説明

極細繊維からなるシートの製造方法

【課題】極細繊維からなり、目付が大きく、かつ地合に優れる薄型のシートを得るための新規な製造方法を提供する。
【解決手段】数平均直径が1〜500nmである繊維からなる成形体をプレスすることを特徴とするシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノレベルの極細繊維からなり、目付が大きくて地合に優れる薄型のシートを得るための新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、極細繊維のシートを得る方法としては、例えばスパンボンド法やメルトブロー法などにより極細繊維を紡出してシート化する方法、極細繊維を発生し得る海島型繊維を不織布化した後に、海成分を溶出してシート化する方法、あるいは分割型繊維を不織布化した後に、水流絡合や溶媒処理によって極細繊維シートを得る方法など種々のものが知られている。また、直接紡糸法や海島型繊維、ブレンド繊維あるいは分割繊維から得られる極細繊維を短カットして、これを水に分散させた後に抄紙する方法が知られている。これらの方法ではある程度高目付のシートが得られるが、極細繊維の直径を1μm以下まで極細化することは困難であった。
【0003】
一方、繊維の直径が1μm以下の極細繊維から成るシートの例として、極細繊維の数平均直径が1〜500nmの極細繊維を抄紙し、合成紙を得る方法が開示されている(例えば特許文献1)。しかしながら、このような非常に繊維径が小さい極細繊維を抄紙する場合、目付が小さいシートを得ることは容易であるが、目付が大きいシートを得るには、抄紙の原料である分散液(白水)中の極細繊維濃度を高くしなければならず、結果として極細繊維を抄紙機の網(ワイヤー)ですくい上げる際にろ水性が悪くなり、目付の大きなシートを得ることが困難であった。
【0004】
また、最近、エレクトロスピニングによる極細繊維シートの作製も報告されているが(例えば特許文献2)、エレクトロスピニングで得られるシートは高密度シートとしにくい問題があった。これは、エレクトロスピニングでは極細繊維が緩やかに積層されていくため、多孔シートとなり、その空孔率が高いためと考えられる。さらに、エレクトロスピニングは生産性が低いことも問題であり、特に高目付とする場合にはコストがあまりにも高くなってしまうという問題があった。
【0005】
このように、繊維の極細化と高目付を両立させ、さらには薄型のシートを得る方法が望まれていた。
【特許文献1】特開2005−264420号公報
【特許文献2】特開2005−273067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、極細繊維の分散性に優れ、目付が大きくても薄型のシートを得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では主として次の構成を有する。すなわち、数平均直径が1〜500nmである繊維からなる成形体をプレスしてシートを作製する製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により、極細繊維からなり、目付が大きくて地合に優れる薄型のシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明のシートの製造方法について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0010】
本発明の製造方法における工程としては、ナノレベルの極細繊維を成形体とする工程、さらにこの成形体をプレスして高密度化する工程に大別され、これにより目付が大きく、厚みが小さく、さらには密度の大きいシートを得ることができる。
【0011】
本発明で用いる繊維としては、木材パルプなどから製造されるセルロース、コットンや、麻、ウール、シルクなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロンやポリエステル、アクリルなどに代表される合成繊維などが挙げられ、繊維の種類としては特に限定はないが、本発明で用いる繊維としては熱可塑性ポリマーからなることが好ましい。これにより、プレスした際に熱により繊維間を接着することが可能となるため、本発明で得られるシートの強力を高めることができるだけでなく、本発明の繊維を溶融紡糸法を利用して製造することができるために、生産性を非常に高くすることができる。本発明でいう熱可塑性ポリマーとは、ポリエチレンレタフタレート(以下、PETと呼ぶことがある)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと呼ぶことがある)、ポリブチレンレフタレート(以下、PBTと呼ぶことがある)、ポリ乳酸(以下、PLAと呼ぶことがある)などのポリエステルやナイロン6(以下、N6と呼ぶことがある)、ナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン(以下、PSと呼ぶことがある)、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶことがある)などのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある)等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点が165℃以上であると繊維の耐熱性が良好であり好ましい。例えば、該融点はPLAは170℃、PETは255℃、N6は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていてもよい。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。さらに、溶融紡糸の容易さから、融点が300℃以下のポリマーが好ましい。
本発明の繊維とは単繊維が分散した形態のものであり、単繊維のほとんどが凝集していない形態であれば良く、単繊維間が完全にバラバラの状態であるもの、あるいは部分的に結合しているものの大部分がバラバラの状態(いわゆる、ランダムに配向した状態)などの形態を呈するものであって、いわゆる単繊維レベルで繊維状の形態であればよく、その繊維長や断面形状などには限定が無いものである。
【0012】
本発明の繊維は数平均直径が1〜500nmであることが重要である。単繊維の数平均直径をかかる範囲内にすることで、従来の繊維からなるシートに比べて繊維間で構成される細孔径を小さくできるだけでなく、地合が良好でかつ比表面積の大きな高性能のシートとすることができる。また、数平均直径をかかる範囲にすることで、従来の繊維径が1μmを超える繊維を用いたシートに比べて、同じ目付のシートであっても、シート中の単位面積当たりの繊維の本数が増加し、その結果として、光を反射する界面を増大させることができるため、シートの反射率が向上する。単繊維の数平均直径としては1〜200nmであることがより好ましく、1〜100nmであることがさらに好ましい。
【0013】
本発明において、単繊維の数平均直径は以下のようにして求めることができる。すなわち、シートの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で、少なくとも150本以上の単繊維が1視野中に観察できる倍率で観察し、撮影した写真の1視野において、無作為に抽出した150本の単繊維の繊維長手方向に対して垂直な方向の繊維幅を単繊維の直径とし、数平均を計算する。
【0014】
また、本発明の繊維は、単繊維直径が500nmより大きい単繊維(粗大単繊維)の繊維構成比率が3重量%以下であることが好ましい。ここで粗大単繊維の繊維構成比率とは、直径が1nmより大きい繊維全体の重量に対する粗大単繊維(直径500nmより大きいもの)の重量の比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、繊維中のそれぞれの単繊維直径をdとし、その2乗の総和(d+d+・・+d)=Σd(i=1〜n)を算出する。また、前記n本の単繊維のうちの直径500nmより大きい繊維それぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D+D+・・+Dm)=ΣD(i=1〜m、m≦n)を算出する。Σdに対するΣDの割合を算出することで、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち重量比率を求めることができる。なお、それぞれの単繊維直径dは、前段落の方法で求めた直径であり、サンプル数nは150以上とすることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる繊維は直径500nmより大きい単繊維の繊維構成比率が3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。すなわち、これは500nmを越える粗大な繊維の存在がゼロに近いことを意味するものである。
【0016】
また、単繊維の数平均直径が200nm以下の場合には、直径200nmより大きい単繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。また、単繊維の数平均直径が100nm以下の場合には、直径100nmより大きい単繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。これらにより、本発明のシートの機能を十分に発揮できるとともに、製品の品質安定性も良好とすることができる。
【0017】
本発明の製造方法によれば、シートの波長560nmにおける光の反射率を80%以上とすることができる。光の反射率をかかる範囲内にすることで、光の隠蔽性に優れたシートとなるため、光反射シートとして例えば液晶ディスプレイなどに用いた場合、画面の十分な輝度を得ることができる。光の反射率の具体例については後述の実施例中に詳述するが、市販の分光光度計を用いて、該波長における反射率を測定することにより求めることができる。
【0018】
560nm付近の波長の色は黄色から緑に該当するが、波長560nmで反射率を評価するのは次の理由による。輝度は可視光領域での各波長における輝度の値を平均化したものであるが、その値は波長が560nm付近の領域で最大となるため、この波長で反射率を評価しておけば輝度との相関が取りやすいことが挙げられる。また、光反射シートに蛍光増白剤などが含有されている場合、可視光の低波長領域で吸収や発光が起こる場合があり、その影響を受けない該波長で評価することにより、光反射シートそのものの実力を把握することが可能となるためである。
【0019】
ここで、光の反射率は、シート中で光を反射する界面の数が増大するほど向上する。本発明の製造方法により得られるシートにおいては、光を反射する界面はほとんどが繊維の表面となる。したがって、シートの単位面積当たりの繊維の本数が多いほど光の反射率は高くなる。よって繊維の単繊維直径が小さく、目付が高いほど、シート中の繊維の本数が増加するため、より大きな反射率を示すことになる。
【0020】
該波長における光の反射率は好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。例えば、光の反射率を90%以上にするには、後述の実施例14のように、繊維の数平均直径が120nmであれば、シートの目付を50g/m以上とすることにより達成できる。また、光の反射率を95%以上にするには、例えば後述の実施例13のように、繊維の数平均直径が60nmであれば、シートの目付を100g/m以上とすることにより達成することができる。
【0021】
本発明における成形体とは、繊維が2次元あるいは3次元に分散して固定化されたものであり、形態としては特に限定はなく、例えば抄紙や後述する繊維分散液を乾燥して得られる紙状のもの、あるいはエレクトロスピニングのように繊維が2次元に配列した不織布状のものや、後述する繊維分散液を乾燥、好ましくは凍結乾燥して得られる繊維が3次元に分散して微細な細孔や空隙を有してなるスポンジ状のものなど種々の形態を挙げることができる。この中で、目付の高く、厚みが小さくて密度の高いシートを得るためには、プレス時に押し潰して加工し易いといった観点から、繊維が3次元に分散して微細な細孔や空隙を有してなるスポンジ状の成形体が好ましい。また、成形体中には本発明の数平均直径が1〜500nmである繊維の他に、繊維径が500nmを超える極細繊維や、骨材となる不織布やフィルムなどの支持体が混在していても良い。
【0022】
本発明においてはさらに得られた成形体をプレスすることが重要である。プレスするとは本発明の成形体を押し潰して薄型のシートを得るものであり、プレスの方法や装置としては後述するように種々の方法を採用することができる。これにより、目付が小さい成形体の場合には、それを複数枚積層してプレスすることで、目付の大きなシートとすることが容易となる。また、厚みが大きい成形体をプレスすることで、厚みが小さい薄型のシートとすることも可能である。さらに、密度の小さい成形体を押し潰して、シートの密度を大きくすることもできる。
【0023】
本発明の製造方法によって得られるシートにおいては、目付が30g/m以上であることが好ましく、100g/m以上であることがより好ましく。250g/m以上であることがさらに好ましい。これにより、得られるシートの強力が向上するとともに、良好な地合のシートとなるため、例えばピンホールレスが要求されるエアフィルター、液体フィルター、メディカルフィルターなどの産業資材用途やメディカル用途に展開可能となる。目付の上限については特に限定されないが、1000g/m以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の製造方法によって得られるシートにおいては、用途によって厚みが小さいことが求められるため、シートの厚みとしては10mm以下とすることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。厚みを小さくすることで、例えば液晶の反射板として本発明のシートを用いる際に、TVだけでなく、パソコンや携帯電話などの薄型の液晶ディスプレイ用途に展開可能となる。下限は特に限定されないが、1μm以上であることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の製造方法においては、緻密なシートを得るために、シートの密度が0.01g/cm以上とすることが好ましく、0.05g/cm以上がより好ましく、0.1g/cm以上がさらに好ましい。密度を大きくすることで、シートの遮蔽性が向上するため、電池セパレーターなどの用途に展開可能となる。上限は特に限定されないが、1g/cm以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において繊維の製造方法は特に限定されないが、溶融紡糸法によりナノレベルの極細繊維を得るための製造方法の一例として、例えば特開2004―162244号公報に記載されている公知の方法を採用することができる。また、特開2005−273067号公報に記載されているように、繊維をエレクトロスピニングにより得ることもできる。
【0027】
本発明では、抄紙や繊維分散液を乾燥して得られる繊維が2次元に分散した紙状の成形体や繊維分散液を乾燥、好ましくは凍結乾燥して得られる繊維が3次元に分散したスポンジ状の成形体を作製するが、その原料となる繊維分散液とは分散媒中に単繊維が分散された状態のものを言い、次に極細繊維分散液の調整方法について説明する。
【0028】
上述のようにして得られた極細繊維をギロチンカッターやスライスマシンで、所望の繊維長にカットする。分散液中での繊維の分散性を向上させるためには、繊維は適度な長さとすることが好ましい。すなわち、繊維長は長すぎても分散性が悪化し、繊維長が短すぎてもシート中での繊維の絡み合いの程度が小さくなり、その結果として得られるシートの強力が小さくなる。したがって、繊維長としては0.2〜30mmにカットすることが好ましい。繊維長はより好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは0.8〜5mmである。
【0029】
次に、得られたカット繊維を分散媒中に分散させる。分散媒としては水だけでなく、繊維との親和性も考慮してヘキサンやトルエンなどの炭化水素系、クロロホルムやトリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素系、エタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール系、エチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系、酢酸メチルや酢酸エチなどのエステル系、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコール系、トリエチルアミンやN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミンおよびアミド系溶媒などの一般的な有機溶媒を好適に用いることができるが、安全性や環境等に考慮すると水を用いることが好ましい。
【0030】
カット繊維を分散媒中に分散させる方法としては、ミキサーやホモジナイザー等の攪拌機を用いれば良い。ナノファイバーのようにカット繊維中の単繊維同士が強固に凝集した形態の場合には、撹拌による分散の前処理工程として、分散媒中で叩解することが好ましい。その場合、ナイアガラビータ、リファイナー、カッター、ラボ用粉砕器、バイオミキサー、家庭用ミキサー、ロールミル、乳鉢、あるいはPFI叩解機などでせん断力を与え、繊維1本1本まで分散させ分散媒中に投与することができる。
【0031】
また、繊維分散液中での繊維の分散性を均一にしたり、シートとした際の力学的強度を向上させるために、分散液中の繊維濃度は分散液全重量に対して0.0001〜10重量%にすることが好ましい。特にシートの力学的強度は分散液中の繊維の存在状態、すなわち繊維間距離に大きく依存するため、分散液中の繊維濃度を上記範囲に制御することが好ましい。分散液中の繊維濃度はより好ましくは0.001〜5重量%であり、さらに好ましくは0.01〜3重量%である。
【0032】
また、繊維の再凝集を抑制するために必要に応じて分散剤を用いてもよい。分散剤の種類としては例えば、水系で用いる場合、ポリカルボン酸塩などのアニオン系、第4級アンモニウム塩などのカチオン系、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレンエステルなどのノニオン系の物から選択することが好ましい。分散剤の分子量としては1000〜50000であることが好ましく、5000〜15000であることがさらに好ましい。
分散剤の濃度は、分散液全体に対し0.00001〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.0001〜5重量%、さらに最も好ましくは0.01〜1重量%であり、これにより十分な分散効果が得られる。
【0033】
次に、本発明における成形体ならびに本発明のシートの製造方法について説明する。
【0034】
上記のようにして得られた繊維分散液を抄紙して成形体を得る場合には、例えば特開2005−264420号公報に記載の方法を採用することができる。ここで、本発明において使用する繊維は、繊維径が非常に小さいナノレベルの極細繊維であるため、抄紙する際に水切れ性が悪く、単純に抄紙しただけではシートの目付を上げ難い場合がある。一方、光の反射率や輝度を向上させるためには、光を反射する界面の増加が必須であり、それを達成するためにはある程度シートの目付が必要である。このため、一旦抄紙して得たシートに、さらに繊維分散体を積層して高目付化することが好ましい。その積層方法としては例えば、一旦抄紙して得たシートに、さらに別のラインで抄紙したシートを次々と転写していく方法を採用することが好ましい。なお、抄紙時の水切れ性を向上させてシートの高目付化を達成するためには、極細繊維と繊維径が1μmを超える他の繊維とを混合抄紙することも可能である。
【0035】
また、特開2005−273067号公報に記載のように、ナノレベルの極細繊維をエレクトロスピニングにより直接紡出して不織布化することで、本発明における成形体を得ることもできる。ここで、エレクトロスピニングの一般的なメリットは、一工程で厚みが薄く均一なシートを作製することであり、たとえばエアフィルター用途では、1g/m以下の目付のシートとするのが普通である。もっとも、エレクトロスピニングした繊維の捕集装置のラインスピードを遅くすれば高目付のシートを一段階で得ることも原理的には不可能ではないが、単位時間あたりの吐出量が極端に小さく生産性が極端に低いこと、また捕集された繊維シートが厚くなればなるほど電界特性が変化するため紡糸線が乱れ均一なシートを得にくいことから、本発明で要求される高目付シートを作製するには不利な製法である。このように、エレクトロスピニングは本発明で用いる繊維シートを作製するための技術思想とは全く逆の技術思想で、これまで種々の検討がなされてきたのである。すなわち、エレクトロスピニング法では、本発明の目的を達成し得る高目付シートはこれまで対象外であり、検討されてこなかったのが現状である。このため、本発明の光反射シートの作製にエレクトロスピニングを用いる場合には、エレクトロスピニングにより得られた繊維シートを複数枚重ね合わせて積層することで高目付化することが好ましい。但し、単に積層するだけではそれぞれのシートが剥離してしまうことから、エレクトロスピニングにより得られたシートを複数枚重ね合わせてプレスなどにより一体成形することが好ましい。また、上述のように、エレクトロスピニングで得られたシートは熱寸法安定性に劣る場合があるために、支持体と積層や貼り合わせにより一体化することが好ましい。
【0036】
さらには、上記で得られた繊維分散液を乾燥して繊維が2次元もしくは3次元に分散して微細な細孔や空隙を有する成形体を得る場合には以下の方法を採用することができる。
【0037】
上記で得られた分散液中の極細繊維を分散状態で固定化して成形するために、繊維分散液を適当な容器や型枠に入れる。容器や型枠の形状を任意に変更することで、所望の形状の成形体を得ることが可能である。その後、容器や型枠に入れた繊維分散液から分散媒を乾燥して除去する。分散媒を乾燥して除去するメリットとしては以下の点が挙げられる。例えば、抄紙のような繊維分散液をろ過する方式でシートを得る方法では、極細繊維のろ水度が悪いために、一般に目付の高いシートを得ることは困難であるが、乾燥により溶媒を除去する方法では型枠に入れる繊維分散液の量や繊維分散液中の繊維濃度を制御すれば容易に目付を高くすることができる。
【0038】
乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、繊維を2次元もしくは3次元に分散するために、乾燥方法は適宜選択すればよいが、繊維の分散状態を良好な状態で3次元に分散した状態で固定化した成形体を得るためには、凍結乾燥することが好ましい。凍結乾燥の工程ではまず分散液を液体窒素や超低温フリーザーなどで瞬時に凍結させる。これにより、分散液が凍結した状態を作り出せる、すなわち繊維の分散状態を3次元に固定化することができる。その後、真空化で分散媒を昇華させるのであるが、繊維の分散状態が固定化されたままで分散媒のみが除去され、繊維が3次元に分散状態で固定化された成形体を得ることができる。このようにして得られた繊維シートは、微細な細孔や空隙を多数有しているため密度が小さいものであるが、プレスすることで繊維シート自体が容易に圧縮され、極細繊維が空隙を埋めるために高密度化しやすく、プレスする前の繊維シートの目付を大きく設計しておけば、高目付かつ薄型の繊維シートを得やすいといった利点がある。上述の製造方法により得られた成形体をプレスすることで、目付が大きく、厚みが小さく、さらには密度が大きいシートを得ることができる。プレスする装置としては特に限定されないが、シートを面方向あるいは厚み方向に均一に平滑化するためには、アイロン型や油圧プレスなどの平板プレス、カレンダーやエンボスなどのローラー型などの各種プレス装置を用いることが好ましい。
【0039】
また、プレス時の温度についても特に限定されず、室温でプレスすることも可能であるが、厚みが小さく、かつ強力に優れるシートを得るためには、繊維を形成するポリマーの種類にもよるが、ポリマーのガラス転移点(Tg)+50℃以上で、ポリマーの熱分解温度−20℃の温度範囲でプレスすることが好ましい。
【0040】
さらに、プレス圧力についても特に限定はされず、目的とするシートの目付や厚み、密度により適宜調整すればよいが、例えばカレンダーやエンボスなどのローラー型のプレス装置の場合には、線圧は200Kg/cm(19.6N/cm)以下であることが好ましく、100Kg/cm(9.81N/cm)以下であることがより好ましく、60Kg/cm(5.89N/cm)以下であることがさらに好まし。一方、下限としては特に限定はされないが、0.1Kg/cm(9.81×10−3N/cm)以上であることが好ましい。また、アイロン型や油圧プレスなどの平板型のプレス装置の場合には、面圧は400Kg/cm(39.2MPa)以下であることが好ましく、200Kg/cm(19.6MPa)以下であることがより好ましく、100Kg/cm(9.81MPa)以下であることがさらに好ましく、下限としては特に限定はされないが、1Kg/cm(9.81×10−2MPa)以上であることが好ましい。これにより、地合が良好で平滑なシートを得ることができる。
【0041】
上述のように、本発明の製造方法によって得られるシートは、目付が大きく、厚みが小さく、さらには密度が大きいため、産業資材や生活資材として好適に用いることができる。
【0042】
例えば、本発明の製造方法によって得られるシートは従来の白色フィルムなどに比べて、薄型のシートでありながら反射特性に優れ、さらには極細繊維を主体に構成されるため、フィルムなどに比べて曲げ回復性に優れ、ディスプレイに組み込むための加工性が高いものである。したがって、液晶ディスプレイなどに用いられる光の反射板用途に好適である。例えば、本発明のシートを、面光源であるバックライトに反射板として組み込み、導光板、拡散フィルム、集光フィルムなどの各種フィルム、カラーフィルターなどと組み合わせて、パソコン、テレビ、携帯電話、カーナビなどの表示装置である液晶ディスプレイとすることができる。
【0043】
さらに、本発明のシートは、可視光領域の光の反射率に優れることから、液晶ディスプレイの反射板用基材のみならず、他の高反射率が要求される用途、例えば、照明、コピー機、投影システムディスプレイ、ファクシミリ装置、電子黒板、拡散光白色標準、印画紙や受像紙、写真電球および発光ダイオード(LED)、太陽電池のバックシートなどの反射板として優れた特性を発揮することができる。
【0044】
また、通常のメルトブローやエレクトロスピニングで得られるシートに比べて、本発明の製造方法によって得られるシートは目付が高くても厚みが薄くて高密度であるため、エアフィルターや液体フィルターなどのフィルター用途にも好適である。さらに、本発明の製造方法によって得られるシートに対して、スパンレースで得られるシートは高圧水流絡合によりシート表面に水流によるスジ斑が発生し、平滑性に劣るものであるが、本発明のシートは平滑性に優れるため、拭き取り性が向上し、化粧用シートなどのコスメティック用途ワイピングやポリッシングなどの用途にも好適である。
【0045】
他にも、従来の極細繊維不織布と比較して繊維径が非常に小さいために精密な研磨が可能となるため研磨用途に、従来の微多孔フィルムに比べて、本発明の製造方法によって得られるシートはナノレベルの極細繊維で構成されるため、孔径を小さくすることが可能であり、電池セパレーターなどの各種セパレーター用途に好適である。
【0046】
他方、従来の極細繊維よりなる紙に比べて高目付で薄型のシートが得られるために家具用化粧紙や壁紙あるいは高級印刷用紙や高画質印写用紙などの機能紙用途に好適であり、
さらには、絆創膏、貼布材、細胞培養基材などのメディカル用途などにも有用である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、製造例および実施例中の測定は以下の方法を用いた。
【0048】
(1)SEMによるシートの表面観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で観察した。
SEM装置:(株)日立製作所製UHR−FE−SEM
(2)繊維の数平均直径
上記SEMで少なくとも150本以上の単繊維を1視野中に観察できる倍率で観察し、その観察画像から、三谷商事(株)製の画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、繊維長手方向に対して垂直な方向の繊維幅を繊維の直径として算出した。この際、同一視野内で無作為に150本の繊維を抽出し、それらの直径を解析し、単純な平均値を求めた。なお、繊維シートを形成する前の繊維束から単繊維の数平均直径を求める場合は透過型電子顕微鏡(TEM)を利用してもよい。
【0049】
(3)繊維構成比率
上記(2)の繊維の直径解析を利用し、繊維分散体中のそれぞれの単繊維直径をdとし、その2乗の総和(d+d+・・+d)=Σd(i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい繊維分散体中のそれぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D+D+・・+Dm)=ΣD(i=1〜m)を算出する。Σdに対するΣDの割合を算出することで、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち繊維構成比率とした。
【0050】
(4)目付
目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)の方法に準じて測定した。すなわち、シートから20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それら試験片の絶乾質量を測定して1mあたりの質量を換算し、単純な平均値を求めた。
【0051】
(5)厚み
厚みはシートから3枚の試験片を採取し、1枚あたり5箇所の厚みをマイクロメーター((株)ミツトヨ製、商品名 デジマチックマイクロメーター)により測定し、これを3枚の試験片で行い、単純な平均値を求めた。
【0052】
(6)見かけ密度
密度は(4)項の目付の値と(5)項の厚みの値から計算によって求めた。
【0053】
(7)光の反射率
5cm角のサンプルを3つ準備し、分光光度計U−3410((株)日立製作所製)にφ60積分球130−063((株)日立製作所製)および10°傾斜スペーサーを取付けた状態で560nmにおける反射率を測定し、これを3つのサンプルで行い、得られた値を単純平均して反射率を求めた。尚、標準白色板は装置に添付のもの((株)日立製作所製)を用いた。
【0054】
[分散液の製造例1]
溶融粘度57Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点220℃のN6(20重量%)と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)(80重量%)を2軸押出混練機で220℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。
【0055】
このポリマーアロイチップを紡糸温度230℃、口金面温度215℃として溶融紡糸した。この時、単孔あたりの吐出量は0.94g/分とした。吐出された糸条は冷却され、給油ガイドで給油し、巻き取った。そして、これを第1ホットローラーの温度を90℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、ホットローラー間の延伸倍率を1.5倍として、62dtex、36フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維を98℃の1%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%であった。
【0056】
得られたN6ナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、N6ナノファイバーのカット繊維を得た。タッピースタンダードナイヤガラ試験ビータ(熊谷理機工業(株)製)に水23Lと先に得られたカット繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後余分な水を切って繊維を回収した。この繊維の重量は250gであり、その含水率は88重量%であった。含水状態の繊維250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpm、クリアランス0.2mmで6分間叩解した。オスターブレンダー(オスター社製)に叩解した繊維42g、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌し、N6ナノファイバーの含有率が1.0重量%のN6ナノファイバー分散液1を得た。
【0057】
[分散液の製造例2]
分散液の製造例1において、N6を溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec-1)、融点220℃のN6(45重量%)とした以外は同様な方法でポリマーアロイ繊維を得た。
【0058】
得られたポリマーアロイ繊維を分散液の製造例1と同様にしてポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は120nmと従来にない細さであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は1重量%であった。
【0059】
得られたN6ナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、N6ナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率88重量%のN6ナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解し、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を使用し分散液の製造例1と同様に撹拌して、N6ナノファイバーの含有率が0.5重量%のN6ナノファイバー分散液2を得た。
【0060】
[分散液の製造例3]
N6ナノファイバーの含有率を0.1重量%とした以外は分散液の製造例2と同様にしてN6ナノファイバー分散液3を得た。
【0061】
[分散液の製造例4]
分散液の製造例1において、分散剤を用いないこと以外は分散液の製造例1と同様にしてN6ナノファイバー分散液4を得た。
【0062】
[分散液の製造例5、6]
分散液の製造例5ではN6ナノファイバーのカット長を0.5mm、分散液の製造例6ではN6ナノファイバーのカット長を5mmとした以外は分散液の製造例1と同様にしてN6ナノファイバーの含有率が1.0重量%のN6ナノファイバー分散液5及び6を得た。
【0063】
[分散液の製造例7]
溶融粘度120Pa・s(262℃、121.6sec-1)、融点225℃のPBT(ポリブチレンテレフタレート)と2エチルヘキシルアクリレートを22%共重合したポリスチレン(PS)を用い、PBTの含有率を20重量%とし、混練温度を240℃として2軸押出混練機で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。これを紡糸温度260℃、口金面温度245℃とし、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。この時の単孔あたりの吐出量は1.0g/分とした。得られた未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率を2.49倍とし、熱セット温度115℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。得られた延伸糸は161dtex、36フィラメントであった。
【0064】
得られたポリマーアロイ繊維をトリクレンに浸漬することにより、海成分である共重合PSの99%以上を溶出し、これを乾燥して、PBTナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、PBTナノファイバーの数平均直径は85nmと従来にない細さであり、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で100nmより大きいものの繊維比率は1重量%であった。
【0065】
得られたPBTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PBTナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPBTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PBTナノファイバーの含有率が1.0重量%のPBTナノファイバー分散液7を得た。
【0066】
[分散液の製造例8]
溶融粘度220Pa・s(262℃、121.6sec-1)、融点225℃のPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)と新日鐵化学(株)製共重合PS(ポリスチレン)(“エスチレン”KS−18、メチルメタクリレート共重合、溶融粘度110Pa・s、262℃、121.6sec-1)を、PTTの含有率を25重量%とし、混練温度を240℃として分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。
【0067】
これを紡糸温度260℃、口金面温度245℃、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。この時の単孔吐出量は1.0g/分とした。得られた未延伸糸を90℃の温水バス中で2.6倍延伸を行い、ポリマーアロイ繊維からなる延伸糸を得た。得られた延伸糸は140dtex、36フィラメントであった。
【0068】
得られたポリマーアロイ繊維を分散液の製造例7と同様にしてポリマーアロイ繊維中のPS成分の99%以上を溶出、乾燥し、PTTナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、PTTナノファイバーの数平均直径は95nmと従来にない細さであり、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で100nmより大きいものの繊維構成比率は3重量%であった。
【0069】
得られたPTTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PTTナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPTTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、水500gオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PTTナノファイバーの含有率が1重量%のPTTナノファイバー分散液8を得た。
【0070】
[分散液の製造例9]
分散液の製造例1のN6を溶融粘度350Pa・s(220℃、121.6sec-1)、融点162℃のPP(ポリプロピレン)(23重量%)とした以外は同様な方法で溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。このポリマーアロイチップを紡糸温度230℃、口金面温度215℃、単孔吐出量1.5g/分、紡糸速度900m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率を2.7倍、熱セット温度130℃として分散液の製造例1と同様にして延伸熱処理してポリマーアロイ繊維を得た。
【0071】
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の1%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は240nmであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維比率は0重量%であった。
【0072】
得られたPPナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PPナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率75重量%のPPナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維を20g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株):分子量10000)を0.5g、水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPナノファイバーの含有率が1.0重量%のPPナノファイバー分散液9を得た。
【0073】
[分散液の製造例10]
溶融粘度280Pa・s(300℃、1216sec−1)のPETを80重量%、溶融粘度160Pa・s(300℃、1216sec−1)のポリフェニレンサルファイド(PPS)を20重量%として、下記条件で2軸押出混練機を用いて溶融混練を行い、ポリマーアロイチップを得た。ここで、PPSは直鎖型で分子鎖末端がカルシウムイオンで置換された物を用いた。
【0074】
スクリュー L/D=45
混練部長さはスクリュー有効長さの34%
混練部はスクリュー全体に分散させた。
【0075】
途中2個所のバックフロー部有り
ポリマー供給 PPSとPETを別々に計量し、別々に混練機に供給した。
【0076】
温度 300℃
ベント 無し。
【0077】
ここで得られたポリマーアロイチップを分散液の製造例1と同様に紡糸機に導き、紡糸を行った。この時、紡糸温度は315℃、口金面温度292℃とした口金から溶融紡糸した。この時、単孔あたりの吐出量は1.1g/分とした。吐出された糸条は冷却固化され、脂肪酸エステルが主体の工程油剤が給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して1000m/分で巻き取られた。そして、これを第1ホットローラーの温度を100℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を3.3倍としてポリマーアロイ繊維を得た。
【0078】
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の5%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のPET成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPSナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をSEM写真から解析した結果、PPSナノファイバーの数平均直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維比率は0重量%であった。
【0079】
得られたPPSナノファイバーの繊維束を3mm長に切断して、PPSナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPPSナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPSナノファイバーの含有率が1.0重量%のPPSナノファイバー分散液10を得た。
【0080】
<実施例1>
分散液の製造例1で得られたナノファイバー分散液1を用い、タテ約25cm×ヨコ19cm×深さ5cmのステンレス製バットにこの分散液を250g入れ、さらに液体窒素で分散液を凍結した後、−80℃の超低温フリーザー中に30分間静置した。
【0081】
凍結したサンプルを真空凍結乾燥機TF10−85ATNNN((株)宝製作所製)で10Pa以下の真空度で凍結乾燥して繊維が3次元に分散して微細な細孔や空隙を有してなる成形体を得た。
【0082】
得られた成形体を平板プレス機である37tプレス((株)ゴンノ油圧機製作所製)で、圧力100Kg/cm、室温で1分間プレスしてシートを得た。
【0083】
シートの繊維分散体をSEMで観察したところ、構成する繊維の数平均直径は60nmであり、単繊維直径が200nmより大きい単繊維の繊維比率は0重量%、単繊維直径が100nmより大きい単繊維の繊維比率は0重量%であった。
【0084】
また、シートの目付は101g/m、厚みは130μm、密度は0.78g/cmであり、目付が大きく厚みが小さいシートであった。さらに、光の反射率を測定したところ94%であり、優れた反射特性を示すことがわかった。
【0085】
<実施例2〜10>
実施例2〜10については分散液の製造例2〜10で得られたナノファイバー分散液2〜10を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行い成形体を得た後、室温でプレスしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0086】
<実施例11、12>
実施例1で得られた成形体を実施例11では3枚、実施例12では5枚重ねて室温でプレスしてシートを得た。プレスの方法及び条件は実施例1と同様である。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0087】
<実施例13>
実施例1において、プレス温度を170℃とした以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0088】
<実施例14>
実施例2において、プレス温度を120℃とした以外は実施例2と同様にしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0089】
<実施例15>
実施例1において、乾燥方法を熱風乾燥とし、市販の熱風乾燥機で80℃で乾燥して成形体を得た以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0090】
<実施例16>
実施例2において、乾燥方法を真空乾燥とし、市販の真空乾燥機で室温下、0.1kPaの真空度で真空乾燥して成形体を得た以外は実施例2と同様にしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0091】
<実施例17>
製造例1の分散液を用い、目付を30g/mとなるように抄紙した以外は特開2005−264420号公報の実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体を3枚積層し、実施例14と同様にプレスしてシートを得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0092】
<比較例1>
実施例1において、プレスしないこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであった。
【0093】
<比較例2>
特開2005−264420号公報の比較例10に記載の極細繊維からなる紙を2枚積層して、実施例14と同様にしてプレスした。得られたシートの目付、厚み、密度、反射率は表2に示したとおりであったが、反射率は65%であり、反射特性に劣るものであった。
【0094】
<実施例18>
硫酸相対粘度が2.8のN6ペレットをギ酸に溶解し、濃度15wt%の紡糸原液を作製した。
【0095】
また、紡糸装置は次のようなものを用いた。すなわち、プラスチック製の注射器に注射針テルモノンベベル針21G(テルモ株式会社製)を取り付けてシリンジとした。前記注射針を高電圧電源と接続し、さらに前記シリンジと対向し、10cm離れた位置に直径が10cmφで幅が15cmの金属製ローラー(接地された捕集部)を設置した。
【0096】
次いで、前記紡糸原液をシリンジに入れ、シリンジをトラバース(周期:7分12秒)させながら、フィーダーを用いて重力の作用方向と直角に紡糸原液を押し出すとともに(押出量:18.6μl/分)、前記ローラーを一定速度(表面速度:21m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+20kVの電圧を印加して、押し出した紡糸原液に電界を作用させて極細繊維化し、前記ローラー上に連続した極細繊維を集積させて成形体を得た。尚、この時の雰囲気温度は20℃、相対湿度は50%であった。さらに得られた成形体をそれぞれ平板プレス機である37tプレス((株)ゴンノ油圧機製作所製)で、圧力100Kg/cm(9.81MPa)、室温で1分間プレスしてシートを得た。
【0097】
得られたシートの数平均直径や反射率などの物性については表3に示したとおりであり薄型で反射特性に優れるシートが得られた。
【0098】
<実施例19>
実施例18において、ローラー上に集積させる極細繊維の量を増やし、成形体の目付けを140g/mとなるようにした以外は実施例18と同様にしてシートを得た。
【0099】
得られたシートの数平均直径や反射率などの物性については表3に示したとおりであり薄型で反射特性に優れるシートが得られた。
【0100】
<実施例20>
完全けん化度タイプのPVA粉末(クラレ(株)製 クラレポバール117)を水に溶解し、濃度8wt%の紡糸原液を作製した。
【0101】
ノズルへの印加電圧を12kV、シリンジと金属ロールとの間隔を5cmとした以外は実施例18と同様にして金属製ローラー上に連続した極細繊維を集積させて成形体を得た。
【0102】
さらに得られた成形体を平板プレス機である37tプレス((株)ゴンノ油圧機製作所製)で、圧力10Kg/cm(0.981MPa)、室温で20秒間プレスしてシートを得た。
【0103】
得られたシートの数平均直径や反射率などの物性については表3に示したとおりであり薄型で反射特性に優れるシートが得られた。
【0104】
<実施例21>
実施例20において、ローラー上に集積させる極細繊維の量を減らし、成形体の目付けを17g/mとなるように変更した以外は実施例20と同様にしてシートを得た。
【0105】
得られたシートの数平均直径や反射率などの物性については表3に示したとおりであり薄型で反射特性に優れるシートが得られた。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のシートは産業資材や生活資材用に好適である。例えば、液晶ディスプレイなどに用いられる光の反射板などの用途、照明、コピー機、投影システムディスプレイ、ファクシミリ装置、電子黒板、拡散光白色標準、印画紙や受像紙、写真電球および発光ダイオード(LED)、太陽電池のバックシートなどの反射板用途、エアフィルターや液体フィルターなどのフィルター用途、化粧用シートなどのコスメティック用途、ワイピングやポリッシングなどの拭き取り用途あるいは研磨布などの研磨用途、電池セパレーターなどの各種セパレーター用途、家具用化粧紙や壁紙あるいは高級印刷用紙や高画質印写用紙などの機能紙用途などに有用である。
【0110】
さらに、絆創膏、貼布材、細胞培養基材などのメディカル用途などにも有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均直径が1〜500nmである繊維からなる成形体をプレスすることを特徴とするシートの製造方法。
【請求項2】
前記成形体中の繊維が3次元に分散して微細な細孔や空隙を有してなることを特徴とする請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記成形体が凍結乾燥により得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記成形体がエレクトロスピニングにより得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシートの製造方法。
【請求項5】
前記繊維が熱可塑性ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシートの製造方法。
【請求項6】
前記繊維において、直径500nmより大きい単繊維の繊維比率が3重量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシートの製造方法。
【請求項7】
波長560nmにおける反射率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシートの製造方法。

【公開番号】特開2007−191849(P2007−191849A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335457(P2006−335457)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】