説明

極性上皮細胞層を横断するタンパク質の送達

【課題】生物活性複合体を提供する。
【解決手段】該生物活性複合体は、(1)αマクログロブリン受容体(α−MR)に結合する細胞認識部分と(2)生物活性部分とを含み、該生物活性部分は(a)生物活性をもち、(b)単独では免疫反応を誘導する免疫原としては機能せず、また(c)ADPリボシル化活性をもたない。本発明の生物活性複合体は生物活性部分を極性上皮細胞膜を横断して輸送する方法に有用である。したがって、本発明はタンパク質を注射によらずに非経口的に投与する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
・関連出願との相互参照
本願は1999年10月22日付仮出願U.S.S.N 60/160,923号に対する優先権を主張するものであり、同仮出願の開示内容は参照指示により本書にその全体が組み込まれる。
・連邦政府後援の研究開発に基づく発明への権利に関する声明
該当せず。
・発明の背景
本発明は分子生物学及び医薬の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技術のおかげで高純度タンパク質の大量生産が可能となるに至った。その種のタンパク質には目下医薬品として使用されているものも多い。遺伝子組換えで生産されている医薬タンパク質はたとえばインスリン、エリスロポエチン、ヒト成長ホルモン、βインターフェロンなどである。
【0003】
全身に到達させる必要がある医薬タンパク質は経腸投与することができない。全身に到達する前に消化器系酵素により分解されてしまうからである。そこで、医薬タンパク質は一般に注射で投与する。長期にわたるタンパク質の投与が必要とされる糖尿病などの疾患では、毎日注射が必要となる場合もある。もちろん、頻繁な注射は患者には不愉快であり、最善の投与方法でもないであろう。したがって、注射によらずにタンパク質を送達する手段が実現すれば好都合であろう。
【0004】
種々のタンパク質は粘膜表面を横断して全身に到達することが知られている。たとえば非特許文献1(van Deurs 他, European J. Cell Biol., 51: 96 (1990))は、リシンがトランスサイトーシスによって上皮組織を横断することを証明した。特許文献1(欧州特許0222835号, Russell-Jones 他、May 25, 1987)は、粘膜上皮組織と特異的に相互作用する種々の毒素などを含む担体分子の、細胞性免疫の誘導を目的とした免疫原の経口送達への使用について開示している。
【0005】
シュードモナス属外毒素A (PE)は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が産生する毒性タンパク質である。このタンパク質は天然型では、上皮細胞を含むさまざまな細胞表面に見られるα2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する。その分子は4ドメインを含む。ドメインIaはα2-MRに結合する。ドメインIIは細胞内への該分子のエンドサイトーシスを引き起こす。ドメインIbは機能が特定されていない。ドメインIII は(タンパク質合成の不活性化を仲介することにより)毒性を引き起こし、また小胞体内に毒素を保持する働きをする。PEでは新特性を付与する遺伝子組換えが幅広く行われてきた。たとえば、ドメインIaは特定の標的受容体へと結合するタンパク質に置き換えられた。
【0006】
ドメインIII には結合能を付与するためにターゲティングタンパク質が組み込まれた。その種の構築体は抗毒素としての用途が見つかっている。ADPリボシル化活性を取り除くためのドメインIII の組換えも行われた。ドメインIIは移行能を保持したまま短縮された。このように、PEの各ドメインは比較的独立した機能単位として働くので、他の機能単位への取り換えが可能であり、またそれ自体の幅広い組換えも可能である。たとえば次の資料を参照:特許文献2〜10(米国特許第5,863,745号(FitzGerald 他.); 米国特許第5,854,044号(Pastan 他.); 米国特許第5,705,163号(Pastan 他.); 米国特許第5,705,156号(Pastan 他.); 5,696,237号(FitzGerald 他.); 米国特許第5,602,095号(Pastan 他.); 米国特許第5,458,878号(Pastan 他.); 米国特許第5,082,927号(Pastan 他.); 米国特許第4,892,827号(Pastan 他.));並びに非特許文献2及び3(Y. Reiter 他., Nature Biotechnology (1996) 14:1239及びU. Brinkmann and I. Pastan, Biochim. et Biophys. Acta (1994) 1198:27)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許0222835号
【特許文献2】米国特許第5,863,745号
【特許文献3】米国特許第5,854,044号
【特許文献4】米国特許第5,705,163号
【特許文献5】米国特許第5,705,156号
【特許文献6】米国特許第5,696,237号
【特許文献7】米国特許第5,602,095号
【特許文献8】米国特許第5,458,878号
【特許文献9】米国特許第5,082,927号
【特許文献10】米国特許第4,892,827号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】van Deurs 他(European J. Cell Biol., 51: 96 (1990)
【非特許文献2】Y. Reiter 他., Nature Biotechnology (1996) 14:1239
【非特許文献3】U. Brinkmann and I. Pastan, Biochim. et Biophys. Acta (1994) 1198:27
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
α2マクログロブリン受容体に結合する分子は、極性上皮細胞層の頂面に適用すると、細胞膜の基底側を横断して上皮下腔へと抜け出ることができる。本発明はこの特性を利用してα2マクログロブリン受容体に結合する分子を担体として用い、それと結合したタンパク質や分子を上皮細胞表面を横断して送達し、もってタンパク質の注射を不要にしようとするものである。かかる結合性分子のこうした使用は思いがけないものである。というのは、それらの分子に結合したタンパク質が細胞表面横断後も活性を保持するとは誰にも予測できなかったと思われるからである。したがって、本発明は注射を用いない経粘膜的な送達によるタンパク質の非経口的投与法を提供する。本発明はくり返し注射されるインスリン、インターフェロン、成長ホルモン、エリスロポエチンなどのようなタンパク質医薬の投与に使用できる。
【0010】
別の態様では、本発明は生物活性複合体であって(1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分と(2)生物活性部分とを含み、該生物活性部分は(a)受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、(b)単独では免疫反応を誘導する免疫原としては機能せず、また(c)ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする生物活性複合体を提供する。
【0011】
一実施態様では、上皮細胞層はインビトロ培養した膜である。別の実施態様では、上皮細胞層は対象哺乳動物の粘膜表面である。
【0012】
他実施態様では、細胞認識部分はα2ミクログロブリンに結合する抗体を含むか、α2ミクログロブリンに結合するに足るシュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIaの一部分を含むか、又はシュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIaを含みかつ複合体がさらにPEのドメインIIを含む。別の実施態様では、複合体は(a) シュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIa、(b)極性上皮細胞層の頂面から基底面への移行を引き起こすに足るPE部分を含むPE複合体であって、該PE部分はPEドメインII、リボシル化活性をもたないPEドメインIII の少なくとも一部分、及び所望によりPEドメインIbを含み、また生物活性部分はポリペプチドを含むことを特徴とする。
【0013】
他実施態様では、粘膜表面は呼吸器系、胃腸系又は生殖器系の粘膜表面である。
他実施態様では、生物活性部分はポリペプチドであり、該ポリペプチドは抗体、レクチン、DNA結合性タンパク質、脂質結合性タンパク質、細胞表面受容体に対応するリガンド、酵素、インスリン、インターフェロン、成長ホルモン又はエリスロポエチンを含む。別の実施態様では、生物活性部分は第二ポリペプチド、炭水化物、脂質又は核酸に結合したポリペプチドリガンドを含む。
【0014】
別の実施態様では、生物活性部分がポリペプチドを含み、複合体が該ポリペプチドに細胞認識部分を融合させてなる融合タンパク質を含む。別の実施態様では、該融合タンパク質はプロテアーゼによって認識される開裂部位を含み、開裂により融合タンパク質から生物活性部分が放出されることを特徴とする。
【0015】
一態様において、本発明は極性上皮細胞層を横断して生物活性部分を輸送する方法を提供するが、該輸送法は本発明の生物活性複合体を該細胞層の頂面に適用することを含む。
【0016】
別の態様において、本発明は製薬上許容しうる担体と本発明の生物活性複合体とを含有する、局所投与用に調製される製剤組成物を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は融合タンパク質複合体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供するが、該融合タンパク質は(1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分と融合した (2)遺伝子又は遺伝子産物の発現又は活性を変化させる活性をもつ生物活性部分を含み、該生物活性部分は(a) 受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、(b)単独では免疫反応を誘導する免疫原としては機能せず、また(c)ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1はシュードモナス属外毒素A(PE)の構造模式図である。
【図2】図2はPE構造の図解である。配列番号2に基づくアミノ酸位置が示してある。ドメインIaはアミノ酸1〜252にわたる。ドメインIIはアミノ酸253〜364にわたり、アミノ酸265〜287のシステインによって形成されるシステイン−システイン・ループを含む。フリンはこのシステイン−システイン・ループ内のアミノ酸279と280の間で開裂する。アミノ酸280で始まるPEフラグメントはサイトゾルへと移行する。アミノ酸354〜364を除去した構築体も移行する。ドメインIbはアミノ酸365〜399にわたり、アミノ酸372と379のシステインによって形成されるシステイン−システイン・ループを含む。該ドメインは完全に除去することができる。ドメインIIIはアミノ酸400〜613にわたる。アミノ酸553の欠失はADPリボシル化活性を失わせる。小胞体配列REDLK(配列番号5:配列番号2のアミノ酸600〜605)はPE分子のカルボキシル末端の、アミノ酸609〜613に位置する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I. 定義
特に断らない限り、本書で使用する技術・学術用語はすべて当業者に慣用の意味をもつ。本発明で使用する数多くの用語の一般的な意味は以下の参考資料に記載されている: Singleton 他、「DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY」(2d 版、1994);「THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY」(Walker ed., 1988);「THE GLOSSARY OF GENETICS」5版、R. Rieger 他.(編), Spring Verlag (1991);及びHale & Marham「THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY」(1991)。以下の用語の意味は本書では特に断らない限り、次のとおりとする。
【0020】
「核酸」はヌクレオチド単位(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、関連の天然に存在する構造変異体及びそれらの天然に存在しない合成類縁物質) がホスホジエステル結合又は他の合成結合を介して連結した高分子をいう。ヌクレオチド配列をDNA配列(すなわちA、T、G及びC)で表わすときは、UがTに置き換わるRNA配列(すなわちA、T、G及びC)をも含むものとする。
【0021】
ヌクレオチド配列は慣用の表記法を用いて表わす。すなわち一本鎖ヌクレオチド配列の左手側末端は5’末端であり、二本鎖ヌクレオチド配列の左手方向は5’方向という。新生RNA転写産物に対する5’から3’への付加方向は「転写方向」という。mRNA配列と同じ配列をもつDNA鎖は「コード鎖」という; DNA鎖上の配列であって、そのDNAから転写されるmRNAと同じ配列をもちRNA転写産物の5’末端に対して5’に位置する配列は「上流配列」という; DNA鎖上の配列であって、そのDNAから転写されるmRNAと同じ配列をもち、コードRNA転写産物の3’末端に対して3’に位置する配列は「下流配列」という。
【0022】
「〜をコードする」はポリヌクレオチド中の特定ヌクレオチド配列(たとえば遺伝子、cDNA又はmRNA)の固有の性質であって、定義済みヌクレオチド配列(すなわちrRNA、tRNA及びmRNA)か又は定義済みアミノ酸並びにそれに由来する生物学的性質をもつ他の高分子及び巨大分子を生物学的過程において合成するための鋳型として機能する固有の性質をいう。したがって、細胞や他の生体系においてある遺伝子に由来するmRNAの転写と翻訳からあるタンパク質が産生される場合には、その遺伝子はそのタンパク質をコードしていることになる。遺伝子又はcDNAの、そのヌクレオチド配列がmRNAと同一であり通常は塩基配列表に記載されているコード鎖及び転写用鋳型として使用される非コード鎖はどちらも、その遺伝子又はcDNAのタンパク質又は他の産物をコードしているといえる。特に断らない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重版であってかつ同じアミノ酸配列をコードする諸々のヌクレオチド配列を含む。タンパク質及びRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含む場合もある。
【0023】
「組換え核酸」は天然には結合していない複数のヌクレオチド配列をもつ核酸をいう。増幅又は組立組換え核酸を入れた適当なベクターを使用すれば、適当な宿主細胞を形質転換することができる。組換え核酸を含む宿主細胞は「組換え宿主細胞」という。次にその遺伝子を組換え宿主細胞内で発現させれば、たとえば「組換えポリペプチド」が産生される。組換え核酸は(たとえばプロモーター、複製起点、リボソーム結合部位などとして)非コード機能をも果たす場合もある。
【0024】
「発現調節配列」はポリヌクレオチド中のヌクレオチド配列であって、それと作動可能に連結されたヌクレオチド配列の発現(転写及び/又は翻訳)を調節するものをいう。「作動可能に連結された」は、一方の部分の活性(たとえば転写調節能)が他方の部分の働き(たとえば配列の転写)を招く結果となるような、2部分間の機能的な関係をいう。発現調節配列は(たとえば誘導的又は構成的)プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン(すなわちATG)、イントロン用のスプライシングシグナル、及び終止コドンの配列を含むことができるが、それだけに限らない。
【0025】
「発現カセット」は発現性ヌクレオチド配列に作動可能に連結させた発現調節配列を含む組換え核酸構築体をいう。発現カセットは一般に発現用の十分なシス作動性エレメントを含むが、他の発現用エレメントを宿主細胞又はインビトロ発現系によって供給することもできる。
【0026】
「発現ベクター」は発現カセットを入れたベクターをいう。発現ベクターには発現カセットを入れた当業界で既知のすべてのベクター、たとえばコスミド、(たとえば剥き出しの、又はリポソームに入れた)プラスミド、及びウィルスなどがある。
【0027】
「ポリペプチド」はアミノ酸残基、関連の天然に存在する構造変異体及びそれらの天然には存在しない合成類縁物質がペプチド結合で連結されたもの、関連の天然に存在する構造変異体及びそれらの天然には存在しない合成類縁物質をいう。合成ポリペプチドは、たとえば自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。一般に、「タンパク質」は大きなポリペプチドをいい、「ペプチド」は短いポリペプチドをいう。
【0028】
「融合タンパク質」は、2以上のポリペプチドが、一方のポリペプチドのアミノ末端と他方のポリペプチドのカルボキシル末端によって形成されるペプチド結合による連結によって形成されるポリペプチドをいう。融合タンパク質は一般に、単一の連続した融合タンパク質をコードする核酸配列から単一ポリペプチドとして発現させることができる。ただし、構成ポリペプチドの化学結合によって融合タンパク質を形成することもできる。
【0029】
本書では慣用の表記法でポリペプチド配列を表わす。すなわちポリペプチド配列の左手側末端はアミノ末端であり、右手側末端はカルボキシル末端である。
【0030】
「同類置換(conservative)」はポリペプチド中のアミノ酸の、機能的に類似するアミノ酸との置換をいう。次の6群はそれぞれ、互いに同類置換をなすアミノ酸を含んでいる:
【0031】
1) アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T); 2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); 3) アスパラギン(N)、グルタミン(Q); 4) アルギニン(R)、リシン(K); 5) イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオナン(M)、バリン(V); 6) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0032】
「対立遺伝子の変異体」は同じ遺伝子座を占める複数の遺伝子多型相のうちのいずれかをいう。対立遺伝子の変異は突然変異により自然に起こるが、個体群中に表現型多型をもたらすことがある。遺伝子の突然変異はサイレント(コードされるポリペプチドの変化を伴わない)変異の場合もあれば、アミノ酸配列を変化させたポリペプチドをコードする場合もあろう。「対立遺伝子の変異体」は、対立遺伝子の変異体のmRNA転写産物に由来するcDNA、又はそれによってコードされるタンパク質についてもいう。
【0033】
配列比較では、一般に一方の配列が基準配列となり、それと評価配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用するときは、評価及び基準配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、また配列アルゴリズムのプログラムパラメーターを指定する。プログラムパラメーターはデフォルト値が使用される。比較のための配列アラインメント法は当業界で周知である。比較のための最適配列アラインメントは、たとえば、Smith & Waterman「Adv. Appl. Math.」2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman & Wunsch.「J. Mol. Biol.」48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman「Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA」85: 2444 (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA; Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)により、又はマニュアルアラインメントと目視検査により(たとえば、「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubel 他編、1995 supplement))、行うことができる。
【0034】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPはFeng & Doolittle「J. Mol. Evol.」35:351-360 (1987)の段階的アラインメント法の拡充版を用いる。使用される方法はHiggins & Sharp「CABIOS」5:151-153 (1989)に記載の方法と類似している。PILEUPでは、次のパラメーターを用いて基準配列を他の評価配列と比較して配列同一性パーセントを求める: ギャップウェートのデフォルト値(3.00)、ギャップ長ウェートのデフォルト値(0.10)、及びウェート付きの末端ギャップ。PILEUPはGCC配列解析ソフトウェアパッケージのたとえばversion 7.0から得られる(Devereaux 他., Nuc. Acids Res. 12: 387-395 (1984))。
【0035】
配列同一性及び配列類似性パーセントの算定に適したもう1つのアルゴリズム例は、Altschul 他「J. Mol. Biol」215: 403-410 (1990)及びAltschul 他「Nucleic Acids Res.」25:3389-3402 (1977)に記載のBLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムである。BLAST解析用のソフトウェアはNational Center for Biotechnology Informationを通じて公開されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)はデフォルト値として語長(W) 11、アラインメント(B) 50、期待(E) 10、M=5、N=4を用い、また両鎖の比較を用いる。BLASTPプログラム(アミノ酸配列用)はデフォルト値として語長(W) 3、期待(E) 10を用い、またBLOSUM62スコアマトリックスを用いる(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915 (1989)を参照)。
【0036】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は50%ホルムアミド、5x SSC及び1% SDS、42℃でのインキュベーション又は5x SSC、1% SDS、65℃でのインキュベーション、それに0.2x SSC、0.1% SDS、65℃での洗浄をいう。
【0037】
「リガンド」は標的分子に特異的に結合する化合物をいう。
「受容体」はリガンドに特異的に結合する化合物をいう。
【0038】
「抗体」は、エピトープ(抗原など)を特異的に認識、結合する1以上の免疫グロブリンL鎖又はH鎖可変部を含むポリペプチドリガンドをいう。これには、完全な形の免疫グロブリンや技術上周知のその変異体又は部分、たとえばFab’フラグメント、F(ab)’2フラグメント、及びscFvタンパク質などが含まれる。scFvはL鎖可変部とH鎖可変部がリンカーで結合された融合タンパク質である。天然の免疫グロブリンは免疫グロブリン遺伝子によってコードされている。たとえばカッパ及びラムダL鎖定常部遺伝子、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミューH鎖定常部遺伝子、それに無数の免疫グロブリン可変部遺伝子などである。「抗体」は免疫、ハイブリドーマ又は組み換えによって産生されるポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体などである。
【0039】
リガンド又は受容体が分析物と「特異的に結合する」のは、該リガンド又は受容体が異種の化合物試料中に該分析物が存在することの決め手となる結合反応で機能する場合である。したがって、リガンド又は受容体は特定の分析物に対して優先的に結合し、試料中の他の化合物にはあまり結合しない。たとえば、あるポリヌクレオチドは相補配列を含むポリヌクレオチドとしての分析物に特異的に結合し、また抗体は該抗体の産生を誘導したエピトープをもつ抗原としての分析物に免疫検定条件下で特異的に結合する。
【0040】
「実質的に純粋な」又は「単離(された)」は、目的の種が卓越種として存在(たとえばモルベースで、組成物中の他のいかなる高分子種よりも高濃度に存在) することを意味し、また実質的に純粋な画分は目的の種が(モルベースで)全高分子種の50%以上存在するような組成物である。一般に、実質的に純粋な組成物は組成物中に存在する高分子種の約80%〜90%が精製された目的種であることを意味する。組成物が本質的に単一高分子種からなる(通常の検出法で組成物中に汚染種が検出されない)ならば、目的種は本質的に均質に精製されたことになる。この定義では、溶媒種、小分子(<500Da)、安定剤(BSAなど)、及び元素イオン種は高分子種とみなさない。
【0041】
「リンカー」は2分子を共有結合、イオン結合、ファンデルワールス結合又は水素結合で結びつける別の分子をいう。
【0042】
「医薬組成物」は哺乳動物への医薬としての使用に適した組成物をいう。医薬組成物は薬理的有効量の有効成分と製薬上許容しうる担体とを含有する。「薬理的有効量」は所期の薬理効果を生み出すうえで有効な成分量をいう。「製薬上許容しうる担体」はリン酸緩衝生理食塩水、5%デキストロース水溶液、水中油又は油中水型などの乳濁液、種々の湿潤剤及び/又はアジュバントなどのような、任意の標準的な製薬担体、緩衝液及び賦形剤をいう。適当な製薬担体及び調剤は「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE」19版 (Mack Publishing Co., Easton, 1995)に記載されている。好ましい製薬担体は有効成分の所期投与方式に左右される。本発明の複合体は粘膜表面から投与される。「製薬上許容しうる塩」は医薬用化合物へと調製しうる塩、たとえば金属(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カリウムなど)塩及びアンモニア又は有機アミン塩である。
【0043】
診断又は処置の「対象」は人間又は人間以外の哺乳動物である。人間以外の処置又は診断「対象」哺乳動物は霊長類、有蹄類、イヌ科及びネコ科の動物などである。対象はウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの家畜でもよい。
【0044】
「処置」は予防上又は治療上の処置をいう。
「予防上の」処置は、疾病の徴候を示していない、又は初期徴候を示すにすぎない対象に対して、病理進行のリスクを低減させる目的で実施される処置をいう。
【0045】
「治療上の」処置は病理徴候を示している対象に対して、そうした徴候の緩和又は一掃を目的に実施される処置をいう。
【0046】
「診断」は病状の存在又は性質の解明をいう。診断法は有病正診率と無病正診率が異なる。診断法の「有病正診率」は検査結果が陽性と出る有病者の比率(真陽性比率)である。診断法の無病正診率は1マイナス偽陽性率であるが、偽陽性率というのは検査結果が陽性と出る無病者の比率である。診断法によっては状態の最終的な診断が下せない場合もあろうが、診断に役立つ陽性の印を示す診断法であれば十分である。
【0047】
「予後」は起こる可能性が大きい病状進行(重篤度など)の予測をいう。
「生物活性部分」は生物有機分子であって、(a)受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳調節、及び別の生物有機分子(免疫グロブリンなど)に対する親和性から選択される生物活性をもち、(b)単独では免疫反応を誘導する免疫原としては機能せず、また(c)ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする生物有機分子をいう。
【0048】
「生物有機分子」は、一般に生体で産生される種類の有機分子をいう。これにはたとえばヌクレオチド、アミノ酸、糖、脂肪酸、ステロイド、核酸、ポリペプチド、炭水化物、脂質、これらの化合物の組み合わせ(たとえば、糖タンパク質、リボ核タンパク質、リポタンパク質)などが含まれる。
【0049】
「シュードモナス属外毒素A」又は「PE」はシュードモナス・エルギノサ(P. aeruginosa)が分泌する67 kDタンパク質であり、3つの際立った球状ドメイン(Ia、II及びIII )及びドメインIIとIII をつなぐ1つの小さなサブドメイン(Ib)からなる(A.S.Allured 他(1986)「Proc. Natl. Acad. Sci.」83: 1320 -1324)。PEのドメインIaは細胞結合を仲介する。自然状態では、ドメインIaはα2マクログロブリン受容体(α2-MR) 、すなわち、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)に結合する(M.Z. Kounnas他 (1992)「J. Biol. Chem.」267:1240-23)。その位置はアミノ酸1〜252にまたがる。ドメインIIはサイトゾルへの移行を仲介する。その位置はアミノ酸253〜364にまたがる。ドメインIbは機能が判明していない。その位置はアミノ酸365〜399にまたがる。ドメインIII は細胞毒性の原因であり、小胞体保持配列を含む。ドメインIII は、タンパク質の合成を不活性化する伸長因子2 (EF2)のADPリボシル化を仲介する。その位置はアミノ酸400〜613にまたがる。PEはEF2のADPリボシル化活性を欠く場合には「無害」である。ドメインIII からアミノ酸E553が欠失 (ΔE553) するとPEは無害化する。PEの対立形質はこの定義に包摂される。M.L. Vasil 他 (1986)「Infect. Immunol.」52: 538-48を参照。シュードモナス属外毒素Aのヌクレオチド配列(配列番号1)と推定アミノ酸配列(配列番号2)は次のとおりである:
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
II. 上皮膜を横断する生物活性複合体
A. 基本構造
本発明は、適用部位となる上皮膜の頂面から基底面へと横断することができる生物活性複合体を提供する。本発明の生物活性複合体は(1)細胞認識部分及び(2)生物活性部分を含む。細胞認識部分は上皮膜頂面上の受容体、最も好ましくはα2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する働きをする。好ましい実施態様では、該複合体は細胞認識ドメインとポリペプチド生物活性部分が単一ポリペプチドとして産生される融合タンパク質を含む。しかし、各部分を互いに化学結合させることによって複合体を調製することもできる。
【0054】
実施態様によっては、本発明の複合体は「PE複合体」であり、 (3)上皮細胞の頂面に結合された複合体の上皮細胞基底側への輸送途上において細胞サイトゾルへの移行を仲介する「PE部分」をさらに含む。実施態様によっては、生物活性部分はPEのIbドメイン内に配置されていない。他の生物活性機能をもたせるための変更を何ら受けていない天然型PE又はその無毒化版は本発明の複合体ではない。
【0055】
B.細胞認識部分
本発明の複合体は「細胞認識部分」をコードするアミノ酸配列を含む。細胞認識部分は極性上皮細胞層頂面の細胞表面受容体に対応するリガンドとして機能し、細胞への複合体の結合を仲介する。該部分の目的は複合体を該膜表面に結合させることであるが、それは膜基底側への移行を実現するための最初の、最も重要な工程である。本発明のPE複合体では、細胞認識部分は好ましくはPEのドメインIaの場所に位置する。ただし、このドメインは通常の編成配列の外へ移動させることができる。特に、細胞認識部分はPEドメインIII 内の、該ドメインの最初の70アミノ酸の後に挿入することができる。また、細胞認識部分は複合体へと化学的に結合することもできる。
【0056】
細胞認識ドメインは、それが細胞結合機能を果たすことを可能にするような任意の場所に配置することができる。好ましい実施態様では、細胞認識部分はPEのドメインIaの位置に取って代わる。それは融合タンパク質として、又はリンカーを介して、該PE部分に取り付けることができる。あるいは、細胞認識ドメインはドメインIII の代わりに、又はドメインIII 内に配置することもできる。
【0057】
最も好ましくは、細胞認識部位はα2マクログロブリン受容体に結合するポリペプチドである。その種のポリペプチドはたとえば天然のリガンド又は抗体である。好ましい実施態様では、細胞認識ドメインはα2マクログロブリン受容体に結合するPEドメインIaの天然配列である。別の実施態様では、細胞認識部分はα2マクログロブリンである。他の実施態様では、細胞認識部分はα2-MRを認識する抗体である。好ましくは、該免疫グロブリンの一鎖はPE部分との融合タンパク質として産生される。その種の融合タンパク質には一本鎖Fvフラグメント(scFv)が含まれる。一実施態様では、ドメインIaは該標的受容体に対して特異的な免疫グロブリンに由来する免疫グロブリンH鎖に対応するポリペプチド配列で置き換わる。該免疫グロブリンのL鎖はPE複合体と同時発現させてL鎖H鎖二量体を形成させるようにすることができる。複合体タンパク質では、抗体をこのキメラ免疫原の他ドメインを含むポリペプチドと化学的に結合させる。
【0058】
細胞特異的リガンドの取り付けにはリンカーを使用することもできる。該リンカーは両分子に対し共有結合又は高親和性の非共有結合を形成することができる。好適なリンカーは当業者に周知であり、直鎖又は分岐鎖炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、又はペプチドリンカーなどを含むが、それらに限らない。リンカーは構成要素のアミノ酸へと、その側基を介して(たとえばシステインとのジスルフィド結合により)結合される場合もある。
【0059】
キメラ免疫原に使用する機能的な細胞認識部分を特定するにはいくつかの方法が有用である。一つの方法は細胞認識部分を含む複合体の、受容体との、又は受容体含有細胞との結合を検出する方法である。他の方法は、膜基底側への複合体の移送(これは第1工程である細胞結合性の成功を表わす)を検出する方法である。これらの方法は後に、「生物活性複合体の試験」の節で詳しく説明する。
【0060】
C. PE部分
実施態様によっては、本発明の複合体はPE部分をさらに含む。その種の複合体はPE複合体という。PE複合体はPEドメインII、PEドメインIII 、及び所望によりPEドメインIbに由来するアミノ酸配列を含む。PE複合体が上皮膜頂面から基底側へと通過する途上で頂面からサイトゾルへのPE複合体の移行を引き起こすには、これらのアミノ酸配列で十分である。
【0061】
PE部分はPEドメインIIに由来する配列を含む。このドメインはアミノ酸253〜364にまたがる。PE部分にはドメインIIの全配列を含めてもよいが、移行を引き起こすには全配列が必要というわけではない。たとえば必要最小限の配列としてPEドメインIIのアミノ酸280〜344を含めればよい。この領域以外の配列、すなわちアミノ酸253〜279及び/又は345〜364はドメインIIから削除してよい。このドメインは、移行活性が維持される限りで、置換による組換えにも可能である。
【0062】
PE部分には所望によりPE Ibドメインを含めてもよい。天然型のシュードモナス属外毒素AではドメインIbは配列番号2のアミノ酸365〜399にわたり、またPEドメインIIとPEドメインIII の間に位置する。天然型ドメインIbの構造的特徴は位置372と379の2システイン間のジスルフィド結合にある。ドメインIbは細胞結合にも移行にも不可欠というわけではないので、組換え又は完全削除が可能である。たとえば、このドメインを約1500アミノ酸までの他アミノ酸配列で置き換えてもよい。PE Ibドメインは線状でもよいしシステイン−システイン・ループを含んでもよい。しかし、複合体には天然型PE Ibドメインを残すのが好ましい。その種の構築体のほうが作製に手間がかからないからである。
【0063】
天然型PEではドメインIII は3つの機能をもつ。第1にそのアミノ末端部分のアミノ酸400〜470は移行に関与しているように見受けられる。第2にドメインIII はADPリボシル化活性を示す。第3にPEドメインIII はエンドサイトーシスで取り込まれた毒素を小胞体中に導くER保持配列を含む。
【0064】
PE部分は一般に、PEドメインIII のうち移行に必要な部分を含むであろうし、また好ましくはそれ以外の部分を含まないであろう。たとえば、PE部分は一般にPEドメインIII のアミノ末端部分に由来する少なくとも70アミノ酸(配列番号2のアミノ酸400〜470)を含むであろう。
【0065】
PEのリボシル化活性はPEのアミノ酸400〜600あたりに存在する。本発明の生物活性複合体は好ましくは無害である。そうした実施態様ではリボシル化活性をなくする。それは好ましくは、PEドメインIII のおよそアミノ酸470 (配列番号2)以降の配列を除去することによって実現される。あるいは、アミノ酸E553の除去(ΔE553)によりADPリボシル化活性を失わせてもよい。M. Lukac 他. (1988)「Infect. and Immun.」56:3095-3098.
【0066】
PEドメインIIIはそのカルボキシル末端に小胞体(ER)保持配列を含む。ER保持配列は配列REDLK(配列番号5:配列番号2のアミノ酸609〜613)をもつ。この配列は細胞内にERを保持する機能を果たす。この機能は本発明のPE複合体に不可欠ではないので、ER配列は除去するのが好ましい。
【0067】
PE部分は次のように機能する。キメラタンパク質はこの細胞表面上の受容体に結合した後、エンドサイトーシスによりクラスリンで被覆されたくぼみから細胞に取り込まれる。265及び287残基は、ジスルフィドループを形成するシステインである。酸性環境のエンドソーム中に取り込まれると、ペプチドがArg279とGly280の間でプロテアーゼのフリンによる開裂作用を受ける。するとジスルフィド結合が解消される。Arg279の突然変異はタンパク質分解酵素による開裂を、ひいてはその後のサイトゾルへの移行を阻害する。M. Ogata 他 (1990)「J. Biol. Chem.」265: 20678-85. しかし、Arg279の下流配列を含むPE断片(PE37と呼ぶ)はサイトゾルへの移行能を実質的に保持する。C.B. Siegall 他 (1989)「J. Biol. Chem.」264:14256-61. PEドメインIIのアミノ酸345以降の配列もまた、移行を阻害することなく除去することができる。さらに、位置339と343のアミノ酸は移行に必要であるように見える。C.B. Siegall 他 (1991)「Biochemistry」30:7154-59.
【0068】
好ましい実施態様では、PE部分のアミノ酸配列はPEに由来する連続配列である。この実施態様では、PE部分は最小限、PE (配列番号2)のアミノ酸253〜470を含む。別の好ましい実施態様では、細胞認識部分とPE部分は共にPEに由来する。そのため、これらの2部分はPE (配列番号2)のアミノ酸1〜470を含みうる。
【0069】
PE部分の機能性を決定する方法については、後に「生物活性複合体の試験」の節で説明する。
【0070】
D. 生物活性部分
本発明の複合体にはポリペプチド、核酸、炭水化物又は脂質などのような生物有機分子を含む「生物活性部分」が含まれる。この生物活性部分は(a)受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び別の生物有機分子(免疫グロブリンなど)に対する親和性から選択される生物活性をもち、(b)単独では免疫反応を誘導する免疫原としては機能せず、また(c)ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする。本発明の複合体の目的は、生物活性部分を粘膜下腔へと送達し、そこで生物活性部分が固有の薬理作用を及ぼせるようにすることである。
【0071】
好ましい実施態様では、生物活性部分はポリペプチドを含む。生物活性部分を構成するポリペプチドは目的のポリペプチド又はその部分なら何でもよい。このポリペプチドはサイトカイン、インターロイキン、酵素、細胞の受容体に対応するリガンド、脈管形成阻害物質、標的受容体又は抗原に結合するか又はその活性を遮断する抗体などのように、それ自体が所望の生物活性をもってもよい。あるいは、生物活性を阻害する他分子の担体として機能するポリペプチドでもよい。たとえば、このポリペプチドはDNA結合性タンパク質、炭水化物結合性タンパク質(レクチン)、脂質結合性タンパク質、あるいはタンパク質リガンド又は受容体とすることができる。したがって、活性部分は目的の核酸、炭水化物、脂質又は他のタンパク質を送達するために使用することができる。
【0072】
生物活性部分を構成するポリペプチドとして最も好ましいのは、目下注射により非経口的に投与されている医薬タンパク質である。その種のタンパク質は、たとえば、インスリン、インターフェロン(α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロンなど)、成長ホルモン、エリスロポエチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL-1、IL-2又は腫瘍壊死因子(TNF)など)、凝固因子VIII又はグルコセレブロシダーゼなどである。
【0073】
生物活性部分は複合体に化学結合させることができる。しかし、複合体は細胞認識部分、PE部分及び生物活性部分を含む単一融合タンパク質として遺伝子工学的に作製するのが好ましい。複合体にポリペプチド部分を化学的又は遺伝子工学的に結合させる手段は後述のとおりである。
【0074】
生物活性部分は、移行又は細胞結合活性を妨げない限りで、複合体の任意の位置に結合させることができる。一実施態様では、生物活性部分をPEのドメインIa又はα2-MRに対する抗体などのような細胞認識部分に直接結合させる。本発明のPE複合体では、3部分の相対位置はアミノ末端側から順に細胞認識部分−PE部分−生物活性部分とする。そうした実施態様では、PEドメインIII のかなりの部分はPEから除去し、生物活性部分のポリペプチドで置き換えることができる。
【0075】
しかし他の配置も可能である。たとえば活性部分はアミノ末端に、また細胞認識部分はカルボキシル末端に、それぞれ配置することができる。ただし、活性部分が細胞認識部分の機能を妨げてはならない。したがって、細胞認識部分がPEドメインIaに由来するか、又はPEドメインIaの位置に配置される場合には、活性部分は好ましくはPEドメインIII の位置に配置する。あるいは、好ましさでは劣るが、細胞認識部位をPEドメインIII の位置に配置し、活性部分をPEドメインIaの代わりに配置することもできる。
【0076】
活性部分の位置を選択する際には、ポリペプチドの性質を考慮に入れるのがよい。たとえば、活性をもたせるうえでアミノ末端の遊離端が必要とされるタンパク質(たとえば成長ホルモン)では、ポリペプチドはカルボキシル末端で複合体に融合させるのが最善である。そうした実施態様では、ポリペプチドがPEドメインIaに取って代わり、細胞認識ドメインがPEドメインIII のいくつかの部分に取って代わるのがよい。
【0077】
一実施態様では、活性部分は細胞認識部分又はPE部分にプロテアーゼ開裂可能部位を含むポリペプチドリンカーにより連結する。こうすれば、プロテアーゼの働きで活性部分を複合体から放出することができる。好ましくは、この部位は細胞内又は上皮組織の基底面存在するプロテアーゼにより認識される。その場合には、活性部分は膜を横断後に放出される。たとえば、プロテアーゼ活性化適性配列はゼラチナーゼによって認識されるPro-Leu-Gly-Met-Trp-Ser-Arg (配列番号3)でもよいし、またコラゲナーゼによって認識されるArg-Pro-Leu-Ala-Leu-Trp-Arg-Ser (配列番号4)でもよい。
【0078】
この部分の活性は標的細胞サイトゾルへのタンパク質の移行を後述の検定法で試験することにより評価することができる。
【0079】
別の実施態様では、細胞認識部分をER保持ドメインのアミノ酸配列(たとえばドメインIII )中に挿入する。たとえば、細胞認識部分をER保持配列のすぐ上流に挿入すれば、ER挿入配列を細胞認識部分のカルボキシル末端に直接、又は同末端から10アミノ酸以内に、連結することができる。
【0080】
III . 生物活性複合体の作製
生物活性複合体は好ましくは遺伝子組換えにより融合タンパク質として作製するが、化学合成によって作製することもできる。
【0081】
A. 生物活性複合体をコードする組換えポリヌクレオチド
1. 組換えポリヌクレオチド
a. 源
本発明は本発明の複合体をコードするヌクレオチド配列を含んでなる組換えポリヌクレオチドを提供する。その種のポリヌクレオチドは複合体を作製するうえで有用である。生物活性複合体をコードする本発明の組換えポリヌクレオチドはシュードモナス属外毒素A (PE)又はその部分をコードするポリヌクレオチドに由来する。PEをコードするヌクレオチド配列は前掲のとおりである。発明の実施者はこの配列を用いて、全長配列の単離に用いるPCRプライマーを調製することができる。このPE配列を組み換えればPE複合体をコードするポリヌクレオチドが作製できる。
【0082】
PEをコードするポリヌクレオチド又は本発明のキメラタンパク質に使用される他の任意のポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写利用増幅法(TAS)、自己持続性配列複製系(self-sustained sequence replication system) (3SR)、Qβレプリカーゼ増幅法(Qβ)などのようなインビトロ法によりクローニング又は増幅することができる。たとえば該タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、PE又は細胞認識分子のDNA配列に由来するプライマーを使用したcDNAのPCRにより単離することができる。
【0083】
多種多様なクローニング法やインビトロ増幅法が当業者に周知である。PCR法はたとえば米国特許第4,683,195号; Mullis 他 (1987)「Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.」51:263; 及びErlich 編、「PCR TECHNOLOGY」(Stockton Presss, NY, 1989)に記載されている。ポリヌクレオチドはまた、所望ポリヌクレオチドの配列から選択したプローブによるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でのゲノム又はcDNAライブラリーのスクリーニングによって単離することもできる。
【0084】
b. 組換え版複合体
組換え版複合体はタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により、又は0.1 mM MnCl2や不均衡ポリペプチド濃度で原ポリヌクレオチドのPCRのエラー率を高めることによるランダム突然変異誘発により、作製することができる。
【0085】
アミノ酸1〜252をコードするヌクレオチドを除去すると「PE40」という構築体が得られる。アミノ酸1〜279をコードするヌクレオチドを除去すると「PE37」という構築体が得られる。米国特許第5,602,095号(Pastan 他.)を参照。これらの基本骨格の5’末端に細胞認識部分をコードする配列を連結すると、特定の細胞表面受容体に向けられるPE様のキメラタンパク質が産生される。これらの構築体は所望によりアミノ末端メチオニンをコードすることができる。細胞認識部分はそうした構築体の、PE保持ドメインをコードするヌクレオチド配列の中へと挿入することができる。
【0086】
2. 発現ベクター
本発明はまた、生物活性複合体を発現させるための発現ベクターを提供する。発現べたクーは、ポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列に発現調節配列を作動可能に連結させてなる組換えポリヌクレオチド配列である。発現ベクターは、mRNAの転写と翻訳のための適当なプロモーター、複製配列、マーカーなどを含めることにより、原核生物又は真核生物中で機能するように改造することができる。発現ベクターの構築とそれを導入した細胞内での遺伝子の発現には、やはり当業界で周知の分子クローニング手法を用いる。Sambrook 他「MOLECULAR CLONING - A LABORATORY MANUAL」Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)及びCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, F.M. Ausubel 他編、(Current Protocols; Greene Publishing Associates, Inc.とJohn Wiley & Sons, Inc.の共同出資会社)。そうした目的のための有用なプロモーターは、メタロチオネインプロモーター、構成的アデノウィルス主要後期プロモーター、デキサメタゾン誘導性MMTVプロモーター、SV40プロモーター、MRP polIII プロモーター、構成的MPSVプロモーター、テトラサイクリン誘導性CMVプロモーター(ヒト前初期CMVプロモーターなど)、及び構成的CMVプロモーターなどである。遺伝子治療に有用なプラスミドは他の機能要素、たとえば、選択マーカー、識別領域及び他遺伝子を含むことができる。
【0087】
本発明に有用な発現ベクターは所期の用途次第である。その種の発現ベクターはもちろん、宿主細胞と適合しうる発現及び複製シグナルを含まなければならない。生物活性複合体の発現に有用な発現ベクターはレトロウィルス、アデノウィルス及びアデノ随伴ウィルスなどのようなウィルスベクター、プラスミドベクター、コスミドなどである。哺乳動物細胞へのトランスフェクションにはウィルスベクターとプラスミドベクターが好ましい。発現ベクターpcDNA1 (Invitrogen, San Diego, CA)は発現調節配列にCMVプロモーターを含むものであり、トランスフェクション及び発現率が高い。本発明の遺伝子治療法にはアデノ随伴ウィルスベクターが有用である。
【0088】
細胞にポリヌクレオチドを導入する手段は多様であり、たとえば細胞による溶液からの分子の直接取込み、(リポソームやイムノリポソームなどを使用する)リポフェクションによる促進取込み、粒子仲介トランスフェクション、及び抑制性ポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列へと作動可能に連結された発現調節配列をもつ発現カセットからの細胞内発現などがある。米国特許第5,272,065号(Inouye 他.);「METHODS IN ENZYMOLOGY」 vol. 185, Academic Press, Inc., San Diego, CA (D.V. Goeddel, ed.)(1990)又はM. Krieger「GENE TRANSFER AND EXPRESSION - A LABORATORY MANUAL」Stockton Press, New York, NY (1990)をも参照。また、組換えDNA発現プラスミドを用いて、本発明のポリヌクレオチドを遺伝子治療以外の手段によって導入することを目的に調製することができる。ただし、短いオリゴヌクレオチドならインビトロ化学合成によって調製するほうが経済的であろう。
【0089】
構築体にはタンパク質の単離を容易にするためのタグを入れることもできる。たとえば、タンパク質のアミノ末端に6ヒスチジン残基からなるポリヒスチジンタグを組み込むことができる。ポリヒスチジンタグはNiキレートクロマトグラフィーによる便利なワンステップタンパク質単離を可能にする。
【0090】
3. 組換え細胞
本発明はまた、本発明のキメラ免疫原をコードするヌクレオチド配列を発現させるための発現ベクターを含む組換え細胞を提供する。タンパク質を精製するには高発現レベルの宿主細胞を選択することができる。細胞は大腸菌(E. coli)などのような原核細胞でも真核細胞でもよい。有用な真核細胞は酵母細胞や哺乳動物細胞などである。細胞はたとえば培養組換え細胞でもインビボ細胞でもよい。
【0091】
PE複合体の産生への大腸菌の使用はすでに成功している。この細胞ではタンパク質の折りたたみもジスルフィド結合も可能である。
【0092】
B. 化学合成
本発明の融合タンパク質のような長いポリペプチドは新しい方法で化学的に合成することができる。そうした方法の1つはW. Lu 他「Federation of European Biochemical Societies Letters.」429:31-35 (1989)に記載されている。
【0093】
また、本発明の複合体は融合タンパク質してではなく、種々の機能部分を化学結合させた化学複合体として調製することもできる。化学結合の方法は当業界で周知である。
【0094】
シュードモナス属外毒素複合体の諸部分を化学結合させる方法は複合体の化学構造に応じて異なろう。抗体類はスルフヒドリル基(-S)、カルボキシル基(-COOH)又は遊離アミノ基(-NH2)などの多様な官能基を含み、それらが複合体上の適当な官能基との反応に利用される。それに加えて、又はその代わりに、追加の反応性基を露出又は付加するように抗体又はシュードモナス属外毒素複合体を誘導体化することもできる。この誘導体化は、任意の数のリンカー分子たとえばPierce Chemical Company (Rockford, Illinois)から市販されているようなリンカー分子の付加を伴う場合もあろう。
【0095】
シュードモナス属外毒素複合体上の基と反応する官能基と細胞特異的リガンドと反応する別の官能基とをもつ二官能性リンカーを使用すれば、所望の複合体を形成することができる。あるいは、誘導体化がシュードモナス属外毒素複合体又は細胞特異的リガンドの化学処理、たとえば過ヨウ素酸塩による糖タンパク質抗体の糖部分のグリコール開裂とその結果としての遊離アルデヒド基の生成を伴う場合もあろう。抗体上の遊離アルデヒド基は抗体上の遊離アミノ基又はヒドラジン基と反応し、シュードモナス属外毒素複合体をそれに結合させよう(米国特許第4,671,958号[J.D. Rodwell 他.]を参照)。抗体又は他タンパク質上に遊離スルフヒドリル基を生成させる方法も技術上周知である(米国特許第4,659,839号(R.A. Nicoletti 他)を参照)。
【0096】
一実施態様では、PE部分の誘導体化は活性基をもつアミノ酸残基たとえばリシン、アルギニン又はシステインを該分子のカルボキシル又はアミノ末端に付加することによって行う。該残基が活性アミノ基を含むときは、細胞認識部位又は活性部分をリシン上のアミノ基と反応する二官能性リンカーによって連結することができる。システインの場合には、硫黄原子をPE部分と細胞認識部分又は活性部分との間のジスルフィド結合の土台に用いることができる。
【0097】
IV. 生物活性複合体の試験
PE複合体の諸部分として種々の構造を選択したら、これら諸部分の、又は全体としての複合体の機能を試験してその機能性を検出することができる。生物活性複合体は慣用の試験方法により、細胞認識、上皮細胞層を横断する移行、及び活性部分の生物活性を試験することができる。全体としてのキメラタンパク質の試験、又はさまざまなドメインの機能の試験は、それらのドメインを野生型毒素の天然ドメインと入れ替えることにより行うことができる。
【0098】
A. 受容体結合/細胞認識
細胞結合ドメインの機能は、単離された又は細胞表面上の標的受容体に対する複合体の結合能として試験することができる。
【0099】
一試験法では、アフィニティークロマトグラフィーにより標的受容体に対する複合体の結合を調べる。たとえば、複合体をアフィニティーカラム中のマトリックスに付着させ、マトリックスに対する受容体の結合を検出することができる。
【0100】
細胞上受容体に対する複合体の結合は、たとえば複合体を標識し、細胞に対するその結合能を蛍光セルソーティングやオートラジオグラフィーなどにより検出するという方法で試験することができる。
【0101】
細胞認識部分の由来であるリガンドに結合する抗体がすでに同定されている場合には、それらの抗体を利用して、キメラ免疫原中の細胞認識部分の存在を免疫検定法で、又は同系受容体に関する競合検定法で検出することもできる。
【0102】
B. 基底面への移行
PE部分の機能は、上皮細胞層を横断して移行する複合体の能力から試験することができる。全身への到達は細胞との結合が前提となるので、これらの検定法は細胞認識部位の機能を調べる方法としても有効である。移行能の試験はインビトロ、インビボのいずれでもよい。
【0103】
一試験法では、サイトゾルへの到達を、サイトゾル中の複合体の物理的存在を検出することにより決定する。たとえば、複合体を標識してから細胞に接触させる。次にサイトゾル画分を単離し画分中の標識量を測定する。画分中に標識が検出されれば、複合体はサイトゾルに到達していることを意味する。
【0104】
別の試験法では、インビトロ培養膜を使用して膜横断的な移行能を調べる。van Deurs 他「Europ. J. Cell Biol.」1990, 51:96は極性上皮細胞のモデル系について記載している。同モデル系ではMDCK細胞を浸透膜上にまく。本発明の複合体はこのモデルを使用して、複合体を浸透膜の頂面上に膜と接触させて載せ、次いで複合体が透過したかどうかを膜の反対側で調べることにより試験することができる。
【0105】
別の試験法では、試験動物の粘膜表面に複合体を適用し、全身又は基底面における複合体の存在を検出する。
【0106】
C. 生物活性部分の活性
活性部分の機能もまた試験することができる。インビトロ試験法では、複合体に取り付けた生物活性部分の活性を該部分の種類に応じた任意の既定検定法で調べることができる。たとえば、該部分が酵素であれば、酵素活性検定法を用いる。該部分がサイトカインであれば、その活性を、細胞活性を変化させるサイトカインの能力に関する任意の既定検定法で調べることができる。
【0107】
複合体がプロテアーゼ開裂可能部位を含む場合には、複合体から活性部分を開裂させる標的酵素の能力を調べ、次いで該部分の活性を前述の要領で調べることができる。
【0108】
生物活性部分の活性は、複合体が上皮細胞層を横断的に通過した後に試験して、複合体がなお活性を保持しているかを調べてもよい。インビトロ試験法では、前述の上皮細胞層モデルを使用してもよい。その場合は、上皮細胞層を通過させてから収集した複合体について活性部分の活性を試験する。
【0109】
別の試験法では、活性をインビボで試験する。この試験法では、複合体をマウスなどの動物モデルの上皮細胞表面に適用し、次いで動物中の複合体の活性を試験する。
【0110】
V. 生物活性複合体の使用
本発明の生物活性複合体は注射によらずに、生物活性分子を全身に送達させる。したがって本発明の生物活性複合体は、体内にタンパク質を導入する必要がある任意の予防上又は治療上の処置、あるいは診断法に有用である。さらに、本発明の複合体は導入後に循環系に入るものの、粘膜下腔から体内に入るため、粘膜下腔内にある細胞や粘膜下腔を往来する細胞を標的にするうえで特に有効である。その種の細胞は、たとえば、リンパ節との往来がある免疫系細胞(リンパ球、マクロファージ、その他の白血球など)、神経細胞及び筋細胞である。
【0111】
本発明の複合体はタンパク質注射の必要性を除去するので、タンパク質医薬を治療薬とする慢性疾患の治療に特に有用である。本発明の複合体は、経粘膜投与であり注射ほど短時間には送達されないため、急性症状よりも慢性症状の治療に好ましい。たとえば糖尿病の治療では、複合体の活性部分にインスリンを含めることができる。多発性硬化症の治療なら活性部分はβインターフェロンとすることができる。放射線療法などに起因する赤血球欠損症の治療なら、活性部分はエリスロポエチンとすることができる。化学療法の際の(白血球産生の刺激による)感染症予防なら、活性部分は顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)とすることができる。肝炎又はヘルペス感染症の治療なら、活性部分はαインターフェロンとすることができる。血友病の治療なら、活性部分は因子VIIIなどの凝固因子とすることができる。成長異常の治療なら、又は脂肪のない筋量を増大させるなら、活性部分はヒト成長ホルモンとすることができる。造血を促進させるなら、活性部分は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)とすることができる。
【0112】
本発明の治療法では、生物活性部分は着目の標的細胞、たとえば、がん細胞上の抗原に結合する標的捕捉用部分を含む。生物活性部分はまた、標的細胞の増殖を阻害する又は標的細胞を殺すような毒性成分を含むであろう。
【0113】
別の実施態様では、本発明の生物活性複合体は診断薬として有用である。この場合、生物活性部分は診断用成分を含む。たとえば、診断用成分にはがん細胞などの標的細胞に結合するリガンドと検出可能部分とを含めることができる。一般に、画像診断用の視覚化には任意の慣用の方法を用いることができる。たとえば結合は磁気共鳴映像法(MRI)又は電子スピン共鳴法(ESR)で検出することができる。通常、撮像にはガンマ放出又は陽電子放出型の放射性同位体を使用しMRIには常磁性同位体を使用する。
【0114】
VI. 医薬組成物と送達方法
本発明の生物活性複合体は好ましくは医薬組成物として処置対象の粘膜表面に投与する。本発明の化合物はさまざまな方法での粘膜表面への投与に適した剤型とする。一般的な投与経路は経口、舌下、経鼻、経膣、経肛門などである。投与様式は嚥下、吸入または粘膜表面への局所適用などとすることができる。一般に、特定の投与様式に合った特定の剤型がある。見込まれる剤型は水溶液、固形製剤、エアゾール製剤など多様である。
【0115】
A. 経腸、非経口又は経粘膜投与用の水溶液
水溶液の例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス液、リンガー液、デキストロース/生理食塩水、グルコースなどの溶液である。組成物には、生理的条件の近似化又は安定性、外観、投与しやすさなどの改善に必要とされる製薬上許容しうる助剤、たとえば緩衝剤、張性調節剤、湿潤剤、洗剤などを加えることができる。添加剤には追加の有効成分、たとえば殺菌剤又は安定化剤などを含めることができる。たとえば水溶液には酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソネビタンモノラウレート又はオレイン酸トリエタノールアミンなどを加えることができる。これらの組成物は周知慣用の滅菌法で滅菌処理し、又は滅菌ろ過することができる。得られる水溶液はそのままで使用できるように包装してもよいし、凍結乾燥してもよいが、凍結乾燥製剤は滅菌水溶液と混合してから投与する。
【0116】
B. 経粘膜送達のための局所投与
全身性投与もまた経粘膜的手段によって行うことができる。経粘膜投与では、透過対象の隔膜に合った浸透剤を製剤に使用する。その種の浸透剤は当業界で周知であり、たとえば胆汁酸塩やフシジン酸誘導体などである。さらに、透過を助長する洗剤を使用してもよい。経粘膜投与はたとえば鼻内噴霧により、又は肛門又は膣用の座剤を用いて行うことができる。
【0117】
担体は、鉱物性、動物性及び植物性油又は合成油などを含む油類、たとえば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などから選択することができる。好適な製薬用賦形剤には、一般に安全視されている任意の物質たとえばでんぷん、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、マルトース、米、フラワー、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノールなどがある。
【0118】
局所投与では、賦形剤は、軟膏、クリーム、パウダー、ゲルなどの形にする。一実施態様では、経皮用賦形剤をDMSOとすることができる。
【0119】
C. 吸入による送達
吸入の場合、複合体は、好ましくはエアゾール、液体又は固体の形で投与する。エアゾール投与の場合、複合体は好ましくは界面活性剤や推進剤と共に微粒子の形で供給する。界面活性剤は薬剤が推進剤と不混和性である場合に必要となる。
【0120】
界面活性剤は好ましくは推進剤に可溶性である。そうした界面活性剤の代表は、炭素原子数6〜22の脂肪酸のエステル又は部分エステル、たとえば、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン酸及びオレイン酸と脂肪族多価アルコール又はその環式無水物、たとえば、エチレングリコール、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、マンニトール、ソルビトール、ソルビトールから誘導したヘキシトール無水物との反応によるもの、及びこれらのエステルのポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレン誘導体である。混合又は天然グリセリドなどのような混合エステルを使用してもよい。組成物中の界面活性剤の含量は0.1質量%〜20質量%とすることができるが、好ましくは0.25質量%〜5質量%である。
【0121】
組成物の残りの成分は通常、推進剤である。液化推進剤は一般に常温で気体であるため、加圧液化してある。好適な液化推進剤は炭素原子数5以下の低級アルカン、たとえばブタンやプロパンなどであり、好ましくはフッ素化又はフルオロ塩素化アルカンである。以上の物質の混合物を使用してもよい。エアゾールを生産する際には、溶液又は微粒子としての薬剤と界面活性剤を入れた適当な弁付き容器に、然るべき推進剤を充填する。後は内容物を、弁の操作で放出されるときまで高圧で維持する。
【0122】
吸引用のネブライザー又はエアゾール装置では一般に、1回の吸引で約1〜50mgの化合物が投与される。
【0123】
D. その他の剤型
本発明の医薬組成物の調製では、本発明の複合体に手を加えて、その薬物動力学と生体内分布を変えるようにするのが望ましい場合もある。薬物動力学の概論について、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE」(上掲)Chapter 37-39を参照。薬物動力学と生体内分布を変えるには多数の方法が当業者に周知である。たとえば、タンパク質、脂質(リポソームなど)、炭水化物、合成高分子などのような物質からなる小胞に複合体を入れて保護する方法などである。
【0124】
VII . 投与
医薬組成物は主治医が決める投薬量及び形態で単回又は複数回投与することができる。いずれにせよ、組成物は患者を効果的に治療するに足る量の化合物を与えるものでなければならない。
【0125】
本発明の複合体は任意の利用可能な粘膜表面に投与することができる。これにはたとえば、呼吸器系(たとえば鼻又は肺)、胃腸系(たとえば口、腸、直腸又は肛門)、生殖器系(たとえば膣又は尿道)などの上皮表面、又は他の任意の上皮表面たとえば脂腺、耳及び目などが含まれる。
【0126】
本発明の化合物は全有効量を単回投与してもよいし、また分割治療プロトコールに従って投与してもよいが、後者の場合、複数回投与がより長期間にわたって行われる。当業者は、ある患者に有効量を投与するうえで必要となる本発明の化合物の濃度がその患者の年齢や全般的な健康状態、投与経路、投与回数、及び処方医の判断など多数の要因に左右されることを知るであろう。当業者はこれの要因を考慮して、特定の用途に応じた有効量を与えるように用量を調節することになろう。
【0127】
一般に、複合体の投与量は約10mg〜100mgであろう。水溶液の場愛、複合体の量は約1mg/ml〜約100mg/ml、もっと好ましくは約10mg/mlとすることができる。本発明の生物活性複合体は上皮細胞の受容体に結合することにより全身に到達する。したがって、粘膜表面に適用される複合体の最適量は受容体を飽和させるに足る量である。これを超える量を適用しても到達速度は何ら上昇しないであろう。
【0128】
本発明は新規の生物活性複合体及びそれらの複合体を使用してタンパク質を注射によらずに非経口投与する方法を提供する。種々の具体例を示したが、以上の説明は限定ではなく例示が目的である。本明細書を検討すれば当業者には本発明の数多くの変形が自明となろう。したがって、本発明の範囲は以上の説明から決定されるべきではなく、添付の請求項並びにその全範囲にわたる相当物から決定されるべきである。
【0129】
本願で引用した諸々の出版物及び特許文献は参照指示によりそれらの全体が諸々の目的のために、あたかも各出版物又は特許文献が個別にその旨を表示されたかのように、本願に組み込まれる。出願人は種々の参考資料を本願で引用したが、それをもっていずれか特定の参考資料が本発明の「先行技術」であることを認めるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性部分を極性上皮細胞層を横断して輸送する方法であって、 (1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分および (2) 生物活性部分を含み、該生物活性部分は (a) 受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、 (b) 単独では免疫反応を誘導する免疫原として機能せず、また (c) ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする生物活性複合体を該細胞層の頂面に投与することを含む方法。
【請求項2】
生物有機分子がポリペプチドである請求項1の方法。
【請求項3】
上皮細胞層がインビトロ培養膜である請求項2の方法。
【請求項4】
上皮細胞層が対象哺乳動物の粘膜表面である請求項2の方法。
【請求項5】
哺乳動物が人間である請求項4の方法。
【請求項6】
細胞認識部分がα2ミクログロブリンに結合する抗体を含む請求項4の方法。
【請求項7】
細胞認識部分がシュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIaのうちの、α2ミクログロブリンに結合するに足る部分を含む請求項4の方法。
【請求項8】
細胞認識部分がシュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIaを含み、また複合体がPEのドメインIIをさらに含む請求項4の方法。
【請求項9】
複合体が (a) シュードモナス属外毒素A (PE)ドメインIa、及び (b) 極性上皮細胞層の頂面から基底面への移行を引き起こすに足るPE部分を含むPE複合体であって、該PE部分はPEドメインII、リボシル化活性をもたないPEドメインIII の少なくとも一部分、及び所望によりPEドメインIbを含み、また生物活性部分がポリペプチドを含むことを特徴とする請求項4の方法。
【請求項10】
粘膜表面が呼吸器系の粘膜表面である請求項4の方法。
【請求項11】
粘膜表面が胃腸系の粘膜表面である請求項4の方法。
【請求項12】
粘膜表面が生殖器系の粘膜表面である請求項4の方法。
【請求項13】
生物活性部分が抗体、レクチン、DNA結合性タンパク質又は脂質結合性タンパク質を含むポリペプチドを含んでなる請求項4の方法。
【請求項14】
生物活性部分が対象哺乳動物の細胞表面受容体に対応するリガンドを含むポリペプチドを含んでなる請求項4の方法。
【請求項15】
生物活性部分が酵素を含むポリペプチドを含んでなる請求項4の方法。
【請求項16】
生物活性部分がインスリン、インターフェロン、成長ホルモン又はエリスロポエチンを含むポリペプチドを含んでなる請求項4の方法。
【請求項17】
生物活性部分が第二ポリペプチド、炭水化物、脂質又は核酸に結合したポリペプチドリガンドを含んでなる請求項4の方法。
【請求項18】
生物活性部分がポリペプチドを含み、また複合体が細胞認識部位を該ポリペプチドに融合させてなる融合タンパク質を含む請求項4の方法。
【請求項19】
細胞認識部分とPE部分がPE (配列番号2)のアミノ酸1〜470を含む請求項18の方法。
【請求項20】
PE部分がPE (配列番号2)のアミノ酸253〜470又はアミノ酸280〜470を含む請求項18の方法。
【請求項21】
融合タンパク質がプロテアーゼによって認識される開裂部位を含み、該部位での開裂により融合タンパク質から生物活性部分が放出されることを特徴とする請求項18の方法。
【請求項22】
プロテアーゼが膜の基底面に局在化しているプロテアーゼである請求項21の方法。
【請求項23】
複合体が該複合体と製薬上許容しうる担体とを含んでなる製剤組成物の形で投与される請求項4の方法。
【請求項24】
担体が粉末又は水溶液である請求項23の方法。
【請求項25】
組成物がドロップ剤、噴霧剤又はカプセル剤として製剤化される請求項23の方法。
【請求項26】
複合体が、細胞認識部分、PE部分及びポリペプチド部分を構成要素とする単一ポリペプチドとしての融合タンパク質を含む請求項23の方法。
【請求項27】
1μg〜1000mgの複合体を投与することを含む請求項4の方法。
【請求項28】
膜上のPE受容体を飽和させるに足る量の複合体を投与することを含む請求項4の方法。
【請求項29】
生物活性複合体であって (1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分および (2) 生物活性部分を含み、該生物活性部分は (a) 受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、 (b) 単独では免疫反応を誘導する免疫原として機能せず、また (c) ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする生物活性複合体。
【請求項30】
極性上皮細胞層の頂面から基底面への移行を引き起こすに足るPE部分をさらに含む生物活性複合体であって、該PE部分がPEドメインII、PEドメインIII 及び所望によりPEドメインIbに由来する配列を含むことを特徴とする請求項29の生物活性複合体。
【請求項31】
生物有機分子がポリペプチドである請求項29の生物活性複合体。
【請求項32】
細胞認識部分を生物活性部分と結合するプロテアーゼによる開裂が可能なアミノ酸配列をさらに含む生物活性複合体であって、該アミノ酸配列の開裂により複合体から生物活性部分が放出されることを特徴とする請求項29の生物活性複合体。
【請求項33】
極性上皮細胞層の頂面から基底面への移行を引き起こすに足るPE部分をさらに含む生物活性複合体であって、該PE部分がPEドメインII、PEドメインIII 及び所望によりPEドメインIbに由来する配列と、ドメインIII と生物活性部分の間に配置された、プロテアーゼによる開裂が可能なアミノ酸配列とを含み、該アミノ酸配列の開裂により複合体から生物活性部分が放出されることを特徴とする請求項30の生物活性複合体。
【請求項34】
製薬上許容しうる担体と (1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分および (2) 生物活性部分を含み、該生物活性部分は (a) 受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、 (b) 単独では免疫反応を誘導する免疫原として機能せず、また (c) ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする生物活性とを含み、局所投与用に調剤される医薬組成物。
【請求項35】
融合タンパク質複合体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、該融合タンパク質が (1) α2マクログロブリン受容体(α2-MR)に結合する細胞認識部分と結合した (2) 生物活性部分を含み、該生物活性部分は (a) 受容体結合性、サイトカイン活性、酵素活性、ホルモン活性、インターロイキン活性、神経伝達活性、転写又は翻訳の調節、及び生物有機分子に対する親和性から選択される生物活性をもち、 (b) 単独では免疫反応を誘導する免疫原として機能せず、また (c) ADPリボシル化活性をもたないことを特徴とする核酸。
【請求項36】
複合体が極性上皮細胞層の頂面から基底面への移行を引き起こすに足るPE部分をさらに含み、該PE部分がPEドメインII、PEドメインIII 及び所望によりPEドメインIbに由来する配列を含むことを特徴とする請求項35の核酸。
【請求項37】
複合体をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む請求項35の核酸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−51939(P2012−51939A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−254351(P2011−254351)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【分割の表示】特願2001−532809(P2001−532809)の分割
【原出願日】平成12年10月18日(2000.10.18)
【出願人】(596022754)アメリカ合衆国 (6)
【出願人】(501443928)ジェネンテック,インコーポレイティド (9)
【Fターム(参考)】