説明

楽器またはスピーカの支持具

【課題】使用者の好みに応じて楽器またはスピーカの音質を調整することを目的とした支持具を提供する。
【解決手段】グランドピアノ用、もしくはスピーカ用の支持具1は、グランドピアノの脚を支持する平坦な支持面5cが形成された支持部5を有する。支持具1は、グランドピアノの脚を支持した状態で、支持面5cが傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器またはスピーカの支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばピアノ、オルガン、ハープシコード、マリンバ、ドラムセット、琴、鍵盤ハーモニカ、ギター等の楽器やスピーカは、床や台等に直接設置した場合には、演奏や使用に際して振動の自由度が阻害されることに起因して、これらの楽器類やスピーカから発生する音波振動に歪みを生じるという問題があった。
【0003】
この問題に対して、本願発明者は、これまでに、これらの楽器類やスピーカ用の支持具を特許文献1,2にて提案している。
【0004】
特許文献1では、ベースプレートと、このベースプレートの上方で床または台と所定の離間間隔を保持しつつ楽器またはスピーカの支持点を形成する荷重担持部材と、前記支持点に埋め込まれた音質調整部材とで構成された支持具が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、ベースプレートと、このベースプレートの上方で床または台と所定の離間間隔を保持しつつ楽器またはスピーカの支持点を形成する橋架部と、この橋架部から床または台に向かって延びる円弧状の脚部とを備えた支持具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2593404号公報
【特許文献2】特開平11−194760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、当然であるが、これらの楽器類やスピーカでは、音楽鑑賞という本来の目的から音質は非常に重要であり、音質の調整幅は広いことが望ましい。従って、音質に対する調整方法は多様であることが望まれる。しかしながら、音質の調整は、楽器の場合には、その楽器の内部部品に対して直接行なうしかなく、スピーカの場合には、使用開始後にはアンプでしか音質の調整はできないというのが実情である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、使用者の好みに応じて楽器またはスピーカの音質を調整することを目的とした支持具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明の楽器またはスピーカの支持具は、楽器またはスピーカを支持する平坦な支持面が形成された支持部を有する支持具であって、楽器またはスピーカを支持した状態で、前記支持面が傾斜していることを特徴とする。
【0010】
本構成の支持具であれば、楽器またはスピーカを支持した状態で支持面が傾斜しているので、楽器またはスピーカの荷重に対する反作用として支持面から楽器またはスピーカが受ける力は、水平方向の成分(水平方向分力)を有する。従って、この支持具を使用すれば、楽器またはスピーカが水平方向分力を受けるため、その水平方向の振動の程度が変化する。従って、使用する支持具の支持面の傾斜角度を変更することによって、この水平方向の振動の程度を変更することが可能である。これによって、楽器またはスピーカの音質を変更することができる。すなわち、本構成の支持具を使用すれば、楽器またはスピーカの音質を調整することができる。
【0011】
また、楽器またはスピーカから床や台に伝わった音は、楽器またはスピーカから空中に放出された音と干渉する等して、音質に悪影響を与える。これに対して、この支持具により楽器またはスピーカの水平方向の振動を小さくすれば、支持面が傾斜していない支持具を使用した場合に比較して、水平方向の振動に起因する音が床や台に伝わることを抑制することができる。
【0012】
上記の構成において、支持部を有する支持部材と、この支持部材に対して別体であるベースプレートとを備え、前記支持部の一端が自由端であり、前記支持部とベースプレートの相互に対向する対向二面のうち、少なくとも一方の対向面が曲面を含み、この曲面上でこの対向二面の当接位置を変更することによって、前記支持面の傾斜角度を変更可能としてもよい。
【0013】
この構成の支持具であれば、シンプルな構成でありながら支持面の傾斜角度を変更することができる。また、曲面上でこの対向二面の当接位置を変更することによって支持面の傾斜角度を変更するので、支持面の傾斜角度は連続かつ無段階に変化する。従って、支持面の傾斜角度を微調整することが可能である。
【0014】
上記の構成において、前記対向二面のうち支持部側の対向面が曲面を含み、この曲面と支持面との間の距離が自由端に向かって自由端まで漸次小さくなる部位を前記支持部が有してもよい。
【0015】
この構成の支持具であれば、支持具の支持部における曲面と支持面との間の距離が自由端に向かって自由端まで漸次小さくなる部位では、支持面における荷重が掛かる位置が自由端に近づく程、同一の荷重が掛かった場合でも支持部の弾性変形(しなり)が大きくなる。この支持部の弾性変形の程度によって、楽器やスピーカに発生する特定の周波数の振動が増幅したり、減衰したりする。従って、支持面における荷重が掛かる位置を調整することによっても、音質を変更することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用者の好みに応じて楽器またはスピーカの音質を調整することを目的とした支持具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具を示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具の支持部材を示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具のベースプレートを示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図5】図2(A)のX−X線断面図である。
【図6】ピアノの脚に取り付けられたキャスタを示す図であって、(A)が最近普及しているキャスタ、(B)が従来から普及しているキャスタを示す図である。
【図7】本発明の楽器またはスピーカの支持具に支持されていない状態のピアノを示す正面図で、(A)が変形前、(B)が変形後を示す図である。
【図8】本発明の楽器またはスピーカの支持具に支持された状態のピアノを示す模式図であって、(A)が正面図、(B)が平面図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具を示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図10】図9の楽器またはスピーカの支持具の変形例を示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図11】図10の楽器またはスピーカの支持具の使用例を示す平面図である。
【図12】図10の楽器またはスピーカの支持具の使用例を示すピアノの正面図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具を示す図であって、(A)が平面図、(B)が側面図である。
【図14】本発明の楽器またはスピーカの支持具に支持された状態のスピーカを示す模式図であって、(A)が正面図、(B)が平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0019】
図1,2に、本発明の実施形態に係る楽器またはスピーカの支持具を示す。本実施形態の支持具1は、特にグランドピアノの脚の支持に好適なものであり、以下の説明では、グランドピアノの脚を支持するものとして説明する。図1,2に示すように、支持具1は、支持部材2と、この支持部材2に対して別体であるベースプレート3とを主要な構成要素として備える。支持部材2は、ベースプレート3に、ボルト4によって取り付けられている。
【0020】
図3に示すように、支持部材2は、平面視で長方形であり、ピアノの脚を支持するための支持部5と、支持部材2をベースプレート3に取り付けるための取付部6とから構成される。支持部5において、長手方向の一端が自由端5aで、長手方向の他端が取付部6に固定された固定端5bである。支持部材2の下側で、支持部5は取付部6より下側に突出している。
【0021】
支持部材2の上側は単一の平坦面であるが、支持部5の上側は、ピアノの脚を支持するための支持面5cである。支持部5の下側は、曲面5dで構成されており、支持部5において、固定端5bから自由端5aに向かって、曲面5dと支持面5cとの間の距離が漸次大きくなった後、漸次小さくなる。詳述すれば、固定端5bから自由端5aに向かって移行するに従って、曲面5dと支持面5cとの間の距離が固定端5bから途中までは漸次大きくなっていき、途中から自由端5aまでは漸次小さくなる。つまり、支持部5は、曲面5dと支持面5cとの間の距離が自由端5aに向かって自由端5aまで漸次小さくなる部位を有する。固定端5bから曲面5dと支持面5cとの間の距離が最も大きくなるのは、固定端5bと自由端5aの中央よりやや固定端5b側の位置である。また、支持部5の自由端5aには、上側に突出したストッパ5eが形成されている。取付部6は直方体形状であり、ボルト4を挿通するためのばか穴6aが形成されている。
【0022】
支持部材2の上側には、ネジ7によって環状体8が取り付けられている。この環状体8は、支持面5c上で、ピアノの脚を支持する位置を規定するためのものである。つまり、環状体8の内側の支持面5cでピアノの脚を支持する。支持具1の設置中等で、ピアノの脚が環状体8の内側に適切に納まらない場合に、支持具1からピアノの脚が脱落することを防止するために上述のストッパ5eが設けられている。環状体8の下側には、支持部材2の両側の側面に沿って延在する一対の側板8aが設けられており、この一対の側板8aには、支持部材の長手方向に沿って延在する長穴8bが同位置に形成されている。支持部材2の側面には、雌ネジ穴が形成されており、側板8aの長穴8bに挿通したネジ7の雄ネジ部が螺合されている。ネジ7の頭部がワッシャを介して側板8aと当接していおり、これによって、環状体8が固定されている。ネジ7の螺合を緩めれば、側板8aの長穴8bに案内されながら環状体8が支持部材2に対して移動可能となるので、支持部材2に対する環状体8の位置を変更することができる。これにより、支持面5c上でピアノの脚を支持する位置を変更することができる。
【0023】
支持部材2や環状体8は、本実施形態では、金属製であるが、特にこれに限定されるものでなく、ある程度の剛性があるものであれば、樹脂製、木製等であってもよい。ただし、支持面5cは、特に剛性が必要なので、金属で形成されていることが好ましい。
【0024】
図4に示すように、ベースプレート3は、平面視でイチョウの葉のような形状であり、支持具1の姿勢を床に対して安定させる機能を有する。ベースプレート3は、均一な厚さで上側と下側が平面である平坦部3aと、この平坦部3aの上側に形成され、支持部材2の支持部5を位置決めするための一対の位置決め部3bと、この一対の位置決め部3bの間に形成され、位置決め部3bより上側に突出した突出部3cとから構成されている。位置決め部3bは直方体形状で、その側面が、支持部材2における支持部5の側面と所定の隙間を介して対向する。突出部3cは、直方体形状で、その上側が支持部材2の取付部6の下側と対向する部位であり、ボルト穴3dが形成されている。
【0025】
ボルト4は、支持部材2の取付部6のばか穴6aに挿通し、その雄ねじ部4aがベースプレート3のボルト穴3dに螺合している。支持部材2の上側にワッシャ4bを介して当接するボルト4の頭部4cと、支持部材2の取付部6とベースプレート3の突出部3cとの間に介在するスペーサ9によって、支持部材2がベースプレート3に対して固定されている。しかし、支持具1がピアノの脚を支持した状態では、支持部材2から伝わる負荷は、ボルト4の頭部4cの側にかかり、これによって、支持部材2は固定されるので、スペーサ9は必ずしも必要ではない。
【0026】
図5に示すように、支持部材2の支持部5の曲面5dは、ベースプレート3の平坦部3aの上側面に対して当接位置Pにおいて当接する。当接位置Pで、支持部5の曲面5dは、ベースプレート3の平坦部3aの上側面に対して幅方向に延在する直線で線接触する。ボルト4のボルト穴3dに対する螺合の程度とスペーサ9の厚みを変更することによって、支持部材2の取付部6の高さを変更することができる。支持部材2の取付部6の高さが高くなるのに従って、曲面5dの線接触する当接位置Pが曲面5d上を支持部5の固定端5b側から自由端5a側に移動する。そして、当接位置Pが支持部5の固定端5b側から自由端5a側に移動するのに従って、支持面5cの傾斜角度が急になる。換言すれば、曲面5d上で当接位置Pを変更することによって、支持部5の支持面5cの傾斜角度を変更することができる。この際、曲面5dと平面(平坦部3aの上側面)とが接触しているため、支持部5の支持面5cの傾斜角度は連続かつ無段階に変化する。従って、支持面5cの傾斜角度を微調整することができる。これにより、支持部5の支持面5cは、水平に対して傾斜角度を例えば0°〜30°とすることが可能である。なお、図5は、支持面5cが傾斜している状態を理解し易いように、図1,2と比較して、傾斜角度を大きくしており、また、曲面5dの曲率を大きくしている。
【0027】
以上の構成の支持具1では、次のような効果が享受できる。
【0028】
グランドピアノの脚を支持する支持面5cが、ピアノの脚を支持した状態で、傾斜している場合には、ピアノの荷重に対する反作用として支持面5cからピアノが受ける力は、水平方向の成分(水平方向分力)を有する。従って、この支持具1を使用すれば、ピアノが水平方向分力を受けるため、その水平方向の振動の程度が変化する。従って、使用する支持具1の支持面5cの傾斜角度を変更することによって、この水平方向の振動の程度を変更することが可能である。これによって、ピアノの音質を変更することができる。すなわち、支持具1を使用すれば、ピアノの音質を調整することができる。
【0029】
また、ピアノから床に伝わった音は、ピアノから空中に放出された音と干渉する等して、音質に悪影響を与える。これに対して、支持具1によりピアノの水平方向の振動を小さくすれば、支持面5cが傾斜していない支持具を使用した場合に比較して、水平方向の振動に起因する音が床に伝わることを抑制することができる。
【0030】
なお、発明者の実験によって、ピアノの場合、水平方向の振動は、ピアノから発生する音の特に高周波成分の原因となることが判明した。従って、使用する支持具1の支持面5cの傾斜角度を変更することによって、ピアノから発生する音の高周波成分の量を加減することが可能である。
【0031】
また、図5に示す支持具1の支持部5における曲面5dと支持面5cとの間の距離が自由端5aに向かって自由端5aまで漸次小さくなる部位では、支持面5cにおける荷重が掛かる位置が自由端5aに近づく程、同一の荷重が掛かった場合でも支持部5の弾性変形(しなり)が大きくなる。この支持部5の弾性変形の程度によって、ピアノに発生する特定の周波数の振動が増幅したり、減衰したりする。従って、支持面5cにおける荷重が掛かる位置を調整することによっても、音質を変更することが可能である。
【0032】
音に含まれる高周波が少ないと、音質が軟らかくなり、高周波が多いと、音質は硬くなる。図5において、支持部5における曲面5dと支持面5cとの間の距離が自由端5aに向かって自由端5aまで漸次小さくなる部位では、支持面5cにおける荷重が掛かる位置が自由端5aに近づく程、音質は軟らかくなる。また、図5におけるP点の鉛直方向の支持面5cでピアノを支持すると、ピアノの音質は硬くなる。支持部5の厚さ(支持部5における曲面5dと支持面5cとの間の距離)が、厚くなると音質は硬くなり、薄くなると音質は軟らかくなる。また、支持部5の材質が硬いと音質が硬くなり、支持部5の材質が軟らかいと音質が軟らかくなる。
【0033】
また、支持具1は、支持面5cが傾斜しており、ピアノの脚の下端は円形の平面であるので、支持面5cでピアノの脚を直接支持する場合には、支持面5cがピアノの脚に対して点接触することが多いため、ピアノを不要に拘束することがない。これによって、ピアノから発せられる本来の音を不当に抑制することがない。また、ピアノから余分な音が床に伝わることを抑制することができる。
【0034】
以上の説明では、グランドピアノの脚に何も取り付けられていないことを前提にしていたが、図6に示すように、グランドピアノGの脚Lには、通常、キャスタ10,11が取り付けられている。キャスタ10,11を取り外した状態でピアノGの脚Lを直接支持具1で支持してもよいが、ピアノGの移動の利便性から、キャスタ10,11を取り付けた状態のまま支持することが好ましい。
【0035】
図6(A)に示すキャスタ10は、最近普及しているもので、ピアノGの脚Lに対して枢軸10aを嵌めこむことによって、回転自在に取り付けられている。枢軸10aが形成されている逆円錐台形の柱部10bから側方に延在する一対の相互に平行な側板10cの間に、車輪12が回転自在に取り付けられている。一方、図6(B)に示すキャスタ11は、従来から普及しているもので、ピアノGの脚Lに対して枢軸11aを嵌めこむことによって回転自在に取り付けられている。枢軸11aが形成されている長方形の基板11bから斜め下方に延在する一対の相互に平行な側板11cの間に、車輪12が回転自在に取り付けられている。何れのキャスタ10,11でも、ピアノGの脚Lの中心軸Oに対して、枢軸10a,10bの中心軸は同軸であり、ピアノGの脚Lの中心軸Oに対して、平面視で車輪12の接地位置はずれている。これにより、ピアノGの移動の際に、キャスタ10,11が移動方向に沿った向きになりやすく、ピアノGの移動が容易となる。
【0036】
図6(A)に示すキャスタ10を支持具1で支持する場合には、支持具1の支持面5cが柱部10bの下端に当接するように支持具1を設置する。柱部10bの下端も円形の平面なので、支持面5cが柱部に対して点接触することが多いため、上述と同様の効果が享受できる。また、図6(A)に二点鎖線で示すように、柱部10bの下端に、下側に突出した凸曲面で構成された外表面を有する当接用部材Cを取り付け、この当接用部材Cに、支持面5cが当接するように支持具1を配置してもよい。この場合には、支持面5cは当接用部材Cに対して常に点接触するので、上述と同様の効果が安定して享受できる。また、支持面5cと当接用部材Cとの当接部位に、例えばオイル等の潤滑剤を塗布してもよい。これにより、ピアノGが振動し易くなるので、音質を変更することができる。
【0037】
上述した支持具1によってピアノGの音質を調整する具体例を以下に説明する。図7(A)に示すように、ピアノGの脚Lは、最初は鉛直方向に沿って延在している。ところが、図7(A)に示すように、キャスタ10,11の接地部位がピアノGの脚Lの中心軸Oに対して外側に位置した場合、キャスタ10,11の車輪12の接地部位がピアノGの脚Lの中心軸に対してずれているため、白矢印で示すように、ピアノGの脚Lをハの字に開くような力が働く。この状態で長期放置されると図7(B)に示すように、経年変化によりピアノGの脚Lがハの字となる。この状態になると、ピアノGは水平方向に振動し難くなり、これにより、ピアノGの音質は本来とは異なるようになる。
【0038】
この問題に対して、図8(A)に示すように、ピアノGの脚Lをハの字に開くような力とは反対方向に、水平分力がピアノGの脚Lに付与されるように各脚Lに本実施形態の支持具1を設置すれば、ピアノGの脚Lが鉛直方向に沿って延在するようになり、これにより音質が調整され、ピアノGの音質が本来のものに近くなる。なお、図8では、支持具1を模式的に示している。
【0039】
図7や図8(A)では理解し易いように、ピアノGの脚Lを2本だけ表示し、単純にハの字に開く場合を説明したが、実際には、図8(B)に示すように、グランドピアノGの脚Lは3本である。そのため、ピアノGの脚Lに働く力は複雑となるので、望む音質が得られるように、各脚Lを支持する支持具1の配置の方向や、支持具1の支持面5cの傾斜角度を微調整する必要がある。
【0040】
本実施形態の支持具1に特有の効果であるピアノGに対する水平分力は、支持具1の支持面5cが傾斜している場合に発生するが、この水平分力の調節の一環として、水平分力が無い状態、すなわち、支持面5cの傾斜角度を0°の状態(支持面5cが水平状態)として支持具1を使用してもよいのは勿論のことである。
【0041】
上記実施形態では、支持具1の支持面5cの傾斜角度が変更可能となっていたが、本発明は、これに限定されず、支持具1の支持面5cの傾斜角度が固定であってもよい。このような支持面5cの傾斜角度が固定である支持具1の一例を図9に示す。この支持具1は、支持部材2と、この支持部材2が固定されたベースプレート3とを主要な構成要素とする。
【0042】
支持部材2は、その基端がベースプレート3に固定されており略円弧状に上側に延在する円弧部2aと、円弧部2aの先端から斜め下方に延在する支持部5と、支持部5の先端から斜め下方に延在して先端が円弧部2aに当接して支持部5の強度を補強する補強部2bとから構成される。支持部5の上側に平坦な支持面5cが形成されており、支持面5cは水平に対して角度θで傾斜している。角度θは例えば1°〜5°である。ベースプレート3は、円板状であり、支持具1の姿勢を床に対して安定させる機能を有する。支持部材2は、例えば短冊状の金属片を屈曲させて形成し、例えば金属製のベースプレート3に溶接等によって固定される。この支持具1では、支持面5cに荷重が掛かった場合には、円弧部2aが弾性変形するので、楽器やスピーカの上下方向の振動を妨げ難いという特性を有する。また、上記実施形態の支持具1に比較して、簡単な構成なので、製造コストを抑制することができる。
【0043】
この支持具1は、例えば、図6(B)に示すキャスタ11を取り付けたピアノGを支持するのに好適である。この場合、図6(B)に二点鎖線で示すように、支持面5cを、キャスタ11の基板11bの下端面と側面の間の角に当接させる。キャスタ11の基板11bは長方形なので、支持面5cは、キャスタ11の基板11bに対して線接触する。これにより、上述した支持具1の支持面5cがピアノGの脚Lに対して点接触する場合と同様の効果が享受できる。なお、ピアノGの脚Lにキャスタ10,11が取り付けられている場合に、車輪12を支持具1の支持面5cで支持することはしない。これは、車輪12を支持具1で支持すると、平面視でピアノGの脚Lの中心軸Oに対して車輪12の支持面5cとの接触部位がずれているために、脚Lにハの字に広げる力等が働いたり、車輪12が予期せぬ挙動を取ったりする可能性があるからである。
【0044】
図9に例示した支持具1の変形例を図10に示す。図10に例示した支持具1では、図9の支持具1における支持部材2の円弧部2aが、そのベースプレート3に固定されている固定端から、更に連続して円弧状に上側に延在したものになっている。そして、この支持具1は、図9の支持具1の支持部5とは反対側(図のB側)に、円弧部2aの先端から斜め下方に延在する支持部5と、この支持部5の先端から下方に延在して先端がベースプレート3に当接して支持部5の強度を補強する補強部2bとを有する。このB側の支持部5の上側にも平坦な支持面5cが形成されており、支持面5cは水平に対して角度θで傾斜している。この角度θも例えば1°〜5°である。この支持具1では、異なる高さの支持面5cが2つあるため、1つの支持具1での支持の態様を多様化できる。勿論A側とB側で傾斜角度θを異ならせてもよい。
【0045】
図10の支持具1は、例えば図11に示すように、3つで、そのB側の支持面5cでピアノやスピーカを支持する。この場合に、各支持具1は、相互にワイヤW等の線材で縛ることによって拘束されていることが好ましい。これにより、地震等の揺れによって支持具1が支持対象から外れることを抑制することができる。また、ワイヤW等の線材の張力により、音質を変更させることができる。この場合に、各支持具1において、例えば図10(B)に点線で示すように、ワイヤW等の線材を、円弧部2aのベースプレート3に対する固定部に係合させれば、安定して各支持具1を相互に固定することができる。
【0046】
図10の支持具1によって図7(B)に示した脚Lがハの字に変形したピアノGを支持した状態を図12に示す。支持具1のB側の支持面5cと脚Lの中心線がなす角度(支持具1の支持角度)は、左側のαが鈍角で、右側のβが90°である。また、図12でピアノGの左側は低音を発生する部分であり、ピアノGの右側は高音を発生する部分である。
【0047】
支持具1の支持角度が変化すると、支持具1の高周波を抑制する効果が変化する。例えば図に示すように、支持角度αが鈍角であれば、支持具1の高周波を抑制する効果が大きい。従って、音がより軟らかくなる。一方、図に示すように、支持角度βが90°であれば、高周波を抑制する効果は少なくなる。従って、音がより硬くなる。支持角度が90°であって、図6に二点鎖線で示したように支持面5cが支持対象に対して点接触や線接触する場合には、高周波を抑制する効果は更に少なくなる。そして、この場合に、オイル等の潤滑剤を支持面5cの接触線や接触点に塗布すると、高周波を抑制する効果が最小となる。
【0048】
また、支持角度αが鈍角であれば、音の出が遅れる。一方、支持角度βが90°であれば、音の出が早い。従って、取り付け方で低音の音の出と高音の音の出との間に時間差が生じる。これにより、低音の音と高音の音とが分離され、それぞれの音が認識され易くなる。支持角度αの角度が大きくなるほど、音の出が遅くなり、取り付け方で低音の音と高音の音との分離の程度が大きくなる。つまり、支持角度αによって、低音の音と高音の音との分離の程度は変化する。
【0049】
また、図12に示すように、ピアノGのキャスタ10は、その車輪12が支持具1の円弧部2aに隙間を介して嵌合するように、支持具1に載置されている。これにより、地震等の揺れが生じた時、車輪12と円弧部2aとが干渉することにより、キャスタ10が支持具1に対してずれることを抑制することができる。
【0050】
更に、支持面5cの傾斜角度が固定である支持具1の一例を図13に示す。この支持具1も、支持部材2と、この支持部材2が固定されたベースプレート3とを主要な構成要素とする。この支持具1では、支持部材2は、基端がベースプレート3に固定された略円弧状に延在する2つの円弧部2aと、その先端を連結する支持部5から構成される。2つの円弧部2aの曲率は相互に異なる。支持部5の上側に平坦な支持面5cが形成されており、支持面5cは水平に対して角度θで傾斜している。この角度θは例えば1°〜3°である。
【0051】
図9,10,13に示した支持面5cの傾斜角度が固定された支持具1は、例えば、図14に示すように、スピーカSを支持するのに好適である。なお、図14では、支持具1を模式的に示している。この場合、図14(B)に実線で示すように、スピーカSにおける長方形状の下端面の各辺に支持具1を配置してもよいし、二点鎖線で示すように、スピーカSの下端面の各角に支持具1を配置してもよい。いずれの場合も、支持面5cによる水平分力が平面視でのスピーカSの中央に向かうように、支持具1を配置している。この配置では、スピーカSの水平方向の振動が少なくなる。なお、支持具1をスピーカSの下端面の各辺に配置した場合は、支持面5cは各辺に対して線接触し、各角に配置した場合には、支持面5cは各角に対して点接触する。なお、スピーカSに対しては、少なくとも3つ以上の支持具1で支持することが好ましい。
【0052】
スピーカSは、アンプで音質を変えることができるが、上述のように、支持具1によれば、スピーカSの下部を傾斜した支持面5cで支持することで音質の違いを作ることができる。また、図14に示すように、支持具1をワイヤW等の線材で縛ることで相互に拘束すれば、地震等の揺れでスピーカSから支持具1が外れることを防止できる。また、ワイヤW等の線材の張力を調整することによって、スピーカSの音質を連続かつ無段階に変化させることができる。
【0053】
図8,11,14で説明したように、本発明の支持具1は、複数で使用することが通常であるが、その一部を、本発明以外の支持具、すなわち傾斜していない支持面を有する支持具としてもよい。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内であれば、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、支持具1は、グランドピアノGとスピーカSに使用していたが、その他の楽器、例えばアップライトピアノ、オルガン、ハープシコード、マリンバ、ドラムセット、琴、鍵盤ハーモニカ、ギター等に使用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 支持具
2 支持部材
3 ベースプレート
4 ボルト
5 支持部
5a 自由端
5b 固定端
5c 支持面
5d 曲面
G グランドピアノ
P 当接位置
S スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器またはスピーカを支持する平坦な支持面が形成された支持部を有する支持具であって、
楽器またはスピーカを支持した状態で、前記支持面が傾斜していることを特徴とする楽器またはスピーカの支持具。
【請求項2】
支持部を有する支持部材と、この支持部材に対して別体であるベースプレートとを備え、
前記支持部の一端が自由端であり、
前記支持部とベースプレートの相互に対向する対向二面のうち、少なくとも一方の対向面が曲面を含み、この曲面上でこの対向二面の当接位置を変更することによって、前記支持面の傾斜角度を変更可能とした請求項1に記載の楽器またはスピーカの支持具。
【請求項3】
前記対向二面のうち支持部側の対向面が曲面を含み、この曲面と支持面との間の距離が自由端に向かって自由端まで漸次小さくなる部位を前記支持部が有する請求項2に記載の楽器またはスピーカの支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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