説明

極性オレフィンブロックと無極性オレフィンブロックを有する新規なコポリマー

【課題】極性オレフィンブロックと無極性オレフィン・ブロックとを含むコポリマー(極性モノマー含有量は0.1モル%〜99.9モル%)。
【解決手段】第VIII〜X族に属する金属を含む有機金属錯体からなる単一成分の触媒系を使用する、オレフィンブロックとビニル極性モノマーブロックとを有するコポリマーを得る方法。この有機金属錯体は共触媒を加えずに媒体中で活性であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性モノマーの含有量が0.1モル%〜99.9モル%である極性オレフィン・ブロックと無極性オレフィン・ブロックとを有するコポリマーに関するものである。
本発明はさらに、有機金属錯体の第VIII〜X族に属する金属をベースにした単一成分触媒系を使用して、オレフィン・ブロックとビニル極性モノマーブロックとを有するコポリマーを得る方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
無極性鎖(例えばポリオレフィン)へ官能性を導入すると、ポリマーの性質、例えば硬さ、接着性、バリアー性、表面特性(着色性)だけでなく、レオロジや他のポリマーとの混合性を、ポリオレフィン独特の機械特性を保持したまま、大きく変えることができる。逆に、極性ポリマー鎖への無極性オレフィン単位(特に、(メタ)アクリルポリマー)を導入すると、機械特性、可撓性および耐薬品性を改良することができる。従って、官能性ポリオレフィンの合成は極めて重要である。
【0003】
しかし、極性オレフィンと無極性オレフィンとの共重合効率は各コモノマーの反応性の相違のため制限される。すなわち、無極性オレフィンは一般に触媒によって重合されるが、極性モノマーはラジカル重合またはイオン重合される。従って、ポリオレフィンに官能性を導入するための2つの戦略(触媒重合か、ラジカル重合)が考えられている。
【0004】
触媒を用いた極性オレフィンと無極性オレフィンの重合法および共重合は広く知られている。第IV族に属する金属(Ti、Zr等)の有機金属触媒を使用する報告がある。しかし、これらの高度に好酸素(oxophilic)な触媒系は極性モノマーの官能基が直ぐに触媒毒になる。この触媒毒の問題を解決するために、この系に(アルキルアルミニウムタイプの)共触媒を加えて、極性官能基を化学的に保護する方法が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0005】
この系はエチレンとヒドロキシ-またはカルボキシ-α−オレフィンタイプのモノマー(例えば10- ウンデセン-1-オール)とを共重合することができる。得られるコポリマーは最大で10モル%の極性モノマーを含む。この系の主たる欠点は極性オレフィンの極性官能基を保護するために共触媒を加える必要があり、共触媒は極性モノマーと化学両論量で用いなければならないため、この系は廃れたものになった。
【0006】
非特許文献3(Carlini C. et al, Macromol. Chem. Phys. 2002, 203, 1606-1613) に記載のニッケルベースの系に関しても同じことが観測される。この系には共触媒としてメチルアルミノキサン(MAO)を添加して極性官能基を保護する。この系を用いてエチレンとメタクリル酸メチル(MMA)とを共重合するとMMAの挿入度は3〜80モル%になる。しかし、得られるコポリマーはメタクリル酸メチルの取込み量が非常に高い(61モル%〜82モル%)が、モル質量が低く(30000 g/モル以下)、多分散性指数が高い(30以上)(Ni(II)錯体の場合)か、メタクリル酸メチルの取込み度が非常に低く(3モル%〜7モル%)、モル質量が高い(49000〜290000 g/モル)(Ni(0)錯体の場合)かのいずれかである。
【0007】
特許文献1(米国特許第US 6.417.303号明細書)、特許文献2(米国特許第US 6.479.425号明細書)、非特許文献4(Pracella M. et al, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 45, 1134- 1142, 2007)に記載の銅ベースの他の系でもエチレン/アクリレートまたはエチレン/メタクリレート・コポリマーを合成できるが、アルキルアルミニウム・タイプ(MAO)の共触媒の使用を必要とする。
【0008】
非特許文献5(Mecking S, Coordination Chemistry Reviews 2000, 203, 325-35)、非特許文献6(Johnson L.K et al, Chemical Reviews 2000, '100, 1169-1203)、非特許文献7(Boffa L.S. and Novak B.M., Chem. Rev. 2000, 100, 1479-1493)には、アルキルアルミニウムによる極性官能基を保護しない、第X族金属(Ni、Pd)を減らした有機金属触媒の使用が記載されてきる。これらのニッケルおよびパラジウムベースの系は特許文献3〜特許文献9にも記載されているが、極性モノマーの取込み度は最大で15モル%に制限される。すなわち、ポリエチレン部分が分枝部に多い(1000C当たり約100の分枝)コポリマーとなり、極性官能基は常にポリマーの分岐端に挿入される。この系は共触媒なしで使用でき、制限された数だけの極性モノマー、例えば官能化されたノルボルネン誘導体またはアクリレートを共重合することができる。
【0009】
特許文献10(国際特許第W00192342号公報)、非特許文献8(Liu S. et al, Organometallics 2007, 26, 210-216)および非特許文献9(Skupov K.M. et al, Macromol. Rapid Commun. 2007, 28, 2033-2038)に記載のパラジウムベースの他の系ではポリマー鎖の骨格鎖に極性モノマーが入り、得られたエチレン/アクリル酸アルキルコポリマーはコポリマー鎖の分離単位中にアクリル酸アルキルを17モル%含む。この系の欠点は得られるポリマーが低分子量(104グラム/モル以下、さらには103グラム/モル以下)で、極性モノマーのかなりの比率(少なくとも10%)がコポリマー中に一体化されることにある。
【0010】
上記の公知触媒系を使用しても、極性オレフィン・ブロックおよび無極性のオレフィン・ブロックの形でシーケンスを有するコポリマーを得ることを可能にしない、各々のつりあわせられた配合を有する、10の000 Daより大きい分子質量のための、コポリマー内の成分。
【0011】
極性および無極性のオレフィンの共重合で使われる第2の戦略はラジカル化学を使用することである。これは例えばエチレンと酢酸ビニールのコポリマー(エチレン酢酸ビニールまたはEVA、酢酸ビニール/エチレンまたはVAEコポリマー)を得る大部分の工業的プロセスである。しかし、このプロセスではポリマーの管理されたミクロ構造を得ることができない。ラジカル重合で得られるポリマーでは分枝を有するポリマー鎖中にコモノマーがランダムに分布し、温度(350℃まで)、圧力(3000バールまで)の点で重合条件が制限される。
【0012】
より温和な条件下で極性オレフィンと無極性オレフィンとを共重合する他のラジカル系も公知である。MMA/エチレンおよびMMA/1−ヘキセンコポリマーはコモノマの存在下でラジカル開始剤AIBNを使用して得られる(非特許文献10、非特許文献11)。MMA/1−オクテンおよびアクリル酸メチル(MA)/1−オクテンコポリマーは「原子移送ラジカル重合」ATRPタイプの銅系の存在下で得られる(非特許文献12)。MA/ヘキセンおよびMA/ノルボルネンコポリマーはパラジウム錯体を使用したラジカル重合で得られる(非特許文献13)。
【0013】
これらの系の主たる欠点は無極性オレフィンのシーケンスがブロックの形にならず、このコポリマーでは無極性オレフィンの分離した単位が極性オレフィン鎖中に観測されるだけである。
【0014】
従って、公知の系では無極性オレフィンと極性オレフィンとを正しく共重合できない、という結論に達する。触媒によってある制限されたレベルの極性ポリマーを含むポリオレフィンが得られ、一方、ラジカル重合ではある制限されたレベルのオレフィンを含む極性ポリマーが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第US 6.417.303号明細書
【特許文献2】米国特許第US 6.479.425号明細書
【特許文献3】国際特許第WO0192348号公報
【特許文献4】国際特許第WO0192354号公報
【特許文献5】国際特許第WO02059165号公報
【特許文献6】国際特許第WO9623010号公報
【特許文献7】国際特許第W09842664号公報
【特許文献8】国際特許第WO2004101634号公報
【特許文献9】米国特許第US6777510号明細書
【特許文献10】国際特許第W00192342号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Marques M.M. et al, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 37, 2457-2469, 1999
【非特許文献2】Aaltonen P. et al, Macromolecules 1996, 29, 5255-5260
【非特許文献3】Carlini C. et al, Macromol. Chem. Phys. 2002, 203, 1606-1613
【非特許文献4】Pracella M. et al, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 45, 1134- 1142, 2007
【非特許文献5】Mecking S, Coordination Chemistry Reviews 2000, 203, 325-35
【非特許文献6】Johnson L.K et al, Chemical Reviews 2000, '100, 1169-1203
【非特許文献7】Boffa L.S. and Novak B.M., Chem. Rev. 2000, 100, 1479-1493
【非特許文献8】Liu S. et al, Organometallics 2007, 26, 210-216
【非特許文献9】Skupov K.M. et al, Macromol. Rapid Commun. 2007, 28, 2033-2038
【非特許文献10】Nagel M. et al, Macromolecules 2005, 38, 7262-7265
【非特許文献11】Liu S.S. and Sen A.M., Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 42, 6175-6192 2004
【非特許文献12】Venkatesh R. and Klumpermann B., Macromolecules 2004, 37, 1226-1233
【非特許文献13】Tian G. et al, Macromolecules 2001, 34, 7656-7663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、極性モノマーと無極性モノマーとを共重合する従来方法の上記欠点を無くすことにある。
本発明の目的は、所与の単一成分の触媒系の存在下で極性モノマーと非極性モノマーとを共重合して、一つ以上の極性モノマーブロックと一つ以上の無極性モノマーブロック、特にエチレンブロックとを含むブロック共重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の対象は、共重合を下記式の有機金属錯体から成る触媒系の存在下で実行する、少なくとも一つの無極性モノマー、特にエチレンと少なくとも一つの極性モノマーとから成るブロック共重合体の製造方法にある:

【0019】
(ここで、
(a)Metは第VIII、IXおよびX族に属する金属を表し、
(b)Yは上記金属を酸化させるリガント分子を表し、C、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにしたヘテロ原子基から成り、好ましくはフェノキシタイプの基であり、
(c)LはC、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにした錯化分子から成り、好ましくはイミンまたはイライド(ylide)タイプの基であり、
(d)L'は一座配位式の電子供与型の錯体化分子、例えばフォスフィンまたはピリジン、好ましくはフォスフィン、より好ましくはトリフェニルホスフィンを表し、
(e)Rは1〜20のC原子を有するアルキルまたはアルキルアリールタイプまたは6〜20のC原子を含むシクロアルキルまたはフェニルタイプの炭化水素ベースの基であり、好ましくはメチルまたはフェニル基である)
【0020】
本発明の第2の対象は、上記の方法によって得られている無極性オレフィンブロック(単位)と極性オレフィンブロック(単位)との両方の無極および無極性オレフィンブロックを有する共重合体にある。
【0021】
本発明の第3の対象は、下記式:

(ここで、Met、R、L、L'およびYは上記と同じ意味を有する)
の有機金属錯体から成る触媒系の、少なくとも一つの無極性モノマー、特にエチレンと、少なくとも一つの極性モノマーとのブロック共重合での使用にある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の上記以外の特数および利点は以下の本発明の共重合方法の詳細な説明から理解できよう。しかし、本発明が下記実施例に制限されるものではない。
【0023】
無極性オレフィンと極性オレフィンとの共重合における問題を解決するために、本発明では、第VIII〜X族に属する金属をベースにした単一成分の中性触媒系を、各極性オレフィン・ブロックおよび無極性オレフィン・ブロックの長さの制御なしに、オレフィンと極性モノマーのマルチブロックコポリマーの合成が可能な穏やかな温度および圧力条件下で使用する。
【0024】
「オレフィン」という用語は、2つの炭素原子間に少なくとも一つ末端共有結合性二重結合を有する不飽和炭化水素を意味する。このオレフィンは非極性化合物である。本発明で使用するオレフィンはエチレン、プロピレン、高級α-オレフィン、ノルボルネンとその誘導体および結合するコモノマーがエチレン、プロピレンまたはα-オレフィンでない場合にはスチレン誘導体である。
【0025】
「極性オレフィン」という用語は少なくとも一つの極性基によって官能化されたオレフィンを意味する。本発明では極性オレフィン(または極性モノマー)は下記の中から選択される:
(1)不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸またはメタアクリル酸およびこれらの誘導体、
(2)不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸ブチルおよびメタアクリル酸メチルおよびこれらの誘導体、
(3)スチレン誘導体、例えばスチレンまたはα−メチルスチレン、α−オレフィン、エチレンまたはプロピレンと組み合わせた場合には極性モノマーと考えられる、
(4)アクリルアミド誘導体およびメタクリルアミド系、例えばアクリルアミドおよびメタクリルアミドおよびこれらの誘導体、
(5)アクリロニトリルおよびこれらの誘導体。
【0026】
本発明の第1の対象は、共重合を下記式の有機金属錯体から成る触媒系の存在下で実行する、少なくとも一つの無極性モノマー、特にエチレンと、少なくとも一つの極性モノマーとからブロック共重合体の製造方法にある:

【0027】
(ここで、
(a)Metは第VIII、IXおよびX族に属する金属を表し、
(b)Yは上記金属を酸化させるリガント分子を表し、C、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにしたヘテロ原子基から成り、好ましくはフェノキシタイプの基であり、
(c)LはC、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにした錯化分子から成り、好ましくはイミンまたはイライド(ylide)タイプの基であり、
(d)YとLは共有結合で結合されていてもよく、
(e)L'は一座配位式の電子供与型の錯体化分子、例えばフォスフィンまたはピリジン、好ましくはフォスフィン、より好ましくはトリフェニルホスフィンを表し
(f)Rは1〜20個のC原子を有するアルキルまたはアルキルアリールタイプまたは6〜20個のC原子を含むシクロアルキルまたはフェニルタイプの炭化水素ベースの基であり、好ましくはメチルまたはフェニル基である)
本発明方法で得られるブロック共重合体は一つ以上の極性モノマーブロックと一つ以上の無極性モノマーブロックとから成る。
【0028】
極性モノマーはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルおよびスチレンから成る群の中から選択される。
【0029】
金属は鉄、コバルト、ニッケル、パラジウムおよび白金の中から選択するのが好ましい。一つの特に好ましい実施例では金属はニッケルであり、有機金属錯体は下記構造の一つを有する:

【0030】
本発明の少なくとも一つの極性オレフィンと少なくとも一つの無極性オレフィンとのコポリマーの製造方法は、無極性オレフィン(液体または気体)と極性オレフィン(液体)の存在下で下記:
(1)溶液重合用の不活性な炭化水素ベースの溶剤、
(2)バルク重合用の液体極性モノマー
溶剤中で上記定義の有機金属錯体を反応させる。
【0031】
重合は−100℃〜250℃、好ましくは20℃〜250℃の温度で大気圧〜300バールの圧力で実行される。
【0032】
エチレン/極性モノマーの共重合中での極性モノマーの挿入は下記で促進される:
(1)重合温度を上げる、
(2)系にルイス塩基を加える、例えばトリフェニルホスフィンPPh3をx当量加える(xは金属に対して1〜20当量)、
(3)エチレン圧力(従って、媒体中のエチレン濃度)を下げる。
【0033】
本発明の第2の対象は、極性オレフィン単位(ブロック)と無極性オレフィン単位(ブロック)との両方を含む極性および無極性のオレフィンブロックを含むコポリマーにあり、このブロック共重合体は上記の本発明方法によって得られる。
【0034】
このコポリマーは103〜106グラム/モルの数平均分子質量を有し、各コモノマーの連結された単位(ブロック)から成る。各コモノマーのモル含有量は0.1%〜99.9%である。少なくとも一つの無極性オレフィンの単位のシーケンスを含むコポリマー部分は1〜20のC原子を含む直鎖または分枝にすることができる。本発明方法ではこのブロック共重合体の多分散性指数PIは1〜6である。
【0035】
本発明で得られるブロック共重合体は、
「p-a」が極性モノマー(p)と無極性モノマー(a)との間の結合として定義され、
「p-p」が極性モノマー(p)と極性モノマー(p)との間の結合として定義され、
「a-a」が無極性モノマー(オレフィン)(a)と非極性モノマー(オレフィン)(a)との間の結合として定義される、
場合、下記関係を満たす構造を有することが分かっている:
Σp−a/Σp−p<<1
Σp−a/Σa−a<<1
Σp−a>1(各ポリマー鎖で)
【0036】
この関係は下記のことを示している:
(1)第一に、「p-a」タイプのタイプ結合の合計と「p-p」タイプの結合の合計との比が1よりはるかに小さく、
(2)第2に、「p-a」タイプの結合の合計と「a-a」タイプの結合の合計と比が1よりはるかに小さく、
(3)各ポリマー鎖で、「p-a」タイプの結合の合計が1より大きい。
【0037】
第3の対象は、式:

(ここで、Met、R、L、L'およびYは上記と同じ意味を有する)
の有機金属錯体から成る触媒系の、少なくとも一つの無極性モノマー、特にエチレンと少なくとも一つの極性モノマーのブロック共重合での使用にある。この錯体は少なくとも一つの無極性オレフィンブロックと少なくとも一つの極性オレフィンブロックとを有するコポリマーを得るのに使用できる。上記有機金属錯体は、共触媒を加えずに、媒体中で活性である点に注意されたい。
【0038】
使用するこの単一系触媒はエチレンを重合できる。この重合自体は公知である。
驚くことに、同じ触媒系で各種極性モノマー(実施例1〜3)のラジカル単独重合と共重合を行うことができる。さらに、この触媒系は、エチレンおよび極性モノマーの存在下でコモノマーの共重合および三元共重合(実施例4〜12)を行うことができ、全く新しいブロック共重合体を製造することができる。これはオリジナルなことで知られている。これらのコポリマーおよびターポリマーは各モノマーを0.1モル%〜99.9モル%含むことができる。さらに、本発明で報告される活性(ポリマーのg/金属のモル数/時間で測定)は文献に記載の最も活性なものより活性が高い。
【実施例】
【0039】
全ての操作はアルゴン下で実行した。溶剤および液体モノマーはCaH2で蒸留した。以下の実施例では得られるホモポリマーおよびコポリマーのミクロ構造は1H NMRおよび13CNMRで決定した。そのためにはBruker DRX 400スペクトロメータを使用し、1H NMRでは400MHz、13C NMRでは100.6MHzの周波数を使用した。
熱的性質(融点およびガラス遷移温度)はSetaram DSC 131機でDSC(示差走査熱量計)で測定した。使用した昇温プログラムは20℃から150℃まで10℃/分の速度温度増加に対応する。
【0040】
数平均モル質量(Mn)および多分散性指数(PI)は[表T1]および[表T2]に記載の分析条件でサイズ排除クロマトグラフィ機器を使用し、ポリスチレンまたはPMMAを基準にした。ポリエチレンおよびエチレン/極性モノマーコポリマー(半結晶)のモル質量はダブル検出法(屈折計法および粘度法)によるユニバーサルキャリブレーション技術を用いて実際の質量で表した。ポリエチレンおよびエチレン/極性モノマーコポリマー(半結晶)の分析条件は下記の通り:
【0041】
【表1】

【0042】
極性ホモポリマーおよび非晶形であるエチレン/極性モノマーのコポリマーのモル質量は屈折率計を用いた検出でポリスチレン当量(コポリマーがスチレンを含む場合)またはポリ(メタクリル酸メチル)当量(コポリマーが(メタ)アクリルモノマーを含む場合)で表される。極性ホモポリマーおよび非晶形であるエチレン/極性モノマーのコポリマーの分析条件は以下の通り:
【0043】
【表2】

【0044】
実施例例1〜12で使用する有機金属錯体(AおよびBで示す)はそれぞれ下記文献に記載の方法で調製した。
【非特許文献14】Grubbs, Organometallics 1998 17, 3149
【非特許文献15】Matt, Chemistry--A European Journal, 12(20), 5210-5219; 2006)
【0045】

【0046】
実施例1〜3
2つのタイプのニッケル錯体を用いた極性モノマーの共重合
実施例1〜3ではコモノマーの各種比率でコモノマーをバルクで共重合した。有機金属錯体を(必要に応じてトリフェニルホスフィンと一緒に)上記コモノマー中に溶かした。反応物をし鵜用した丸底フラスコを恒温浴に浸して重合温度を上記定義の温度に固定した。反応時間t後に冷却して重合を止め、メタノールからポリマーを沈殿させて得た。乾燥後、反応物の量(g)から収率のポリマー特徴質量(m)を得た。
2つのコモノマーの反応性の比の値から生じた重合機構を識別できるので、それらは機構情報の基本的な要素である。これらの反応性比を得るためには、先ず第一に、共重合の式を決定する必要がある。モノマーAおよびBの重合反応では下記が考慮される:

【0047】
*およびB*はそれぞれモノマーAおよびBに関連する活性種である。全ての活性種A*およびB*に対して、活性種を置換する鎖の長さに関わりなく、それぞれ同じ反応性を考える。各活性種A*およびB*は2つのモノマーと反応でき、単独重合では反応速度定数kAAおよびkBBを有し、共重合では反応速度定数kBA有する。従って、反応性比rAおよびrBは単独重合と共重合反応の反応速度定数の比として定義できる:
【0048】

【0049】
1.タイプAの錯体、スチレン/ブチルアクリレート(BuA)共重合
[Ni]=2.2mM、
全モノマー=10m1(モノマーのバルク重合)
3pph3=20mgのPPh3(PPh3添加の場合)、
T=70℃、重合時間=3時間
【0050】
【表3】

【0051】
ニッケル錯体のみを使用した場合(従って、1PPh3では)共重合が起こり、追加の3PPh3と一緒にニッケル錯体を用いた時と同じコポリマー(コモノマー挿入度が同じ)ができる。3PPh3の添加の方が収率は良い。
従って、ポリオレフィン触媒を使用したアクリル酸ブチルとスチレンとの共重合機構は当然ラジカル機構である(rAおよびrBは文献:Polymer Handbookに報告されている値rA(styrene)=0.81およびrB(BuA)=0.22)と一致)。反応性比の計算からコポリマー組成図が得られる(スチレンとアクリル酸ブチルとの共重合の例を添付の[図1]に示す)。反応性比の値から再計算した曲線は(PPh3の添加の有無にかかわらず)測定した実験値と良く一致する。
【0052】
2. タイプBの錯体:スチレンとアクリル酸ブチルの共重合
[Ni]=2.2mM、
全モノマー=10m1
3pph3=20mgのPPh3(PPh3添加の場合)、
T=70℃、重合時間=3時間
【0053】
【表4】

【0054】
ポリオレフィン触媒を使用したスチレンとアクリル酸ブチルの共重合機構は当然ラジカル機構である(rAおよびrBは文献(Polymer Handbook)に報告された値rA(styrene)=0.81およびrB(BuA)=0.22と一致した。
【0055】
3. 他の極性モノマーの共重合(MMA/スチレン、BuA/MMA)
共重合を上記極性モノマーの2つの他の組合せで実行した(MMAはメタクリル酸メチル)。最小二乗法を用いてこの共重合でコモノマーペアーの反応性比を求めることができる。
【0056】
【表5】

【0057】
共重合はホスフィン配位子の触媒系への付加を促進する。
【0058】
実施例4〜14
2つのタイプのニッケル錯体を用いたエチレンと2つの極性モノマーとの共重合
共重合を160m1撹拌反応器中で実行した。Xmgの触媒(さらに必要に応じてトリフェニルホスフィン)を50mlの極性モノマーに溶かし、エチレンの圧力を溶液に加えた。重合全体にわたって温度およびエチレン圧力は一定に維持した。反応時間t後、冷却して重合を停止し、反応装置を脱気し、メタノールから沈殿させてポリマーを得た。乾燥後、反応の量(g)から収率のポリマー特性質量mを得た。実施例4〜9はタイプA触媒を使用した。
【0059】
4. エチレンとメチルメタアクリレートとの共重合
持続期間は120分に維持した。これはエチレンに関して測定された活性が安定である時間である。
【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
[表V]はコポリマーの1H NMRスペクトルから計算したMMAのモル挿入度を示す。MMAは−OMeのプロトンに従うと考えられ、エチレンはCH2からCH2およびCH3を引いたプロトンに従うと考えられる。。
【0063】
【表8】

【0064】
[表VI]はエチレンを66モル%〜95.5モル%含むエチレンとMMAとのコポリマーの熱的性質を示し、融点はほとんどなく、従って、ホモポリエチレンはないことを示す。しかし、ポリマーはエチレンを含むので本当にコポリマーである。
13C NMRから、コポリマー中のエチレンおよびMMA単位の交互変化に起因するエチレンとMMAに対応する信号(21.9/22.6/23.5/32.8/33.5/34.8ppm)が区別できる。これらの信号強度は低く、コポリマーのブロックの種類(交互かランダムか)を反映する。DSCはポリエチレンブロックの長さが不十分で、有意な溶融現象にならないことを示している。
【0065】
5. エチレンとブチルアクリレートの共重合
【表9】

【0066】
これらの結果は融点がないことを示し、従って、長いエチレンのブロック、従ってエチレンのホモポリマーはないことを示している。ガラス遷移温度TgはPBuAのガラス遷移温度(−50℃)に対応し、従って、マルチブロックコポリマーのアクリル酸ブチルと相溶性がある。
【0067】
6. エチレンとスチレンの共重合
【表10】

【0068】
得られたポリマーはアモルファスである(融点がない)。従って、エチレンの長いブロック、従ってエチレンのホモポリマーはない。
【0069】
7. エチレンとアクリル酸メチルの共重合
【表11】

【0070】
エチレン/アクリル酸メチルコポリマーの熱的性質はこのポリマーが非晶形であることを示し、観測されたTgはポリ(アクリル酸メチル)(10℃)のTgの前後で、従って、マルチブロックコポリマーのアクリル酸メチルブロックと相溶性がある。
【0071】
8. エチレンとブチルメタクリレートとの共重合
【表12】

【0072】
エチレン/メタクリル酸ブチル・コポリマーの熱的性質はこのポリマーが半結晶またはアモルファスであることを示す。結晶化度は極性モノマーの挿入度とともに減少する。
【0073】
9. エチレンとMMAとアクリル酸ブチルの三元共重合
【表13】

【0074】
得られたポリマーはアモルファスで(融点がない)、エチレンの長いブロック、
従ってエチレンのホモポリマーはない。
以下の実施例ではタイプB触媒を使用する。
【0075】
10. エチレンとメチルメタアクリレートとの共重合
【表14】

【0076】
エチレン/メタクリル酸メチルコポリマーの熱的性質はポリマーが半結晶またはアモルファスであることを示す。結晶化度は極性モノマーの挿入度とともに低下する。
【0077】
11. エチンとブチルアクリレートの共重合
【表15】

【0078】
得られたポリマーはアモルファスで(融点がない)、エチレンの長いブロック、従ってエチレンのホモポリマーはない。
【0079】
12. エチレンとスチレンの共重合
【表16】

【0080】
得られたポリマーはアモルファスで(融点がなく)、エチレンの長いブロック、従ってエチレンのホモポリマーはない。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの無極性モノマー、特にエチレンと、少なくとも一つの極性モノマーとからブロック共重合体を製造する方法であって、
下記式:

(ここで、
(a)Metは第VIII、IXおよびX族に属する金属を表し、
(b)Yは上記金属を酸化させるリガント分子を表し、C、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにしたヘテロ原子基から成り、好ましくはフェノキシタイプの基であり、
(c)LはC、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにした錯化分子から成り、好ましくはイミンまたはイライド(ylide)タイプの基であり、
(d)L'は一座配位式の電子供与型の錯体化分子、例えばフォスフィンまたはピリジン、好ましくはフォスフィン、より好ましくはトリフェニルホスフィンを表し
(e)Rは1〜20のC原子を有するアルキルまたはアルキルアリールタイプまたは6〜20のC原子を含むシクロアルキルまたはフェニルタイプの炭化水素ベースの基であり、好ましくはメチルまたはフェニル基である)
の有機金属錯体から成る触媒系の存在下で共重合を行い、得られたブロック共重合体が下記の関係を満たすことを特徴とする方法:
Σp−a/Σp−p<<1
Σp−a/Σa−a<<1
Σp−a>1(各ポリマー鎖で)
(ここで、
「p−a」極性モノマー(p)と無極性モノマー(a)との間の結合を表し、
「p−p」は2つの極性モノマー間の結合を表し、
「a−a」は2つの無極性モノマー間の結合を表す)
【請求項2】
金属が鉄、コバルト、ニッケル、パラジウムおよび白金から成る群の中から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
YとLが共有結合で結合されている請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
極性モノマーが不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸またはメタアクリル酸およびこれらの誘導体、不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチル、α−オレフィン、エチレンまたはプロピレンと組み合わせた時に極性モノマーと考得られるスチレン誘導体、例えばスチレンまたはα−メチルスチレン、アクリルアミド誘導体およびメタクリルアミド、例えばアクリルアミドおよびメタクリルアミドおよびこれらの誘導体、アクリロニトリルおよびこれらの誘導体、好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレンまたはアクリル酸ブチルから成る群の中から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
有機金属錯体がニッケル錯体である請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有機金属錯体が下記構造を有するサリシルアルデミン(salicylaldimine)錯体である請求項5に記載の方法:

【請求項7】
有機金属錯体は下記構造を有するホスフィノエレール(phosphinoenolate)錯体である請求項5に記載の方法:

【請求項8】
重合を溶液で実行する場合、液体または気体の無極性モノマーを非活性な炭化水素ベースの溶剤中で有機金属錯体の存在下で液体状態で極性モノマーと反応させる請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
重合をバルクで実行する場合、液体または気体の無極性モノマーを有機金属錯体の存在下で液体状態の極性モノマーと反応させる請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
重合を−100℃〜250℃、好ましくは20℃〜250℃で大気圧〜300、気圧の圧力下で実行する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
得られるブロック共重合体の数平均分子質量が103〜106g/モルである請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応媒体中にルイス塩基、好ましくはトリフェニルホスフィンを加える階段を有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法で得られる、一つ以上の極性モノマーブロックと一つ以上の無極性モノマーブロック、特にエチレンのブロックとを有するブロック共重合体。
【請求項14】
極性モノマーがアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルおよびスチレンから成る群の中から選択される請求項13に記載のブロック共重合体。
【請求項15】
各コモノマーのモル含有量が0.1%〜99.9%である請求項13または14に記載のブロック共重合体。
【請求項16】
下記式:

(ここで、
(a)Metは第VIII、IXおよびX族に属する金属を表し、
(b)Yは上記金属を酸化させるリガント分子を表し、C、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにしたヘテロ原子基から成り、好ましくはフェノキシタイプの基であり、
(c)LはC、Hおよび0、S、PおよびNの中から選択される少なくとも一つの原子をベースにした錯化分子から成り、好ましくはイミンまたはイライド・タイプの基であり、
(d)L'は一座配位式の電子供与型の錯体化分子、例えばフォスフィンまたはピリジン、好ましくはフォスフィン、より好ましくはトリフェニルホスフィンを表し
(e)Rは1〜20のC原子を有するアルキルまたはアルキルアリールタイプまたは6〜20のC原子を含むシクロアルキルまたはフェニルタイプの炭化水素ベースの基であり、好ましくはメチルまたはフェニル基である)
の、共触媒を加えずに行う、少なくとも一つの無極性のモノマーと少なくとも一つの極性モノマー、特にエチレンとのブロック共重合での使用であって、得られたブロック共重合体が下記の関係を満たすことを特徴とする使用:
Σp−a/Σp−p<<1
Σp−a/Σa−a<<1
Σp−a>1(各ポリマー鎖で)
(ここで、
「p−a」極性モノマー(p)と無極性モノマー(a)との間の結合を表し、
「p−p」は2つの極性モノマー間の結合を表し、
「a−a」は2つの無極性モノマー間の結合を表す)
【請求項17】
有機金属錯体が下記構造を有するサリシルアルデミン(salicylaldimine)錯体である請求項16に記載の使用:

【請求項18】
有機金属錯体が下記構造を有するホスフィノエレール(phosphinoenolate)錯体である請求項16に記載の使用:


【公表番号】特表2012−506920(P2012−506920A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532698(P2011−532698)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052058
【国際公開番号】WO2010/049633
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【出願人】(511104842)
【Fターム(参考)】