説明

極低温環境で動作するCCDカメラ

【課題】 極低温におかれた物体の状態を狭いさまざまな経路から随時観察することが可能なCCDカメラを提供する。
【解決手段】 室温付近でのみ動作するCCDカメラにヒータと温度センサを装着することによってCCDカメラ周辺の温度が変化してもCCDカメラの温度を作動温度域に保つことによって、極低温環境下で動作するCCDカメラを提供する。真空断熱を必要とせず、電気的配線を使用するため、随時狭いさまざまな経路を経て極低温下におかれた物体の状態を観察することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、20K以下の極低温におかれた物体の状態を観察することができるCCDカメラに関する。更に詳しくは、ヒータと温度計をCCDカメラに近接して設置することによって、観測対象物の温度が20K以下の極低温であってもCCDカメラの温度をカメラの作動温度域である0〜40℃付近に保持することを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
液体ヘリウムで冷却されている超伝導磁石など極低温に置かれた物体は外部との十分な断熱をとるために断熱された容器に閉じ込められ、室温空間から極低温に置かれた物体へ通じる空間経路は限定せざるを得ず、その空間は狭く、経路は長い場合が多い。しかし、極低温に置かれた物体の状態を随時様々な経路から観察することは、極低温におかれた物体の状態の把握、安全性確認を通じて保守・研究・開発などの作業効率の向上に大きく寄与する。
【0003】
従来、極低温に置かれた物体の状態を確認する方法として、真空断熱された容器に観測用の窓を開け、その中に撮影装置を入れる方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)や、観察したい物体の近傍に光ファイバを設置する方法(特許文献4、特許文献5)がある。
【0004】
しかし、真空断熱された容器に撮影装置を入れる方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)では、十分な断熱性能を保つために容器が大きくなり、超伝導磁石の内部などの狭い経路を経て観察することが出来ない。また、光ファイバを設置する方法(特許文献4、特許文献5)では、光ファイバの長さや曲率に制限があるため、観測対象までの距離や経路を任意に選ぶことが出来ない。さらに光ファイバは極低温で可とう性がなくなり、動かすと光ファイバが折れてしまう。したがって、観測対象までの経路をあらかじめ固定しておく必要があり、観測結果に応じて観測対象を随時変更することが出来ないという制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−133047号報
【特許文献2】特開平3−223600号報
【特許文献3】特開平5−327036号報
【特許文献4】特開平10−211435号報
【特許文献5】特開2011−128247号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
極低温におかれた物体の状態を随時狭いさまざまな経路から観察することが可能なCCDカメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、作動温度域が0〜40℃であるCCDカメラを極低温雰囲気中で作動させるため、前記CCDカメラに温度保持用ヒータ、温度計、及び断熱材を取り付け、更に、極低温雰囲気からのCCDカメラ保温用の断熱材によるCCDカメラの外径増加を最小限に抑えることにより、狭い経路を経て極低温におかれた物体の状態観察を可能とする構造を有する極低温環境で動作するCCDカメラを提供するものである。本発明のCCDカメラはCCD素子と表示装置間の配線が電線であるので、極低温雰囲気下において動かしても可撓性があるため、光ファイバのような折断される危険性がないため、随時さまざまな経路から観察することが可能である。
【0008】
本発明の第1は、極低温におかれた物体の状態観察用のCCDカメラであって、CCDカメラの光信号変換部に密着して温度センサとヒータを設置し、更に、前記ヒータの外側に断熱材を装着することによって、前記CCDカメラの温度を前記温度センサーで検出し、前記CCDカメラ温度を作動温度域に保持するようにヒータに電力を印加・制御し、前記CCDカメラの周囲の温度が極低温であっても、前記CCDカメラの作動温度域に保持する機能を有することを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラを提供する。
【0009】
発明の第2は、発明1に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記CCDカメラとヒータ間に高熱伝導率の金属・合金の箔又は薄板が配置されていることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラを提供する。
【0010】
発明の第3は、発明1又は2に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記ヒータがコンスタンタン線あるいはマンガニン線であることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラを提供する。
【0011】
発明の第4は、発明1ないし3に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記断熱材の材質がフッ素樹脂テープで、CCDカメラの視野欠けを起こさないように装着されていることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラを提供する。
【0012】
CCDカメラを温度制御するときの設定温度は、CCDカメラ動作保証範囲の下限である0℃に設定することが好ましい。設定温度を高くするとヒータが、より多く発熱量を必要とするのでヒータの寿命が短くなるとともに、CCDカメラと周囲の温度差が大きくなるため熱ひずみによるCCDカメラの破損につながる。更に、熱が断熱材を通過して周囲に逃げやすくなり観測したい場所の環境温度を上げてしまうなどの悪影響を及ぼす。ヒータは抵抗値の温度変化が少ないコンスタンタン線やマンガニン線用いると温度制御が容易になる。ヒータ線は直径0.1〜1.0mmの線を用い、長さはヒータの抵抗値が10〜50Ωになるように調整すると、CCDカメラに温度保持機能を付与してもCCDカメラの直径を3mm以上大きくすることがないため小型化することができ、また温度制御機器にとっても出力電圧と電流が扱いやすい範囲になるため都合が良い。
【0013】
CCDカメラを温度調整するためのヒータより発生する熱を温度センサ(熱電対もしくは抵抗温度計)とカメラに均一に伝えるために熱伝導率の高い金属(銀、金、銅、アルミあるいはこれらの金属からなる合金)箔又は薄板をヒータと温度計の間に配置することにより、熱を効率的に均一に伝達することができる。更に、CCDカメラ素子の光信号変換部に温度センサをポリイミドテープで固定し、温度センサの外側に温度センサを含め、CCDカメラ素子の外周全域にわたって熱伝導を良くするための金属箔又は金属薄板を、金属箔又は金属薄板の外側にヒータを全周にわたって巻きつけ、ヒータの外側に断熱材を全周にわたって巻きつける順番に配置する。これはヒータと温度計の順番が逆であると温度計が外部から冷やされるためCCDカメラの実際の温度より、温度計が示す温度が低くなり、CCDカメラを加熱しすぎることになりCCDカメラの破損につながるためである。またCCDカメラ素子、温度センサ、金属箔又は金属薄板、ヒータのそれぞれの間は熱伝導を良くするため全周にわたって密着させる。またヒータの熱が外部に逃げないように断熱材もヒータの外周に全周にわたって密着させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による温度制御機能を有するCCDカメラは、従来の断熱容器を用いたCCDカメラより小型化できるため狭い経路を経て極低温に置かれた物体の観察が可能になった。更に、光ファイバによる内視鏡では、観察するための経路をあらかじめ固定することが不可欠であるが、本発明のCCDカメラでは、電気配線のため経路の随時変更による観察が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】温度制御機能を付与した極低温環境下で動作するCCDカメラの断面模式図。
【図2】温度制御機能を付与した極低温環境下で動作するCCDカメラの写真。
【図3】温度制御機能を付与した極低温環境下で動作するCCDカメラの使用形態の例。
【図4】20K以下に冷却された容器に設置してある電気配線の写真。
【図5】20K以下に冷却された容器に設置してある電気コネクタの写真。
【図6】20K以下に冷却された容器に設置してある電気コネクタの写真。
【図7】温度制御機能を動作させないときに極低温環境下で得られた映像。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
<実施例1>
図1に温度制御機能を備えた極低温環境下で動作するCCDカメラの断面の模式図を示す。直径5mm、長さ3mの映像用ケーブルの先端に設置されたCCDカメラ(30万画素、動作温度範囲:0〜40℃)(1)に隣接してCernox抵抗温度計(Lake Shore社)(2)を設置し、CCDカメラ(1)と抵抗温度計(2)を厚さ0.1mmの銅板(幅40mm)(3)で1重に包む。その銅板の上に直径0.1mmのエナメル被覆コンスタンタン線をヒータ(4)としてCCDカメラの軸に螺旋状に巻きつけた。このときコンスタンタン線はその抵抗値が20Ωとなるように長さを調整する。そして、ヒータ(4)の外側全周にわたって断熱材(5)としてフッ素樹脂テープを2重に巻きつける。
【0017】
図2は図1で示した温度制御機能を備えた極低温環境下で動作するCCDカメラのうち、断熱材(5)を取り付けなかったときの写真である。温度センサ、銅板、ヒータはポリイミドテープでCCDカメラとCCDカメラからの信号伝送ケーブルに固定してある。この温度制御機能を備えた極低温環境下で動作するCCDカメラの最外層にあるフッ素樹脂テープを巻きつけたときの外径は9mmである。
【0018】
図3は温度制御機能を付与した極低温環境下で動作するCCDカメラの使用形態の例である。温度制御機能を付与したCCDカメラ(11)の映像用ケーブル(13)と温度調整用ケーブル(15)をポリイミドテープで1つの平行多芯線(12)としてまとめ、温度制御機能付与CCDカメラ(11)から室温環境まで配線し、それぞれCCD映像モニタ(14)および温度制御用機器(16)につながっている。温度制御用機器によりCCDカメラ(11)の温度は周囲の温度に関係なく273KとなるようにPID制御により設定した。観測対象である極低温に冷やされた物体(10)は真空断熱容器(17)の中に設置されており、温度調整機能付与CCDカメラ(11)は真空断熱容器(17)に設けられていた直径12mmの穴(18)を通して観測対象である極低温に冷やされた物体(10)から約10mmの位置に到達した。
【0019】
図4は20K以下に冷却された容器に設置された電気配線の束の写真であり、図3で示した使用形態における温度調整機能を備えた極低温環境で動作するCCDカメラで撮影した。本来、束のまま配線されているはずの電線のうち2本以上が束からはずれて途中で切断されてしまっていることが分かる。このことは、温度調整機能付与CCDカメラによって極低温環境のおかれた物体の観察ができることを示している。
【0020】
<実施例2>
実施例1の電気配線の束の観察に引き続き連続して、観察対象を同じ容器に設置され20K以下に冷却された電気コネクタに変更した。図5は20K以下に冷却された電気コネクタの写真である。容器内に微量に含まれていた空気が冷却されることによって針状の固体などになって電気コネクタのうえに降り積もっていることがわかる。また、このことは、温度制御機能付与CCDカメラが観察対象を随時変更することが出来ることを示している。
【0021】
<実施例3>
実施例2での観測に連続して、CCDカメラと同時にステンレス鋼パイプを低温容器内に挿入し、前記パイプを通じてヘリウムガスを吹き付けることによって電気コネクタに積もった固体空気を除去した。
図6は図5に示した20K以下に冷却された容器に設置された電気コネクタにヘリウムガスを吹き付けた後の写真である。ステンレス鋼パイプが図6の写真左側に見えている。また針状の固体空気はなくなり電気コネクタのピン穴が明瞭に観察できている。この温度制御機能付与CCDカメラによってヘリウムガスを吹き付ける作業をリアルタイムで観察することができ、作業の効率向上に大きく寄与した。
【0022】
<比較例1>
実施例2と同じ条件で、温度調整機能を作動させなかった場合、CCDカメラの温度が250K以下になると図7に示された映像がCCD映像モニタに現れるだけで、図5のように電気コネクタを観察することは出来なかった。これはCCDカメラの光を電子に置き換える素子そのものは極低温でも動作しているが、光から得られた電子を増幅し、映像モニタに情報を転送するための電子回路が極低温環境下では正常に作動しないためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の温度調整機能付与CCDカメラを使用すれば極低温下で磁場を発生している超伝導磁石の不具合や冷媒を含む真空断熱容器の給排気経路の閉塞などの診断に応用でき、事故の未然発生や速やかな復旧が可能となる。また撮像素子としてCCDではなくCMOSを用いた内視ビデオカメラにおいても、光を電子に置き換える電子回路は極低温でも動作するが、光から得られた電子を増幅し、映像モニタに情報を転送するための電子回路は極低温環境では動作しないと考えられるが、本発明技術を利用すると極低温環境でCMOSカメラを動作するようにできる。
【符号の説明】
【0024】
1:CCDカメラ
2:温度計
3:銅板
4:ヒータ
5:断熱材
6:映像用および温度制御用ケーブル
10:極低温環境におかれた観察対象物
11:温度制御機能を備えたCCDカメラ
12:映像用および温度制御用ケーブル
13:映像用ケーブル
14:CCD映像モニタ
15:温度制御用ケーブル
16:温度制御用機器
17:真空断熱容器
18:真空断熱容器に設けられている穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温におかれた物体の状態観察用のCCDカメラであって、CCDカメラの光信号変換部に密着して温度センサとヒータを設置し、更に、前記ヒータの外側に断熱材を装着することによって、前記CCDカメラの温度を前記温度センサーで検出し、前記CCDカメラ温度を作動温度域に保持するようにヒータに電力を印加・制御し、前記CCDカメラの周囲の温度が極低温であっても、前記CCDカメラの作動温度域に保持する機能を有することを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラ。

【請求項2】
請求項1に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記CCDカメラとヒータ間に高熱伝導率の金属の箔又は薄板が配置されていることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラ。

【請求項3】
請求項1又は2に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記ヒータがコンスタンタン線あるいはマンガニン線であることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラ。

【請求項4】
請求項1ないし3に記載の極低温環境で動作するCCDカメラであって、前記断熱材の材質がフッ素樹脂テープで、CCDカメラの視野欠けを起こさないように装着されていることを特徴とする極低温環境で動作するCCDカメラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105034(P2013−105034A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248829(P2011−248829)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】