説明

構造体及びその製造方法

【課題】従来よりも高い透明材料と空洞との屈折率差を得ることができる構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上であるガラスの内部に空洞形成手段により形成された空洞を有し、該透明材料のd線における屈折率がn≧1.3である構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス幅が10ピコ(10×10−12)秒以下の超短パルスレーザー光を透明材料、特にガラス材料に集光照射することにより形成された空洞を内部に有する構造体及びその製造方法に関し、特に、画像撮像装置や、画像表示装置、光情報処理装置、光通信システム装置等で用いられる光学部品としての応用に好適であり、また微細な液体流路としての利用にも好適な構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスやプラスチックなどの透明材料からなる構造体(部品)の表面や内部を高機能化し、更にはそのような部品を組み込むことにより素子を小型化及び軽量化する要求が高まっている。このような要求に対して、材料自体をコンポジット化又はハイブリッド化するなど材料面での技術対応と、機能部位を組み込んだり、構造制御を行ったりする加工面での技術対応との2つの面での取り組みが行われている。
【0003】
具体的に、加工面の技術対応としては、研磨や、研削、ドライエッチング、ウェットエッチングなどの手法により材料表面の加工が行われている。しかしながら、複雑な表面構造とする場合には、工程数が多くなることや、加工部位が表面の二次元的な加工に限られるため、加工の自由度が低い。また、加工後に加工屑と一緒に気体や液体が排出されるため、環境的な観点からそれらを適切に処理することが必要である。一方、透明材質からなる構造体の内部に元の材質と異なった構造部位を形成する方法(技術)としては、熱や圧力、電場、磁場、光電場などの外部場の利用により、相分離(組成変化)や、結晶化を生じさせる方法が検討されてきている。しかしながら、光電場を除いては構造体全体に作用させる場合が多く、構造体内部の任意の場所(部位)に異なる構造を形成する加工には不向きである。
【0004】
これに対して、光電場としてパルス幅が10×10−12秒以下の極めて短いパルスレーザー光を透明材料に集光照射することにより、構造体内部に永続的な屈折率変化域を形成する方法がある。この加工方法は、構造内の任意の場所に三次元的に複雑な形状を形成することができ、構造の積層も容易である。さらには、加工屑などの排出がなく環境負荷も低いことから、注目を集めている。例えば、透明材料の内部に、回折格子や、フォトニック結晶などの光機能性内部構造、或いはマイクロ流路等を形成した種々の構造体が提案されている。(例えば特許文献1〜5や非特許文献1〜8を参照)。
【0005】
この回折格子やフォトニック結晶などの光制御機能を有する構造体は、透明材料と屈折率変化領域との間の屈折率差が大きいほど、高機能化が可能なため、そのような透明材料の選定、並びにレーザー照射方法の検討などが行われている。
【0006】
屈折率変化領域としては、高密度化や、空洞、分相、結晶化、価数変化など様々な種類があり、レーザー照射される透明材料と照射条件との組み合わせによっても、屈折率が変化する。透明材料としては、成型性や加工性の良さからプラスチックやガラスなどを用いる場合が多い。しかしながら、プラスチックは、一般的にガラスなどの無機材料よりも屈折率が低く、また、耐熱性や、耐水性、耐薬品性などが劣ることから、光学部品として使用する際に制限が多くなる。
【0007】
このため、超短パルスレーザーにより加工される構造体には、無機ガラスが多く用いられている。また、ガラス内に形成される屈折率変化領域は、高密度化に起因したものが多く、その屈折率の変化量は、0.1〜1%程度である。
【0008】
そこで、下記非特許文献1では、より大きな屈折率差を得るために、化合物半導体を分散させた母ガラスの内部に、超短パルスレーザー光を照射することにより、化合物半導体の微結晶を析出・成長された高屈折率域を有する光導波路やフォトニック結晶構造が提案されている。具体的には、焦点領域においてのみCdSe結晶の微粒子の濃度が高くなり、屈折率が高くなった領域を利用した三次元フォトニック結晶構造(ログパイル構造)が開示されている。しかしながら、この場合、母ガラスにCdやSeなどの環境負荷が高い成分を含有させる必要があるため好ましくない。
【0009】
一方、ガラスの内部に空洞を形成し、この空洞(屈折率が低下した部分)とレーザー未照射部分との屈折率差を利用した光学部品が提案されている。この光学部品のガラス内部に空洞が形成されるメカニズムについては現段階では明らかになっていないが、フェムト秒パルスレーザー光のように、パルス幅が極めて短く、単位時間及び単位空間当たりの電場強度が極めて高いレーザー光を透明材料の内部に集光照射すると、多光子吸収過程やトンネル効果などの非線形光学効果を介して多数のフリーキャリアがその極めて短い時間に生成する。電子が剥ぎ取られて取り残された原子(核)は正に帯電し、その正電荷同士の反発によりクーロン爆発を起こす。そして、その爆発によりその場にあった核が周囲に拡散し、そのまま凍結することによって、上記空洞が形成されるものと考えられている。
【0010】
このような空洞を内部に有する構造体の例として、下記非特許文献2には、シリカガラスの内部に微細空洞管を三角格子状に配列させた二次元のフォトニック結晶構造が、下記非特許文献3には、Geが10%ドープされたシリカガラスの内部に空洞を面心立方格子構造状に積層させた三次元フォトニック結晶構造が、下記特許文献3には、シリカガラス製の光ファイバー中に形成された空洞部を利用する光減衰性導波路材料が、下記非特許文献4には、シリカガラスの内部の空洞を利用する光メモリの読み出しが開示されている。
【0011】
上述したシリカガラスや一Geドープシリカガラス、下記非特許文献8に記載されるCorning0211(亜鉛ボロシリケートガラス)では、上記空洞が形成されるとの知見はあるが、具体的にどのような組成のガラス材料の内部に空洞が形成されるかについては明確となっていない。このため、内部に空洞を有する構造体(部品)では、その屈折率などの光学的性質、或いは熱的、機械的、電気的性質などの他の物性までを選択できる段階には至っておらず、部品設計の自由度も低いのが現状である。また、シリカガラスやGeドープシリカガラスは、非常に高い融点を有しており、このようなガラスを得るためには、非常に高い作業温度が必要となる。このため、エネルギーコストが高くなることや、特殊な製造方法が必要となるなどの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−311277号公報
【特許文献2】特表2003−506731号公報
【特許文献3】特開2004−279957号公報
【特許文献4】特開2003−236928号公報
【特許文献5】特開2004−196585号公報
【特許文献6】特開2003−260581号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】武島延仁、成田善廣、長田崇、田中修平、平尾一之、「フェムト秒レーザーによるガラスの三次元微細加工」、第45回ガラス及びフォトニクス材料討論会(物質・材料研究機構 物質研究所,茨城県筑波市)A−1(講演要旨集pp2−3)
【非特許文献2】H−B.Sun、Y.Xu、S.Matsuo and H.Misawa、Optical Review Vol.6、No.5(1999)396−398
【非特許文献3】H−B.Sun、Y.Xu、K.Sun、S.Juodkazis、M.Watanabe、S.Matsuo、H.Misawa、Opt.lett.、26(2001)p325
【非特許文献4】M.Watanabe、S.Juodkazis、H−B.Sun、S.Matsuo、H.Misawa、「Transmission and photoluminescence image of three−dimensional memory in vitreous silica」、Applied Physics Lett.、Vol.74 No.26(1999)pp3957−3959.
【非特許文献5】V.Mizeikis、K.Yamasaki、S.Juodkazis、S.Matsuo、H.Misawa、「Laser Microfabricated Photonic Crystal Structure in PMMA」、第50回応用物理学関係連合講演会(神奈川大学,神奈川県横浜市)27p−YN−7(講演予稿集第3分冊p1124)
【非特許文献6】山崎和彦、渡邊満、S.Juodkazis、松尾繁樹、三澤弘明、「集光フェムト秒レーザーパルス照射による高分子フィルムの三次元加工」、第49回応用物理学関係連合講演会(東海大学、神奈川県平塚市)28p−YC−9(講演予稿集第3分冊p1119)
【非特許文献7】K.Yamasaki、S.Juodkazis、S.Matsuo、H.Misawa、「Three−dimensional micro−channels in polymers:one−step fabrication」、Applied Physics A、Vol.77、No.3−4、pp.371−373(2003)
【非特許文献8】C.B.Schaffer、A.O.Jamison、and E.Mazur、「Morphology of femtosecond laser−indused structural changes in bulk transparent materials」、Applied Physics Lett.、Vol.84 No.9(2004)pp1441−1443
【非特許文献9】Kazuhiro Yamada、Wataru Watanabe、Yudong Li、Kazuyoshi Itoh、Junji Nishii、「Multilevel approximation of phase−type diffractive lens in silica glass induced by filamentation of femtosecond laser pulses」Opt. Lett.、Vol.29、No.16、1846−1848(2004)
【非特許文献10】S.Matsuo、H.Misawa、「Direct Measurement of laser power through a high numerical aperture oil immersion objective lens using a solid immersion lens」、Review of Scientific Instrument、Vol.73、No.5(2002)pp2011−2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、外部場を用いた空洞形成手段、特にパルス幅10×10−12秒以下のパルスレーザーにより形成された空洞を透明材料の内部に有する構造体に関しては、屈折率が既知である一部のガラス又はプラスチックなどの透明材料を用いたものに限られている。このため、従来の構造体では、特に光学用途に用いる場合に、その屈折率並びに屈折率差の選択の幅が狭く、光学部品単体での設計自由度、或いはそれらの組み合わせたものの設計自由度が低いことが問題となっていた。
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、パルス幅10×10−12秒以下の超短パルスレーザーを透明材料に集光照射することにより形成された空洞を内部に有する構造体において、従来よりも高い透明材料と空洞との屈折率差を得ることができる構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明は、SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上であるガラスの内部に空洞形成手段により形成された空洞を有し、該ガラスのd線における屈折率がn≧1.3である構造体とした。
本発明において、パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射することにより形成された空洞を内部に有することが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、前記パルスレーザーの照射位置において300nJ/pulse以下の加工エネルギーによって空洞が形成されることが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、mol%換算で、Bを10%以上含有し、該Bの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きいことが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Pを40%未満との何れか一方又は両方を含有することが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、mol%換算で、Pを10%以上含有し、該Pの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きいことが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Bを40%未満との何れか一方又は両方を含有することが好ましい。
【0016】
本発明は、SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で0%を超え40%未満であるガラスの内部に空洞形成手段により形成された空洞を有し、該ガラスのd線における屈折率がn≧1.3である構造体とした。
本発明において、パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射することにより形成された空洞を内部に有することが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、前記パルスレーザーの照射位置において300nJ/pulse以下の加工エネルギーによって空洞が形成されることが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、Sc、TiO、V、Y、ZrO、Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明において、前記ガラスに含有される成分のうち、酸化物成分の酸素の一部がフッ素に置換されていることが好ましい。
本発明において、前記ガラスは、前記パルスレーザー光の波長に対して、厚さ1mmで10%以上の透過率を有することが好ましい。
本発明において、前記パルスレーザー光は、焦点位置でのパワー密度が1×10W/cm以上であることが好ましい。
本発明において、前記空洞は、前記パルスレーザー光の入射方向に垂直な方向の最大長さが2μm以下であることが好ましい。
本発明において、前記空洞は、直線又は曲線の形状を有することが好ましい。
本発明において、前記空洞は、二次元又は三次元的な位置関係で周期的に複数配置されていることが好ましい。
本発明の製造方法は、パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射し、該ガラスの内部に空洞を形成することを特徴とする。
本発明の製造方法において、前記パルスレーザー光を前記ガラスの内部に集光させ、該焦点位置でのパワー密度を1×10W/cm以上とすることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記ガラスに複数のパルスレーザー光を照射することによって、該ガラスの内部に複数の空洞を一括して形成することが好ましい。
本発明の製造方法において前記空洞を二次元又は三次元的な位置関係で周期的に複数配置することが好ましい。
本発明のレンズは、先のいずれかに記載の構造体を用いたことを特徴とする。
本発明のプリズムは、先のいずれかに記載の構造体を用いたことを特徴とする。
本発明の回折格子は、先のいずれかに記載の構造体を用いたことを特徴とする。
本発明の光フィルタは、先のいずれかに記載の構造体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る構造体では、外部場を用いた空洞形成手段、特にパルス幅が10×10−12秒以下の超短パルスレーザーの集光照射によって形成された空洞を内部に有し、この空洞と、透明材料のレーザー未照射部分との屈折率差を利用するため、透明材料の屈折率を大きくすればより大きな屈折率差を得ることができる。したがって、この構造体を光学部品として用いる場合には、従来よりも大きな屈折率差を得ることによって、よりコンパクトで且つ高機能な光学部品を提供することが可能となる。
また、本発明によれば、要求される光学特性(屈折率や分散)を適宜選択することが可能となり、部品設計段階の自由度が高い光学部品を製造することが可能となる。
さらに、本発明によれば、従来よりも屈折率差を大きくできることで内部構造を小さくすることが可能なことから、レーザー光の照射時間を短縮することによりスループットの向上が可能となり、また、従来よりも低温でのガラスの製造が可能であり、製造コストの低減も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、空洞の三次元的な形状をXY面、YZ面、ZX面に投影した投影像として示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の構造体を回折格子として用いた場合を説明するための模式図である。
【図3】図3は、本発明の構造体を光学フィルタとして用いた場合を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明の構造体をプリズムとして用いた場合を説明するための模式図である。
【図5】図5は、パルスレーザー光発生装置の構成を示す模式図である。
【図6】図6は、パルスレーザー光の照射方法を説明するための模式図である。
【図7】図7は、1つのパルスレーザー光により1つの連続した空洞を形成する方法を説明するための模式図である。
【図8】図8は、複数のパルスレーザー光により複数の空洞を一括して形成する方法を説明するための模式図である。
【図9】図9は、複数のパルスレーザー光により1つの空洞を形成する方法を説明するための模式図である。
【図10】図10は、直線状の空洞を示す模式図である。
【図11】図11は、多角形状の空洞を示す模式図である。
【図12】図12は、曲線状の空洞を示す模式図である。
【図13】図13は、螺旋状の空洞を示す模式図である。
【図14】図14は、数珠状の空洞を示す模式図である。
【図15】図15は、空洞を三次元的に立方格子状に配列した一例を示す模式図である。
【図16】図16は、直線状の空洞の三次元的配列した一例を示す模式図である。
【図17】図17は、直線状の空洞の三次元的配列した一例を示す模式図である。
【図18】図18は、直線状の空洞の三次元的配列した一例を示す模式図である。
【図19】図19は、空洞の周期配列の一部に導入された周期変調の一例を示す模式図である。
【図20】図20は、空洞の周期配列の一部に導入された周期変調の一例を示す模式図である。
【図21】図21は、空洞の周期配列の一部に導入された周期変調の一例を示す模式図である。
【図22】図22は、直線状の空洞に光が導波する導波路の一例を示す模式図である。
【図23】図23は、本発明の構造体をレンズに用いた一例を示す模式図である。
【図24】図24は、外部に繋がった空洞を有する構造体の一例を示す模式図である。
【図25】図25は、空洞と高密度化領域とを有する構造体の一例を示す模式図である。
【図26】図26は、空洞を二次元的に配列した構造体の一例を示す模式図である。
【図27】図27は、比較例1のシリカガラスを用いた構造体に形成された空洞を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図28】図28は、実施例4のガラスを用いた構造体に形成された空洞を示す光学顕微鏡写真である。
【図29】図29は、実施例12のガラスを用いた構造体に形成された空洞を示す光学顕微鏡写真である。
【図30】図30は、実施例12のガラスを用いた構造体に入射したHe−Neレーザー光の回折光による投影像を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の各実施例に限定されるものではなく、例えばこれら実施例の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
以下、本発明を適用した構造体及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明において、透明材料の内部に形成された空洞とは、透明材料の製造時に生ずる気泡、例えば、高温融液が固化又はガラス化又は結晶化する際に混入する気泡、粉体を焼結して緻密化させる際に粒界に残留する気泡、多孔体に存在する連結した孔などを除外し、透明材料の製造後に外部場を用いて二次的に形成される空洞のことを言う。該外部場としては、例えば熱や、電場、磁場、光電場などがある。
【0021】
前記透明材料は、d線(波長587.56nm)における屈折率が、好ましくはn≧1.3であり、より好ましくはn≧1.53、最も好ましくはn≧1.55である。また、屈折率の上限は、透明材料が単結晶であればn≦3.3まで得ることができ、透明材料がガラスであればn≦2.5まで得ることができる。
【0022】
したがって、本発明では、空洞を内部に有する構造体において、従来よりも屈折率差の大きい構造体を提供することができ、これにより、光学部品としての用途を広げることができる。例えばカメラなどのように、複数のレンズやプリズムから構成される光学系を有する装置に使用する場合、本発明の屈折率又は分散の異なる構造体を上記屈折率範囲から適宜組み合わせて使用することが可能となる。
【0023】
前記透明材料としては、有機又は無機の固体、ガラス、ガラスセラミックス、単結晶、焼結体の何れかを使用することができる。また、有機と無機とのコンポジット材料やハイブリッド材料を使用することもできる。
【0024】
本発明は、前記空洞形成手段として、パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光を前記透明材料に集光照射することが好ましい。これにより、材料の変形や破壊を伴うことなく材料内部の所望の位置に三次元的に微細な空洞を形成することができ、加工自由度も非常に高くなる。なお、このパルスレーザーの詳細な条件及び照射方法については後述する。
【0025】
前記透明材料は、SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上であることが好ましい。具体的に、前記透明材料は、成型性や、熱的安定性、耐水性、耐薬品性、量産性等に優れた上記群から選ばれるガラスを用いることが好ましい。この場合、群から選ばれる成分の合計は、mol%換算で、40〜100%であることが好ましく、50%〜95%であることがより好ましく、55%以上から90%以下であることが最も好ましい。上記範囲であれば、ガラスは安定であり、また他の成分を含有させて屈折率を容易に調節することができる。
【0026】
また、本発明者らは、鋭意検討の結果、前記ガラスにパルスレーザー光を照射することにより内部に空洞が形成され易いことを見出した。このガラスの内部に空洞が形成され易い理由としては、現段階では明確にはなっていないが、上述したように、空洞は、クーロン爆発による原子(核)の拡散によって形成されるため、周囲に構造的な空隙が多いほど核が周囲に拡散し易いためと考えられる。すなわち、上記ガラスの各成分の組み合わせや他の成分との組み合わせにより網目構造は複雑に変化するが、アルカリ酸化物やアルカリ土類酸化物などのいわゆる修飾酸化物成分が、ガラス網目構造を切断し、その切断された構造の隙間に入り込むようにしてガラス中に存在するため、このガラス網目形成酸化物の合計量を上記範囲とすることで、構造的な空隙が多くなり、空洞形成が容易になると考えられる。
【0027】
なお、前記組成範囲のうち、n<1.53、SiOを70%以上含有するガラスは除くものとする。本発明に用いられるガラスは、1550℃以下の温度で坩堝を用いて電気炉又は火炎溶解炉中で比較的容易に製造可能なガラスであることが好ましく、より好ましくは1500℃、最も好ましくは1450℃である。一般的にSiOが70%以上であると、出発原料の溶解性が悪く、またガラスの均質性や泡切れを良くするため、溶解作業温度が1550℃よりも高くなるからである。
【0028】
本発明の構造体には、mol%換算で、SiOを10%以上含有し、該SiOの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きいガラスを用いることが好ましい。この場合、屈折率の上限がn≦1.8であるガラスが得られ、空洞形成も容易となる。SiOは、その含有量が多いほどガラスの熱的特性や耐水性が向上することから、その下限を10%以上とする。より好ましくは15%以上であり、最も好ましくは20%以上である。一方、SiOの含有量が多すぎると、ガラス製造時の溶解温度が向上するので、その上限を100%未満とする。より好ましくは80%以下であり、最も好ましくは70%以下である。
【0029】
また、このガラスには、mol%換算で、Bを40%未満と、Pを40%未満との何れか一方又は両方を含有させることもできる。これらB及び/又はPを含有させた場合、ガラス製造時の溶解温度を下げることから、その含有量の下限を0を超えるものとする。より好ましくは5%以上であり、最も好ましくは10%以上である。一方、B及び/又はPを多量に含有させると、相分離する傾向が強くなり、レーザー照射時又は構造体の使用時に光を散乱させる原因となるため、その上限を40%未満とする。より好ましくは35%以下であり、最も好ましくは30%以下である。また、mol比で、B/SiO<0.2であることが好ましい。この場合、相分離の傾向が小さいガラスを得ることができる。
【0030】
また、このガラスには、アルカリ酸化物RO(Rは、Li,Na,K,Rb,Csのうち何れか1つを表す。)及び/又はアルカリ土類酸化物R’O(R’は、Mg,Ca,Sr,Baのうち何れか1つを表す。)を含有させてもよい。この場合、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の合計量は、mol%換算で、30%未満であることが好ましく、より好ましくは20%未満であり、最も好ましくは17%未満である。また、アルカリ酸化物の個々の含有量は20%未満が好ましく、アルカリ土類酸化物の個々の含有量は30%未満が好ましい。これにより、溶解温度の低下と屈折率及び分散の調整とが可能となる。特に、LiOを含有させる場合には、LiOの含有量は、10%未満であることが好ましく、より好ましくは8%未満であり、最も好ましくは6%未満である。
【0031】
また、このガラスには、Al及び/又はZnOを含有させてもよく、この場合、AlとZnOとの合計量は、mol%換算で、6%未満であることが好ましい。これにより、溶解温度の低下とガラスの安定化が可能となり、空洞形成もし易くなる。
【0032】
また、このガラスには、ZrO,TiO,Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上を含有させてもよい。なお、該群から選ばれる成分を多量に含有させると溶解性が低下することから、アルカリ酸化物及び/又はアルカリ土類酸化物と共に含有させることが好ましい。この場合、該群から選ばれる成分とアルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物との合計量は、mol%換算で、30%未満であることが好ましく、より好ましくは25%未満である。また、該群から選ばれる成分の個々の含有量は15%未満が好ましく、より好ましくは10%未満であり、最も好ましくは5%未満である。これにより、屈折率の高いガラスを得ることができ、ガラスの化学的耐久性を向上させることができる。
【0033】
本発明の構造体には、mol%換算で、SiOとGeOとを合計で10%以上含有し、該SiOとGeOとの合計の割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きく、mol比で、GeO/SiO>0.1であるガラスを用いることが好ましい。この場合、屈折率の上限がn≦1.9であるガラスが得られ、空洞形成も容易となる。SiO及びGeOは、その合計量が多いほどガラスの熱的特性や耐水性が向上することから、その下限を10%以上とする。より好ましくは15%以上であり、最も好ましくは20%以上である。一方、その上限を100%未満とする。より好ましくは90%以下であり、最も好ましくは85%以下である。GeO/SiOのmol比は、その値が高いほどガラス製造時の溶解温度を低くすることができ、また屈折率を高くすることができるので、その下限を0.1を越えるものとする。より好ましくは0.2以上であり、最も好ましくは0.3以上である。
【0034】
さらに、このガラスには、mol%換算で、Bを40%未満と、Pを40%未満との何れか一方又は両方を含有させることもできる。これらB及び/又はPを含有させた場合、ガラス製造時の溶解温度を下げることから、その含有量の下限を0を超えるものとする。より好ましくは5%以上であり、最も好ましくは10%以上である。一方、B及び/又はPを多量に含有させると、相分離する傾向が強くなり、レーザー照射時又は構造体の使用時に光を散乱させる原因となるため、その上限を40%未満とする。より好ましくは35%以下であり、最も好ましくは30%以下である。また、mol比で、B/(SiO+GeO)<0.3であることが好ましく、より好ましくは<0.2である。この場合、相分離の傾向が小さいガラスを得ることができる。
【0035】
また、このガラスには、アルカリ酸化物RO(Rは、Li,Na,K,Rb,Csのうち何れか1つを表す。)及び/又はアルカリ土類酸化物R’O(R’は、Mg,Ca,Sr,Baのうち何れか1つを表す。)を含有させてもよい。この場合、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の合計量は、mol%換算で、30%未満であることが好ましく、より好ましくは20%未満であり、最も好ましくは17%未満である。また、アルカリ酸化物の個々の含有量は20%未満が好ましく、アルカリ土類酸化物の個々の含有量は30%未満が好ましい。これにより、溶解温度の低下と屈折率及び分散の調整とが可能となる。特に、LiOを含有させる場合には、LiOの含有量は、10%未満であることが好ましく、より好ましくは8%未満であり、最も好ましくは6%未満である。
【0036】
また、このガラスには、Al及び/又はZnOを含有させてもよく、この場合、AlとZnOとの合計量は、mol%換算で、6%未満であることが好ましい。これにより、溶解温度の低下とガラスの安定化が可能となり、空洞形成もし易くなる。
【0037】
また、このガラスには、ZrO,TiO,Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上を含有させてもよい。なお、該群から選ばれる成分を多量に含有させると溶解性が低下することから、アルカリ酸化物及び/又はアルカリ土類酸化物と共に含有させることが好ましい。この場合、該群から選ばれる成分とアルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物との合計量は、mol%換算で、30%未満であることが好ましく、より好ましくは25%未満である。また、該群から選ばれる成分の個々の含有量は15%未満が好ましく、より好ましくは10%未満であり、最も好ましくは5%未満である。これにより、屈折率の高いガラスを得ることができ、ガラスの化学的耐久性を向上させることができる。
【0038】
本発明の構造体には、mol%換算で、Bを10%以上含有し、該Bの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きいガラスを用いることが好ましい。この場合、屈折率の上限がn≦2.0であるガラスが得られ、空洞形成も容易となる。また、他の酸化物成分を含有させて屈折率の調節を容易に行うことができる。Bは、その含有量が多いほどガラス製造時の温度が低下し、熱的特性も安定することから、その下限を10%以上とする。より好ましくは15%以上であり、最も好ましくは20%以上である。一方、Bを過度に含有させると、ガラスの耐水性が低下するため、その上限を90%以下とする。より好ましくは80%以下であり、最も好ましくは70%以下である。
【0039】
さらに、このガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Pを40%未満との何れか一方又は両方を含有させることもできる。このうち、SiOは、少量であればガラスの耐水性の向上に効果的であるので、その下限を0を超えるものとする。より好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SiOを多量に含有させると、溶け残りや失透の原因となるため、その上限を40%未満とする。より好ましくは30%以下であり、最も好ましくは20%以下である。一方、Pは、ガラス製造時の溶解温度を下げると共に、耐水性を向上させることから、その含有量の下限を0を超えるものとする。より好ましくは3%以上であり、最も好ましくは5%以上である。一方、Pを多量に含有させると、相分離する傾向が強くなるため、その上限を40%未満とする。より好ましくは30%以下であり、最も好ましくは20%以下である。また、mol比で、SiO/B<0.6であることが好ましく、より好ましくは<0.5であり、最も好ましくは<0.4である。この場合、原料の溶け残りが少ないガラスを得ることができ、化学的耐久性を向上させることができる。
【0040】
また、このガラスには、アルカリ酸化物RO(Rは、Li,Na,K,Rb,Csのうち何れか1つを表す。)及び/又はアルカリ土類酸化物R’O(R’は、Mg,Ca,Sr,Baのうち何れか1つを表す。)を含有させてもよい。この場合、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の合計量は、mol%換算で、50%未満であることが好ましく、より好ましくは40%未満であり、最も好ましくは35%未満である。また、アルカリ酸化物の個々の含有量は20%未満が好ましく、より好ましくは15%未満であり、最も好ましくは10%未満である。一方、アルカリ土類酸化物の個々の含有量は50%未満が好ましく、より好ましくは45%未満であり、最も好ましくは40%未満である。これにより、溶解温度の低下と屈折率及び分散の調整とが可能となる。また、ガラスの化学的耐久性の向上が可能となる。
【0041】
また、このガラスには、Al及び/又はZnOを含有させてもよく、この場合、AlとZnOとの合計量は、mol%換算で、15%未満であることが好ましく、より好ましくは10%未満であり、最も好ましくは6%未満である。これにより、溶解温度の低下とガラスの安定化が可能となり、空洞形成もし易くなる。
【0042】
また、このガラスには、ZrO,TiO,Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上を含有させてもよい。なお、該群から選ばれる成分を多量に含有させると溶解性が低下することから、アルカリ酸化物及び/又はアルカリ土類酸化物と共に含有させることが好ましい。この場合、該群から選ばれる成分とアルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物との合計量は、mol%換算で、60%未満であることが好ましく、より好ましくは50%未満であり、最も好ましくは40未満である。また、該群から選ばれる成分の個々の含有量は30%未満が好ましく、より好ましくは25%未満であり、最も好ましくは20%未満である。これにより、屈折率の高いガラスを得ることができ、ガラスの化学的耐久性を向上させることができる。
【0043】
本発明の構造体には、mol%換算で、Pを10%以上含有し、該Pの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きいガラスを用いることが好ましい。この場合、屈折率の上限がn≦2.0であるガラスが得られ、空洞形成も容易となる。また、他の酸化物成分を含有させて屈折率の調節を容易に行うことができる。Pは、その含有量が多いほどガラス製造時の温度が低下することから、その下限を10%以上とする。より好ましくは15%以上であり、最も好ましくは20%以上である。一方、Bを過度に含有させると、ガラスの耐水性が低下するため、その上限を95%以下とする。より好ましくは90%以下であり、最も好ましくは80%以下である。
【0044】
さらに、このガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Bを40%未満との何れか一方又は両方を含有させることもできる。このうち、SiOは、少量であればガラスの耐水性の向上に効果的であるので、その下限を0を超えるものとする。より好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SiOを多量に含有させると、溶け残りや失透の原因となるため、その上限を40%未満とする。より好ましくは35%以下であり、最も好ましくは30%以下である。一方、Bは、ガラス製造時の溶解温度を下げると共に、耐水性を向上させることから、その含有量の下限を0を超えるものとする。より好ましくは3%以上であり、最も好ましくは5%以上である。一方、Bを多量に含有させると、相分離する傾向が強くなるため、その上限を40%未満とする。より好ましくはから35%以下であり、最も好ましくは30%以下である。また、mol比で、SiO/P<0.9であることが好ましく、より好ましくは<0.8であり、最も好ましくは<0.7である。この場合、原料の溶け残りが少ないガラスを得ることができ、化学的耐久性を向上させることができる。
【0045】
また、このガラスには、アルカリ酸化物RO(Rは、Li,Na,K,Rb,Csのうち何れか1つを表す。)及び/又はアルカリ土類酸化物R’O(R’は、Mg,Ca,Sr,Baのうち何れか1つを表す。)を含有させてもよい。この場合、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の合計量は、mol%換算で、55%未満であることが好ましく、より好ましくは51%未満である。また、アルカリ酸化物の個々の含有量は30%未満が好ましく、より好ましくは25%未満である。一方、アルカリ土類酸化物の個々の含有量は50%未満が好ましく、より好ましくは45%未満であり、最も好ましくは40%未満である。これにより、溶解温度の低下と屈折率及び分散の調整とが可能となる。また、ガラスの化学的耐久性の向上が可能となる。
【0046】
また、このガラスには、Al及び/又はZnOを含有させてもよく、この場合、AlとZnOとの合計量は、mol%換算で、40%未満であることが好ましく、より好ましくは35%未満である。これにより、溶解温度の低下とガラスの安定化が可能となり、空洞形成もし易くなる。
【0047】
また、このガラスには、ZrO,TiO,Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上を含有させてもよい。なお、該群から選ばれる成分を多量に含有させると溶解性が低下することから、アルカリ酸化物及び/又はアルカリ土類酸化物と共に含有させることが好ましい。この場合、該群から選ばれる成分とアルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物との合計量は、mol%換算で、60%未満であることが好ましく、より好ましくは50%未満であり、最も好ましくは45%未満である。また、該群から選ばれる成分の個々の含有量は40%未満が好ましく、より好ましくは30%未満であり、最も好ましくは20%未満である。これにより、屈折率の高いガラスを得ることができ、ガラスの化学的耐久性を向上させることができる。
【0048】
本発明の構造体には、SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で0%を超え40%未満であるガラスを用いることが好ましい。より好ましくは5%以上30%以下、最も好ましくは10%以上30%以下である。前記ガラスの各成分のうち、特にB及びPは、修飾酸化物成分が多い領域においてもガラスを形成しやすいため、B及び/又はPの合計割合が前記SiO、GeO、B、Pの個々の割合よりも大きいことがより好ましい。
【0049】
さらに、このガラスは、Sc、TiO、V、Y、ZrO、Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上の酸化物成分を含有し、該群から選ばれる酸化物成分の合計がmol%換算で40%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上であり、最も好ましくは50%以上である。この場合、これら酸化物成分を添加することによって、ガラスの比重を低く維持したまま(例えば、好ましくは5.5以下であり、より好ましくは5以下であり、最も好ましくは4.5以下である。)、屈折率が1.6〜2.2であるガラスを得ることができ、空洞形成も容易となる。一方、これら酸化物成分の合計量が多くなり過ぎると、ガラスが得られにくくなるため、その上限を90%以下とする。より好ましくは80%以下であり、最も好ましくは70%以下である。
【0050】
また、これら酸化物成分のうち、TiO又はNbは、B及び/又はPと共に比較的多量に含有させることができ、個々の含有量は、mol%換算で、0%を超えることが好ましく、より好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上である。一方、含有量が多くなり過ぎると、ガラス製造段階で失透し易くなるため、その上限を90%以下とする。より好ましくは80%以下であり、最も好ましくは70%以下である。
【0051】
さらに、このガラスには、アルカリ酸化物RO(Rは、Li,Na,K,Rb,Csのうち何れか1つを表す。)のうち少なくとも1つ以上を15%以下の範囲で含有させることもでき、これらアルカリ酸化物の合計は、mol%換算で、40%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。同様に、アルカリ土類酸化物R’O(R’は、Mg,Ca,Sr,Baのうち何れか1つを表す。)のうち少なくとも1つ以上を60%以下の範囲で含有させることもでき、これらアルカリ土類酸化物の合計は、60%以下であることが好ましく、より好ましくは55%以下、最も好ましくは50%以下である。
【0052】
本発明の構造体において、前記透明材料は、上述した酸化物ガラスに限定されるものではなく、その酸化物成分の一部の酸素(O)がフッ素(F)に置換された酸フッ化物ガラスや、その他にもOがClやBrに置換されたガラスや、原料にフッ化物塩を用いて製造されるガラスであってもよい。これにより、酸化物ガラスと比較して屈折率や分散を小さくすることもできる。また、置換量は、ガラスの組成系によっても大きく変わるので、特に限定されるものではないが、置換量が多くなり過ぎると、ガラス製造時にガラスに相分離や失透が発生し易くなる。
【0053】
本発明の構造体において、前記透明材料は、Sbを熱安定剤又は清澄剤として含有させることができる。また、Ag、Cu+/2+、Au、Eu2+、Ce3+、光酸化性及び還元性元素を含有させることもでき、それらを最大径で50nm以下の金属微粒子として含有させることもできる。
【0054】
なお、本発明の構造体において、前記透明材料を構成する成分のうち、Be、Pb、Th、Cd、Tl、As、Os、S、Se、Te、Bi、F、Br、Cl、I等の各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程及び製品の廃棄処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。このため、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含まない構成とすることもできる。
【0055】
なお、本発明の構造体は、空洞形成に至らない程度の低いパワーのパルスレーザー光を前記透明材料に照射することにより形成された屈折率変化領域を内部に有するものであってもよい。この場合、屈折率変化領域と透明材料との屈折率差は、波長0.1〜2μmの任意の波長における屈折率で0.0001以上の差があることが好ましく、より好ましくは0.001以上であり、最も好ましくは0.01以上である。また、この屈折率変化領域は、レーザー光の照射によって生じる光誘起による変化を広く含むものであり、例えば光の高い電磁場による分子構造の変化や、レーザー光の集光による熱変化、光化学反応、酸化還元反応、非線形効果などの種々の光効果による結晶生成や、結晶成長、緻密化、疎密化、相分離などを含み、それらに起因する永続的な屈折率変化を伴う領域である。
【0056】
本発明の構造体において、透明材料は緻密体であり、光の散乱の原因となる異質相は極力含まないことが好ましい。異質相としては、例えば材料製造段階で混入する光の波長程度よりも大きな気泡、相分離、脈理、異物、失透などがある。一方、前記透明材料は、照射するパルスレーザー光や使用時の光の波長に比べて十分に小さな孔を有していてもよく、例えば可視光領域全域で透明である多孔体(例えば100nm以下、より好ましくは50nm程度以下の孔を有する。)であってもよい。
【0057】
本発明の構造体の形状は、バルク状や、膜状、平行平板状、曲面や角部を有する形状、ファイバー状等である。また、パルスレーザー光を照射する際に、前記透明材料の表面は、照射するパルスレーザー光が散乱されない程度に十分平滑であることが好ましい。具体的に、透明材料の表面は、その平均粗さ(Ra)が25nm以下であることが好ましく、より好ましくは15nm以下であり、最も好ましくは5nm以下である。なお、パルスレーザー光の照射後に、別途構造体に対する表面加工・処理を行ってもよい。
【0058】
本発明の構造体は、均質な1つの相からなることが好ましいが、コアとクラッドの二層構造を有する光ファイバーや、GRINレンズのような連続的又は段階的に屈折率が変化する構造であってもよい。また、前記透明材料は、同一又は異なる透明材料でコーティングされていてもよく、また、異なる透明材料と光学接合されていてもよい。
【0059】
本発明の構造体において、前記透明材料は、可視光領域の一部又は全領域に亘って光透過性を有することが好ましく、これにより、内部に形成された空洞を光学顕微鏡などで視認することが可能である。また、照射するパルスレーザー光の波長において光透過性を有することが好ましく、これにより、集光焦点においてのみ多光子吸収が起こり、微細な加工が可能となる。具体的に、前記透明材料は、例えば厚さ1mmでパルスレーザー光の波長の透過率が10%以上であり、また、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、最も好ましくは90%以上である。なお、ここで言う透過率とは、内部透過率のことであり、反射による損失が除かれた透過率のことである。
【0060】
本発明の構造体において、前記透明材料は、軽量化の観点から、比重が軽いほど好ましく、比重を5以下とする。より好ましくは4.5以下であり、最も好ましくは4以下である。
【0061】
本発明の構造体において、前記透明材料の内部に形成される空洞は、この空洞を形成するに至らしめた単一のパルスレーザー光(1つのパルス)の入射方向に垂直な方向の最大長さが、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下であり、最も好ましくは800nm以下である。また、空洞は、1つの集光焦点に形成された1つの連続した空洞であり、厳密にはその周囲が高密度化した領域に囲まれている。
【0062】
空洞は、本発明の構造体を特に光学用途に使用する場合や、後にエッチング処理を行う場合に、その形状を略球状とすることが好ましい。この略球状とは、図1に示すように、前記1つの集光焦点に形成された1つの連続した空洞を言う。ここで、略球状の最大径と最短径は、図1中に示すXY面、YZ面、ZX面に投影したときの投影像の各方向の距離dy、dz、dxから求めることができる。例えば図1に示す形状の場合、最長径はdzであり、最短径はdxである。本発明の構造体において、空洞の最長径と最短径とのアスペクト比(最長径/最短径)は、10以下であることが好ましく、より好ましくは5以下であり、最も好ましくは3以下である。
【0063】
本発明の構造体において、前記透明材料の内部に形成された空洞は、上述した1つの集光焦点に形成された1つの空洞以外にも、これら空洞を複数連結させて、全体として直線状や、多角形状、曲線状、螺旋状、数珠状などの連続した形状とすることもできる。
【0064】
具体的に、この空洞は、二次元又は三次元的な位置関係で周期的に複数配置(配列)されていることが好ましい。また、周期的に配列された空洞の間隔は、前記透明材料を透過する波長を制御する観点から5μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1μm以下である。また、周期の一部に周期変調や欠落が導入されていてもよい。一方、光を散乱・拡散させる場合には、これら空洞が周期的に配列されていない方が好ましい場合もある。
【0065】
本発明の構造体は、図2に示すような入射光を複数の回折光に分離する回折格子10として用いることができる。この回折格子10は、平行平板状の透明材料11の内部に直線状の空洞12が一定間隔で二次元的に複数並んで配列された構造を有している。これにより、ブラッグ回折格子や位相型回折格子などの機能を持たせることができる。このうち、ブラッグ回折格子は、フォトニック結晶として特定の波長を選択的に透過及び/又は反射させるフィルタとして機能させることもできる。また、フォトニック結晶の周期配列の一部に周期変調や空洞の欠落を設けることにより、光導波路や、光共振器、光遅延器として機能させることもできる。一方、前記位相型回折格子は、フレネルレンズとして機能させることもできる。例えば、コンピューターでキノフォームを計算し、空洞を連結させてなる円形の空洞、或いは上記非特許文献9のように、単一の空洞を同心円状に周期的に複数配列することで作製される。
【0066】
本発明の構造体は、図3(a)に示すような光学フィルタ20として用いることができる。この光学フィルタ20は、透明材料21の内部に形成された空洞22により、例えば色フィルタや、位相フィルタ、偏光フィルタ 光減衰フィルタ、光散乱フィルタ、光拡散フィルタなどの機能を持たせることができる。例えば色フィルタの場合、透明材料21自身が一部の波長の光を吸収し、内部の空洞22が回折格子として機能する。この場合、図3中(b)に示すようなスペクトル強度を有する入射光が、図3中(c)に示すような透過率曲線を有する光学フィルタ20に入射すると、入射光は、空洞22からなる回折格子によって回折されて、図3中(d)に示すようなスペクトル強度を有する出射光(回折光)が出射されることになる。
【0067】
本発明の構造体は、図4に示すようなプリズム30として用いることができる。このプリズム30は、略三角柱状の透明材料31の内部に形成された空洞32により、任意の波長λの光を透過し、この波長λとは異なる波長λの光を反射する。このような機能を持たせたプリズム30は、制御する光の波長λと同程度から2倍程度の周期間隔で空洞32が三次元的に周期的に配列さてなるブラッグ回折格子やフォトニック結晶を作製すればよい。また、本発明の構造体をレンズとして用いることもできる。
【0068】
以上のように、本発明の構造体は、透明材料の内部に形成された空洞に光学部品としての機能を持たせることができるが、透明材料自体の形状や物性に由来する機能と複合された光学部品としても用いることができる。例えば、透明材料自体がレンズ場合、このレンズの内部に空洞を形成することにより回折格子の機能を併せ持ったレンズとすることができる。また、レンズの形状を設計変更することなく、空洞により収差を調節することもできる。したがって、複数の異なる機能を有する光学部品が必要となる光学系においては、部品点数を減らすことができ、装置全体をコンパクト化し、製造コストを低減することもできる。
【0069】
本発明の構造体を製造する際に用いられるパルスレーザー光発生装置を図5に模式的に示す。このパルスレーザー光発生装置1は、励起光発生部2と、パルス光発生部3と、光増幅部4とを備えて構成されている。なお、光増幅部4については、必要に応じて使用することができる。この装置1から出力されるフェムト秒オーダー(10−12〜10−15)のパルスレーザー光Lは、波長を例えば100〜2000nmの範囲で可変することができる。したがって、パルスレーザー光の波長は、前記透明材料を透過する波長、例えば800nmを中心波長に設定することが好ましい。そして、このパルスレーザー光Lは、ミラー(図示せず。)で反射されるなどして、図6に示す照射光学系に導入されて、集光部材(レンズや集光ミラー)5により集光されて、ステージ6上に設置された透明材料Tに照射される。このステージ6は、電気制御によりXYZ方向に走査可能である。
【0070】
ここで、パルスレーザー光は、パルスエネルギーが時間的・空間的に極めて短い領域に圧縮されたパルスレーザーであることが好ましい。すなわち、集光点でのパルス幅が10ピコ(10×10−12)秒以下となる超短パルスレーザー光であることが好ましい。特に、透明材料がガラスの場合には、パルス幅の上限は、500フェムト秒以下であることが好ましく、より好ましくは300フェムト秒以下であり、最も好ましくは200フェムト秒以下である。本発明において、前記透明材料の内部に形成される空洞は、パルスレーザー光のエネルギーが熱に変換されることに起因するクラック発生とは区別されるものである。したがって、この範囲であれば、前記熱影響によるクラックの発生を抑えることができる。一方、パルス幅の下限は、15フェムト秒以上であることが好ましく、より好ましくは20フェムト秒であり、最も好ましくは30フェムト秒以上である。パルス幅がこれ以下になると、パルスの分散(スペクトルの広がり)の影響が大きくなる。
【0071】
なお、上記パルス幅のパルスレーザーを用いても透明材料の機械的強度(例えば、弾性率や硬度)に依存して小さなクラックが入る場合がある。したがって、1つの空洞の周辺に発生するクラックの最大長さは、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下であり、最も好ましくは3μm以下である。クラックのサイズがこの範囲を越えると、上記空洞を周期的に配列した周期構造全体に亘ってクラックが入ってしまい、良好な構造体を得るのが困難となる。
【0072】
本発明の構造体を製造する際に用いるパルスレーザー光の繰り返し周波数(1秒間あたりのレーザービームのパルス回数)は、特に限定されるものではないが、高い繰り返し周波数(例えば、80MHz以下が好ましい。)にして焦点の移動速度を早くすることで加工スループットを向上させることができる。
【0073】
本発明の構造体を製造する際に用いるパルスレーザー光の波長は、前記透明材料の透過率に応じて適宜選択すればよいが、波長が短いほど集光スポットの回折限界を小さくすることが可能であり、微細な加工が可能となる。したがって、パルスレーザー光の中心波長は、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μmであり、最も好ましくは800nm以下である。
【0074】
パルスレーザー光の焦点位置でのパワー密度は、1×10W/cm以上であることが好ましく、より好ましくは1×10W/cm以上であり、最も好ましくは1×1010W/cm以上である。また、前記透明材料がガラスの場合、内部に空洞を形成する際のスポット径は、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下であり、最も好ましくは2μm以下である。また、空洞形成に必要なパワー密度は、材料のレーザー加工性や集光状態によっても変化するので、一律に上限を限定するものではないが、例えばガラスの場合には、上記スポット径が2μm以下であれば、1×1017W/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1×1016W/cm以下である。これにより、空洞の周囲にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0075】
本発明の構造体を製造する際には、図7に示すように、1つのパルスレーザー光Lをレンズ5により透明材料Tの内部の1点に集光させ、1つの集光焦点に1つの連続した空洞Kを形成する手法を基本としている。この空洞Kの形状は、レンズ5の集光状態に大きく依存し、さらに、レンズ5の集光状態は、レーザーパワーや、材料の形状、屈折率、加工位置(深さ)などに応じて変化する。
【0076】
本発明の構造体の製造に用いるパルスレーザー光は、パルスが透明材料に入射するまでの光路中に、任意に変更可能な光制御工程を介してもよい。例えば、1つのパルスレーザー光をビームスプリッターや、回折格子、マイクロレンズアレイ等を用いて複数の光に分割する工程や、ビームエクスパンダーを用いてビーム径を広げる工程、回折光学素子等を用いてパルス幅のチャープを行う工程、位相板や、NDフィルタ、偏光板、波長変換素子などを用いてパルスレーザー光の位相やビームプロファイル、振幅、偏光、波長等を制御する工程を挙げることができる。また、分割されたパルスレーザー光をさらに個々に制御してもよい。
【0077】
本発明の構造体を製造する際には、図8に示すように、複数のパルスレーザー光Lを一枚のレンズ5で前記透明材料Tの内部の離れた位置に集光させ、複数の空洞Kを一括して形成することもできる。これら複数のパルスレーザー光は、複数の装置から出力された光であってもよく、一台の装置から出力された1本のパルスレーザー光を複数に分割した光であってもよい。これにより、大面積に複数の空洞Kを一括形成することができ、上記ステージ6を併用することで、さらに大面積の加工を行うことができる。
【0078】
本発明の構造体を製造する際には、図9に示すように、異なる光路を通る複数のパルスレーザー光Lをレンズ5により前記透明材料Tの内部の1点に時間的・空間的に同期させて集光させ、1つの空洞Kを形成するようにしてもよい。
【0079】
上記パルスレーザー光を透明材料の内部に集光する手段としては、前記空洞を形成することができれば特に限定されるものではなく、通常のレンズや、プリズム、反射ミラー、集光ミラー等を用いることができる。また、レンズを用いる場合は、単一のレンズである必要はなく、顕微鏡対物レンズのように複数のレンズを組み合わせて、球面収差や、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差、色収差等を適宜調整又は補正しながら、空洞を成形するようにしてもよい。
【0080】
例えば、加工深さの変化に伴う集光状態の変化を調節する方法としては、上記特許文献6に開示されるような動作距離の長い顕微鏡対物レンズと半球状レンズとの組み合わせによって、焦点深さの変化に伴う開口数(N.A.)の変化を補正して、集光照射する手法などを用いることができる。
【0081】
また、微細且つ精度の良い加工を行いたい場合には、集光スポットの直径は小さいほど好ましく、一方、開口数は高いほど好ましい。したがって、集光光学系の集光倍率は、40倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは60倍以上であり、最も好ましくは100倍以上である。また、開口数は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上であり、最も好ましくは1.0以上である。
【0082】
本発明の構造体では、前記透明材料の内部に形成される空洞の形状を集光状態の調節や、焦点と透明材料との相対移動等により任意の形状とすることができる。具体的に、透明材料をX,Y,Z方向に走査可能なステージに固定し、パルスレーザー光の焦点を走査する、或いは、集光レンズの手前にガルバノミラーを配置して、パルスレーザー光の光路を変化させる、或いは、1つの集光焦点に形成された1つの空洞を複数個連結させることによって、例えば図10に示すような直線状や、図11に示すような多角形状、図12に示すような曲線状、図13に示すような螺旋状、図14に示すような数珠状などの形状を有する空洞Kを形成することができる。さらに、空洞Kを二次元的又は三次元的に配列することでより複雑な形状とすることもできる。
【0083】
空洞の配置については、例えば、図15に示すように略球状の空洞Kを三次元的に立方格子状に配列することができる。その他にも、例えば、正方格子状や、面心立方格子状、体心立方格子状、ダイヤモンド格子状などのように、自然界に存在する結晶が取りうる結晶構造のような三次元的な配列を行ってもよい。一方、図16に示すように、直線状の空洞Kを一定の間隔で二次元的に配列することもできる。また、図17に示すように、上記図16に示す二次元的な配列を一層毎に半周期ずらした三角格子状や、図18に示すように、一層毎に直角に積層させた、いわゆるログパイル状に三次元的に積層させてもよい。
【0084】
また、前記周期配列のうち、一部の周期を変調したり、欠落させたりすることもできる。例えば図19に示すように、空洞Kが一列に周期的に配列された領域A,B,Cのうち、領域AとCとが同じ周期間隔であり、領域Bの周期間隔が変調された構造とすることもできる。また、図20に示すように、領域A〜Cが同じ周期間隔で配列されており、領域B内に配列された空洞K’の一部を他の空洞Kよりも大きくするといったこともできる。また、図21に示すように、領域Aと領域Cとが同じ周期間隔で配列され、領域B内で空洞Kの一部を欠落させるといったこともできる。
【0085】
周期的に配列された空洞がフォトニック結晶として機能する場合などは、上述した周期変調や欠落を導入することで、フォトニック結晶を反導波路的な光導波路、すなわち欠落部を光が選択的に導波するような導波路や、光共振器、光遅延器などの光学部品として機能させることができる。
【0086】
前記構造体は、空洞の周辺に歪みや、着色、クラックなどが生じると、上述した光学部品として用いる際に、その機能を低下させるおそれがある。この場合、パルスレーザー光の照射時又は照射後に該構造体を加熱することで、それらの欠損を低減又は除去することができる。加熱手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヒーターや、赤外線ランプ、レーザーなどを用いることができる。また、前記加熱手段の熱処理条件を制御することにより、空洞近傍領域の屈折率を調節することや、空洞の形状を変化させること、空洞を消去することなども可能である。
【0087】
その他の構造体としては、例えば図22に示すような複数の直線又は曲線状の空洞に囲まれた領域を光が導波する光導波路を内部に有する構造体を挙げることができる。
具体的に、図22に示す構造体では、正三角形の各頂点に位置するように配置された3つの直線状の空洞K,K,Kに囲まれた領域の中心を光Lが導波することになる。また、導波路は、全体又は一部が曲がっていてもよい。また、図23に示すようなレンズlの内部に空洞Kを形成した構造体を挙げることができ、このようなレンズLを例えば撮像素子などの複数のレンズl,l,lから構成される光学系に組み込んで使用することができる。また、図24に示すような内部の空洞Kを外部で繋げたような構造体を挙げることができる。この構造体の場合、空洞Kに気体や液体を導入することもできる。また、図25に示すような内部に空洞K及び高密度化などに起因する屈折率変化領域Aを有する構造体を挙げることができる。すなわち、空洞形成に至らない程度の低いレーザーパワーで形成された屈折率変化領域(高屈折率領域)Aを光導波路とし、周期的に配列された空洞Kに光を導入するような内部構造を有する構造体であってもよい。このような内部構造を組み合わせることにより、内部に光集積回路を有する構造体を作製することも可能である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。
実施例1〜19、参考例1〜5、、比較例1〜7の各透明材料は、表1,2に示す各組成からなるガラスであり、何れのガラスも厚さが0.3mmの平行平板であり、その両面が光学研磨されたものである。また、何れのガラスもレーザーの波長である800nmにおいて内部透過率が1mm厚で90%以上である。また、各ガラスの溶解温度は、1000〜1550℃であり、白金又は石英坩堝を用いて大気中で溶解させた後に、各ガラスの徐冷温度で徐冷する熱処理を行った。酸化物ガラスについては、原料にガラスを構成する陽イオンを含有する酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを用いている。一方、酸化物ガラスの酸素の一部をフッ素で置換した組成のガラスに関しては、上記原料以外にフッ化物塩を併用している。また、このガラスは、全て大気中で製造されるため、フッ素成分は相当量揮発するものと思われる。したがって、表1,2に示すフッ素量は、各ガラスに含有された全てのフッ素量を必ずしも表すものではない。なお、表1,2に示す組成は、酸化物換算の仕込み量で記載されている。また、表1,2に示す組成は、全原料を酸化物換算したものに、フッ素量を外割りで記載したものである。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
先ず、実施例1〜19、参考例1〜5、比較例1〜7の各透明材料を用いて、図26に示すような二次元的にランダムな空洞Kを各透明材料Tの内部に有する構造体を作製した場合の当該空洞の有無について確認を行った。
具体的には、構造体製造装置(再生増幅機構を備えたTi:Alレーザー、Spectra Phisics製のHarricane)から出射されたビーム径5mm、パルス幅約150fs、中心波長800nm、繰り返し周波数100Hzのパルスレーザー光を、倒立型顕微鏡(Nikon製のIX−71)に導入し、アポクロマート油浸顕微鏡対物レンズ(集光倍率:100倍、N.A.=1.35、Olympus社製)を用いて、各透明材料の表面から深さ約50μmの位置に、直径2μm以下で集光照射した。一方、各透明材料は、電動ステージ(Prior製のProscanH101)に固定し、毎秒300μmでXY方向に相対移動させることで、上記空洞を透明材料の内部に有する構造体を作製した。
【0092】
また、表1,2中に示す加工エネルギーは、使用したレーザーのパワーをパワーメーター(Newport製の818−UV/CM)で計測したものであり、焦点位置でのパルスレーザー光の1パルスの平均エネルギー値である。この焦点位置でのレーザーパワーは、光学系での損失を考慮して上記非特許文献10に示される手法により、光学系手前のパワーと顕微鏡対物レンズから出力されたパワーとの相対値から得られる。顕微鏡対物レンズから出力されたパワーは、ボロシリケートガラス(n=1.517)上の超半球状のソリッドイマージョンレンズ(n=1.845、直径=1mm、Weierestrass型)を用いて計測した。なお、このレーザーパワーは、ガラス内に形成される空洞の周囲にクラックが入らない程度のパワーとした。具体的には、加工閾値に対して約1.5倍から10倍とした。なお、加工閾値とは、パルスレーザー光の1パルスを集光照射し、上記対物レンズで観察したときに屈折率変化が視認されるレーザーパワーの値である。
【0093】
作製された構造体の内部に形成される空洞の有無については、屈折率変化領域を光学顕微鏡で観察した際に、空洞である場合に散乱性でコントラストの高い像が観察されることからも判断できるが、本実施例では、作製後にガラスを破断し、走査型電子顕微鏡(JSM−6700F,日本電子製)を用いて、破断面に現れた空洞痕(空洞由来の窪み)の有無から判断した。例えば比較例1である合成石英ガラス(ViOSIL−SQ,信越化学製)の内部に形成された空洞は、破断面に図27に示されるような窪みが観察される。表1,2に示すように、実施例1〜19、参考例1〜5の構造体では、何れも良好な空洞が形成されたことを確認できた。また、この空洞は、パルスレーザー光の入射方向に垂直な方向の最大長さが1μm以下であった。これに対して、比較例2、4、5、6、7の構造体では、空洞痕を確認することができず、また、光学顕微鏡で観察された屈折率変化領域のコントラストが低いことからも空洞が形成されていないことがわかる。一方、比較例3は220nJ/pulseを投入すると空洞形成することが確認されるが、SiOを70mol%以上含有しガラス製造時の熔解作業温度が高く、屈折率はnd=1.516(<1.53)と低い。
【0094】
次に、参考例4のガラス(n=1.555)を用いて、このガラスの内部に複数の空洞を周期的に配列した構造体を作製した。具体的には、このガラスをピエゾステージ(Physik Instrumente製のPZ48E)に固定し、パルス幅約150fs、中心波長800nm、繰り返し周波数10Hzとし、参考例1と同じ顕微鏡対物レンズを用いて、表面から深さ50μmの位置に、閾値の約4倍のパルスエネルギーである21.2nJ/pulseのパルス光を集光照射した。そして、1パルスで1つの空洞が形成されるようにプログラム制御されたステージを相対移動させることで、最終的に図28に示すような空洞を面心立方格子状(単位格子間隔4μm)に積層(計17層)させた構造体を得た。
【0095】
次に、実施例8(n=2.002)のガラスを用いて、このガラスの内部に複数の空洞を周期的に配列した構造体を作製した。具体的には、このガラスを前記のピエゾステージに固定し、パルス幅約150fs、波長800nm、繰り返し周波数10Hzとし、組成例1と同じ顕微鏡対物レンズを用いて、表面から深さ30μmの位置に、閾値の約3倍のパルスエネルギーである3.2nJ/pulseのパルス光を集光照射した。そして、1パルスで1つの空洞が形成されるようにプログラム制御されたステージを相対移動させることで、図29に示すような入射表面から深さ約30〜60μmの位置に、空洞を面心立方格子状(単位格子間隔2μm)に積層(計17層)させた構造体を得た。
【0096】
次に、実施例8(n=2.002)のガラスを用いて、このガラスの内部に複数の空洞を二次元的に周期的に配列した構造体を作製した。具体的には、このガラスを前記のピエゾステージに固定し、パルス幅約150fs、波長800nm、繰り返し周波数10Hzとし、参考例1と同じ顕微鏡対物レンズを用いて、表面から深さ30μmの位置に、閾値の約8倍のパルスエネルギーである8.0nJ/pulseのパルス光を集光照射した。そして、1パルスで1つの空洞が形成されるようにプログラム制御されたステージを200μm/secで相対移動させることで、図20に示すような入射表面から深さ約30μmの位置に、線幅約1μmの直線状の空洞を3μm間隔で300μm×300μmの範囲に複数配列させた構造体を得た。また、この構造体に対して、ビーム直径2mmのHe−Neレーザー(波長633nm)を焦点距離約7cmのレンズを用いて、前記加工領域に照射したところ、図30に示すような構造体から約6cm離れた位置に設置されたスクリーンに出射光(回折光)が投射され、回折格子として機能することが確認できた。
【符号の説明】
【0097】
1…レーザー光発生装置 K…空洞 T…透明材料 L…パルスレーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上であるガラスの内部に空洞形成手段により形成された空洞を有し、該ガラスのd線における屈折率がn≧1.3である構造体。
【請求項2】
パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射することにより形成された空洞を内部に有することを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記ガラスは、前記パルスレーザーの照射位置において300nJ/pulse以下の加工エネルギーによって空洞が形成されることを特徴とする請求項2記載の構造体。
【請求項4】
前記ガラスは、mol%換算で、Bを10%以上含有し、該Bの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きい請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項5】
前記ガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Pを40%未満との何れか一方又は両方を含有する請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記ガラスは、mol%換算で、Pを10%以上含有し、該Pの割合が他の含有する各成分の個々の割合よりも大きい請求項1〜3に記載の構造体。
【請求項7】
前記ガラスは、mol%換算で、SiOを40%未満と、Bを40%未満との何れか一方又は両方を含有する請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
SiO、GeO、B、Pの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で0%を超え40%未満であるガラスの内部に空洞形成手段により形成された空洞を有し、該ガラスのd線における屈折率がn≧1.3である構造体。
【請求項9】
パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射することにより形成された空洞を内部に有することを特徴とする請求項8記載の構造体。
【請求項10】
前記ガラスは、前記パルスレーザーの照射位置において300nJ/pulse以下の加工エネルギーによって空洞が形成されることを特徴とする請求項9記載の構造体。
【請求項11】
前記ガラスは、Sc、TiO、V、Y、ZrO、Nbの群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含有し、該群から選ばれる成分の合計がmol%換算で40%以上である請求項8〜10のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項12】
前記ガラスに含有される成分のうち、酸化物成分の酸素の一部がフッ素に置換されている請求項1〜11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
前記ガラスは、前記パルスレーザー光の波長に対して、厚さ1mmで10%以上の透過率を有する請求項2〜12のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項14】
前記パルスレーザー光は、焦点位置でのパワー密度が1×10W/cm以上である請求項2〜13のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項15】
前記空洞は、前記パルスレーザー光の入射方向に垂直な方向の最大長さが2μm以下である請求項2〜14のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項16】
前記空洞は、直線又は曲線の形状を有する請求項1〜15の何れか一項に記載の構造体。
【請求項17】
前記空洞は、二次元又は三次元的な位置関係で周期的に複数配置されている請求項1〜16のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項18】
パルス幅が10×10−12秒以下のパルスレーザー光をガラスに照射し、該ガラスの内部に空洞を形成する請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項19】
前記パルスレーザー光を前記ガラスの内部に集光させ、該焦点位置でのパワー密度を1×10W/cm以上とする請求項18に記載の構造体の製造方法。
【請求項20】
前記ガラスに複数のパルスレーザー光を照射することによって、該ガラスの内部に複数の空洞を一括して形成する請求項18または19に記載の構造体の製造方法。
【請求項21】
前記空洞を二次元又は三次元的な位置関係で周期的に複数配置する請求項18〜20のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項22】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体を用いたレンズ。
【請求項23】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体を用いたプリズム。
【請求項24】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体を用いた回折格子。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の構造体を用いた光フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−128460(P2012−128460A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−84295(P2012−84295)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2008−508999(P2008−508999)の分割
【原出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】