説明

極細繊維、及びワイピングクロス

【課題】帯電により埃等を吸着させるドライシートタイプの用途と、水拭き等による汚れを拭き取るウエットシートタイプ用途の両方に用いることができるワイピングクロスを提供する。
【解決手段】平均繊度2dtex以下のポリエステル系極細繊維本体と、ポリエステル系極細繊維本体の表面積の10〜90%、好ましくは、40〜60%を被覆する水溶性ポリマーとを含む極細繊維。前記被覆率が40〜60%であることが好ましい。またポリエステル系極細繊維本体がポリエチレンテレフタレート系繊維であり、水溶性ポリマーが水溶性ポリビニルアルコールであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピングクロスの製造に用いられる極細繊維及びこのような極細繊維を用いて得られるワイピングクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布を用いたワイピングクロスが知られている。このようなワイピングクロスとしては、ドライシートタイプのワイピングクロスやウエットシートタイプのワイピングクロスが知られている。ドライシートタイプのワイピングクロスはシートを形成する極細繊維からなる繊維が被ワイピング面との摩擦により帯電することにより、埃や糸くずを吸着して繊維に絡めて捕捉する(例えば、下記特許文献1参照)。一方、ウエットシートタイプのワイピングクロスは、綿やレーヨン、キュプラなどのセルロース系繊維から形成されており、水、またはシートに含浸させた洗剤やワックス剤等により、床等に付着した汚れを拭き取る。
【0003】
極細繊維は、例えば、海島型繊維から海成分を選択的に除去することにより得られる。海島型繊維の代表的な製造方法としては、島部を形成するポリエステルのような疎水性の樹脂と、海部を形成する水溶性ポリビニルアルコール(以下、単にPVAとも称す)とをそれぞれ異なる複数の紡糸ノズルから吐出して溶融複合紡糸する方法が知られている。そして、このような海島型繊維からPVAを熱水中で抽出除去することにより、ポリエステルからなる極細繊維が得られる。
【0004】
海島型繊維に含まれるPVAは、形成される極細繊維の単繊維同士を一時的に隔離するために用いられ、形成される極細繊維の最終製品には殆ど残らない補助的な樹脂である。本来除去されるべきPVAが極細繊維の表面に残った場合には、目的とする極細繊維本来の特性を低下させたり、品質のバラつきを引き起こさせたりする原因になるおそれがあった。従って、海島型繊維を経て極細繊維を工業的に生産する際には、できる限りPVAが極細繊維の表面に残留しないように製造条件が管理されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−6811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリエステル系極細繊維は摩擦帯電性が高いために、ドライシートタイプのワイピングクロスの素材として適している。一方、ポリエステル系極細繊維は疎水性が高いために、ウエットシートタイプのワイピングクロスの素材としては適していなかった。ポリエステル系極細繊維から形成された不織布は、ポリエステル系極細繊維の高い撥水性により吸水性が低くなるために、濡れた床を拭いても水を広げるだけで殆ど吸水しないためである。従って、例えば、水に濡れたフローリングの表面を拭くときにはウエットシートタイプのワイピングクロスが用いられ、乾いたフローリングの表面の埃を吸着させるときにはドライシートタイプのワイピングクロスを用いるように、それぞれ使い分けられていた。しかしながら、このような使い分けは使用者にとっては煩雑であった。
【0007】
本発明は、帯電により埃等を吸着させるドライシートタイプの用途と、水拭き等による汚れを拭き取るウエットシートタイプ用途の両方に用いることができるワイピングクロス等の素材として用いられる極細繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る極細繊維は、平均繊度2dtex以下のポリエステル系極細繊維本体と、ポリエステル系極細繊維本体の表面積の10〜90%、好ましくは、40〜60%を被覆する水溶性ポリマーとを含むことを特徴とする。このような極細繊維においては、疎水性及び帯電性が高いポリエステル系極細繊維本体の表面に、親水性の高いPVAのような水溶性ポリマーが被着されている。ポリエステル系極細繊維は高い帯電性を有するために、ポリエステル系極細繊維がそのまま露出している表面は埃や糸くずを吸着しやすい。一方、ポリエステル系極細繊維本体表面を部分的に覆う水溶性ポリマーは高い親水性を有する。従って、このようなポリエステル系極細繊維の表面と水溶性ポリマーの表面とが混在している表面を有する本発明に係る極細繊維は、高い帯電性と親水性とを表面に兼ね備えている。従って、本発明に係る極細繊維から得られるワイピングクロス等の清浄基材を用いて、乾拭きした場合には埃や糸くずを吸着し、濡れた表面を拭いた場合には水を吸収する。また、親水性の表面と疎水性の表面とが混在している極細繊維表面を有するために、吸収した水の乾燥性にも優れている。
【0009】
また、ポリエステル系極細繊維本体はポリエチレンテレフタレート系繊維であり、水溶性ポリマーは水溶性ポリビニルアルコールであることが、帯電性と親水性とのバランスに優れている点から好ましい。
【0010】
また、本発明に係るワイピングクロスは、上記極細繊維からなる不織布、織布または編布を含むことを特徴とする。このようなワイピングクロスは、例えば、乾いた床を拭いた場合には埃や糸くずを吸着し、濡れた床を拭いた場合には水の拭き取り性に優れている。さらに、水溶性ポリマーにより覆われることによりポリエステル系樹脂の高い帯電性がある程度低下するために、一端、吸着された埃等は、掃除機で吸うことにより容易に離れやすい。従って、繰り返し使用にも適している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乾拭きと水拭きとの両方に適用できるワイピングクロスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る極細繊維の一実施形態である極細繊維について詳しく説明する。
本発明に係る極細繊維はポリエステル系樹脂から形成された極細繊維本体と極細繊維本体の表面積の10〜90%、好ましくは、40〜60%を被覆するPVAのような水溶性ポリマーとを含む。水溶性ポリマーは極細繊維本体の表面に化学結合を介して付着していても、化学結合を介さずに付着していてもよい。
【0013】
極細繊維本体を形成するポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらのイソフタル酸等による変性物等が挙げられる。これらの中では、ポリエチレンテレフタレートまたはそのイソフタル酸変性物が、摩擦帯電性に優れている点から好ましい。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
極細繊維本体の平均繊度は2dtex以下であり、0.001〜2dtex、さらには0.002〜0.2dtexの範囲であることが高い摩擦帯電性と吸水性のバランスに優れる点から好ましい。また、極細繊維本体の長さとしては、意図的に切断されていない長繊維であっても、例えば、3〜80mm程度の長さに切断された短繊維のステープルであってもよい。
【0015】
極細繊維本体の水溶性ポリマーの被覆率は10〜90%の範囲であり、好ましくは40〜60%の範囲である。水溶性ポリマーの被覆率がこのような範囲である場合には、摩擦帯電性と親水性のバランスに優れた極細繊維が得られる。このような被覆率は、例えば、極細繊維本体の表面に付着したポリビニルアルコールに由来する水酸基に無水トリフルオロ酢酸を反応させた後、真空乾燥させることにより、ポリビニルアルコールをトリフルオロアセチル化し、極細繊維本体の表面に存在するフッ素の量をX線光電子分光法(XPS)により定量することにより算出することができる。
【0016】
次に、本実施形態の極細繊維の製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の極細繊維の製造方法においては、はじめに島部を形成させるためのポリエステル系樹脂と海部を形成させるためのPVAのような水溶性の熱可塑性樹脂とをそれぞれ異なる複数の紡糸ノズルから吐出して溶融複合紡糸することにより海島型繊維を製造する。
【0017】
本実施形態における海島型繊維は、海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂からなるマトリクス中に、島部を形成するポリエステル系樹脂が分散した断面を有する。海島型繊維は、海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂の一部を残して、大部分を溶剤または分解剤により抽出除去することにより、その表面に水溶性の熱可塑性樹脂が被着した島部を形成するポリエステル系樹脂からなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
【0018】
島部を形成するポリエステル系樹脂の具体例としては、前述した極細繊維本体を形成する各種ポリエステル系樹脂が好ましく用いられる。
【0019】
海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、水溶性PVAが挙げられる。水溶性PVAは、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島部を形成するポリエステル系樹脂より小さいために、海島型繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。また、有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点からも好ましい。
【0020】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには94〜99.97モル%、ことには96〜99.96モル%であることが好ましい。ケン化度が90モル%以上である場合には、熱安定性が良く、熱分解やゲル化を抑制した溶融紡糸が可能であり、また、水溶性や生分解性にも優れている。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。また、ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは工業的な生産性に劣る傾向がある。
【0021】
水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
【0022】
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
【0024】
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合できる塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
【0025】
水溶性PVAの融点としては160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。また、水溶性PVAは通常、融点よりも20〜50℃高いゲル化温度を有する。なお、ゲル化温度は紡糸するPVA濃度の高温透明溶液を作成し、該溶液を試験管に約1/3入れてオイルバスで30分静置した後、1℃/分の速度で降温し、流動状態を調べる。流動が起こりにくくなる温度から1℃毎に30分間静置し、完全に流動しなくなった温度をゲル化温度とする。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
【0026】
海島型繊維の平均断面積はとくに限定されないが、30〜800μm2の範囲であることが好ましい。また、海島型繊維の断面における、海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂と島部を形成するポリエステル系樹脂との平均面積比は5/95〜70/30であることが好ましい。
【0027】
このような海島型繊維は島部を形成するポリエステル系樹脂と海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂とをそれぞれ異なる複数の紡糸ノズルを有する複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。本実施形態では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)を短繊維にカットすることなく長繊維ウェブにすることが好ましい。海島型長繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸される。そして、口金から吐出された溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。このような長繊維ウェブ製造方法は、短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。
【0028】
海部を形成する水溶性の熱可塑性樹脂の最適な口金温度は、水溶性の熱可塑性樹脂の融点や溶融粘度によっても異なるために一概に特定できないが、安定した吐出が可能な溶融粘度であって、且つ、ゲル化温度よりも低い温度が選ばれる。一例としては、水溶性PVAの場合、融点よりも20〜30℃程度高く、ゲル化温度よりも10〜20℃低い温度が好ましく選ばれる。さらに具体的には、例えば、融点が190〜200℃、ゲル化温度が230〜240℃の水溶性PVAの場合、口金温度は220〜225℃程度の範囲に設定されることが好ましい。
【0029】
島部を形成するポリエステル系樹脂の最適な口金温度も、粘度特性等によって異なるために一概に特定できないが、安定した溶融紡糸が可能な溶融粘度が適宜選ばれる。なお、海部を形成する樹脂として水溶性PVAを用いる場合、水溶性PVAとの高い密着性を維持するためには、水溶性PVAのゲル化温度以上の温度に口金温度を設定することが好ましい。一例としては、例えば、島部を形成するポリエステル系樹脂として融点210〜230℃程度のイソフタル酸変性ポリエステルを用いた場合、口金温度は250〜270℃程度の範囲に設定することが好ましい。このように、島部を形成するポリエステル系樹脂を吐出する口金の温度を水溶性PVAのゲル化温度以上の温度に設定して、別の口金から吐出された水溶性PVAと複合化することにより、水溶性ポリマーであるポリビニルアルコール(PVA)が極細繊維本体の表面に強固に固着しやすくなる傾向がある。
【0030】
各口金から吐出されて複合化された海島型繊維を形成するためのストランドを冷却装置により冷却し、さらに、例えば1000〜6000m/分程度の引取速度で牽引細化することにより目的の繊度の海島型繊維が形成される。また、紡糸工程においては、必要に応じて、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。このようにして得られる海島型繊維の繊度は特に限定されないが、例えば、0.5〜10dtex、さらには、0.7〜5dtex程度であることが好ましい。
【0031】
次に、得られた海島型繊維に含まれる水溶性の熱可塑性樹脂を熱水等で抽出条件を制御しながら抽出除去することにより、島部を形成するポリエステル系極細繊維本体と、ポリエステル系極細繊維本体の表面を被覆する水溶性ポリマーとを含む極細繊維が得られる。
【0032】
具体的には、例えば、得られた海島型繊維を、好ましくは85〜100℃、さらに好ましくは90〜100℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより、水溶性の熱可塑性樹脂の大部分を除去することが好ましい。この場合において、ディップニップ処理の回数や熱水の温度を適宜調整することにより、ポリエステル系極細繊維本体の表面を被覆する水溶性ポリマーの被覆率を調整することができる。
【0033】
以上のようにして、本実施形態の極細繊維が得られる。このようにして得られた極細繊維は、極細繊維のまま、好ましくは、布帛の強度やワイピング効果に優れる点で極細繊維束として用いることが好ましく、例えば、糸や、不織布,織物,編物等の繊維シートの状態でワイピングクロスとして用いたり、紡ぐことによりモップ毛として用いたりすることができる。
【0034】
例えば、ワイピングクロスとして用いられる不織布の製造方法としては、以下のような方法が挙げられる。上述したような海島型繊維を溶融紡糸するときに、いわゆる、スパンボンド法を用いて海島型繊維の長繊維ウェブを製造し、得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを成形する。絡合処理の具体例としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする方法が挙げられる。このようにして得られた絡合ウェブは、さらに、必要に応じて、嵩密度を高めるために熱収縮処理が施されてもよい。
【0035】
熱収縮処理する方法は、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは25%以上、より好ましくは25〜75%、さらに好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けが防止される。
【0036】
上述したような収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する不織布が得られる。このような目付の範囲内の場合には、ワイピングクロスの緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
【0037】
また、スパンボンド法を用いて長繊維を得る代わりに、海島型繊維を例えば3〜80mm程度の長さに切断して短繊維のステープルとし、ニードルパンチ法、湿式法、接着法等を用いて絡合ウェブを形成してもよい。成形された絡合ウェブには、さらに、形態安定性を保持する等の目的で、必要に応じて、高分子弾性体を含浸付与させてもよい。高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などが挙げられる。そして、このような絡合ウェブ中の海島型繊維から、水溶性の熱可塑性樹脂成分を抽出除去することによりワイピングクロスとして用いられる不織布が得られる。
【0038】
不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られるワイピングクロスの表面摩耗が少なく、形態保持性や機械的物性が良好であり、ワイピング時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
【0039】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の内容により、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
海成分ポリマーである変性PVA(融点195℃、ゲル化温度235℃)と島成分ポリマーである変性度6モル%のイソフタル酸変性PET(融点220℃)、とを、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)から吐出した。なお、変性PVAを吐出する口金の温度は225℃に設定し、イソフタル酸変性PETを吐出する口金の温度は260℃に設定した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.1dtexの海島型繊維をネット上に堆積したスパンボンドシートを得た。
【0041】
次に、表面温度42℃の金属ロールでネット上のスパンボンドシートを軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えた。そしてスパンボンドシートをネットから剥離した。次に、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間で200N/mmの線圧でスパンボンドシートを熱プレスすることにより、表層の海島型繊維が格子状に仮融着された目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。そして、得られた長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与した。
【0042】
次に、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/m2の重ね合わせウェブを作製し、さらに針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、重ね合わせウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより絡合ウェブを得た。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は320g/m2であった。
【0043】
次に、絡合ウェブを70℃の熱水中に14秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして、95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより変性PVAを溶解除去した。変性PVAを溶解除去し、乾燥することにより、平均繊度0.07dtexの25本のポリエステル系極細繊維を含む繊維束が3次元的に交絡した厚み0.8mmの絡合不織布からなるワイピングクロスAを得た。乾燥後に測定した面積収縮率は52%であり、目付は480g/m2、見掛け密度は0.52g/cm3、剥離強力は、4.2kg/25mmであった。変性PVAの表面被覆率は42%であった。得られたワイピングクロスAは次のようにして評価された。結果を表1に示す。
【0044】
(極細繊維本体の表面積に対するPVA被覆率)
ワイピングクロス1gと3mLの無水トリフルオロ酢酸を気化させた蒸気とを10分間反応させた後、2時間真空乾燥することにより、水溶性PVAの水酸基にトリフルオロアセチル基を導入した。そして、トリフルオロアセチル基が導入されたワイピングクロスの極細繊維表面の元素分析をX線光電子分光法(XPS)により行い、PET中のCOO元素のピーク面積に対するフッ素のピーク面積を算出し、ワイピングクロスを形成する極細繊維の表面積に対する水溶性PVAの被覆率を算出した。
【0045】
(髪の毛吸着性)
フローリング床の長さ5mの領域に10本の人毛を均等に撒いた。そして、髪の毛を撒いたフローリング床にワイピングクロス(30cm×20cm)をセットしたワイパーを一往復させた。ワイパーをそっと持ち上げてワイピングクロスに付着した本数を数えた。結果は、ワイピングクロス3枚の平均値で表した。
【0046】
(土埃・綿埃の吸着性)
フローリング床の幅30cm、長さ100cmの領域に赤土または綿埃(コットンリンター:直径1.5μmx長さ1mm以下)を0.5gずつ撒いた。そして、赤土または綿埃を撒いたフローリング床にワイピングクロス(30cm×20cm)をセットしたワイパーを一往復させた。ワイピングクロスをそっと持ち上げ付着前後のワイピングクロスの質量差から赤土または綿埃の付着量を測定した。結果は、ワイピングクロス3枚の平均値で表した。
【0047】
(水拭取り性)
フローリング床の幅30cm、長さ100cmの領域に水滴(5cc/m2)をほぼ均等になるように床面に落とした。そして、水滴を落としたフローリング床にワイピングクロス(30cm×20cm)をセットしたワイパーを一往復させた。そして床面の状態を目視で観察した。結果は、ワイピングクロス3枚の平均値で表した。
【0048】
(繰り返し使用性)
髪の毛、土埃および綿埃の埃吸着性評価方法でワイパーをそれぞれ一往復させた後、それぞれにおいて掃除機の吸い込み口をワイピングクロスに押し当て汚れの取れ具合を総合的に評価した。結果は、ワイピングクロス3枚の平均で表した。
○:何れのワイピングクロスにも汚れがほとんど残らない
△:髪の毛、土埃および綿埃の何れかの汚れが残る
×:不織布が掃除機の吸引により破壊される
【0049】
(湿潤時の剥離強力)
たて15cm、幅2.7cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅2.5cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例1]
海成分ポリマーとして、融点195℃,ゲル化温度235℃の変性PVAの代わりに、融点230℃,ゲル化温度260℃の変性PVAを用いた以外は、実施例1と同様にして、絡合ウェブを得た。
【0052】
次に、絡合ウェブを70℃の熱水中に14秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより変性PVAを溶解除去し、さらにサーキュラーにて95℃で揉み解すことにより残った変性PVAをさらに溶解除去した後、乾燥することにより、平均繊度0.07dtexの25本のポリエステル系極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した厚み0.8mmの絡合不織布からなるワイピングクロスBを得た。ワイピングクロスBを形成する極細繊維の変性PVAの表面被覆率は0%であった。そして、得られたワイピングクロスBを実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
海成分ポリマーとして、融点195℃,ゲル化温度235℃の変性PVAの代わりに、融点230℃,ゲル化温度260℃の変性PVAを用いた以外は、実施例1と同様にして、絡合ウェブを得た。
【0054】
次に、絡合ウェブを70℃の熱水中に14秒間浸漬することによる収縮処理し、乾燥することにより、平均繊度0.07dtexの25本のポリエステル系極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した厚み0.8mmの絡合不織布からなるワイピングクロスCを得た。ワイピングクロスCを形成する極細繊維の変性PVAの表面被覆率は95%であった。そして、得られたワイピングクロスCを実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0055】
表1の結果から、PVA被覆率が42%の実施例1の極細繊維からなるワイピングクロスAは、髪の毛の吸着性、綿埃の吸着性、土埃の吸着性のいずれにも優れ、また、水拭き取り性にも優れていた。一方、PVA被覆率が0%の比較例1の極細繊維からなるワイピングクロスBは、髪の毛の吸着性、綿埃の吸着性、土埃の吸着性は優れているものの、水拭き取り性が悪かった。また、PVA被覆率が95%の比較例2の極細繊維からなるワイピングクロスCは、髪の毛の吸着性、綿埃の吸着性、土埃の吸着性の何れも明らかに悪かった。また、水拭き取り性は、PVAの一部が溶出して床面に広がってベタついてしまう問題が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊度2dtex以下のポリエステル系極細繊維本体と、前記ポリエステル系極細繊維本体の表面を10〜90%の被覆率で覆う水溶性ポリマーとを含むことを特徴とする極細繊維。
【請求項2】
前記被覆率が40〜60%である請求項1に記載の極細繊維。
【請求項3】
前記ポリエステル系極細繊維本体がポリエチレンテレフタレート系繊維であり、前記水溶性ポリマーが水溶性ポリビニルアルコールである請求項1または2に記載の極細繊維。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の極細繊維からなる繊維束から構成された不織布、織布または編布を含むことを特徴とするワイピングクロス。

【公開番号】特開2012−153989(P2012−153989A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11916(P2011−11916)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】