説明

極低温冷却装置

【課題】冷凍機に起因する振動が、クライオスタット全体や被冷却体に伝わるのを防止する。
【解決手段】冷凍機10のコールドヘッド18が固定され、その荷重を支持するサポートステージ50と、地面に支持されるとともに、サポートステージ50に自身がべローズ70で連結され、被冷却体8とコールドヘッド18の1段冷却ステージ21及び2段冷却ステージ22とを収納するクライオスタット30と、クライオスタット30に支持棒53、54を介して支持され、被冷却体8の荷重を支持する低振動ステージ42と、クライオスタット30の内側に配置され且つクライオスタット30に自身の荷重が支持されるとともに、1段冷却ステージ21に接続され、且つ被冷却体8と2段冷却ステージ22と低振動ステージ42とを収納する熱シールド90と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機を用いて冷却されるクライオスタットを備えた極低温冷却装置に係り、特に、ギフォードマクマホンサイクル型(GM型)のパルス管冷凍機やバルブユニットがコールドヘッドから分離可能なギフォードマクマホンサイクル冷凍機(GM冷凍機)に用いるのに好適な、冷凍機に起因する振動が、クライオスタット全体や被冷却体に伝わるのを防ぐことが可能な極低温冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機を用いて冷却されるクライオスタットを備えた極低温冷却装置においては、通常、冷凍機に起因する何種類かの振動が発生し、クライオスタット全体及び被冷却体に伝わる。まず、圧力振動源である圧縮機は機械式であるため、その機械振動が、圧縮機と、クライオスタットに取付けられた冷却部であるコールドヘッドとを連結する連結管を通じてコールドヘッドに伝わり、クライオスタット全体に影響を及ぼす。又、GM冷凍機やスターリング冷凍機のような、コールドヘッド内部にピストン(ディスプレーサとも呼ばれる)を有する冷凍機では、圧縮膨張に伴うピストンの往復運動が周期的な振動を引き起こし、クライオスタット全体及び被冷却体に伝わる。更に、冷凍機のシリンダが通常薄肉の筒状構造物であるため、圧縮膨張に伴うコールドヘッド内の高低圧力振動がシリンダの弾性伸縮を引き起こし、被冷却体に新たな振動を付加する。
【0003】
このような問題点を解決するべく、特許文献1には、超電導コイル冷却装置において、(1)被冷却体である超伝導コイルを、冷凍機の冷却ステージに、細い銅線を編んだ編組線や、薄い銅板を多数枚積み重ねたものでなる良熱伝導性金属からなる振動吸収部材を介して連結して、冷却ステージからの振動を吸収すること、更に、(2)冷凍機とクライオスタットの真空容器の間に、蛇腹管等のフレキシブル管やコイル体でなる振動吸収部材を介在させて、冷凍機で発生する振動を真空容器に伝播させないようにすることが記載されている。
【0004】
又、特許文献2には、膨張器−ディスプレーサを圧縮機に対してベローズにより低振動に取り付けることが記載されている。
【0005】
又、特許文献3には、ジュールトムソンサイクル(J−Tサイクル)と予冷サイクルからなるヘリウム液化冷凍機を用いた微弱磁場測定装置において、(1)予冷サイクルを構成するホースとJ−Tサイクルを構成するホースに、予冷サイクルの振動を分離するための振動遮断チューブを設けること、及び、(2)予冷サイクルを構成する部材と、これを支える構造物の間に、予冷サイクルの振動を分離するための空気ばねを介在させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−50910号公報
【特許文献2】特開平2−103346号公報
【特許文献3】特開平4−204280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の超電導コイル冷却装置では、冷凍機と超伝導コイルが、クライオスタットの真空容器内に設けられた熱シールド容器、該熱シールド容器の支持棒、及び、コイル支持棒を介してつながっており、支持棒を通じて伝わってきた振動を断ち切ることができない。
【0008】
又、特許文献2のように、クライオスタットの冷凍機取付部にベローズを導入して、クライオスタット全体に伝わる、圧縮機からの振動やピストンの往復運動による振動を低減することも考えられるが、クライオスタット内が通常真空状態であるため、ベローズが収縮して柔軟性を失い、期待する程の減振効果を得ることができない。
【0009】
又、特許文献3に記載の装置においても、クライオスタットの荷重が冷凍機にかかるため、振動を十分に遮断できないという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、冷凍機に起因する振動が、クライオスタット全体や被冷却体に伝わるのを防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る発明は、2段式の冷凍機を用いて冷却されるクライオスタットを備えた極低温冷却装置において、前記冷凍機のコールドヘッドが固定され、その荷重を支持するサポートステージと、地面に支持されるとともに、該サポートステージに自身がべローズで連結され、被冷却体と前記コールドヘッドの1段冷却ステージ及び2段冷却ステージとを収納する前記クライオスタットと、該クライオスタットに支持部材を介して支持され、該被冷却体の荷重を支持する低振動ステージと、前記クライオスタットの内側に配置され且つ該クライオスタットに自身の荷重が支持されるとともに、前記1段冷却ステージに接続され、且つ前記被冷却体と前記2段冷却ステージと前記低振動ステージとを収納する熱シールドと、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
本願の請求項2に係る発明は、前記熱シールドを支持するとともに前記クライオスタットに支持される1段低振動ステージを更に備え、該1段低振動ステージは前記1段冷却ステージと可撓的な第1ヒートリンクを介して接続され、且つ、前記低振動ステージは前記2段冷却ステージと可撓的な第2ヒートリンクを介して接続されるようにしたものである。
【0013】
本願の請求項3に係る発明は、前記第1、第2ヒートリンクに、銅又はアルミニウムの編素線又は薄板を使用するようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷凍機に起因する振動が、クライオスタット全体や被冷却体に伝わるのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の構成を示す断面図
【図2】比較例の構成を示す断面図
【図3】別の比較例の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の第1実施形態は、本発明を図1に示す如く、2段式のGM型パルス管冷凍機、又は、冷凍機10の圧縮機12から高圧ガスライン14及び低圧ガスライン16を介してコールドヘッド18に供給されるガスの高低圧力を切り換えるためのバルブユニット20がコールドヘッド18から分離できる2段式のGM冷凍機を使用した極低温冷却装置に適用したもので、冷凍機10のコールドヘッド18をクライオスタット30に直接固定せず、クライオスタット30とは別に設けたサポートステージ50にコールドヘッド18を固定して、その荷重を支持すると共に、被冷却体8が固定され、その荷重を吊持する2段低振動ステージ42を、支持棒53、54を介してクライオスタット30(ここではクライオスタットのトップフランジ31)で支持するようにしている。図において、21は、コールドヘッド18の1段冷却ステージ、22は、同じく2段冷却ステージである。
【0018】
前記サポートステージ50は、真空容器ではないが、極めて大きい質量(例えば30Kg以上)を有し、クライオスタット30とは無関係に地面に設置することが望ましい。
【0019】
前記クライオスタット30の全体は、例えばゴムシートや空気ばね、除振構造体でなる除振機構(図ではゴムシート)54を介して地面に設置される。
【0020】
更に、前記圧縮機12の振動がクライオスタット30全体に伝わらないようにするため、圧縮機12とコールドヘッド18をつなぐフレキシブル管(又はホース)24をクランプ60を用いて地面又は壁に固定する。
【0021】
更に、前記バルブユニット20を、クライオスタット30とは別に設けた台又は地面又は壁(ここでは質量の大きい(例えば10Kg以上)バルブ固定台62)に固定する。
【0022】
更に、前記バルブユニット20やコールドヘッド18の付近で、フレキシブル管24に代えて、例えばステンレスや銅等の硬いリジッド管64を使用し、且つ、このリジッド管64を前記クライオスタット30とは別に設けた台又は地面又は壁(ここでは前記バルブ固定台62)にクランプ66により固定する。
【0023】
更に、前記クライオスタット30(ここではそのトップフランジ31)とサポートステージ50(ここではそのトップフランジ51)の間をベローズ70で連結し、コールドヘッド18のトップフランジ19やクライオスタット30本体と共に真空空間61を形成する。
【0024】
前記ベローズ70としては、変形し易く振動吸収し易い溶接ベローズを使用し、ベローズ70の山と山の間にゴムシート、ゴムリング等の緩衝材72を設けて、外部から衝撃があった場合のベローズの振動の発振を防止することができる。なお、二重ベローズとして液体を封入したり、あるいは溶接ベローズの代わりに成形ベローズを用いることも可能である。
【0025】
又、前記コールドヘッドの1段、2段冷却ステージ21、22と1段、2段低振動ステージ41、42との間に、それぞれ、ステージの熱収縮を吸収するための可撓的なヒートリンク81、82を設けている。該ヒートリンク81、82の材料としては、例えば熱伝導率の良い銅やアルミニウムの編素線や薄板を使用することで、可撓性を保ちつつ、伝熱性能を確保することができる。
【0026】
本実施形態では2段式の冷凍機を使用しているため、1段低振動ステージ41に熱シールド90を設け、被冷却体8が固定される低温側の2段低振動ステージ42の冷却効果を高めている。
【0027】
このようにして、冷凍機10のコールドヘッド18をクライオスタット30に直接固定せず、クライオスタット30とは別に設けたサポートステージ50に荷重を載せることにより、圧縮機12からの振動やピストンの往復運動による振動がクライオスタット30に伝わるのを防ぐことができる。
【0028】
又、被冷却体8の荷重支持を、振動の少ないクライオスタット30(ここではそのトップフランジ31)からとることにより、圧縮機12からの振動やピストンの往復運動による振動が、荷重支持体を通じて被冷却体8に伝わるのを防ぐことができる。
【0029】
又、クライオスタット30全体を、除振機構54を介して地面に設置することにより、クライオスタット30全体に振動が伝わるのを防ぐことができる。
【0030】
又、クランプ60を用いてフレキシブル管24を地面又は壁に固定することにより、圧縮機12からの振動が地面又は壁で遮断され、クライオスタット30全体に伝わり難くなる。
【0031】
又、バルブユニット20やコールドヘッド18の付近でリジッド管64を使用し、且つ、クライオスタット30とは別に設けた質量の大きい台又は地面又は壁(図ではバルブ固定台62)に固定しているので、圧縮機12の圧力変化に伴うフレキシブル管24の脈動を減らすことができる。
【0032】
又、バルブユニット20を、クライオスタット30とは別に設けた質量の大きい台又は地面又は壁(図ではバルブ固定台26)に固定しているので、圧縮機12からの振動が一層確実に遮断されるだけでなく、バルブユニット20自身が発生する振動も遮断され、クライオスタット30全体に伝わり難くなる。
【0033】
又、クライオスタット30(ここではそのトップフランジ31)とサポートステージ50(ここではそのトップフランジ51)の間をベローズ70で連結しているので、真空によりベローズ70が柔軟性を失うのを防いで、圧縮機12からの振動やピストンの往復運動による振動がクライオスタット30に伝わるのを防いでいる。
【0034】
更に、ベローズ70に溶接ベローズを使用し、且つベローズの山と山との間に緩衝材72を使用することで、ベローズの減衰効果を一層強化している。
【0035】
又、コールドヘッド18の各段冷却ステージ21、22と各段低振動ステージ41、42の間に可撓的なヒートリンク81、82を設けているので、ピストンの往復運動による振動やシリンダの弾性伸縮による振動が被冷却体8に伝わるのを防ぐことができる。
【0036】
次に、図2を参照して、単段式のGM冷凍機を使用した極低温冷却装置に適用した比較例を詳細に説明する。
【0037】
比較例では、図2に示す如く、コールドヘッド18の内部に切換バルブと駆動モータが組み込まれているため、コールドヘッド18付近の高圧ガスラインと低圧ガスライン14、16を、硬い、例えばステンレス製のリジッド管64に置き換え、クランプ66によって、バルブ固定台に代わる連結管固定台68に固定している。
【0038】
又、低振動ステージが1段低振動ステージ41のみとなり、2段低振動ステージ42、支持棒54、ヒートリンク82、熱シールド90は省略されている。
【0039】
他の点については第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
次に、図3に示す如く、圧縮機12がコールドヘッド18と一体、又は、連結管26を介して至近距離(1m以内)に配置されるスターリング冷凍機やスターリング型パルス管冷凍機を使用した極低温冷却装置に適用した別の比較例を詳細に説明する。
【0041】
本実施形態では、図3に示す如く、コールドヘッド18と共に圧縮機12もサポートステージ50に固定し、該サポートステージ50によって、圧縮機12の荷重とコールドヘッド18の荷重を支持するようにしている。
【0042】
他の点については前記比較例と同様であるので、説明は省略する。
【0043】
なお、前記実施形態ではGM型のパルス管冷凍機が2段式とされていたが、冷凍機の形式は、実施形態に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、低振動が要求される超伝導装置、デバイス冷却装置、検出器冷却装置、サンプル冷却装置、クライオポンプ装置、計測分析装置、NMR装置等に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
8…被冷却体
10…冷凍機
12…圧縮機
14…高圧ガスライン
16…低圧ガスライン
18…コールドヘッド
20…バルブユニット
21、22…冷却ステージ
24…フレキシブル管
30…クライオスタット
31、51…トップフランジ
41、42…低振動ステージ
50…サポートステージ
54…除振機構
60、66…クランプ
62…バルブ固定台
64…リジッド管
68…連結管固定台
70…ベローズ
72…緩衝材
81、82…ヒートリンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2段式の冷凍機を用いて冷却されるクライオスタットを備えた極低温冷却装置において、
前記冷凍機のコールドヘッドが固定され、その荷重を支持するサポートステージと、
地面に支持されるとともに、該サポートステージに自身がべローズで連結され、被冷却体と前記コールドヘッドの1段冷却ステージ及び2段冷却ステージとを収納する前記クライオスタットと、
該クライオスタットに支持部材を介して支持され、該被冷却体の荷重を支持する低振動ステージと、
前記クライオスタットの内側に配置され且つ該クライオスタットに自身の荷重が支持されるとともに、前記1段冷却ステージに接続され、且つ前記被冷却体と前記2段冷却ステージと前記低振動ステージとを収納する熱シールドと、
を備えることを特徴とする極低温冷却装置。
【請求項2】
前記熱シールドを支持するとともに前記クライオスタットに支持される1段低振動ステージを更に備え、
該1段低振動ステージは前記1段冷却ステージと可撓的な第1ヒートリンクを介して接続され、且つ、
前記低振動ステージは前記2段冷却ステージと可撓的な第2ヒートリンクを介して接続されることを特徴とする請求項1に記載の極低温冷却装置。
【請求項3】
前記第1、第2ヒートリンクに、銅又はアルミニウムの編素線又は薄板を使用することを特徴とする請求項2に記載の極低温冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−107868(P2012−107868A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53720(P2012−53720)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−286396(P2008−286396)の分割
【原出願日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)