説明

極細スパンボンド不織布及びその用途

【課題】低圧損でかつ微小ダストを高効率に除去することのできる極細繊維シートとその製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】不織布を構成する繊維束が、同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなり、かつ、下記の式(A)、(B)及び(C)を満足する繊維(a)および繊維(b)を含有していることを特徴とするスパンボンド不織布。
(a)の繊維径≦1μm (A)
(b)の繊維径≧5μm (B)
5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100 (C)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊度が異なる2種の繊維が存在している繊維束から構成されたスパンボンド不織布、および同不織布からなり、低圧損でかつ微小ダストを高効率に除去することが可能なフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体や液体に含まれる微粒子を除去するための濾材として、フィラメント、不織布、膜などが濾材として多く使用されている。
【0003】
膜濾材は、均一な微小孔径を持ち、精密なろ過が可能であるが、表面ろ過となるために、ダストによる圧力損失の上昇が急激であり、フィルター交換を頻繁にする必要がある。
【0004】
繊維系の濾材は、シート内空間が多いために、捕捉されたダストによる圧力損失の上昇が緩やかであり、フィルター寿命が永いというメリットがある。その一方で、その繊維径や繊維分布状態から、均一で微小孔径を有するシートが容易には得難いという問題点がある。
【0005】
繊維系濾材は、構成する繊維の直径を細くすることで、高性能化することが可能であり、様々な極細繊維濾材が提案されているが、繊維径が細くなると、通気性が大幅に低下するために、圧力損失が高くなるといった問題がある。
【0006】
前記の課題を解決する方法として、長繊維不織布、すなわちスパンボンド不織布の技術を用い、スパンボンド不織布を構成する繊維として、2成分以上のポリマーからなる複合繊維を用い、そして、構成するポリマーの一方を、アルカリ減量法や溶剤抽出法に代表されるような化学薬品を使用して除去した不織布を使用する方法が考えられる。このような方法を用いると、極細繊維からなるスパンボンド不織布が得られ、このものは、上記した圧力損失の問題点がかなり解消できることとなる。
【0007】
しかしながら、このような方法を用いると、除去する成分とは別の成分(すなわち残存させる繊維成分)が好ましくない影響を受けるため、複合繊維を構成する成分の組み合せが大きく限定される場合が多い。更に、この方法により得られる不織布も、まだ圧損の点で十分に満足できるものではない。
【0008】
一方、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)は水溶性のポリマーであって、その基本骨格、分子構造、形態、各種変性等により水溶性の程度を変えることができることが知られている。また、PVAは生分解性の樹脂であることが確認されている。地球環境的に、合成物を自然界といかに調和させるかが大きな課題となっている現在、このような基本性能を有するPVAおよびPVA系繊維は多いに注目されている。
【0009】
本発明者等は、特開2001−262456公報(特許文献1)で、溶融紡糸によりPVAと他の熱可塑性ポリマーとの複合長繊維を製造すると同時に得られた同複合長繊維を不織布とする方法について、さらには、得られる複合長繊維不織布からPVAを水で抽出除去して得られる異型断面あるいは極細繊度を有する長繊維不織布について提案している。
本発明者らは、この技術において、さらに低圧損でかつ微小ダストを高効率に除去することが可能な不織布について研究を行った結果、本発明に到達した。
【0010】
【特許文献1】特開2001−262456公報(0039欄および0040欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来の濾材と比較し、圧力損失が低く、使用の際に化学物質などの溶出や繊維の脱落の無い、高捕集性、高寿命のフィルター濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、不織布を構成する繊維束が、同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなり、かつ、下記の式(A)、(B)及び(C)を満足する繊維(a)および繊維(b)を含有しているスパンボンド不織布が低い圧力損失であることを見出した。
(a)の繊維径≦1μm (A)
(b)の繊維径≧5μm (B)
5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100 (C)
【0013】
また上記不織布構成繊維表面に1%以下のPVA(イ)が存在していることで水系のフィルターとして使用する際に初期圧損が低下すること、更にはPVA(イ)が、エチレン単位を3〜15モル%含有する変性PVAであることで複合溶融紡糸性が向上し、より均質で高性能な濾材を得ることができることを見出した。
【0014】
また、本発明は、不織布を構成する繊維束が、同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなり、かつ、下記の式(A)、(B)及び(C)を満足する繊維(a)および繊維(b)を含有しているスパンボンド不織布を以下の工程(1)〜(3)を(1)、(2)、(3)の順序で行い、製造するスパンボンド不織布の製造方法である。
(a)の繊維径≦1μm (A)
(b)の繊維径≧5μm (B)
5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100 (C)
(1)熱可塑性ポリマー(ア)とポリビニルアルコール(イ)を別々の押出機にて溶融混錬し、径の異なる島成分を形成できるノズルパックを用いて複合溶融紡糸し、熱可塑性ポリマー(ア)を島成分とし、ポリビニルアルコール(イ)を海成分とする海島型複合繊維を得て、それをウエブ化する工程、
(2)得られたウエブを、ニードルパンチ処理、水絡処理、エンボス処理およびカレンダー処理から選ばれる少なくとも一つの処理により、シート形態を維持する工程、
(3)シート化したスパンボンドシートからポリビニルアルコール(イ)を水で溶解除去する工程、
【0015】
さらに、本発明は、本発明のスパンボンド不織布の好適な用途として、液体フィルター、気体フィルター等を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においてシートを構成する繊維束中には、実質的に同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなる、繊度の異なる繊維(a)および繊維(b)が存在しており、(a)の繊維径は1μm以下、(b)の繊維径は5μm以上である必要がある。(a)の繊維径が1μmより大きい場合には、濾材として目的とする性能が得られない。また0.1μm未満の場合には、加工性などが低下し、安定な生産が困難となる場合があり、0.1μm以上が好ましい。特に(a)の繊維径としては、0.3〜0.9μmの範囲が好ましい。また、(b)の繊維径が5μm未満の場合には、(b)がシート中で空隙を保持するには十分でなく、圧力損失低減への効果を十分に発現しない。但し、(b)が30μmを超える場合には圧力損失低減には寄与するが、一方で捕集性が悪化する場合がある。したがって、30μm以下が好ましい。特に(b)の繊維径としては、5〜10μmの範囲が好ましい。
【0017】
また、繊維(a)および繊維(b)は、5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100の範囲にあることが必要であり、5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦50の範囲が好ましい。{(b)の繊維径/(a)の繊維径}が5未満の場合には、すなわち、(a)と(b)の繊維径差が少ない場合には、(b)がシート中で空隙を保持するには十分でなく、圧力損失低減への効果を十分に発現しない。また{(b)の繊維径/(a)の繊維径}が100を越える場合には、すなわち(b)の繊維径が(a)に対して極端に大きい場合には、圧力損失低減には寄与するが、一方で捕集性が悪化することとなる。特に好ましくは10〜20の範囲である。
【0018】
また、繊維束中の2種類の繊度を持つ繊維(a)および(b)の本数比が10≦{(a)の繊維束中の本数/(b)の繊維束中の本数}≦500の範囲であることが好ましく、50≦{(a)の繊維束中の本数/(b)の繊維束中の本数}≦300であることがより好ましい。{(a)の繊維束中の本数/(b)の繊維束中の本数}が10未満の場合には、すなわち、(a)の本数が少量となる場合には、極細繊維成分が減少するために、濾材として目的とする性能が得られないことがある。また、{(a)の繊維束中の本数/(b)の繊維束中の本数}が500を越える場合には、即ち(b)の本数が極度に多くなる場合には、シート中で空隙を保持するには十分ではなく、圧力損失低減への効果を十分に発現しないことがある。
【0019】
また、本発明のスパンボンド不織布は、繊維束から構成されていることが必要であり、繊維束から構成されず、個々の繊維がばらばらの独立した状態で存在している場合には、
極細繊維成分と太繊維成分をシート中で均一に存在させることが困難であり、物性に斑が生じ易く、本発明の目的を達成できない。本発明において、スパンボンド不織布を構成する繊維を束の状態で存在させるためには、紡糸により得られた複合紡糸長繊維不織布からPVA成分を除去する際に、繊維が移動しないように拘束した状態でPVA成分の除去を行うのが好ましい。例えば、PVA成分除去時に、複合紡糸長繊維不織布の上下を通水性シートで覆い、PVA成分除去時の、抽出液の動きにより繊維が自由に動くことを抑えることにより達成される。
【0020】
もちろん、本発明のスパンボンド不織布において、上記したように、不織布は繊維束から構成されていることが必須であるが、このことは不織布を構成する繊維の全てが繊維束であることを意味するものではない。すなわち、繊維束が僅かで大部分が繊維束を形成していない場合でも、繊維束が不織布内に存在していることにより効果を発揮する。好ましくは、不織布の1〜100重量%が繊維束から構成されている場合である。そして、繊維束の中には、繊維(a)と繊維(b)が共存していることが必要である。
【0021】
不織布を製造する方法として、本発明のように長繊維から製造する方法の外に、捲縮を有する短繊維をカードにかけてウェブを製造し、それにニードルパンチや水流絡合を施して不織布を製造する乾式短繊維不織布の製法、或いは上記乾式短繊維不織布の製法に用いる短繊維より短くショートカットした繊維を水中に分散し、それを漉き挙げて、必要によりバインダーや熱により繊維を固定して不織布化する湿式不織布の製法が挙げられるが、これらの方法では、濾材として使用する際に、短繊維屑の脱落、バインダー成分の溶出等の問題が生じ、本発明の目的を達成することが出来ない。
【0022】
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維束には、繊維(a)が50〜500本存在しているのが濾材として使用する際、捕集性を向上させるという点で好ましい。
なお、本発明において繊維(a)と繊維(b)を構成する樹脂は実質的に同一であることが、成形加工のし易さや、使用後のリサイクル性が向上する点で必要であるが、繊維(a)と繊維(b)の少なくとも一方に、少量成分として熱可塑性ポリマー(ア)以外の樹脂、無機微粒子、各種安定剤等をブレンドしてもよい。
【0023】
さらに、本発明のスパンボンド不織布は、繊維(a)及び繊維(b)のみからなる場合以外に、繊維(a)と繊維(b)が繊維束で存在していることによる効果を著しく損なわない範囲で他の繊維が繊維束中に、或いは繊維束とは独立して存在していてもよい。好ましくは、繊維(a)と繊維(b)がスパンボンド不織布の主要構成繊維となっている場合、特に好ましくは、繊維(a)と繊維(b)のみから構成されている場合である。
【0024】
本発明の繊維(a)と繊維(b)が混在するスパンボンド不織布は、熱可塑性ポリマー(ア)、および水溶性熱可塑性PVA(イ)からなり、(ア)が島成分、(イ)が海成分となっており、(ア)が上記したような2種類の太さを有している複合スパンボンド不織布より、該水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出除去することにより、得ることができるが、PVA(イ)の抽出除去後も、繊維表面に繊維質量に対して1%以下のPVA(イ)が存在することが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。すなわち、PVAにより繊維表面の濡れ性が向上し、水系の液体フィルターとして使用の際には、初期圧損を大幅に抑えることが可能となる。PVA(イ)の量が1%より多い場合には、繊維束の分散が十分に進まない上に、液体フィルターとして使用の際に、溶出成分として系中に混入する場合がある。より好ましくは0.001〜0.3%の範囲である。
【0025】
複合溶融紡糸時の安定性の観点から、PVA(イ)は、エチレン単位を3〜15モル%含有する変性PVAであることが好ましい。3モル%未満の場合は溶融紡糸性が低く、また15モル%より多い場合には、水溶性が低下し、極細化が容易に行えないことがある。より好ましくはエチレン単位を5〜10モル%含有する変性PVAの場合である。
【0026】
PVA(イ)は、エチレン共重合変性だけでなく、他の共重合変性、末端変性、および後変性により官能基を導入した変性PVAも包括するものである。勿論、溶融紡糸可能なものであらねばならない。溶融紡糸には向かない通常のPVAでは、溶融温度と熱分解温度が近接しているため溶融紡糸することはできず(すなわち熱可塑性ではなく)、溶融温度を下げるための種々の工夫が必要である。
【0027】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)としては200〜800が好ましく、230〜600がより好ましく、250〜500が特に好ましい。通常の繊維用に使用されるPVAは、重合度が高いほど高強度繊維が得られることから、重合度1500以上のものが一般的であり、例えば重合度約1700のものや約2100のものが一般的である。そのことから考えると、本発明で好適に用いられるPVAの重合度200〜800は繊維用としては極めて低いと言える。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、その結果として満足な複合繊維が得られない場合がある。一方、重合度が800を越えると溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルからポリマーを吐出することができず、満足な複合繊維を得られない場合がある。PVAの重合度は、溶媒濃度、重合速度、重合率、重合温度などにより決定され、重合度を低くするためには溶媒濃度および重合率を高くすればよい。
【0028】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0029】
本発明に用いられるPVAのけん化度は90〜99.99モル%の範囲が好ましく、92〜99.9モル%がより好ましく、94〜99.8モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって安定な複合溶融紡糸を行うことができない場合がある。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。PVAのけん化度を高めるためにはけん化触媒量を増やし、反応温度を高くし、反応時間を長くすればよい。
【0030】
PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを生産性よく得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0031】
本発明で使用するPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜200℃の範囲が適当である。
【0032】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属イオンの含有割合は、PVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.00001〜0.05質量部が好ましく、0.0001〜0.03質量部がより好ましく、0.0005〜0.01質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。またアルカリ金属イオンの含有量が0.05質量部より多い場合には複合溶融紡糸時のポリマー分解、ゲル化および断糸が著しく、安定に繊維化することができない場合がある。なお、アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等が挙げられる。
【0033】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中においてけん化するに際し、けん化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、けん化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが、後者の方法が好ましい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0034】
けん化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが挙げられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。
【0035】
けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがもっと好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0036】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、融点や溶融粘度を調整するとともに、結晶配向性を低下させる目的でPVAに可塑剤を添加することが効果的である。可塑剤としては、従来公知のもの全てが使用できるが、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加したものが好適に使用される。そのなかでも、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル%付加した化合物が好ましい。
【0037】
次に本発明の極細長繊維不織布の製造方法について説明する。本発明の極細長繊維不織布は、PVA(イ)、特に水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマー(ア)からなる複合長繊維で構成された不織布から該水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で溶解(抽出)除去することにより製造することができる。
【0038】
本発明に用いられる熱可塑性ポリマー(ア)の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系ポリマーおよびその共重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル系ポリマーおよびその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12等の脂肪族ポリアミド系ポリマーおよびその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系ポリマーおよびその共重合体、エチレン単位を25モル%から70モル%含有する水不溶性のエチレン−ビニルアルコール共重合体系ポリマー、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー系ポリマー等の中から少なくとも一種類を選んで用いることができる。
【0039】
本発明において、より好適に用いられる熱可塑性ポリマー(ア)としては、PVAと複合紡糸しやすい点からは、ポリオレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ナイロン系ポリマーが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ナイロン6、ナイロン66、ポリプロピレンが好適例としてあげられる。
【0040】
水溶性熱可塑性PVA(イ)と他の熱可塑性ポリマー(ア)からなる複合長繊維不織布は、溶融紡糸と不織布形成を直結したいわゆるスパンボンド不織布の製造方法によって効率良く製造することができる。
【0041】
例えば、水溶性熱可塑性PVA(イ)と他の熱可塑性ポリマー(ア)をそれぞれ別の押出機で溶融混練し、引き続きこれら溶融したポリマーの流れをそれぞれ紡糸頭に導き、直径の異なる島成分を形成できるノズルパック内で樹脂を分配させ、合流し、流量を計量し、紡糸ノズル孔から吐出させ、この吐出糸条を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて、目的の繊度となるように、1000〜6000m/分の糸条の引取り速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて不織布ウエブを形成させ、引き続きこのウエブを部分熱圧着して巻き取ることによって複合長繊維不織布を得ることができる。
【0042】
本発明において複合溶融紡糸繊維を製造する場合は、ポリマーの組み合せ、複合断面に応じて適宜設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが望ましい。
【0043】
紡糸口金温度は、複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点をMpとするときMp+10℃〜Mp+80℃が好ましく、せん断速度(γ)500〜25000sec−1、ドラフト(V)50〜2000で紡糸することが好ましい。また、複合紡糸するポリマーの組み合せから見た場合、紡糸時における口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマー、例えば溶融紡糸口金温度において、せん断速度1000sec−1における溶融粘度差が2000poise以内である組み合せで複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
【0044】
本発明において複合繊維を製造する場合には、紡糸口金温度が複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点Mp+10℃より低い温度では、該ポリマーの溶融粘度が高すぎて、高速気流による曳糸・細化性に劣り、またMp+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために安定した紡糸ができない。また、せん断速度は500sec−1よりも低いと断糸しやすく、25000sec−1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは50より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが2000より高くなると断糸しやすくなる。
【0045】
複合繊維を製造する場合において、複合形態は特に限定されないが、目的とする極細繊維成分(a)と太繊維成分(b)が存在し、かつ極細繊維成分(a)の繊維径は1μm以下である必要がある。そのため、細い繊維が得られやすい海成分と島成分からなる海島型形状を有するものが好ましい。また複合断面形状が海島型である場合には、極細繊維形成成分(ア)である島成分の数として2〜1000の範囲が生産性の点で好ましく、より好ましくは10〜500の範囲である。なお、本発明において、太繊維成分(b)は極細繊維成分(a)に完全に囲まれるように、複合断面形状中に存在しているのが好ましく、また太繊維繊維が複合繊維断面中に複数本存在している場合には、複合繊維断面中に、ほぼ均一に存在しているのが好ましい。さらに、PVA成分を除去した後の繊維束の太さとしては3〜100μm範囲の範囲であることが、シート中に空隙を保持し、通気性を向上させるという点で好ましい。
【0046】
本発明に用いる熱可塑性ポリマー(ア)と水溶性熱可塑性PVA(イ)とからなる複合スパンボンド不織布を製造する場合には、熱可塑性ポリマー(ア)と水溶性熱可塑性PVA(イ)の質量比は目的に応じて適宜設定されるので特に制限はないが、5/95〜95/5が好適であり、10/90〜90/10がより好ましい。好適な範囲を外れた場合には複合した効果が現れない場合がある。
【0047】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリマー(ア)および水溶性熱可塑性PVA(イ)には、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0048】
また必要に応じて、平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を熱可塑性ポリマー(ア)の質量に対して0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で該熱可塑性ポリマー(ア)に添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子、例えばシリカ等が添加されていることが好ましく、この場合には紡糸性、延伸性が向上する。なお、ここで言う平均粒子径とは、光散乱法により測定される値のことである。
【0049】
スパンボンド化においては、糸条の引取り速度に該当する速度で高速気流により繊維を牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に繊維を堆積させて不織布ウエブを形成させ、引き続きこのウエブを部分熱圧着して巻き取ることによって複合長繊維不織布を得ることができる。更に必要に応じ、ボンディング、絡合処理を行い、目的に応じたウエブ加工を実施することで様々な風合い・物性のシートを得ることができる
【0050】
繊維束の分散性、風合い、性能面を考慮すると、絡合手法ではニードルパンチ処理または水流絡合処理が好ましい。熱固定手法ではエンボス処理、カレンダー処理が好ましい。
【0051】
ウエブの目付としては、5〜500g/mの範囲が不織布の生産性および後加工性の点で好ましい。更に吸引細化されたウエッブ形成複合繊維の太さとしては0.2〜8dtexの範囲が生産性の点で好ましい。
【0052】
本発明では、複合スパンボンド不織布を製造した場合、該不織布から水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出除去することにより、熱可塑性ポリマー(ア)の極細化が可能である。複合スパンボンド不織布から水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出する方法に関しては、制約は無いが、生産性の面から連続式での処理が好ましい。装置や抽出除去方式については任意の方法を適宜選択することができる。抽出水は中性でかまわないし、アルカリ水溶液、酸性水溶液、あるいは界面活性剤等を添加した水溶液であっても良い。前記したように、水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出除去する際に、スパンボンド不織布の上下を通水性シートで覆い、それにより抽出時の繊維の移動を抑制し、その状態で、水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出除去するのが、繊維束を保つ上で好ましい。
【0053】
複合繊維スパンボンド不織布から水溶性熱可塑性PVA(イ)を水で抽出除去する場合には、前記の通り、シート内に繊維束の一部が残存するように、除去処理を行うことが好ましい。そのためには、予め使用する水の量、処理方法、処理時間、処理温度等を種々変更して、本発明で規定する繊維束量が得られるようにこれら条件を決めておくのが好ましい。一般に、抽出処理する際の水の温度としては40〜120℃が好ましい。処理時間としては3〜60分が一般的である。さらに使用する水の量としては、複合スパンボンド不織布の重量に対して100〜10000倍の範囲である。
【0054】
本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後の廃液の処理には活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ月で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
【0055】
さらに本発明のスパンボンド不織布は目的に応じ、エレクトレット加工による帯電処理、プラズマ放電処理やコロナ放電処理による親水化処理等の後加工処理を行ってもよい。本発明で得られる極細繊維からなるスパンボンド不織布の目付としては3〜300g/mが好ましい。
【0056】
また、本発明で得られるスパンボンド不織布は、単独で使用するのみではなく、他の長繊維不織布や短繊維不織布、織物や編物等と積層して用いることも可能であり、上記の用途に用いる場合、実用機能をさらに付与することができる。さらに、支持体として、金属網や樹脂製の網等と重ね合わせて、フィルターに使用することが出来る。
【0057】
本発明の極細スパンボンド不織布は液体、気体、集塵用フィルター等の空調用材、リントフリーワイパー、各種ワイピングクロス等のワイパー、絶縁材、電池セパレータ等のエレクトロニクス用、油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材など産業用資材;紙おむつ、ガーゼ、ホータイ、医療用ガウン、サージカルテープなどの医療・衛材;印刷物基材、包装・袋物資材、ワイパー、収納材などの生活関連資材;衣料用;建設資材用;農業・園芸用資材;土壌安定材、流砂防止材、補強材などの土木・資材用;鞄靴材等の用途に用いることができる。
【0058】
特に、本発明のスパンボンド不織布は、極細繊維成分(a)によって微小ダストを高効率で捕集することができる。また混在する(b)の太繊維が骨材となり、空隙も保持していることから、通気性、通液性も良好なシートとなり、圧力損失の上昇が少なく、高寿命な濾材として好適に使用することができる。具体的な用途分野として、液体フィルターについては、例えば製薬工業分野、電子工業分野、食品工業分野、自動車工業分野等である。気体フィルターについては、例えば家電用分野、自動車などのキャビン用分野、マスク用分野等である。
【実施例】
【0059】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において、各物性値は以下のようにして測定した。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0060】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は、特に記載のない限り、JIS−K6726に従った。
変性量は、変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz1H−NMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めた。
アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0061】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で270℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0062】
[紡糸状態]
溶融紡糸の状態を観察して次の基準で評価した。
◎:極めて良好、○:良好、△:やや難あり
【0063】
[不織布の状態]
得られた不織布を目視観察および手触観察して次の基準で評価した。
◎:均質で極めて良好、○:ほぼ均質で良好、△:やや難あり
【0064】
[繊維径]
繊維束の長さ方向に直角な面での電子顕微鏡により倍率1000倍で撮影し、それをさらに拡大して、繊維束を構成する個々の繊維の断面積から直径を算出し、その値を繊維径と認定する。
【0065】
[スパンボンド不織布中のPVAの割合]
30cm×30cmの試料をオートクレーブ中で2000ccの水に浸漬し、120℃で1時間加熱処理した。処理後、熱水中からシートを取り出して軽く搾り、抽出液を取り換えて同様の操作を実施。計3回の繰り返し処理により、シート中の水溶性熱可塑性PVA(a)を完全抽出除去。処理前後の質量変化より、シート中の水溶性熱可塑性PVA(a)の割合を求めた。
【0066】
[目付]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0067】
[厚み]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0068】
[平均孔径]
コールター・エレクトロニクス社製;colter POROMETERIIにより測定した。
【0069】
[通気度]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0070】
[液体フィルター捕集率]
35mmφの濾材をホルダーにセットし、JIS7種ダストの分散液を0.05MPaにて圧送した。ろ過前後の分散液の濁度測定により捕集率を算出。
【0071】
[気体フィルター捕集率および圧力損失(Pa)]
JIST8151に従い、試料を11cmφの大きさに切出し、ろ過部8.6cmφの試料台にセットし、風量30L/分で石英粉塵(平均粒径2μm)をろ過したときの捕集率および圧力損失を測定した。
【0072】
実施例1
[エチレン変性PVAの製造]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.6kg/cm(5.5×10Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.6kg/cm(5.5×10Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。9.5時間後に重合率が68%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。
【0073】
得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液2.0kg(溶液中のポリ酢酸ビニル1.0kg)に、0.47kg(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約5分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で3時間放置してけん化を進行させた後、0.5%酢酸濃度の水/メタノール=20/80混合溶液10.0kgを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAに水/メタノール=20/80の混合溶液20.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、さらにメタノール10.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。その後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。
【0074】
得られたエチレン変性PVAのけん化度は99.1モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.0012質量部であった。
【0075】
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は8.7モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ340であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ212℃であった(表1)。
【0076】
【表1】

【0077】
上記で得られたPVAを日本製鋼所(株)二軸押出機(30mmφ)を用いて設定温度220℃、スクリュー回転数200rpmで溶融押出することによりペレットを製造した。
【0078】
上記で得られたPVA(PVA−1)ペレットと、メルトフローレートが35、融点が160℃のポリプロピレンを準備し、それぞれのポリマーを別の押出機で加熱して溶融混練し、不織布を構成する複合長繊維の繊維軸に直交する繊維断面に占める質量比率がPP/PVA=70/30になるように230℃の300島/海型(海島型)複合紡糸パック(図1)に導き、ノズル径0.35mmφ×1008ホール、吐出量1050g/分、せん断速度2500sec−1の条件で紡糸口金から吐出させ、紡出フィラメント群を20℃の冷却風で冷却しながら、ノズルから80cmの距離にあるエジェクターにより高速エアーで2300m/分の引取り速度で牽引細化させ、開繊したフィラメント群をエンドレスに回転している捕集コンベア装置上に捕集堆積させ長繊維ウエブを形成させた。紡糸状態は、断糸は全く見られず、断面形状も極めて良好であった。
【0079】
次いで、このウエブをニードルパンチ加工によりシート化し、目付51g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布の均質性は極めて良好であった。
【0080】
得られた複合長繊維不織布約50mについて、その両面を通水性シートで覆った状態で、連続式多段洗浄槽を用い、95℃にて10分間、PVA成分の抽出処理を行った。抽出除去後の不織布中PVAの割合は0.1%であった。製造条件と、製造結果を表2および表3に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
得られたスパンボンド不織布は、繊維束から構成されており、繊維束の中央に10μmの島成分、その周りには0.7μm、200個の島成分が分散された状態でシートを構成していた。10μmの繊維が空隙を付与し十分な通気性を保持しながら、0.7μmの極細繊維が高効率でダストを捕集した(表3)。
【0084】
実施例2
複合繊維成分の質量比率および極細繊維成分の島数を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は実施例1と同じ条件にて極細スパンボンド不織布を得た。比率変更に際しては、パックへのポリマー導入量を変えることで調整させた。島数はノズルプレートのデザインを変えることで変更できる。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は、繊維束から構成されていたが、太繊維(b)に対して極細繊維数が少ないために、ややダストの捕集率が低下した。
【0085】
実施例3
複合繊維成分の質量比率および極細繊維成分の島数を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は、実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布を得た。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されていたが、太繊維(b)に対して極細繊維数が多いために、通気性が低下し、圧損がやや上昇した。
【0086】
実施例4
複合繊維成分の質量比率および極細繊維成分の島数を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は、実施例1と同じ条件下にて複合繊維からなる不織ウエブを得た。次いで、この不織ウエブを水流絡合処理によりシート化し、実施例1と同じ条件にてPVA成分の抽出処理を行った。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、高いダスト捕集性を示した。
【0087】
実施例5および実施例6
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に記載するPVAを用い、表2に記載の紡糸温度とし、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布を得た。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、良好なダスト捕集性を示した。
【0088】
実施例7
実施例1で用いたポリプロピレンの変わりに固有粘度が0.7、融点が255℃のポリエチレンテレフタレートを用い、表2に記載の紡糸温度とし、複合繊維成分の質量比率を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布得た。製造条件と、製造結果を表2および表3に示す。得られた不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、高い捕集率を示した。
【0089】
実施例8
実施例1で用いたポリプロピレンの変わりに固有粘度が2.6、融点が222℃の6−ナイロンを用い、表2に記載の紡糸温度とし、複合繊維成分の質量比率を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布得た。製造条件と、製造結果を表2および表3に示す。得られた不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、高い捕集率を示した。
【0090】
実施例9
実施例1と全く同じ条件下にて複合繊維からなる不織ウエブを得た。次いで、この不織ウエブを140℃、線圧50kgfにて熱エンボス処理し、実施例1と同じ条件にてPVA成分の抽出処理を行った。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、良好なダスト捕集性を示した。
【0091】
実施例10
実施例1と全く同じ条件下にて複合繊維からなる不織ウエブを得た。次いで、この不織ウエブを120℃、線圧100kgfにて熱フラットカレンダー処理し、実施例1と同じ条件にてPVA成分の抽出処理を行った。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されており、十分な通気性を保ちながら、良好なダスト捕集性を示した。
【0092】
実施例11
実施例1と全く同じ条件下にて複合繊維からなる不織ウエブを得た後、ニードルパンチ処理により複合スパンボンド不織布を得た。次いで、この不織布について、抽出時間を1分に変更する以外は実施例1と同じ条件にてPVA成分の抽出処理を行った。製造結果を表2および表3に示す。得られた極細スパンボンド不織布は繊維束から構成されていたが、PVA成分が多く残存するために、繊維束の分散がやや低く、ダスト捕集率が若干低下した。
【0093】
比較例1
繊維断面の中央島成分の直径が小さくなるように、複合繊維成分の質量比率およびノズル温度設定を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は実施例と同じ条件にて極細スパンボンド不織布を得た。製造条件と、製造結果を表2および表3に示す。得られた不織布は繊維束中央部の繊維の直径が小さいために、空隙が十分に付与されず、濾材として使用した際に、大幅に圧力損失が上昇した。
【0094】
比較例2
繊維断面の中央島成分の直径が大きく、かつ表2に示す極細繊維成分の島数となるようなノズルパックを使用し、複合繊維成分の質量比率を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は、実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布を得た。製造結果を表2および表3に示す。得られたスパンボンド不織布は、繊維束中央島成分(b)の直径が極端に大きいため空隙は付与されるが、一方で均質性の低いシートとなり、濾材として使用した際に大幅にダストの捕集性が低下した。
【0095】
比較例3
繊維断面の極細繊維成分(a)の直径が大きくなるようなデザインのノズルパックを使用し、複合繊維成分の質量比率およびノズル温度設定を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は、実施例1と同じ条件下にて極細スパンボンド不織布を得た。製造結果を表2および表3に示す。得られたスパンボンド不織布は、極細繊維成分(a)の直径が2.1μmと太く、濾材として使用した際に大幅にダストの捕集性が低下した。
【0096】
比較例4
極細繊維成分のみで構成される繊維断面となるノズルパックを用い、複合繊維成分の質量比率を変更し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度を調整する以外は、実施例と条件下にて極細スパンボンド不織布を得た。製造結果を表2および表3に示す。得られたスパンボンド不織布は、繊維束中央部に骨材となる太繊維が存在しないために、シート中に空隙が付与されず、密度の高いシートとなった。このシートを濾材として使用した際には、圧力損失が大幅に上昇した。
【0097】
比較例5
比較例4で使用したノズルパックを使用して複合繊維を紡糸するとともに、単一ポリマー(ポリプロピレン)からなる直径10μm繊維を複合繊維と同一本数となるように紡糸工程中に加え、複合繊維とポリプロピレン繊維からなるスパンボンド不織布を製造した。そして、このスパンボンド不織布を実施例1と同様に処理して、複合繊維の極細化を行った。得られたシートにおいて、極細繊維と該ポリプロピレン繊維は束を構成しておらず、別々の状態で存在していた。このシートは濾材として使用した際に 均一に太繊維が分布していないため、通気性、通液性の向上が顕著に現れない上に捕集性能も十分ではなく、濾材としては上記実施例のものよりはるかに劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に使用される複合繊維の複合形態の一例を示す繊維断面図
【符号の説明】
【0099】
1 水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール
2 熱可塑性ポリマー(a)
3 熱可塑性ポリマー(b)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を構成する繊維束が、同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなり、かつ、下記の式(A)、(B)及び(C)を満足する繊維(a)および繊維(b)を含有していることを特徴とするスパンボンド不織布。
(a)の繊維径≦1μm (A)
(b)の繊維径≧5μm (B)
5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100 (C)
【請求項2】
繊維束中の繊維(a)および繊維(b)の本数比が10≦{(a)の繊維束中の本数/(b)の繊維束中の本数}≦500の範囲である請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
繊維表面に、不織布重量に対して1%以下のポリビニルアルコール(イ)が存在している請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
ポリビニルアルコール(イ)が、エチレン単位を3〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項3に記載のスパンボンド不織布。
【請求項5】
熱可塑性ポリマー(ア)が、ポリオレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ナイロン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである請求項1〜4のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項6】
ニードルパンチ処理、水絡処理、エンボス処理、カレンダー処理から選ばれる少なくとも一つの処理によりシート化されている請求項1〜5のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のスパンボンド不織布を用いた濾材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のスパンボンド不織布を用いた気体フィルター。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のスパンボンド不織布を用いた液体フィルター。
【請求項10】
不織布を構成する繊維束が、同一の熱可塑性ポリマー(ア)からなり、かつ、下記の式(A)、(B)及び(C)を満足する繊維(a)および(b)を含有しているスパンボンド不織布を以下の工程(1)〜(3)を(1)、(2)、(3)の順序で行い、製造することを特徴とするスパンボンド不織布の製造方法。
(a)の繊維径≦1μm (A)
(b)の繊維径≧5μm (B)
5≦{(b)の繊維径/(a)の繊維径}≦100 (C)
(1)熱可塑性ポリマー(ア)とポリビニルアルコール(イ)を別々の押出機にて溶融混錬し、直径の異なる島成分を形成できるノズルパックを用いて複合溶融紡糸し、熱可塑性ポリマー(ア)を島成分とし、ポリビニルアルコール(イ)を海成分とする海島型複合繊維を得て、それをウエブ化する工程、
(2)得られたウエブを、ニードルパンチ処理、水絡処理、エンボス処理およびカレンダー処理から選ばれる少なくとも一つの処理により、シート形態を維持する工程、
(3)シート化したスパンボンドシートからポリビニルアルコール(イ)を水で溶解除去する工程、

【図1】
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【公開番号】特開2008−95254(P2008−95254A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281231(P2006−281231)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】