極性媒体との親和性に優れた銀微粉および銀インク並びに銀粒子の製造方法
【課題】親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体に対して親和性(すなわち分散性)が良好な銀ナノ粒子を提供する。
【解決手段】不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンA(例えばオレイルアミン)に被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる、極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法。前記有機化合物Bは、サリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上が好適な対象となる。
【解決手段】不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンA(例えばオレイルアミン)に被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる、極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法。前記有機化合物Bは、サリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上が好適な対象となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質に被覆された銀ナノ粒子からなる極性媒体との親和性に優れた銀微粉および銀インク、並びに極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法に関する。なお、本明細書においては、粒子径が40nm以下の粒子を「ナノ粒子」と呼び、ナノ粒子で構成される粉体を「微粉」と呼んでいる。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今ではナノテクノロジーの進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に実施できるようになってきた。
【0003】
特許文献1には酸化銀を出発材料として、アミン化合物を用いて銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。また、特許文献2にはアミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストを作成することが記載されている。特許文献4には液中での分散性が極めて良好な銀ナノ粒子を製造する技術が開示されている。一方、特許文献3には有機保護材Aで保護した金属ナノ粒子が存在する非極性溶媒に、金属粒子との親和性の良いメルカプト基等の官能基を持つ有機保護材Bが溶解した極性溶媒を加えて、撹拌混合することにより、金属ナノ粒子の保護材をAからBに交換する手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【特許文献3】特開2006−89786号公報
【特許文献4】特開2007−39718号公報
【非特許文献1】中許昌美ほか、「銀ナノ粒子の導電ペーストへの応用」、化学工業、化学工業社、2005年10月号、p.749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀ナノ粒子の表面は有機保護材により被覆されているのが通常である。この保護材は銀粒子合成反応時に粒子同士を隔離する役割を有する。したがって、ある程度分子量の大きいものを選択することが有利である。分子量が小さいと粒子間距離が狭くなり、湿式の合成反応では反応中に焼結が進んでしまう場合がある。そうなると粒子が粗大化し銀微粉の製造が困難になる。
【0006】
一方、銀ナノ粒子をインク(本明細書では液状のものに限らず、ある程度粘性の高い有機媒体に銀粒子を分散配合させたペースト状のものも「インク」と称する)として利用する場合には、用途に応じて適切な有機媒体を選択することが望ましい。最近では特に、親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体を使用するニーズが高まっている。そのような有機媒体は、横軸に有機性(親油性)、縦軸に無機性(親水性)をとった有機概念図において、右上のほうに位置するものが該当する。例えば、実用性をも加味すると、テキサノール(C12H24O3)、テルピネオール(C10H18O)などが例示される。これらは極性有機化合物である。
【0007】
しかしながら、そのような性質の有機媒体に分散可能な銀微粉はこれまでに知られていない。銀微粉は、粒子表面を覆う保護材(界面活性剤)の種類によって適用可能な分散媒体の種類が大きく制限される。従来、製造上の制約などから、保護材の種類に対する選択の自由度は非常に小さく、用途に応じて適切な保護材を選択することは極めて困難な状況にある。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑み、特に、親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体に対して親和性(すなわち分散性)が良好な銀ナノ粒子を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、サリチル酸(C7H6O3)、没食子酸(C7H6O5)、ひまし油、コール酸(C24H40O5)、リシノール酸(C18H34O3)の1種以上を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉が提供される。
【0010】
サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基を有する物質であり、C6H4(OH)−COOHと表すことができる。没食子酸は、3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸であり、C6H2(OH)3−COOHと表すことができる。リシノール酸は、CH3(CH2)5−CH(OH)−CH2CH=CH(CH2)7−COOHと表すことができる。ひまし油は、リシノール酸(C18H34O3)のトリグリセリドを約90%含有し、その他の成分としてオレイン酸(C18H34O2)、リノール酸(C18H32O2)のグリセリドと少量の飽和脂肪酸のグリセリドを成分にもつ油脂である。コール酸は、胆汁酸の一種として知られている物質である。これらの有機化合物はいずれもカルボキシル基(親水性)を有しており、カルボキシル基の部分でAg粒子表面に吸着すると考えられる。
【0011】
また本発明では、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、テキサノール中あるいはテルピネオール中に分散している銀インクが提供される。当該有機化合物としては、例えばサリチル酸(C7H6O3)、没食子酸(C7H6O5)、ひまし油、コール酸(C24H40O5)、リシノール酸(C18H34O3)が例示され、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を複合して使用しても良い。
【0012】
また極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法として、本発明では、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる工程を有する製造方法が提供される。上記アミンAとしてはオレイルアミン(C9H18=C9H17−NH2、分子量約267)が好適な対象として例示できる。また、有機化合物Bとしては、例えばサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸が例示され、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を複合して使用しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テキサノールやテルピネオールといった、親水性と親油性の両方を兼ね備えた有機媒体に対して優れた分散性を示す銀ナノ粒子が提供可能になった。この銀ナノ粒子で構成される銀微粉は、種々の用途での使用が期待される。一例を挙げると、ミクロンオーダーの粒径を有する一般的な銀粉に、ナノ粒子からなる銀微粉を混合して混合銀粉にすると、全体としての焼結温度が大幅に低下すると考えられる。しかし、一般的な銀粉が使用される極性溶媒中で高い分散性を示す銀ナノ粒子が存在しなかったことから、そのような混合銀粉を得ることは従来極めて困難であった。本発明の銀微粉を用いるとそのような混合銀粉の調製が容易になり、焼結温度を大幅に低下させた極めてコストパフォーマンスの高い銀インクの製造が可能になると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従来、銀ナノ粒子の製造においては、製造上の制約から、保護材(界面活性剤)の種類を自由に選択することはできなかった。ところが、後述する方法に従えば、保護材の種類に対する選択の自由度をかなり拡大させることが可能になり、これまで存在しなかった種々の銀ナノ粒子を得ることができた。そして、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、テキサノールあるいはテルピネオールといった親水性と親油性の両方を兼ね備えた有機媒体中に分散している新規な銀インクが実現された。
【0015】
テキサノールやテルピネオールなどの親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体に対する銀ナノ粒子の分散性を顕著に向上させる保護材物質(界面活性剤)として、サリチル酸、没食子酸、ひまし油成分、コール酸、リシノール酸などが例示できることが明らかになった。これらの有機化合物はカルボキシル基を有しており、銀粒子の表面に吸着されやすい性質を持っている。
【0016】
このような銀ナノ粒子は、例えば「銀粒子合成工程」および「保護材置換工程」を経て得ることができる。以下、その代表的な方法を例示する。
【0017】
《銀粒子合成工程》
特許文献4に開示されるような湿式工程により、粒径の揃った銀ナノ粒子を合成することができる。この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。ところが、発明者らのその後の研究によれば、より大量生産に適した合成法が見出され、本出願人は特願2007−264598に開示した。これは、銀化合物を1級アミンと2−オクタノールの混合液中に溶解させ、これを120〜180℃に保持することにより2−オクタノールの還元力を利用して銀粒子を析出させるものである。ここでは、この新たな合成法を簡単に例示する。
【0018】
銀イオン供給源として銀化合物(例えば硝酸銀)、析出した銀粒子の保護材として1級アミンA(不飽和結合を持つ分子量200〜400のもの、例えばオレイルアミン)、および溶媒成分であるともに還元剤でもある2−オクタノールを用意する。
【0019】
所定量の1級アミンA、2−オクタノールおよび銀化合物を混合して、アミンAと2−オクタノールとの混合溶媒中に銀化合物が溶解している溶液を作成する。還元反応開始時の液組成が下記(i)〜(iii)を同時に満たすことが好適である。
(i)アミンA/銀のモル比:1〜5、
(ii)2−オクタノール/銀のモル比:0.5〜3、
(iii)2−オクタノール/アミンAのモル比:0.5〜2
【0020】
液の昇温を開始して120〜180℃の温度範囲で保持する。120℃を下回る温度では還元反応の進行が進みにくいので高い還元率を安定して得ることが難しくなる。ただし、沸点を大きく超えないようにすることが肝要である。2−オクタノールの沸点は約178℃であり、180℃程度までは許容できる。125〜178℃の範囲とすることがより好ましい。大気圧下で実施することができ、反応容器の気相部を窒素ガス等の不活性ガスでパージしながら還流状態とすることが好ましい。撹拌は、あまり強く行わなくても銀ナノ粒子を析出させることができるが、反応容器のサイズが大きくなると、ある程度の撹拌は必要となる。2−オクタノールの場合、他のアルコール(例えばイソブタノール)を使用する場合に比べ、粒径の揃った銀粒子を合成する上で、撹拌強度の自由度が拡がる。なお、2−オクタノールは初めから必要な全量を混合しておいてもよいし、昇温途中または昇温後に混合してもよい。還元反応開始後に2−オクタノールを適宜添加(追加投入)しても構わない。上記温度範囲での保持時間を0.5時間以上確保することが望ましいが、上記(i)〜(iii)を満たす液組成の場合だと1時間程度で反応はほとんど終了に近づくものと考えられ、それ以上保持時間を長くしても還元率に大きな変化は見られない。通常、3時間以下の保持時間を設定すれば十分である。還元反応が進行して銀粒子が析出すると、アミンAで被覆された銀ナノ粒子が存在するスラリーが得られる。
【0021】
次いで、上記のスラリーから、デカンテーションや遠心分離によって固形分を回収する。回収された固形分は、1級アミンAを成分とする保護材に被覆された銀ナノ粒子を主体とするものである。
【0022】
上記の固形分には不純物が付着しているので、メタノールやイソプロパノールを用いた洗浄に供することが好ましい。
【0023】
以上のようにして、1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子を構成することができる。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた粒子の観察により求まる平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nm程度の範囲である。
【0024】
《保護材置換工程》
次に銀粒子に付着している保護材をアミンAから目的物質である有機化合物Bに付け替える操作を行う。本発明の銀粒子の製造方法はこの工程を採用するところに特徴がある。
有機化合物Bとしてカルボキシル基を有するものを適用する。カルボキシル基は銀に吸着しやすい性質を有する。上記のアミンAは不飽和結合を有する分子量200−400のアミンであり、銀に対する吸着力はカルボキシル基を持つ物質に比べ弱いと考えられる。したがって、アミンAに被覆された銀粒子の表面近傍に十分な量の有機化合物Bの分子が存在していると、銀表面からアミンAが脱着するとともに有機化合物Bが吸着しやすい状況となり、比較的容易に置換が進行する。
【0025】
ただし、この置換は溶媒中で進行するので、有機化合物Bは溶媒中に溶解していることが必要である。有機化合物Bは、テキサノールやテルピネオールといった極性媒体に対して親和力の高い性質のものが選択されるので、有機化合物Bを溶解させる溶媒としても極性溶媒が採用される。具体的にはイソプロパノール、メタノール、エタノール、デカリン等の溶媒のうち、溶解性のよいものを選択すればよい。イソプロパノールに良く溶解する有機化合物Bの場合は、コスト的にイソプロパノールを選択することが有利となる場合が多い。有機化合物Bが溶解している上記のような極性溶媒Cの中に、アミンAに被覆された銀ナノ粒子を存在させ、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌する。30℃より低温では置換が進行しにくい。極性溶媒Cにイソプロパノールを使用する場合だと、35〜80℃の範囲で行うことが好ましい。アミンAに被覆された粒子は一般に極性溶媒Cに対する分散性が悪く、液中で沈降しやすいので撹拌しなければならないが、あまり強く撹拌する必要はなく、粒子が液中に浮遊した状態を維持できる程度でよい。
【0026】
アミンAとカルボキシル基をもつ有機化合物Bの置き換え反応は、数分程度の比較的短時間で起きていると考えられるが、工業的に安定した品質のものを供給するという観点から、1時間以上の置き換え反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても更なる置き換え反応はあまり進行しないので、24時間以内で置き換え反応を終了させるのが実用的である。置換に要する反応時間は1〜7時間の範囲で設定することが好ましい。
【0027】
具体的には、予め有機化合物Bを極性溶媒Cに完全に溶解させた液を作成し、この液と、固形分として回収されたアミンAが付着している銀ナノ粒子とを1つの容器に収容し、撹拌混合すればよい。有機化合物Bが常温で液体である場合、本明細書でいう「有機化合物Bが溶解している極性溶媒C」とは、有機化合物Bが極性溶媒Cの中で分離することなく両者が均一に混ざり合っている状態を意味する。粒子中の金属Agに対する有機化合物Bの当量B/Agは、0.5〜10当量とすることが好ましい。ここで、Ag1モルに対し、有機化合物Bのカルボキシル基1個が1当量に相当する。極性溶媒Cの液量は銀ナノ粒子が液中を浮遊するに足る量が確保される範囲で設定すればよい。
【0028】
このようにして有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させたのち、固液分離を行い、例えば「分離回収された固形分に洗浄液(例えばメタノールやイソプロパノール)を添加して超音波分散を加えた後、液を遠心分離して固形分を回収する」という操作を数回繰り返すことにより、付着している不純物を洗浄除去することが好ましい。洗浄後の粒子は、X線結晶粒子径Dxが1〜40nm好ましくは1〜15nm、TEM観察により測定される平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nmといった銀ナノ粒子であり、表面には有機化合物Bを吸着させてなる界面活性剤を有している。洗浄後の固形分を、テキサノールやテルピネオールといった目的とする溶媒中に分散させることにより銀インクを得ることができる。
【実施例】
【0029】
《実施例1》
下記の方法で1級アミンAを保護材とする銀粒子を合成し、その後、保護材をアミンAから有機化合物Bに置換した。
本例では1級アミンAとしてオレイルアミン、有機化合物Bとしてサリチル酸をそれぞれ使用し、以下の工程に従った。
【0030】
〔銀粒子合成工程〕
オレイルアミン(和光純薬株式会社製特級試薬)、2−オクタノール(和光純薬株式会社製特級試薬)、硝酸銀結晶(関東化学株式会社製特級試薬)を用意した。
2−オクタノールと、オレイルアミンと、硝酸銀結晶を混合して、硝酸銀が完全に溶解した液を作成した。配合は以下のとおりである。
・オレイルアミン/銀のモル比=2.5
・アルコール/銀のモル比=2.0
・アルコール/オレイルアミンのモル比=2.0/2.5=0.8
【0031】
上記配合の液2000mLを準備し、還流器の付いた容器に移してオイルバスに載せ、140℃まで昇温速度0.5℃/minで昇温した。その後、プロペラにより100rpmで撹拌し、容器の気相部に窒素ガスを2000mL/minの流量で供給してパージしながら、還流状態で140℃に1時間保持した。その後、加熱を止め、冷却した。
【0032】
反応後のスラリー500gにイソプロパノール1700gを混合しプロペラにより400rpmで1時間撹拌し、その後、遠心分離により銀粒子を回収した。このようにして洗浄されたスラリー中にはアミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している。
【0033】
別途、これと同一の条件で作成した洗浄後のスラリーについて、少量の固形分サンプルを採取して、下記の要領でX線結晶粒子径Dxを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDxは約7nmであることが確認された。また、下記の要領で平均粒子径DTEMを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDTEMは約8nmであることが確認された。
また、上記と同一の条件で作成した洗浄後のスラリーから、オレイルアミンに被覆された置換前の銀微粉を回収し、昇温速度は10℃/minでTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図1に示す。図1において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
なお、このスラリー500g中には金属Ag:約1モルが存在することが別途測定により判っている。
【0034】
<X線結晶粒子径Dxの測定>
銀粒子の固形分サンプルをガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、Ag(111)面の回折ピークを用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
Dx=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただし、KはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
【0035】
<平均粒子径DTEMの測定>
銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。
【0036】
〔保護材置換工程〕
有機化合物Bとしてサリチル酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量138.1)、極性溶媒Cとしてイソプロパノール(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量60.1)を用意した。
サリチル酸153.59gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にサリチル酸を完全に溶解させた。この液127.99gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0037】
得られたスラリーを3000rpm×5minの遠心分離により固液分離し、その後メタノールを用いた洗浄を3回行い、最終的に遠心分離して洗浄後の固形分を得た。洗浄後の固形分を240℃で6時間真空乾燥させ、保護材置換後の銀微粉サンプルを得た。
この乾燥後のサンプルについて、前記の方法にてTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図2に示す。図1(置換前)と図2(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(サリチル酸)に置き換わったものと考えられる。図7にサリチル酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
【0038】
このサンプルについて上記の方法でX線結晶粒子径Dxおよび平均粒子径DTEMを測定したところ、Dxは6.00nm、DTEMは8.76nmであった。
DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.36nm、最大値Dmaxが14.21nmであった。粒子径の標準偏差をσDとするとき、「σD/DTEM×100」の値をCV値と呼ぶ。この銀微粉のCV値は19.4%であった。CV値が小さいほど銀粒子の粒径は均一化されていると言える。銀インクの用途ではCV値が40%以下であることが望ましく、15%以下のものは非常に粒子径が揃っており、種々の微細配線用途に極めて好適である。
【0039】
次に、テキサノールおよびテルピネオールに対する親和性を評価するために分散性試験を行った。テキサノール10gおよびテルピネオール10gをそれぞれビーカーに入れ、前記サンプル(真空乾燥後の銀微粉)0.5gを上記各ビーカーの液中に投入し、軽く撹拌して均一に分散させた後、常温で168時間静置させた後に、液の濁りや沈降凝集の発生の有無を目視確認することにより親和性を評価した。評価基準としては、168時間後に、粒子が完全に沈降してしまい上澄みが透明な状態になっているものは親和性が良好でないと判定し、168時間後でも粒子が沈降せずに上澄みがにごっている状態のものを親和性が良好であると判定した。その結果、テキサノール、テルピネオールいずれの場合も、良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてサリチル酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやく、親和性をに優れていることがわかった。
【0040】
《実施例2》
有機化合物Bを没食子酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量170.1)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、没食子酸78.83gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中に没食子酸を完全に溶解させた。この液478.83gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.5当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0041】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図3に示す。図1(置換前)と図3(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(没食子酸)に置き換わったものと考えられる。図8に没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
このサンプルについてのDxは6.58nm、DTEMは8.54nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが3.99nm、最大値Dmaxが13.73nmであり、この銀微粉のCV値は19.8%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材として没食子酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0042】
《実施例3》
有機化合物Bをひまし油に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。ひまし油は和光純薬株式会社製のものを使用した。
すなわち、保護材置換工程において、ひまし油261.77gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノールとひまし油を完全に溶解させた。この液661.77gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるようにひまし油の仕込量を調製してある。
【0043】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図4に示す。図1(置換前)と図4(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(ひまし油成分)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは6.06nmであり、DTEMは10.99nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.22nm、最大値Dmaxが15.23nmであり、この銀微粉のCV値は19.0%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてひまし油を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0044】
《実施例4》
有機化合物Bをコール酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量107.9)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、コール酸37.58gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にコール酸を完全に溶解させた。この液437.58gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0045】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図5に示す。図1(置換前)と図5(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(コール酸)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは5.90nmであり、DTEMは9.03nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが2.75nm、最大値Dmaxが16.73nmであり、この銀微粉のCV値は20.2%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてコール酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0046】
《実施例5》
有機化合物Bをリシノール酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量282.45)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、リシノール酸276.61gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にリシノール酸を完全に溶解させた。この液676.61gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0047】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図6に示す。図1(置換前)と図6(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(リシノール酸)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは6.04nmであり、DTEMは8.60nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.48nm、最大値Dmaxが13.96nmであり、この銀微粉のCV値は15.6%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてリシノール酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】オレイルアミンに被覆された保護材置換前の銀粒子についてのDTA曲線。
【図2】サリチル酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図3】没食子酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図4】ひまし油成分を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図5】コール酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図6】リシノール酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図7】サリチル酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図8】没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図9】ひまし油成分を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図10】コール酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図11】リシノール酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質に被覆された銀ナノ粒子からなる極性媒体との親和性に優れた銀微粉および銀インク、並びに極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法に関する。なお、本明細書においては、粒子径が40nm以下の粒子を「ナノ粒子」と呼び、ナノ粒子で構成される粉体を「微粉」と呼んでいる。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今ではナノテクノロジーの進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に実施できるようになってきた。
【0003】
特許文献1には酸化銀を出発材料として、アミン化合物を用いて銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。また、特許文献2にはアミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストを作成することが記載されている。特許文献4には液中での分散性が極めて良好な銀ナノ粒子を製造する技術が開示されている。一方、特許文献3には有機保護材Aで保護した金属ナノ粒子が存在する非極性溶媒に、金属粒子との親和性の良いメルカプト基等の官能基を持つ有機保護材Bが溶解した極性溶媒を加えて、撹拌混合することにより、金属ナノ粒子の保護材をAからBに交換する手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【特許文献3】特開2006−89786号公報
【特許文献4】特開2007−39718号公報
【非特許文献1】中許昌美ほか、「銀ナノ粒子の導電ペーストへの応用」、化学工業、化学工業社、2005年10月号、p.749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀ナノ粒子の表面は有機保護材により被覆されているのが通常である。この保護材は銀粒子合成反応時に粒子同士を隔離する役割を有する。したがって、ある程度分子量の大きいものを選択することが有利である。分子量が小さいと粒子間距離が狭くなり、湿式の合成反応では反応中に焼結が進んでしまう場合がある。そうなると粒子が粗大化し銀微粉の製造が困難になる。
【0006】
一方、銀ナノ粒子をインク(本明細書では液状のものに限らず、ある程度粘性の高い有機媒体に銀粒子を分散配合させたペースト状のものも「インク」と称する)として利用する場合には、用途に応じて適切な有機媒体を選択することが望ましい。最近では特に、親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体を使用するニーズが高まっている。そのような有機媒体は、横軸に有機性(親油性)、縦軸に無機性(親水性)をとった有機概念図において、右上のほうに位置するものが該当する。例えば、実用性をも加味すると、テキサノール(C12H24O3)、テルピネオール(C10H18O)などが例示される。これらは極性有機化合物である。
【0007】
しかしながら、そのような性質の有機媒体に分散可能な銀微粉はこれまでに知られていない。銀微粉は、粒子表面を覆う保護材(界面活性剤)の種類によって適用可能な分散媒体の種類が大きく制限される。従来、製造上の制約などから、保護材の種類に対する選択の自由度は非常に小さく、用途に応じて適切な保護材を選択することは極めて困難な状況にある。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑み、特に、親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体に対して親和性(すなわち分散性)が良好な銀ナノ粒子を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、サリチル酸(C7H6O3)、没食子酸(C7H6O5)、ひまし油、コール酸(C24H40O5)、リシノール酸(C18H34O3)の1種以上を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉が提供される。
【0010】
サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基を有する物質であり、C6H4(OH)−COOHと表すことができる。没食子酸は、3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸であり、C6H2(OH)3−COOHと表すことができる。リシノール酸は、CH3(CH2)5−CH(OH)−CH2CH=CH(CH2)7−COOHと表すことができる。ひまし油は、リシノール酸(C18H34O3)のトリグリセリドを約90%含有し、その他の成分としてオレイン酸(C18H34O2)、リノール酸(C18H32O2)のグリセリドと少量の飽和脂肪酸のグリセリドを成分にもつ油脂である。コール酸は、胆汁酸の一種として知られている物質である。これらの有機化合物はいずれもカルボキシル基(親水性)を有しており、カルボキシル基の部分でAg粒子表面に吸着すると考えられる。
【0011】
また本発明では、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、テキサノール中あるいはテルピネオール中に分散している銀インクが提供される。当該有機化合物としては、例えばサリチル酸(C7H6O3)、没食子酸(C7H6O5)、ひまし油、コール酸(C24H40O5)、リシノール酸(C18H34O3)が例示され、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を複合して使用しても良い。
【0012】
また極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法として、本発明では、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる工程を有する製造方法が提供される。上記アミンAとしてはオレイルアミン(C9H18=C9H17−NH2、分子量約267)が好適な対象として例示できる。また、有機化合物Bとしては、例えばサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸が例示され、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を複合して使用しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テキサノールやテルピネオールといった、親水性と親油性の両方を兼ね備えた有機媒体に対して優れた分散性を示す銀ナノ粒子が提供可能になった。この銀ナノ粒子で構成される銀微粉は、種々の用途での使用が期待される。一例を挙げると、ミクロンオーダーの粒径を有する一般的な銀粉に、ナノ粒子からなる銀微粉を混合して混合銀粉にすると、全体としての焼結温度が大幅に低下すると考えられる。しかし、一般的な銀粉が使用される極性溶媒中で高い分散性を示す銀ナノ粒子が存在しなかったことから、そのような混合銀粉を得ることは従来極めて困難であった。本発明の銀微粉を用いるとそのような混合銀粉の調製が容易になり、焼結温度を大幅に低下させた極めてコストパフォーマンスの高い銀インクの製造が可能になると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従来、銀ナノ粒子の製造においては、製造上の制約から、保護材(界面活性剤)の種類を自由に選択することはできなかった。ところが、後述する方法に従えば、保護材の種類に対する選択の自由度をかなり拡大させることが可能になり、これまで存在しなかった種々の銀ナノ粒子を得ることができた。そして、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、テキサノールあるいはテルピネオールといった親水性と親油性の両方を兼ね備えた有機媒体中に分散している新規な銀インクが実現された。
【0015】
テキサノールやテルピネオールなどの親水性と親油性の両方を高レベルで兼ね備えた有機媒体に対する銀ナノ粒子の分散性を顕著に向上させる保護材物質(界面活性剤)として、サリチル酸、没食子酸、ひまし油成分、コール酸、リシノール酸などが例示できることが明らかになった。これらの有機化合物はカルボキシル基を有しており、銀粒子の表面に吸着されやすい性質を持っている。
【0016】
このような銀ナノ粒子は、例えば「銀粒子合成工程」および「保護材置換工程」を経て得ることができる。以下、その代表的な方法を例示する。
【0017】
《銀粒子合成工程》
特許文献4に開示されるような湿式工程により、粒径の揃った銀ナノ粒子を合成することができる。この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。ところが、発明者らのその後の研究によれば、より大量生産に適した合成法が見出され、本出願人は特願2007−264598に開示した。これは、銀化合物を1級アミンと2−オクタノールの混合液中に溶解させ、これを120〜180℃に保持することにより2−オクタノールの還元力を利用して銀粒子を析出させるものである。ここでは、この新たな合成法を簡単に例示する。
【0018】
銀イオン供給源として銀化合物(例えば硝酸銀)、析出した銀粒子の保護材として1級アミンA(不飽和結合を持つ分子量200〜400のもの、例えばオレイルアミン)、および溶媒成分であるともに還元剤でもある2−オクタノールを用意する。
【0019】
所定量の1級アミンA、2−オクタノールおよび銀化合物を混合して、アミンAと2−オクタノールとの混合溶媒中に銀化合物が溶解している溶液を作成する。還元反応開始時の液組成が下記(i)〜(iii)を同時に満たすことが好適である。
(i)アミンA/銀のモル比:1〜5、
(ii)2−オクタノール/銀のモル比:0.5〜3、
(iii)2−オクタノール/アミンAのモル比:0.5〜2
【0020】
液の昇温を開始して120〜180℃の温度範囲で保持する。120℃を下回る温度では還元反応の進行が進みにくいので高い還元率を安定して得ることが難しくなる。ただし、沸点を大きく超えないようにすることが肝要である。2−オクタノールの沸点は約178℃であり、180℃程度までは許容できる。125〜178℃の範囲とすることがより好ましい。大気圧下で実施することができ、反応容器の気相部を窒素ガス等の不活性ガスでパージしながら還流状態とすることが好ましい。撹拌は、あまり強く行わなくても銀ナノ粒子を析出させることができるが、反応容器のサイズが大きくなると、ある程度の撹拌は必要となる。2−オクタノールの場合、他のアルコール(例えばイソブタノール)を使用する場合に比べ、粒径の揃った銀粒子を合成する上で、撹拌強度の自由度が拡がる。なお、2−オクタノールは初めから必要な全量を混合しておいてもよいし、昇温途中または昇温後に混合してもよい。還元反応開始後に2−オクタノールを適宜添加(追加投入)しても構わない。上記温度範囲での保持時間を0.5時間以上確保することが望ましいが、上記(i)〜(iii)を満たす液組成の場合だと1時間程度で反応はほとんど終了に近づくものと考えられ、それ以上保持時間を長くしても還元率に大きな変化は見られない。通常、3時間以下の保持時間を設定すれば十分である。還元反応が進行して銀粒子が析出すると、アミンAで被覆された銀ナノ粒子が存在するスラリーが得られる。
【0021】
次いで、上記のスラリーから、デカンテーションや遠心分離によって固形分を回収する。回収された固形分は、1級アミンAを成分とする保護材に被覆された銀ナノ粒子を主体とするものである。
【0022】
上記の固形分には不純物が付着しているので、メタノールやイソプロパノールを用いた洗浄に供することが好ましい。
【0023】
以上のようにして、1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子を構成することができる。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた粒子の観察により求まる平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nm程度の範囲である。
【0024】
《保護材置換工程》
次に銀粒子に付着している保護材をアミンAから目的物質である有機化合物Bに付け替える操作を行う。本発明の銀粒子の製造方法はこの工程を採用するところに特徴がある。
有機化合物Bとしてカルボキシル基を有するものを適用する。カルボキシル基は銀に吸着しやすい性質を有する。上記のアミンAは不飽和結合を有する分子量200−400のアミンであり、銀に対する吸着力はカルボキシル基を持つ物質に比べ弱いと考えられる。したがって、アミンAに被覆された銀粒子の表面近傍に十分な量の有機化合物Bの分子が存在していると、銀表面からアミンAが脱着するとともに有機化合物Bが吸着しやすい状況となり、比較的容易に置換が進行する。
【0025】
ただし、この置換は溶媒中で進行するので、有機化合物Bは溶媒中に溶解していることが必要である。有機化合物Bは、テキサノールやテルピネオールといった極性媒体に対して親和力の高い性質のものが選択されるので、有機化合物Bを溶解させる溶媒としても極性溶媒が採用される。具体的にはイソプロパノール、メタノール、エタノール、デカリン等の溶媒のうち、溶解性のよいものを選択すればよい。イソプロパノールに良く溶解する有機化合物Bの場合は、コスト的にイソプロパノールを選択することが有利となる場合が多い。有機化合物Bが溶解している上記のような極性溶媒Cの中に、アミンAに被覆された銀ナノ粒子を存在させ、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌する。30℃より低温では置換が進行しにくい。極性溶媒Cにイソプロパノールを使用する場合だと、35〜80℃の範囲で行うことが好ましい。アミンAに被覆された粒子は一般に極性溶媒Cに対する分散性が悪く、液中で沈降しやすいので撹拌しなければならないが、あまり強く撹拌する必要はなく、粒子が液中に浮遊した状態を維持できる程度でよい。
【0026】
アミンAとカルボキシル基をもつ有機化合物Bの置き換え反応は、数分程度の比較的短時間で起きていると考えられるが、工業的に安定した品質のものを供給するという観点から、1時間以上の置き換え反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても更なる置き換え反応はあまり進行しないので、24時間以内で置き換え反応を終了させるのが実用的である。置換に要する反応時間は1〜7時間の範囲で設定することが好ましい。
【0027】
具体的には、予め有機化合物Bを極性溶媒Cに完全に溶解させた液を作成し、この液と、固形分として回収されたアミンAが付着している銀ナノ粒子とを1つの容器に収容し、撹拌混合すればよい。有機化合物Bが常温で液体である場合、本明細書でいう「有機化合物Bが溶解している極性溶媒C」とは、有機化合物Bが極性溶媒Cの中で分離することなく両者が均一に混ざり合っている状態を意味する。粒子中の金属Agに対する有機化合物Bの当量B/Agは、0.5〜10当量とすることが好ましい。ここで、Ag1モルに対し、有機化合物Bのカルボキシル基1個が1当量に相当する。極性溶媒Cの液量は銀ナノ粒子が液中を浮遊するに足る量が確保される範囲で設定すればよい。
【0028】
このようにして有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させたのち、固液分離を行い、例えば「分離回収された固形分に洗浄液(例えばメタノールやイソプロパノール)を添加して超音波分散を加えた後、液を遠心分離して固形分を回収する」という操作を数回繰り返すことにより、付着している不純物を洗浄除去することが好ましい。洗浄後の粒子は、X線結晶粒子径Dxが1〜40nm好ましくは1〜15nm、TEM観察により測定される平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nmといった銀ナノ粒子であり、表面には有機化合物Bを吸着させてなる界面活性剤を有している。洗浄後の固形分を、テキサノールやテルピネオールといった目的とする溶媒中に分散させることにより銀インクを得ることができる。
【実施例】
【0029】
《実施例1》
下記の方法で1級アミンAを保護材とする銀粒子を合成し、その後、保護材をアミンAから有機化合物Bに置換した。
本例では1級アミンAとしてオレイルアミン、有機化合物Bとしてサリチル酸をそれぞれ使用し、以下の工程に従った。
【0030】
〔銀粒子合成工程〕
オレイルアミン(和光純薬株式会社製特級試薬)、2−オクタノール(和光純薬株式会社製特級試薬)、硝酸銀結晶(関東化学株式会社製特級試薬)を用意した。
2−オクタノールと、オレイルアミンと、硝酸銀結晶を混合して、硝酸銀が完全に溶解した液を作成した。配合は以下のとおりである。
・オレイルアミン/銀のモル比=2.5
・アルコール/銀のモル比=2.0
・アルコール/オレイルアミンのモル比=2.0/2.5=0.8
【0031】
上記配合の液2000mLを準備し、還流器の付いた容器に移してオイルバスに載せ、140℃まで昇温速度0.5℃/minで昇温した。その後、プロペラにより100rpmで撹拌し、容器の気相部に窒素ガスを2000mL/minの流量で供給してパージしながら、還流状態で140℃に1時間保持した。その後、加熱を止め、冷却した。
【0032】
反応後のスラリー500gにイソプロパノール1700gを混合しプロペラにより400rpmで1時間撹拌し、その後、遠心分離により銀粒子を回収した。このようにして洗浄されたスラリー中にはアミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している。
【0033】
別途、これと同一の条件で作成した洗浄後のスラリーについて、少量の固形分サンプルを採取して、下記の要領でX線結晶粒子径Dxを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDxは約7nmであることが確認された。また、下記の要領で平均粒子径DTEMを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDTEMは約8nmであることが確認された。
また、上記と同一の条件で作成した洗浄後のスラリーから、オレイルアミンに被覆された置換前の銀微粉を回収し、昇温速度は10℃/minでTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図1に示す。図1において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
なお、このスラリー500g中には金属Ag:約1モルが存在することが別途測定により判っている。
【0034】
<X線結晶粒子径Dxの測定>
銀粒子の固形分サンプルをガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、Ag(111)面の回折ピークを用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
Dx=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただし、KはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
【0035】
<平均粒子径DTEMの測定>
銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。
【0036】
〔保護材置換工程〕
有機化合物Bとしてサリチル酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量138.1)、極性溶媒Cとしてイソプロパノール(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量60.1)を用意した。
サリチル酸153.59gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にサリチル酸を完全に溶解させた。この液127.99gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0037】
得られたスラリーを3000rpm×5minの遠心分離により固液分離し、その後メタノールを用いた洗浄を3回行い、最終的に遠心分離して洗浄後の固形分を得た。洗浄後の固形分を240℃で6時間真空乾燥させ、保護材置換後の銀微粉サンプルを得た。
この乾燥後のサンプルについて、前記の方法にてTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図2に示す。図1(置換前)と図2(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(サリチル酸)に置き換わったものと考えられる。図7にサリチル酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
【0038】
このサンプルについて上記の方法でX線結晶粒子径Dxおよび平均粒子径DTEMを測定したところ、Dxは6.00nm、DTEMは8.76nmであった。
DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.36nm、最大値Dmaxが14.21nmであった。粒子径の標準偏差をσDとするとき、「σD/DTEM×100」の値をCV値と呼ぶ。この銀微粉のCV値は19.4%であった。CV値が小さいほど銀粒子の粒径は均一化されていると言える。銀インクの用途ではCV値が40%以下であることが望ましく、15%以下のものは非常に粒子径が揃っており、種々の微細配線用途に極めて好適である。
【0039】
次に、テキサノールおよびテルピネオールに対する親和性を評価するために分散性試験を行った。テキサノール10gおよびテルピネオール10gをそれぞれビーカーに入れ、前記サンプル(真空乾燥後の銀微粉)0.5gを上記各ビーカーの液中に投入し、軽く撹拌して均一に分散させた後、常温で168時間静置させた後に、液の濁りや沈降凝集の発生の有無を目視確認することにより親和性を評価した。評価基準としては、168時間後に、粒子が完全に沈降してしまい上澄みが透明な状態になっているものは親和性が良好でないと判定し、168時間後でも粒子が沈降せずに上澄みがにごっている状態のものを親和性が良好であると判定した。その結果、テキサノール、テルピネオールいずれの場合も、良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてサリチル酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやく、親和性をに優れていることがわかった。
【0040】
《実施例2》
有機化合物Bを没食子酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量170.1)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、没食子酸78.83gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中に没食子酸を完全に溶解させた。この液478.83gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.5当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0041】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図3に示す。図1(置換前)と図3(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(没食子酸)に置き換わったものと考えられる。図8に没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
このサンプルについてのDxは6.58nm、DTEMは8.54nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが3.99nm、最大値Dmaxが13.73nmであり、この銀微粉のCV値は19.8%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材として没食子酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0042】
《実施例3》
有機化合物Bをひまし油に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。ひまし油は和光純薬株式会社製のものを使用した。
すなわち、保護材置換工程において、ひまし油261.77gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノールとひまし油を完全に溶解させた。この液661.77gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるようにひまし油の仕込量を調製してある。
【0043】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図4に示す。図1(置換前)と図4(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(ひまし油成分)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは6.06nmであり、DTEMは10.99nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.22nm、最大値Dmaxが15.23nmであり、この銀微粉のCV値は19.0%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてひまし油を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0044】
《実施例4》
有機化合物Bをコール酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量107.9)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、コール酸37.58gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にコール酸を完全に溶解させた。この液437.58gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0045】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図5に示す。図1(置換前)と図5(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(コール酸)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは5.90nmであり、DTEMは9.03nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが2.75nm、最大値Dmaxが16.73nmであり、この銀微粉のCV値は20.2%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてコール酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【0046】
《実施例5》
有機化合物Bをリシノール酸(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量282.45)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、リシノール酸276.61gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中にリシノール酸を完全に溶解させた。この液676.61gを、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後のスラリーに添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は1当量となるように有機化合物Bの仕込量を調製してある。
【0047】
得られた乾燥後のサンプルについてのDTA曲線を図6に示す。図1(置換前)と図6(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(リシノール酸)に置き換わったものと考えられる。
このサンプルについてのDxは6.04nmであり、DTEMは8.60nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが5.48nm、最大値Dmaxが13.96nmであり、この銀微粉のCV値は15.6%であった。
テキサノールおよびテルピネオールに対する分散性試験の結果、いずれに対しても良好な分散性が確認された。すなわち、保護材としてリシノール酸を付着させた銀ナノ粒子は、親水性と親油性の両方を兼ね備えた実用的な有機媒体に対して分散しやすいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】オレイルアミンに被覆された保護材置換前の銀粒子についてのDTA曲線。
【図2】サリチル酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図3】没食子酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図4】ひまし油成分を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図5】コール酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図6】リシノール酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図7】サリチル酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図8】没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図9】ひまし油成分を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図10】コール酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図11】リシノール酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項2】
没食子酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項3】
ひまし油を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項4】
コール酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項5】
リシノール酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項6】
カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子が、テキサノール中に分散している銀インク。
【請求項7】
カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子が、テルピネオール中に分散している銀インク。
【請求項8】
前記有機化合物はサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上である請求項6または7に記載の銀インク。
【請求項9】
不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる、極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アミンAがオレイルアミンである請求項9に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物Bがサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上である、請求項9または10に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項1】
サリチル酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項2】
没食子酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項3】
ひまし油を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項4】
コール酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項5】
リシノール酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともテキサノールおよびテルピネオールとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項6】
カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子が、テキサノール中に分散している銀インク。
【請求項7】
カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子が、テルピネオール中に分散している銀インク。
【請求項8】
前記有機化合物はサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上である請求項6または7に記載の銀インク。
【請求項9】
不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子と、カルボキシル基を有する有機化合物Bとを、有機化合物Bが溶解している極性溶媒Cの中で、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌混合することにより、銀粒子表面においてアミンAの脱着と有機化合物Bの吸着を生じさせ、有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させる、極性媒体との親和性に優れた銀粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アミンAがオレイルアミンである請求項9に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物Bがサリチル酸、没食子酸、ひまし油、コール酸、リシノール酸の1種以上である、請求項9または10に記載の銀粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−138243(P2009−138243A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317742(P2007−317742)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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