説明

楽器

【課題】セメント質硬化体からなる部材を、弦楽器の胴部、管楽器の管部等として含む楽器を提供する。
【解決手段】厚さが1〜6mm、密度が2.50〜2.60g/cm、弾性係数が50kN/mm以上、及び、圧縮強度が180N/mm以上であるセメント質硬化体からなる部材を含む楽器。セメント質硬化体を構成する配合物は、(A)セメント、(B)BET比表面積が5〜25m/gの微粉末、(C)細骨材、(D)減水剤、(E)金属繊維、及び(F)水、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質硬化体からなる部材を含む楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタル等のセメント質硬化体は、一般に、セメント、骨材、水及び減水剤等からなるものであり、任意の形状に成形でき、機械的強度、耐久性等に優れる等の利点があることから、一般住宅やビル等の部材(壁材、床材、天井材等)として広く使用されている。
近年、木材、石材等のセメント質硬化体以外の材料によって作製することが通常であった各種の部材を、セメント質硬化体として作製する試みが行われている。
例えば、少なくとも、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の骨材、水、及び減水剤を含む配合物の硬化体からなるコンクリート製防振機能材料が提案されている(特許文献1)。このコンクリート製防振機能材料は、計測機器、オーディオ機器などのケース、スピーカシステムの筐体、台座などの防振機能が要求される部材として使用されるものである。
【特許文献1】特開2001−282250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1に記載された特定の配合物を、楽器の用途に用いることは、従来、検討された例がなかった。
一方、楽器の材料には、木材、金属等が用いられることが多い。しかし、楽器の材料として用いうる特定の種類の木材が資源の枯渇により入手が難しくなりつつあるなどの事情下において、セメント質硬化体を用いて楽器の少なくとも一部(特に、管楽器の管部や、弦楽器の胴部等)を形成することができれば、楽器の製造を安定して行いうるなどの点で、好都合である。
そこで、本発明は、セメント質硬化体からなる部材を含む楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の物性を有するセメント質硬化体からなる部材を用いることによって、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] 厚さが1〜6mm、密度が2.50〜2.60g/cm、弾性係数が50kN/mm以上、及び、圧縮強度が180N/mm以上であるセメント質硬化体からなる部材を含むことを特徴とする楽器。
[2] 管楽器、打楽器、及び、弦楽器から選ばれる1種である上記[1]に記載の楽器。
[3] 上記セメント質硬化体が、(A)セメント、(B)BET比表面積が5〜25m/gの微粉末、(C)細骨材、(D)減水剤、(E)金属繊維、及び(F)水、を含む配合物の硬化体である上記[1]又は[2]に記載の楽器。
[4] 上記セメント質硬化体を構成する配合物が、(G)ブレーン比表面積が4,000〜10,000cm/gの無機粉末、を含む上記[3]に記載の楽器。
【発明の効果】
【0006】
本発明の楽器は、特定の物性を有するセメント質硬化体を用いているため、木製等の通常の楽器用材料を用いた場合に比して遜色のない音色を発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のセメント質硬化体からなる部材を含む楽器について詳述する。
本発明の楽器を構成するセメント質硬化体からなる部材は、下記の物性を有する。本発明の楽器は、下記の物性を有するセメント質硬化体からなる部材を楽器の胴部、管部などとして含むため、楽器として好適な固有振動数を有することができ、従来の楽器と遜色のない音色を発することができる。
セメント質硬化体からなる部材の厚さは、1〜6mm、好ましくは2〜5mmである。厚さが6mmを超えると、固有振動数が小さくなり、楽器用の部材として使用することが困難となる。一方、厚さが1mm未満では、硬化体を製造することが困難なことがあり、また、硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
【0008】
セメント質硬化体の圧縮強度は、180N/mm以上であり、190N/mm以上であることが好ましく、200N/mm以上であることが特に好ましい。圧縮強度が180N/mm未満であると、硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
本明細書において、圧縮強度とは、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準じて測定された値である。
セメント質硬化体の密度は、2.50〜2.60g/cmであり、2.52〜2.58g/cmであることが好ましい。密度が2.50g/cm未満であると、180N/mm以上の圧縮強度が得られにくく、その結果、硬化体全体の機械的強度が不足することがある。密度が2.60g/cmを超えると、硬化体全体の質量が大きくなり、楽器の運搬時の負担が大きくなるなど、該硬化体を含む楽器の取扱性が劣ることがある。
【0009】
セメント質硬化体の弾性係数は、50kN/mm以上であり、52〜65kN/mmであることが好ましい。弾性係数が50kN/mm未満であると、180N/mm以上の圧縮強度が得られにくく、その結果、硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
本明細書において、弾性係数とは、「JIS A 1149(コンクリートの静弾性係数試験方法)」に準じて測定された値である。
なお、一般に、響板等の楽器を構成する部材の音響特性は、「弾性係数/密度」の値が大きいほど良好であると言われている。セメント質硬化体の密度及び弾性係数が上記数値範囲内であることにより、大きな機械的強度(具体的には、180N/mm以上の圧縮強度等)と優れた音響特性とを兼ね備えることができる。
セメント質硬化体の曲げ強度は、35N/mm以上であることが好ましく、37N/mm以上であることがより好ましく、40N/mm以上であることが特に好ましい。曲げ強度が35N/mm以上であると、硬化体全体の機械的強度が大きくなり、好ましい。
本明細書において、曲げ強度とは、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて測定された値である。
【0010】
このような性状を有するセメント質硬化体は、好ましくは下記の材料((A)成分〜(F)成分、及び他の任意材料)を含む配合物を、成形、養生等することにより得られる。
(A)セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントを使用することができる。
中でも、配合物の流動性や強度発現性、硬化収縮の低減等の観点から、中庸熱ポルトランドセメント又は低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0011】
(B)微粉末は、BET比表面積が5〜25m/g、好ましくは7〜15m/gのものである。BET比表面積が5m/g未満であると、得られる硬化体の機械的強度が低下する傾向がある。BET比表面積が25m/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなり、得られる硬化体の機械的強度の低下等を招くことがある。
(B)微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ、石灰石粉末等が挙げられる。一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m/gであり、粉砕等をする必要がないので、(B)微粉末として好適である。また、被粉砕性や流動性等の観点から、石灰石粉末も好ましく用いられる。
(B)微粉末の配合量は、(A)セメント100質量部に対して、10〜40質量部が好ましく、15〜35質量部がより好ましい。配合量が10質量部未満では、得られる硬化体の機械的強度等が低下する。配合量が40質量部を超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなり、得られる硬化体の機械的強度の低下等を招くことがある。
【0012】
(C)細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、又はこれらの混合物を使用することができる。
配合物の流動性や施工性、硬化体のクラック抵抗性、及び、超薄厚(具体的には、厚さ1〜6mm)の硬化体を得る観点から、細骨材の最大粒径は、製造しようとする楽器の部材の厚さの1/4以下であることが好ましく、該厚さの1/5以下であることがより好ましく、該厚さの1/6以下であることが特に好ましい。
また、配合物の流動性や施工性等の観点から、細骨材中、粒径が0.15mm未満の粒子の占める割合が5質量%以上であることが好ましい。
(C)細骨材の配合量は、(A)セメント100質量部に対して、50〜150質量部が好ましく、70〜140質量部がより好ましい。上記配合量が上記範囲外であると、硬化体の機械的強度等が低下したり、硬化収縮率が大きくなるなどの問題が生じうる。
なお、本発明において、骨材としては細骨材のみを用い、粗骨材は用いない。
【0013】
(D)減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。中でも、より大きな減水効果が得られることから、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。(D)減水剤を配合することにより、配合物の流動性や施工性、硬化体の緻密性、機械的強度等を向上させることができる。
(D)減水剤の配合量は、(A)セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1〜4.0質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。(D)減水剤の配合量が上記範囲外であると、配合物の流動性、硬化体の機械的強度や静弾性係数等が低下することがある。
【0014】
(E)金属繊維としては、鋼繊維、アモルファス繊維等が挙げられるが、中でも鋼繊維は強度に優れており、またコストや入手のし易さの点からも好ましく用いられる。金属繊維は、直径0.01〜0.5mm、長さ2〜30mmのものが好ましい。直径が0.01mm未満では繊維自身の強度が不足し、張力を受けた際に切れやすくなる。直径が0.5mmを超えると、同一配合量での本数が少なくなり、曲げ強度や破壊エネルギーを向上させる効果が低下し、上記特定の厚みを有する硬化体全体の機械的強度が不足することがある。長さが30mmを超えると、混練の際ファイバーボールが生じやすくなり、一方、2mm未満では、曲げ強度や破壊エネルギーを向上させる効果が低下し、上記特定の厚みを有する硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
(E)金属繊維の配合量は、配合物の体積の0.5〜4%が好ましく、より好ましくは1〜3%である。配合量が4%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増大し、硬化体の曲げ強度等が低下し、上記特定の厚みを有する硬化体全体の機械的強度が不足することがある。一方、上記配合量が0.5%未満であっても、硬化体の曲げ強度等が低下し、上記特定の厚みを有する硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
【0015】
(F)水としては、水道水等を使用することができる。
(F)水は、水/セメント比が、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは13〜25質量%となる量配合される。水/セメント比が10質量%未満では、配合物の流動性が低くなり、成形などの作業が困難となる。水/セメント比が30質量%を超えると、硬化体の機械的強度(圧縮強度、曲げ強度等)等が低下し、上記特定の厚みを有する硬化体全体の機械的強度が不足することがある。
【0016】
上記配合物は、流動性、硬化体の強度や耐久性等を高める観点から、さらに、(G)無機粉末を含むことができる。
(G)無機粉末は、ブレーン比表面積が4,000〜10,000cm/gであることが好ましく、5,000〜9,000cm/gであることがより好ましい。ブレーン比表面積が4,000cm/g未満であると、配合物の流動性の向上効果が低下するうえ、硬化体の機械的強度、静弾性係数、緻密性、耐衝撃性等の向上効果も低下するため、好ましくない。一方、ブレーン比表面積が10,000cm/gを超えると、配合物の流動性が低下したり、硬化体の機械的強度、静弾性係数等が低下することがある。さらに、この場合、コストも高くなるため好ましくない。
【0017】
無機粉末としては、セメント以外の無機粉末、例えば、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、フライアッシュ、石灰石粉末、石英粉末は、コスト、及び硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。
(G)無機粉末の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。配合量が50質量部を超えると、配合物の流動性や施工性、硬化体の機械的強度、緻密性や耐衝撃性等が低下することがある。
また、(G)無機粉末の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上である。無機粉末の配合量を5質量部以上とすることにより、配合物の流動性、硬化体の機械的強度や耐久性等の向上効果を高めることができる。
【0018】
また、上記配合物は、得られる硬化体の靱性の向上、及び、(E)金属繊維の分離防止の観点から、(H)平均粒度が1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子、を含むことができる。ここで、(H)粒子の粒度とは、その最大寸法の大きさ(特に、繊維状粒子ではその長さ)である。
繊維状粒子としては、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が挙げられる。薄片状粒子としては、マイカフレーク、タルクフレーク、バーミキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。
繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量(ただし、これら2種の粒子を併用する場合は合計量)は、硬化前の施工性や硬化後の靭性等の観点から、(A)セメント100質量部に対して、35質量部以下が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
なお、繊維状粒子においては、硬化後の靱性を高める観点から、長さ/直径の比で表される針状度が3以上のものを用いるのが好ましい。
【0019】
本発明のセメント質硬化体からなる部材は、上記材料を混練して配合物を得た後、型枠を用いて成形、養生、脱型することにより製造することができる。
配合物を得る際の混練方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)水、減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製した後、該プレミックス材、水、減水剤をミキサに投入し、混練する方法
(2)水以外の材料(ただし、減水剤は粉末タイプのものを使用する。)を予め混合して、プレミックス材を調製した後、該プレミックス材、水をミキサに投入し、混練する方法
(3)各材料を、それぞれ個別にミキサに投入し、混練する方法
混練に用いるミキサとしては、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。
【0020】
成形に用いられる型枠としては、目的の楽器に応じた形状を有する型枠であればよく、特に限定されない。
例えば、琴の胴部を作製する場合には、胴部の構成部分(例えば、表甲、裏板)の形状を与えうる型枠を用い、該型枠内に配合物を投入することにより、成形を行うことができる。この場合、表甲、裏板等を接着剤等で固着させて、琴の胴部を完成させる。
また、アルプホルン等の管部を得る場合には、断面が半円状の形状を与えうる型枠を用い、該型枠内に配合物を投入することにより、成形を行うことができる。この場合、断面が半円状である2つの部材を接着剤等で固着させて、アルプホルン等の円筒状または円錐状の管部を完成させる。
【0021】
型枠あるいは型枠の内面を形成する材料の好ましい一例として、ガラスまたは合成樹脂で形成された面を有する型枠と、透水性又は透気性の部材(例えば、不織布、織布等)によって形成された面を有する型枠(以下、伏せ型枠ともいう。)との組み合わせが挙げられる。
底面を形成するための合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
この場合、ガラスまたは合成樹脂で形成された面に接していたセメント質硬化体の面は、優れた光沢を有する鏡面状の面となる。そのため、高級感、重厚感、意匠性に優れた楽器を得ることができる。
透水性又は透気性の部材によって形成された面を有する伏せ型枠は、セメント等を含む未硬化の配合物が硬化する際に、大きな気泡が発生するのを防ぐためのものである。大きな気泡が発生すると、その部分が機械的強度の不足する箇所となり、亀裂や破壊を引き起こす可能性がある。
【0022】
このような2種の型枠を用いた場合の具体的な方法について、図面を参照しつつ説明する。
まず、配合物を、ガラス製の底面形成部1aと木製の側壁1bとからなる型枠1内に投入する(図1の(イ))。次いで、型枠1内の配合物2を、伏せ型枠3を用いて押さえる(図1の(ロ))。図1中、伏せ型枠3は、例えば、不織布等の透水性又は透気性の部材3aと、鋼板等の他の部材3bとの積層体であり、透水性又は透気性の部材3aを配合物2の側に向けて、配合物2を押さえるものである。
配合物2は、型枠1の側壁の上端まで投入してもよいし、あるいは、上端よりも下方(例えば、型枠1の深さの中ほどまで)の高さとなるように投入してもよい。
配合物2を型枠1の側壁1bの上端まで投入する場合には、型枠1中の配合物2の上面と略同一の面積を有する伏せ型枠を用いて、型枠1中の配合物2を押さえてもよいし、図1中の(ロ)に示すように、型枠1中の配合物2の上面よりも大きい面積を有する伏せ型枠3を用いてもよい。この場合、伏せ型枠3を型枠1の側壁1bの上面上に載置することにより、伏せ型枠3(具体的には、透水性又は透気性の部材3a)と配合物2とを接触させ、伏せ型枠3によって配合物2を押さえることができる。
側壁1bの上端よりも下方の高さまで配合物を投入する場合には、型枠1中の配合物2の上面と略同一の面積を有する伏せ型枠(図示せず)を用いて、型枠1中の配合物2を押さえる必要がある。
なお、本発明において、伏せ型枠3を用いずに、配合物2を成形することもできる。
【0023】
次いで、型枠1と伏せ型枠3とを用いて配合物2を成形したままの状態で、養生を行う。
養生の方法は、特に限定されるものではないが、セメント質硬化体の生産性や強度発現性等を考慮して、例えば、下記の一次養生・二次養生を行う方法が好ましい。
(一次養生)
まず、型枠1内の配合物2を、伏せ型枠3で押さえたままの状態で、5〜40℃で所定時間(例えば、3〜48時間)静置する。
(二次養生)
一次養生終了後、硬化した配合物を、伏せ型枠3で押さえたままの状態で、75〜95℃で10〜48時間蒸気養生する。
その後、脱型を行い、セメント質硬化体を得る。
脱型を行うことにより、型枠1及び伏せ型枠3を硬化体4から分離し、セメント質硬化体4を得る(図1中の(ハ)参照)。セメント質硬化体4の表面4aは、優れた光沢を有する鏡面状の面であり、楽器の胴部等の構成部材の表面となる。セメント質硬化体4の裏面4bは、光沢を有しない面であり、楽器の胴部等の構成部材の裏面となる。
なお、脱型は、一次養生と二次養生の間に行うこともできる。すなわち、一次養生後に脱型して硬化体を得、この硬化体を二次養生することにより、セメント質硬化体を得る。この場合、一次養生後に得られた硬化体は、圧縮強度が10N/mm以上であることが好ましい。圧縮強度が10N/mm未満であると、脱型が困難となる。
配合物に接触する面の形成材料がガラスまたは合成樹脂である型枠を用いる場合には、一次養生及び二次養生を行った後に脱型することが好ましい。
【0024】
得られたセメント質硬化体からなる部材は、楽器の種類に応じた種々の形状を有する。
セメント質硬化体からなる部材を用いることのできる楽器の部位としては、例えば、管楽器の管部、ベル(朝顔)等、打楽器の筒状の胴部等、弦楽器の本体である胴部等が挙げられる。管楽器の例としては、アルプホルン等、打楽器の例としては、ボンゴ、チャイム(チューブラーベル)、弦楽器の例としては、琴、ハープ等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[材料の準備]
セメント質硬化体の構成材料として、下記の材料を準備した。
(A)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(B)微粉末;シリカフューム(BET比表面積10m/g)
(C)細骨材;珪砂(粒径0.15〜0.6mm)
(D)減水剤;ポリカルボン酸系高性能減水剤
(E)金属繊維;鋼繊維(直径:0.15mm、長さ:15mm)
(F)水;水道水
(G)無機粉末;石英粉末(ブレーン比表面積7,500cm/g)
【0026】
[実施例1;モルタルの物性の測定]
セメント100質量部、シリカフューム30質量部、細骨材105質量部、減水剤0.5質量部(セメントに対する固形分)、鋼繊維(配合物の体積の2%)、水22質量部、石英粉末30質量部を二軸練りミキサに投入し、混練して配合物を得た。
得られた配合物のフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。その結果、フロー値は270mmであった。
また、配合物をφ50×100mmの型枠に流し込み、20℃で48時間静置(一次養生)後、脱型し、さらに90℃で48時間蒸気養生(二次養生)し、硬化体を得た。得られた硬化体の圧縮強度及び静弾性係数を、それぞれ、「JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)」及び「JIS A 1149(コンクリートの静弾性係数試験方法)」に準じて測定した。その結果、圧縮強度は、230N/mmであり、静弾性係数は55kN/mmであった。
また、配合物を、4×4×16cmの型枠に流し込み、20℃で48時間静置(一次養生)後、脱型し、さらに90℃で48時間蒸気養生(二次養生)し、硬化体を得た。得られた硬化体の曲げ強度を、「JIS R 5201」に準じて測定した。その結果、曲げ強度は、45N/mmであった。
配合物からなる硬化体の密度は、2.55g/cmであった。
【0027】
[実施例2;琴の製造]
実施例1で得た配合物を用いて、琴の胴部(共鳴箱)を下記のようにして製造した。
まず、745mm×810mm×5mmの内部空間を有する型枠A(表板である表甲、及び、裏板用)、810mm×150mm×5mmの内部空間を有する型枠B(側板用)、735mm×150mm×5mmの内部空間を有する型枠C(側板用)をそれぞれ準備した。
型枠A中に上記配合物を厚さ5mmとなるように流し込んだ後、そのままの状態で20℃で24時間静置(一次養生)した。次いで、脱型し、得られた硬化物を90℃で48時間蒸気養生(二次養生)することにより、745mm×810mm×5mmの板材(表甲)を得た。
また、音響孔の形成部分を設けたこと以外は型枠Aと同様に構成した型枠中に配合物を流し込んだ後、表板(表甲)と同様にして、745mm×810mm×5mmの寸法を有し、かつ音響孔を備えた板材(裏板)を得た。
型枠B及び型枠Cを用いたこと以外は表板の場合と同様にして、810mm×150mm×5mmの側面板(2枚)、及び、735mm×150mm×5mmの側面板(2枚)を得た。
得られた表板、裏板、計4枚の側面板をエポキシ樹脂系の接着剤で接着し、745mm×810mm×160mmの外形寸法を有する共鳴箱を得た。
次に、得られた共鳴箱と、弦としてφ2.57mmのPC鋼線、弦の定着具としてH型鋼にPC鋼線の定着具を設置したもの、駒として5mm厚さの木板とφ16mmの木棒とを用い、琴を組み立てた。
得られた琴を演奏したところ、はっきりとした澄んだ音色を発することができた。
【0028】
[実施例3;アルプホルンの製造]
実施例1で得た配合物を用いて、半円筒状の2つのコンクリート質硬化体からなる部材を作製し、これら2つの部材をエポキシ樹脂系の接着剤で固着させることによって、長さ3mのアルプホルンの管部を得た。
得られたアルプホルンを演奏したところ、木製の管部を有する通常のアルプホルンに匹敵するような美しい音色を発することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】楽器の構成部分として用いうるセメント質硬化体の製造方法を模式的に示すフロー図である。
【符号の説明】
【0030】
1 型枠
1a 底面形成部材
1b 側壁
2 配合物
3 伏せ型枠
3a 透水性又は透気性の部材(不織布)
3b 他の部材(鋼板)
4 セメント質硬化体
4a 鏡面状の表面
4b 裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1〜6mm、密度が2.50〜2.60g/cm、弾性係数が50kN/mm以上、及び、圧縮強度が180N/mm以上であるセメント質硬化体からなる部材を含むことを特徴とする楽器。
【請求項2】
管楽器、打楽器、及び、弦楽器から選ばれる1種である請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
上記セメント質硬化体が、(A)セメント、(B)BET比表面積が5〜25m/gの微粉末、(C)細骨材、(D)減水剤、(E)金属繊維、及び(F)水、を含む配合物の硬化体である請求項1又は2に記載の楽器。
【請求項4】
上記セメント質硬化体を構成する配合物が、(G)ブレーン比表面積が4,000〜10,000cm/gの無機粉末、を含む請求項3に記載の楽器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−139773(P2010−139773A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316199(P2008−316199)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:社団法人土木学会 刊行物名:第63回年次学術講演会講演概要集 発行年月日:平成20年8月13日
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】