説明

極低温冷凍機

【課題】2.17K以下の極低温を安価に且つ長時間作り出すことのできる極低温冷凍機を提供する。
【解決手段】高温側の第1段冷却ステージ及び低温側の第2段冷却ステージを備える小型機械式冷凍機30と、第2段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、Heガス供給手段及び減圧排気手段と接続される第1チャンバ8と、第1チャンバ8に低熱伝導性の連通部を介して連通接続された第2チャンバ10と、第1段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、少なくとも第1チャンバ8及び第2チャンバ10を包囲する第1輻射シールド7と、第1輻射シールド7の外側に配置された真空断熱ジャケット25と、を有し、連通部は、第1チャンバ8及び第2チャンバ10の天部に開口し、第2チャンバ10の周壁部の内径又は内法より小さく絞られた内径又は内法を有していることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Heの沸点である4.2K(ケルビン)以下の極低温環境を作り出す極低温冷凍機に係り、特に、液体ヘリウムの供給を必要としない小型機械式冷凍機を用いて、Heが超流動に変化する2.17K以下の極低温環境を長時間維持し得る極低温冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体ヘリウムを用意し、これを用いて極低温環境を得る技術が知られている。この種の技術では、4.2K迄温度を下げたい場合は液体Heを利用したクライオスタット、1K迄下げたい場合は液体Heを減圧排気(液体と気体のエントロピー差を利用した蒸発冷凍)するクライオスタット、そして、0.3K迄下げたい場合は液体Heを減圧排気するクライオスタットが利用され、5mK迄下げたい場合は希釈冷凍機が利用され、さらに1μK程度まで下げたい場合は常磁性体(核スピン)の断熱消磁が利用され得る。
【0003】
液体ヘリウムを用意するには、ヘリウム液化装置を用いるか、ヘリウム液化装置が無い場合は液体ヘリウムを購入する必要がある。しかしながら、ヘリウム液化装置は、大型で高価な設備であるし、取り扱いには低温技術の知識が必要である。また、液体ヘリウムを購入したとしても、液体ヘリウムは、日に日に蒸発するため、不経済である。
【0004】
そのため、液体ヘリウムの供給を必要とせずに4K程度迄の環境を作り出すことができる、液体ヘリウムフリーの機械式冷凍機(ギフォードマクマホン冷凍機、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機等)が提案されている。
【0005】
液体ヘリウムフリーの上記機械式冷凍機を用いれば、ギフォードマクマホン冷凍機(GM冷凍機とも言う。)のような小型の機械式冷凍機によって、Heガスを液化させて極低温環境を作ることが可能となる(例えば、特許文献1等)。
【0006】
しかしながら、小型機械式冷凍機では、3K程度が冷却限界であり、Heガスを液化させても、周囲の熱輻射等によって、Heを長時間液化させておくことが困難であった。極低温環境を長時間保持するために種々の提案がなされているが、極低温環境持続時間は、せいぜい数十分であった(例えば、特許文献2等)。
【0007】
さらに、上記の機械的冷凍機でヘリウムガスを液化して、吸着剤にヘリウムガスを吸着させることで、液体ヘリウムを減圧し、0.5K以下の極低温環境を作り出す技術も提案されている(例えば、特許文献3,4等)。
【0008】
また、機械式冷凍機にジュールトムソン膨張を組合せて1K以下の極低温を実現する極低温冷凍機も提案されている(例えば特許文献5)。
【特許文献1】特公平7−96974号公報
【特許文献2】特開2004−76956号公報
【特許文献3】特開平8−283009号公報
【特許文献4】特開2005−321147号公報
【特許文献5】特開2006−343075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術のように吸着剤を用いた冷凍機では、吸着剤を収容するための構造が必要となって、装置が複雑化し、装置のコストアップにつながる。また、液体Heがラムダ点(2.17K)以下になるので、液体Heの超流動によるフィルムフローが発生するため、極低温環境を長時間持続させることが困難となる。
【0010】
また、ジュールトムソン膨張を組み合わせた冷凍機は、装置全体として大型になる上、ジュールトムソン膨張を作動させるために複雑な動作気体操作系やコンプレッサーが必要となり、コスト高となる。
【0011】
そこで、本発明は、2.17K以下の極低温を安価に且つ長時間作り出すことのできる極低温冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る極低温冷凍機は、高温側の第1段冷却ステージ及び低温側の第2段冷却ステージを備える小型機械式冷凍機と、前記第2段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、Heガス供給手段及び減圧排気手段と接続される第1チャンバと、前記第1チャンバに低熱伝導性の連通部を介して連通接続された第2チャンバと、前記第1段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、少なくとも前記第1チャンバ及び第2チャンバを包囲する第1輻射シールドと、前記第1輻射シールドの外側に配置された真空断熱ジャケットと、を有し、前記連通部は、前記第1チャンバの底部及び前記第2チャンバの天部に開口し、前記第2チャンバの周壁部の内径又は内法より小さく絞られた内径又は内法を有していることを特徴とする。
【0013】
前記第1輻射シールドの内側において、前記第1チャンバ及び前記第2段冷却ステージの少なくとも一方に熱接触して接続され、少なくとも前記第2チャンバを覆う第2輻射シールドを更に備えることが好ましい。
【0014】
前記第1チャンバから減圧排気されたHeガスを再び前記第1チャンバ内のHeガスと熱交換させて、前記第2チャンバ内に液体Heを滴下させる循環流路を更に備えても良い。前記循環流路は、所定の流量抵抗を付与するインピーダンス部を備えることが好ましい。
【0015】
前記第1チャンバの底部に、取り外し可能な底板を備え、該底板が、前記連通部及び第2チャンバとともに取り外し可能に接続されていてもよい。
【0016】
前記第2チャンバの底板に設けられ、Heガスの供給と減圧排気とを行うHeガス操作系と接続され、且つ、前記Heガス操作系から供給されるHeガスを前記第2チャンバとの熱交換により液化させる熱交換器と、前記熱交換器に、該熱交換器によって液化された液体Heを低熱伝導性の連通部を介して受け入れ可能に接続された第3チャンバと、を更に備え、前記第1輻射シールドが、前記第1チャンバ、第2チャンバ、及び第3チャンバを包括して覆うように構成しても良い。
【0017】
前記第3チャンバを備える場合、前記第2段冷却ステージ及び前記第1チャンバの少なくとも一方に熱接触して接続されて、前記第2チャンバ及び前記第3チャンバを包括して覆う第3輻射シールドを、前記第1輻射シールドの内側に更に備えることが好ましい。
【0018】
前記第3チャンバを備える場合、前記第2チャンバに熱接触して接続されて、前記第3チャンバを覆う第4輻射シールドを、前記第1輻射シールドの内側に更に備えても良い。
【0019】
前記第3チャンバを備える場合、前記第3輻射シールドの内側に、前記第4輻射シールドを備えることが、より好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、2段小型機械式冷凍機の第2段冷却ステージに第1チャンバを熱的に接触させて取り付け、Heガス供給手段を通じて第1チャンバ内にHeガスを供給し、2段小型機械式冷凍機の作動下でHeガスを液化させる。液化された液体Heは、連通部を通って第2チャンバ内に溜まる。真空ポンプ等の減圧排気手段によって強制的に第2チャンバ内及び第1チャンバ内を減圧排気し、第2チャンバ内に溜まった液体Heの一部を気化させることで気化熱(潜熱)に相当する熱量を液体Heから奪い液体Heの温度を下げることができる。
【0021】
その際、連通部は低熱伝導性であるため、第1チャンバからの熱が第2チャンバへ伝熱することを妨げることによって、第2チャンバの温度上昇を防ぐ。また、第1輻射シールド及び真空断熱ジャケットによって、外界からの伝熱及び輻射熱の流入を妨げることによって、第1チャンバ及び第2チャンバの温度上昇を防ぐ。
【0022】
さらに、連通部の第2チャンバへの開口面積を絞ったことにより、第2チャンバ内で生じるフィルムフローの流れを妨げて、極低温を維持することができる。
【0023】
こうして、液体ヘリウムの供給不要な小型機械式冷凍機を用い、簡易な構造によって2.17K以下の極低温環境を長時間維持し得るという画期的効果を奏し得る。この場合、小型機械式冷凍機でHeを液化し、次いで減圧排気して極低温環境を作る、いわゆるワンショット運転が可能である。
【0024】
また、前記第2チャンバと非連通状態で熱接触して接続されるとともに、Heガスの供給と強制排気とを行うHeガス操作系と接続される第3チャンバを更に備えることにより、上記のように第2チャンバを2.17K以下に冷却すれば、第3チャンバ内のHeガス(標準沸点3.195K)を液化することができる。第3チャンバ内に溜まった液体Heは、Heガス操作系によって強制的に減圧排気されることで潜熱を奪われ、0.3K程度まで冷やすことができる。
【0025】
さらに、前記第1チャンバから減圧排気されたHeガスを、再び前記第1チャンバ内のHeガスと熱交換させて、第2チャンバ内に液体Heを滴下させるための循環流路を設けることにより、極低温環境を更に長時間維持することが可能となる。この場合に、循環流路に所定の流量抵抗を付与するインピーダンス部を設けておくことにより、減圧排気時の減圧能力を低下させず、第1チャンバ内を減圧状態に維持し、液体Heの強制的な気化を行い、液体Heの潜熱を奪って温度を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る極低温冷凍機の第1実施形態について、図1〜8を参照して説明する。図1は、本発明に係る極低温冷凍機の1実施形態を示す中央縦断面図、図2は、図1の断面と直交する断面を示す中央縦断面図、図3は、図1に示した極低温冷凍機を含むシステム構成例を示すシステム概念図であり、図4はHeガス操作系の一例を示すシステム図である。
【0027】
極低温冷凍機は、図1に示すように、冷却ヘッド30aを備える小型機械式冷凍機30と、冷却ヘッド30aに、熱接触して接続された第1チャンバ8と、第1チャンバ8の底部に低熱伝導性の連通部10aを介して接続された第2チャンバ10と、を備えている。
【0028】
小型機械式冷凍機30は、例えば、4K−GM冷凍機等、4K程度の低温を発生し得る蓄冷式冷凍機を好適な冷凍機として使用できる。小型機械式冷凍機30は、冷却ヘッド30aに0.5Wの熱が加わっても、冷却ヘッド30aが少なくとも4.2K程度を維持し得るものが望ましい。さらに、外部から熱が加わらない場合(即ち、0W)に、3.0K程度を維持し得る冷却ヘッド30aを備えるものが、小型機械式冷凍機30として望ましい。
【0029】
小型機械式冷凍機30は、2段階の冷却ステージを備える蓄冷式小型冷凍機である。第1段冷却ステージ30bは、高温側(40K程度〜70K程度)であり、第2段冷却ステージ30cは、低温側(4K程度)である。冷却ヘッド30aは、第2段冷却ステージ30cの下端部に設けられている。
【0030】
第1チャンバ8は、4Kポットと呼ばれるもので、筒状の容器等によって形成することができ、上蓋8aが、冷却ヘッド30aに熱的に接触され、冷却ヘッド30aに取り外し可能に螺子留めされている。上蓋8aと冷却ヘッド30aとの間には、熱伝導性を向上させるためにインジウム層を介在させている。
【0031】
なお、第1チャンバ8と冷却ヘッド30aとの間に、銅又は無酸素銅等で形成された熱伝導ブロック(図示せず)を介在させることもできる。
【0032】
第1チャンバ8の底部には、連通部10aを通じて第2チャンバ10が内部連通状態で連結されている。連通部10aは、第1チャンバ8の底板8bと、第2チャンバ10の天板10cに開口している。第2チャンバ10は、1Kポットと呼ばれる。
【0033】
第1チャンバ8の底部を構成する底板8bは、周壁部8cに螺子等で取り外し可能としても良く、そうすることにより連通部10aとともに取り外し可能とすることができる。第1チャンバ8の底板8bを取り外すことで、第2チャンバ10は第1チャンバ8の周壁部8cから取り外される。第1チャンバ8は、その底部を、第2チャンバ10及び連通部10aが連結されていない、板状の底部プレート(不図示)に取り替えることにより、第1チャンバ8単体として使用し得る。
【0034】
第1チャンバ8及び第2チャンバ10は、銅等の高熱伝導性材料若しくは熱良導体によって形成することができる。ただし、第1チャンバ8及び第2チャンバ10の材質は特に限定されず、例えば、核磁気共鳴の実験などに利用する場合は、第1チャンバ8及び第2チャンバ10も熱伝導性の悪い低熱伝導性材料で形成することもできる。
【0035】
連通部10aは、第2チャンバ10の温度を効果的に下げるために第1チャンバ8と第2チャンバ10とを出来るだけ熱的に遮蔽することが必要であるため、熱伝導率の小さい低熱伝導性材料によって形成される。即ち、連通部10aの熱伝導率が大きいと、第1チャンバ8からの熱が第2チャンバ10に流入し、第2チャンバ10の温度が下がりにくくなる。
【0036】
連通部10aを形成するための低熱伝導性材料は、1.5Kにおいて熱伝導率が1mW/cm・K以下の材料であることが好ましく、例えば、ガラス、セラミックス、ステンレス、チタン合金、CuNi(キュプロニッケル)等が例示される。
【0037】
連通部10aは、上記の材料を用い、下記式による熱伝導Qが、50μW/K以下、より好ましくは30μW/Kとなるように、連通部10aの長さや厚みが決定される。
【0038】
(数1)
Q=κπ(φ1―φ2)/4L
ただし、上式において、κは熱伝導率(W/cm・K)、φ1は連通部の外径(cm)、φ2は連通部の内径(cm)、Lは連通部の長さ(cm)である。
【0039】
この実施例では、連通部10aは、長さ5cm、外径φ10の薄肉(0.3mm)のキュプロニッケル製のパイプを採用している。
【0040】
連通部10aを構成するパイプの内径は、第2チャンバ10を構成する銅管の内径の1/2以下であることが好ましい。連通部10aの内径が第2チャンバ10の内径の1/2を越えると、フィルムフローの影響によって極低温を長時間維持することが困難となるからである。連通部10aの内径は、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下である。連通部10aの内径が15mmを越えると、フィルムフローの影響が大きくなり、極低温を長時間維持することが困難となる。
【0041】
第2チャンバ10の底板10bに、第3チャンバ23が連通部23bを介して連結されている。但し、第3チャンバ23は、第2チャンバ10とは内部連通していない。第3チャンバ23は、Heポットと呼ばれるもので、後述するように、Heガス操作系21から配管L20(図3)及び導管60(図2)を通じてHeガスが導入され又は強制排気される。
【0042】
第3チャンバ23は、上部チャンバ23a(図2,5〜7)に連通部23bを介して接続され、天板23e、周壁部23d、及び底蓋23cによって囲まれている。上部チャンバ23aは、第2チャンバ10の底板10bを構成するプレートに形成された流路によって構成されている。具体的には、図5〜7に拡大して示すように、第2チャンバ10の底板10bを構成するプレートの内部に、導管60からのHeガスを該プレートの上面縁部又は側面から受け入れ、該プレート内を通って、該プレート下面中央付近から第3チャンバ23内に供給する流路が形成されている。前記プレート下面中央付近のガス流路開口部10bn(図6,7)に、連通部23bが接続されている。なお、図5,7に示す符号10bpは、プラグである。
【0043】
導管60から供給されるHeガスは、上部チャンバ23aを構成するガス流路内を通る際、第2チャンバ10内の液体Heによって冷却されている底板10bとの熱交換により、液化して液体Heとなり、連通部23bを通って第3チャンバ23内に溜まるようになっている。従って、上部チャンバ23aが形成されている底板10bは、Heガスを液化するための熱交換器を構成している。なお、連通部23bも、連通部10aと同様、熱伝導性の悪い低熱伝導性材料で形成されており、上記熱伝導Qが50μW/K以下、より好ましくは30μW/K以下となるように、連通部23bの長さや厚みが決定される。
【0044】
第2チャンバ10の底板10bを構成するプレートは、螺子穴10bsが形成されており(図5,6参照)、螺子等によって周壁部10dに固定されていて、取り外し可能となっている。第2チャンバ10から底板10bを取り外すことによって、第3チャンバ23は第2チャンバ10から取り外すことができるようになっている。なお、第2チャンバ10は、底板10bを取り外した後、第3チャンバ23が連結されていない、単純なプレート形状をした底壁(不図示)を底蓋として取り付けることができる。
【0045】
第2チャンバ10及び第3チャンバ23は、第3輻射シールド9によって覆われている。第3輻射シールド9は、4Kシールドと呼ばれ、外部からの熱輻射を小さくしてシールド内を4K以下に長時間保つのに、より効果的であるが、第3輻射シールド9を省略することによっても一定の効果を得ることができる。第3輻射シールド9は、例えば、銅板を加工してコップ状に作られている。第3輻射シールド9は、第1チャンバ8の底板8bに螺子等で連結固定され、取り外し可能とされている。輻射シールド7,9、及び、真空断熱ジャケット25の一部に透光窓を形成することもできる。なお、図示しないが、第3輻射シールド9は、冷却ヘッド30aに接続することもできる。
【0046】
さらに、冷却ヘッド30aを含む第2段冷却ステージ30c、第1チャンバ8、及び第3輻射シールド9は、第1輻射シールド7によって覆われている。第1輻射シールド7は、小型機械式冷凍機30の、第1段冷却ステージ30bの部分に備えられたフランジに螺子留めされ、取り外し可能となっている。第1輻射シールド7は、50Kシールドとも呼ばれ、第1輻射シールド7の内部雰囲気を、70K程度以下、望ましくは40K程度に保つために、第3輻射シールド9と同様、外部からの熱輻射を小さくするためのもので、銅板を加工してコップ状に形成されている。冷却第2段ステージ30cを4K程度迄下げるには、第1輻射シールド7が必要となる。
【0047】
さらに、第1輻射シールド7は、真空断熱ジャケット25によって覆われている。真空断熱ジャケット25の内側は、後述するように、真空引きされて、断熱空間を形成することができる。
【0048】
真空断熱ジャケット25は、上端部のフランジ25aで小型機械式冷凍機30に、取り外し可能なように螺子等で連結されている。また、真空断熱ジャケット25は、図示例では、複数の筒状部25b〜25eと、コップ状部25fとからなり、それぞれが、フランジ等を介して螺子結合されて組み立てられており、螺子を外すだけで分解できるようになっている。
【0049】
真空断熱ジャケット25の上部(25c)には、図1に示すように、Heガス導入口40aが設けられている。Heガス導入口40aから、Heガス中の不純物を除去するためのチャコールトラップ5を介して、後述する循環流路を構成する細管40が、外側断熱ジャケット25内に延び、そこから図1に示すように、第1輻射シールド7を貫通して延び、第1チャンバ8の上蓋8aを貫通し、第1チャンバ8内をHeガスとの熱交換のために通り、更に、連通部10aを通って、第2チャンバ10内に向けて開口している。
【0050】
なお、細管40は、第1チャンバ8内のHeガスと熱交換するために、図示例のように第1チャンバ8内を通る構成とする他、図示しないが、第1チャンバ8が熱良導体であれば第1チャンバ8の外周面と接触させることにより、第1チャンバ8の壁材を介して内部のHeガスと熱交換させることもできる。なお、図示例において、細管40は、外径が1mm、内径が0.5mmのステンレス管を使用している。
【0051】
また、循環流路を構成する細管40には、Heガスの流量を所望流量に調整するためのインピーダンス部が設けられている。このインピーダンス部は、一種の流量制限部であり、例えば、内径0.5mmのステンレス管によって形成されている細管40に、直径0.5mmのステンレス線を紙ヤスリ等で適度に削って数cm程度挿入することによって形成される。0.5mm内径のステンレス管に表面を適度に削った0.5mm外径のステンレス線を挿入した場合、極めて僅かな隙間が形成される。この隙間が流れに対する所望の抵抗となるようにインピーダンス部を構成する。インピーダンス部は、細管40のインピーダンスZが0.5×1012〜2×1012cm−3となるように設定される。
【0052】
また、真空断熱ジャケット25の周壁には、真空断熱ジャケット25内を真空引きするための排気口25kが形成されている。第1輻射シールド7、第3輻射シールド9には、空気孔が形成されており、排気口25kから真空排気されると、第1輻射シールド7内及び第3輻射シールド9内も、真空(減圧状態)となる。なお、勿論、この真空引き操作によっては、第1チャンバ8内、第2チャンバ10内、及び第3チャンバ23内は真空とはならない。
【0053】
第1チャンバ8には、第1チャンバ8内部及び該第1チャンバと内部連通している第2チャンバ10内部にHeガスを供給し、或いは、真空断熱ジャケット25外に強制排気するためのHeガス給排路としての配管50が接続されている。図示例では、配管50は、一端50aが第1チャンバ8の上蓋8aに貫通し、他端50bが真空断熱ジャケット25の周壁25cに開口している。配管50は、細管40に比べて十分に大きな流路断面積を有しており、本実施形態では、配管50の内径が8mm(上部)及び3.4mm(下部)であり、細管40の内径が0.5mmとなっている。
【0054】
さらに、第3チャンバ23に、Heガスを供給・強制排気するための導管60(図2)が接続されている。導管60は、一端が真空断熱ジャケット25のHeガス導入口60aに接続されて真空断熱ジャケット25の外部に開口し、他端は、第1輻射シールド7及び第3輻射シールド9を貫通して、第2チャンバ10の底板10bに形成された上部チャンバ23aを構成する流路に接続されている。
【0055】
導管60は、図3に示すように、バルブ22を介して、Heガス操作系と接続される。Heガス操作系は、Heガスを供給し或いは真空引きにより強制排気することができるHeガス操作系で、公知のものが使用できる。
【0056】
図4は、公知のHeガス操作系の典型例を示すシステム図である。Heガス操作系は、貴重なHeガスを逃がさないように気密的に構成されている。Heガス操作系は、図4に示すように、ガス溜め70、液体窒素温度の活性炭トラップ71、予備排気用のロータリーポンプ72、気密型ロータリーポンプ73、真空計74、リークバルブ75、主バルブ76、ニードルバルブ77、圧力計78等によって構成されている。
【0057】
以下、図1、2に示した極低温冷凍機を含むシステム構成例について、以下に、図3を参照して説明する。
【0058】
Heガスが収容されたHeガスコンテナBの吐出口が、配管L1を介して、Heガス導入口40aと接続されている。配管L1には、バルブ1、24、4、が設けられ、更に、第1チャンバ8内に入ってくるHeガス中の不純物を除去するためのチャコールトラップ5が介在されている。なお、配管L1上の符号28は、HeガスコンテナB内のHeガス残量を知るための圧力計であり、配管L1上の符号29はHeガスの導入部の圧力を知るための圧力計ある。
【0059】
配管L1に、バルブ24を挟むようにして接続されたトラップ配管L2、L3に、水分を除去するモレキュラーシーブ・トラップTが介在されている。トラップ配管L2、L3の各々にバルブ2、3が配設されている。
【0060】
排気口25kはバルブ20を介して配管L4に接続され、配管50の他端50bはバルブ26を介して、共通の配管L4に接続されている。配管L4は、配管L5、L6に分岐して、一方の配管L5は途中にバルブ18を介して第1真空ポンプ(ロータリーポンプ)17に接続され、他方の配管L6は更に配管L7、L8に分岐して、一方の配管L7は、途中にバルブ16、14、12、13を介して配管L1に接続され、他方の配管L8は途中にバルブ19を介して配管L1に接続されている。配管L7には、バルブ12を配管で挟むようにしてシールド・ロータリーポンプ(第2真空ポンプ)11が接続されている。シールド・ロータリーポンプ11は、後述するように、Heガスを循環させるために使用される。
【0061】
上記のようなシステムの運転手順例を以下に説明する。
【0062】
最初の段階ではバルブ12を除いてすべてのバルブは閉じられている。また、真空断熱ジャケット25及び第3チャンバ23の底蓋は取り外されている。
【0063】
なお、下記運転手順において、第2チャンバ10の容量が50cc、HeガスコンテナBは70リットル、小型機械式冷凍機30は、4.2Kで0.5W(カタログ値であり、実測値は0.3W)のものを使用している。HeガスコンテナBの容量は、第2チャンバ10の容量に依存する。Heガスは液化すると体積が700分の1になるため、70リットルのHeがすべて液体になると約100ccとなる。このうち半分程度しか液化しないため、液化する量は50ccとなる。従って、逆算すると、第2チャンバ10の容量が50ccの場合、必要なHeガスは70リットルとなる。
【0064】
(1)室温での準備
測定試料等を第3チャンバ23の内部に配置するか或いは第3チャンバ23の外底面に接着剤で取り付ける等してセットし、真空断熱ジャケット25を取り付けた後、ポンプ17を作動させる。この段階では真空断熱ジャケット25内部、第1チャンバ8、第2チャンバ10、第3チャンバ23および配管の大部分は空気で満たされている。
【0065】
次に、真空断熱ジャケット25内を真空にするために、バルブ18と20を開け、約30分間真空引きする。その後、バルブ20を閉じる。次に、第1チャンバ8、第2チャンバ10、第3チャンバ23、そして配管の空気を取り除くために、バルブ26、16、19、4、27、3の順序でバルブを開く。約10分真空引きした後、すべてのバルブを逆の順序で閉じる。最後に、Heガスを、第1チャンバ8,第2チャンバ10に導入する準備として、バルブ1、2、3を開ける。なお、バルブ24は、トラップが詰まったときなど緊急事態に開けるためのバルブであるため、閉じられたままである。
【0066】
(2)4Kへの冷却
先ず、小型機械式冷凍機30を作動させる。そして、バルブ19,26を開けて、HeガスコンテナB内のHeガスを、配管L1、配管L2、モレキュラー・シールトラップT、配管L3、配管L8、L6、L4、バルブ26、Heガス給排路を構成する配管50を通って、第1チャンバ8及び、連通部10aを通じて第2チャンバ10に供給する。
【0067】
冷却ヘッド30aと熱接触するHeガスが熱伝達ガスとして作用し、小型機械式冷凍機30によって、数時間後に、第1チャンバ8、第2チャンバ10、及び第3チャンバ23は、冷却ヘッド30aと同程度の温度(約4K)に冷却され、第1チャンバ8内及び第2チャンバ10内のHeガスの液化が始まる。液化が始まって数時間後には、Heは約500hPaになり、70リットルのHeのうち半分程度が液化する。
【0068】
(3)1K以下への冷却
次にバルブ1,19,12を閉じてポンプ11を作動させて、バルブ13,4を開く。そしてバルブ14を開ける。そこで、バルブ16を徐々に開けることにより、第1チャンバ8及び第2チャンバ10内が真空引きにより強制排気され、第2チャンバ10内の液体Heを強制的に気化させることで、第2チャンバ10内に溜まった液体Heの潜熱を奪うことにより、温度は少しずつ下がり、約30分後には、第1チャンバ8内は3K程度となり、第2チャンバ10内は、1.4K程度に到達する。
【0069】
強制排気されたHeガスは、配管L4,L7,L2、L3、L1の循環流路を通り、第1チャンバ8内を経由することで再び液化され、連通部10aから第2チャンバ10に液体Heとなって戻される。
【0070】
したがって、この極低温冷凍機が作動している間、第1チャンバ8内は3K程度の温度を、第2チャンバ10内は、1.4K程度の温度を保つことができる。第2チャンバ10が1.4Kに冷却されることにより、第3チャンバ23も冷却され、Heが液化される。Heの圧力が10hPa程度になったら、He気体操作系を動作させて、第3チャンバ内を強制排気し、液体Heの蒸発潜熱を奪うことで第3チャンバ23内の温度を下げる。約10分後には、第3チャンバ23内は、0.4K程度の温度まで下がる。この状態を1日以上持続させることができる。第3チャンバ23の温度を測定した結果の一例を示すグラフを図8に示す。
【0071】
上記のように、0.4K程度の温度を長時間維持できているのは、第1チャンバ8から第2チャンバ10への伝熱を低熱伝導性の連通部10aによって妨げ、第2チャンバ10の周壁部内径より小さく絞られた内径を有する連通部10aによってフィルムフローの拡大を妨げ、外部からの熱輻射を輻射シールド7,9で効果的に妨げ、さらに、外部からの伝熱を真空断熱ジャケット25によって妨げたことにより、第2チャンバ10を長時間極低温に保つことができたこと、及び、第2チャンバ10(高温側)から第3チャンバ23(低温側)への伝熱を連通部23bによって妨げたことによるものと考えられる。
【0072】
本発明に係る極低温冷凍機は、上記実施例に限らず、必要とされる温度に応じて、種々の変更形態が可能である。
【0073】
上記のように第1チャンバ8,第2チャンバ10,第3チャンバ23は、それぞれ着脱可能とできる。それにより、行う実験に必要な構成をいつでも選ぶことができる。
【0074】
例えば、4Kまで下げればよい場合で、測定系の発熱が小さい場合は、第1チャンバ8,第2チャンバ10,第3チャンバ23のすべてを取り外して,冷却ヘッド30aの下にそのまま試料をセットして実験すればよい。例えば、電気抵抗,比熱,熱伝導度等の実験に用いる場合である。
【0075】
また、4Kまで下げれば良い場合で、発熱が大きい場合は、第1チャンバ8のみ取り付けてその中に測定系を入れ、そこにHeガスを導入すればよい。第1チャンバ8の大きさは,測定するものに応じて調整を行えばよい。例えば、各磁気共鳴,圧力容器を用いた実験,交流磁化率などの実験に用いる場合である。
【0076】
2.17K以下(本実施例では1.4K)まで下げればよい場合は、第1チャンバ8を冷却ヘッド30aに取り付け、第1チャンバに連通部10aを介して第2チャンバ10を取り付ける。
【0077】
2.17K以下(本実施例では1.4K)を数時間維持できれば良い場合は、第1チャンバ8とHeガス給排路である配管50のみを取り付ける。Heガスを回収しなくてもよい場合は,オイルミスト・トラップ,モレキュラーシーブ・トラップ,チャコールトラップは不要である。Heガス給排路を構成する配管50からHeを供給し、小型機械式冷凍機30でまず液化させてから、第1真空ポンプ17で引くことにより,液化したHeがなくなるまで温度を下げることができる。第1チャンバ8に30ccの容積があれば6時間程度は1.4Kを保つことができる。
【0078】
2.17K以下(本実施例では1.4K)を数時間維持できれば良い場合で発熱が小さい場合は、第1チャンバ8の外底面に測定系を取り付ければよい。発熱が大きい場合は、第1チャンバ8内に測定系を入れてHeガスを導入すればよい。第1チャンバ8の大きさは,測定するものに応じて調整を行えばよい。
【0079】
2.17K以下(本実施例では1.4K)を長時間維持したい場合は、第1チャンバ8とHeガス給排路50のほかに、循環流路と、循環流路の細管40に備えさせたインピーダンス部と、さらに,オイルミスト・トラップ、モレキュラーシーブ・トラップT、チャコールトラップ5を循環流路に取り付ける。これにより,小型機械式冷凍機30を運転している間中、1.4K程度を維持することができる。
【0080】
2.17K以下(本実施例では1.4K)を長時間維持したい場合で発熱が小さい場合は、第1チャンバ8の外底面に測定系を取り付ければよい。
【0081】
2.17K以下(本実施例では1.4K)を長時間維持したい場合で発熱が大きい場合は、第1チャンバ8に測定系を入れてHeガスを導入すればよい。第1チャンバ8の大きさは,測定するものに応じて調整を行えばよい。
【0082】
0.3Kまでの温度が必要な場合は、図1〜図3で示した構成とすれば良い。発熱が小さい場合は、第3チャンバ23の外底面に測定系を取り付ければよく、発熱が大きい場合は、第3チャンバ23内に測定系を入れればよい。第3チャンバ23の大きさは,測定するものに応じて調整を行えばよい。
【0083】
なお、上記実施形態において、第1チャンバ8,第2チャンバ10を中空円柱状とし、連通部10aを円筒状としているが、これに限らず、第1チャンバ8及び第2チャンバを中空角柱状とし、連通部10aを角パイプ状としてもよい。そのような場合、連通部10aの内法が、第2チャンバ10の周壁部の内法より小さく絞った寸法とされる。
【0084】
次に、本発明に係る極低温冷凍機の第2実施形態について、図9〜12を参照して説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成部分は、同符号を付し示しており、詳細な説明を省略することがある。
【0085】
第2実施形態の極低温冷凍機において、小型機械式冷凍機30は、2段の冷却ステージを備え、第1段冷却ステージ30bに、第1輻射シールド7が取り付けられており、冷却第2段ステージ30cはヘリウムガスを液化させる冷却ヘッド30aを備えている点は、本発明の他の実施形態においても同様である。第1段冷却ステージ30bは、少なくとも70K程度迄の冷却能力、望ましくは、40K程度迄冷却できる能力を備える。
【0086】
第2実施形態では、第4輻射シールド9Aが、第2チャンバ10を囲まずに、第3チャンバ23を囲んでいる点、及び、循環流路を備えておらず、いわゆるワンショット運転のためのシステム構成である点が、上記第1実施形態と相違している。
【0087】
小型機械式冷凍機30の上部に、真空断熱ジャケット25が固定されている。また、小型機械式冷凍機30の冷却第2段ステージ30cの冷却ヘッド30aに、第1チャンバ8が熱接触して接続されている。4Kポットと呼ばれる第1チャンバ8は、冷却ヘッド30aによってHeガスを液化させるためのチャンバである。
【0088】
第1チャンバ8は、冷却ヘッド30aとの熱伝導を良くして、Heガスとの熱交換効率を高めるため、銅等の熱良導体で形成される。第1チャンバ8は、図示例では、周壁部8cに上蓋8aと底板8bとが取り付けられて形成されている。上蓋8aは、周壁部8cに溶接されている。上蓋8aは、冷却ヘッド30aに、インジウムの薄い箔を介して、強固に螺子留めされている。底板8bは、周壁部8cの底端の溶接されたフランジに、インジウムシール(不図示)を介して、取り外し可能に螺子留めされている。
【0089】
なお、上蓋8aは必須ではなく、周壁部8cにフランジ(不図示)を形成し、周壁部8cを直接、冷却ヘッド30aに、インジウムシール等を介して、螺子留めすることもできる。
【0090】
図示例では、周壁部8cが、外径32mm、肉厚1.0mm、長さ30mmの銅管、上蓋8aが厚さ8mmの銅板、底板8bが厚さ4mmの真鍮板で、それぞれ形成されている。
【0091】
第1チャンバ8の周壁部8cに、第1チャンバ8内に通じるHeガス給排路を構成する配管50が連結されている。配管50は、真空断熱ジャケット25の外(室温)に延びているため、第1チャンバ8への室温の伝熱を妨げるために、低熱伝導性であることが望ましく、キュプロニッケルやステンレス等で薄肉の管で形成され得る。
【0092】
配管50は、後述するように、Heガスを供給するHeガス供給手段、又は、減圧排気手段に、バルブ操作によって選択的に接続される。
【0093】
第1チャンバ8の底板8bに、連通部10aを介して、第2チャンバ10が連通接続されている。連通部10aは、キュプロニッケルやステンレス等の低熱伝導性材料によって形成される。図示例の連通部10aは、外径10mm、肉厚0.3mmのキュプロニッケル管であり、第1チャンバ8の底板8bに溶接されている。
【0094】
1Kポットと呼ばれる第2チャンバ10は、第1チャンバ8内で熱交換により液化した液体Heを、連通部10aを介して受け入れて、溜めておくチャンバである。第2チャンバ10は、図示例では、連通部10aに接続された天板10cと、天板10cに接続された筒状の周壁部10dと、周壁部10dの底を閉じる底板10bとによって形成されている。
【0095】
図示例の周壁部10dは、外径32mm、肉厚1.0mm、長さ80mmの銅管である。周壁部10dは天板10cに溶接されている。天板10cは、連通部10aを構成しているキュプロニッケル管に溶接されている。周壁部10dの底に、外側に突出するフランジ10fが形成されており、このフランジ10fに、底板10bが、インジウムシール(図示せず)を介して、取り外し可能に螺子留めされている。
【0096】
第3チャンバ23は、上部チャンバ23aに、連通部23bを介して連通接続されている。上部チャンバ23aは、第2チャンバ10の底板10bに形成された流路によって構成されている。上部チャンバ23aを構成する流路の一端に導管60が接続され、導管60は、Heガス操作系21(図10)に接続されている。底板10bは、銅等の熱良導体によって形成されている。上記第1実施形態と同様に、上部チャンバ23aが形成された底板10bが、Heガスを液化するための熱交換器として機能する。
【0097】
連通部23bは、低熱伝導性材料で形成され、キュプロニッケル管、ステンレス管等によって形成される。
【0098】
第3チャンバ23は、連通部23bと接続された天板23eと、天板23eに接続された筒状の周壁部23dと、周壁部23dの底に、取り外し可能に接続された底蓋23cとによって形成されている。
【0099】
第2チャンバの底板10bに、第4輻射シールド9Aが取り付けられている。第1輻射シールド7及び第4輻射シールド9Aは、薄肉銅管の外周を、公知のスーパーインシュレーションによって覆うことによって構成することができる。
【0100】
導管60は、キュプロニッケル管やステンレス管等の低熱伝導性材料で形成されており、さらに、ベローズチューブ60aを介して熱伝導を小さくし、外部からの熱の流入を妨げている。
【0101】
装置全体を覆う真空断熱ジャケット25は、フランジ部25x、25y、25zで螺子留めされており、フランジ部25x、25y、25zの位置において分離可能となっている。真空断熱ジャケット25には、真空ポンプ171(図10)に接続するためのポート25kが形成されている。
【0102】
また、第1輻射シールド7も、フランジ部7a、7bで着脱可能に螺子留めされており、フランジ部7a、7bの位置において分離可能となっている。
【0103】
上記構成を有する第2実施形態の極低温冷凍機のシステム構成例を図10に示す。
【0104】
第1チャンバ8に接続された配管50に、減圧排気手段172であるロータリーポンプと、Heガス供給手段B1であるHeガスコンテナが、管接続されている。Heガス供給手段B1を構成するHeガスコンテナには、Heガスを供給するためのHeガスコンテナB2が管接続されている。第1チャンバ8に管接続された減圧排気手段172とHeガス供給手段B1とを、何れか一方に切り換えるためのバルブV5、V7が配管に介在されている。
【0105】
また、前述したように、導管60に、Heガス操作系21が接続されている。Heガス操作系21は、図4と同様である。
【0106】
真空ポンプ171は、第1チャンバ8、第2チャンバ10、第3チャンバ23、及びこれらに接続される配管の内部を室温で真空にするために使用される。
【0107】
上記システムの操作手順について、次に説明する。最初、全てのバルブV1〜V10を閉じておく。真空ポンプ171を作動させてバルブV6、V2、V4,V5,V3,V1をその順に開く。1時間程度真空引きした後、バルブV2,V5,V4,V6をその順に閉じて、真空ポンプ171を停止させる。真空引きをしている間にバルブV9,V10をその順に開き、HeガスコンテナB2からHeガスコンテナB1に、HeガスコンテナB1内が所定圧力(例えば0.9atm)になるまでHeガスを充填する。真空引きを終了した後に、バルブV8,V5を開いて、第1チャンバ8にHeガスを供給する。そして、バルブV1を開いて、Heガス操作系21から所定圧力(例えば、0.1atm)のHeガスを導入してから、バルブV1を閉じる。ここで冷却水を流して、小型機械式冷凍機30を作動させる。
【0108】
図11は、小型機械式冷凍機30を始動させてから第2チャンバ10、第3チャンバ23、冷却ヘッド30aが冷えていく様子の一例を示したグラフである。HeガスコンテナB1内の初期の所定圧力は0.9atm、減圧排気手段172の真空ポンプの能力は500L/分、真空ポンプ171の能力は200L/分、HeガスコンテナB1の容積は90Lであった。使用した小型機械式冷凍機は、住友重機械工業製4K GM冷凍機RDK−205D(無負荷状態での最低温度3.2K)であった。
【0109】
このグラフから分かるように、冷却ヘッド30aの温度は約2時間で8K程度まで下がり、その後ゆっくりと最低温度(3.3K)に向かって下がる。第2チャンバ10の温度は、20K程度まで8時間で下がり、そこからゆっくりと前記最低温度まで下がる。
【0110】
第3チャンバ23の温度は、最初の1時間程度は殆ど下がらないが、その後、ほぼ一定の速さで下がっている。第3チャンバの温度は、約9時間経過した時点で、急激な温度降下が見られるが、これは、この時にバルブV1を開けてHeガス操作系21と接続し、Heガスを追加供給したためである。
【0111】
約17時間後には、第2チャンバ10、第3チャンバ23の全てが4K以下に到達する。この時点からおよそ3時間程度で、HeガスコンテナB1の圧力計が0.5atmとなり、この時点でバルブV8、V5を閉じた。HeガスコンテナB1から液化されたHeガスの総量は約40Lであると考えられる。バルブV4を閉じて1時間後には圧力計P2の圧力が0.4atmとなり、このとき第3チャンバ23、第2チャンバ10、及び冷却ヘッド30aの温度は、約3.3Kである。この0.4atmの圧力は、3.3KにおけるHeの蒸気圧に対応している。
【0112】
第3チャンバ23、第2チャンバ10、冷却ヘッド30aの温度が安定してから、減圧排気手段172の真空ポンプを作動させ、バルブV3を徐々に開く。図12は、第2チャンバ10を真空引きし始めた時刻を0とした経過時間に対する第3チャンバ23、第2チャンバ10、冷却ヘッド30aの温度変化の一例を示したグラフである。
【0113】
図12のグラフにおいて、約30分でHeガスの圧力は50hPa程度となり、第2チャンバ10、第3チャンバ23の温度は1.5K以下になる。ここでHeガス操作系21の作動により、第3チャンバ23内を減圧排気する。第3チャンバ23内を減圧排気することにより、第3チャンバ23内の温度は約0.45Kまで下がり、維持されている。液体Heを減圧排気し始めてから約5分経過後、バルブV7を閉じて、減圧排気手段172の真空ポンプを停止させ、第2チャンバ10の減圧排気を止める。第2チャンバ10の減圧排気を停止することにより、図12のグラフに示されているように、第2チャンバ10内の温度は2K程度まで急激に上昇し、10時間程度かけて3Kまで上昇し、冷却ヘッド30aの温度にゆっくりと近づいていく。
【0114】
なお、第2チャンバ10内からの減圧排気を停止せずに続行することもできる。この場合、第2チャンバ10内の温度を更に下げることができるので、第3チャンバのHe温度を更に下げることが可能である。しかしながら、第2チャンバ10内の液体Heの消費が進むため、第3チャンバ23を0.45K以下に維持できる時間が短くなる。
【0115】
上記操作手順では、減圧排気を行っている間、小型機械式冷凍機30をずっと作動させているが、第2チャンバ10に所定量の液体Heが蓄えられた後は、減圧排気中であっても小型機械式冷凍機30を途中で止めることができる。そうすることによって,極低温を維持できる時間は短縮されるが、液体Heは、しばらくの間(例えば1時間程度)は維持されるので、振動を嫌う実験等に対応することできる。
【0116】
次に、本発明に係る極低温冷凍機の第3実施形態について、図13〜15を参照して説明する。図13は、第3実施形態の極低温冷凍機を示す縦断面図、図14は、第3実施形態の極低温冷凍機を備えるシステム構成例を示すシステム図である。
【0117】
第3実施形態の極低温冷凍機は、図13に示すように、上記第1,第2実施形態に備えられていた熱交換器(上部チャンバ23a)、第3チャンバ、Heガス操作系を備えていない点が、上記第1、第2実施形態と異なる。
【0118】
上記第1実施形態において説明したように、熱交換器の機能を有する第2チャンバ10の底板10bは、取り外し可能になっている。第1実施形態の底板10bを取り外し、内部に流路が形成されていない底板10b′を第2チャンバ10の底に取り付けることによっても、第3実施形態の極低温冷凍機を組み立てることが可能である。第1チャンバ8、低熱伝導性の連通部10a、第2チャンバ10、第1チャンバ8に接続される配管50は、上記第1、第2実施形態と同じ材料で形成されている。
【0119】
第3実施形態の極低温冷凍機は、小型機械式冷凍機30と、小型機械式冷凍機30の冷却ヘッド30aに熱接触して接続され、Heガス供給手段B1及び減圧排気手段172に接続される第1チャンバ8と、第1チャンバ8に低熱伝導性の連通部10aを介して連通接続された第2チャンバ10と、小型機械式冷凍機30の第1段冷却ステージに固定された第1輻射シールド7と、第1チャンバ8に熱接触して接続され、連通部10a及び第2チャンバ10を覆う第2輻射シールド9Bと、真空断熱ジャケット25と、を備えている。図示しないが、第2輻射シールド9Bは、第2段冷却ステージ30cの冷却ヘッド30aに熱接触して接続することともできる。なお、第2輻射シールド9Bを省略して、輻射シールドを第1輻射シールド7だけの構成としても、一定の効果を得ることができる。
【0120】
第3実施形態の極低温冷凍機は、第1チャンバ8に、減圧排気手段172を構成する真空ポンプと、Heガス供給手段B1であるHeガスコンテナとが接続されており、バルブV4、V7の開閉操作により、何れか一方を選択的に接続することができる。また、第1チャンバ8、第2チャンバ10、真空断熱ジャケット25、及びこれらに接続される配管内を真空引きするための真空ポンプ171が、配管によって接続されている。
【0121】
第2チャンバ10の底板10b′は、周壁部10dに溶接しても良い。その場合、底板10b′の下面に測定試料を熱的に接続する。また、第1チャンバ8は、周壁部8cと底板8bとを溶接によって固定しても良い。
【0122】
操作手順は、上記第1、第2実施形態においてHeガス操作系の操作を省略した場合の手順にほぼ相当する。以下、操作手順を説明する。
(1)室温での準備
最初は全てのバルブV2〜V7を閉じておく。真空ポンプ171を作動させてバルブV6、V2、V4、V5,V3をその順に開く。約1時間真空引きをした後、バルブV2,V5,V4,V6をその順に閉じて、真空ポンプ171を停止させる。真空引きしている間に、バルブV9,V10を開けて、HeガスコンテナB2からHeガス供給手段B1であるHeガスコンテナに、圧力計P1の圧力が所定圧力(例えば、0.9atm)になるまでHeガスを充填する。真空ポンプ171による真空引きを終了した後に、バルブV8,V5を開けて、第1チャンバ8(及び第2チャンバ10)にHeガスを供給する。
(2)2.17K(この実施例では1.4K)以下への冷却
小型機械式冷凍機30を作動させる。数時間かけて、冷却ヘッド30aによって第1チャンバ8内のHeガスが液化され、連通部10aを通じて、液体Heが第2チャンバ10内に貯えられる。
【0123】
所望量の液体Heが第2チャンバ10内に溜まったら、減圧排気手段172を構成する真空ポンプを作動させ、バルブV7を開き、第2チャンバ10内を減圧排気する。第2チャンバ10内の減圧排気により、第2チャンバ10内の液体Heの温度は、1.4K程度まで下がり、第2チャンバ10の温度も1.4Kになる。第2チャンバ10の1.4Kの温度は、第2チャンバ10内に液体Heが無くなるまで持続する。
【0124】
図15は、第2チャンバ10の温度と経過時間とを示すグラフである。このグラフの実験では、2時間かけて20ccの液体Heが生成され、その後、減圧排気手段172によって、減圧排気した。このグラフから、7時間近く、1.4Kを維持していることが分かる。減圧排気中も小型機械式冷凍機30を作動させていた。
【0125】
このように長時間、1.4Kを維持できたのは、第1チャンバ8から第2チャンバ10への伝熱を低熱伝導性の連通部10aによって妨げ、フィルムフローの拡大を第2チャンバの天板内面に対して絞られた開口面積を有する連通部によって妨げ、外部からの熱輻射を輻射シールドで妨げ、さらに、外部からの伝熱を真空断熱ジャケットによって妨げたことによるものと考えられる。
【0126】
図16は、本発明に係る極低温冷凍機の第4実施形態を概略的に示す断面図である。第4実施形態の極低温冷凍機は、第1輻射シールド7と第4輻射シールド9Aとの間に、更に第3輻射シールド9を備える点が、図10に示した例と異なり、その他の構成は、図10に示す例と同様である。
【0127】
なお、本発明によれば、小型機械式冷凍機30としてGM冷凍機を採用した場合、GM冷凍機内部での圧縮のためのピストンの往復動によって生じるGM冷凍機特有の温度特性の微変動が抑制される効果も確認された。これは、第2チャンバ10と第1チャンバ8とが、低熱伝導性の連通部10aによって、熱が伝わりにくくなっていることによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る極低温冷凍機の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の断面と直交する縦断面図である。
【図3】図1に示した極低温冷凍機を含むシステム構成例を示すシステム概念図である。
【図4】Heガス操作系を示すシステム図である。
【図5】図1の一部品を拡大して示す平面図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】図5のB−B断面図である。
【図8】図3のシステム構成例による第3チャンバについての、減圧排気時からの経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【図9】本発明に係る極低温冷凍機の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図10】図9に示した極低温冷凍機を含むシステム構成例を示すシステム概念図である。
【図11】図10のシステム構成例による、冷却ヘッド、第2チャンバ、第3チャンバについての、室温からの経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【図12】図10のシステム構成例による、冷却ヘッド、第2チャンバ、第3チャンバについての、減圧排気時からの経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【図13】本発明に係る極低温冷凍機の第3実施形態を示す縦断面図である。
【図14】図13に示した極低温冷凍機を含むシステム構成例を示すシステム概念図である。
【図15】図14のシステム構成例による、第2チャンバついての、減圧排気時からの経過時間と温度との関係を示すグラフである。
【図16】本発明に係る極低温冷凍機の第4実施形態を概略的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0129】
7 第1輻射シールド
8 第1チャンバ
9 第3輻射シールド
9A 第4輻射シールド
9B 第2輻射シールド
10 第2チャンバ
10a 連通部
11 第2真空ポンプ
17 第1真空ポンプ
23 第3チャンバ
25 真空断熱ジャケット
30 小型機械式冷凍機
30a 冷却ヘッド
31 インピーダンス部
40 循環流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側の第1段冷却ステージ及び低温側の第2段冷却ステージを備える小型機械式冷凍機と、
前記第2段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、Heガス供給手段及び減圧排気手段と接続される第1チャンバと、
前記第1チャンバに低熱伝導性の連通部を介して連通接続された第2チャンバと、
前記第1段冷却ステージに熱接触して接続されるとともに、少なくとも前記第1チャンバ及び第2チャンバを包囲する第1輻射シールドと、
前記第1輻射シールドの外側に配置された真空断熱ジャケットと、
を有し、
前記連通部は、前記第1チャンバの底部及び前記第2チャンバの天部に開口し、前記第2チャンバの周壁部の内径又は内法より小さく絞られた内径又は内法を有していることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記第1輻射シールドの内側において、前記第1チャンバ及び前記第2段冷却ステージの少なくとも一方に熱接触して接続され、前記第2チャンバを覆う第2輻射シールドを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記第1チャンバから減圧排気されたHeガスを再び前記第1チャンバ内のHeガスと熱交換させて、前記第2チャンバ内に液体Heを滴下させる循環流路を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記循環流路は、所定の流量抵抗を付与するインピーダンス部を備えることを特徴とする請求項3に記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記第1チャンバの底部に、取り外し可能な底板を備え、該底板が、前記連通部及び第2チャンバとともに取り外し可能に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
前記第2チャンバの底板に設けられ、Heガスの供給と減圧排気とを行うHeガス操作系と接続され、且つ、前記Heガス操作系から供給されるHeガスを前記第2チャンバとの熱交換により液化させる熱交換器と、
前記熱交換器に、該熱交換器によって液化された液体Heを低熱伝導性の連通部を介して受け入れ可能に接続された第3チャンバと、を更に備え、
前記第1輻射シールドは、前記第1チャンバ、第2チャンバ、及び第3チャンバを包括して覆うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項7】
前記第2段冷却ステージ及び前記第1チャンバの少なくとも一方に熱接触して接続されて、前記第2チャンバ及び前記第3チャンバを包括して覆う第3輻射シールドを、前記第1輻射シールドの内側に更に備えることを特徴とする請求項6に記載の極低温冷凍機。
【請求項8】
前記第2チャンバに熱接触して接続されて、前記第3チャンバを覆う第4輻射シールドを、前記第1輻射シールドの内側に更に備えることを特徴とする請求項6に記載の極低温冷凍機。
【請求項9】
前記第1輻射シールドの内側において、前記第2段冷却ステージ及び前記第1チャンバの少なくとも一方に熱接触して接続されて、前記第2チャンバ及び前記第3チャンバを包括して覆う第3輻射シールドと、
前記第3輻射シールの内側において、前記第2チャンバに熱接触して接続されて、前記第3チャンバを覆う第4輻射シールドと、
を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の極低温冷凍機。
【請求項10】
前記第2チャンバの底板が着脱可能となっていることを特徴とする請求項6に記載の極低温冷凍機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−261616(P2008−261616A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326028(P2007−326028)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業シーズ発掘試験、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)