説明

極数変換形単相誘導電動機

【課題】
極数変換形単相誘導電動機の起動を容易に行い、運転効率を向上し騒音、振動の少ない極数変換形単相誘導電動機を提供する。
【解決手段】
固定子のスロットには第1の補助巻線郡H1と第2の補助巻線郡H2とで構成された補助巻線と、第1の主巻線4Pおよび第2の主巻線2Pを巻装した極数変換形単相誘導電動機において、前記第1の主巻線4Pを使用して起動、運転する場合、前記補助巻線は第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a、1bを直列接続させ、第1の補助巻線郡H1を使用して起動、運転し、前記第2の主巻線2Pを使用して起動、運転する場合、前記補助巻線は第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a、2bを直列接続し、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a、1bを並列接続させ、第2の補助巻線郡H2と第1の補助巻線郡H1を直列接続させて起動、運転する極数変換形単相誘導電動機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定子のスロットに巻装された巻線の接続を切換えて極数を変換して運転する極数変換形単相誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極数変換形単相誘導電動機においては、特許文献1(特開昭59−92751)に示されているように、固定子のスロットに2極用の主巻線と4極用の主巻線が巻装され、2極用の主巻線と4極用の主巻線と電気的位相差が90°となるように2極と4極とで補助巻線の接続を切り換えた極数変換形単相誘導電動機が記載されている。
【0003】
特許文献1の極数変換形単相誘導電動機の2極での起動時には、固定子の内径に面したスロットに相対向して巻装された補助巻線の極間部の隣り合うスロットの巻線に流れる電流の向きを同方向となる様に直列接続し、2極として起動、運転することのできる電動機であり、4極での起動時には、固定子の内径に面したスロットに相対向して巻装された補助巻線の極間部の隣り合うスロットの巻線に流れる電流の向きを逆方向となる様に直列接続し、4極として起動、運転することのできる極数変換形単相電動機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−92751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この様な極数変換形単相誘導電動機においては、2極の起動は問題なく起動できるものの4極で起動する際スムーズに起動できない場合がある。これは、図7の破線で示した電動機の起動時のトルク特性における落ち込みがあるためである。図7では、横軸を回転数、縦軸をトルクとして表している。
これは補助巻線の極ピッチが不均等になり4極の補助巻線による起磁力分布に第3高調波成分が含まれることにより電動機の起動時に図7に示しているようにクローリングと呼ばれるトルクの落ち込みが発生する。これにより電動機の起動時間が長くなり、時には起動できない場合が発生する。このように起動時の不具合が頻発することにより電動機の巻線が発熱し焼損事故となることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
固定子の歯部と継鉄部により巻線を巻装するスロットを形成し、前記スロットには第1の補助巻線郡と第2の補助巻線郡とで構成された補助巻線と、第1の主巻線および第2の主巻線を巻装した電動機において、
前記電動機は、前記補助巻線と第1の主巻線または第2の主巻線を使用し起動、運転される極数変換形単相誘導電動機において、
前記第1の主巻線を使用し起動、運転する場合、前記補助巻線は第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を直列接続させ、第1の補助巻線郡を使用し起動、運転をし、
前記第2の主巻線を使用し起動、運転する場合、前記補助巻線は第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、前記補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡を直列接続させて起動、運転する極数変換形単相誘導電動機とする。
【0007】
前記固定子のスロットに巻装した前記第1の主巻線は、4極を形成する主巻線とし、前記第2の主巻線は、2極を形成する主巻線とした極数変換形単相誘導電動機とする。
【0008】
前記固定子のスロットに巻装した前記補助巻線は、前記固定子のスロットに巻装された前記第1の主巻線および第2の主巻線より前記固定子の内径側に配置させた極数変換形単相誘導電動機とする。
【0009】
前記固定子のスロットに巻装した前記補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線の線径断面積が、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線の線径断面積の略1/2.5倍以上とした極数変換形単相誘導電動機とする。
【0010】
前記極数変換形単相誘導電動機の前記第1の主巻線と第1の補助巻線または前記第2の主巻線と第1の補助巻線及び第2の補助巻線のどちらか一方で運転中に他方の運転に切り換える切換え手段を備えた極数変換形単相誘導電動機とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の極数変換形単相誘導電動機は、補助巻線と第1の主巻線または第2の主巻線で起動、運転される極数変換形単相誘導電動機において、第1の主巻線を使用し起動、運転する場合、補助巻線は第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を直列接続させ、第1の補助巻線郡を使用し起動、運転し、第2の主巻線を使用し起動、運転する場合、補助巻線は第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡を直列接続させて起動、運転している。これにより、何れの極数においてもスムーズな起動性を得ることができ、電動機効率を向上させた極数変換形単相誘導電動機を得ることができる。
【0012】
特に、第1の主巻線の極数が4極とし、第2の主巻線の極数を2極とした極数変換形単相誘導電動機において、本発明の極数変換形単相誘導電動機を起動、運転するための補助巻線を、第1の補助巻線郡と第2の補助巻線郡とに分けた場合、第1の主巻線の極数が4極の場合、第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を直列接続し、第1の補助巻線郡を使用して起動、運転し、第2の補助巻線郡は使用しない。また、第2の主巻線の極数が2極の場合、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡とを直列接続し起動、運転させる。
【0013】
本発明では4極用の補助コイルによる磁極の形成時にイメージポールが形成され起磁力分布に第3高調波成分を少なくすることができるので起動トルクの落ち込みを小さくした、起動性の良い電動機とすることができる。また、電動機の起動時間も短くなるので主及び補助巻線が発熱し焼損事故となることもない。
【0014】
本発明では、固定子の内径中心を軸中心として点対称として相対向した固定子のスロットに第1の補助巻線郡と第2の補助巻線郡により構成した補助巻線と第1の主巻線と第2の主巻線の3層構造となっており、第1の主巻線または第2の主巻線のいずれかを使用して起動、運転する場合でも1層の補助巻線を共用して用いている。これにより、第1の主巻線及び第2の主巻線を限られた固定子のスロット内に多く巻装することができるので極数変換形単相誘導電動機の電動機効率を向上させることができる。
【0015】
また、極数変換形単相誘導電動機の起動を2極起動または4極起動を選択的に使用することができるので、2極起動を必要としない場合、4極起動することが可能となり起動時の起動電流を小さくすることができる。これにより、消費電力が少なくて済み、尚且つ、起動電流が小さいことで起動時の音、振動等を低減することができる。また、起動時間も短くなり、繰り返し起動による巻線の温度上昇も低く抑える事ができる。
【0016】
尚、固定子のスロットに巻装された第1の主巻線と第2の主巻線よりも固定子の内径側に補助巻線を配置することにより、補助巻線として使用する巻線の抵抗値を小さくすることができ、固定子周方向の補助巻線の巻線長を短くすることが可能となり、補助巻線の銅量を低減することができる。
【0017】
また、補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線の線径断面積が、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線の線径断面積の略1/2.5倍以上としている。
通常、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡とを直列接続した補助巻線により起動、運転し、第2の主巻線を使用し起動、運転する場合、第1の補助巻線郡に流れる電流の電流密度と第2の補助巻線郡に流れる電流の電流密度を略同じ値とすることにより補助巻線の温度上昇を防ぐことができる。
【0018】
然しながら本発明では、先に述べた様に固定子のスロットに巻装した第1の主巻線と第2の主巻線よりも固定子の内径側に補助巻線を配置させているので補助巻線として使用する巻線の巻線長を短くすることが可能となり補助巻線の銅量を減らすとともに抵抗値を低くすることができる。従って、補助巻線の温度上昇を効果的に抑えることができるので補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線の線径断面積が、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線の線径断面積の略1/2.5倍以上としても補助巻線の温度上昇を防ぐことができる。
【0019】
本発明の極数変換形単相誘導電動機は、第1の主巻線または第2の主巻線のどちらか一方と補助巻線を使用して起動、運転中に他方の極に切り換える切換え手段を備えた極数変換形単相誘導電動機としている。例えば、エアコンの室外機に用いられる圧縮機に搭載する電動機の場合、第1の主巻線を4極用とし、第2の主巻線を2極用とした場合、急速に冷房運転もしくは暖房運転する場合の高出力高トルクが必要な場合、第2の主巻線と補助巻線の第1の補助巻線郡及び第2の補助巻線群を使用して2極で運転し、ある程度室内が冷房もしくは暖房された後に、第1の主巻線と補助巻線の第1巻線群を使用する4極に切り換えることにより消費電力量の少ないエアコンとすることができる。また、逆に消費電力量が少ない4極で運転している際に、急速に冷房もしくは暖房したい場合、2極に切り換え高出力高トルクで運転することも可能である。尚、本発明の極数変換形単相誘導電動機は、エアコンの室外機の圧縮機に搭載される電動機のみならず、空調機全般に用いることが可能であり、冷蔵庫にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の極数変換形単相誘導電動機の4極の場合の巻線の配置図。
【図2】本実施形態の極数変換形単相誘導電動機の2極の場合の巻線の配置図。
【図3】本実施形態における第1の主巻線を4極とし、補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を直列接続した極数変換形単相誘導電動機の巻線の配置を模式的に示した結線図。
【図4】本実施形態における第2の主巻線を2極とし、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡とを直列接続した極数変換形単相誘導電動機の巻線の配置を模式的に示した結線図。
【図5】図1及び図4に示した極数変換形単相誘導電動機の回路図。
【図6】本実施形態における巻線の温度上昇特性の比較図。
【図7】本実施形態におけるトルク特性の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の極数変換形単相誘導電動機の実施形態を図面を用いて説明する。
図1及び図2には、本発明の極数変換形単相誘導電動機(以下、極数変換形単相誘導電動機を電動機と称す。)の巻線の配置図を示している。
図1は、本実施形態の電動機の一実施例である。本発明の極数変換形単相誘導電動機の固定子の内径側には、図示されていないが固定子の内径中心を軸中心とした回転子を具備し、電動機の固定子の歯部と継鉄部により形成したスロットに巻線を3層構造に巻装している。固定子のスロットの径方向の最も外径側の外層には第2の主巻線が巻装され、固定子のスロットの中層には第1の主巻線を巻装し、最も内径側の内層には、補助巻線が巻装されている。
【0022】
第1の主巻線及び第2の主巻線と、補助巻線とは電気的な位相差は90°となるように固定子1のスロットに配置している。本実施形態では、第1の主巻線4Pは4極を形成する主巻線とし、第2の主巻線2Pは2極を形成する主巻線として代表的な巻線仕様で説明する。この第1の主巻線4Pと第2の主巻線2Pの配置に対して、補助巻線は電気的に90°位相差を設け配置されている。
【0023】
図1の電動機は、固定子1のスロットの最も内径側の内層に巻装した補助巻線の実線で示した第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと、固定子1のスロットの中層に巻装した第1の主巻線4Pの4極で起動、運転する電動機としている。この場合、固定子1のスロットの外層に巻装した第2の主巻線2P及び、破線で示した第2の補助巻線H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bは使用していない。
【0024】
また、図2の電動機は、固定子1のスロットの最も内径側の内層に巻装した補助巻線の実線で示した第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと、破線で示した第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bの両方と、固定子1のスロットの外層に巻装した第2の主巻線2Pの2極で起動、運転する電動機としている。この場合、固定子1のスロットの中層に巻装した第1の主巻線4Pは使用していない。
【0025】
尚、本実施形態における極数変換形単相誘導電動機の固定子1の各相との相間絶縁2は、外層の第2の主巻線2Pと中層の第1の主巻線4Pとの間に装着し、中層の第1の主巻線4Pと内層の補助巻線との間に装着しているが、外層の第1の主巻線2Pと中層の第2の主巻線4Pとの間に装着する相間絶縁2は、第2の主巻線2Pと第1の主巻線4Pが同時に通電されることがないので装着しなくてもよい。尚、図1及び図2の図中に示した相間絶縁2の黒丸部分は、固定子1の軸方向両側から巻線3が飛び出た部分を絶縁するための帯状絶縁部を繋ぐ固定子1のスロット内を挿通する絶縁脚部を装着する箇所を示している。
【0026】
図3には、本実施形態における電動機の巻線3の配置を水平展開して模式的に示した結線図を示している。図3中の示した番号は、図1の固定子1の内径に示したスロット番号に対応している。本実施形態における4極を形成する場合の巻線3に電流が流れる方向を説明する。
【0027】
本実施形態の固定子1の最も内径側の内層に第1の主巻線4P及び第2の主巻線2Pと電気的に位相差が90°ずれた位置に補助巻線を巻装している。本実施形態における補助巻線は第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bで構成されている。第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bは、第1の主巻線4Pの4極で起動、運転させるための補助巻線としている。本実施形態では第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1bの固定子1のスロット番号NO.16のY4(補)の巻線端部から電流を流した場合、NO.21、NO.15順に電流が流れ第1の補助巻線1bの巻線端部のNO.22に電流が流れる。
【0028】
次に、第1の補助巻線1bのスロット番号NO.22に流れる電流は、引出線などにより第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1aの固定子1のスロット番号NO.4から引出された引出線に直列に接続し電流が流されている。第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1aの固定子1のスロット番号NO.4に流れる電流は、スロット番号NO.9、NO.3の順に電流が流れ第1の補助巻線1aの巻線端部のNO.10に電流が流れる。スロット番号NO.10から引出した巻線端部は第1の補助巻線郡1aの巻線端部X4(共)として引出されている。
【0029】
これにより、固定子1のスロットに巻装した第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1aのスロット番号NO.4〜NO.9の間に極が形成され、同様に第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1bのスロット番号NO.16〜NO.21の間に極が形成される。そして、本実施形態のように固定子1のスロットに巻装した第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bに電流を流すことにより、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1bとの間、スロット番号NO.10〜NO.15とNO.22〜NO.3との間にイメージポールを形成することができる。次に、固定子1の中層に4極を形成する第1の主巻線4Pが巻装された固定子1のスロット番号NO.2のU4(共)から電流を流し、NO.5、NO.1、NO.6の順に流れ、次にNO.6から引出された巻線端部が、スロット番号NO.11に渡り、NO.8、NO.12、NO.7の順に電流が流れ、次にNO.7から引出された巻線端部は、スロット番号NO.14に渡り、NO.17、NO.13、NO.18の順に電流が流れ、次にNO.18から引出した巻線端部は、スロット番号NO.23に渡り、NO.20、NO.24、NO.19の順に電流が流れ、NO.19から引出した巻線端部には、第1の主巻線4Pの巻線端部V4(主)として電流が流れる。これにより、4極の均等な極ピッチの磁界を形成することができのでスムーズな4極の起動性を得ることができる。
【0030】
より詳しくは、補助コイルの起磁力分布に第3高調波成分を少なくすることができ起動トルクの落ち込みを小さくした起動性の良い電動機とすることができる。また、電動機の起動時間も短くなるので巻線が発熱し焼損事故となることもない。具体的には、図7に示したグラフのトルク特性に示した破線の補助コイルの第3高調波成分に起因するトルク特性が、実線で示したトルク特性となり改善される。
尚、この場合、固定子1のスロットに巻装された補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bは、補助巻線の第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bには接続されておらず使用されていない。
【0031】
また、図4に本実施形態における2極を形成する場合の巻線に電流が流れる方向を説明する。図3と同様に本実施形態における電動機の巻線3の配置を水平展開して模式的に示した結線図を示している。図4中のスロット番号は、図2と同様に固定子内径に示したスロット番号に対応している。
【0032】
本実施形態の固定子1の補助巻線は、図1及び図3で示した4極の巻線仕様と兼用の補助巻線としている。固定子1の最も内径側の内層に第1の主巻線4P及び第2の主巻線2Pと電気的に位相差が90°ずれた位置に補助巻線を巻装している。2極を形成する補助巻線は第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bの両方を使用する。
【0033】
2極を形成する補助巻線は、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bを直列に接続(巻線)し、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bを並列接続させ、第2の補助巻線郡H2と第1の補助巻線郡H1を直列接続して、第2の主巻線2Pを2極で起動、運転するための補助巻線としている。尚、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bを直列に接続する場合、補助巻線2aと補助巻線2bを接続しても良く、そのまま接続するのではなく補助巻線2a及び補助巻線2bの巻線を渡らす渡り線で構成しても良い。
【0034】
具体的には、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2aは、固定子1のスロット番号NO.2のY2(補)の巻線端部から電流を流す場合、NO.11、NO.1の順に電流が流れ第2の補助巻線2aの巻線端部のNO.12に電流が流れる。
次に、第2の補助巻線2aのスロット番号NO.12に流れる電流は、NO.12から引出された巻線端部の渡り線により第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2bの固定子1のスロット番号NO.23に渡り、NO.14、NO.24、NO.13の順に電流が流れ、NO.13から引出した巻線端部が第2の補助巻線2bの巻線端部として引出される。
【0035】
そして、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2bから引出された巻線端部は、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1aの固定子1のスロット番号NO.4から引出した巻線端部と、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1bの固定子1のスロット番号NO.22から引出した巻線端部とを接続し電流を流している。第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1aは、固定子1のスロット番号NO.4から電流が流れ、NO.9、NO.3、NO.10の順に電流が流れ、NO.10から引出された巻線端部をX2(共1)として引出されている。また、同様に第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1bは、固定子1のスロット番号NO.22から電流が流れ、NO.15、NO.21、NO.16の順に電流が流れ、NO.16から引出された巻線端部をX2(共2)として引出されている。尚、NO.16から引出された巻線端部をX2(共2)は、4極を形成する場合、補助巻線の引出し線Y4(補)として用いている。
【0036】
尚、この場合、補助巻線の第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bと、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bの各々の補助巻線郡H1及びH2の全てを使用することになる。
【0037】
次に、固定子1の外層に2極を形成する第2の主巻線2Pの固定子1のスロット番号NO.11のU2(共)から電流を流し、NO.14、NO.10、NO.15、NO.9、NO.16、NO.8、NO.17、NO.7、NO.18の順に電流が流れ、次にNO.18から引出された巻線端部の渡り線は、スロット番号NO.2に渡り、NO.23、NO.3、NO.22、NO.4、NO.21、NO.5、NO.20、NO.6、NO.19の順に電流が流れ、NO.19から引出した巻線端部には、第2の主巻線2Pの巻線端部V2(主)として電流が流れている。
【0038】
これにより、固定子1の内層に1層で構成された補助巻線の第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bの内、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bの補助巻線を使用して4極用として起動、運転することができ、また、固定子1の内層に1層で構成された補助巻線の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bの全ての補助巻線を使用して2極用として起動、運転することができ容易に極数を選択的に選ぶことができる。
【0039】
また、本実施形態によれば固定子1の外層に2極で起動、運転するための第2の主巻線2Pを配置し、中層に4極で起動、運転するための第1の主巻線4Pを配置し、内層に2極または4極で起動、運転するための補助巻線を別々に設けることなく共用の補助巻線として1層のみで構成しているので、2極運転する第2の主巻線2Pおよび4極運転する第1の主巻線4Pの線径もしくは巻き回数を増やし電動機の効率を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態の電動機として4極で起動、運転する場合は、第1の主巻線と補助巻線の第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bを使用して起動、運転するので問題はないが、2極で起動する場合、補助巻線の第2補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bを直列に巻装し、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bを並列接続しているため、第2の補助巻き線郡H2と第1の補助巻線郡H1とを直列接続する際、第2の補助巻線郡H2を構成する巻線の線径断面積と第1の補助巻線郡H1を構成する線径断面積の違いによる電流密度の差により温度上昇が問題となる。
【0041】
本実施形態の2極で起動、運転する場合、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bは、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bの並列回路と、直列に接続されることになるので第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2aもしくは2bとして巻かれた巻線の線径断面積を、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a+1bとすることが望ましい(2a≒2b≒1a+1b)。通常、第1の補助巻線H1を構成する第1の補助巻線1aと1bは同じ線径で巻かれることが多いため巻線の線径断面積は、第2の補助巻線2aもしくは2bの略1/2倍とすることが好ましい。
【0042】
しかしながら、本実施形態における固定子1のスロットに巻装された巻線3の配置は、外層に2極で運転するための第2の主巻線2Pを配置し、中層に4極で運転するための第1の主巻線4Pを配置し、固定子1の最内径側の内層に2極または4極で起動、運転するための共用の補助巻線が1層のみ配置されている。これにより、2極または4極で起動、運転するための補助巻線を最内径側としているので固定子1のスロットに巻装される巻線自体の周長を最小とすることができ銅量、抵抗値を低減することができる。また、固定子1の最内径側に補助巻線を配置させることにより固定子1の内径側で回転子が回転駆動することにより補助巻線が冷却され巻線が温度上昇するのを抑制している。従って、第1の補助巻線1a及び1bの線径断面積が、第2の補助巻線2a及び2bの線径断面積の略1/2.5倍以上としても第2の補助巻線2a及び2bと第1の補助巻線1a及び1bの線径断面積(電流密度)の違いにより発生する巻線の温度上昇を抑制することができる。
【0043】
図6には、本実施形態の補助巻線を固定子1のスロットの最外径側の外層に配置した場合と、最内径側の内層に配置した場合の補助巻線の温度上昇の違いを示している。これからも解る様に固定子1のスロットに巻装される巻線自体の巻線長を最小とすることにより銅量、抵抗値が低減でき温度上昇を防ぐことができている。
【0044】
尚、本実施形態における2極と4極での極数変換形単相誘導電動機の結線図を図4に示す。図5に示しているように固定子1の内層の補助巻線を2極または4極を1層で共用している。4極で起動、運転する場合は、補助巻線の第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bによって構成される磁極の他に、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1b間の磁極間にイメージポールが形成され、均等な磁極ピッチとすることができスムーズに4極を起動、運転することができる。また、2極で起動、運転する場合は、第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bを直列に巻装し、第1の補助巻線1a及び1bを並列接続し、第2の補助巻線郡H2と第1の補助巻線郡H1を直列に接続している。
【0045】
そして、2極を構成する第2の主巻線2Pと4極を構成する第1の主巻線4Pが前記第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bと第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a及び2bの組合せにより起動、運転することができ、電動機が運転途中に極数を2極から4極もしくは、4極から2極へとスムーズに切り換えられる極数変換形単相誘導電動機としている。
【0046】
図5の結線図では、4極で起動、運転する場合、リレー接点S2、S4がONとなり、リレー接点S1、S3、S5がOFFとなっている。これにより、補助巻線の第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1b、1aの順に電流が流れ4極が形成され、第1の主巻線4Pにより起動、運転することができる。
【0047】
また、2極で起動、運転する場合、リレー接点S2、S4がOFFとなり、リレー接点S1、S3、S5がONとなっている。これにより、補助巻線の第2の補助巻線郡H2を構成する第2の補助巻線2a、2bが直列に接続され、第2の補助巻線2a、2bの順に電流が流れて、第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bが並列に接続され、第2の補助巻線郡H2と第1の補助巻線郡H1とを直列接続することにより第1の補助巻線郡H1を構成する第1の補助巻線1a及び1bに電流が流れ2極が形成され、第2の主巻線2Pにより起動、運転することができる。これにより、単相誘導電動機における2極と4極の切換えが容易に行うことができ何れの極数においてもスムーズな起動性を得ることができる。また、運転時の極数変換における失速もなく、電動機効率を向上させた極数変換形単相誘導電動機を得ることができる。
【0048】
図5のように電動機が運転中の極数の切り換え手段を用いることにより、例えば、冷蔵庫やエアコン等の駆動源として圧縮機に搭載する電動機に用いることができる。冷蔵庫に用いる場合の急速冷凍は高トルク・高出力の運転が必要になるので2極で運転し、冷蔵庫内の温度が安定した場合2極から4極に切り換え、低トルク・低出力の運転に切り替えることで消費電力を削減することができる。また、冷蔵庫の扉の開閉時に冷蔵庫内の温度が上昇した場合、急速冷凍が必要になるので4極から2極に切り換えることにより急速冷凍が可能となる。
【0049】
同様にエアコンに用いる場合の急速冷房、急速暖房は高トルク・高出力での運転が必要になるので2極で運転し、室内の温度が安定した場合2極から4極に切り換え、低トルク・低出力の運転に切り替えることで消費電力を削減することができる。また、室内の扉の開閉時に室内の温度が上昇、降下した場合、急速冷房、急速暖房が必要になるので4極から2極に切り換えることにより急速冷房、急速暖房が可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1・・・固定子
2・・・相間絶縁
3・・・巻線
4P・・・第1の主巻線
2P・・・第2の主巻線
1a、1b・・・第1の補助巻線
2a、2b・・・第2の補助巻線
H1・・・第1の補助巻線郡
H2・・・第2の補助巻線郡
V2(主)、U2(共)・・・2極の主巻線端部
V4(主)、U4(共)・・・4極の主巻線端部
Y2(補)、X2(共1)、X2(共2)・・・2極の補助巻線
Y4(補)、X4(共)・・・4極の補助巻線
S1、S2、S3、S4、S5・・・リレー接点
CR・・・コンデンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子の歯部と継鉄部により巻線を巻装するスロットを形成し、前記スロットには第1の補助巻線郡と第2の補助巻線郡とで構成された補助巻線と、第1の主巻線および第2の主巻線を巻装した電動機において、
前記電動機は、前記補助巻線と第1の主巻線または第2の主巻線を使用し起動、運転される極数変換形単相誘導電動機において、
前記第1の主巻線を使用し起動、運転する場合、前記補助巻線は第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を直列接続させ、第1の補助巻線郡を使用し起動、運転をし、
前記第2の主巻線を使用し起動、運転する場合、前記補助巻線は第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線を直列接続し、前記補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線を並列接続させ、第2の補助巻線郡と第1の補助巻線郡を直列接続させて起動、運転することを特徴とする極数変換形単相誘導電動機。
【請求項2】
前記固定子のスロットに巻装した前記第1の主巻線は、4極を形成する主巻線とし、前記第2の主巻線は、2極を形成する主巻線としたことを特徴とする請求項1項記載の極数変換形単相誘導電動機。
【請求項3】
前記固定子のスロットに巻装した前記補助巻線は、前記固定子のスロットに巻装された前記第1の主巻線および第2の主巻線より前記固定子の内径側に配置させたことを特徴とする請求項1項または請求項2項記載の極数変換形単相誘導電動機。
【請求項4】
前記固定子のスロットに巻装した前記補助巻線の第1の補助巻線郡を構成する第1の補助巻線の線径断面積が、第2の補助巻線郡を構成する第2の補助巻線の線径断面積の略1/2.5倍以上あることを特徴とする請求項1項及至請求項3項いずれかに記載の極数変換形単相誘導電動機。
【請求項5】
前記極数変換形単相誘導電動機の前記第1の主巻線と第1の補助巻線または前記第2の主巻線と第1の補助巻線及び第2の補助巻線のどちらか一方で運転中に、他方の運転に切り換える切換え手段を備えた請求項1項及至請求項4項いずれかに記載の極数変換形単相誘導電動機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate