説明

極端紫外光生成装置及び極端紫外光生成方法

【課題】極端紫外光の生成において変換効率を向上させる。
【解決手段】極端紫外光生成方法は、チャンバ内にターゲット物質を供給するステップ(a)と、ターゲット物質にレーザビームを照射することにより、プラズマを生成して極端紫外光を生成するステップ(b)と、を備える。レーザビームの空間的な光強度分布は、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する空間的な光強度分布を有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外(EUV)光を生成するための装置、及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って、半導体プロセスの光リソグラフィにおける転写パターンの微細化が急速に進展している。次世代においては、70nm〜45nmの微細加工、さらには32nm以下の微細加工が要求されるようになる。このため、たとえば32nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度のEUV光を発生させる極端紫外光生成装置と縮小投影反射光学系とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
極端紫外光生成装置としては、ターゲット物質にレーザビームを照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(Laser Produced Plasma:レーザ生成プラズマ)方式の装置と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(Discharge Produced Plasma)方式の装置と、軌道放射光を用いたSR(Synchrotron Radiation)方式の装置との3種類の装置が提案されている。
【0004】
関連する技術として、特許文献1には、高エネルギーのレーザメインパルスの直前に低エネルギーのレーザ先行パルスを用いるEUV放射源が開示されている。
しかしながら、特許文献1において、レーザパルスのエネルギーからEUV光のエネルギーへの十分な変換効率(conversion efficiency、CE)を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6973164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、上記の点に鑑み、本発明の1つの観点においては、極端紫外光の生成において変換効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点に係る極端紫外光生成方法は、チャンバ内にターゲット物質を供給するステップ(a)と、前記ターゲット物質にレーザビームを照射することにより、プラズマを生成して極端紫外光を生成するステップであって、前記レーザビームは、前記ターゲット物質の照射位置において、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する空間的な光強度分布を有する、ステップ(b)と、を備える。
【0008】
また、本発明の1つの観点に係る極端紫外光生成装置は、チャンバと、前記チャンバ内にターゲット物質を供給するターゲット供給部と、前記ターゲット物質に照射されることによりプラズマを生成するレーザビームを、前記チャンバ内に導入する少なくとも1つの光学素子と、前記レーザビームの光路に設置され、前記ターゲット物質の照射位置における前記レーザビームの空間的な光強度分布を、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する光強度分布となるように調節する光強度分布調節光学系と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の1つの観点によれば、ターゲット物質の照射位置において、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する空間的な光強度分布を有するレーザビームを、ターゲット物質に照射する。これにより、極端紫外光の生成において変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本開示の一態様による例示的なLPP式EUV光生成装置の概略構成を示す図である。
【図2A】図2Aは、比較例におけるレーザビームの光強度分布と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図2B】図2Bは、本開示におけるレーザビームの光強度分布の第1の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図2C】図2Cは、本開示におけるレーザビームの光強度分布の第2の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図2D】図2Dは、本開示におけるレーザビームの光強度分布の第3の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図2E】図2Eは、本開示におけるレーザビームの光強度分布の第4の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図2F】図2Fは、本開示におけるレーザビームの光強度分布の第5の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。
【図3A】図3Aは、図2Eに示す光強度分布を有するレーザビームをターゲット物質に照射した場合の、ターゲット物質の照射面付近における電子密度分布及び電子温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図3B】図3Bは、図2Eに示す光強度分布を図3Aにおける表示寸法の拡大率に合わせて表示した図である。
【図4】図4は、光強度分布調節光学系に関する第1の実施形態を示す概念図である。
【図5】図5は、光強度分布調節光学系に関する第2の実施形態を示す概念図である。
【図6】図6は、光強度分布調節光学系に関する第3の実施形態を示す概念図である。
【図7】図7は、光強度分布調節光学系に関する第4の実施形態を示す概念図である。
【図8A】図8Aは、光強度分布調節光学系に関する第5の実施形態を示す概念図である。
【図8B】図8Bは、回折格子が形成された面を示す図である。
【図8C】図8Cは、回折格子の断面を拡大した図である。
【図9A】図9Aは、光強度分布調節光学系に関する第6の実施形態を示す概念図である。
【図9B】図9Bは、回折格子が形成された面を示す図である。
【図9C】図9Cは、回折格子の断面を拡大した図である。
【図10】図10は、光強度分布調節光学系に関する第7の実施形態を示す概念図である。
【図11A】図11Aは、光強度分布調節光学系に関する第8の実施形態を示す概念図である。
【図11B】図11Bは、図11Aに示す光強度分布調節光学系によって形成される光強度分布の一例を、レーザビームの照射方向から見た図である。
【図11C】図11Cは、図11BのX軸に沿った光強度分布を示す図である。
【図12】図12は、第9の実施形態におけるターゲット供給部を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
内容
1.概要
2.用語の説明
3.EUV光生成装置の全体説明
3.1 構成
3.2 動作
4.光強度分布の例
5.光強度分布調節光学系の実施形態
5.1 円環状ビームを生成して集光光学系により集光する方式
5.1.1 アキシコンレンズによる円環状ビームの生成
5.1.2 アキシコンミラーによる円環状ビームの生成
5.2 ビームを軸対称に曲げて集光光学系により焦点を形成する方式
5.2.1 アキシコンレンズと集光光学系による円環状分布の形成
5.2.2 アキシコンレンズと集光光学系によるコアアンドホロー型分布の形成
5.2.3 同心円状の回折格子と集光光学系による円環状分布の形成
5.2.4 同心円状の回折格子と集光光学系によるコアアンドホロー型分布の形成
5.2.5 同心円状の回折格子と集光光学系との一体化
5.3 回折光学素子と集光光学系による任意の光強度分布の形成
6.ターゲット供給部の実施形態
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示の一例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0013】
1.概要
本開示の各実施形態においては、チャンバ内にターゲット物質に照射するレーザビームの光強度分布を高い変換効率(CE)となるように最適化する。
【0014】
2.用語の説明
本願において使用する用語を説明する。
「チャンバ」は、EUV光の生成が行われる空間を大気から隔絶するためのチャンバである。
「ターゲット供給部」は、EUV光を生成するために用いられるスズ等のターゲット物質をチャンバ内に供給する装置である。
「レーザビーム」は、ターゲット物質を励起してプラズマ化するレーザビームである。
「EUV光集光ミラー」は、プラズマから放射されるEUV光を集光してチャンバ外に出力するミラーである。
【0015】
3.EUV光生成装置の全体説明
3.1 構成
図1に本開示の一態様による例示的なLPP式EUV光生成装置の概略構成を示す。LPP式EUV光生成装置1は、少なくとも1つのレーザ装置3と共に用いることができる(LPP式EUV光生成装置1及びレーザ装置3を含むシステムを、以下、EUV光生成システムと称する)。図1に示し、かつ以下に詳細に説明するように、LPP式EUV光生成装置1は、チャンバ2を含むことができる。チャンバ2内は好ましくは真空である。あるいは、チャンバ2の内部にEUV光の透過率が高いガスが存在していてもよい。また、LPP式EUV光生成装置1は、ターゲット供給部26を更に含むことができる。ターゲット供給部26は、例えばチャンバ2の壁に取り付けられていてもよい。ターゲット供給部26は、ターゲットの材料となるスズ、テルビウム、ガドリニウム、リチウム、キセノン、又はそれらの内のいずれか2つ以上の組合せを、チャンバ2内に供給することができる。しかしながら、ターゲットの材料はこれらに限定されない。
【0016】
チャンバ2には、レーザ装置3によって発生したレーザビームが透過する少なくとも1つのウィンドウ21が設けられていてもよい。チャンバ2の内部には例えば、回転楕円面形状の反射面を有するEUV光集光ミラー23が配置されてもよい。回転楕円面形状のミラーは、第1の焦点、及び第2の焦点を有する。EUV光集光ミラー23の表面には、例えば、モリブデンとシリコンとが交互に積層された多層反射膜が形成されていてもよい。EUV光集光ミラー23は、例えば、その第1の焦点がプラズマ発生位置(プラズマ生成領域25)又はその近傍に位置し、その第2の焦点が、露光装置の仕様によって規定される所望の集光位置(中間焦点(IF)292)に位置するよう配置されるのが好ましい。EUV光集光ミラー23の中央部には貫通孔24が設けられていてもよい。その貫通孔24を、レーザ装置3によって発生したレーザビームが通過することができる。
【0017】
更に、LPP式EUV光生成装置1は、チャンバ2内部と露光装置内部とを連通する連通管29を含むことができる。連通管29内部にはアパーチャが形成された壁291を含むことができ、そのアパーチャがEUV光集光ミラー23の第2の焦点位置にあるように壁291を設置することができる。更に、LPP式EUV光生成装置1は、レーザ光導入光学系34、レーザ光集光ミラー22、ターゲット回収器28なども含むことができる。
【0018】
レーザ装置3によって発生したレーザビームの光路上には、ビーム調節光学系37が配置されている。ビーム調節光学系37と、レーザ光集光ミラー22とによって、光強度分布調節光学系が構成される。ビーム調節光学系37は、レーザビームを、ビーム軸に垂直な断面における光強度分布の形状が環状となるように調節し、或いは、レーザビームを、ビーム軸に対して軸対称に、一定角度で屈折又は反射させ、或いは、レーザビームに所定パターンの位相差を与える光学素子である。ビーム調節光学系37から出射したレーザビームは、レーザ光集光ミラー22等の集光光学系によって集光されてターゲット物質に照射される。これにより、ターゲット物質の照射位置におけるレーザビームの空間的な光強度分布は、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する空間的な光強度分布となる。なお、ビーム調節光学系37は、レーザ装置3内の光路に配置されても良い。
【0019】
3.2 動作
レーザ装置3から出射されたレーザビームは、レーザ光導入光学系34を経てウィンドウ21を透過してチャンバ2内に入射してもよい。レーザビームは、少なくとも1つのレーザビーム経路に沿ってチャンバ2内に進み、レーザ光集光ミラー22で反射して、ターゲット物質に集光されて照射されてもよい。
【0020】
ターゲット供給部26は、ターゲット物質をチャンバ2内部のプラズマ生成領域25に向けて出射してもよい。ターゲット物質には、レーザビームが照射される。レーザビームによって照射されたターゲット物質はプラズマ化し、そのプラズマからEUV光が生成される。EUV光は、EUV光集光ミラー23によって反射される。反射されたEUV光は、中間焦点292に集光された後に露光装置に出力される。
【0021】
4.光強度分布の例
図2Aは、比較例におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。説明の簡潔化のため、本実施例に限らず以下の説明ではビーム軸に垂直な断面における光強度分布を単に光強度分布と呼称する。図2Aには、比較例として、レーザビームの光強度分布がガウス分布(Gaussian distribution)である場合が示されている。このレーザビームのビーム径は、半値全幅(ピーク強度の半分の値におけるビーム直径)が200μmであり、ピーク強度は2×1010W/cmである。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果は、比較例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は40.2%であり、EUV変換効率は2.49%である。
【0022】
図2Bは、本開示におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布の第1の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。第1の例において、レーザビームの光強度分布は、比較例と同一のビーム径及びピーク強度を有するガウス分布のうち、中心からの距離が0μm〜40μmの範囲における光強度を0とした分布となっている。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果は、比較例に対して第1の例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は50.2%に向上し、EUV変換効率は3.21%に向上している。
【0023】
図2Cは、本開示におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布の第2の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。第2の例において、レーザビームの光強度分布は、比較例と同一のビーム径及びピーク強度を有するガウス分布のうち、中心からの距離が0μm〜40μmの範囲における光強度を比較例のピーク強度の0.25倍とした分布となっている。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果、比較例に対して第2の例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は49.4%に向上し、EUV変換効率は3.25%に向上している。
【0024】
図2Dは、本開示におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布の第3の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。第3の例において、レーザビームの光強度分布は、比較例と同一のビーム径及びピーク強度を有するガウス分布のうち、中心からの距離が40μm〜80μmの範囲における光強度を比較例のピーク強度の0.25倍とした分布となっている。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果、比較例に対して第3の例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は50.9%に向上し、EUV変換効率は3.30%に向上している。
【0025】
図2Eは、本開示におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布の第4の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。第4の例において、レーザビームの光強度分布は、比較例と同一のビーム径及びピーク強度を有するガウス分布のうち、中心からの距離が40μm〜80μmの範囲における光強度を0とした分布となっている。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果、比較例に対して第4の例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は62.0%に向上し、EUV変換効率は4.15%に向上している。
【0026】
図2Fは、本開示におけるレーザビームがターゲット物質に照射される位置での光強度分布の第5の例と、ターゲット物質への吸収率及びEUV変換効率のシミュレーション結果とを示す図である。第5の例において、レーザビームの光強度分布は、第4の例におけるレーザビームの半分の光強度を有する光強度分布となっている。シミュレーションは、このレーザビームが金属スズの平らな表面に対して垂直に入射する場合について行っている。シミュレーションの結果、比較例に対して第5の例におけるレーザビームのターゲット物質への吸収率は72.0%に向上し、EUV変換効率は3.77%に向上している。
【0027】
以上のシミュレーションの結果は、レーザビームの空間的な光強度分布は、光強度の半値全幅の端部付近(第1の高強度領域)における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が当該半値全幅の範囲内に位置するような分布が好ましいことを示している。例えば、図2B及び図2Cに示すような円環状の光強度分布や、図2D、図2E及び図2Fに示すようにビーム軸付近の中央部にも光強度の高い第2の高強度領域を有するコアアンドホロー(core and hollow)型の光強度分布が好ましい。また、第1の高強度領域とこれより内側で光強度の低い低強度領域との間は光強度の急勾配な立ち上がりを有することが望ましく、光強度の低い低強度領域とこれより内側で光強度の高い第2の高強度領域との間も光強度の急勾配な立ち上がりを有することが望ましい。
【0028】
図3Aは、図2Eに示す光強度分布を有するレーザビームをターゲット物質に照射した場合の、ターゲット物質の照射面付近における電子密度分布及び電子温度分布のシミュレーション結果を示す図である。図3Bは、図2Eに示す光強度分布を図3Aにおける表示寸法の拡大率に合わせて表示した図である。レーザビームがターゲット物質に照射されると、ターゲット物質が励起されてプラズマ化する。プラズマはターゲット物質の照射面から膨張する。このプラズマは、電子及びイオンを含んでいる。
【0029】
シミュレーションの結果は、レーザビームの光強度が高い部分においては、電子温度が非常に高くなるが、電子密度はあまり高くならないことを示している。また、このシミュレーション結果は、レーザビームの光強度が高い部分の光路に挟まれた空間(光強度が低い低強度領域)において、電子密度が非常に高くなり、電子温度はあまり高くならないことを示している。
【0030】
図2Eに示す光強度分布を有するレーザビームは、第1の高強度領域と第2の高強度領域とを有するコアアンドホロー型の光強度分布を有している。このため、これらの光強度の高い部分の光路に挟まれた円筒状の部分(光強度が低い部分)に、プラズマが閉じ込められ、高密度化すると考えられる。円筒状の部分(光強度が低い部分)で高密度化したプラズマは、レーザビームの進行方向と逆方向に、ジェット状に噴き出す。また、光強度が高い第2の高強度領域ではさらに高温のプラズマが発生し、膨張しようとする。しかし、第2の高強度領域は、高密度のプラズマを有する円筒状の部分(光強度が低い部分)に囲まれているので、第2の高強度領域から外側へ向かうプラズマの流れが抑制されると考えられる。つまり、レーザビームの照射によってターゲット物質から噴出したプラズマは、レーザビームの光強度が低い部分においてジェット状に噴出し、光強度が高い部分で生成したプラズマがターゲット表面に沿った方向に拡散するのを抑制していると考えられる。そして、光強度が高い部分において生成したプラズマはレーザビームの進行方向と逆方向に拡散し、レーザ光の吸収が良好となる密度を有する状態の領域が増大すると推測される。結果として、光強度が高い部分において生成したプラズマはレーザ光を効率的に吸収し、高温に加熱されるので変換効率が向上すると考えられる。図2B〜図2Fの例において変換効率が向上した理由には、以上のようにプラズマが効率的に加熱されたことが含まれるものと推測される。
【0031】
5.光強度分布調節光学系の実施形態
次に、光強度分布調節光学系に関する各実施形態について説明する。以下、光強度分布調節光学系の例として、円環状ビームを生成して集光光学系により集光するものと、ビームを軸対称に曲げて集光光学系により焦点を形成するものと、回折光学素子を用いて任意の光強度分布を形成するものと、について説明する。
【0032】
5.1 円環状ビームを生成して集光光学系により集光する方式
5.1.1 アキシコンレンズによる円環状ビームの生成
図4は、光強度分布調節光学系に関する第1の実施形態を示す概念図である。第1の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、2つのアキシコンレンズ37a及び37bを含んでいる。
【0033】
アキシコンレンズ37a及び37bは、それぞれ円錐形のレンズである。アキシコンレンズ37a及び37bは、それぞれの頂点が互いに向き合うように、一定間隔をあけて配置されている。また、アキシコンレンズ37a及び37bは、各々の回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。一方のアキシコンレンズ37aの底面から、レーザビームが入射すると、他方のアキシコンレンズ37bの底面から円環状のビームが出射する。
【0034】
円環状のビームは、集光レンズ22aによって集光され、集光レンズ22aの主面から焦点距離fの位置において焦点を形成する。この焦点における光強度分布は、例えば、中央部で光強度が高く、周辺部で光強度が低いガウス分布となっている。しかしながら、焦点の前方又は後方の位置A又は位置Bにおける光強度分布は、中央部に低強度領域を有する円環状の分布(図2B及び図2Cに示す分布に類似する分布)となる。従って、位置A又は位置Bにおいてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
なお、円環状のビームを集光する集光光学系は、集光レンズ22aに限定されず、集光ミラーでも良い。
【0035】
5.1.2 アキシコンミラーによる円環状ビームの生成
図5は、光強度分布調節光学系に関する第2の実施形態を示す概念図である。第2の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、アキシコンミラー37c及び平面ミラー37dを含んでいる。
【0036】
アキシコンミラー37cは、円錐の側面の形状を有する第1の反射面371と、その外側に配置された円錐台(circular truncated cone)の側面の形状を有する第2の反射面372とを組み合わせたミラー(Wアキシコンミラー)である。第1の反射面371の回転対称軸に対する傾斜角度と、第2の反射面372の回転対称軸に対する傾斜角度は、例えば、何れも45°である。但し、第1の反射面371の回転対称軸に対する傾斜角度と、第2の反射面372の回転対称軸に対する傾斜角度との和が90°となるようにしても良い。アキシコンミラー37cは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。第1の反射面371及び第2の反射面372には、レーザ光の波長に対応した高反射膜がコートされている。
【0037】
平面ミラー37dは、中央に貫通孔373が形成されたミラーであり、当該貫通孔373をアキシコンミラー37cの回転対称軸が貫通するように配置されている。また、平面ミラー37dの反射面は、アキシコンミラー37cの反射面に対向し、かつ、アキシコンミラー37cの回転対称軸に対して傾斜した角度に配置されている。平面ミラー37dの反射面にはレーザ光の波長に対応した高反射膜がコートされている。
【0038】
平面ミラー37dの裏面側から貫通孔373内を通過したレーザビームは、アキシコンミラー37cの第1の反射面371において外周側に反射し、第2の反射面372において再度反射して、円環状のビームとなってアキシコンミラー37cから出射する。アキシコンミラー37cから出射した円環状のビームは、平面ミラー37dの表面側の反射面において軸外放物面ミラー22cに向けて反射する。
【0039】
軸外放物面ミラー22cは、放物面の形状を有し、平行光である入射光を所定の焦点位置に集光するミラーである。平面ミラー37dにおいて反射した円環状のビームは、軸外放物面ミラー22cによって集光され、軸外放物面ミラー22cの焦点位置において焦点を形成する。この焦点における光強度分布は、例えばガウス分布となっている。しかしながら、焦点の前方又は後方の位置A又は位置Bにおける光強度分布は、中央部に低強度領域を有する円環状の分布となる。従って、位置A又は位置Bにおいてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
【0040】
第2の実施形態によれば、光強度分布調節光学系を反射型の光学素子で構成しているので、光学素子を冷却し過熱を抑制する機構を備えることができる。従って、光強度分布調節光学系に高出力のレーザビームが入射しても、熱膨張による光学素子の変形が抑制され、波面の歪みが抑制される。
なお、円環状のビームを集光する集光光学系は、軸外放物面ミラー22cに限定されず、他の種類の集光ミラーでも良いし、集光レンズでも良い。
また、貫通孔が形成されたミラーは、平面ミラー37dに限定されず、軸外放物面ミラー等の曲面ミラーでも良い。
【0041】
5.2 ビームを軸対称に曲げて集光光学系により焦点を形成する方式
5.2.1 アキシコンレンズと集光光学系による円環状分布の形成
図6は、光強度分布調節光学系に関する第3の実施形態を示す概念図である。第3の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、アキシコンレンズ37eを含み、集光光学系として、集光レンズ22eを含んでいる。
【0042】
アキシコンレンズ37eは、円錐形のレンズである。アキシコンレンズ37eは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。アキシコンレンズ37eに入射したレーザビームは、アキシコンレンズ37eの回転対称軸に対して軸対称に、かつ回転対称軸からの距離に関わらず一定の角度で屈折して、アキシコンレンズ37eから出射する。
【0043】
アキシコンレンズ37eから出射した光は、集光レンズ22eによって、集光レンズ22eの主面から焦点距離fの位置において集光する。この集光位置における光強度分布は、中央部に低強度領域を有する円環状の分布となる。従って、この集光位置においてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
【0044】
なお、集光光学系は、集光レンズ22eに限定されず、集光ミラーでも良い。
また、ここでは、アキシコンレンズ37eとしてアキシコン凸レンズを用いた場合について説明したが、アキシコン凹レンズを用いても良い。また、アキシコンレンズに限らず、アキシコンミラーを用いても良い。
【0045】
第3の実施形態によれば、集光レンズ22eの焦点の位置に円環状のビームを集光できるので、光強度の急勾配を有する円環状のレーザビームをターゲット物質に照射することができる。
【0046】
5.2.2 アキシコンレンズと集光光学系によるコアアンドホロー型分布の形成
図7は、光強度分布調節光学系に関する第4の実施形態を示す概念図である。第4の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、アキシコンレンズ37fを含み、集光光学系として、集光レンズ22fを含んでいる。
【0047】
アキシコンレンズ37fは、円錐台形のレンズである。アキシコンレンズ37fは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。アキシコンレンズ37fの傾斜を有する側面部374を透過するレーザビームは、アキシコンレンズ37fの回転対称軸に対して軸対称に、かつ回転対称軸からの距離に関わらず一定の角度で屈折して、アキシコンレンズ37fから出射する。アキシコンレンズ37fの中央の平面部375を通過するレーザビームは、進行方向を変えることなくアキシコンレンズ37fから出射する。
【0048】
アキシコンレンズ37fから出射した光は、集光レンズ22fによって、集光レンズ22fの主面から焦点距離fの位置において集光する。アキシコンレンズ37fの中央の平面部375を通過したレーザビームは、光軸の中心付近において集光し、アキシコンレンズ37fの傾斜を有する側面部374を透過したレーザビームは、光軸より外側に離れた位置に円環状に集光する。従って、集光位置における光強度分布は、第1の高強度領域と、第1の高強度領域より内側に位置する低強度領域と、低強度領域より内側に位置する第2の高強度領域とを有するコアアンドホロー型の分布となる。この集光位置においてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
【0049】
なお、集光光学系は、集光レンズ22fに限定されず、集光ミラーでも良い。
また、ここでは、アキシコンレンズ37fとして、平面部375を中央に有し、傾斜した側面部374を外側に有する円錐台形のアキシコンレンズを用いた場合について説明したが、これと異なるアキシコンレンズを用いても良い。例えば、円錐の側面の形状を有する傾斜部を中央に有し、平面部を外側に有するアキシコンレンズを用いても良い。また、アキシコンレンズ37fとしてアキシコン凸レンズを用いた場合について説明したが、アキシコン凹レンズを用いても良い。また、アキシコンレンズに限らず、アキシコンミラーを用いても良い。
【0050】
第4の実施形態によれば、集光レンズ22fの焦点の位置にコアアンドホロー型のビームを集光できるので、光強度の急勾配を有するコアアンドホロー型のレーザビームをターゲット物質に照射することができる。
【0051】
5.2.3 同心円状の回折格子と集光光学系による円環状分布の形成
図8Aは、光強度分布調節光学系に関する第5の実施形態を示す概念図である。第5の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、回折格子37gを含み、集光光学系として、集光レンズ22gを含んでいる。図8Bは、回折格子が形成された面を示す図であり、図8Cは、回折格子の断面を拡大した図である。
【0052】
図8A及び図8Bに示すように、回折格子37gは、同心円状の溝加工が施された透過型の回折格子である。回折格子37gは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。図8Cに示すように、回折格子37gの溝の断面は矩形形状である。溝の深さdは、次式で示す大きさとなるように加工されている。
d=λ/{2(n−1)} (1)
ここで、λはレーザビームの波長である。nは回折格子37gの屈折率である。
【0053】
図8Aに示すように、光が回折格子37gに垂直に入射する場合、即ち、入射角が0である場合、複数の溝において回折する光は、次式の条件で互いに位相が一致して強め合う。
mλ=a・sinβ (2)
ここで、mは回折次数である。λは光の波長である。aは溝の間隔である。βは出射角度である。
従って、出射角度βは、次式で表される。
β=sin−1(mλ/a) (3)
【0054】
また、溝の深さdを上述の式(1)のように設定すると、溝部分を透過する光と溝以外の山部分を透過する光との間に位相差πが与えられるため、0次の回折光が弱められる。従って、最も強い回折光は、±1次の回折光となる。
【0055】
回折格子37gには、同心円状かつ同一間隔の溝加工が施されているので、+1次の回折光の出射角度及び−1次の回折光の出射角度は、それぞれ回転対称軸に対して軸対称の分布となり、回転対称軸からの距離に関わらず一定の角度となる。従って、図8Aに示すように、回折格子37gにレーザビームが入射すると、回折格子37gからは、進行方向に向かって角度βで拡大する+1次の回折光と、進行方向に向かって角度βで縮小する−1次の回折光とが出射する。
【0056】
回折格子37gから出射した光は、集光レンズ22gによって、集光レンズ22gの主面から焦点距離fの位置において集光する。この集光位置における光強度分布は、中央部に低強度領域を有する円環状の分布となる。従って、この集光位置においてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
【0057】
集光位置における光強度が高い領域の直径Dは、次式で表される。
D=2f・tan{sin−1(λ/a)} (4)
ここで、fは集光レンズ22gの焦点距離である。λは光の波長である。aは溝の間隔である。
【0058】
なお、集光光学系は、集光レンズ22gに限定されず、集光ミラーでも良い。
また、回折格子37gは、透過型の同心円状の回折格子に限定されず、反射型の回折格子でも良い。
【0059】
第5の実施形態によれば、回折光のビーム径を大きくできるため、図6を参照しながら説明した第3の実施形態における場合よりも更に光強度の急勾配を有する円環状のレーザビームをターゲット物質に照射することができる。
【0060】
5.2.4 同心円状の回折格子と集光光学系によるコアアンドホロー型分布の形成
図9Aは、光強度分布調節光学系に関する第6の実施形態を示す概念図である。第6の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、回折格子37hを含み、集光光学系として、集光レンズ22hを含んでいる。図9Bは、回折格子が形成された面を示す図であり、図9Cは、回折格子の溝部断面を拡大した図である。
【0061】
図9A及び図9Bに示すように、回折格子37hは、同心円状の溝加工が施された透過型の回折格子である。但し、回折格子37hの中心付近は、溝加工を施しておらず、平面状である。回折格子37hは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。図9Cに示すように、回折格子37hの溝の断面は矩形形状である。溝の深さdは、次式で示す大きさとなるように加工されている。
d=λ/{2(n−1)} (5)
ここで、λはレーザビームの波長である。nは回折格子37hの屈折率である。
【0062】
図9Aに示すように、光が回折格子37hに垂直に入射する場合、即ち、入射角が0である場合、複数の溝において回折する光は、次式の条件で互いに位相が一致して強め合う。
mλ=a・sinβ (6)
ここで、mは回折次数である。λは光の波長である。aは溝の間隔である。βは出射角度である。
【0063】
回折格子37hから出射した光は、集光レンズ22hによって、集光レンズ22hの主面から焦点距離fの位置において集光する。回折格子37hの中央の平面部を通過したレーザビームは、光軸の中心付近において集光し、回折格子37hの溝加工を有する外周部を通過したレーザビームは、光軸より外側に離れた位置に円環状に集光する。従って、この集光位置における光強度分布は、第1の高強度領域と、第1の高強度領域より内側に位置する低強度領域と、低強度領域より内側に位置する第2の高強度領域とを有するコアアンドホロー型の分布となる。従って、この集光位置においてレーザビームをターゲット物質に照射することにより、変換効率を向上させることができる。
【0064】
なお、集光光学系は、集光レンズ22hに限定されず、集光ミラーでも良い。
また、回折格子37hとして、溝加工を施さない平面部を中央に有し、同心円状の溝加工が外側に施されたものについて説明したが、これと異なる回折格子を用いても良い。例えば、同心円状の溝加工が中央に施され、溝加工を有しない平面部が外側に配置された回折格子を用いても良い。また、回折格子37hは、透過型の同心円状の回折格子に限定されず、反射型の回折格子でも良い。
【0065】
第6の実施形態によれば、回折光のビーム径を大きくできるため、図7を参照しながら説明した第4の実施形態における場合よりも更に光強度の急勾配を有するコアアンドホロー型のレーザビームをターゲット物質に照射することができる。
【0066】
5.2.5 同心円状の回折格子と集光光学系との一体化
図10は、光強度分布調節光学系に関する第7の実施形態を示す概念図である。第7の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系と集光光学系とが一体化した光学素子37iを含んでいる。光学素子37iの一方の面には、同心円状の回折格子が形成されており、他方の面にはフレネルレンズが形成されている。
【0067】
光学素子37iに形成された回折格子の構成及び機能は、図8A〜図8Cを参照しながら説明した第5の実施形態における回折格子37gの構成及び機能と同様である。光学素子37iに形成されたフレネルレンズは、球面レンズを同心円状の領域に分割し、厚みを減らしたレンズであり、第5の実施形態における集光レンズ22gと同様の機能を有している。光学素子37iは、その回転対称軸がレーザビームの光軸と実質的に一致するように配置されている。
【0068】
光学素子37iに入射したレーザビームは、第5の実施形態と同様に、フレネルレンズの主面から焦点距離fの位置において円環状に集光する。従って、第7の実施形態によれば、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、回折格子として、図9A〜図9Cを参照しながら説明した第6の実施形態における回折格子37hと同様の回折格子を光学素子37iに形成すれば、第6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
5.3 回折光学素子と集光光学系による任意の光強度分布の形成
図11Aは、光強度分布調節光学系に関する第8の実施形態を示す概念図である。第8の実施形態による光強度分布調節光学系は、ビーム調節光学系37として、回折光学素子(diffractive optical element、DOE)37jを含み、集光光学系として、集光レンズ22jを含んでいる。
【0070】
回折光学素子37jは、集光レンズ22jによる集光位置において任意の光強度分布を形成するために設計された凹凸パターンを有する素子である。回折光学素子37jは、凹凸パターンの凹部を透過した光と凸部を透過した光との間に位相差πを与えるとともに、各部を透過した光を回折させる。各部を透過して回折した光は、互いに干渉する。
【0071】
回折光学素子37jから出射した光は、集光レンズ22jによって集光され、集光レンズ22jの主面から焦点距離fの位置において回折像を形成する。フレネルの回折積分式により、焦点距離fの位置(x'y'面)における光強度分布U(x',y')と、回折光学素子37jによって与えられた位相分布との関係は次のようになる。
|U(x',y')|=|F{exp[iφ(x,y)]}| (7)
x'=λf/x (8)
ここで、φ(x,y)は、回折光学素子37jの凹凸パターンが形成されたxy面において与えられる位相分布である。F{ }は、フーリエ変換を意味する。また、λは光の波長である。fは集光レンズ22jの焦点距離である。
以上のように、集光レンズ22jによって焦点位置に形成される回折像(光強度分布)は、回折光学素子37jの凹凸パターン(位相分布)のフーリエ変換で表される。
【0072】
従って、任意の回折像を得るために、回折光学素子37jの凹凸パターンを計算によって設計することができる。具体的には、回折光学素子に初期値として任意の凹凸パターンを与え、フーリエ変換によって必要とする回折像が得られるよう、反復計算を行って凹凸パターンを最適化する。
【0073】
図11Bは、図11Aに示す光強度分布調節光学系によって形成される光強度分布の一例を、レーザビームの照射方向から見た図である。図11Cは、図11BのX軸上の強度分布を示す図である。図11B及び図11Cに示す光強度分布においては、高い光強度を有する領域Hに囲まれた低い光強度を有する領域Lが、複数存在している。すなわち、周辺部より低い光強度を有する領域Lが、当該周辺部より中央側に位置しているため、このようなレーザビームをターゲット物質に照射すれば、光強度が高い領域Hの光路に囲まれた空間(光強度が低い部分)からジェット状のプラズマが噴出すると推測できる。
【0074】
特に、図11B及び図11Cに示す光強度分布においては、複数の低い光強度を有する領域Lが中央部を取り囲むように配列されている。このため、複数の低い光強度を有する領域Lから噴出する高密度のプラズマが、巨視的にはほぼ円筒状に形成されると推測できる。結果として、光強度分布の中央部から外側へ向かうプラズマの流れが抑制され、変換効率が向上すると考えられる。
【0075】
なお、集光光学系は、集光レンズ22jに限定されず、集光ミラーでも良い。
また、回折光学素子37jは、透過型の回折光学素子に限定されず、反射型の回折光学素子でも良い。
【0076】
6.ターゲット供給部の実施形態
図12は、第9の実施形態におけるターゲット供給部を示す概念図である。図12には、パンチアウトターゲット方式によるターゲット供給部26が示されている。
ターゲット供給部26は、ターゲット物質を付着させた円盤44と、ターゲット供給用のレーザビーム41を集光する光学系43と、を含んでいる。円盤44は、レーザビーム41に対する透過率の高い基板の表面にターゲット物質を塗布したものである。円盤44は、基板の中心を回転軸として回転でき、且つ回転軸が平行移動できるように、チャンバ2(図1参照)内に配置されている。
【0077】
ターゲット供給用のレーザビーム41が、チャンバ2(図1参照)の外側から導入され、光学系43によって集光されて、円盤44の裏面側から入射して円盤44を透過し、ターゲット物質の塗布層に照射される。ターゲット物質はレーザビーム41の照射によるアブレーションの反作用より、円盤44から飛び出す。このターゲット物質45の飛行経路と、プラズマ生成用のレーザビーム42の光路が交差する位置において、レーザビーム42がターゲット物質45に照射される。これによりプラズマが生成し、プラズマから発生したEUV光46がEUV光集光ミラー47によって所望の位置に集光される。
【0078】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0079】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書、及び添付の特許請求の範囲に記載される不定冠詞「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0080】
1…LPP式EUV光生成装置、2…チャンバ、3…レーザ装置、21…ウィンドウ、22…レーザ光集光ミラー、22a…集光レンズ、22c…軸外放物面ミラー、22e、22f、22g、22h、22j…集光レンズ、23…EUV光集光ミラー、24…貫通孔、25…プラズマ生成領域、26…ターゲット供給部、28…ターゲット回収器、29…連通管、34…レーザ光導入光学系、37…ビーム調節光学系、37a、37b…アキシコンレンズ、37c…アキシコンミラー、37d…平面ミラー、37e、37f…アキシコンレンズ、37g、37h…回折格子、37i…光学素子、37j…回折光学素子、41…ターゲット供給用のレーザビーム、42…プラズマ生成用のレーザビーム、43…光学系、44…円盤、45…ターゲット物質、46…EUV光、47…EUV光集光ミラー、291…壁、292…中間焦点、371…第1の反射面、372…第2の反射面、373…貫通孔、374…側面部、375…平面部、H…高い光強度を有する領域、L…低い光強度を有する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内にターゲット物質を供給するステップ(a)と、
前記ターゲット物質にレーザビームを照射することにより、プラズマを生成して極端紫外光を生成するステップであって、前記レーザビームは、前記ターゲット物質の照射位置において、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する空間的な光強度分布を有する、ステップ(b)と、
を備える、極端紫外光生成方法。
【請求項2】
前記所定距離は、光強度の半値半幅に相当する距離である、請求項1に記載の極端紫外光生成方法。
【請求項3】
前記レーザビームは、前記ターゲット物質の照射位置において、前記低強度領域における光強度よりも高い光強度を有する高強度領域が前記低強度領域よりさらに前記ビーム軸側に存在する空間的な光強度分布を有する、請求項1に記載の極端紫外光生成方法。
【請求項4】
前記ターゲット物質の照射位置における前記レーザビームの空間的な光強度分布は、前記低強度領域と、前記ビーム軸の中心から前記所定距離の位置との間に、光強度の急勾配な立ち上がりを有する、請求項1に記載の極端紫外光生成方法。
【請求項5】
チャンバと、
前記チャンバ内にターゲット物質を供給するターゲット供給部と、
前記ターゲット物質に照射されることによりプラズマを生成するレーザビームを、前記チャンバ内に導入する少なくとも1つの光学素子と、
前記レーザビームの光路に設置され、前記ターゲット物質の照射位置における前記レーザビームの空間的な光強度分布を、ビーム軸の中心から所定距離の位置における光強度よりも低い光強度を有する低強度領域が前記ビーム軸の中心から前記所定距離の範囲内に存在する光強度分布となるように調節する光強度分布調節光学系と、
を備える極端紫外光生成装置。
【請求項6】
前記光強度分布調節光学系は、
前記レーザビームを、ビーム軸に垂直な断面における光強度分布の形状が環状であるビームとなるように調節する第1の光学系と、
前記第1の光学系から出射したビームを集光する第2の光学系と、
を含む、請求項5に記載の極端紫外光生成装置。
【請求項7】
前記光強度分布調節光学系は、
前記レーザビームを、ビーム軸に対して軸対称に、一定角度で屈折又は反射させる第3の光学系と、
前記第3の光学系から出射したビームを集光する第4の光学系と、
を含む、請求項5に記載の極端紫外光生成装置。
【請求項8】
前記第1の光学系は、アキシコンレンズ、アキシコンミラー、同心円状の回折格子のうち少なくとも1つを含む、請求項6に記載の極端紫外光生成装置。
【請求項9】
前記第3の光学系は、アキシコンレンズ、アキシコンミラー、同心円状の回折格子のうち少なくとも1つを含む、請求項7に記載の極端紫外光生成装置。
【請求項10】
前記第3の光学系と前記第4の光学系は1つの透過型の光学素子からなり、当該光学素子の一方の面に前記第3の光学系が形成され、他方の面に前記第4の光学系が形成された、請求項7に記載の極端紫外光生成装置。
【請求項11】
前記ターゲット供給部は、少なくとも表面がチャンバ内に配置された透明な基板の前記表面に付着させたターゲット物質に、前記基板の裏面側から第2のレーザビームを照射することにより、前記ターゲット物質を供給する、請求項5に記載の極端紫外光生成装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図3A】
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【公開番号】特開2012−199201(P2012−199201A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64053(P2011−64053)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの開発」に関する委託研究)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114803)公益財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】