説明

極性媒体との親和性に優れた銀微粉および銀インク

【課題】分子量が比較的小さいにもかかわらず沸点が比較的高く、低粘度、低表面張力を示し、刺激臭の少ない有機溶媒であるγ−ブチロラクトン(C462)に対して親和性(すなわち分散性)が良好な銀ナノ粒子を提供する。
【解決手段】上記課題は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(C1184)、没食子酸(C765)の1種以上を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子で構成される、少なくともγ−ブチロラクトンとの親和性に優れた銀微粉によって達成される。また本発明では、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、γ−ブチロラクトン中に分散している銀インクが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質に被覆された銀ナノ粒子からなる極性媒体、特にγ−ブチロラクトンとの親和性に優れた銀微粉および銀インクに関する。なお、本明細書においては、粒子径が40nm以下の粒子を「ナノ粒子」と呼び、ナノ粒子で構成される粉体を「微粉」と呼んでいる。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今ではナノテクノロジーの進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に実施できるようになってきた。
【0003】
特許文献1には酸化銀を出発材料として、アミン化合物を用いて銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。また、特許文献2にはアミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストを作成することが記載されている。特許文献4には液中での分散性が極めて良好な銀ナノ粒子を製造する技術が開示されている。一方、特許文献3には有機保護材Aで保護した金属ナノ粒子が存在する非極性溶媒に、金属粒子との親和性の良いメルカプト基等の官能基を持つ有機保護材Bが溶解した極性溶媒を加えて、撹拌混合することにより、金属ナノ粒子の保護材をAからBに交換する手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【特許文献3】特開2006−89786号公報
【特許文献4】特開2007−39718号公報
【非特許文献1】中許昌美ほか、「銀ナノ粒子の導電ペーストへの応用」、化学工業、化学工業社、2005年10月号、p.749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀ナノ粒子の表面は有機保護材により被覆されているのが通常である。この保護材は銀粒子合成反応時に粒子同士を隔離する役割を有する。したがって、ある程度分子量の大きいものを選択することが有利である。分子量が小さいと粒子間距離が狭くなり、湿式の合成反応では反応中に焼結が進んでしまう場合がある。そうなると粒子が粗大化し銀微粉の製造が困難になる。
【0006】
一方、銀ナノ粒子をインク(本明細書では液状のものに限らず、ある程度粘性の高い有機媒体に銀粒子を分散配合させたペースト状のものも「インク」と称する)として利用する場合には、用途に応じて適切な有機媒体を選択することが望ましい。例えば、分子量が比較的小さいにもかかわらず沸点が比較的高く、低粘度、低表面張力を示し、刺激臭の少ない有機溶媒として、γ−ブチロラクトン(C462)が挙げられる。
【0007】
しかしながら、γ−ブチロラクトンに対する親和性が良好な銀微粉はこれまでに知られていない。銀微粉は、粒子表面を覆う保護材(界面活性剤)の種類によって適用可能な分散媒体の種類が大きく制限される。従来、製造上の制約などから、保護材の種類に対する選択の自由度は非常に小さく、用途に応じて適切な保護材を選択することは極めて困難な状況にある。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑み、特に、γ−ブチロラクトンに対して親和性(すなわち分散性)が良好な銀ナノ粒子を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(C1184)、没食子酸(C765)の1種以上を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子で構成される、少なくともγ−ブチロラクトンとの親和性に優れた銀微粉が提供される。
【0010】
1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、没食子酸(C765)はいずれもカルボキシル基(親水性)を有しており、カルボキシル基の部分でAg粒子表面に吸着すると考えられる。
【0011】
また本発明では、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、γ−ブチロラクトン中に分散している銀インクが提供される。当該有機化合物としては、上記の1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、没食子酸が例示され、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種を複合して使用しても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分子量が比較的小さいにもかかわらず沸点が比較的高く、低粘度、低表面張力を示し、刺激臭の少ない有機溶媒であるγ−ブチロラクトン(C462)に対して優れた分散性を示す銀ナノ粒子が提供可能になった。この銀ナノ粒子で構成される銀微粉は、種々の用途での使用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来、銀ナノ粒子の製造においては、製造上の制約から、保護材(界面活性剤)の種類を自由に選択することはできなかった。ところが、後述する方法に従えば、保護材の種類に対する選択の自由度をかなり拡大させることが可能になり、これまで存在しなかった種々の銀ナノ粒子を得ることができた。そして、カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nm(TEM観察により測定される平均粒子径DTEMで見ると、DTEM:3〜40nm好ましくは4〜15nm)の銀粒子が、γ−ブチロラクトン中に分散している新規な銀インクが実現された。
【0014】
γ−ブチロラクトンに対する銀ナノ粒子の分散性を顕著に向上させる保護材物質(界面活性剤)として、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、没食子酸が例示できることが明らかになった。これらの有機化合物はカルボキシル基を有しており、銀粒子の表面に吸着されやすい性質を持っている。
【0015】
このような銀ナノ粒子は、例えば「銀粒子合成工程」および「保護材置換工程」を経て得ることができる。以下、その代表的な方法を例示する。
【0016】
《銀粒子合成工程》
特許文献4に開示されるような湿式工程により、粒径の揃った銀ナノ粒子を合成することができる。この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。ところが、発明者らのその後の研究によれば、より大量生産に適した合成法が見出され、本出願人は特願2007−264598に開示した。これは、銀化合物を1級アミンと2−オクタノールの混合液中に溶解させ、これを120〜180℃に保持することにより2−オクタノールの還元力を利用して銀粒子を析出させるものである。ここでは、この新たな合成法を簡単に例示する。
【0017】
銀イオン供給源として銀化合物(例えば硝酸銀)、析出した銀粒子の保護材として1級アミンA(不飽和結合を持つ分子量200〜400のもの、例えばオレイルアミン)、および溶媒成分であるともに還元剤でもある2−オクタノールを用意する。
【0018】
所定量の1級アミンA、2−オクタノールおよび銀化合物を混合して、アミンAと2−オクタノールとの混合溶媒中に銀化合物が溶解している溶液を作成する。還元反応開始時の液組成は、通常、下記(i)〜(iii)を満たす範囲で好適な条件を見出すことができる。
(i)アミンA/銀のモル比:1〜10、
(ii)2−オクタノール/銀のモル比:0.5〜15、
(iii)2−オクタノール/アミンAのモル比:0.3〜2
【0019】
液の昇温を開始して120〜180℃の温度範囲で保持する。120℃を下回る温度では還元反応の進行が進みにくいので高い還元率を安定して得ることが難しくなる。ただし、沸点を大きく超えないようにすることが肝要である。2−オクタノールの沸点は約178℃であり、180℃程度までは許容できる。125〜178℃の範囲とすることがより好ましい。大気圧下で実施することができ、反応容器の気相部を窒素ガス等の不活性ガスでパージしながら還流状態とすることが好ましい。撹拌は、あまり強く行わなくても銀ナノ粒子を析出させることができるが、反応容器のサイズが大きくなると、ある程度の撹拌は必要となる。2−オクタノールの場合、他のアルコール(例えばイソブタノール)を使用する場合に比べ、粒径の揃った銀粒子を合成する上で、撹拌強度の自由度が拡がる。なお、2−オクタノールは初めから必要な全量を混合しておいてもよいし、昇温途中または昇温後に混合してもよい。還元反応開始後に2−オクタノールを適宜添加(追加投入)しても構わない。上記温度範囲での保持時間を0.5時間以上確保することが望ましいが、上記(i)〜(iii)を満たす液組成の場合だと1時間程度で反応はほとんど終了に近づくものと考えられ、それ以上保持時間を長くしても還元率に大きな変化は見られない。通常、3時間以下の保持時間を設定すれば十分である。還元反応が進行して銀粒子が析出すると、アミンAで被覆された銀ナノ粒子が存在するスラリーが得られる。
【0020】
次いで、上記のスラリーから、デカンテーションや遠心分離によって固形分を回収する。回収された固形分は、1級アミンAを成分とする保護材に被覆された銀ナノ粒子を主体とするものである。
【0021】
上記の固形分には不純物が付着しているので、メタノールやイソプロパノールを用いた洗浄に供することが好ましい。
【0022】
以上のようにして、1級アミンAに被覆されたX線結晶粒子径Dx:1〜40nm好ましくは1〜15nmの銀粒子を構成することができる。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた粒子の観察により求まる平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nm程度の範囲である。
【0023】
《保護材置換工程》
次に銀粒子に付着している保護材をアミンAから目的物質である有機化合物B(ここでは、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、没食子酸の1種以上)に付け替える操作を行う。本発明の銀粒子の製造方法はこの工程を採用するところに特徴がある。
有機化合物Bとしてカルボキシル基を有するものを適用する。カルボキシル基は銀に吸着しやすい性質を有する。上記のアミンAは不飽和結合を有する分子量200−400のアミンであり、銀に対する吸着力はカルボキシル基を持つ物質に比べ弱いと考えられる。したがって、アミンAに被覆された銀粒子の表面近傍に十分な量の有機化合物Bの分子が存在していると、銀表面からアミンAが脱着するとともに有機化合物Bが吸着しやすい状況となり、比較的容易に置換が進行する。
【0024】
ただし、この置換は溶媒中で進行するので、有機化合物Bは溶媒中に溶解していることが必要である。有機化合物Bは、極性溶媒であるγ−ブチロラクトンに対して親和力の高い性質のものが選択されるので、有機化合物Bを溶解させる溶媒としても極性溶媒が採用される。具体的にはイソプロパノール、メタノール、エタノール、デカリン等の溶媒のうち、溶解性のよいものを選択すればよい。イソプロパノールに良く溶解する有機化合物Bの場合は、安全性やコスト面でイソプロパノールを選択することが有利となる場合が多い。有機化合物Bが溶解している上記のような極性溶媒Cの中に、アミンAに被覆された銀ナノ粒子を存在させ、30℃以上かつ極性溶媒Cの沸点以下の温度域で撹拌する。30℃より低温では置換が進行しにくい。極性溶媒Cにイソプロパノールを使用する場合だと、35〜80℃の範囲で行うことが好ましい。アミンAに被覆された粒子は一般に極性溶媒Cに対する分散性が悪く、液中で沈降しやすいので撹拌しなければならないが、あまり強く撹拌する必要はなく、粒子が液中に浮遊した状態を維持できる程度でよい。
【0025】
アミンAとカルボキシル基をもつ有機化合物Bの置き換え反応は、数分程度の比較的短時間で起きていると考えられるが、工業的に安定した品質のものを供給するという観点から、1時間以上の置き換え反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても更なる置き換え反応はあまり進行しないので、24時間以内で置き換え反応を終了させるのが実用的である。置換に要する反応時間は1〜7時間の範囲で設定することが好ましい。
【0026】
具体的には、予め有機化合物Bを極性溶媒Cに完全に溶解させた液を作成し、この液と、固形分として回収されたアミンAが付着している銀ナノ粒子とを1つの容器に収容し、撹拌混合すればよい。有機化合物Bが常温で液体である場合、本明細書でいう「有機化合物Bが溶解している極性溶媒C」とは、有機化合物Bが極性溶媒Cの中で分離することなく両者が均一に混ざり合っている状態を意味する。粒子中の金属Agに対する有機化合物Bの当量B/Agは、0.1〜10当量とすることが好ましい。ここで、Ag1モルに対し、有機化合物Bのカルボキシル基1個が1当量に相当する。極性溶媒Cの液量は銀ナノ粒子が液中を浮遊するに足る量が確保される範囲で設定すればよい。
【0027】
このようにして有機化合物Bを表面に吸着させてなる銀粒子を形成させたのち、固液分離を行い、例えば「分離回収された固形分に洗浄液(例えばメタノールやイソプロパノール)を添加して超音波分散を加えた後、液を遠心分離して固形分を回収する」という操作を数回繰り返すことにより、付着している不純物を洗浄除去することが好ましい。洗浄後の粒子は、X線結晶粒子径Dxが1〜40nm好ましくは1〜15nm、TEM観察により測定される平均粒子径DTEMは3〜40nm好ましくは4〜15nmといった銀ナノ粒子であり、表面には有機化合物Bを吸着させてなる界面活性剤を有している。洗浄後の固形分を、γ−ブチロラクトンといった目的とする溶媒中に分散させることにより銀インクを得ることができる。
【実施例】
【0028】
《実施例1》
下記の方法で1級アミンAを保護材とする銀粒子を合成し、その後、保護材をアミンAから有機化合物Bに置換した。
本例では1級アミンAとしてオレイルアミン、有機化合物Bとして1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をそれぞれ使用し、以下の工程に従った。
【0029】
〔銀粒子合成工程〕
オレイルアミン(関東化学株式会社製特級試薬)6009.2g、2−オクタノール(和光純薬工業株式会社製特級試薬)2270.3g、硝酸銀結晶(関東化学株式会社製特級試薬)1495.6gを用意した。
2−オクタノールと、オレイルアミンと、硝酸銀結晶を混合して、硝酸銀が完全に溶解した液を作成した。配合は以下のとおりである。
・オレイルアミン/銀のモル比=2.5
・アルコール/銀のモル比=2.0
・アルコール/オレイルアミンのモル比=2.0/2.5=0.8
【0030】
上記配合の液10Lを準備し、還流器の付いた容器に移してオイルバスに載せ、プロペラにより100rpmで撹拌しながら120℃まで昇温速度1.0℃/min、次いで140℃まで昇温速度0.5℃/minで昇温した。その後、上記撹拌状態を維持しながら、140℃に1時間保持した。その際、容器の気相部に窒素ガスを500mL/minの流量で供給してパージしている。その後、加熱を止め、冷却した。
【0031】
反応後のスラリーを3日間静置した後、上澄みを除去した。その際、還元された銀が全スラリーに対して20質量%となるように上澄みの除去量を調整した。上澄み除去後のスラリー500gにイソプロパノール1700gを混合しプロペラにより400rpmで1時間撹拌し、その後、遠心分離により銀粒子を含む固形分を回収した。このようにして洗浄された固形分中にはアミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している。
なお、洗浄前の上記スラリー500g中には金属Ag:約1モルが存在することが別途測定により判っている。
【0032】
別途、これと同一の条件で作成した洗浄後の固形分について、少量の固形分サンプルを採取して、下記の要領でX線結晶粒子径Dxを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDxは約7nmであることが確認された。また、下記の要領で平均粒子径DTEMを求めた。その結果、置換前の銀微粉のDTEMは約8nmであることが確認された。
また、上記と同一の条件で作成した洗浄後の固形分から、オレイルアミンに被覆された置換前の銀微粉を回収し、昇温速度は10℃/minでTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図1に示す。図1において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
【0033】
<X線結晶粒子径Dxの測定>
銀粒子の固形分サンプルをガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、Ag(111)面の回折ピークを用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
Dx=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただし、KはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
【0034】
<平均粒子径DTEMの測定>
銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。
【0035】
〔保護材置換工程〕
有機化合物Bとして1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(和光純薬工業株式会社製特級試薬、分子量204.18)、極性溶媒Cとしてイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製特級試薬、分子量60.1)を用意した。
1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸56.8gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中に1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を完全に溶解させた。この液456.8g中へ、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後の固形分(Agを約1モル(約100g)含有)を添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.3当量となるように有機化合物Bの仕込量を調整してある。
【0036】
得られたスラリーを3000rpm×5minの遠心分離により固液分離した。その後、「固形分にメタノールを889.7g(銀に対して約30当量)添加して400rpmにて30分間洗浄し、遠心分離にて固形分を回収する」という操作を2回行い、保護材を1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に置換した銀微粉サンプルを得た。
このサンプルについて、前記の方法にてTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図2に示す。図1(置換前)と図2(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸)に置き換わったものと考えられる。図4に1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
【0037】
このサンプルについて上記の方法でX線結晶粒子径Dxおよび平均粒子径DTEMを測定したところ、Dxは7.57nm、DTEMは8.45nmであった。
TEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが6.10nm、最大値Dmaxが13.44nmであった。粒子径の標準偏差をσDとするとき、「σD/DTEM×100」の値をCV値と呼ぶ。この銀微粉のCV値は14.2%であった。CV値が小さいほど銀粒子の粒径は均一化されていると言える。銀インクの用途ではCV値が40%以下であることが望ましく、15%以下のものは非常に粒子径が揃っており、種々の微細配線用途に極めて好適である。
【0038】
次に、γ−ブチロラクトンに対する親和性を評価するために分散性試験を行った。γ−ブチロラクトン10gをビーカーに入れ、前記サンプル0.5gをビーカーの液中に投入し、軽く撹拌した後、10分間、超音波分散処理を施して均一に分散させた後、常温で168時間静置させた後に、液の濁りや沈降凝集の発生の有無を目視確認することにより親和性を評価した。評価基準としては、168時間後に、粒子が完全に沈降してしまい上澄みが透明な状態になっているものは親和性が良好でないと判定し、168時間後でも粒子が沈降せずに上澄みがにごっている状態のものを親和性が良好であると判定した。その結果、良好な分散性が確認された。すなわち、保護材として1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を付着させた銀ナノ粒子は、γ−ブチロラクトンに対して分散しやく、親和性に優れていることが確認された。
【0039】
《実施例2》
有機化合物Bを没食子酸(和光純薬工業株式会社製特級試薬、分子量170.1)に変えたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
すなわち、保護材置換工程において、没食子酸78.83gと、イソプロパノール400gを混合して、液温を40℃に保ち、イソプロパノール中に没食子酸を完全に溶解させた。この液478.83g中へ、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子が存在している前記洗浄後の固形分(Agを約1モル(約100g)含有)を添加し、プロペラにて400rpmで撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、Agに対する有機化合物Bの量は0.5当量となるように有機化合物Bの仕込量を調整してある。
【0040】
得られたサンプルについてのDTA曲線を図3に示す。図1(置換前)と図3(置換後)の対比から、保護材は、アミンA(オレイルアミン)のほぼ全量が脱着し、有機化合物B(没食子酸)に置き換わったものと考えられる。図5に没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真を示す。
このサンプルについてのDxは6.58nm、DTEMは8.54nmであった。DTEMの算出に使用した個々の粒子の粒子径は、最小値Dminが3.99nm、最大値Dmaxが13.73nmであり、この銀微粉のCV値は19.8%であった。
γ−ブチロラクトンに対する分散性試験の結果、良好な分散性が確認された。すなわち、保護材として没食子酸を付着させた銀ナノ粒子は、γ−ブチロラクトンに対して分散しやく、親和性に優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】オレイルアミンに被覆された保護材置換前の銀粒子についてのDTA曲線。
【図2】1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図3】没食子酸を吸着してなる銀粒子についてのDTA曲線。
【図4】1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。
【図5】没食子酸を吸着してなる銀粒子のTEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともγ−ブチロラクトンとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項2】
没食子酸を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子で構成される、少なくともγ−ブチロラクトンとの親和性に優れた銀微粉。
【請求項3】
カルボキシル基を有する有機化合物を表面に吸着させてなるX線結晶粒子径Dx:1〜40nmの銀粒子が、γ−ブチロラクトン中に分散している銀インク。
【請求項4】
前記有機化合物は1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、没食子酸の1種以上である請求項3に記載の銀インク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−179879(P2009−179879A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325182(P2008−325182)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】