説明

極細めっき線の製造方法

【課題】 断線が発生しにくく、且つ生産効率が優れた極細めっき線の製造方法を提供する。
【解決手段】 先ず、セレンを20乃至40ppm含むシアンめっき浴を使用して、銅又は銅合金からなる線材の表面上に、この銅又は銅合金線材よりも硬く、ビッカース硬度(Hv)が100乃至150であるAgめっき層を形成する。その後、Agめっき層が形成されためっき線材を、直径が50μm未満になるように伸線加工して、極細めっき線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の小型電子機器の極細同軸ケーブルに使用される直径が50μm未満の極細めっき線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電子機器の小型化及び軽量化に伴い、電気的特性が優れた極細同軸ケーブルの需要が高まっており、特に、信号の高速伝送に対応するため、銅又は銅合金からなる素線の表面上にめっき層を形成した極細線の需要が高まっている。従来、このような極細めっき線を製造する場合には、銅又は銅合金からなる線材の表面上に純度が99.9質量%以上の銀(Ag)等からなるめっき層を形成した後、伸線加工が施されている。
【0003】
しかしながら、めっき層が形成された銅又は銅合金線材を伸線加工すると、めっき層に由来する金属粉がダイス穴に詰まり、めっき層が形成されていない銅又は銅合金線材を伸線加工する場合に比べて断線の発生頻度が増加し、生産効率が低下する。特に、直径が50μm未満の極細線を製造する際は、線材の線径が細く強度が低いため、伸線加工時に断線が多発しやすい。そこで、従来、伸線加工時の断線を防止するため、予め伸線加工された銅又は銅合金極細素線の表面上にめっき層を形成して極細めっき線とする方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。例えば、特許文献2に記載の極細めっき線の製造方法においては、素線の表面品質を向上させてめっき層と素線との密着性を向上させるため、伸線加工した線材を更に化学溶解又は電気化学溶解により縮径した後、その表面上にめっき層を形成している。
【0004】
【特許文献1】特許第2714922号公報
【特許文献2】特開2002−140935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1及び2に記載のめっき細線の製造方法のように、伸線加工された素線の表面上にめっき層を形成すると、伸線加工時の断線頻度は減少するが、伸線加工された素線にめっき処理を施す際の張力制御が難しく、生産効率が低下するという問題点がある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、断線が発生しにくく、且つ生産効率が優れた極細めっき線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る極細めっき線の製造方法は、銅又は銅合金からなる素線の表面上に銀を含むめっき層が形成された直径が50μm未満の極細めっき線の製造方法において、銅又は銅合金からなる線材の表面上に銀を含み前記線材よりも硬いめっき層を形成する工程と、このめっき層が形成された線材を伸線加工して直径を50μm未満にする工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、めっき層を銅又は銅合金線材よりも硬くしているため、表面にめっき層が形成された線材を伸線加工しても、めっき層に由来する金属粉が発生しにくくなり、伸線加工時の断線を防止することができる。また、めっき層が形成された線材を伸線加工しているため、予め所定の径に伸線加工された極細素線の表面上にめっき層を形成するよりも、生産効率が向上する。
【0009】
前記めっき層を形成する工程において、シアン化セレンカリウムを含むめっき浴を使用してもよい。これにより、シアン化セレンカリウムの添加量を変えることにより、容易にめっき層の硬さを調節することができる。
【0010】
その場合、前記めっき浴中のセレン濃度を、20乃至40ppmとすることができる。これにより、断線にくく、光沢性が優れためっき層を形成することができる。
【0011】
また、前記めっき層の硬さは、例えばビッカース硬度で100乃至150である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Agめっき層を銅又は銅合金線材よりも硬くしているため、表面にAgめっき層が形成された線材を伸線加工しても、Agめっき層に由来する金属粉が発生しにくくなり、伸線加工時の断線を防止することができると共に、Agめっき層が形成された線材を伸線加工しているため、生産効率が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る極細めっき線について具体的に説明する。本実施形態の極細めっき線は、直径が50μm未満であり、銅又は銅合金からなる素線の表面上に厚さが例えば1乃至3μmで、Agを含むめっき層が形成されている。そして、この極細めっき線におけるめっき層には、セレン(Se)及びアンチモン(Sb)等のAgめっき層を硬くする元素が添加されており、これにより、Agめっき層の硬さが素線の硬さよりも高くなっている。
【0014】
次に、本実施形態の極細めっき線の製造方法について説明する。先ず、銅又は銅合金からなり直径が例えば120μmの線材の表面上に、厚さが例えば6μmで、Agを含むめっき層を形成する。このとき、シアン化銀、シアン化カリウム及びシアン化セレンカリウムを含み、更に必要に応じて二硫化炭素等の光沢剤が添加されためっき浴を使用し、このめっき浴におけるシアン化セレンカリウムの添加量を調節することにより、めっき層が銅又は銅合金線材よりも硬くなるようにする。その後、表面にめっき層が形成された銅又は銅合金線材を、伸線機により直径が50μm未満になるように伸線して極細めっき線を得る。
【0015】
また、本実施形態の極細めっき線におけるめっき層のビッカース硬さ(Hv)は、100乃至150とすることが望ましい。めっき層のビッカース硬さ(Hv)が100未満の場合、伸線性が低下して伸線加工時に断線が多発することがある。一方、めっき層のビッカース硬さ(Hv)が150を超えると、めっき層の光沢性が低下することがある。なお、めっき層の硬さを上述の範囲にするためには、例えば、めっき浴のSe濃度を20乃至40ppmの範囲にすればよい。
【0016】
表面にめっき層が形成された銅又は銅合金線材を伸線加工したときに、金属粉が発生する原因は、銅又は銅合金線材に比べてめっき層が軟らかいためである。そこで、本実施形態の極細めっき線の製造方法においては、めっき層にSe及びSb等のAgめっき層を硬くする効果がある元素を微量添加し、めっき層を銅又は銅合金線材よりも硬くしている。これにより、表面にめっき層が形成された線材を伸線加工しても、めっき層に由来する金属粉が発生しにくくなり、伸線加工時の断線を防止することができる。
【0017】
また、本実施形態の極細めっき線の製造方法においては、めっき層が形成された線材を伸線加工しているため、前述の特許文献1及び2に記載されている極細めっき線の製造方法のように、所定の径に伸線加工された極細素線の表面上にめっき層を形成するよりも、生産効率が優れている。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。先ず、Agを1.0質量%含有する銅合金からなり、直径が120μm、長さが1000m、ビッカース硬さ(Hv)が105の銅合金線材を5ボビン用意し、各銅合金線材の表面上に、夫々、厚さが6μmで、ビッカース硬さ(Hv)が40、75、100、125及び150で、Agを主成分とするめっき層を形成して比較例1乃至3並びに実施例1及び2のめっき線材を作製した。その際、シアン化銀を30g/リットル、シアン化カリウムを35g/リットル、炭酸カリウムを35g/リットル、硝酸カリウムを100g/リットル及びシアン化セレンカリウムを含有するめっき浴を使用し、シアン化セレンカリウム添加量を変えることによりめっき浴中のSe濃度を0乃至40ppmの範囲で調節し、各線材に形成するめっき層の硬さを調節した。
【0019】
また、同様の方法で、Agを1.0質量%含有する銅合金からなり、直径が120μm、長さが1000mで、熱処理又は加工方法によりビッカース硬さ(Hv)を60とした銅合金線材の表面に、厚さが6μmで、ビッカース硬さ(Hv)が100で、Agを主成分とするめっき層を形成して、実施例3のめっき線材を作製した。更に、Agを1.0質量%含有する銅合金からなり、直径が120μm、長さが1000m、熱処理又は加工方法によりビッカース硬さ(Hv)を130とした銅合金線材の表面に、厚さが6μmで、ビッカース硬さ(Hv)が100で、Agを主成分とするめっき層を形成して、比較例4のめっき線材を作製した。
【0020】
次に、前述の実施例1乃至3及び比較例1乃至4のめっき線材を、直径が50μmになるように伸線機により伸線加工した後、更に直径が25μmになるように伸線加工し、各伸線加工工程における断線回数を調べた。その結果を下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表1に示すように、めっき層が銅合金線材よりも硬い実施例1乃至3のめっき線材では、伸線加工時に断線が発生しなかった。これに対して、めっき層が銅合金線材よりも軟らかい比較例1乃至4のめっき線材では、伸線加工時に断線が発生し、特に、直径を50μmから25μmにする加工において断線の発生回数が多かった。そこで、断線が発生しためっき線材について、断線箇所の破面をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察し、断線原因を調査したところ、伸線時にめっき層に由来する金属粉が発生しており、この金属粉がダイスに詰まって断線が発生していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる素線の表面上に銀を含むめっき層が形成された直径が50μm未満の極細めっき線の製造方法において、銅又は銅合金からなる線材の表面上に銀を含み前記線材よりも硬いめっき層を形成する工程と、このめっき層が形成された線材を伸線加工して直径を50μm未満にする工程と、を有することを特徴とする極細めっき線の製造方法。
【請求項2】
前記めっき層を形成する工程において、シアン化セレンカリウムを含むめっき浴を使用することを特徴とする請求項1に記載の極細めっき線の製造方法。
【請求項3】
前記めっき浴中のセレン濃度を20乃至40ppmとすることを特徴とする請求項2に記載の極細めっき線の製造方法。
【請求項4】
前記めっき層の硬さは、ビッカース硬度で100乃至150であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の極細めっき線の製造方法。

【公開番号】特開2006−307277(P2006−307277A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130499(P2005−130499)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】