説明

楽器演奏教習装置

【課題】 演奏者が正しい演奏を行えるように効果的に演奏の補助を行う楽器演奏教習装置を提供する。
【解決手段】 補助判定部21は、鍵操作部12に設けられた複数の鍵のうち曲データ中の運指データ通りの楽器演奏において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助制御部22は、複数の鍵のうち補助判定部21によって演奏の補助に用いる鍵とされたものの操作を抑制するための当該鍵の駆動の制御を行い、演奏を補助する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鍵盤楽器、管楽器等の演奏の教習を行う楽器演奏教習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
曲データを記憶し、曲データ通りの楽器演奏が行われているか否かを判定し、判定結果を演奏者に提供し、あるいは曲データ通りの楽器演奏が行われたことを条件として演奏位置を進める楽器演奏教習装置が各種提供されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−66982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の楽器演奏教習装置を利用する演奏者は、ある程度の演奏のスキルを持った者である必要がある。十分なスキルを有していない演奏者は、判定結果が示されても、自分の鍵操作のどこが間違っているのかを理解するのが難しい。このため、演奏者が楽器演奏教習装置を利用して演奏のスキルを自ら高めていけるようになるまでには一般的に時間が掛かる。楽器演奏教習装置の中には、LED等の発光素子により押下すべき鍵を指示する機能を備えたものがある(例えば特許文献1参照)。しかし、たとえ発光素子による指示があったとしても、多くの鍵の中から押下すべき鍵を見つけて押下するのは、スキルの不十分な者にとっては困難である。また、管楽器の場合は、発光素子により押さえるべき鍵が示されても、発光素子によりどの鍵が指示されているかを演奏者が見るのは困難である。
【0004】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、演奏者が正しい演奏を行えるように演奏の補助を行い、演奏者のスキルを高めることができる楽器演奏教習装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、楽曲の楽器演奏の内容を示す曲データに基づいて、楽器に設けられた複数の鍵のうち少なくとも一部の鍵を演奏の補助に用いる鍵とする補助判定手段と、前記楽器に設けられた複数の鍵のうち前記補助判定手段によって演奏の補助に用いる鍵とされたものを駆動して演奏を補助する演奏補助手段とを具備することを特徴とする楽器演奏教習装置を提供する。
かかる発明によれば、鍵を駆動することにより演奏の補助が行われるので、スキルが十分でない演奏者の演奏のスキルを高めることができる。
演奏の補助に関しては各種の態様が考えられる。
ある好ましい態様において、補助判定手段は、曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助手段は、補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵とされた鍵が操作されるのを抑制することにより演奏の補助を行う。この態様は、間違った鍵操作が行われたのを演奏者に分かるように阻止することにより、演奏の補助を行うものである。
他の好ましい態様では、補助判定手段は、曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助手段は、補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵とされた鍵が操作された場合に当該鍵を動かすことにより演奏の補助を行う。この態様は、間違って鍵操作が行われた場合に、どの鍵操作が間違っているかを知らせることにより演奏の補助を行うものである。
他の好ましい態様では、補助判定手段は、曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作する鍵の一部を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助手段は、補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵が曲データ通りに操作されなくても、操作されたと同様に当該鍵を動かすことにより演奏の補助を行う。この態様は、上記とは逆に、鍵操作が不足している場合にそれを補うことにより演奏の補助を行うものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
図1はこの発明の一実施形態である楽器演奏教習装置の構成を示すブロック図である。本実施形態による楽器演奏教習装置は、管楽器の演奏の教習を行う装置であり、フルート、トランペットまたはサキソフォン等の管楽器本体1と、この管楽器本体1に実装された制御部2とメモリ3と演奏補助用駆動部4とI/F(インタフェース)部5とにより構成されている。
【0007】
ここで、管楽器本体1は、マウスピース等、口による演奏操作を受け付ける吹奏操作部11と、可動部たる鍵を複数有し、指による鍵の操作を受け付ける鍵操作部12とを有している。吹奏操作部11には、演奏者の吹奏圧やアンブシュアを検出する各種のセンサが設けられており、鍵操作部12には複数の鍵の各々のON/OFFを検出するセンサが設けられている(いずれも図示略)。本実施形態による楽器演奏教習装置は、鍵操作部12の演奏操作の教習を行うものである。また、本実施形態による楽器演奏教習装置は、自動演奏機能を備えている。
【0008】
メモリ3は、曲データを記憶する役割を果たすものである。この曲データは、図2に示すように、運指データと難易度データとを含んでいる。ここで、運指データは、曲の楽器演奏内容を示すデータであり、その曲の楽器演奏時における鍵操作部12の複数の鍵のON/OFF状態を示す運指パターンを曲の進行に対応させて時系列的に示したものである。また、難易度データは、運指パターン通りに鍵の押圧操作を行うことの難易度を運指データ中の各運指パターン毎、または押圧操作を行う運指パターン列毎に示したデータである。運指データは、自動演奏の際に駆動すべき鍵を決定するために参照される他、演奏の教習時において、演奏の補助に用いる鍵を決定するために参照される。メモリ3は、RAM等の揮発性メモリであってもよく、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであってもよい。
【0009】
制御部2は、例えばCPUと、CPUが実行する制御プログラムを記憶したROMと、CPUがワークエリアとして使用するRAMとにより構成されている。補助判定部21、演奏補助制御部22、演奏位置制御部23および演奏判定部24は、鍵操作部12の演奏操作の教習を行うための制御手段をなすものであり、各々、制御部2のCPUが実行する制御プログラムの一部をなすルーチンである。
【0010】
ここで、補助判定部21は、メモリ3に記憶された演奏対象の曲データ中の運指データに基づいて、鍵操作部12に設けられた複数の鍵のうち演奏の補助に用いる鍵を決定するルーチンである。なお、演奏対象の曲データは、例えば図示しないホストコンピュータからI/F部5を介して与えられる指示により決定される。演奏補助制御部22は、演奏補助用駆動部4と協働して、鍵操作部12に設けられた複数の鍵のうち補助判定部21によって演奏の補助に用いる鍵とされたものを駆動して演奏の補助を行うための制御を行うルーチンである。本実施形態において、補助判定部21は、運指データ通りの楽器演奏において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助制御部22は、この演奏の補助に用いる鍵が操作されるのを抑制する制御を行うことにより演奏の補助を行う。鍵の操作の抑制は、鍵を全く動かせなくするのではなく、鍵の全ストロークの半分程度までは押せるが、それ以上は押し込むことができない程度に行う。演奏位置制御部23は、吹奏操作部11に設けられた各種のセンサの出力信号と鍵操作部12に設けられた各鍵のON/OFFを検出するセンサの出力信号とに基づき、演奏対象の曲データにおいて現在演奏を行っている位置(すなわち、演奏位置)を進める制御を行うルーチンである。また、演奏判定部24は、鍵操作部12に設けられた各鍵のON/OFFを検出するセンサの出力信号を監視し、演奏対象の曲データ中の運指データ通りの演奏が行われたか否かを各演奏位置毎に判定し、判定結果をメモリ3に書き込むルーチンである。なお、補助判定部21および演奏補助制御部22は、演奏位置制御部23あるいは演奏判定部24の処理と連携する処理を含むが、それらについては説明の重複を避けるため、本実施形態の動作説明において詳細を明らかにする。
【0011】
以上の他、制御部2のCPUが実行する制御プログラムには、I/F部5を介して図示しないホストコンピュータと通信を行い、あるいは同ホストコンピュータからメモリ3に各種のファイルをダウンロードするための制御を行うルーチンや、鍵操作部12の各鍵を駆動して自動演奏を行うルーチン等が含まれる(いずれも図示略)。
【0012】
図3および図4は、鍵操作部12に実装された演奏補助用駆動部4の鍵1個分の構成例を示す図である。まず、図3に示す構成例について説明する。一般的なフルート等の管楽器と同様、管楽器本体1の管体13には、音孔14と連通し、管体13表面から若干盛り上がった中空の円筒部15がある。鍵の押圧部16は、この円筒部15の開口部と対向した状態で、アーム17を介して図示しない回動軸に支持されている。管体13、押圧部16およびアーム17は、非磁性体であることが好ましい。
【0013】
押圧部16の裏側(円筒部15側)にはクッション材16aが貼られており、その中央には薄い板状の永久磁石16bが貼られている。また、円筒部15には、銅線が巻かれることによりソレノイド15bが構成されている。制御部2は、制御プログラムに従い、このソレノイド15bに対する通電の制御を行う。さらに詳述すると、自動演奏時において、自動演奏用のルーチンは、ON状態とすべき鍵の押圧部16と対向した円筒部15のソレノイド15bに対し、押圧部16の裏側の永久磁石16bを引き寄せる磁力を発生させる電流を流すための制御を行う。また、教習時において、演奏補助制御部22は、演奏の補助に用いる鍵(すなわち、操作されるのを抑制する鍵)の押圧部16と対向した円筒部15のソレノイド15bに対し、押圧部16の裏側の永久磁石16bを遠くに斥ける磁力を発生させる電流を流すための制御を行う。この場合、押圧部16が押し込まれた場合において、押圧部16が音孔14を塞ぐ前、より具体的には押圧部16が全ストロークの半分程度まで押し込まれたところで押圧部16のそれ以上の押し込みを食い止めることができるように、適切な大きさの電流がソレノイド15bに流される。
【0014】
一方、管体13におけるアーム17と対向する位置には、ストッパ駆動部18が設けられている。このストッパ駆動部18は、棒状のストッパ18aをアーム17に向けて突き出す機能を有している。ここで、ストッパ18aが突き出した状態では、押圧部16はある程度押し下げることができるが、音孔14を塞ぐ前、より具体的には押圧部16が全ストロークの半分程度まで押し込まれたところでアーム17がストッパ18aの先端に突き当たり、音孔14の閉塞が阻止されるようになっている。教習時において、演奏補助制御部22は、演奏の補助に用いる鍵のアーム17と対向したストッパ駆動部18にストッパ18aを突出させ、押圧部16が音孔14を塞ぐのを阻止する制御を行う。
【0015】
この例では、演奏の補助に用いる鍵が操作されるのを抑制するための手段として、ソレノイド15bへの通電、ストッパ駆動部18によるストッパ18aの駆動のいずれを利用することも可能である。好ましい態様では、教習のための動作モードとして、どのような動作モードが選択されたかにより、鍵が操作されるのを抑制するための手段が選択される。
【0016】
図4に示す例では、図3における永久磁石16b、ソレノイド15bおよびストッパ駆動部18はない。その代わりに、管体13のアーム17と対向する位置に鍵駆動部19が設けられている。また、アーム17の下面には強磁性体からなる被駆動部17aが突出している。鍵駆動部19は、アーム17が下降したときに被駆動部17aを収容する孔を有しており、この孔の周壁には同被駆動部17aを収容するソレノイド19aが設けられている。また、鍵駆動部19の孔の底(すなわち、管体13の表面)には、図3におけるストッパ駆動部18と同様な構成のストッパ駆動部19bが設けられている。
【0017】
この例では、自動演奏時において、自動演奏用のルーチンは、ON状態とすべき鍵のアーム17と対向した鍵駆動部19のソレノイド19aに通電し、被駆動部17aを管体13側に引き込む磁力を発生させる制御を行う。また、教習時において、演奏補助制御部22は、演奏の補助に用いる鍵のアーム17と対向した鍵駆動部19のストッパ駆動部19bにストッパを突出させ、押圧部16が音孔14を塞ぐのを阻止する制御を行う。
以上が本実施形態による楽器演奏教習装置の構成の詳細である。
【0018】
次に本実施形態の動作について説明する。本実施形態による楽器演奏教習装置は、楽器演奏の教習に関する動作モードを幾つか有している。いずれのモードで動作するかは、例えばI/F部5を介してホストコンピュータから制御部2に与えられる指示により、あるいは管楽器本体1に設けられた操作子(図示略)の操作に従って決定される。以下、各動作モードでの動作を説明する。
【0019】
<第1のモード>
このモードでは、メモリ3に記憶された曲データの中から演奏対象である曲データが選択された場合、補助判定部21は、その曲データの運指データを参照し、鍵操作部12に設けられた複数の鍵のうち曲全体を通じて一度もON状態とならない鍵を求め、演奏の補助に用いる鍵とする。そして、演奏補助制御部22は、この演奏の補助に用いる鍵が操作されるのを抑制する制御を行う。具体的には、図3に示す演奏補助用駆動部4を備えた態様では、演奏の補助に用いる鍵に対応したストッパ駆動部18にストッパ18aを突出させ、その鍵の押圧部16が押下されても、音孔14が塞がる前に押圧部16の押下が阻止されるようにする。また、図4に示す演奏補助用駆動部4を備えた態様では、演奏の補助に用いる鍵に対応したストッパ駆動部19bにストッパを突出させる。このモードによれば、曲全体を通じて、押下されない鍵がある場合に、その鍵が誤って押下されるのを防止することができる。
【0020】
<第2のモード>
このモードでは、補助判定部21および演奏補助制御部22は、演奏位置制御部23と協働する。まず、演奏位置制御部23は、吹奏操作部11および鍵操作部12に設けられた各種のセンサの出力信号に基づいて演奏操作が行われるのを監視し、現在演奏を行うべき演奏位置を求め、この演奏位置に対応した運指パターンを演奏対象である曲データ中の運指データから抽出し、補助判定部21に引き渡す。補助判定部21は、この引き渡された運指パターンにおいて操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助制御部22は、その演奏の補助に用いる鍵が操作されるのを抑制する制御を行う。具体的には、図3に示す演奏補助用駆動部4を備えた態様では、演奏の補助に用いる鍵に対応したソレノイド15bに永久磁石16bを遠くに斥ける磁力を発生させる通電を行わせる。また、図4に示す演奏補助用駆動部4を備えた態様では、演奏の補助に用いる鍵に対応したストッパ駆動部19bにストッパを突出させる。このモードによれば、運指パターンによっては誤って押してしまいがちな鍵がある場合に、その鍵が押されるのを途中で食い止め、ミストーンの発生を防止することができる。例えばサキソフォンの場合、一番下の鍵が上下2つに分かれており、最も低いドの音を放音するときにはこの鍵の下半分の鍵を押すようになっている。この場合において、演奏者が一番下の鍵の下半分と一緒に上半分を誤って押した場合に、上半分が押し込まれるのを食い止めることができる。また、誤った鍵を押した場合、その鍵が半分押されたところでそれ以上の押し込みができなくなるので、演奏者は誤った鍵を押したことに気づくことができる。
【0021】
<第3のモード>
このモードは、上記第2のモードと同様、演奏位置が変わる毎に、その演奏位置において演奏の補助に用いる鍵を決定し、演奏の補助を行うものであるが、この演奏の補助を演奏者のスキルに応じた態様で行う。さらに詳述すると、このモードでは、演奏者のスキルを示すスキルデータがホストコンピュータからI/F部5を介して制御部2に与えられる。このスキルデータは、許容難易度、すなわち、当該演奏者がどの程度の難易度の運指であれば補助されることなく正常に実行することができるかを示すデータである。補助判定部21は、このスキルデータに基づき、各演奏位置において演奏の補助を行うか否かを決定する。さらに詳述すると、補助判定部21は、各演奏位置において、演奏対象である曲データ中の難易度データが示す当該演奏位置における運指の難易度とスキルデータが示す演奏者のスキルとを比較し、当該演奏位置において演奏の補助が必要か否かを判断する。そして、運指の難易度が演奏者のスキルを上回っている場合に限り、補助判定部21は、当該演奏位置における運指パターンに基づいて、演奏の補助に用いる鍵を求め、演奏補助制御部22は、その鍵が操作されるのを抑制する制御を行うのである。
【0022】
図5(a)〜(c)は、演奏のスキル(許容難易度)に応じた演奏の補助の態様を例示するものである。この図に示すように、スキルが低い場合には、難易度の低い運指パターンでも補助が必要になるため、頻繁に演奏の補助が行われるが、スキルが高くなると、難易度の高い運指パターンでも補助が必要でなくなるため、演奏の補助が行われる頻度が減る。このように第3のモードでは、演奏者のスキルに応じた演奏の補助が行われる。
【0023】
<第4のモード>
このモードは、演奏者が運指を間違える演奏位置を求め、その間違えた演奏位置を示すデータをメモリ3に記録する演奏判定フェーズと、演奏判定フェーズにおいて得られたデータに基づいて、演奏者が運指を間違える演奏位置において演奏の補助を行う演奏補助フェーズとからなる。フェーズの切り換えは、例えば管楽器本体1に設けられた操作子(図示略)の操作に従って行われる。
【0024】
演奏判定フェーズでは、演奏位置制御部23と演奏判定部24が協働して、演奏の判定が行われ、結果がメモリ3に書き込まれる。さらに詳述すると、演奏位置制御部23は、吹奏操作部11および鍵操作部12に設けられた各種のセンサの出力信号に基づいて演奏操作が行われるのを監視し、現在演奏を行うべき演奏位置を求め、この演奏位置に対応した運指パターンを演奏対象である曲データ中の運指データから抽出し、演奏判定部24に引き渡す。演奏判定部24は、鍵操作部12に設けられた各センサの出力信号が示す運指パターンと演奏位置制御部23から引き渡された運指パターンを比較し、正しい運指がなされたか否かを示すデータをメモリ3に書き込む。このデータは、運指データとは別のデータとしてメモリ3に書き込んでもよいが、本実施形態では運指データの一部としてメモリ3に書き込む。具体的には、本実施形態では、運指データ中の運指パターン(バイナリデータ)が演奏判定フラグを含んでおり、演奏判定部24は、演奏者が正常に運指を行うことができた運指パターンについては演奏判定フラグを“0”とし、運指を間違えた運指パターンについては演奏判定フラグを“1”とする。
【0025】
演奏補助フェーズでは、演奏位置制御部23と補助判定部21と演奏補助制御部22が協働して、演奏の補助のための制御を行う。さらに詳述すると、演奏位置制御部23は、上述と同様に現在演奏を行うべき演奏位置を求め、この演奏位置に対応した運指パターンを演奏対象である曲データ中の運指データから抽出し、補助判定部21に引き渡す。補助判定部21は、演奏位置制御部23から引き渡された運指パターンに含まれる演奏判定フラグが“1”である場合、すなわち、演奏判定フェーズにおいて演奏者が運指を間違えた運指パターンが演奏位置制御部23から引き渡された場合に限り、その運指パターンに基づいて、演奏の補助に用いる鍵を決定し、演奏補助制御部22は、その鍵が操作されるのを抑制する制御を行うのである。このように第4のモードでは、演奏者が運指を間違える運指パターンに限定して演奏の補助を行うことができる。
【0026】
以上、この発明の一実施形態を説明したが、この発明には、他にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0027】
(1)上記実施形態では、管楽器の演奏の教習を行う楽器演奏教習装置にこの発明を適用した。しかし、この発明は、これに限らず、鍵盤楽器等、管楽器以外の楽器演奏の教習を行う楽器演奏教習装置に適用可能である。
【0028】
(2)鍵盤楽器の楽器演奏教習装置にこの発明を適用する場合、例えば上記実施形態における第1のモードの変形例として、運指データ通りの演奏では黒鍵を操作しない場合に、黒鍵全体について操作を阻止する、といった簡便な態様が考えられる。また、鍵盤楽器の演奏において、例えば複数の鍵を同時に押して和音を弾くような場合に、誤って押しやすい鍵が複数発生することがある。このような場合において、演奏者のスキルが低い場合には、それらの全ての鍵が押されないように鍵の操作を抑制することが好ましいが、演奏者のスキルが高い場合には、一部の鍵のみに関して操作を抑制すれば足りる。そこで、各演奏位置において、運指パターンに基づいて、誤って押される可能性のある鍵を演奏の補助に用いる鍵の候補とし、演奏の補助に用いる鍵の候補が複数ある場合には、演奏者のスキルに応じて、それらのうち演奏の補助に用いる鍵の個数を増減するように構成してもよい。
【0029】
(3)上記実施形態では、運指データ通りの楽器演奏において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、この演奏の補助に用いる鍵が操作されるのを抑制することにより演奏の補助を行った。しかし、演奏の補助の態様にはこれ以外にも各種の態様が考えられる。例えば、運指データ通りの楽器演奏において操作しない鍵が操作された場合において、当該鍵を動かすことにより、誤った鍵を押したことを演奏者に知らせる、という演奏の補助の態様が考えられる。この場合、誤って押された鍵を持ち上げる構成としてもよいが、各鍵に対してバイブレータを設け、誤って押された鍵が生じた場合に、その鍵にバイブレータが発生する振動を与えるようにしてもよい。
【0030】
(4)上記実施形態では、操作すべきでない鍵が誤って操作されるのを抑制することにより演奏の補助を行った。しかし、操作し難い鍵の操作を手伝うという態様で演奏の補助を行ってもよい。すなわち、補助判定部21は、運指データ通りの楽器演奏において操作する鍵の一部を演奏の補助に用いる鍵とし、演奏補助制御部22が、補助判定部21により演奏の補助に用いる鍵とされた鍵が運指データ通りに操作されなくても、操作されたと同様に当該鍵を動かすことにより演奏の補助を行うようにしてもよい。この場合の演奏の補助の態様は、さらに細分化することができる。ある態様は、運指パターンに難易度を設け、ある演奏位置において、運指パターンの難易度が演奏者のスキルを上回っている場合には、演奏者に代わって、その運指パターンに従って鍵を駆動する、というものである。すなわち、運指パターンの難易度が演奏者のスキルを上回っている区間について自動演奏を行う態様である。他の態様は、各演奏位置における運指パターンにおいて、押さえるのが難しい鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、その鍵を演奏者に代わって駆動する態様である。この場合、一曲の演奏において、演奏の補助に用いる鍵(演奏者に代わって駆動する鍵)の発生回数を演奏者のスキルに応じて増減させてもよい。さらに他の態様は、ある演奏位置において鍵の操作が行われた場合に、その演奏位置での運指パターンと操作された鍵とを照合し、運指パターンでは押下されることになっているのに押下されなかった鍵があった場合に、その鍵を駆動する態様である。すなわち、この態様では、実際に行われた鍵操作が曲データ中の運指パターンに対して不足している場合にその不足している鍵操作を演奏補助制御部22が補うものである。その際の鍵操作の補い方としては、単に該当する鍵の押圧部16を押し下げて音孔14を塞ぐだけでもよいが、どの鍵操作が不足しているかを分かりやすくするために、該当する鍵の押圧部16により音孔14を塞ぐ操作をパタパタと複数回繰り返してもよい。
【0031】
(5)上記実施形態では管楽器における鍵操作について演奏の補助を行ったが、管楽器の吹奏において口による演奏操作について演奏の補助を行ってもよい。例えば、サキソフォン演奏では、図6に例示するように、息圧とリードを噛む力とに関し、発音が行われる発音領域とそうでない領域とがある。そこで、息圧を検出するセンサと、噛む力を検出するセンサと、リードを駆動するアクチュエータと、マウスピース内の息の抜け具合を調節する弁をサキソフォンに設ける。そして、息圧とリードを噛む力とが発音領域から外れそうになったときには、リードを噛みにくくする力をアクチュエータにより発生し、あるいは弁により息の抜け具合を調節することにより、発音領域に止まらせる。これにより演奏者は適切なリードの噛み方および適切な息の吹き込み方を習得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施形態である楽器演奏教習装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態における曲データの構成例を示す図である。
【図3】同実施形態において鍵操作部12に実装された演奏補助用駆動部4の鍵1個分の構成例を示す図である。
【図4】同演奏補助用駆動部4の他の構成例を示す図である。
【図5】同実施形態において実現される演奏者のスキルに応じた演奏の補助の態様を示す図である。
【図6】サキソフォン演奏において発音が行われる息圧とリードを噛む力の範囲を例示する図である。
【符号の説明】
【0033】
1……管楽器本体、11……吹奏操作部、12……鍵操作部、2……制御部、21……補助判定部、22……演奏補助制御部、23……演奏位置制御部、24……演奏判定部、3……メモリ、4……演奏補助用駆動部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲の楽器演奏の内容を示す曲データに基づいて、楽器に設けられた複数の鍵のうち少なくとも一部の鍵を演奏の補助に用いる鍵とする補助判定手段と、
前記楽器に設けられた複数の鍵のうち前記補助判定手段によって演奏の補助に用いる鍵とされたものを駆動して演奏を補助する演奏補助手段と
を具備することを特徴とする楽器演奏教習装置。
【請求項2】
前記補助判定手段は、前記曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、
前記演奏補助手段は、前記補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵とされた鍵が操作されるのを抑制することにより演奏の補助を行うことを特徴とする請求項1に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項3】
前記補助判定手段は、前記曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作しない鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、
前記演奏補助手段は、前記補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵とされた鍵が操作された場合に当該鍵を動かすことにより演奏の補助を行うことを特徴とする請求項1に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項4】
前記補助判定手段は、前記曲データ通りに楽器演奏を行う場合において操作する鍵の一部を演奏の補助に用いる鍵とし、
前記演奏補助手段は、前記補助判定手段により演奏の補助に用いる鍵が前記曲データ通りに操作されなくても、操作されたと同様に当該鍵を動かすことにより演奏の補助を行うことを特徴とする請求項1に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項5】
前記補助判定手段は、曲単位で、曲全体を通じて共通の鍵を演奏の補助に用いる鍵とし、
前記演奏補助手段は、曲単位で、曲全体を通じて、前記補助判定手段によって演奏の補助に用いる鍵とされた鍵を駆動して演奏の補助を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の請求項に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項6】
楽器演奏が行われるのに応じて演奏位置を進める演奏位置制御手段を具備し、
演奏位置が変わる毎に、前記補助判定手段は、現在の演奏位置において演奏の補助に用いる鍵を判定し、前記演奏補助手段は、前記補助判定手段によって演奏の補助に用いる鍵とされた鍵を駆動して演奏の補助を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の請求項に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項7】
演奏者の演奏のスキルの指定を受け付ける手段を具備し、
前記補助判定手段は、指定された演奏のスキルに応じて、演奏の補助を行う鍵を決定する際の基準を切り換えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1の請求項に記載の楽器演奏教習装置。
【請求項8】
楽器演奏において前記複数の鍵が前記曲データ通りに操作されたか否かを判定する演奏判定手段を具備し、
前記補助判定手段は、前記演奏判定手段により前記複数の鍵が前記曲データ通りに操作されなかったと判定された演奏位置において、前記曲データに基づいて演奏の補助に用いる鍵を決定することを特徴とする請求項6に記載の楽器演奏教習装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−180894(P2009−180894A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19174(P2008−19174)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】