同様の問題が生じる。さらに、現在は、六価クロメート処理から三価クロメート処理への移行期であって、三価クロメート皮膜に六価クロムが混入するといったことも起こり得る。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、六価クロムを簡易に検知することのできる検知体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記課題を解決するために、六価クロムの検知に用いる検知体において、被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、を有することを特徴とする検知体が提供される。
【0010】
このような検知体によれば、被検知体に接触する溶出部で、その被検知体から六価クロムが溶出され、反応部に含まれている物質が、溶出部で溶出された六価クロムを検出する。溶出部を被検知体に接触させれば被検知体の六価クロムの有無を判別することができるため、六価クロムの検知が簡易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、検知体を、被検知体の六価クロムを溶出するための溶出部と、溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部を有する構成にした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、その溶出部を被検知体に接触させるのみで被検知体の六価クロムの有無を判別することができる。そのため、六価クロムの検知を容易かつ迅速に、低コストで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
まず、六価クロムの検知に用いる検知体とその検知の原理について説明する。
図1は検知体の概略図である。
【0013】
検知体1は、層状の溶出部2と反応部3が積層された構成を有している。検知体1は、例えば、シール状に形成されており、溶出部2側を被検知体である評価対象に貼り付けて、溶出部2の全部または一部をその評価対象の表面に密着させることができるようになっている。
【0014】
溶出部2には、評価対象の表面と密着したときにその評価対象から六価クロムを溶出させるための水または薬液(アセトン、エタノール等)が含有されている。溶出部2は、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、かつ、そのような水や薬液によって評価対象の表面から溶出された六価クロムを固定しないような材質で構成されている。なお、溶出部2の構成例については後述する。
【0015】
また、反応部3には、六価クロムと反応して変色(発色を含む。以下同じ。)する物質(変色剤)、例えばジフェニルカルバジドが含有されている。検知体1では、溶出された六価クロムが水や薬液を媒介に溶出部2内を移動して反応部3に到達し、反応部3に含有されている変色剤と反応すると、反応部3が変色するようになっている。なお、反応部3の構成例については後述する。
【0016】
検知体1の平面サイズは、評価対象に応じて任意に設定可能であり、例えば、ねじに用いる場合であればそのねじ頭に貼り付けられる程度の大きさにしたり、より大きな板材等に用いる場合にはそのサイズに応じた大きさにしたりすればよい。また、検知体1の厚みも任意に設定可能であるが、六価クロムの溶出量等を考慮して、その厚み、特に溶出部2の厚みを適切に設定することが望ましい。
【0017】
なお、上記のような構成の検知体1は、その材質にもよるが、例えば、シート状の溶出部2上に反応部3をシート状に形成する、シート状の反応部3上に溶出部2をシート状に形成する、シート状の溶出部2とシート状の反応部3を貼り合わせる、等の方法で形成することが可能である。
【0018】
図2から図4は検知体を用いた六価クロムの検知方法の流れを説明する図であって、図2は検知体貼付時の概略図、図3は六価クロム溶出時の概略図、図4は反応部変色時の概略図である。
【0019】
例えば、評価対象4として、素地層あるいはメッキ層である下地層5の表面に六価クロメート皮膜6が形成されているものを想定する。
検知体1を用いて検知を行う際には、まず、図2に示すように、検知体1を、そのような評価対象4の表面、ここでは六価クロメート皮膜6に、その溶出部2が密着するようにして貼り付ける。その際、溶出部2には、あらかじめ水や薬液を含有させておいたり、あるいは検知体1を評価対象4の表面に貼り付ける直前に水や薬液を含浸させたりして、水や薬液を含有させるようにする。
【0020】
六価クロメート皮膜6に検知体1が貼り付けられると、溶出部2に含有されている水や薬液によって、図3に示すように、六価クロメート皮膜6から六価クロムが溶出し始める。なお、便宜上、図3では、溶出部2内の六価クロムが溶出した領域を層状に図示している。
【0021】
そして、一定時間が経過し、図4に示すように、溶出した六価クロムが溶出部2内を移動して反応部3に到達すると、六価クロムが反応部3に含有される変色剤と反応し、反応部3が変色するようになる。この変色によって六価クロムの存在を検知することができる。
【0022】
ここでは、六価クロメート皮膜6を有する評価対象4を例にしているが、六価クロムを含まないような評価対象について同条件の処理を行った場合には、通常、反応部3は変色しないため、それによってその評価対象に六価クロムが含まれていないことを知ることができる。
【0023】
なお、反応部3の変色は、目視観察によって判別することができるほか、六価クロムの溶出量が一定レベル以上であれば、分光光度計を用いて判別することも可能である。
以上説明したように、上記のような検知体1を用いることにより、評価対象4を分解したり加工したりすることなく、検知体1を評価対象4に貼り付けるのみで、その皮膜中の六価クロムの有無を判別することができ、六価クロムの検知を非常に容易かつ迅速に行うことができるようになる。
【0024】
三価クロムは、六価クロムに比べると、水等に溶出しにくい。そのため、検知体1を三価クロメート皮膜とされている膜の表面に貼り付ければ、その膜に六価クロムが混入しているか否かの判別をすることも可能である。
【0025】
また、ジフェニルカルバジド溶液は、六価クロムの他に亜鉛メッキとも反応して変色する。このことから、クラック、剥離等による構造上の欠陥が存在する三価クロメート皮膜では検知体1にジフェニルカルバジド溶液と亜鉛メッキとの変色反応が生じることから、後述のように、この検知体1を三価クロメート皮膜の品質の判定に利用することも可能である(第2の実施例参照)。
【0026】
なお、以上の説明では、層状の溶出部2と反応部3が積層された検知体1を例示したが、これらは必ずしも明確に2層に分割されていることを要せず、1層で上記のような溶出部2と反応部3の両方の機能を有する構成にすることも可能である。
【0027】
以下、検知体の構成例について説明する。
まず、検知体の溶出部の構成について説明する。
図5は検知体の第1の構成例を示す図である。
【0028】
図5に示す検知体10は、その溶出部11に空孔11aを設けた構成になっている。この溶出部11の材質は、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであれば、特に限定されない。
【0029】
このような検知体10を用いて六価クロムの検知を行う場合には、まず、検知体10を評価対象に貼り付ける前に、その空孔11a内に六価クロム溶出用の水や薬液を入れるようにする。これは、例えば、溶出部11側から水や薬液を滴下したり、溶出部11側を水や薬液に含浸したりすることで容易に行える。そして、その溶出部11が密着するように検知体10を評価対象の表面に貼り付ける。その際、検知体10は、溶出部11に含有されている水や薬液の表面張力によって、評価対象の表面に貼り付けられるようになる。
【0030】
これにより、評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されている場合には、空孔11a内の水や薬液によってその皮膜から六価クロムが溶出され、それが反応部3に到達して所定の反応が起きると、反応部3が変色する。一方、評価対象の表面に六価クロムを含有する皮膜が形成されていない場合には、通常、反応部3は変色しない。
【0031】
なお、ここでは、溶出部11に空孔11aが1つだけ形成されている構成を例示したが、このような空孔は、その内部に水や薬液を容易に入れることができれば、溶出部に複数形成されていても構わない。
【0032】
図6は検知体の第2の構成例を示す図である。
図6に示す検知体20は、その溶出部21がメッシュやフィルタ等の多孔質性の材料を用いて構成されている。なお、溶出部21には、このように多孔質性であるほか、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する材料が用いられる。
【0033】
このような検知体20を用いて六価クロムの検知を行う場合も、上記図5に示した検知体10と同様、これを評価対象に貼り付ける前に、その溶出部21に六価クロム溶出用の水や薬液を含浸する等して含有させるようにする。そして、その水や薬液の表面張力を利用して検知体20を評価対象の表面に貼り付け、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0034】
図7は検知体の第3の構成例を示す図である。
図7に示す検知体30は、その溶出部31が保水性を有する高分子を用いて構成されている。なお、溶出部31には、このような保水性のほか、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しない性質を有する高分子が用いられる。
【0035】
このような検知体30を用いて六価クロムの検知を行う場合には、それを評価対象に貼り付ける前に、その溶出部31に水や薬液を含浸する等して含有させ、それからその検知体30を評価対象の表面に貼り付ける。そして、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0036】
保水性高分子は、その分子量等を制御することにより、あらかじめ含有可能な水分量を制御することができる。これを利用すれば、溶出部31に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の量を制御することが可能である。溶出部31に含有される水や薬液の量を一定に制御しておけば、評価対象が変わっても、六価クロムを溶出する際の液量を一定にすることが可能になる。
【0037】
図8は検知体の第4の構成例を示す図である。
図8に示す検知体40は、その溶出部41がマイクロカプセル41aを用いて構成されている。なお、溶出部41のマイクロカプセル41aを除く部分には、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル41aを埋め込むことができるものが用いられる。
【0038】
マイクロカプセル41aには、例えば、六価クロム溶出用の水や薬液を内包させることができる。マイクロカプセル41aには、それが破壊されることによって中の水や薬液を放出するものや、非破壊で中の水や薬液を徐々に浸み出させるもの等、種々の形態が利用可能である。
【0039】
このような検知体40を用いて六価クロムの検知を行う場合には、それを評価対象に貼り付ける前に、マイクロカプセル41aを破壊して中の水や薬液を放出させたり、マイクロカプセル41aから水や薬液を浸み出させたりして、評価対象の表面に貼り付ける。そして、その反応部3の変色状態から、その評価対象の六価クロムの有無を判別する。
【0040】
マイクロカプセル41aを破壊して水や薬液を放出する形態では、溶出部41に外部から水や薬液を供給して含有させるという作業が不要になるため、より簡易に評価を行うことが可能になる。また、マイクロカプセル41aから水や薬液を浸み出させる形態では、その現象を利用して長期的な評価を行うことが可能になる。
【0041】
また、マイクロカプセル41aに水または薬液を内包させておき、検知体40を評価対象に貼り付ける前に、薬液または水でマイクロカプセル41aを溶解するような構成とすることも可能である。この場合、薬液または水でマイクロカプセル41aが溶解されて、その薬液または水がマイクロカプセル41aに内包されていた水または薬液と混合されたときに、溶出部41に所定の組成の薬液が含有されることとなるよう、制御することも可能である。また、マイクロカプセル41aの溶解には、薬液や水のほか、別の溶剤等を用いるようにしてもよい。
【0042】
次に、検知体の反応部の構成について説明する。
図9は検知体の第5の構成例を示す図である。
図9に示す検知体50は、その反応部51が樹脂を用いて構成されており、その樹脂中にジフェニルカルバジド等の変色剤が含有されている。
【0043】
このような反応部51に用いられる樹脂には、六価クロムと変色剤が反応したときにその変色が識別できること、六価クロム溶出用の水や薬液を溶出部2内に一定時間保持しておけること、六価クロムや変色剤と反応しないこと、等の性質を有していることが必要になり、例えばPET(Poly Ethylene Terephthalate)等を用いることができる。
【0044】
なお、このような検知体50の溶出部2には、上記図5から図8に例示した溶出部11,21,31,41を適用することが可能である。
図10は検知体の第6の構成例を示す図である。
【0045】
図10に示す検知体60は、マイクロカプセル61を用いて構成されており、そのマイクロカプセル61内に、ジフェニルカルバジド等の変色剤が内包されている。そして、このようなマイクロカプセル61が溶出部2内に埋め込まれている。
【0046】
このような検知体60を用いて六価クロムの検知を行う場合には、マイクロカプセル61を割る、マイクロカプセル61から徐々に染み出させる、あるいは六価クロムの溶出に用いる水や薬液によってマイクロカプセル61を溶解する、等の方法を用い、溶出部2内に変色剤を放出させる。これを評価対象の表面に貼り付け、変色の有無を見て、六価クロムの有無を判別する。このような構成の場合、変色剤が溶出部2内に放出されているため、評価対象から六価クロムが溶出されたときには、比較的早く変色が見られ、迅速に六価クロムを検知することが可能になる。
【0047】
なお、このような検知体60の溶出部2は、六価クロム溶出用の水や薬液を一定時間保持しておくことができ、六価クロム溶出用の水や薬液と反応せず、溶出された六価クロムを固定しないものであって、内部にマイクロカプセル61を埋め込むことができるものであれば、その材質は特に限定されない。
【0048】
次に、検知体のその他の構成例について説明する。
図11は検知体の第7の構成例を示す図である。
図11に示す検知体70は、溶出部71並びに反応部72と、それらの周囲に設けられた接着剤層73、および表面に設けられた透光フィルム74を備えている。
【0049】
溶出部71および反応部72にはそれぞれ、上記のような種々の形態を適用することが可能である。
接着剤層73は、この検知体70を評価対象の表面に強く貼り付け、かつ、その表面に透光フィルム74を接着し、さらに、溶出部71に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ目的で設けられている。その材質は、特に限定されないが、例えば、接着剤として従来広く用いられているPVA(Poly Vinyl Alcohol)等を用いることができる。
【0050】
透光フィルム74は、反応部72等を外部から保護すると共に、溶出部71に含有される六価クロム溶出用の水や薬液の蒸発を防ぐ保護フィルムとしての役割を果たす。この透光フィルム74は、六価クロムが検知されたときに、反応部72の変色が容易に確認できるよう、無色透明であることが望ましく、例えば、PETフィルム等が用いられる。
【0051】
このような構成の検知体70によれば、接着剤層73の接着力によって、これを評価対象の表面により確実に密着させることができるようになる。さらに、接着剤層73および透光フィルム74による封止効果により、溶出部71に含有される水や薬液の蒸発を抑え、六価クロムの検知に要する時間を長く確保することができるようになる。
【0052】
なお、このような検知体70は、例えば、層状の溶出部71と反応部72の積層体を形成して、その側面に接着剤層73を形成し、さらに反応部72側に透光フィルムを貼り付ける、等の方法を用いて形成することが可能である。
【0053】
図12は検知体の第8の構成例を示す図である。なお、図12では、図11に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図12に示す検知体80は、上記第7の構成例に示した検知体70と同様の構成であるが、不透光材料を用いて構成された溶出部81を有している点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。溶出部81には、例えば、セラミックフィルタ等を用いることができる。
【0054】
このような構成の検知体80によれば、溶出部81が不透光性であるため、六価クロムが検知されたときに、反応部72の変色の有無やその度合いを、評価対象表面の色の影響を抑えて、より明瞭に認識することができるようになる。
【0055】
図13は検知体の第9の構成例を示す図である。なお、図13では、図11に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図13に示す検知体90は、溶出部71aと反応部72で構成される六価クロム検知部のほか、溶出部71bとpH測定部91で構成されるpH評価部を備える点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。六価クロム検知部とpH評価部の各セル間は、接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0056】
pH測定部91には、従来公知のpH指示薬を用いることができ、これを樹脂に混ぜたり紙片に含ませたりすることによって構成される。
このような構成の検知体90によれば、六価クロム検知部側で六価クロムの有無を判別することができると共に、pH評価部側で六価クロム溶出時のpHを測定することができるようになる。
【0057】
図14は検知体の第10の構成例を示す図である。なお、図14では、図11に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図14に示す検知体100は、pHを調整する薬剤がそれぞれ加えられた複数の溶出部71c,71d,71e,71f,71gが設けられている点で、上記第7の構成例に示した検知体70と相違している。溶出部71c,71d,71e,71f,71gと反応部72で構成された各セル間は、互いに接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0058】
各溶出部71c,71d,71e,71f,71gには、六価クロム溶出用の水や薬液が供給されたときに、内部の液がそれぞれ異なるpHになるよう、pH調整用の薬剤が加えられている。
【0059】
このような構成の検知体100によれば、複数のpH条件での六価クロムの検知を行うことができる。したがって、例えば、いずれのpH条件で六価クロムが溶出しやすいか、といった情報を取得することが可能になる。このような情報は、例えば、部品等の酸性雨等の外的環境による影響を知る上で有用である。
【0060】
図15は検知体の第11の構成例を示す図である。なお、図15では、図13に示した要素と同一または同等の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
図15に示す検知体110は、溶出部71a,71bとは異なるpH条件になるようにpH調整用の薬剤が加えられた溶出部71h,71iを備え、これらの各溶出部71h,71iにもそれぞれ反応部72、pH測定部91が設けられている点で、上記第9の構成例に示した検知体90と相違している。この検知体110においても、各セル間は、互いに接着剤層73で隔離され、外周および表面はそれぞれ、接着剤層73および透光フィルム74によって封止されている。
【0061】
このような構成の検知体110によれば、溶出部71a,71bとそれぞれに設けられた反応部72およびpH測定部91によって、あるpH環境での六価クロムの検知とそのときのpHの評価を行うことができ、溶出部71h,71iとそれぞれに設けられた反応部72およびpH測定部91によって、別のpH環境での六価クロムの検知とそのときのpHの評価を行うことができるようになる。
【0062】
続いて、六価クロムの検知を実施した具体例について説明する。
まず、第1の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、鉄、ガラス(SiO2)、ステンレス(SUS304)、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜を用いた。なお、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜は、いずれも鉄の素地層に形成された亜鉛メッキ層上に形成されている。
【0063】
これらの各サンプルの表面にそれぞれ、平面サイズが約5mm角(縦約5mm×横約5mm)のコットンを乗せ、そのコットンに、ジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下した。そして、ジフェニルカルバジド溶液を滴下して10分後の変色状態と、そのジフェニルカルバジド溶液の乾燥後の変色状態をそれぞれ調べた。結果を表1に示す。なお、ここでは検知体としてコットンを用いており、各サンプル自体の色は、変色の有無やその度合いの判別には影響していない。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、ジフェニルカルバジド溶液の滴下前は、いずれのサンプルもコットンの白色であったが、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから10分後には、六価クロメート皮膜のみ薄桃色への変色が認められ、その他のサンプルについては変色は認められず、コットンの白色のままであった。
【0066】
また、ジフェニルカルバジド溶液が乾燥した後は、六価クロメート皮膜ではさらに変色が進行し、茶紫色を呈するようになった。ジフェニルカルバジド溶液の乾燥後は、その他のサンプルについてもそれぞれ変色が認められ、鉄で薄茶紫色、ガラスで薄紫色、ステンレスで薄紫色、三価クロメート皮膜で濃紫色を呈した。ただし、変色の度合いは、六価クロメート皮膜が最も大きかった。
【0067】
このように、コットンにジフェニルカルバジド溶液を滴下しただけの簡易な方法によっても、六価クロムの検知が可能であった。なお、ジフェニルカルバジド溶液の乾燥後は、色や変色度合いは異なるものの、すべてのサンプルが変色するようになるので、六価クロムの検知は、滴下したジフェニルカルバジド溶液が乾燥する前に行うことが望ましい。
【0068】
次に、第2の実施例について述べる。
ここでは、評価対象のサンプルとして、鉄の素地層に形成された亜鉛メッキ試料およびその試料上の三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜をそれぞれ、粒度#1000の研磨材を用い、表面にクロメート層と亜鉛メッキ層が共存する状態になるよう研磨したものを用いた。
【0069】
そして、そのように研磨した後の亜鉛メッキ試料および三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜の表面にそれぞれ、平面サイズ約5mm角のコットンを乗せ、それにジフェニルカルバジド溶液(ジフェニルカルバジド:0.4g,アセトン:20ml,水:20ml)を約0.2cm3滴下し、滴下10分後と乾燥後の変色状態をそれぞれ調べた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2より、ジフェニルカルバジド溶液の滴下前は、いずれのサンプルもコットンの白色であったが、ジフェニルカルバジド溶液を滴下してから10分後には、亜鉛メッキ試料、三価クロメート皮膜および六価クロメート皮膜のいずれにも紫色への変色が認められた。また、乾燥後には、亜鉛メッキ試料および三価クロメート皮膜に濃紫色への変色が、六価クロメート皮膜に茶紫色への変色が、それぞれ認められた。
【0072】
このように、三価クロメート皮膜をある程度研磨すると、三価クロメート皮膜の下地層である亜鉛メッキが露出するため、ジフェニルカルバジド溶液が亜鉛メッキと反応して、滴下して10分後に変色する。したがって、この検知手法は、三価クロメート皮膜のクラック、剥離等による構造上の欠陥の有無を判別する手法としても利用可能である。
【0073】
以上説明したように、ここでは検知体をシール状に構成し、検知時にはそれを被検知体に貼り付けるようにした。これにより、被検知体を分解したり加工したりすることなく、被検知体に検知体を貼り付け、変色の目視観察等によって六価クロムを検知することが可能になる。したがって、簡易かつ効率的に六価クロムの有無を判別することができ、さらに、分析・評価の低コスト化を図れるようになる。
【0074】
また、検知体を、三価クロメート層の欠陥の有無の判別に用いることも可能であり、それにより、三価クロメート層の品質管理を容易かつ迅速に、低コストで行うことが可能になる。
【0075】
なお、以上の説明では、クロムの検知を例にして述べたが、鉛、水銀、カドミウム等、その他の元素の検知を行う場合にも、上記と同様の構成を有する検知体を用いて検知を行うことも可能である。すなわち、被検知体に貼り付けられたときに、その表面から所定元素を溶出し、溶出された所定元素の存在を変色等によって人為的あるいは機械的に判別できるようにした検知体を用いることにより、種々の元素を簡易に検知することが可能になる。
【0076】
また、以上の説明では、変色の目視観察によって六価クロムを検知する例、つまり、六価クロムと反応して変色する材料で反応部を構成する例で説明したが、六価クロムと反応したことを識別できる材料であればこれに限るものではない。
【0077】
(付記1) 六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【0078】
(付記2) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記3) 前記溶出部は、前記被検知体からの六価クロムの溶出に用いられる液を保持することができるように構成されていることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0079】
(付記4) 前記溶出部は、前記液を保持することのできる空孔を有していることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記5) 前記溶出部は、前記液を保持することのできる多孔質材料を用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
【0080】
(付記6) 前記溶出部は、保水性高分子を用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
(付記7) 前記溶出部は、前記液を内包するマイクロカプセルを用いて形成されていることを特徴とする付記3記載の検知体。
【0081】
(付記8) 前記反応部は、透光材料を用いて形成されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記9) 前記溶出部は、不透光材料を用いて形成されていることを特徴とする付記8記載の検知体。
【0082】
(付記10) 前記反応部は、前記物質が含有された樹脂によって構成されていることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
(付記11) 前記反応部は、前記物質が内包されたマイクロカプセルであることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0083】
(付記12) 前記溶出部および前記反応部は、前記溶出部の前記被検知体との接触面を残して周囲を封止されていることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記13) 前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部を有することを特徴とする付記1または2記載の検知体。
【0084】
(付記14) 前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHが前記溶出部と異なる他の溶出部を1または2以上有していることを特徴とする付記1または2記載の検知体。
(付記15) 前記溶出部で前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部と、前記他の溶出部で前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するための他のpH測定部と、を有していることを特徴とする付記14記載の検知体。
【0085】
(付記16) 前記溶出部の周囲に前記被検知体に接着する接着剤層を有していることを特徴とする付記1記載の検知体。
(付記17) 六価クロムの検知方法において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有する検知体を用い、
前記検知体の前記溶出部を前記被検知体に接触させ、前記反応部での変色の有無によって前記被検知体の六価クロムの有無を判別することを特徴とする検知方法。
【0086】
(付記18) 前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする付記17記載の検知方法。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】検知体の概略図である。
【図2】検知体貼付時の概略図である。
【図3】六価クロム溶出時の概略図である。
【図4】反応部変色時の概略図である。
【図5】検知体の第1の構成例を示す図である。
【図6】検知体の第2の構成例を示す図である。
【図7】検知体の第3の構成例を示す図である。
【図8】検知体の第4の構成例を示す図である。
【図9】検知体の第5の構成例を示す図である。
【図10】検知体の第6の構成例を示す図である。
【図11】検知体の第7の構成例を示す図である。
【図12】検知体の第8の構成例を示す図である。
【図13】検知体の第9の構成例を示す図である。
【図14】検知体の第10の構成例を示す図である。
【図15】検知体の第11の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110 検知体
2,11,21,31,41,71,71a,71b,71c,71d,71e,71f,71g,71h,71i,81 溶出部
3,51,72 反応部
4 評価対象
5 下地層
6 六価クロメート皮膜
11a 空孔
41a,61 マイクロカプセル
73 接着剤層
74 透光フィルム
91 pH測定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【請求項2】
前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする請求項1記載の検知体。
【請求項3】
前記溶出部は、前記被検知体からの六価クロムの溶出に用いられる液を保持することができるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【請求項4】
前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部を有することを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【請求項5】
前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHが前記溶出部と異なる他の溶出部を1または2以上有していることを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【請求項1】
六価クロムの検知に用いる検知体において、
被検知体に接触して前記被検知体から六価クロムを溶出するための溶出部と、
前記溶出部で溶出された六価クロムを検出する物質を含んだ反応部と、
を有することを特徴とする検知体。
【請求項2】
前記物質は、六価クロムと反応して変色することを特徴とする請求項1記載の検知体。
【請求項3】
前記溶出部は、前記被検知体からの六価クロムの溶出に用いられる液を保持することができるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【請求項4】
前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHを測定するためのpH測定部を有することを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【請求項5】
前記被検知体から六価クロムを溶出する際のpHが前記溶出部と異なる他の溶出部を1または2以上有していることを特徴とする請求項1または2記載の検知体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−139497(P2007−139497A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331459(P2005−331459)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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