説明

構造体の製造方法

【課題】基板上の複雑な構造物を必要とせず、効率よく配向された構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による規則的な構造体は、各セグメントの誘電率及び透磁率が異なるブロックポリマー薄膜に、互いに直交する電場と磁場とを印加させることによって得られることを特徴とする。また、本発明による構造体の製造方法は、複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法に係り、特に、ブロックポリマーを用いてナノ構造を形成したラメラ構造及びシリンダー構造を有する構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナノシリンダー構造(以下、ナノシリンダー構造とは、ほぼ同径のシリンダーがほぼ等間隔で配列している構造のことをいう)やラメラ構造(以下、ラメラ構造とは、ほぼ同厚の構造がほぼ等間隔で配列している構造のことをいう)を形成する系として、ブロックポリマー系や相分離薄膜系が知られている。こうしたナノ構造体は、多方面にわたる各種デバイスへの応用が期待されている。各種デバイスへの応用には、構造特性が均一で規則的に配置したものが望ましい。
【0003】
このような構造を形成する方法として、特許文献1は、ブロックポリマーを用いてかなりの規則性をもったナノオーダーのパターンを形成する方法を開示する。この文献で開示する方法では、ナノシリンダーを規則的に配向させるために、基板上にブロックポリマーを配置して得た構造を利用している。しかしながら、このような方法によると、広範囲にわたり斯かる構造を形成するためには、基板上の構造が制約される。また、製造コストの増加が避けられないという問題が生じる。
【特許文献1】特開2001−151834号公報
【非特許文献1】S.Demoustier−Champagneら著、”Journal of Polymer Science:Part A”、Polymer Chemistry、1993年、31巻、p.2009−2014
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、基板上の複雑な構造物を必要とせず、効率よく配向された構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による構造体の製造方法は、複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明による構造体の製造方法は、複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程と、電場又は磁場のいずれか一方を印加する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、基板上の複雑な構造物が存在しなくとも、低コストで広範囲に渡って規則的なラメラ構造やシリンダー構造などの構造体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態につき説明する。
【0009】
<本発明における構造体>
本発明における構造体は、ブロックポリマーの各セグメントの誘電率が異なる場合に電場による配向制御が可能であること、及び、各セグメントの透磁率が異なる場合に磁場による配向制御が可能であることを利用して、製造される。
【0010】
電束密度についてのガウスの法則から、ブロックポリマーを構成する各セグメントの誘電率が異なる場合には、一様電場を印加した環境下においては、各セグメントの境界面が電場の方向に平行となる構造が安定に存在する。
【0011】
また、磁束密度についてのガウスの法則から、ブロックポリマーを構成する各セグメントの透磁率が異なる場合には、一様磁場を印加した環境下においては、各セグメントの境界面が磁場の方向に平行となる構造が安定に存在する。
【0012】
従って、電場と磁場とを互いに直交な方向に同時に印加すると、ブロックポリマーの可能な配位が一方向に限定される。本発明は、こうしたブロックポリマーの性質を利用する。なお、本発明において、電場及び磁場を印加する方向をいう「直交」とは、およそ直交であることを意図するものである。以下、本発明における構造体について、詳述する。
【0013】
図1は、本発明における構造体を例示した概略図であり、図2は本発明における構造体の一例を示す概略図である。一般的に、ブロックポリマーに電場や磁場などの外場を印加する系を考えると、ブロックポリマーを構成する各セグメントの電気的な特性に応じて、ブロックポリマー内に過剰化学ポテンシャルが生じない方向に、ブロックポリマーが配向される。例えば、図1(1)に示すように、電場のみをブロックポリマーに印加すると、電場方向を軸とする回転自由度と、並進自由度とが許容され、電場方向に配向されたシリンダー構造が形成される。一般に、このような状態の各シリンダー構造の電場に直交する方向での間隔(つまり、各シリンダー構造の間隔)は、必ずしも規則的なものとはならない。
【0014】
このように形成された不規則なシリンダー構造に、電場と直交する磁場を印加すると、上記の自由度のうち、並進自由度のみが許容されることとなる。従って、互いに直交する電場と磁場とを印加すると、図1(2)に示すような規則的なラメラ構造を形成することとなる。本発明は、このような現象を利用した発明である。
【0015】
<ブロックポリマー及びセグメント>
本発明において、ブロックポリマーとしては、各セグメント間の誘電率と透磁率とが異なるセグメントからなるブロックポリマーであれば、特に限定されるものではない。ブロックポリマーの合成方法としては、本技術分野公知の方法により合成すればよい。例えば、リビング重合反応による単量体の逐次重合反応や、末端残基にヒドロキシル基、ビニル基等の活性基を有する重合体を合成した後、他の単量体を重合させる方法や、複数種の重合体を適宜結合させる方法などが挙げられる。
【0016】
本発明において、ブロックポリマーを構成するセグメントの例としては、以下の繰り返し構造を有するセグメントが挙げられる。
【0017】
ポリエステルなどのエステル系ポリマー
アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーからなるアクリル系ポリマー
フェニル基、メチルフェニル基、ビフェニル基等の芳香族環を有するポリマー
【0018】
各セグメントは、種々の置換基でセグメントの側鎖がさらに置換されてもよい。この側鎖としては、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基、フェニル、ナフチルなどの芳香環、フッ素、塩素などのハロゲン、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化ホウ素、塩化チタン素等の金属ハロゲン化物などが例示される。
【0019】
本発明において、セグメントの誘電率及び透磁率の範囲は、ブロックポリマーを構成する各セグメントの誘電率及び透磁率が異なる値であれば、特に限定されない。例えば、比誘電率の範囲としては、1.0〜10.0が挙げられ、比透磁率の範囲としては、0.5〜2.0が挙げられる。
【0020】
<本発明による構造体の製造方法の第一の実施態様>
本発明による構造体の製造方法は、複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程を有することを特徴とする。以下、図面を参照して、この実施態様について説明する。
【0021】
図3は、本発明による構造体の製造方法の第一の実施態様を示すフローチャートである。この実施態様により、上述した図1に示す構造体が得られる。
【0022】
本発明による構造体の製造方法において、まず、溶融状態のブロックポリマー薄膜に、互いに直交する方向の電場と磁場とを印加する(S11)。ブロックポリマー薄膜に印加する電場及び磁場の範囲は、ブロックポリマーを構成する各セグメントの配向状態を変え得る範囲であれば、特に限定されない。印加する電場の範囲としては、10.0〜100.0(V/μm)が例示される。また、印加する磁場の範囲としては、1.0〜10.0(T)が例示される。特に、各セグメント間の誘電率及び透磁率の差が大きくなればなるほど、一定の電場又は磁場を用いた場合、配向が容易に行い得る。また、ブロックポリマーに印加する電場及び/又は磁場の印加時間は、ブロックポリマーを構成する各セグメントの物性(誘電率、透磁率等)に応じて、適宜調節すればよい。
【0023】
電場を発生させる手段としては、ブロックポリマーを構成する各セグメントに適当な電場を印加し得るものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ハニカム型、多極高電圧型などの電場発生装置を用いればよい。また、磁場を発生させる手段としては、ブロックポリマーを構成する各セグメントに適当な磁場を印加し得るものであれば、特に限定されるものではなく、例えば冷凍機冷却型の超伝導磁石などを利用すればよい。
【0024】
なお、溶融状態とは、固相状態のブロックポリマーに、熱エネルギーを与えて、液相状態に変化させた状態をいう。ブロックポリマーを溶融状態とする手段としては、特に限定されず、ブロックポリマーを構成する材料に応じて、熱/圧力等を適用すればよい。
【0025】
次に、電場及び磁場の印加により、ブロックポリマーが十分に配向したかどうかを検証する工程を行ってもよい(S12)。この検証手段としては、微細な構造を検出し得る手段であれば、特に限定されるものではなく、例えば透過型、走査型等の電子顕微鏡などが例示される。ここで、十分な配向が行われたことが確認されていれば、ブロックポリマーは、本発明における構造体(例えば、ラメラ構造を有する構造体)が形成されることとなる(S13)。また、十分な配向が行われていないと判定されれば、再度上述のS11の工程を行う。
【0026】
本発明における構造体(例えば、ラメラ構造)が形成されていると判定された場合には(S13)、電場及び磁場の印加を停止する(S16)。これにより、所望する構造を有する本発明における構造体(例えば、ラメラ構造)が得られる。必要に応じて、空冷や水冷などの冷却手段を施して、固化を行ってもよい。
【0027】
このようにして、本発明による構造体(例えば、ラメラ構造)が得られる(S17)。
【0028】
<本発明による構造体の製造方法の第二の実施態様>
また、本発明による構造体の製造方法は、複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程と、電場又は磁場のいずれか一方を印加する工程と、を有することを特徴とする。以下、図面を参照して、この実施態様について説明する。なお、「互いに直交する電場と磁場とを印加する工程」は、上述の第一の実施態様と同様である。
【0029】
図4は、本発明における構造体の他の例を示す概略図であり、図5は、本発明による構造体の製造方法の第二の実施態様を示すフローチャートである。本実施態様において、S21〜S23は、上述のS11〜S13に対応するので、説明は割愛する。これらのステップを経て、図4の(2)に示す構造体が得られる。ここで、ブロックポリマーに印加していた電場及び磁場の印加を、電場又は磁場のいずれかを印加する(S24)。これにより、ブロックポリマーにおける構造の相転移が起こり、例えば、シリンダー構造などの構造体となる(S25)。
【0030】
なお、S25において、所望の構造体が得られていることを、上述のS12で述べた検証手段で確認してもよく、構造体の状態によって、印加等の条件を種々変更してもよい。
【0031】
その後、S26及びS27として、上述のS16とS17と同様の工程を経て、本発明における構造体(例えば、シリンダー構造)が得られる。
【0032】
このようにして得たシリンダー構造を有する構造体を例示したのが、図4である。図4において、(1)及び(2)は、図1の(1)及び(2)に示した状態とそれぞれ同様である。つまり、図2(1)では、電場のみを印加することにより、電場方向を軸とする回転自由度と並進自由度とが許容されることにより、必ずしも規則的なシリンダー構造は形成されない。この状態で、電場と磁場とを同時に印加すると、これら自由度のうち、並進自由度のみが許容されることにより、図4(2)に示すような規則的なラメラ構造を有する構造体が得られる。この状態で、電場と磁場とが印加されていた外場を、例えば磁場のみを印加した外場とすると、図4(3)に示すように、規則的なシリンダー構造が形成されることとなる。ここで、規則的なシリンダー構造が形成されるのは、電場と磁場とを印加して形成された規則的なラメラ構造の層間距離が保持されたまま、外場が変化するためである。つまり、電場の印加を解除して磁場のみを印加した外場とすることにより、並進自由度のみが許容されていた外場の状態から、磁場方向を軸とする回転自由度と並進自由度とを許容する外場の状態が形成されることとなる。これにより、規則的なラメラ構造の層間距離を保持したまま、規則的なシリンダー構造が形成されることとなる。
【0033】
上述した本発明における構造体と、従来例とをシミュレートした結果を、図6、図7及び図8に示す。図6は、従来例を示し、図7及び図8は、本発明による構造体を示す。これらの図から明らかなように、本発明により、規則的なラメラ構造、若しくは規則的なシリンダー構造が形成可能であることがわかる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
ポリスチレン(重量平均分子量(Mw):60000、比誘電率:2.5)−PMMA(Mw:13000、比誘電率:6.0)のブロックコポリマー(Mw/Mn(数平均分子量)=1.04、ポリスチレンとPMMAの比透磁率が異なるもの)を、170℃、窒素雰囲気中で溶融状態とする。これに、50V/μmの電場と、6Tの磁場とを24時間、印加する。得た組成物を空冷により冷却し、透過型電子顕微鏡で観察すると、図1に示すラメラ構造を有する構造体1が得られる。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、電場と磁場とを印加した後、続いて印加を電場のみとする。得た組成物を空冷により冷却し、透過型電子顕微鏡で観察すると、図4に示すシリンダー構造を有する構造体2が得られる。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、電場と磁場とを印加した後、この印加を磁場のみとする。得た組成物を空冷により冷却し、透過型電子顕微鏡で観察すると、図4に示すシリンダー構造を有する構造体3が得られる。なお、構造体2と構造体3とは、シリンダー構造の配向方向が、直交する。
【0037】
(実施例4〜6)
実施例1〜3において、ポリスチレン−PMMAのブロックコポリマーを、非特許文献1に記載の方法によりポリフェニルメチルシラン−ポリスチレンのジブロックコポリマー(ポリフェニルメチルシラン(Mw:12000、比誘電率:2.1)−ポリスチレン(Mw=48000、比誘電率:2.5)、Mw/Mn=2.1、ポリフェニルメチルシランとポリスチレンの比透磁率が異なるもの)に代えた以外は、それぞれ実施例1〜3と同様に処理し、構造体4〜6を得る。これらのうち、構造体4は、図1に示すラメラ構造を有する。また、構造体5及び6は、いずれも、図4に示すシリンダー構造を有し、これらのシリンダー構造の配向方向は、互いに直交する。
【0038】
(実施例7〜9)
実施例1〜3において、ポリスチレン−PMMAのブロックコポリマーを、ポリスチレン(PS)−ポリターシャリーブチルアクリレート(PtBA)のジブロックコポリマー(ポリスチレン(Mw:100000、比誘電率:2.5)−ポリターシャリーブチルアクリレート(Mw=48000、比誘電率:2.1)、ポリスチレンとポリターシャリーブチルアクリレートの比透磁率が異なるもの)に代えた以外は、実施例1〜3とそれぞれ同様に処理し、構造体7〜9を得る。これらのうち、構造体7は、図1に示すラメラ構造を有する。また、構造体8及び9は、いずれも、図4に示すシリンダー構造を有し、これらのシリンダー構造の配向方向は、互いに直交する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明による構造体の製造方法により、規則的なラメラ構造又はシリンダー構造などの構造体を形成することが可能となる。なお、本発明における構造体は、磁気記録媒体などの電子機器製品に利用可能である。
【0040】
以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正および変更を加えることができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本発明が限定されるものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明における構造体を例示した概略図
【図2】本発明における構造体の一例を示す概略図
【図3】本発明による構造体の製造方法の第一の実施態様を示すフローチャート
【図4】本発明における構造体の他の例を示す概略図
【図5】本発明による構造体の製造方法の第二の実施態様を示すフローチャート
【図6】従来例による構造体のシミュレート図
【図7】本発明による構造体のシミュレート図
【図8】本発明による構造体のシミュレート図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
前記構造体は、ラメラ構造を有することを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
複数のセグメントからなり該複数のセグメントのそれぞれのセグメントの誘電率と透磁率とが異なるブロックポリマーに、互いに直交する電場と磁場とを印加する工程と、
電場又は磁場のいずれか一方を印加する工程と、
を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項4】
前記構造体は、シリンダー構造を有することを特徴とする請求項3に記載の構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−269867(P2007−269867A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94234(P2006−94234)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】