説明

極細二層構造糸及びそれからなるワイピングクロス

【課題】本発明は、油、水などの拭取り性、捕塵力が高く、産業用途にも使用可能な発塵性の少ないワイピングクロスに適した二層構造糸を提供することにある。
【解決手段】単糸繊度が0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAと、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBとが混繊された二層構造糸であって、その交絡部において、マルチフィラメントBが繊維表面に現れている箇所が20個/m以下であり、マルチフィラメントAが主として鞘部に配置され、マルチフィラメントBが主として芯部に配置されてなる、下記要件を満足する極細二層構造糸。
(1)マルチフィラメントAの強度≧3.0cN/dtex
(2)20個/m≦二層構造糸の交絡個数≦100個/m
により、目的とするワイピングクロス用二層構造糸が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い吸水性を有し、ふき取り性に優れ、発塵の少ない、ワイピングクロスに適した極細二層構造糸及びそれからなるワイピングクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワイピングクロスは、清掃用布帛、眼鏡やレンズ拭きなどの用途に使用されてきた。そして、その多くは、吸水性良好な繊維素材として木綿繊維などの天然繊維や、布帛内の繊維表面積を大きくすることにより、吸着力が高まることを期待した極細繊維が使用されてきた。今日、ワイピングクロスはICや半導体の製造工場やクリーンルームなど、産業分野でも幅広く展開されている。
【0003】
特許文献1(特開昭61−228821号公報)に記載されているような、セルロース系天然繊維が布帛の表面に多量に位置するようなワイピングクロスは、油、水などの拭取り性、捕塵力は良いものの、拭き取り対象物の表面に毛羽が落ち、発塵するという問題点やICや半導体の製造工場やクリーンルームなど産業用には限界があった。また、特許文献2(特開昭63−211364号公報)に記載されているような、0.2dtex以下の超極細糸と0.5〜10dtexの繊維からなる糸を主体とした高密度な交絡織編物では、油、水などの拭取り性、捕塵力は良いものの、超極細糸とする為又収縮させるためにウォータージェットパンチを行っているが、繊維の切断や強度が低下したり、発塵する為ICや半導体の製造工場やクリーンルームなどの使用には問題があった。
【0004】
同様に特開2004−8501号公報にはワイピングクロス用極細繊維不織布が提案されているが、剥離分割型複合繊維を水存在下で高圧水流処理して極細化するため高圧水流処理により極細繊維の損傷、切断が避けられず強度の低下や発塵の問題があった。
こうした状況に鑑み、より高性能の油、水分、塵等を捕捉、吸収するワイピングクロス用素材が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−228821号公報
【特許文献2】特開昭63−211364号公報
【特許文献3】特開2004−8501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を克服し、油、水などの拭取り性、捕塵力が高く、産業用途にも使用可能な発塵性の少ないワイピングクロスに適した極細二層構造糸及びそれからなるワイピングクロスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち、単糸繊度が0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAと、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBとが混繊された二層構造糸であって、その交絡部において、マルチフィラメントBが繊維表面に現れている箇所が20個/m以下であり、マルチフィラメントAが主として鞘部に配置され、マルチフィラメントBが主として芯部に配置されてなる、下記要件を満足する極細二層構造糸。
(1)マルチフィラメントAの強度≧3.0cN/dtex
(2)20個/m≦二層構造糸の交絡個数≦100個/m
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極細繊維マルチフィラメントを二層構造糸の表層部に配置する構造とすることにより、シャープ・マルチシェービング効果、インナートラップ効果が発揮され、油、水などの拭取り性、捕塵力が高く、且つ発塵性の少ない、産業用途にも使用可能なワイピングクロスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
従来、ワイピングクロスの多くは、布帛内の繊維表面積を大きくすることにより、吸着力が高まることを期待した極細繊維が使用されてきた。極細繊維を用いたワイピングクロスの特徴としては、繊維間隙の毛細管現象により吸水性や吸油性が高まること、また、極細繊維特有のシャープ・マルチシェービング効果、インナートラップ効果が期待できることがある。一方で、繊維が細いために単糸切れし、発塵するという問題点がある。
【0010】
本発明は、極細繊維の特徴を活かし、且つ発塵を防ぐことを目的として、沸水収縮率の大きいマルチフィラメントBが芯部に、マルチフィラメントAが鞘部に位置する芯鞘型二層構造糸をワイピングクロス用糸条とした点が特徴である。拭取った汚れが鞘の繊維の間に吸収された後、シャープ・マルチシェービング効果により鞘部から芯部へ汚れが押し上げられ、芯部の極細繊維の毛細管現象やインナートラップ効果により、吸水性が高まり、拭取り性が高くなる。本発明は、油、水などの拭取り性が高く、捕塵力に優れた、産業用途にも使用可能な発塵性の少ないワイピングクロスを提供することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明におけるシャープ・マルチシェービング効果とは、表面積が大きいことと一定面積における繊維数の多さを利用した効果である。対象物への繊維接触回数が遥かに多くなることにより極細繊維が脂膜をそぎとり、上部の超極細繊維群へと押し上げる。太い繊維で拭くと、繊維の移動により繊維の全体に溜まった脂が再び繊維の下へ巻き込まれ、除去機能が劣る。また、インナートラップ効果とは、超極細繊維間の空間(ミクロポケット)を利用した効果である。対象物を拭き取る時、繊維群は指でプレスされた状態にあり脂は吸い込まれていくが、プレス状態を開放したとき、織物の内部の繊維密度が高いと脂は内部へと移動する。移動後の表面は脂が少なく、次のふき取り効果を高める。
【0012】
本発明のワイピングクロスの外層部に位置するマルチフィラメントAの単糸繊度は、0.0001dtex〜0.1dtexであり、好ましくは0.001〜0.01dtexの範囲のものである。さらに好ましくは、0.004〜0.009dtexの範囲のものがより好ましい。単糸繊度が0.1dtex以上であると、吸水性や拭取り性などワイピングクロスの性能に支障をきたす。一方、単糸繊度が0.0001dtex未満では、フィラメントのシルクファクターが小さくなるため、ワイピングクロスの耐久性に問題が生じる。
【0013】
マルチフィラメントAの強度は3.0cN/dtex以上である必要があり、3.0cN/dtex未満ではワイピングクロスとしたとき強度が不足し、破れや破損が生じやすくなる。好ましくは4cN/dtex以上である。
【0014】
マルチフィラメントAの出発材料となる極細繊維化前の海島型複合繊維マルチフィラメント(以下マルチフィラメントA’ともいう)は、通常、総繊度が10〜50dtex、好ましくは20〜40dtex、フィラメント数が5〜40フィラメント、好ましくは6〜30フィラメントである。
【0015】
一方、極細混繊糸の芯部に位置するマルチフィラメントBは、単糸繊度が0.1〜10dtexであることが必要である。好ましくは、0.4〜4dtexの範囲である。単糸繊度が0.1dtexよりも小さくなればなるほどワイピングクロスの張り、腰、寸法安定性が低下し、一方、10dtexを超えると、硬くなりワイピングクロス性能が低下する。
【0016】
また、マルチフィラメントBが芯部に、マルチフィラメントAが鞘部に位置する芯鞘型二層構造糸とするためには、以下の方法で行うことが好ましい。
即ち、沸水収縮率差が下記条件を満足するマルチフィラメントA’とマルチフィラメントBを引き揃え交絡した後収縮処理してマルチフィラメントA’が鞘部、マルチフィラメントBが芯部に配置した芯鞘構造二層構造糸とした後、マルチフィラメントA’の海成分を溶解除去して極細化することによりマルチフィラメントAを鞘部、マルチフィラメントBを芯部とする芯鞘型極細二層構造糸とする。
10%≦Δ沸水収縮率≦40%
[Δ沸水収縮率:マルチフィラメントBの沸水収縮率−マルチフィラメントA’の沸水収縮率]
【0017】
マルチフィラメントBの沸水収縮率とマルチフィラメントA’の沸水収縮率の差〔Δ沸水収縮率:マルチフィラメントBの沸水収縮率−マルチフィラメントA’の沸水収縮率〕が重要で、10%≦Δ沸水収縮率≦40%とする必要がある。Δ沸水収縮率が10%より小さい場合にはマルチフィラメントBがワイピングクロスの外層部に現れて、拭取り性が低下し好ましくない。一方、Δ沸水収縮率が40%より大きい場合には、風合いが硬くなり、商品として好ましくない。
【0018】
マルチフィラメントA’の沸水収縮率は10%以下が好ましく、0〜8%、より好ましくは1〜5%にすることが好ましい。更にマルチフィラメントA’の沸水収縮率はマルチフィラメントBのそれの10〜60%とすることが重要である。好ましくは、40〜60%の範囲である。マルチフィラメントA’の沸水収縮率がマルチフィラメントBの60%を超えると、芯鞘型二層構造糸を形成しにくくなり、マルチフィラメントBがワイピングクロスの外層部に現れて、拭取り性が低下し好ましくない。一方、マルチフィラメントA’の沸水収縮率がマルチフィラメントBの10%未満では、風合いが硬くなり、商品として好ましくない。
【0019】
ここで、マルチフィラメントA’の沸水収縮率をマルチフィラメントBの沸水収縮率の10〜60%にするには、フィラメントA’を延伸する際に、熱セット温度をコントロールしたり、延伸倍率を調整して沸水収縮率調整すればよい。
【0020】
マルチフィラメントA’の海島型複合繊維においては、島数は多いほうが海溶解後の島成分からなる繊維が細くなり、超極細繊維特有のシャープ・マルチシェービング効果、インナートラップ効果が期待できるので、100〜1,000島/単糸であることが重要である。100島未満では、島比率が小さい場合に極細繊維としての効果が期待できない。一方、1,000島を超えると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなる。好ましくは、500〜1,000島である。
【0021】
海成分の島成分に対する溶解速度比は、海成分が島成分の30〜5,000倍であることが好ましい。より好ましくは、100〜4,000倍である。30倍未満の場合には、繊維断面表層部の分離した島成分の一部が溶解されて、繊維断面中央部にある海成分まで溶解されないという問題が起こり易くなる。これにより、島成分の太さ斑が発生し、品位に問題が低下する傾向にある。一方、5,000倍を超えると、繊維化が難しい。
【0022】
かかる海島型複合繊維を構成するポリマーとして、海成分ポリマーとしては、島成分との溶剤溶解速度差が30倍以上であれば、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよく、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステルなどいずれのポリマーでも良い。なかでもポリエステルは溶剤溶解性を調節する上で好ましい。例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液溶解性ポリマーの場合は、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール系共重合ポリエステル、5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。また、ナイロン6はギ酸に溶解し、ポリスチレンはトルエンなど有機溶剤に溶解することができる。
【0023】
一方、島成分ポリマーについても、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよく、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステルなどいずれのポリマーでも良い。好ましくはポリエステルである。
さらに、島成分の形状としては、丸断面に限らず、異形断面であってもよい。
【0024】
海成分の比率は、島−島間の海成分の厚みを薄くするため、また緻密なワイピングクロスを作るために、全繊維重量の5〜40%が好ましい。より好ましくは10〜30%の範囲である。40%を超えると、海成分の厚みが厚くなり海島の分離に好ましくない、また緻密なワイピングクロスができない。一方、5%未満では、ポリマー量が少なすぎて、多数の島間に均一に分配することが困難である。
【0025】
マルチフィラメントA’の製造方法としては、溶融紡糸に用いられる紡糸口金に関し、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。好ましく用いられる紡糸口金例を図2に示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。上述の紡糸口金により吐出された後は、通常の溶融紡糸法により得ることができる。
【0026】
マルチフィラメントBは、通常、総繊度が0.1〜10dtex、好ましくは0.4〜4dtex、フィラメント数が12〜168フィラメント、好ましくは24〜144フィラメントである。マルチフィラメントBの製造方法としては公知の溶融紡糸法により得ることができる。
【0027】
次に、以上に説明した混繊糸を製造するための好ましい方法について説明する。
未延伸のマルチフィラメントA’を従来公知の延伸方法により延伸する。ここで、延伸中の糸が受ける温度は、加熱体の種類に応じて、熱処理時間などを調整することにより設定できるので、該調整ができれば、接触タイプだけではなく非接触式タイプの加熱体も使用できる。
【0028】
延伸熱処理を終えたマルチフィラメントA’を、常法により製造された単糸繊度が0.1dtex以上であるマルチフィラメントBと混繊する。混繊方法は従来公知の方法を採用すればよい。例えば、延伸熱処理されたマルチフィラメントA’とマルチフィラメントBとを引き揃えて、1.0〜1.5%のオーバーフィードにて、インターレースノズルに供給して交絡を付与して二層構造糸とする。
【0029】
得られた二層構造糸は、通常、撚糸工程で撚糸された後、製編織され、極細化工程で処理される。
極細化工程は海成分を溶解する溶剤に浸漬、絞りを交互に繰り返して海成分を溶出し、除去することにより一般的に行われる。海成分がポリエステルの場合、アルカリ減量装置により、ポリエステルを除去して行うことが好ましい。
【0030】
上記極細化工程で、混繊糸を構成するマルチフィラメントA’が極細化されて極細繊維であるマルチフィラメントAになるとともに、熱履歴により該混繊糸は沸水収縮率の大きいマルチフィラメントBが芯部に、マルチフィラメントAが鞘部に位置する芯鞘型極細二層構造糸となる。より詳しくは、鞘部が単糸繊度0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAから構成され、芯部に単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBからなる芯鞘型極細二層構造糸が構成される。
【0031】
ワイピングクロスの表層部に現れるフィラメントAは、丸断面でも異形断面でも良く、異形断面で鋭角であるほど、ワイピング効果が優れている。
また、ワイピングクロスとしてはいかなる織組織であってもよく、平織組織、朱子織組織、これらの二重織、あるいは変化組織のものなど、すべての織りが含まれる。編物としては、丸編、経編いずれの編組織であってもよい。
【0032】
本発明のワイピングクロスを構成する以上のマルチフィラメントAとマルチフィラメントBとの重量比率は、20:80〜80:20、好ましくは30:70〜70:30である。マルチフィラメントAの重量比率が20重量%未満では、ワイピング性能の向上は期待できない。一方、80重量%を超えると、マルチフィラメントAの割合がBに比べて高すぎるために、織物がくたくたになってしまう。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明する。織物は以下のとおりに作成した。また、測定方法は以下のとおりで実施した。
(1)減量速度測定
海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1,000〜2,000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、75de/24filのマルチフィラメントを作成した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
(2)沸水収縮率
試料を枠周1.125mの検尺器を使用し、捲き回数が10回の小かせを作成し、20〜50gの重りをかけて、初期かせ長L0(cm)を測定した。重りをはずし、98℃の温水中に30分間浸漬後、取り出して自然乾燥させた。乾燥後、再度、重りをかけて収縮後かせ長L1(cm)を測定した。上記L0、L1を下記式に代入して、沸水収縮率BWS(%)を算出した。
BWS(%)=[(L0−L1)/L0]×100
(3)伸度
定速伸長形で測定し、伸度は破断時の伸度(%)で表す。
(4)ワイピング性能の評価方法
ガラス板に人工脂質を付着させ、荷重(125g/3.9cm2)を載せたワイピングクロスで拭取った。拭取り後のガラス板について5名のモニターにより官能評価を行った。モニターはガラス板を見た時の状態を次の基準により評価し、20点以上のものは○、20点以下のものは×と判定した。
5点:ガラス板に汚れがあったことは全く感じられず、非常にきれいである。
4点:ガラス板に汚れがあったことは感じられず、きれいである。
3点:ガラス板に汚れがあったかもしれないが、まあきれいである。
2点:ガラス板によごれがあったであろうと推測されるほど少し汚い。
1点:ガラス板によごれがあったであろうと確信できるほど汚い。
(5)発塵性の評価方法
ワイピング性能の評価方法に用いた重りにワイピングクロスを同じように固定し、人工資質を付着させていないガラス板をワイピングクロスで拭取った。拭取り後のガラス板について5名のモニターにより官能評価を行った。モニターはガラス板を見た時の状態を次の基準により評価し、○とした人が4人以上の場合は○、4人以下の場合は×と判定した。
○:繊維でガラスが汚れておらず、良好である。
×:繊維でガラスが汚れており、不良である。
【0034】
[実施例1]
下記の糸を用いて二層構造糸を作成した。
マルチフィラメントA’については、まず、海成分を5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4,000のポリエチレングリコール3重量%を共重合した改質ポリエチレンテレフタレート、島成分をポリエチレンテレフタレートとし、溶解速度比;海/島=50、重量比;島:海=70:30で、マルチフィラメントA’1フィラメントあたりの島数が1,000となる口径0.3mmの吐出孔を合計10個有した、紡糸口金を用いて紡糸温度285℃で溶融吐出させ、紡糸冷却装置により冷却・固化した後、油剤を付与し、90℃に加熱した予熱ローラーに速度1000m/minで引き取り、140℃に加熱した熱セットローラーとの間で3.9倍に延伸し、次いで捲取機で捲き取り、50dtex、10フィラメント、沸水収縮率8%のマルチフィラメントA’を得た。
【0035】
マルチフィラメントBは、イソフタル酸を10モル%共重合した固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートを口径0.3mm、孔数12個の紡糸口金を通して吐出し、紡糸冷却装置により冷却・固化し、油剤を付与した後、1000m/min.速度で巻取り未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を予熱温度75℃、延伸倍率3.3倍でローラー延伸し、次いで95℃で熱セットして巻き取り、36dtex、12フィラメント、沸水収縮率25%のマルチフィラメントBを得た。
【0036】
両糸(マルチフィラメントA’の糸パッケージ1とマルチフィラメントBの糸パッケージ2)を図1に示す製造工程に掛け、まずコットローラー3でひき揃え、該コットローラー3と第1引取りローラー5との間で、インターレースノズル4を用いて混繊し、さらに、上記第1引取りローラー5と第2引取りローラー7の間で比接触式加熱ヒーター6を用いて巻き取りボビン8に巻き取り、混繊糸を得た。
【0037】
得られた混繊糸を、規格は経、緯ともに87羽×3本/Kで経糸に100の撚りをかけて平織りした。得られた織物を濃度3.5重量%、浴温度98℃の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して海成分を除去し、乾燥収縮させ、芯部に単糸繊度3.0dtexのマルチフィラメントB、鞘部に単糸繊度0.004dtexのマルチフィラメントAからなる極細ポリエステル二層構造糸からなる織物を得た。この製品の特性判定を以下の表1に示した。
【0038】
[実施例2]
マルチフィラメントA’については、まず、海成分をナイロン6、島成分をポリエチレンテレフタレートとし、ナイロン6のみ溶解、島:海(重量比)=70:30の条件で、マルチフィラメントA’1フィラメントあたりの島数が500となる口径0.3mmの吐出孔を合計6個有した、紡糸口金を用いて紡糸温度280℃で溶融吐出させ、紡糸冷却装置により冷却・固化した後、油剤を付与し、75℃に加熱した予熱ローラーに速度1000m/minで引取り、150℃に加熱した熱セットローラーとの間で3.9倍に延伸し、次いで捲取機で捲き取り、30dtex、6フィラメント、沸水収縮率10%のマルチフィラメントA’を得た。
マルチフィラメントBは、実施例1と同様の方法で作成しポリエチレンテレフタレートよりなる20dtex、10フィラメント、沸水収縮率25%のマルチフィラメントを用いた。
【0039】
両糸(マルチフィラメントA’の糸パッケージ1とマルチフィラメントBの糸パッケージ2)を図1に示す製造工程に掛け、まずコットローラー3でひき揃え、該コットローラー3と第1引取りローラー5との間で、インターレースノズル4を用いて混繊し、さらに、上記第1引取りローラー5と第2引取りローラー7の間で比接触式加熱ヒーター6を用いて巻き取りボビン8に巻き取り、混繊糸を得た。
【0040】
得られた混繊糸を、規格は経、緯ともに87羽×3本/Kで、経糸に100の撚りをかけて平織りした。得られた織物をギ酸中に浸漬して海成分を除去し、乾燥し、単糸繊度0.007dtexと2.0dtexからなる混繊糸の織物を得た。この織物を沸水に浸漬収縮させて、芯部に単糸繊度2.0dtexのマルチフィラメントB、鞘部に単糸繊度0.007dtexのマルチフィラメントAからなる極細ポリエステル二層構造糸からなる織物を得た。この製品の特性判定を以下の表1に示した。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、マルチフィラメントA’として、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4,000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分がポリエチレンテレフタレートの海島型複合繊維(島数24、溶解速度比;島:海=1:50、島:海(重量比)=70:30)よりなる50dtex、10フィラメント、沸水収縮率8%のマルチフィラメントを用い、他は同条件で織物を作成した。芯部に単糸繊度3.0dtex、鞘部に単糸繊度0.14dtexのマルチフィラメントがある二層構造糸からなる織物を得た。この織物を用いて油汚れ、水滴のある台をふいたところ、繊度が本発明外であるため、汚れや水滴が少量残っており、ワイピング性能は不良であった。この製品の特性判定を以下の表1に示した。
【0042】
[比較例2]
実施例2において、マルチフィラメントA’に海成分がナイロン6、島成分がポリエチレンテレフタレートの海島型複合繊維(島数300、島:海(重量比)=70:30)よりなる30dtex、24フィラメント、沸水収縮率18%のマルチフィラメントを用い、後は同条件で織物を作成した。得た織物の表層部には単糸繊度0.007dtexと3.0dtexの混在するものとなり、この織物を用いて油汚れ、水滴のある台をふいたところ、汚れや水滴が少量残っており、ワイピング性能は不良であった。この製品の特性判定を以下の表1に示した。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のワイピングクロスは、油、水などの拭取り性、捕塵力が高く、発塵性が少ないので、家庭用清掃用布帛や、眼鏡やレンズ拭き、さらには産業用途にも使用可能であり、例えばICや半導体の製造工場やクリーンルームなどで用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の二層構造糸の製造工程
【図2】フィラメントA’の紡糸口金の例
【符号の説明】
【0046】
1:マルチフィラメントAの糸パッケージ
2:マルチフィラメントBの糸パッケージ
3:コットローラー
4:インターレースノズル
5:加熱ローラー
6:比接触式加熱ヒーター
7:引き取りローラー
8:巻き取りボビン
a:紡糸口金
b:島成分用ポリマー溜め部
c:島成分用ポリマー導入通路(中空ピン)
d:海成分用ポリマー導入通路
e:分配前海成分用ポリマー溜め部
f:芯鞘型複合流用通路
g:合流通路
h:吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAと、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBとが混繊された二層構造糸であって、その交絡部において、マルチフィラメントBが繊維表面に現れている箇所が20個/m以下であり、マルチフィラメントAが主として鞘部に配置され、マルチフィラメントBが主として芯部に配置されてなる、下記要件を満足する極細二層構造糸。
(1)マルチフィラメントAの強度≧3.0cN/dtex
(2)20個/m≦二層構造糸の交絡個数≦100個/m
【請求項2】
マルチフィラメントAとマルチフィラメントBとの重量比率が20:80〜80:20である請求項1記載の極細二層構造糸。
【請求項3】
マルチフィラメントAとマルチフィラメントB両者がポリエステルである請求項1、2いずれか記載の極細二層構造糸。
【請求項4】
マルチフィラメントAが、溶剤に対する溶解速度比が下記式を満足する島成分と海成分からなる海島型複合繊維マルチフィラメント(マルチフィラメントA’と呼称することがある)の海成分を溶解除去することによって得られたものである請求項1〜3いずれか1項記載の極細二層構造糸。
溶解速度比:30≦海成分溶解速度/島成分溶解速度≦5,000
【請求項5】
上記マルチフィラメントA’の海成分と島成分の重量比率が40:60〜5:95である請求項4記載の極細二層構造糸。
【請求項6】
沸水収縮率差が下記条件を満足する海島型複合繊維マルチフィラメントA’と単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBを引き揃え交絡した後収縮処理し、次いでマルチフィラメントA’の海成分を溶解除去して、単糸繊度が0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAが主として鞘部、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBが主として芯部に配された二層構造糸とすることを特徴とする極細二層構造糸の製造方法。
10%≦Δ沸水収縮率≦40%
[Δ沸水収縮率:マルチフィラメントBの沸水収縮率−マルチフィラメントA’の沸水収縮率]
【請求項7】
単糸繊度が0.0001〜0.1dtexであるマルチフィラメントAと、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBとが混繊されたものであって、その交絡部において、マルチフィラメントBが繊維表面に現れている箇所が20個/m以下であり、マルチフィラメントAが主として鞘部に配置され、単糸繊度が0.1〜10dtexであるマルチフィラメントBが主として芯部に配置されてなる、下記要件を満足する極細二層構造糸を含むワイピングクロス。
(1)マルチフィラメントAの強度≧3.0cN/dtex
(2)20個/m≦二層構造糸の交絡個数≦100個/m

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7705(P2009−7705A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170305(P2007−170305)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】