説明

極薄フォトポリマーコーティング及びその使用

本発明は、物品上に極薄親水性ポリマーコーティングを形成するための方法、並びにそれから形成された物品を提供する。該コーティングは、ペンダント型光反応性基を有するポリマーを含む組成物を、該物品の表面と接触させながら、該組成物を照射することにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年11月8日に出願され、題名「Ultra−Thin Photo−Polymer Coatings and Uses Thereof」の米国特許出願第60/734,961号明細書の有する米国仮出願の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、きわめて薄い親水性フォトポリマーコーティング、これらのコーティングを有するマイクロ構造を有する又はナノ構造を有する物品、及びこれらの極薄コーティングを有する物品の使用に関連した方法に関する。
【背景技術】
【0003】
流体と接触する物品を作成するために用いられる材料、例えば、フィルタ、バイオセンサ、及び埋め込むことができる医療装置は、これらの材料が該物品の表面に付与することができる特性よりはむしろ、それらのバルクの物理的性質に関して選択されるのが一般的である。結果として、物体は、望ましい特性、例えば、強度及び弾性を有することができる一方で、その表面は、流体との相互作用について最適化されていない場合がある。そうしたデバイスの表面改質のための従来法及び材料は、例えば、たんぱく質吸着を減らし、湿潤性及び滑性を高め、そして血栓形成及び細菌のコロニー形成を減らすために用いることができる。
【0004】
一般的なコーティング方法は、ポリマー材料を含むコーティング組成物を調製すること、該組成物を基材の表面に適用すること、次いで該基材の表面にポリマーコーティングを形成させるために該組成物を乾燥及び硬化させること、の各ステップを含むのが典型的である。多くのコーティング手順では、コーティング組成物が、ディップコーティング又はスプレーにより該表面に適用され、次いで乾燥される。しかし、これらの一般的なコーティング技法及び試薬は、非常に薄いコーティングを必要とする用途に関して充分に設計されていないことが多い。さらに典型的には、これらの技法は、0.5μm超の厚さであるコーティングを生じさせる。
【0005】
保護され、生体分子と相性が良い合成された表面を提供するための種々の試みがなされている。これらの試みは、改良されたプラスチックを製造そして設計すること、並びにプラスチック、シリカ、半導体、及び金属表面の薄膜コーティングを用いることを含む。薄膜コーティングは、予備生成させた親水性及び界面活性ポリマーの吸着及び熱化学的な結合、親水性であるが不溶性のポリマーフィルムを形成するためのその場での重合/架橋、又は物品がコーティング溶液中にディップコーティングされた後の予備生成された親水性及び界面活性ポリマーの光化学結合に依存する傾向がある。
【0006】
比較的薄いコーティングを、蒸着重合(VDP)により調製することができる。VDPでは、モノマー生成物を、基材の存在下反応チャンバー内で揮発させる。揮発したモノマーラジカルを、該基材の表面に再昇華させ、そして該表面上で他のモノマーラジカルと反応させて、薄いポリマー層を形成させる。パリレン(商標)(ポリ(パラ−キシリレン))コーティングは、VDP法により形成されるのが一般的である。これらのコーティングは、比較的非常に薄いものであるが、それらは、100nm未満の厚さを有しないのが典型的である。典型的には、ポリ(パラ−キシリレン)がコーティングされた層は、約0.1μm〜約75μmの範囲の厚さを有する。プラズマ堆積法により形成したこれらの比較的薄いコーティングでさえ、いくつかの用途に関して厚すぎる場合があるコーティングを提供する可能性がある。
【0007】
つい最近、「極薄」コーティングの調製が達成された。本明細書に参照されるように、極薄」コーティングは、約20nm以下の厚さを有すると考えることができる。実質的により厚いコーティングが、デバイスの少なくとも一部の機能を覆う用途では、そうした極薄コーティングは特に有用であることができる。「極薄」コーティングに関するこれらの用途は非常に多く、そして、例えば、小さな孔サイズ又は約1μm未満のサイズの構造的特徴部分のいずれかを提供するコーティング表面を含む。
【0008】
極薄コーティングを提供するための一般的なアプローチの一つは、両親媒性自己集合単分子層(SAM)分子及び潜在性反応性基(例えば、光反応性基)を用いて、表面上に極薄コーティングを形成することを記載する米国特許第6,689,473号明細書(Guireら)に記載されている。該SAM分子を、表面と共有結合させるか、及び/又は共に結合させ、該物品の表面の薄くコーティングされた層を形成することができる。これらのSAMがコーティングされた表面は、たんぱく質の吸収及び細菌の付着に対する保護、バイオセンサ上の非特異的吸着に対する保護、そしてオリゴヌクレオチドアレイの調製を含む数多くの目的に有用である。
【0009】
自己集合単分子層(SAM)技術が、種々の基材上に生物及び非生物(例えば、合成ポリマー)分子の単分子フィルムを生成させるために用いられる。そうした単分子層系の形成は多目的に使用でき、そして天然由来の分子認識プロセスによく似ていることができる生物表面(bio−surface)の体外での進歩のための方法を提供することができる。SAMはまた、基材表面における固定された認識中心又は複数の中心の記録密度および環境に対して信頼性がある制御を可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
いくつかの進歩にもかかわらず、例えば、完全且つ均一な表面被覆率、親水性、生体分子及び細胞への最小の非特異的引力、充分な安定性及び耐久性、種々の材料表面に対する広い適用性、及びコーティングを形成するための容易性及び再現性特性を有する極薄コーティングを提供するために、この技術分野における進歩が、まだ必要である。さらに、該コーティングは、一般的な製造法により容易に形成されることが好ましい。いくつかの場合では、使用の際に医療用物品を調製するために用いられる一般的な殺菌技法に対して耐久性を有するコーティングを調製することがまた望ましい。さらに、高価でないか又は合成が比較的簡単であるコーティング材料を利用することが望ましい。
【0011】
明らかに望ましいものは、上記に列挙した望ましい特性をさらに改良した組み合わせを有するものを含む、改良された表面コーティングを提供するための方法及び試薬である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ターゲット表面上での極薄親水性フォトポリマーコーティングの形成に関する。該極薄ポリマーコーティングは、複数の用途で有用であり、そしてターゲット表面の特性を変化させ若しくは改良するため、または生物系薬剤等の他の薬剤、例えば、たんぱく質、核酸又は細胞、を固定化させるために有用であるコーティング層を提供するために形成できる。
【0013】
一般的に、本発明に従って、該極薄コーティングは、親水性フォトポリマー(すなわち、ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマー)を含むコーティング溶液を調製し、該基材を該コーティング溶液と接触させ、次いで該基材の表面に極薄ポリマー層の形成を促進するために、該基材を照射することにより形成される。該コーティング方法は、照射するステップの前に、該基材の表面のコーティング溶液を乾燥させることなく実施される。
【0014】
本発明の方法に従って、該表面に形成された極薄フォトポリマー層が、厚さ5nm未満でもよいことが示された。しかし、本発明の方法を用いて、例えば、コーティングのパラメータを変化させることにより、より厚いコーティングを得ることができる。これらの多くの場合では、得られたコーティングは、「極薄」(厚さ20nm未満)と考えることができる。
【0015】
該コーティングが極めて薄いにもかかわらず、該コーティングは、該コーティングのポリマー材料の特性と一致した望ましい特性を提供する。例えば、本発明に従って形成された親水性ポリマーの極薄層は、優れた湿潤特性を示す。
【0016】
本発明に記載された極薄コーティングは、マイクロ構造又はナノ構造の特徴部分を有する物品の表面に適用された場合に、非常に有用であることができる。これらの場合には、特定の用途における物品の総合的な機能は、該コーティングが該物品上の特徴部分と比例することが必要である場合がある。例えば、本明細書に記載されるように、極薄親水性ポリマーコーティングを、非常に小さな孔(例えば、フィルタ)、例えば、5μm未満、そして0.25μM(250nm)未満のサイズを有する材料上に形成することができる。形成された該フォトポリマーコーティングは、該孔サイズと比較して非常に薄いので、該孔サイズは、該コーティングの形成によって有意には減らず、従って、該基材の性能は、損なわれない。本発明の親水性フォトポリマーが適用できる他のデバイスには、分子エレクトロニクス、例えば、ケイ素材料から作製された半導体、有機分子を有する銀表面、化学的に安定な半導体層、クラスター/分子/半導体アセンブリ、クラスターネットワーク、微小電気機械システム(MEMS)、アクチュエータ、マイクロ及びナノスケール集積システム、マイクロ流体バイオチップ、マイクロフローシステム、及びDNA特性化のためのナノ電子素子が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明のいくつかの態様では、該極薄コーティングが、織り込まれた又は構造化された物品、例えば、繊維、孔、フィラメント、撚糸(thread)、突起(processes)、開口、又はそれらの組み合わせを有する物品の群から選択されるものの表面に形成される。本発明の方法を用いた優位性の一つは、該フォトポリマー層が、該デバイスの表面の1つ又は2つ以上の非常に特異的且つ小さな場所に形成できることである。すなわち、該フォトポリマー組成物が、該デバイスの表面と接触した場合に、一又は複数の特定の場所に極薄コーティングを提供するために、規定された活性化光の照射が、該表面の1つ又は2つ以上の非常に特定の位置に適用できる。ある場合には、該照射パターンを、該デバイスのマイクロ又はナノ構造を有する表面に対応させることができる。
【0018】
驚くべきことに、記載されたコーティングは、極めて薄いが、それらはまた良好な耐久性を有することが見出された。すなわち、該コーティングは、物理的な挑戦であることができ、そして該挑戦の後ではその親水性を保持することができる。これは、形成されたコーティングが、極めて薄いが、非常に強いことを示す。
【0019】
本発明の極薄親水性コーティングの別の明確に区別できる優位性は、迅速且つ充分に湿潤されるその能力に関する。より厚いコーティングは、該コーティングに入ることが好ましい水の量がより多いために、湿潤させるには長い時間がかかる場合があり、ひいては親水性表面を提供するために長い時間がかかる。しかし、該極薄コーティングは、迅速に飽和できる。
【0020】
これは、多孔質基材に対してコーティングを形成させる際に優位性を有することができる。極性又は水性流体に曝した場合に、本明細書に記載される極薄コーティングを有するフィルタは、迅速に湿潤し、そして該フィルタを通して流体を通過させる。該流体の流動は妨げられず、そして該フィルタは、負の圧力又は正の圧力により生ずる場合がある過度の圧力にさらされない。
【0021】
本発明の別の優位性は、多くの態様では、該コーティングが迅速且つ有効に調製されるように、極薄にコーティングされる層を形成させる方法に関する。本明細書に示すように、該基材をコーティング溶液と接触(例えば、浸漬)させ、そして該コーティングされた層を形成するために、該コーティング溶液と接触している該基材を照射することにより、コーティングを該基材上に形成することができる。該コーティング組成物を乾燥させることを含むステップは、必要でない。これは、該コーティングを調製するためにさらに追加のステップを要求する場合がある他のコーティング方法と比較される。さらに、試薬、例えば、ポリマーコーティングの形成を促進するために必要とされうる試薬を追加して加えることは、必要でない。同様に、該コーティング方法で使用される試薬及び時間が節約されるので、本明細書に記載される本発明の方法は、経済的な有用性を有する。
【0022】
本発明のいくつかの態様では、コーティングされる基材は、疎水性表面を有し、且つ水素の乏しい供給源であるか又は抜き取ることができる水素を全く提供しない。これらの態様では、該極薄コーティングの調製で、該フォトポリマーの光反応性基が、該基材表面との会合を促進し、次いで、光反応性基を照射することにより、該光反応性基と該ポリマーの一部との間の結合を促進し、該基材表面と比較すると、抜き取ることができる水素原子の良好な供給源となる。この場合では、該物品の表面に親水性ポリマーの極薄の架橋されたネットワークを形成させるために、該光反応性基と該コーティング組成物のポリマーとの間に、共有結合が主に形成される。
【0023】
従って、いくつかの態様では、本発明は、20nm以下の厚さを有する親水性ポリマーコーティングを有する物品を提供する。該コーティングは、ペンダント型光反応性基を介して共有結合した複数の親水性ポリマーを含む。
【0024】
いくつかの態様では、本発明は、物品の表面に親水性コーティングを形成するための方法を提供し、該コーティングは、20nm未満の厚さを有する。該方法は、(a)該物品の全部又は少なくとも一部を、少なくとも1つのペンダント型潜在性光反応性基を含む親水性ポリマーを含むコーティング組成物と接触させること;そして、該コーティング組成物が該基材と接触している間に、(b)20nm以下の厚さを有する親水性ポリマーコーティングを形成させるために、該組成物を照射して該光反応性基を活性化させることの各ステップを含む。
【0025】
本発明の他の態様では、該極薄コーティングを形成するために、2つ又は3つ以上のペンダント型光反応性基を含む水溶性架橋剤が用いられる。該架橋剤は、該コーティングの特性、例えば、耐久性を改良するために添加できる。該コーティングの形成で、該架橋剤は、該極薄コーティングがされた層の親水性ポリマー間に追加の結合を提供することができる。例えば、架橋剤を利用する方法は、(a)(i)ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマー及び(ii)ペンダント型光反応性基を有する水溶性架橋剤を含むコーティング組成物と、該物品の全部又は一部とを接触させること;そして、該コーティング組成物が該物品の表面と接触している間に、(b)該物品の表面を照射すること、の各ステップを含む。
【0026】
いくつかの態様では、該物品は、疎水性であり、そして抜き取ることができる水素の乏しい供給源である表面を有し、そしてクロロ又はフルオロポリマーで作製された物品等のハロゲン含有ポリマー材料でできている。例示的なポリマー材料は、クロロ又はフルオロ飽和ポリマー、例えば、PTFEを含む。
【0027】
本発明の他の態様では、該極薄親水性コーティングが、多孔質構造を有する物品に適用される。多孔質構造を有する該物品は、疎水性材料から形成されることが好ましく、そして抜き取ることができる水素の供給源を提供する材料を任意選択的に含むことができる。
【0028】
多孔質表面を有する例示的な物品には、小さな孔サイズを有するフィルタが含まれる。本明細書に記載される本発明の親水性コーティングは、任意の孔サイズを有する物品に有用であることができる一方で、それらは、約5μm以下の孔サイズを有するフィルタ、例えば、約0.05μms〜約5μmの範囲にある孔サイズを有するフィルタ用において特に有用である。本明細書に記載される方法は、親水性コーティングを該フィルタの表面に提供するために実施されることができ、該コーティングは、該フィルタの性能を下げるものではない。いくつかの態様では、本発明は、20nm以下の厚さ及び5μm以下の平均孔サイズを有する親水性フォトポリマーコーティングを含むフィルタを提供する。
【0029】
従って、関連する態様では、本発明はまた、親水性コーティングを有するフィルタを調製する方法を提供し、該フィルタは、小さな孔サイズを有し、そして該親水性コーティングは、該孔によって流体の流動を有意に妨げることはない。
【0030】
また、本発明のいくつかの態様に従って、約500kDa未満の分子量を有する親水性ポリマーの使用がまた、該極薄のコーティングがされた層の形成および品質を改良できることが見出された。いくつかの態様では、約10kDa〜約500kDaの範囲の分子量を有する親水性ポリマーが用いられる。従って、別の態様では、本発明は、次の各ステップを含む極薄親水性コーティングを形成するための方法を提供する:(a)ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーを含むコーティング組成物を用意すること、該親水性ポリマーは、500kDa以下の分子量を有する、(b)該物品の全部又は一部を、該コーティング組成物と接触させること、そして(c)該コーティング組成物が該物品の表面と接触している間に、該物品の表面を照射すること。本発明はまた、500kDa以下、又はいくつかの態様では、10kDa〜500kDaの範囲の分子量を有する親水性ポリマーから形成させた20nm未満の極薄コーティングを有する物品を意図する。
【0031】
該極薄コーティングを形成させるために用いられる親水性ポリマーは、2つ又は3つ以上のペンダント型光反応性基を含み、そして一般的に複数のペンダント型光反応性基を含む。いくつかの態様では、該親水性ポリマーは、該ポリマー主鎖に沿って不規則に間隔をあけた複数の光反応性基を含む。そうしたポリマーは、親水性モノマーと、ペンダント型光反応性基を有するモノマーとの共重合により生成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本明細書に記載される本発明の実施形態は、包括的であることを目的とするもの、又は下記の詳細な説明に開示される正確な形態に本発明を制限することを意図するものではない。むしろ、上記実施形態は、他の当業者が本発明の本質及び実施を正しく評価し、そして理解することができるように選択されそして記載された。
【0033】
本明細書に記載される全ての出版物及び特許を、参照により本明細書中に取り込む。本明細書に開示される出版物及び特許は、単にそれらの開示のために提供されている。発明者は任意の出版物及び/又は特許(本明細書で引用される任意の出版物及び/又は特許を含む)を先行するものとする資格がないことを、認めると解釈する。
【0034】
本明細書において、「層」又は「コーティングされた層」の語は、物品表面の全体、物品表面の全体未満、物品表面の一部にわたるその目的とする使用のために充分な寸法(例えば、厚さ及び面積)の1つ又は2つ以上のコーティングされた材料の層をいう。本明細書で記載される「コーティング」は、1つ又は2つ以上の「コーティングされた層」を含み、各コーティングされた層は、1種又は2種以上のコーティング成分を含むことができる。本発明のいくつかの態様では、該コーティングは、フォトポリマー材料は単一コーティング層から成る。
【0035】
本発明は、(極めて薄い親水性ポリマー層を有することが望ましい)物品の表面にコーティングを調製するための方法、極めて薄い親水性ポリマー層を有する物品、およびこれらのコーティングされた物品を用いるための種々の方法を対象とする。
【0036】
該極薄コーティングは、多種多様の用途に特に有用であるので、本発明は、特定の用途に限定されない。むしろ、本発明の教示は、様々な異なる用途で用いることができる多くの物品上に、どのように該フォトポリマーコーティングを形成することができるかを示す。この開示及び当業界の知識に基づいて、例えば、該基材の表面に親水性の特性を付与するために、所望の基材上に極薄コーティングを形成することができる。
【0037】
特に、本発明の極薄コーティングは、迅速に湿潤する極薄コーティングを物体の表面に形成させることが望ましい場合に有用である。従って、コーティングされた物体が、極性流体、例えば、水と接触することを目的とする技術領域で、該極薄コーティングを用いることができる。他の例示的な流体には、緩衝剤、飲料及び生体液が含まれる。
【0038】
いくつかの態様では、本発明のコーティングは、流体導管、流体ろ過、微小流体工学、バイオセンサ、医療装置等を含むがそれらに限定されない水等の流体の運動に関連する技術領域で用いられる。しかし、該開示を概観すれば、本発明の極薄親水性フォトポリマーコーティングを、種々の技術分野において用いることができることは明らかであろう。
【0039】
本発明のいくつかの態様では、該極薄コーティングを、織り込まれた又は構造化された物品の表面に形成させる。例示的な織り込まれた又は構造化された物品には、繊維、孔、フィラメント、撚糸、突起、開口、又はそれらの組み合わせを有するものが含まれる。該極薄コーティングは、ナノメートルからマイクロメートルの範囲の構造の特徴部分を有する物品をコーティングするために特に有用であることが見出された。
【0040】
該極薄親水性フォトポリマー層を、任意の好適な基材材料を含むデバイスの表面に形成させることができる。本明細書において、基材又はデバイスを作製する材料を、「一又は複数の基材材料」又は「一又は複数のデバイス材料」という。いくつかの態様では、該層を、実質的に全ての金属材料、例えば、合金から構成されたデバイス又は物品上に形成することができる。極薄層をまた、非金属及び金属材料の両方、例えば、表面の少なくとも一部に金属を含む基材、で構成されたデバイス上に形成することができる。そうした表面を、該デバイスの表面の全部又は一部上に、金属をスパッタコーティングすることを含む任意の方法により形成できる。
【0041】
基材材料として用いることができる金属には、白金、金、又はタングステン、並びに他の金属、例えば、レニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、チタン、ニッケル、及びこれらの金属の合金、例えば、ステンレス鋼、チタン/ニッケル、ニチノール合金、及び白金/イリジウム合金が含まれる。他の合金又は組み合わせを含むこれらの金属は、本明細書に記載される親水性フォトポリマーを用いたコーティングの方法に用いられる好適な基材であることができる。
【0042】
金属物品の表面を、任意選択的に処理して、表面の化学的性質を変えることができる。極薄親水性フォトポリマーコーティングを表面に適用することが望ましい本発明の多くの実施形態では、該表面の化学的性質が変更される場合、それは、(該フォトポリマー層を含む)該表面に適用される材料の厚さに著しく加えられないような方法でなされることが好ましい。例えば、いくつかの金属又はガラス表面を、シラン試薬、例えば、ヒドロキシシラン又はクロロシランを用いて処理することができる。
【0043】
極薄コーティングを用いて任意選択的に提供することができる他の表面は、人間の組織、例えば、骨、軟骨、皮膚及び歯;又は他の有機材料、例えば、木材、セルロース、圧縮された炭素、及びゴムを含むもの、を含む。他の意図された材料には、セラミック、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、及びアルミナ、並びにガラス、シリカ、及びサファイアが含まれるがそれらに限定されない。セラミックと金属との組み合わせも、コーティングできる。
【0044】
該極薄ポリマー層を、プラスチック物品の表面に形成することができる。「プラスチック」は、その最も広い意味で使用され、そして熱硬化性プラスチック及び熱可塑性プラスチックを含む全てのプラスチック基材を含む。基材として意図される該プラスチック物品は、非常に軟質のプラスチック物品から、非常に硬質のプラスチック物品の範囲に及ぶことができる。本発明のいくつかの態様では、該極薄親水性フォトポリマーコーティングは、いくぶん硬質である、又は適度に硬質である基材上に形成される。
【0045】
本発明のある実施形態では、該極薄親水性フォトポリマーコーティングを、プラスチック基材の表面に形成し、該プラスチック基材は、抜き取ることができる水素の乏しい供給源であるか又は全く供給源でないポリマー材料を含む。これらの実施形態では、該親水性フォトポリマーと該デバイスの表面との間に生じることができる共有結合は、非常にわずかであるか、又は全くない。
【0046】
驚くべきことに、耐久性の高い極薄コーティングが、これらの種類のプラスチック表面上に形成できることが見出された。これらの実施形態では、該極薄コーティングが、該光反応性基を介して親水性フォトポリマー間の共有結合により形成され、それにより、該デバイスの表面にフォトポリマーの極めて薄い架橋されたネットワークを形成すると推測される。この型の層形成はまた、「インターフォトポリマ結合」いうことができる。
【0047】
本明細書において、「耐久性」の語は、使用の際に典型的に遭遇する(例えは、法線力、せん断力等の)力にさらされた場合のポリマーコーティングの耐摩耗性、又はデバイス表面に維持されるべきコーティングの能力をいう。さらに耐久性のあるコーティングは、磨耗により基材からより非容易に除去される。コーティングの耐久性は、使用条件をシミュレートする条件に、該デバイスをさらすことにより評価できる。該コーティングされた物品の使用の間、本発明のいくつかの態様において遭遇する場合があるせん断力の影響に耐えるような方法で、該極薄コーティングを該デバイス表面上に形成することができる。これらの場合では、そうした力は、さもなければ本体構成物から該コーティングが層間剥離する結果になることができる。
【0048】
基材材料として用いることができる別の種類のポリマーには、ハロゲン化ポリマー、例えば、塩素化及び/又はフッ素化ポリマーが含まれる。いくつかの実施形態では、該基材材料には、パーハロゲン化ポリマーが含まれる。「パーハロゲン化」は、炭素と結合したすべての水素が、ハロゲン原子、例えば、塩素又はフッ素により置換されたポリマーをいう。いくつかの実施形態では、該基材の材料には、「パーフルオロ化」ポリマーが含まれ、炭素と結合した全ての水素が、フッ素で置換されているポリマーをいう。
【0049】
いくつかの実施形態では、「部分的フッ素化」ポリマーが用いられ、炭素と結合したすべての水素が、フッ素原子により置換されているわけではない(例えば、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1/4が、フッ素原子で置換されている)基材ポリマーをいう。「フッ素化熱可塑性物質」は、非晶質物、例えば、通常そうした融点を有しないフルオロエラストマーと区別できるはっきりと異なる融点を有するフルオロポリマーをいう。「熱可塑性エラストマー」は、熱可塑性材料のように加工できるゴム様の材料をいう。
【0050】
フルオロプラスチックは、耐薬品性等を与える特性により、基材材料として有用であることができる。しかし、フルオロポリマー系材料は、反応性に乏しいか、又は反応しないため、フルオロポリマーから構成された基材の表面に材料を共有結合させることが難しいことが多い。テフロン(登録商標)の商標名の下で公知であるものを含むこれらのフルオロポリマーは、非常に滑らかくそして疎水性の表面特性を有する。
【0051】
基材材料として用いることができるパーハロゲン化ポリマーの例には、パーフルオロアルコキシ(PFA)ポリマー、例えば、テフロン(登録商標)及びNeoflon(商標);ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE);フッ素化エチレンポリマー(FEP)、例えば、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンのポリマー;ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE);及び延伸ポリ(テトラフルオロエチレン)(ePTFE)が含まれる。これらのポリマーは、典型的には、約100℃〜約330℃の範囲の融解温度を有する。
【0052】
部分的フッ素化ポリマーの例には、TFE(テトラフルオロエチレン)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフルオライド(VDF)、パーフルオロアルキル又はアルコキシビニルエーテル、及び非フッ素化オレフィンの共重合された単位の種々の組み合わせが含まれる。この種の材料には、TFE/HFP/VDFコポリマー、例えば、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドのポリマー)、ETFE(テトラフルオロエチレン及びエチレンのポリマー)、HTE(ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン及びエチレンのポリマー)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF;例えば、Kynar(商標)、Foraflon(商標)、Solef(商標)、Trovidur(商標))、TFE/P(テトラフルオロエチレン/プロピレン)、及びエチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)コポリマー、例えば、Halar(商標)、が含まれる。
【0053】
他のフルオロポリマーは、当技術分野で公知であり、そして種々の参考文献、例えば、W.Woebcken,Saechtling International Plastics Handbook for the Technologist,Engineer and User,3rd Ed.,(Hanser Publishers,1995)pp.234〜240に記載されている。
本発明に従う基材材料としてフルオロポリマーを使用することを具体的に説明するため、そして本発明のコーティングがこれらタイプの基材を提供できる利点を示すために、ePTFE基材の表面上にフォトポリマーの親水性コーティングを調製することを記載する。
【0054】
ePTFEは、多種多様の技術において有用な種々の基材物品またはデバイスに製造できる。例えば、ePTFEチューブは、医療装置、電子絶縁体、高性能フィルタ及び他の複数の用途で使用するために理想的である特有の物理的性質を与えられている。
【0055】
特に有用な用途の一つは、親水性フォトポリマーを用いて多孔質基材、例えば、フィルタをコーティングして、極薄の親水性層を形成することを含む。フィルタ基材は、本明細書記載されるフォトポリマーを用いて極薄の親水性コーティングされた層を形成させるための理想的に好適な基材を例示するものとして記載される。本発明の極薄コーティングを有するフィルタを、流体ろ過を含む、種々のろ過用途のために用いることができる。「フィルタ」の語は、該デバイスを通過する粒子又は分子をブロックし、捕捉し、そして/又は改変できる任意のデバイスをいう。「流体」は、液体及び気体を含む容易に流れる材料の任意の形態をいう。あるケースでは、触媒作用、反応又はそれらの組み合わせによるかよらないかに関わらず一又は複数の改変された種を形成するように、該フィルタは、該フィルタが流体の流れの1種若しくは2種以上の成分又は「ターゲット種」に作用できることを意味する「活性」フィルタであることができる。例えば、活性フィルタでは、触媒種は、該極薄親水性フォトポリマー層と結合できる。
【0056】
いくつかの態様では、ペンダント型光反応性基に加えて、該親水性ポリマーはまた、ペンダント型の結合部分を含むことができる。「結合部分」は、ターゲット種、例えば、試料中に存在する検体と結合又は反応することができる任意の種類の化学基をいう(さらに具体的には、「ターゲット種結合部分」ということができる)。該結合部分は、天然由来の分子若しくは天然由来の分子の誘導体、又は合成分子、例えば、小さな有機分子若しくはより大きな合成で調製された分子、例えば、ポリマー、を含むことができる。結合部分の例には、ポリペプチド、核酸、多糖類、及びターゲット種と結合することができるこれらのタイプの分子の一部が含まれる。ペンダント型光反応性基及びペンダント型結合部分を有する親水性ポリマーは、例えば、米国特許第5,858,653号明細書、及び米国特許第6,121,027号明細書中に記載されている。
【0057】
約0.05μm〜約5μmの幅のオーダーの孔を有する物品をいう「微孔質基材」を有する物品の表面に、該極薄の親水性フォトポリマー層を形成させることができる。微孔質基材は、延伸された微孔質のPTFE膜を含むことができる。
【0058】
好適なマイクロ多孔質層の例には、微孔質ePTFE膜、他のポリマー(有機又は無機)膜、複層膜、充填膜(filled membrane)、非対称膜、他の不織布又は織物、及び連続気泡フォームが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
いくつかの一般的なフィルタを、種々のポリマー材料から調製することができ、そして本明細書に記載されるように、フルオロポリマー、アラミド及びガラスを含むフェルト及び/又は織物材料から作製することができる。用いられる材料の種類の選択は、ろ過される液体、並びにろ過される微粒子の種類及びシステムの操作条件に基づくことができる。
【0060】
例えば、PTFE膜を、一般的なフィルタ要素上に表面ラミネートとして組む込むことができる。多孔質のPTFE膜は、延伸した多孔質のPTFEを得るために、米国特許第4,187,390号明細書、同第4,110,392号明細書及び同第3,953,566号明細書に記載されるようなPTFEを延伸することなどの種々の公知の方法により調製することができる。膜の形態の延伸PTFE(ePTFE)は、特に望ましいろ過材料を製造する複数の望ましい特性を有する。例えば、ePTFEは、典型的には、例えば、約0.05μM〜10μMの範囲の複数の微視的な穴、すなわち「ミクロ孔」を有し、流体分子を透過させるが、微粒子、例えば、細塵の透過を制限する。さらに、延伸PTFE膜の表面では、堆積した汚染物質を容易に除くことができ、該フィルタの操作寿命を大きく改善することができる。
【0061】
親水性でない材料で作製されたフィルタ上に、親水性表面を提供することが望ましい場に、本発明の極薄親水性ポリマーコーティングはフィルタ技術において特に有用であることができる。本明細書に記述するように、該極薄コーティングは、孔サイズを有意に減らすことなく親水性表面を付与すること、耐久性のあるコーティングを付与すること、そして簡易且つ効果的な方法で親水性コーティングを形成することを含み、この分野における複数の優位性を提供することができる。
【0062】
極薄親水性フォトポリマーコーティングを有するフィルタはまた、複数の異なる技術的領域における用途を見出すことができる。例えば、これらのフィルタは、超高純度の、粒子を含まない化学品、例えば、溶媒、酸、塩基、超純水及びフォトレジストに対する要求があるエレクトロニクス産業において用いることができる。高純度試薬は、DRAM及び他の複数の重要なマイクロ電子デバイスの製造において非常に重要である。半導体製造に用いられるエレクトロニクスグレードの化学品及び超純水は、収率にダメージを与える微粒子を除去するために、サブミクロンの水準までマイクロフィルタでろ過されることが多い。本発明のコーティングは、高純度のこれらの試薬を提供するフィルタに関連して用いることができる。
【0063】
本発明の他の実施形態では、該極薄親水性フォトポリマーコーティングが、プラスチック基材の表面に形成され、該プラスチック基材は、抜き取ることができる水素の良好な供給源を提供するポリマー材料を含む。すなわち、該基材のポリマー材料は、活性化された場合に該フォトポリマーが反応できる表面を与えることができる。これらの実施形態では、該基材は、本発明の活性化された光反応性基により容易に引き抜かれる水素原子を提供する1種又は2種以上のポリマーを含む。これらの基材では、該親水性フォトポリマーは、該光反応性基を介して、該デバイスの表面に共有結合することができる。該共有結合の程度は、該表面の抜き取ることができる水素の量及び反応性、並びに該親水性フォトポリマーからのペンダントである光反応性基の量を含む種々の要因によることができる。
【0064】
プラスチックポリマーは、例えば、付加重合及び縮合重合の反応から生じた合成ポリマー、例えば、オリゴマー、ホモポリマー及びコポリマーで生成されたものを含む。好適な付加ポリマーの例には、アクリル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、及びアクリルアミド;ビニル、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ビニリデンジフルオライド及びスチレンから重合したものが含まれるが、これらに限定されない。縮合ポリマーの例には、ナイロン、例えば、ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジポアミド、ポリヘキサメチレンドデカンジアミド、及びポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリジメチルシロキサン及びポリエーテルケトンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
該基材材料に好適な他のポリマーには、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリウレア、アクリロニトリルブタジエン、ブタジエンゴム、塩素化及びクロロ−スルホン化ポリエチレン、クロロプレン、EPM((ポリ)エチレンプロピレンターポリマー)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエンコポリマー)、PE/EPDMブレンド(ポリエチレン/エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエンコポリマー)、PP/EPDMブレンド(ポリプロピレン/エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエンコポリマー)、EVOH(エチレンビニルアルコールポリマー)、エピクロロヒドリン(epichlorihydrin)、イソブチレンイソプレン、イソプレン、ポリスルフィド、シリコーン、NBR/PVC(アクリロニトリルゴム/PVCブレンド)、スチレンブタジエン、ビニルアセテートエチレン、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0066】
さらに他の実施形態では、本発明の極薄コーティングを、微小流体デバイスに関連して用いることができる。典型的には、微小流体デバイスは、1mm未満の寸法を少なくとも1つ有する1つ又は2つ以上の流体チャネルを有することに、特徴がある。微小流体デバイス内で通常用いられる流体は、全ての、血液サンプル、たんぱく質又は抗体溶液、核酸溶液、原核又は真核細胞懸濁液、及び種々の緩衝剤を含む。極薄フォトポリマーコーティングを有する微小流体デバイスは、流体の粘性、pH、分子散乱係数、化学結合係数及び酵素反応速度論を含む種々のパラメータを測定する方法に用いることができる。微小流体デバイスはまた、フローサイコメトリー、DNA及び/又はRNA分析、キャピラリ電気泳動、等電点電気泳動法、免疫系アッセイ、質量分析を介した分析のためのたんぱく質の試料注入、PCR増幅、細胞操作、細胞分離、細胞パターン形成、及び化学勾配の形成のために用いることができる。該コーティングされたデバイスを、任意の形態の研究に関して用いることができ、そしてまた臨床診断に用いることもできる。
【0067】
微小流体分離デバイス、特にマイクロチップを用いたマイクロマシン化キャピラリ電気泳動(CE)システムの例が、米国特許第5,904,824号明細書、同第6,068,752号明細書及び同第6,103,199号明細書に記載されている。
【0068】
これらのチャネル内の流体の体積が非常に小さく、例えば、ナノリットル程度であり、そして用いられる試薬及び検体の量がまた、非常に少ないため、微小流体デバイスのために極薄コーティングを用いることが非常に望ましいことが、可能である。多くの場合では、高価な試薬又は有用な試料が、これらのデバイス内で用いられる。従って、本発明の極薄コーティングは、例えば、微小流体チャネル内の流体の流れを向上させることにより、該チャネル内のたんぱく質の非特異的な吸着を減少させることにより、該チャネル内の細胞の生存可能性を向上させることにより、および化学分離を向上させることにより、微量流体デバイスの機能を改良することができる。これらの改良により、ある工程のために必要な試薬量の減少を生じることができ、それにより、任意の特定の微小流体工程に関連する時間全体が減り、そしてコストが削減される結果となる。
【0069】
フォトポリマーの極薄コーティングを、次の方法で、微小流体チャネル上に形成できる。該デバイスは、光反応性基を有する親水性ポリマーを含むコーティング組成物で満たされ、次いで、極薄のコーティング層を形成するために、該コーティング組成物を照射で処理する。あるいは、該コーティングを、該デバイスの組み立ての前に、該チャネル上に形成することができる。
【0070】
さらに他の実施形態では、本発明のコーティングを、バイオセンサに関連して用いることができる。バイオセンサは、1種又は2種以上の生体物質、例えば、たんぱく質、酵素、抗体、DNA、RNA、又は微生物の分子認識を提供するデバイスである。一般的に、バイオセンサは、試料液体中に存在する他の部分に対して、ターゲット部分を同定及び定量化するために有用である。特に、該試料中に含まれる生体物質は、該生体物質が、結合要素により認識される場合に生ずる反応を利用することにより定量化される。
【0071】
酵素バイオセンサは、典型的には、クレアチニン、グルコース、乳酸、コレステロール、及びアミノ酸等の物質を検出するために用いられ、そして医療診断法において、又は食品業界で利用されている。プロトタイプのバイオセンサは、電流測定グルコースセンサである。多くの酵素系バイオセンサは、生物系試料内のターゲット成分を、該ターゲット成分について特有の酵素と特異反応させることにより、電子移動剤の化学還元を促進することにより作動する。生体試料中の生体物質(基質)の量は、移動剤の還元量を電気化学的に測定し、それにより該被検物の定量分析を実施する定量化装置を介して決定される。バイオセンサは、作用電極、対電極及び基準電極であることができる電気化学セルを含むことができる。バイオセンサはまた、電気化学発光(ECL)を促進する反応を含むことができる(例えば、米国特許第6,852,502号明細書を参照のこと)。
【0072】
電気化学バイオセンサは、公知である。それらは、生体試料、特に血液から種々の検体の濃度を測定するために用いられている。電気化学バイオセンサの例は、米国特許第5,413,690号明細書、同第5,762,770号明細書、5,798,031及び同第5,997,817号明細書に記載されている。
本発明の極薄親水性フォトポリマーコーティングは、感度及び選択性を含む種々の態様のバイオセンサ機能を改良するために、バイオセンサの表面上に形成できる。
【0073】
例えば、バイオセンサの疎水性表面に、親水性ポリマー材料の極薄コーティングがされた層を形成することができる。通常、疎水性表面は、たんぱく質の変性及びたんぱく質沈殿物の形成につながるバイオセンサ電極上の血しょうタンパクの蓄積を生じさせる場合がある。これらの沈殿物は、物理的干渉によってセンサの性能に影響を与える場合がある。
【0074】
該極薄親水性フォトポリマーコーティングは、該極薄フォトポリマーコーティングを介して親水性表面の形成を可能にすることにより、該バイオセンサの電極インピーダンスを減らすことができ、それによって該センサの表面上で妨げられない水の動きを促進する。
さらに、該コーティングは特に薄いため、該デバイスの表面の結合要素の機能は、有意に損なわれない。
【0075】
バイオセンサの一種において、導波路センサ又は導波路センサの特徴を有するバイオセンサ上に、該極薄親水性ポリマーコーティングを形成することができる。光学導波路センサは、屈折率変化の検出に基づく導波路表面上の検体を検出及び/又は測定するために使用できる。平面の光学導波路は、該導波路を囲む媒体の変化を検出する光学センサとして、機能することができる。というのは、該導波路を伝わる電磁場が、一過性の電磁場として、周囲の媒体内に広がるからである。例示的な導波路センサには、回折格子(grating)系導波路センサが含まれる。
【0076】
本発明の方法を用いると、極薄コーティングを該導波路の表面に形成することができ、それにより検体の結合を表面の非常に近くで生じさせることができる。このタイプの検出器の感度は、該センサの表面と結合された検体との距離に密接に関連するので、結合した検体を有する親水性ポリマーの極薄コーティングは、該導波路表面と結合した検体との間の距離を縮めることにより感度を向上させながら、コーティングされた親水性ポリマーの特性により与えられる保護の利益を提供する。導波路センサを、細胞、たんぱく質及びペプチド、薬物、有機小分子、例えば、グルコース、核酸及び炭水化物、を含む、種々タイプの検出及び/又は測定のために用いることができる。
【0077】
さらに他の実施形態では、該極薄親水性フォトポリマーコーティングを、医療物品の表面の全部又は一部上に形成する。該医療物品を、病状の予防又は治療のために哺乳動物内に一時的又は恒久的に導入される任意のものであることができる。これらのデバイスは、臓器、組織、又は臓器の内腔、例えば、動脈、静脈、心臓の心室又は心房内の残部に、皮下に、経皮に又は外科的に導入される任意のものを含む。
【0078】
本発明のコーティング組成物は、それらの表面で機能性コーティングを提供することが好ましい事実上すべての医療物品をコーティングするために利用することができる。例示的な医療物品には、薬物送達血管ステント(例えば、典型的にはニチノールでできた自己拡張型ステント、典型的にはステンレス鋼で調製されるバルーン拡張型ステント);他の血管用デバイス(例えば、グラフト、カテーテル、バルブ、人工心臓、心臓補助デバイス);埋め込むことができる除細動器;血液用酸素供給デバイス(例えば、チューブ、膜);外科用デバイス(例えば、縫合、ステイプル、吻合用デバイス、椎間板、骨用ピン、縫合用アンカー、止血用バリア、クランプ、スクリュー、プレート、クリップ、血管用インプラント、組織用接着剤及びシーラント、組織用骨格);膜;細胞培養用デバイス;クロマトグラフ支持材料;バイオセンサ;水頭症用シャント;創傷管理用デバイス;内視鏡用デバイス;感染抑制用デバイス;整形外科用デバイス(例えば、関節インプラント、骨折修復用);歯科用デバイス(例えば、人工歯根、骨折修復用デバイス)、泌尿器用デバイス(例えば、陰茎、括約筋、尿道、膀胱及び腎臓部用デバイス、及びカテーテル);人工肛門袋取付け用デバイス;眼用デバイス;緑内障排出用シャント;合成プロテーゼ(例えば、前胸部);眼内レンズ;呼吸、末梢心臓血管、脊椎、神経学、歯科、耳/鼻/喉(例えば、耳部排液用チューブ);腎臓部用デバイス;及び透析(例えば、チューブ、膜、グラフト)が含まれる。
【0079】
他のデバイスには、(例えば、抗微生物薬、例えば、バンコマイシン又はノルフロキサシンを用いて表面がコーティングされた)導尿用カテーテル、(例えば、抗血栓薬(例えば、ヘパリン、ヒルジン、クマディン)を用いて処理された)静脈内カテーテル、小径グラフト、人工血管、人工肺用カテーテル、心房中隔欠損症クロージャ、心調律管理用電気刺激リード(例えば、ペーサーリード)、(長期間及び短期間)グルコースセンサ、分解性冠状動脈ステント(例えば、分解性、非分解性、末梢)、血圧及びステント移植皮弁カテーテル、受胎調節用デバイス、良性前立腺及び前立腺ガン用インプラント、骨修復/増大用デバイス、胸部インプラント、軟骨修復用デバイス、人工歯根、移植された薬物注入用チューブ、硝子体内薬物デリバリーデバイス、神経再生導管、腫瘍学用インプラント、電気刺激用リード、痛み管理用インプラント、脊椎/整形外科修復用デバイス、創傷被覆材、塞栓症保護フィルタ、腹部大動脈瘤用グラフト、心臓弁(例えば、機械的、ポリマー、組織、経皮、炭素、縫製カフス)、バルブ環状形成デバイス、僧帽弁修復用デバイス、血管インターベンション用デバイス、左心室補助デバイス、神経動脈瘤治療用コイル、神経学用カテーテル、左心耳用フィルタ、血液透析用デバイス、カテーテルカフス、吻合用クロージャ、血管アクセス用カテーテル、心臓用センサ、子宮出血用パッチ、泌尿器用カテーテル/ステント/インプラント、体外診断、動脈瘤除外用デバイス、及び神経用パッチが含まれる。
【0080】
他のデバイスには、大静脈フィルタ、泌尿器用拡張器、内視鏡外科組織抽出器、アテレクトミーカテーテル、凝固抽出用カテーテル、経皮経管冠動脈形成用カテーテル(PTCAカテーテル)、スタイレット(血管及び非血管)、ガイドワイヤー(例えば、冠動脈用ガイドワイヤー及び末梢用ガイドワイヤー)、薬物注入用カテーテル、食道用ステント、循環支持用システム、血管造影用カテーテル、移行シース及び拡張器、血液透析用カテーテル、神経血管用バルーンカテーテル、鼓膜切開用ベントチューブ、脳脊髄液用シャント、除細動器用リード、経皮用クロージャデバイス、排液用チューブ、胸腔吸引排液用カテーテル、電気生理学用カテーテル、脳卒中治療用カテーテル、膿瘍排液用カテーテル、胆汁排液用製品、透析用カテーテル、中心静脈アクセス用カテーテル、及びパーレンタルフィーディングカテーテル(parental feeding catheter)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明に好適な他のデバイスには、埋め込むことができる血管アクセスポート、血液保存用バッグ、血液用チューブ、大動脈内バルーンポンプ、心臓血管用縫合糸、完全人工心臓及び心室補助ポンプ、体外用デバイス、例えば、血液用酸素供給器、血液用フィルタ、血液透析ユニット、血液かん流ユニット、プラズマフェレシスユニット、複合型人工臓器、例えば、膵臓又は肝臓及び人工肺、並びに塞栓を捕捉するために、血管内に配置させるように適合させたフィルタ(「末端保護デバイス(distal pretection device)」としても知られている)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本発明の極薄親水性フォトポリマーコーティングは、水溶液系、例えば、体液と接触するそれらの医療装置用で特に有用であることができる。いくつかの態様では、極薄親水性層により、該デバイス表面の生体適合性が改良され、そして身体内のコーティングされたデバイスの機能を損なう場合がある拒絶作用を最小化することができる。
【0083】
ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーを用いて、該極薄親水性フォトポリマーコーティングが形成される。該極薄層を形成するために用いられる該親水性ポリマーは、例えば、コポリマー又はホモポリマーであることができる。本明細書において、「親水性」の語は、水分子をはじかないポリマーを指す。親水性ポリマーは、典型的には、水に可溶である。
【0084】
該極薄コーティングを形成するために用いられる該親水性ポリマーは、合成ポリマー、天然ポリマー、又は天然ポリマーの誘導体であることができる。例示的な天然の親水性ポリマーには、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、これらのポリマーの誘導体、並びに類似の天然親水性ポリマー及びその誘導体が含まれる。
【0085】
いくつかの実施形態では、ペンダント型光反応性基を含む該親水性ポリマーは合成品である。合成親水性ポリマーを、アクリルモノマー、ビニルモノマー、エーテルモノマー、又はこれらのタイプのモノマーの1種又は2種以上の組み合わせを含む任意の好適なモノマーから調製することができる。アクリルモノマーには、例えば、メタクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、並びにこれらの任意の誘導体及び/又は混合物が含まれる。ビニルモノマーには、例えば、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、及びこれらの任意の誘導体が含まれる。エーテルモノマーには、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、及びこれらの任意の誘導体が含まれる。これらのモノマーから生成できるポリマーの例には、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(HEMA)が含まれる。親水性コポリマーの例には、例えば、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー及びビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミドコポリマーが含まれる。ホモポリマー及び/又はコポリマーの混合物を用いることができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、該親水性フォトポリマーは、ビニルピロリドンポリマー、又はビニルピロリドン/(メタ)アクリルアミドコポリマー、例えば、ポリ(ビニルピロリドン−コ−メタクリルアミド)である。PVPコポリマーが用いられる場合、それは、ビニルピロリドンと、親水性モノマーの群から選択されるモノマーとのコポリマーであることができる。例示的な親水性モノマーには、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体、例えば、アルキル(メタ)アクリルアミド及びアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、アミノプロピルメタクリルアミド及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドが含まれる。PVPコポリマーを使用することは、光反応性基を用いて誘導されるPVPの調製及び使用のために特に有利である。
【0087】
ビニルピロリドンコポリマーを、特異性を有するフォトポリマーを提供するために調製することができる。例えば、ポリ(ビニルピロリドン−コ−ビニルアセテート)ポリマーを、その所望による使用に従って、それらの相対的な親水性を変えるために、そしてフィルムの特性を変えるために調製することができる。
【0088】
PVP並びにフォトPVPの調製法が、当該技術分野で公知である(米国特許第6,077,698号明細書を参照のこと)。PVPは、過酸化水素を開始剤として用いて、水中で1−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより調製することができる。VPの重合を停止させる方法により、所望の分子量のPVPを調製することができる。
【0089】
本発明に従って、約500KDa以下の分子量を有するポリマーが、非常に有効な極薄親水性コーティングを提供することができることも見いだされた。すなわち、このサイズの親水性ポリマーを、本発明の好ましい実施形態に従う特性、例えば、湿潤性及び耐久性を有する極薄コーティングに形成することができる。いくつかの態様では、本発明の親水性ポリマーは、約10kDa〜約100kDaの範囲、そして他の態様では、約10kDa〜約75kDaの範囲の重量平均分子量(Mw)のサイズを有する。
【0090】
本明細書において、「重量平均分子量」又はMwは、分子量を評価する絶対的な方法であり、そしてポリマーの分子量、例えば、本明細書に記載されるフォトポリマーの調製を評価するために特に有用である。ポリマー調製物には、分子量に多少の変動を有する個々のポリマーが含まれる。ポリマーは、比較的高い分子量を有する分子であり、そして該ポリマー調製物中のそうした多少の変動は、ポリマー調製物の全体的な特性(例えば、フォトポリマー調製物の特性)に影響を与えない。
【0091】
重量平均分子量(Mw)を、次式:
【数1】

(式中、Nは、Mの質量を有する試料中のポリマーのモル数を表し、そしてΣiは、調製物中の全てのNii(種)の合計である)
により規定することができる。
該Mwは、一般的な技法、例えば、光散乱又は超遠心分離を用いて評価することができる。Mwの考察及びポリマー調製物の分子量を規定するために用いられる他の用語を、例えば、Allcock,H.R.and Lampe,F.W.,Contemporary Polymer Chemistry;pg 271(1990)に見出すことができる。
【0092】
本発明の別の実施形態では、該極薄親水性フォトポリマー層を、2種又は3種以上の親水性ポリマー(該ポリマーの少なくとも1種は、ペンダント型光反応性基を有する)を含むコーティング組成物で形成する。任意選択的に、該極薄層を、2種の親水性フォトポリマーを含むコーティング組成物で形成することができる。いくつかの態様では、該2種の親水性ポリマーの少なくとも一方は、ポリ(ビニルピロリドン)である。
【0093】
いくつかの態様では、該コーティング組成物中で、2種又は3種以上の親水性ポリマーを用いる場合には、該ポリマーの少なくとも1種は、約500kDa以下、又は約10kDa〜約500kDaの範囲内のMwを有する。いくつかの態様では、該コーティング組成物中に、2種又は3種以上の親水性ポリマーを用いる場合には、両ポリマーは、約500kDa以下、又は約10kDa〜約500kDaの範囲内のMwを有する。
【0094】
光反応性基は、該親水性ポリマーからのペンダントであり、そして該極薄コーティングを形成するために、該コーティング工程の間に活性化される。一般的に、光反応性基が光エネルギーで活性化させることができそしてフォトポリマー及び/又は基材材料等の部分と結合するような方法で、該親水性ポリマーからの「ペンダント」である光反応性基をポリマー上に配列させる。
【0095】
該光反応性基は、該ポリマーの長さに沿ったペンダントであり、そしてランダム又は整列した方法で該ポリマーの長さに沿って間隔を空けることができる。該ポリマーの長さに沿って間隔を空けた光反応性基により、本明細書に記載される方法に従って極薄コーティングの形成を促進する方法で、照射前に該フォトポリマーを該表面と会合させる。
【0096】
広義に規定される光反応性基は、特定の適用された外部光エネルギーに応答し、生じたターゲットとの共有結合を有する活性種の生成を受ける基である。光反応性基は、貯蔵条件下では、それらの共有結合が変化せずに保持されるが、活性化されると他の分子と共有結合を形成する分子内の原子のそれらの基である。該光反応性基は、外部の電磁気又は運動(熱)エネルギーを吸収した際に、活性種、例えば、フリーラジカル、ニトレン、カルベン、及びケトンの励起状態を発生させる。光反応性基は、電磁スペクトルの種々の部分に敏感であるように選択することができ、そして該スペクトルの紫外線、可視光又は赤外線部分に敏感である光反応性基が好ましい。本明細書に記載されるものを含む光反応性基が、当該技術分野で周知である。本発明は、本明細書に記載される本発明のコーティングの形成のために任意の好適な光反応性基を用いることを意図する。
【0097】
光反応性基は、電磁気エネルギーを吸収した際に、活性種、例えば、フリーラジカル及び特にニトレン、カルベン、及びケトンの励起状態を発生させる。光反応性基を、そうした電磁スペクトルの種々の部分に敏感であるように選択することができる。該スペクトルの紫外線及び可視光部分に敏感であるものを典型的に用いる。
【0098】
光反応性のアリールケトン、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、及びアントロン様複素環(例えば、アントロンの複素環式類似体、例えば、10位に窒素、酸素、又は硫黄を有するもの)、又はそれらの置換された(例えば、環置換された)誘導体を用いることができる。アリールケトンの例には、アクリドン、キサントン、及びチオキサントン、及びそれらの環置換された誘導体を含むアントロンの複素環式誘導体が含まれる。いくつかの光反応性基は、約360nm超の励起エネルギーを有するチオキサントン及びその誘導体を含む。
【0099】
これらのタイプの光反応性基、例えば、アリールケトンは、本明細書に記載される活性化/不活性化/再活性化サイクルを容易に受けることができる。ベンゾフェノンは、特に好ましい光反応性基である。というのは、該ベンゾフェノンは、三重項状態との項間交差を受ける励起一重項状態の初期形成を有する光化学励起が可能だからである。該励起三重項状態は、(例えば、支持体表面から)水素原子を抜き取ることにより炭素−水素結合に挿入し、そのようにしてラジカル対を生成することができる。次にラジカル対が崩壊し、新しい炭素−炭素結合の形成となる。反応性の結合(例えば、炭素−水素)が結合に使用できない場合には、ベンゾフェノン基の紫外線により誘導された励起は可逆性であり、そして該分子は、エネルギー源の除去により基底状態のエネルギー準位に戻る。光活性化できるアリールケトン、例えば、ベンゾフェノン及びアセトフェノンは、これらの基が、水中で複数の再活性化を受け、それによって高いコーティング効率を提供するので、特に重要である。
【0100】
アジドは、別の種類の光反応性基を構成し、そしてアリールアジド(C653)、例えば、フェニルアジド及び4−フルオロ−3−ニトロフェニルアジド;アシルアジド(−CO−N3)、例えば、ベンゾイルアジド及びp−メチルベンゾイルアジド;アジドホルメート(−O−CO−N3)、例えば、エチルアジドホルメート及びフェニルアジドホルメート;スルホニルアジド(−SO2−N3)、例えば、ベンゼンスルホニルアジド;及びホスホリルアジド[(RO)2PON3]、例えば、ジフェニルホスホリルアジド及びジエチルホスホリルアジドを含む。
【0101】
ジアゾ化合物は、別の種類の光反応性基を構成し、そしてジアゾアルカン(−CHN2)、例えば、ジアゾメタン及びジフェニルジアゾメタン;ジアゾケトン(−CO−CHN2)、例えば、ジアゾアセトフェノン及び1−トリフルオロメチル−1−ジアゾ−2−ペンタノン;ジアゾアセテート(−O−CO−CHN2)例えば、t−ブチルジアゾアセテート及びフェニルジアゾアセテート;及びβ−ケト−α−ジアゾアセタトアセテート(−CO−CN2CO−O−)、例えば、t−ブチル−α−ジアゾアセトアセテートを含む。
【0102】
他の光反応性基には、ジアジリン(−CHN2)、例えば、3−トリフルオロメチル−3−フェニルジアジリン;及びケテン(CH=C=O)、例えば、ケテン及びジフェニルケテンが含まれる。
【0103】
1又は2以上のペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーの形成となる任意の種類の合成法を使用して、親水性フォトポリマーを生成することができる。例えば、光反応性基を、「予備生成させた」親水性ポリマーと結合させて、親水性フォトポリマーを合成することができる。予備生成されたポリマーは、商業的な供給源から入手することができ、又は所望のモノマー又は種々のモノマーの組み合わせを重合させることにより合成できる。該フォトポリマーを調製する例の一つでは、光反応性基及び第一の反応性基を含む化合物が、該第一の反応性基と反応性を有する親水性ポリマーの一部と反応して、ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーの形成を生じる。該反応は、該光反応性基の活性化を生じさせず、従って、該光反応性基は、「潜在性」のままであり、そして該コーティング工程の間に化学線による活性化が可能となる。そうした光反応性基の結合を、例えば、置換又は付加反応により達成することができる。
【0104】
例えば、実施形態の一つでは、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドを反応させることにより、該フォトポリマーのポリマー部分を生成させる。別の実施形態では、1−ビニル−2−ピロリドンとN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドとの共重合により、該ポリマー部分を調製することができる。該コポリマーは、Schotten−Baumann条件の下で、アシルクロリド(例えば、例えば、4−ベンゾイルベンゾイルクロリド)を用いて誘導し、フォトポリ(ビニルピロリドン)(「フォトPVP」とも称される)を形成する。すなわち、該アシルクロリドは、該コポリマーのN−(3−アミノプロピル)部分のアミノ基と反応する。アミドが形成され、該アリールケトンの該ポリマーに対する結合が生じる。水性系溶液を用いて、遊離した塩酸を中和した。
【0105】
該フォトポリマーを調製する別の方法では、光反応性基を有するモノマーを、購入するか又は調製する。次いで、これらのモノマーを、光反応性基を有しない他のモノマーと共重合して、フォトポリマーを製造する。これは、所望の量の光反応性基、及び所望のモノマー単位を有するフォトポリマーを調製するために特に好適な方法である。該フォトポリマー調製のためのモノマーの有用な重合性混合物には、該混合物中に存在するモノマーの全量のモル%に基づいて、例えば、約0.1%〜約10%の光反応性基モノマー、及び約90%〜約99.9%の親水性モノマー、又は親水性モノマーの組み合わせが含まれる。該フォトポリマーを調製するために用いられるフォトモノマーは、好適な重合性部分、例えば、アクリルモノマー、ビニルモノマー又はエーテルモノマーを含むことができる。
【0106】
合成の例示的方法の一つでは、フォトポリアクリルアミドは、光反応性基を有するメタクリルアミドを、アクリルアミドと共重合することにより調製される。該フォトメタクリルアミドモノマーを、米国特許第6,007,833号明細書に記載される方法(実施例1及び2を参照のこと)に従って調製することができる。特に、メタクリルアミドオキソチオキサンテンモノマー(N−[3−(7−メチル−9−オキソチオキサンテン−3−カルボキサミド)プロピル]メタクリルアミド(MTA−APMA))は、7−メチル−9−オキソチオキサンテン−3−カルボン酸塩化物(MTA−Cl)を、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド(APMA)と反応させることにより調製することができる。次いで、MTA−APMAを、連鎖移動剤、共触媒、及びフリーラジカル開始剤の存在下で、DMSO中でアクリルアミドと共重合することができる。MTA−APMAをまた、他の種類のモノマー、例えば、ビニルピロリドンと共重合して、他のフォトポリマーを製造することができる(米国特許第6,007,833号明細書を参照のこと)。
【0107】
極薄親水性フォトポリマーがコーティングされた層を基材に提供するために、コーティング組成物中に該親水性フォトポリマーを提供する。次いで、該極薄層を形成するために、該コーティング組成物をコーティングすべき基材と共に用いる。本発明の多くの態様では、該コーティング組成物は、コーティングされる物品の表面と接触して配置され、次いで、該物品のターゲット表面及び組成物を照射して、該フォトポリマーの光反応性基を活性化してコーティングされた層を形成する。
【0108】
本明細書に記載されるコーティング方法を、多くの手段で実施することができるが、一般的に、該極薄層の構造には、該コーティング組成物が該基材と接触し、次いで該コーティングを形成するために照射を用いて処理される「溶液中(in−solution)」ステップが含まれる。例えば、コーティング溶液を、基材の表面と接触して配置し、次いで、該組成物の重要な部分が該組成物の液体成分の蒸発により失われる前に、該基材を照射する。
【0109】
該コーティング組成物と接触しておく前に、該基材の表面を任意選択的に前処理することができる。多くのケースにおいて、該前処理は、該コーティング組成物が、該表面と接触して配置されるステップを容易にすることができる。例えば、該疎水性表面の全部又は一部を、水混和性溶媒、例えば、アルコールを用いて事前湿潤化させることができる。事前湿潤化は、任意の時間実施することができるが、一般的に、短時間の事前湿潤化(秒)で充分である。例えばフィルタを用いて、減圧下で該フィルタを通して事前湿潤化流体を引くことにより、事前湿潤化を実施することができる。
【0110】
最低でも、該コーティング組成物は、好適な液体中に親水性フォトポリマーを含み、他の成分を任意選択的に添加できる。コーティング組成物は、コーティング液体にフォトポリマーを溶解させることで調製されることができ、ここで該フォトポリマーは、それ自体充分な濃度で、又は他のコーティング材料と共に存在し、該基材の表面に極薄コーティング層を形成する。例えば、多くの実施形態では、該フォトポリマーを、約0.01〜約50mg/mLの範囲の濃度で溶解させることができる。1種のフォトポリマー、1種超のフォトポリマー、又は1種若しくは2種以上の非フォトポリマーを有する1種若しくは2種以上のフォトポリマーの組み合わせを結合させて、この範囲におけるポリマー濃度を有するコーティング組成物を提供することができる。さらに特定の例示的な範囲は、約0.1mg/mL〜約10mg/mL、及び約0.5mg/mL〜約5.0mg/mLである。例えば、そして本明細書で示されるように、フォトポリ(アクリルアミド)、又はフォトポリ(アクリルアミド)及び非フォトポリマーを含む組成物を、1mg/mLの濃度で調製し、そして極薄ポリマーコーティングを形成するために用いる。
【0111】
該コーティング組成物のための好適な液体は、水性液体、非水性液体、又はそれらの混合物であることができる。「水性」の語は、該液体の主要な成分が水であることを示す。しかし、水性液体は、高い濃度の他の溶解した液体、例えば、水溶性液体、例えば、アルコール、アセトン、希酸等を有することができる。具体例には、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−ピロリドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、トリエタノールアミン、プロピオン酸及び酢酸が含まれる。水性溶液はまた、塩基性又は酸性であることができ、そして任意の種類の好適な塩を含むことができる。ある場合では、1種又は2種以上の塩が、該コーティング組成物中に含まれ、該フォトポリマーの、該疎水性表面との会合を促進することができる。
【0112】
該極薄コーティングを、複数の異なる方式で形成することができる。ある場合には、該基材の表面全体に極薄のコーティングがされた層を形成することが望ましい場合がある。これは、液体コーティング組成物を購入し、該基材を該コーティング組成物に浸漬し、次いで該基材を、その全面にわたり照射し、極薄のコーティングがされた層を形成することにより実施することができる。必要ならば、該基材の位置又は光源の位置の一方又は両方を調整して、該デバイスの表面上に、活性化する照射を提供することができる。
【0113】
該コーティング工程を実施する別の方式は、該コーティング組成物を、該基材の表面の一部に適用することである。例えば、コーティング組成物の液滴を、コーティングすべきデバイスの一部に適用することができ、次いで、該デバイスを照射し、該コーティング組成物と接触しているデバイスの一部の上のみにコーティングを形成する。例えば、電極の一方の表面がコーティングされる場合では、該コーティング組成物をその表面に適用し、次いで、該表面を照射して、該極薄のコーティングがされた層を形成できる。該コーティング組成物の表面張力により、コーティング組成物の液滴は、該電極の一面の全表面を覆うことができる。
【0114】
ある場合では、該コーティング組成物を含み、そして該極薄コーティングが形成される範囲を画定するために、該基材表面上に、一時的なバリアを作ることができる。これは、コーティングされたポリマーの1つのパターン又は1つ超のパターンが望ましい表面上に極薄コーティングを作り出すために有用であることができる。
他の場合では、該極薄コーティングが、基材の一部上に形成された場合、該光反応性基を活性化するために、光の照射を該基材のその一部に向け、それにより、該コーティングの形成を促進することができる。
【0115】
該極薄コーティングの形成を促進するためのフォト基(photo−group)を活性化するステップは、該フォトポリマーの光反応性基を活性化するのに充分な照射源(光源)を用いて実施される。例えば、該光反応性基は、該スペクトルのUV及び可視部分に、100〜700nm、又は300〜600nm、又は200〜400nm、又は300〜340nmの範囲等の活性化波長を有することができる。フォトポリマーを活性化するために典型的に用いられる光源は、UV照射源、例えば、短波長UVを提供する。好ましい光反応性基は、330nm〜340nmの範囲内のUV照射により活性化される。該光反応性基を活性化し、そして該コーティングの形成を促進するために充分な出力放射を提供する光源を用いることができる。好適な光源は、例えば、ハロゲン金属電球、又は活性化する照射源を提供する他の好適な電球を組込むことができる。好適な光源の一つは、Dymax BlueWave(商標)Spot Cure Systemであり、Dymax Corp.(Torrington,CT)から市販されている。
【0116】
該極薄コーティングは、該基材の「溶液中」照射により形成するのが一般的である。この方法では、光は、該溶液を通して、該デバイスの表面まで届き、該光が、該デバイスの表面に隣接する該フォトポリマーの光反応性基を活性化し、結合の形成及び該極薄のコーティングがされた層の形成を促進する。任意の量のコーティング溶液が、コーティングされることを意図する基材の表面をコーティングする一方で、極薄層の形成を最も有効に促進するために、該基材の表面を覆うコーティング溶液の量を制御することにより、光が該溶液を介して進む距離を最小化することができる。例えば、該デバイスの表面を覆う溶液の標準量は、深さ1mm〜10mmの範囲であることができる。
【0117】
該表面に適用されるエネルギーの量は、用いられるフォトポリマーのタイプ及び量、基材の材料、及びコーティング組成物のタイプ及び量を含む複数の要因によって変わる場合がある。いくつかの態様では、335nmで測定して約5mJ/cm2〜約5000mJ/cm2の範囲のエネルギーの量を、該表面に適用する;さらに好ましい範囲は、約50mJ/cm2〜約500mJ/cm2である。該コーティングを形成するステップと共に他の範囲を用いることができる。
【0118】
該極薄層を形成するために、該基材を照射した後で、残ったコーティング組成物を除去することができ、あるいは該コーティング組成物を洗浄溶液で洗浄することができる。
本発明の別の態様では、該極薄のコーティング層を形成する方法において、ペンダント型光反応性基を有する水溶性架橋剤を使用することができる。コーティングの特性、例えば、耐久性を改良するために、該架橋剤を添加することができる。該極薄コーティングの形成において、該極薄のコーティングがされた層の親水性ポリマー相互間の追加の結合が該架橋剤により提供され、それによりその耐久性が向上することができる。
【0119】
いくつかの態様では、該コーティングは、ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーと共に、該コーティング組成物中にペンダント型光反応性基を有する水溶性架橋剤を含ませることにより形成することができる。あるいは、該水溶性架橋剤を該親水性ポリマーとは独立して用い、該極薄のコーティングがされた層を形成することができる。
いくつかの態様では、ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマー及び水溶性架橋剤を含むコーティング組成物が調製される。
【0120】
次いで、少なくともこれらの2成分を有するコーティング組成物と、例えば、該コーティング組成物中に該基材を浸漬することにより、基材とを接触させる。次いで、該組成物及び基材を照射し、該極薄のコーティングがされた層を形成することができる。
【0121】
あるいは、該基材を該親水性フォトポリマーと接触させた後、該架橋剤を該基材と接触させておくことができる。例えば、該極薄コーティングは、ペンダント型光反応性基を有する親水性ポリマーを含む第一のコーティング組成物と基材とを接触させることにより調製でき;次いで、該コーティング組成物を処理して、該親水性フォトポリマーの光反応性基を活性化する。任意選択的に、第二のコーティング組成物を該基材に接触させる前に1回又は2回以上の洗浄ステップを実施することができる。照射のステップの後、該第一のコーティング組成物を除去することができ、そして該架橋剤を含む第二のコーティング組成物を、該基材と接触して配置できる。次いで、該第二のコーティング組成物及び該基材の照射を実施することができる。
【0122】
あるいは、第一のコーティング組成物を照射した後、第一のコーティング組成物に該架橋剤を添加し、次いで、第二の照射ステップを実施することができる。この態様では、第一の照射ステップの後に、該極薄のコーティングがされた層を形成し、そして該架橋剤の添加そして次の照射により、該極薄のコーティングがされた層をさらに架橋させる。いくつかの態様では、この方法は、種々のステップ、洗浄、及び/又は組成物を任意選択的に排除することができるので、時間及び試薬を節約することができる。
【0123】
光反応性基を有する例示的な水溶性架橋剤には、イオン性架橋剤が含まれる。任意の好適なイオン性の光活性化可能な架橋剤を用いることができる。
いくつかの実施形態では、該イオン性の光活性化可能な架橋剤は、次式I:
1−Y−X2
(式中、Yは、少なくとも1種の酸性基、塩基性基、又は酸性基若しくは塩基性基の塩である。X1及びX2は、それぞれ、独立して、潜在性の光反応性基を含む基である)
の化合物である。
【0124】
該光反応性基は、該親水性ポリマーと共に用いるために記載されるものと同一であることができる。スペーサーはまた、潜在性の光反応性基と共に、X1又はX2の一部であることができる。いくつかの実施形態では、該潜在性の光反応性基は、アリールケトン又はキノンを含む。
式Iの基Yは、該イオン性の光活性化可能な架橋剤のために、所望の水溶性を付与する。該水溶性(室温でのそして最適のpH)は、少なくとも約0.05mg/mLである。いくつかの実施形態では、該溶解度は、約0.1〜約10mg/mL又は約1〜約5mg/mLである。
【0125】
式Iのいくつかの実施形態では、Yは、少なくとも1つの酸性基又はその塩を含む基である。そうした光活性化できる架橋剤は、該コーティング組成物のpHによっては、アニオン性であることができる。好適な酸性基には、例えば、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸等が含まれる。そうした基の好適な塩には、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩、及びリン酸塩が含まれる。いくつかの実施形態では、該イオン性架橋剤には、スルホン酸又はスルホネート基が含まれる。好適な対イオンには、アルカリ、アルカリ土類金属、アンモニウム、プロトン化アミン等が含まれる。
【0126】
例えば、式Iの化合物は、スルホン酸又はスルホネート基を含む基Yを有することができ;X1及びX2は、光反応性基、例えば、アリールケトンを含むことができる。そうした化合物には、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸又は塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−ジスルホン酸又は塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸又は塩;N,N−ビス[2−(4−ベンゾイルベンジルオキシ)エチル]−2−アミノエタンスルホン酸又は塩等が含まれる。米国特許第6,278,018号明細書を参照のこと。該塩の対イオンは、例えば、アンモニウム又はアルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウム、又はリチウムであることができる。
【0127】
式Iの他の実施形態では、Yは、塩基性基又はその塩を含む基であることができる。そうしたY基は、例えば、アンモニウム、ホスホニウム又はスルホニウム基を含むことができる。該基は、該コーティング組成物のpHによっては、中性又は正に帯電することができる。いくつかの実施形態では、該基Yは、アンモニウム基を含む。好適な対イオンには、例えば、カルボキシレート、ハライド、スルフェート、及びホスフェートが含まれる。
【0128】
例えば、式Iの化合物は、アンモニウム基を含むY基を有することができ;X1及びX2は、アリールケトンを含む光反応性基を含むことができる。そうした光活性化できる架橋剤には、エチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)塩;ヘキサメチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)塩;1,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)−1,4−ジメチルピペラジンジイウム)塩、ビス(4−ベンゾイルベンジル)ヘキサメチレンテトラミンジイウム塩、ビス[2−(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル]−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム塩;4,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)モルホリニウム塩;エチレンビス[(2−(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル)−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム]塩;及び1,1,4,4−テトラキス(4−ベンゾイルベンジル)ピペルジネジイウム(piperzinediium)塩が含まれる。米国特許第5,714,360号明細書を参照のこと。該対イオンは、典型的には、カルボキシレートイオン又はハライドである。実施形態の一つでは、該ハライドはブロミドである。
【0129】
該極薄コーティング層を、該デバイスの表面に形成した後、該層は、光反応性基が活性化しそしてターゲット部分(例えば、別の親水性ポリマー及び/又は該基材表面)と反応して、該ポリマーを固定するための共有結合を形成することを意味するペンダント型の「光反応された(photo−reacted)」基を有する親水性ポリマーを含む。
本発明を、以下の限定的されない例を参照してさらに記載する。
【実施例】
【0130】
フォトポリマーの調製
フォトポリアクリルアミド(フォトPA)を、光反応性基を有するメタクリルアミドを、アクリルアミドと共重合することにより調製した。光反応性モノマー、N−[3−(4−ベンゾイルベンズアミド)プロピル]メタクリルアミドを、米国特許第5,858,653号明細書(実施例3)に記載される方法に従って調製した。
【0131】
フォトポリ(ビニルピロリドン)(フォトPVP)を、1−ビニル−2−ピロリドン(Aldrich)及びN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(APMA)の共重合により製造し、米国特許第6,077,698号明細書の実施例22に記載されるように、Schotten−Baumann条件(2相の水性/有機反応系)の下、4−ベンゾイルベンゾイルクロリドを用いた該ポリマーの光誘導体化が続いた。APMAを、米国特許第5,858,653号明細書の実施例2に記載されるように調製した。
【0132】
例1
薄いフォトポリマーコーティングを、小さい孔を有する疎水性基材上に形成した。特に、延伸PTFE(ePTFE)膜を、該膜材料上に非常に薄い親水性コーティングを提供するために、フォトポリアクリルアミドを用いてコーティングした。
0.2μm(平均)の孔サイズ及び47mm直径(Donaldson,Inc.,Minneapolis、MN)を有する延伸PTFE膜を、室温で、数秒間、2回、2mLのイソプロパノールで湿らせた。湿らせた後、過剰のイソプロパノールを、アスピレーター減圧を用いて取り除いた。フォトPA(30〜50kDa MW)(SurModics,Inc.,Eden Prairie, MN)を、水中で1mg/mLの濃度で調製し、そして2mLのフォトPA溶液を、減圧下で、ePTFE膜に直ちに(2秒)通した。該減圧工程をさらに3回繰り返したが、各回において、4mLのフォトPA溶液を用いた。
【0133】
次いで、ePTFE膜を、4mLのフォトPA溶液に浸漬し、該膜を覆う約1mmの溶液を残しながら、20cmの距離で、紫外線Dymax(商標)Cure System(Dymax;Torrington,CTから市販される光システム)を用いて、60秒間照射した。この距離及び時間は、330〜340nmの波長範囲で、約100mJ/cm2による膜を提供した。照射の間、該膜を濡らしたまま保ち、そして乾燥させなかった。照射後、該膜をフォトPA溶液から取り除き、減圧下で水を用いて洗浄し、そして55℃で15分間乾燥させた。該コーティングされた膜は、水に浸漬させた場合に完全に再湿潤する(コーティングしていない膜と比較して)ことを示し、該膜上にフォトPAコーティングが存在することを示している。
【0134】
フォトPAがコーティングされたePTFE膜を、走査型電子顕微鏡検査(SEM)を用いて撮影し、そしてポリマーコーティングを有するePTFE膜と比較した。該膜は、0.85kVの加速電圧を用いて、1000倍(10k X)で撮影された。SEM顕微鏡写真は、フォトPAがコーティングされたePTFE膜と、該コーティングがされていない膜との膜サイズが、実質的に同一であることを示している。
【0135】
例2
例1で調製されたフォトPAがコーティングされたePTFE膜を、水の流れ(流動)に対する影響を決定するために試験した。流動を、100mmHg(0.13ATM)の圧力のアスピレーター減圧を用いて測定した。10mLの水を、コーティングされた膜の上に置き、そして減圧を適用し、該コーティングされた膜に水を通した。10mLの水を、17秒で、該膜に完全に通した。これに続いて、さらに100mLの水を、減圧下で該膜に通し、次いで、該膜を乾燥させた。乾燥後、さらに10mLの水を、同一の減圧下、該フィルタに通した。今回、10mLの水を、10秒で、該膜に完全に通した。上記の圧力を用いて、コーティングされていない膜に、水を通すことはできなかった。
【0136】
例3
該コーティング組成物が、0.95mg/mLの濃度におけるフォトポリアクリルアミドと、水中の0.05mg/mLの濃度におけるポリビニルピロリドン(Kollidon(商標)30,BASF; PVP)との混合物であることを除いて、例1に記載されるePTFE膜の湿潤化及びコーティングを実施した。照射後、フォトPA/PVP溶液から該膜を取り出し、減圧下で水を用いて洗浄し、そして120℃で15分間乾燥させた。該フォトPA/PVPがコーティングされた膜は、120℃で乾燥させた後に完全に湿潤性であった。
【0137】
例1に記載されるように、走査型電子顕微鏡検査(SEM)を用いて、該フォトPA/PVPがコーティングされたePTFE膜を撮影した。SEM顕微鏡写真は、フォトPA/PVPがコーティングされたePTFE膜と、該コーティングがされていない膜との膜サイズが、実質的に同一であることを示し、さらに該膜上のコーティングが、より高い温度まで良好に保たれていることを示している。より高い温度を用いることにより、該コーティングされた膜は、該コーティングの親水特性を失うことなく、加熱殺菌できることが示された。
【0138】
例4
水の流れ(流動)に対する影響を決定するために、例3で調製されたフォトPA/PVPがコーティングされたePTFE膜を試験した。
例2で実施された方法に従って流動を評価した。10mLの水が、20秒で、該膜を完全に通った。
【0139】
例5
該コーティング組成物が、0.95mg/mLの濃度におけるフォトポリアクリルアミドと、水中の0.05mg/mLの濃度におけるフォトPVPとの混合物であることを除いて、例1に記載されるePTFE膜の湿潤化及びコーティングを実施した。該膜をまた洗浄し、そして例3に列挙されるように乾燥させた。該フォトPA/フォトPVPがコーティングされた膜は、120℃で乾燥させた後に、完全に湿潤性を有していた。この膜はまた、水の流れに対するその影響を測定するために試験された。
【0140】
例6
フォトPVPの極薄コーティングを有するポリプロピレン基材を用意し、次いで、ウィック(wick)ウォーターに対する該コーティングの能力に関して試験した。50mmの厚いメルトブローンポリプロピレン(melt blown polypropylene,Daramic Corp.,Owensboro,KY)を、99.4%の水/0.6%のヘキサノールV/V混合物中1mg/mLのフォトPVPの溶液に含浸させた。含浸した材料を、Dymax(商標)光の下、1分間照射し、該コーティング溶液を取り出し、次いで乾燥させた。得られた材料は、繰り返してウィックウォーターに対するその能力により示されるように、恒久的に水による湿潤性を有していた。この材料は、10秒で1インチの高さまで、水を吸収する。
【0141】
該ポリプロピレンを光誘導体化したポリビニルピロリドン溶液にディップコーティングした後に照射された(ポストソリューション(post−solution)照射)ポリプロピレン基材とウィッキング(wicking)を比較した。この場合では、該ポリプロピレン上にディップコーティングされたコーティング溶液を、照射前に乾燥させた。これらのポストソリューション照射した試料でコーティングされた基材は、水を吸収しなかった。
【0142】
例7
該親水性フォトポリマーコーティングを原子間力顕微鏡により試験し、それらの厚さを測定した。
ソーダライムガラス顕微鏡スライド(Erie Scientific,Portsmouth,NH)を、アセトン中で、p−トリルジメチルクロロシラン(1%w/v)及びn−デシルジメチルクロロシラン(1%w/v;United Chemical Technologies,Bristol,PA)の混合物中にディッピングすることによりシラン処理した。空気乾燥の後、該スライドを120℃で1時間硬化させた。次いで、スライドをアセトンで洗浄し、続いて、DI水にディッピングし、そして乾燥した。該スライドを、水中1mg/mLのフォトPA又はフォトPVPのどちらかの溶液内で、約1mmの深さに水没させ、そしてDymaxランプの下で1分間照射し、約100mJ/cm2を供給した。
【0143】
スライドを水で洗浄し、そして遠心機内で脱水した。該コーティングの存在は、Kruss DSA 10ゴニオメータ(Hamburg,Germany)を用いた水接触角により確かめられた。ベースのシランは、72.8±0.4°の接触角を有していた。フォトPAコーティングは、17.5±2.4°であり、そしてフォトPVPは、25.1±3.7°であった。これらの厚さを、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。該コーティングを、真ちゅうブレードを用いて切断し、そして得られた段の高さを、接触モードAFMを用いて測定した。フォトポリ(アクリルアミド)は、2.4±0.5nmと測定され、そしてフォトPVPは、1.5±0.3nmと測定された。誤差は標準偏差である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に20nm以下の厚さを有する親水性ポリマーコーティングを形成する方法、該方法は、
(a)該基材と、少なくとも1つのペンダント型潜在性光反応性基を含む親水性ポリマーを含むコーティング組成物とを接触させること;そして該コーティング組成物が該基材と接触している間に、
(b)20nm以下の厚さを有する該親水性ポリマーコーティングを形成するために、該組成物を照射して、該光反応性基を活性化すること、
の各ステップを含んで成る。
【請求項2】
該親水性ポリマーコーティングが、5nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該光反応性基を照射するステップが、200nm〜400nmの範囲の波長を有する放射線により活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該光反応性基を照射するステップが、5mJ/cm〜5000mJ/cmの範囲の量のUV照射により活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該光反応性基を照射するステップが、50mJ/cm〜500mJ/cmの範囲の量のUV照射により活性化される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該光反応性基がアリールケトンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該光反応性基が、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、アントロン様複素環、及び置換されたそれらの誘導体から成る群から選択されるアリールケトンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該基材が、マイクロ構造特徴部分又はナノ構造特徴部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該基材が、繊維、孔、フィラメント、撚糸、突起、若しくは開口、又はそれらの組み合わせを有する物品の群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該基材が孔を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該基材が、5μm以下の平均サイズを有する孔を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該基材が、0.05μm〜5μmの範囲の平均サイズを有する孔を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該基材が、ケイ素材料、有機分子を有する銀表面、化学的に安定な半導体層、クラスター/分子/半導体アセンブリ、クラスターネットワーク、微小電気機械システム(MEMS)、アクチュエータ、マイクロ及びナノスケール集積システム、マイクロ流体バイオチップ、マイクロ流体システム、及びDNA特性化のためのナノ電子素子から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該基材が、埋め込むことができる医療装置を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
該基材がフィルタを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該基材上で、該親水性ポリマーコーティングをパターニングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
疎水性表面を有し、且つ抜き取ることができる水素の乏しい供給源であるか又は抜き取ることができる水素を全く提供しない基材と、該コーティングが接触して配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該疎水性表面が、ハロゲン含有ポリマー材料を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該疎水性表面が、クロロ飽和ポリマー又はフルオロ飽和ポリマーを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該疎水性表面がPTFEを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
該組成物が、ペンダント型光反応性基を有する水溶性架橋剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
該親水性ポリマーが、500kDa以下の分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
該親水性ポリマーが、10kDa〜500kDaの範囲の分子量を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該親水性ポリマーが、0.01mg/mL〜50mg/mLの範囲の濃度で該コーティング組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
該親水性ポリマーが、0.1mg/mL〜約10mg/mLの範囲の濃度で該コーティング組成物中に存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
接触させるステップの前に、該基材をアルコールで濡らすステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
該組成物が、水性組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
20nm以下の厚さを有する親水性ポリマーコーティングを有するデバイスであって、該コーティングが、ペンダント型光反応性基を介して共有結合した複数の親水性ポリマーを含む、デバイス。
【請求項29】
20nm以下の厚さを有し、そして5μm以下の平均孔サイズを有する親水性フォトポリマーコーティングを含むフィルタ。
【請求項30】
20nm以下の厚さを有する保護親水性フォトポリマーコーティングを含むバイオセンサ。

【公表番号】特表2009−514674(P2009−514674A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540114(P2008−540114)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/043283
【国際公開番号】WO2007/056338
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】