説明

構造体等の点検具

【課題】簡単な構造で、大きな騒音の中でも確実に転打子の発生する音を聞き分けることができるようにした造体等の点検具を得る。
【解決手段】横断面形状が多角形に形成されるとともに伸縮自在の取手に回転自在に取り付けた転打子1を有し、取手2は複数の部材が組合されて伸縮自在にされ、取手2を構成する部材の転打子1を取り付けた反対側部分を中空にするとともに、その取手2の中空を介して伝わる音を取り出す音検出器を取手に設け、取手の中空内の空気を大気に放出する空気抜孔9を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物やトンネル或いは橋梁などの構造体の壁面に張り付けたモルタルやタイル等の浮きを簡単に検出できる構造体等の点検具に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の壁面は、風雨からの保護や意匠上の見地からコンクリート構造物の表面にモルタルを塗ったり、タイルを貼ったりしている。このようなモルタルやタイルは、施工のミス或いは何らかの原因で構造物との間に入った水が凍結するなどして、構造物表面との間に隙間が生じる浮きが発生することがあった。
【0003】
このような隙間即ち浮きが大きくなると、モルタルやタイルが剥がれ落ちる場合があり、極めて危険であるために事前に検出する必要がある。その検出手段として、トンネルなどの壁面をハンマーで叩き、その音によって判断するようにしていた。しかしこのような作業は効率が悪く、疲労度の高い作業であり浮きの発見の正確性も十分ではなかった。
【0004】
このため、特許文献1に開示されるような構造体等の点検具が開発された。これは、多角形の転打子を伸縮自在の取手に回転自在に取り付けたものであって、転打子を検査対象の壁面に当てながら転がすことによってコロコロと音が発生し、その音によってモルタルやタイルの浮きを発見するものである。
【0005】
この特許文献1に開示された構造体等の点検具によって、浮きの検出が極めて効率的で正確になった。しかしこのような構造体等の点検具は浮きの検出が極めて効率的になったため、稼働中のトンネルの壁面の浮きを検査するような場面にも用いられるようになった。
【0006】
また特許文献2に開示された構造体等の点検具によって、電子的に点検の合否を得ることができるようになり、点検の際に個人差がなく、さらに合理的に点検を行うことができるようになった。
【特許文献1】特許3742032号公報
【特許文献2】特許3955306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
稼働中のトンネルの検査を行う場合に周囲の騒音が激しく、特許文献1に開示された点検具であると転打子を検査対象の壁面に当てながら転がすことによって発生する音が十分に聞き取れない場合があった。
【0008】
鉄道用トンネルの場合であると、列車の通過時刻が予測可能であるため、その時刻を避けて検査をすることも可能であるが、高速道路に設置されたトンネルであると、絶え間なく車の騒音が激しく発生し、作業者の負担が大きくなっていた。このような問題はトンネルだけでなくビルの壁面の検査であっても、ビル風など強い風が吹く条件で検査を行う場合があり、このような場合にも風の音の中で転打子の音を聞き分けなければならず作業者の負担が大きいものであった。
【0009】
また特許文献2に開示されたものの場合、転打子の音とノイズとが重なっているために、合否の判定が正確にできないという問題があった。
【0010】
本発明は以上のような問題点に着目してなされたものであり、簡単な構造で、大きな騒音の中でも確実に転打子の発生する音を聞き分けることができるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以上のような課題を解決するため、横断面形状が多角形に形成されるとともに伸縮自在の取手に回転自在に取り付けた転打子を有し、取手は複数の部材が組合されて伸縮自在にされ、取手を構成する部材の転打子を取り付けた反対側部分を中空にするとともに、その取手の中空を介して伝わる音を取り出す音検出器を取手に設け、取手の中空内の空気を大気に放出する空気抜孔を設けたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。転打子の回転打音は取手に伝わり、取手の中空内を介して音検出器に伝わる。このため、車両などの通行音などのノイズが殆ど入ることなく、転打子の回転打音は音検出器に伝わる。これによって、周囲の騒音が激しい場所でも問題なく点検を行うことができる。
【0013】
つまり、イヤーチップを有する実施例の場合、イヤーチップを耳孔に挿入して使用する。この場合、転打子の回転打音はイヤーチップを介して使用者の耳に届くため、使用者には騒音が聞こえ難く、転打子の回転打音が主体的に聞こえるため、激しい騒音の中でも容易に点検作業を行うことができる。
【0014】
さらに使用者が取手を動かしながら壁の点検を行う際に、使用者の耳孔内でイヤーチップも動くが、イヤーチップを硬質管の先に回転自在に設けているため、イヤーチップは耳孔と擦れることがなく、長時間の使用にも使用者の耳孔が痛くなることはない。
【0015】
また、転打子の回転打音をマイクロフォンで拾ってマイクロコンピュータなどで分析する場合も、ノイズが入らないために、誤判断をすることがない。
【0016】
さらに取手を伸ばした状態で使用し、作業の終了に伴って取手を縮めた場合に取手内部の空気が圧縮され音検出器に向かう。ここでイヤーチップを耳孔に挿入して使用する物の場合、取手内部の空気は空気抜孔とイヤーチップから抜けるが、イヤーチップは可撓性の管と硬質管の先に設けられているために、主に空気抜孔から大気に放出される。
【0017】
このため、イヤーチップから抜ける空気の量が少なく、使用者の耳に障害を与えることがない。イヤーチップの孔を空気抜孔よりも十分に小さくしておくと、より効果が高い。転打子の回転打音をマイクロフォンで拾う実施例の場合には、取手内部の空気が圧縮され空気抜孔とマイクロフォンに向かうが、空気抜孔によってマイクロフォンに向かう空気の量が少なくなり、マイクロフォンが破損されることがない。
【0018】
そして鍔の作用によって、使用者が不用意に空気抜孔を指で塞ぐことがなく、上記の空気抜孔の作用が阻害されることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は以上のような課題を解決するため、多角形の転打子を伸縮自在の取手に回転自在に取り付け、取手は複数の部材が組合されて伸縮自在にされ、取手の端部を中空にするとともに、その取手の中空を介して伝わる音を取り出す音検出器を取手に設け、取手の中空内の空気を大気に放出する空気抜孔を設けた。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について図面に沿って詳細に説明する。図1は本発明の構造体等の点検具の側面図であり、図2は取手を引き伸ばした状態を示す側面図である。
【0021】
1は転打子であり、横断面が5〜8角形でステンレスや鉄で作られ、鉄の場合はメッキを施す。転打子1は取手2に回転自在に取り付けられている。取手2はテレスコピック構造つまり複数の筒状の部材が次々に挿入されて伸縮自在に構成され、図1のように縮めた状態と図2の伸ばした状態を取り得る。この構造は特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0022】
3はアダプタであり、このアダプタ3は取手2の他端すなわち、取手2の転打子1が取り付けられている一端の反対側に装着されている。図3はアダプタ3の拡大斜視図、図4は同拡大断面図である。
【0023】
このアダプタ3は取手2へ挿入される挿入部4を一方に有している。また他方には聴診器5などと連結する連結管7が、挿入部4に対して回転自在に取り付けられている。このアダプタ3は取手2を介して転打子1で発生した音を伝えられるように取手1内部から挿入部4に至る貫通孔6が形成されている。
【0024】
また挿入部4の末端には鍔8が形成され、連結管7には貫通孔6と外部とを連通する空気抜孔9が設けられている。つまり空気抜孔9によって取手2内部と外部とが連通した状態となる。この空気抜孔9は鍔8の付近に設けられ、鍔8の存在によって空気抜孔9は容易には指などで塞がれない。つまり、ここで言う鍔8の付近とは、人の指の平均的な大きさを考慮して指が鍔8に邪魔されて空気抜孔9を塞ぐ事ができない距離を言う。
【0025】
聴診器5は、人の耳に挿入される一対のイヤーチップ10と可撓性の連結チューブ11とを有し、連結チューブ11の末端は連結管7に挿入されている。
【0026】
本発明の点検具は以上のように構成され、図2に示すようにテレスコピックの取手2を伸張させ、先端の転打子1をトンネルなどの構築物の壁に当てながら移動させ、転打子1によって発生する転がり音で、壁の内部の異常を検出する。この時、聴診器5のイヤーチップ10を耳に挿入して使用すると、車両が通行しているトンネルなど騒音の激しい場所であっても転打子1の発生する音は取手2の内部、貫通孔6、連結チューブ11を介してイヤーチップ10に伝わり使用者は問題なく転打子1の発生する音を聞き取ることができる。
【0027】
使用者が一連の点検作業を終了し、取手2を縮めた時に取手2内部の容積が小さくなるため、取手2内部の空気がイヤーチップ10から噴出する。この時、使用者がまだ聴診器5を耳に掛けていた場合、イヤーチップ10から噴出した空気で鼓膜を痛める可能性がある。しかし、空気抜孔9によって多くの空気が抜けるためイヤーチップ10からの空気の噴出量が少なくなり、鼓膜を痛める問題はない。
【0028】
さらに、取手2を縮める操作を行うには、片方の手で取手2の根元を保持し、他方の手で延ばした取手2を持って取手2を縮める。この時に、不用意に空気抜孔9を指で塞ぐ事がないように、鍔8が作用する。つまり、鍔8によって指が空気抜孔9を塞ぐことが防止され、もって鼓膜を痛めることがない。
【実施例2】
【0029】
以上の実施例1ではアダプタ3に聴診器5を接続して使用する例を示したが、図5に示すようにアダプタ3にマイクロフォン12を接続する場合も取手2を縮めた時に噴出する空気でマイクロフォン12を痛める可能性がある。このような場合にも空気抜孔9によって噴出する空気量が減少し、マイクロフォン12を痛めることがない。
【0030】
ここで、マイクロフォン12のオーディオ出力は、そのまま増幅してヘッドフォン(図示せず)を駆動しても良いし、ワイヤレス・マイクにしてワイヤレス・ヘッドフォン(図示せず)をならすようにしても良い。或いはマイクロフォン12のオーディオ出力をディジタル信号に変換し、コンピュータで分析するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は建物やトンネル或いは橋梁などの構造体の壁面に張り付けたモルタルやタイル等の浮きを簡単に検出できる構造体等の点検具に関し、長寿命で使いやすい点検具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】構造体等の点検具の側面図である。
【図2】構造体等の点検具の側面図である。
【図3】アダプタ3の拡大斜視図である。
【図4】アダプタ3の拡大断面図である。
【図5】アダプタ3の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 転打子
2 取手
3 アダプタ
4 挿入部
5 聴診器
6 貫通孔
7 連結管
8 鍔
9 空気抜孔
10 イヤーチップ
11 連結チューブ
12 マイク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状が多角形に形成されるとともに伸縮自在の取手に回転自在に取り付けた転打子を有し、前記取手は複数の部材が組合されて伸縮自在にされ、前記取手を構成する部材の少なくとも前記転打子を取り付けた反対側末端を中空にするとともに、その取手の中空を介して伝わる音を取り出す音検出器を前記取手に設け、前記取手の中空内の空気を大気に放出する空気抜孔を設けたことを特徴とする構造体等の点検具。
【請求項2】
音検出器は、取手の末端に連通した可撓性の管の端部に硬質管を連通し、前記硬質管の端部にイヤーチップを取り付けたことを特徴とする請求項1記載の構造体等の点検具。
【請求項3】
硬質管に対しイヤーチップが回転自在に取り付けられていることを特徴とする請求項2記載の構造体等の点検具。
【請求項4】
音検出器は取手の中空と連通する室内に設けられたマイクロフォンであることを特徴とする請求項1記載の構造体等の点検具。
【請求項5】
空気抜孔は取手の末端に設けた鍔の近傍であって、前記鍔の存在によって人の指で塞ぐことができない位置に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4記載の構造体等の点検具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−276314(P2009−276314A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130365(P2008−130365)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(503088541)株式会社クワキ・シビル (3)
【Fターム(参考)】