説明

検知装置、及び、検知方法

【課題】熱交換器のアルミニウムフィンに鉄が強固に固着する以前に除去する必要があるが、そのためには、冷凍装置の熱交換器の運転状態を常に監視しなければならず、装置が大規模となるほか、鉄粉の腐食による目詰まりであるか、油にごみ等が付着したために生じた目詰まりであるかを判別することはできない。
【解決手段】この発明に係る検知装置は、アルミニウムの成型品にX線を照射する照射部と、成型品から放出される蛍光X線を分析する分析部と、分析部における分析結果からアルミニウムと鉄の信号強度の比を算出する算出部とを備え、この比により成型品に固着した鉄の固着度を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に使用される熱交換器のアルミニウムフィンに固着した鉄の固着度を検知する検知装置、及び、検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機は、空気を循環させながら熱交換により温度を調節するため、熱交換器には汚れ等が付着し堆積する。特に、熱交換器に設けられたアルミニウムフィンは複雑な凹凸構造を有することから汚れによる目詰まりが起こり効率低下を招きやすい。このため定期的な洗浄が必要となる。特に、鉄道車両用の熱交換器では、汚れとして鉄粉が付着するが、アルミニウムフィンに付着した鉄粉が腐食し、フィンに強固に固着する現象を引き起こすことが分かっている。
【0003】
鉄道車両用の空気調和機に設けられた熱交換器のアルミニウムフィンの洗浄に通常用いられる高圧水洗浄、または、中性洗浄剤、弱アルカリ性洗浄剤、弱酸性洗浄剤による洗浄では、固着した鉄粉の腐食による汚れを十分除去できない。このような場合には、強アルカリ性洗浄剤を用いて除去することも可能だが、強アルカリ性洗浄剤はアルミニウムフィンに施されている親水膜を破壊したり、アルミニウムフィン本体の腐食を引き起こす可能性がある。
【0004】
従って、空気調和機を長期間にわたり効率よく使用するためには、熱交換器のアルミニウムフィンに鉄が強固に固着する以前に除去する必要がある。このためには、アルミニウムと鉄との固着度を正確に知る必要がある。
【0005】
従来、アルミニウムと鉄との固着度は専ら目視にて確認していた。鉄は常温で酸化し腐食すると、赤茶けた色の赤錆となるため、その色合いの変化によりアルミニウムと鉄との固着度及び鉄の腐食度合い判断していた。
【0006】
また、従来の熱交換器の汚れ検出方法としては、熱交換器の熱交換量、流体温度、冷媒温度、及び、伝熱面積から得られる係数に基づき熱交換器の汚れ状態を検出する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−147907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法では、冷凍装置の熱交換器の運転状態を常に監視しなければならず、装置が大規模となるほか、鉄粉の腐食による目詰まりであるか、油にごみ等が付着したために生じた目詰まりであるかを判別することはできない。
【0009】
また、目視による確認では、人それぞれの判断にばらつきが生じるのみならず、表面の一部の色変化だけで鉄粉の付着が多いと判断し、強アルカリ性洗浄剤を使用した結果、アルミニウムフィンに不必要なダメージを与えてしまう恐れがある。このような問題を避けるため、熱交換器の適切な洗浄時期や洗浄方法を知らせる必要がある。本発明は、このため正確に熱交換器の鉄固着度を検知する方法及び装置に関する。
【0010】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであって、鉄道車両用の空気調和機に設けられた熱交換器の適切な洗浄時期や洗浄方法を知らせることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る検知装置は、アルミニウムの成型品にX線を照射する照射部と、成型品から放出される蛍光X線を分析する分析部と、分析部における分析結果からアルミニウムと鉄の信号強度の比を算出する算出部とを備え、この比により成型品に固着した鉄の固着度を検知することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウムと鉄との固着度を客観的に知ることができるため、アルミニウムに付着した鉄が腐食する前に、アルミニウム成型品を適切な時期及び方法により洗浄することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る検知装置を示す概念図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る検知方法を示すフローチャートである。
【図3】比と鉄の固着度を概念的に示したグラフである。
【図4】蛍光X線分析装置を用いてアルミニウムと鉄の信号強度を測定したスペクトル図である。
【図5】蛍光X線分析装置を用いてアルミニウムと鉄の信号強度を測定したスペクトル図の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
次に、図面を用いて、この発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態1に係る検知装置を示す概念図である。図において、空気調和機内部に設けられたアルミニウムの成型品2に対し、照射部3からX線を照射し、成型品2から放出される蛍光X線を受光する。分析部4では、受光した蛍光X線のスペクトル強度を分析する。算出部5では、分析部4の分析結果のうち、アルミニウムと鉄の信号強度の比を算出し、検知装置1は、算出部5の算出結果に応じて鉄の固着度を検知する。
【0016】
ここで、アルミニウムの成型品は、空気調和機内部に設けられた熱交換器のアルミニウムフィンであっても構わない。ただし、熱交換器のアルミニウムフィンが測定し難い場所に設置されていた場合等は、熱交換器のアルミニウムフィン近傍の測定しやすい場所にアルミニウムの成型品を設けることで、熱交換器のアルミニウムフィンの置かれた環境に近い環境での鉄固着度を容易に検知することが可能となる。
【0017】
図2は、この発明の実施の形態1に係る検知方法を示すフローチャートである。図において、S1の熱交換器のメンテナンス時に、検知装置1を用いて、S2でアルミニウムと鉄の信号強度を検出し、S3でその比(Al/Fe)を算出する。比がA以上の場合は鉄の固着度が低く、運転に影響がないレベルであると判断し、全く洗浄しないか、または、通常の洗浄(高圧水、中性、弱酸性、弱アルカリ性洗剤による洗浄が通常の洗浄にあたる)等で軽く汚れを落とし、S6で熱交換器を再使用する。比がB以上でAより小さい場合には鉄の固着度が中程度であると判断し、S4で高圧水洗浄、及び、中性または弱アルカリ性または弱酸性洗浄剤による洗浄で汚れを除去し、S6で熱交換器を再使用する。この場合、熱交換器の効率に影響をあまり与えず、長期間使用でき、鉄の汚れが除去可能であるため、最も適切な洗浄時期である。比がBより小さい場合には鉄の固着度が大きいと判断し、S5で強アルカリ性洗浄剤による洗浄を行う。比がB以上となり汚れが除去できた場合は、S6で熱交換器を再使用する。複数回洗浄を繰り返しても鉄の汚れが除去できない場合には、S7で熱交換器を交換する。
【0018】
強アルカリ性洗浄剤を用いた場合は、熱交換器のアルミニウムフィンにもともと施されている親水膜が破壊され、アルミニウムの腐食を引き起こす可能性があるので、熱交換器を長く使用していくためには、比がBより小さくなる前に洗浄するのが望ましい。図3のグラフにより比と鉄の固着度を概念的に示す。
【0019】
図1で示した検出装置としては、蛍光X線分析装置とパーソナルコンピュータ(以下、パソコンと記載)などの計算機とを組み合わせることで簡易に構成できる。ハンディタイプの蛍光X線分析装置とノートパソコン等を組み合わせることで設置場所での検知が可能となる。
【0020】
図4及び5は、蛍光X線分析装置を用いてアルミニウムと鉄の信号強度を測定したスペクトル図である。図5はアルミニウムの信号強度を見やすくするために図4の縦軸を拡大したものである。図中の矢印はアルミニウムと鉄のスペクトルの位置を示したものである。アルミニウムはKα線(1.48keV)を使用し、鉄はKα線(6.40keV)とKβ線(7.06keV)のピークがそれぞれ検出されるが、信号強度の大きいKα線を使用する。
【0021】
各図において、(a)は鉄の固着度が高い状態を示す。図の(b)は鉄の固着度が中程度の状態を示す。また、図の(c)は鉄の固着度が少ない状態を示す。下記表1に比(Al/Fe)の算出結果を示す。(a)アルミニウムからのピークが測定されず信号は0cpsなので、比(Al/Fe)が0となる。(b)はアルミニウムからの信号が0.4cps測定され、鉄が15cpsなので比(Al/Fe)は2.6×10−2となる。(c)はアルミニウムからの信号は(b)と同じ0.4cpsであるが、鉄の信号も4cpsとあまり検出されないため、比(Al/Fe)は1.0×10−1と(a)、(b)より大きくなる。
【0022】
【表1】

cps:counts per second
【0023】
この結果から、余裕をみて、例えばAが1.0×10−2、Bが1.0×10−3と設定することが出来る。この値は、測定装置の特性、熱交換器のメンテナンスの頻度、熱交換器の設置状況、または、熱交換器の重要度等により適宜設定できる。最初の試運転等によりこれらの必要な情報を収集することでより適切な値を設定することができる。
【0024】
検知装置は、測定した信号比がどの範囲にあるかを判断する算出部としてパソコン等計算機を用いる。蛍光X線分析装置とパソコンとはデータのやり取りが可能な状態で、測定データはパソコンに送られ処理される。比は既存のソフトウエア(以下、ソフトと記載)を用いることで自動的に算出可能である。また、設定しておいた閾値と比較判断し、その結果をモニタ等に表示することも既存ソフトを用いれば可能である。
【0025】
本実施の形態によれば、鉄固着度を定量的に検知することができるので、鉄が強固に固着する時期を客観的に判断でき、鉄が強固に固着する前に高圧水洗浄、及び、中性または弱アルカリ性または弱酸性洗浄剤による洗浄により鉄を除去することが可能となる。
【0026】
また、継続してデータを取り続けることで鉄が強固に固着する時期的な間隔を把握でき適切な時期に洗浄を実施することができる。そのため無駄な洗浄作業を行わなくてすむ。
その結果、長期間に渡り、熱交換器を効率的に使用することができる。
【0027】
さらに、連続してデータを取り、閾値付近で警告を発するような装置を設けることで、定期的なメンテナンスを実施する必要がなく、警告が発せられた段階で洗浄を行うことができ、より効率的な熱交換器のメンテナンスをすることができる。
【0028】
さらに、鉄固着度が高くないにもかかわらず、強アルカリ性洗浄剤による洗浄を行うことがなくなり、アルミニウムフィンへのダメージが軽減されるとともに環境にもやさしいメンテナンスが可能となる。
【0029】
本実施の形態では、熱交換器に一般的に用いられるアルミニウムフィンを対象としたため、アルミニウムと鉄の比を用いたが、熱交換器で他の金属、例えば銅を用いた場合には、銅と鉄の信号強度を検出し、その比(Cu/Fe)を算出することで、銅フィンに対する鉄固着度を検知することが可能となる。なお、鉄固着度を検知する対象物がアルミニウムとか銅に限られないことはいうまでもない。また、熱交換器以外の部品についても利用可能なことはいうまでもない。
【0030】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る検知方法を説明する。実施の形態2では、測定対象である成型品をメンテナンス対象である熱交換器のアルミニウムフィンとは別個に設け、この別個に設けられた成型品について蛍光X線のスペクトル強度を分析することで近似的に熱交換器のアルミニウムフィンの鉄固着度を判断するようにしたものである。
【0031】
ここで用いる成型品としては、例えば、大きさ10mm角もしくはそれ以上のアルミニウムプレートで構成することができる。あまり小さすぎると位置合わせが難しいため、ある程度の大きさがあるほうが良いが、この大きさより小さくても構わない。このアルミニウムプレートは熱交換器のアルミニウムフィンと同様な素材からできており、熱交換器のアルミニウムフィンと同様に親水性コーティングが施してあるのが望ましい。
【0032】
このアルミニウムプレートは熱交換器のアルミニウムフィンと同様な環境におかれる位置に取り付ける。このような位置としては、例えば、空気調和機内部の噴出し口付近が考えられる。取り方法としては、貼り付けでも、釣り下げでも、または、ホルダーを設けてその中に固定しても構わない。
【0033】
測定時期としては、例えば、定期的なメンテナンス時期に合わせて、抜き取るか、そのままの位置に固定する形で測定することが出来る。鉄固着度の判断基準としては、上記実施の形態1で説明したとおりである。
【0034】
本実施の形態では、測定対象である成型品を非常に簡単な構造とすることができるため、取り外し、設置等が簡単に行え、また、大きさを小さくすることも可能なことから、狭い場所にも設置可能である。また、熱交換器が故障した場合の交換に合わせて、成型品を交換することも可能である。
【0035】
なお、本実施の形態に係る発明は熱交換器に限らず、奥まった場所に設置等されているため直接測定ができないような部品の鉄固着度を検知することができ汎用性に優れている。
【0036】
また、本実施の形態では熱交換器を対象としたため熱交換器に一般的によく使用されるアルミニウムフィンを模擬したアルミニウムプレートを用いたが、アルミニウム以外で構成される部品の鉄固着度を検知したい場合は、その部品の材料を用いて鉄固着度検知装置を構成すればよい。
【符号の説明】
【0037】
1 検知装置、2 成型品、3 照射部、4 分析部、5 算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの成型品に固着した鉄の固着度を検知する検知装置であって、
前記成型品にX線を照射する照射部と、
前記成型品から放出される蛍光X線を分析する分析部と、
該分析部における分析結果からアルミニウムと鉄の信号強度の比を算出する算出部とを備え、
前記比により前記成型品に固着した鉄の固着度を検知する検知装置。
【請求項2】
前記成型品が熱交換器のアルミニウムフィンであることを特徴とする請求項1記載の検知装置。
【請求項3】
前記成型品が空気調和機の内部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の検知装置。
【請求項4】
アルミニウムの成型品に固着した鉄の固着度を検知する検知方法であって、
前記成型品にX線を照射する工程と、
前記成型品から放出される蛍光X線を分析する工程と、
この分析結果からアルミニウムと鉄の信号強度の比を算出する工程とを備え、
前記比により前記成型品に固着した鉄の固着度を検知する検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108726(P2013−108726A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256406(P2011−256406)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】