説明

構造化硬質クロム層の製造およびコーティングの製造

本発明は構造化硬質クロム層の生成方法に関し、該方法において、クロムは電解質から被加工物上に析出され、該電解質は、a)50g/L〜300g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物と、b)0.5g/L〜10g/Lの硫酸と、c)5g/L〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸とを含む。電解質は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩より選択される化合物のいずれも実質的に含まず、12%以下のカソード電流効率で処理される。本発明は、コーティングの生成方法、構造化硬質クロム層、コーティングおよび電解質にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物上に構造化硬質クロム層を製造する方法、構造化硬質クロム層を含むコーティングを製造する方法、これによって得られる構造化硬質クロム層およびコーティング、および前記方法を実施するための電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的に製造される硬質クロム層は、装飾的な表面仕上げを付与することのみを目的とするものではない。硬質クロム層は、導電性および非導電性の被加工物上に、たとえば、保護機能を発揮するために、または表面特性に望ましい影響を与えるために、機能的コーティングとして適用することができる。したがって、典型的な用途としては、印刷インクに対する濡れを促進するために印刷ローラ上に設けられる構造化硬質クロム層、または産業上の製造プロセスを最適化するために、打ち抜き、エンボス加工、および深絞り用の工具上に設けられる構造化硬質クロム層だけでなく、腐食、摩耗または摩擦を低減するための保護硬質クロムコーティングも挙げられる。
【0003】
特許文献1および特許文献2は、クロム酸、硫酸または硫酸塩およびスルホン酸を含む水性電解質から、金属表面上に硬質クロムを、20%以上のカソード電流効率で電気メッキするための方法を開示している。電解質の組成は、被コーティング表面に有害なエッチングが起こる危険性を無くすように企図されている。しかしながら、硬質クロム層中に何の構造も形成されていない。
【0004】
特許文献3より、被加工物上に硬質クロム層を析出させるためのさらに別の電気化学的方法が知られている。ここで用いられる電解質は、モリブデンアニオンを含むために、高いカソード電流効率が利用できる。この方法は、硬質クロム層を構造化する機能は果たさない。
【0005】
例えば特許文献4より、構造化硬質クロム層の電気化学的生成方法が知られている。この文献では、電解質に、セレン元素またはテルル元素の塩などの塩を加えることにより、硬質クロム層の構造化を可能にしている。しかしながら、このようにして形成された層は球状構造を有し、実際に、1μm未満から数μmの大きさを有する球形を有する。そのため、すべての用途に対して適切ではない、硬質クロム層の不均一な球状構造を生じることが多い。
【特許文献1】欧州特許公開公報第EP0196053A2号
【特許文献2】ドイツ特許公開公報第DE3402554A1号
【特許文献3】米国特許第5,196,108号
【特許文献4】ドイツ特許公開公報第DE4432512A1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、均一な構造を有する構造化硬質クロム層を製造し、被加工物の摩擦学特性、たとえば、摩耗低減や、滑性が不十分な場合の望ましい非常時走行特性についての改善を行うことが望ましい。
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術の不都合を克服するような、構造化硬質クロム層の生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記目的は、電解質から被加工物上にクロムを析出させる構造化硬質
クロム層の生成方法によって達成される。前記電解質は、
(a)50g/L〜300g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物と、
(b)0.5g/L〜10g/Lの硫酸と、
(c)5g/L〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸とを含有する。前記電解質は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩より選択される化合物のいずれも実質的に含まない。12%以下のカソード電流効率が用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法を用いて、カップ状、迷路状、および柱状の少なくともいずれかの形状をなす構造化された硬質クロム層が製造される。これは、後述するように、電気メッキの間に形成されるカソードフィルムに対して選択的な影響を与えることによって達成される。
【0010】
ガルバニック法で使用する電解質は、水性溶媒中でアニオンとカチオンとに解離する塩を含有する。解離したイオンの周囲に水和物の殻が生成する。電気化学的析出の間に、電解質の水和金属イオンは、カソードとして提供される被コーティング加工物に移動する。電解質とカソードとの間の境界領域において、いわゆるカソードフィルム(Kathodenfilms)が、カソードの表面上に直接位置することになる。水和金属イオンがこの相境界に達す
ると、前記イオンは、カソードから電子を取り込み、拡散ゾーン内で配向される。
【0011】
この拡散ゾーンの下方のカソード表面の直上で、電気化学的二重層、すなわち「ヘルムホルツ二重層」が形成される。この層は、電解質とカソードとの間の境界にある帯電ゾーンからなり、およそ数原子または数分子の層厚を有する。その形成には、イオン、電子、または有向の二極性分子が関与する。「ヘルムホルツ二重層」は、一方の側で正に帯電し、他方の側で負に帯電しているので、カソード上では、非常に小さい平板間隔を有する平板コンデンサのように挙動する。
【0012】
金属イオンが、被加工物表面に達して、該被加工物表面上の成長位置において取り込まれるようにするためには、イオンはカソードフィルムを克服しなければならない。この動作は、電解質の化学組成、温度、流体力学および電流レベルなどの析出条件を適切に選択することによって影響され得る。被加工物上に均一な厚みの金属層を形成するためには、電解質に対する析出条件は、カソードフィルムの金属イオン透過性ができるだけ均一になるように選択される。
【0013】
クロム元素を水性電解質から被加工物上に析出させる場合、クロムは強酸性溶液中で負に帯電した二クロム酸水素錯体として存在する。ここで、クロムは、6価の酸化状態にあり、少量のクロム(III)化合物を含んでいてもよい。
【0014】
しかしながら、このような溶液を電気分解すると、カソード上に固体フィルムが形成され、クロムの析出を妨げる。大きな二クロム酸水素イオンとは対照的に、径が小さいために固体カソードフィルムを透過することができる水素のみが生成する。例えば、硫酸塩や塩化物などのさらなるイオンを加えるだけで、カソードフィルムをクロムイオンに対して透過性にすることができ、クロムの析出は、異なる酸化状態を介して起こる(“Chemie fuer die Calvanotechnik”Leutze Veriag,第2版、1993年を参照されたい)
本発明によれば、50g/L〜300g/L、好ましくは50〜150g/Lの無水クロム酸に相当する量のクロム(VI)化合物と、0.5〜10g/Lの硫酸と、5g/L
〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を含む脂肪族スルホン酸とを含む電解質を用いることによって、非常に緊密なバリア層を有するカソードフィルムを形成する。適切な高いコーティング電流密度が与えられると、バリア層が貫通して、被加工物上に不均一な層厚を有するクロム層を形成させる。この場合、12%以下のカソード電流効率が用いられる。
【0015】
このように、カソードフィルムのバリア層を形成するのを助ける添加物を用いることなく、カップ状および/または迷路状および/または柱状構造を有する構造化硬質クロム層が形成される。したがって、緊密なカソードフィルムの形成を促進する化合物、たとえば、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩化合物を使用せずに済む。
【0016】
カソード電流効率を12%以下とすることにより、本発明による方法において構造化硬質クロム層が形成されることが保証される。これは、これより高い電流効率によっては硬質クロム層を構造化できないためである。
【0017】
カップ状および/または迷路状および/または柱状の構造のために、本発明による方法によって形成される構造化硬質クロム層は、従来技術の構造化硬質クロム層に比べてより均一に形成されている。本発明による方法によって得られる構造化硬質クロム層は、特に燃焼機関内のピストンリングのコーティングに最適である。本発明によって製造される層は、高い腐食耐性に加えて、優れた摩擦学的性質、たとえば、良好な潤滑性や、特に潤滑性が不十分な場合における摩耗や焼き付きに対する耐性をも有している。さらに、本発明によって得られる硬質クロム層は、多くの装飾的および機能的用途に用いることができる。本発明によって製造される硬質クロム層の表面構造により、たとえば、太陽電池パネルにおける光および熱放射に対する高い吸収性が得られる。さらに、本発明による硬質クロム層の特別な構造によって、液体の取り込みを改善することができる。また、構造化面上にガスクッションを形成することも容易である。
【0018】
成分(a)〜(c)の上記に示した量は、電解質に関するものである。本明細書中では、電解質とは、イオン解離により導電性を有する水性溶液であるものと理解される。
【0019】
成分(a)、すなわちCr(VI)化合物としては、電解析出に特に適していることから、CrOを用いることが好ましい。
【0020】
成分(c)、すなわち脂肪族スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メタンジスルホン酸またはエタンジスルホン酸を用いることが好ましい。これらの物質は、得られる硬質クロム層に有利な装飾的および機能的特性を与えるのに望ましいことがわかっている。
【0021】
一実施形態において、電解質は本質的にフッ化物を含まないものとするとよい。これは、フッ化物が構造化硬質クロム層の形成を困難にすることが多いためである。したがって、フッ化物は、電解質中、構造化硬質クロム層の析出に影響を及ぼさないような量しか許容されない。0.1g/L未満のフッ化物しか電解質中に存在しないことが望ましいことも分かっている。
【0022】
さらに、クロム析出用の従来の電解質、たとえば、SO2−および/またはClを通常量で電解質に含めてもよい。
【0023】
本発明によれば、構造化硬質クロム層を、上記の方法によって被加工物上に析出させる
。これに関して、「被加工物」という用語は、構造化硬質クロム層を与えるべき金属または非金属物体のことをいう。非金属物体の場合、このような物体は、構造化硬質クロム層の析出前に、該物体を導電性にするために薄い金属フィルムでコーティングする。
【0024】
構造化硬質クロム層を被加工物上に析出させるために、被加工物をカソードとして提供し、電解質中に浸漬する。その後、直流、たとえば、周波数1.000Hzまでのパルス直流を該被加工物に印加する。クロムの析出中、温度は45℃〜95℃、好ましくは55℃に保たれる。析出を長く行うほど、硬質クロム層の層厚は大きくなる。
【0025】
本発明による方法において、20A/dm〜200A/dmの電流密度を用いることができる。この電流密度範囲により、特に好ましい構造を有した硬質クロム層が析出する。ここで選択する電流密度が高いほど、本発明による硬質クロム層の表面の突出領域の密度が大きくなる。
【0026】
本発明による方法の好ましい実施形態において、構造化硬質クロム層の析出前および/または後に第2の層を析出させる。このように、本発明によって構造化した硬質クロム層上に、たとえば従来の電解質の金属層を被着した被加工物の上に、いくつかの層を析出させてもよい。さらに、それらの両層は、従来の金属層を構造化硬質クロム層上に析出させる場合には、従来の材料層の固定を改善する異なる材料からなり得る。
【0027】
さらに、第2の層としては、従来の硬質クロム層または本発明による構造化硬質クロム層を析出させることができるが、それぞれ酸化アルミニウム、ダイアモンドおよび/または六方晶窒化ホウ素で構成されてもよい混在物を含む。上記の材料は、本目的のために用いられる電解質内に懸濁させる。こうした混在物により、摩擦学特性がさらに改善される。
【0028】
さらに、本発明の特に好ましい実施形態において、本発明による硬質クロム層を、均一な層厚の従来の硬質クロム層の上に電解析出させる。これにより、均一な層厚を有した従来の硬質クロム層によって腐食が防護されるとともに、本発明による構造化硬質クロム層が被加工物の摩擦学特性を改善した、いわゆる段階的構造化硬質クロム層が得られる。
【0029】
本発明は、コーティング組成物の生成方法にも関し、クロムを被加工物上に析出させて構造化硬質クロム層を形成し、エポキシ樹脂、固体潤滑剤、硬質物質またはそれらの混合物を含む組成物を構造化硬質クロム層上に施す。構造化硬質クロム層は、本発明によって製造した構造化硬質クロム層であってもよい。エポキシ樹脂は、固体潤滑剤および/または硬質材料を、構造化硬質クロム層の凹部内に保持しておくための結着剤として作用する。特に適した固体潤滑剤は、MoS、窒化ホウ素、好ましくは、六方晶窒化ホウ素、またはテフロンまたはこれらの物質の2つ以上からなる混合物である。硬質物質としては、たとえば、微小ダイアモンド、酸化アルミニウム、Si、BC,SiCまたはこれらの物質の2つ以上からなる混合物が挙げられる。
【0030】
コーティング構造は、一般的な摩耗性を改善するだけでなく、MoSを使用することにより、滑性が不十分な場合の被加工物の優れた非常時走行特性も得られる。特に、組成物中に窒化ホウ素を含む場合、優れた自己潤滑性が得られ、用途によっては、別の潤滑剤を使用しなくてもよくなる。上記固体潤滑剤の2つ以上の混合物を、構造化硬質クロム層上に析出させる組成物中において用いた場合、上記の望ましい摩擦学特性が加わることになる。
【0031】
本発明は、前出の方法のいずれかによって得られる構造化硬質クロム層をさらに含む。
【0032】
さらに、本発明は、前出のコーティング生成方法によって得られるコーティングに関する。
【0033】
本発明のさらなる目的は、本発明の構造化硬質クロム層の生成方法を実施するための電解質であり、該電解質は、
(a)50g/L〜300g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物と、
(b)0.5g/L〜10g/Lの硫酸と、
(c)5g/L〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸とを含み、
前記電解質は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩より選択される化合物のいずれも実質的に含まない。
【0034】
好ましくは50g/L〜150g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物を含んでいてもよい、本発明による電解質は、特に、被加工物上に、上記で詳しく記載した構造化硬質クロム層を電気メッキする働きをする。
【0035】
本発明を添付の図面を参照しながら以下の実施例において詳細に説明するが、本発明がこれに限定されることはない。
【0036】
図1〜10は、実施例1〜4の硬質クロム層の写真を示す。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
従来の硬質クロム層を製造するために、以下の水性電解質を調製する。
無水クロム酸 CrO 250g/L
硫酸 HSO 2.5g/L
被コーティング加工物を従来の前処理の後に電解質内に浸漬する。クロムを製品上に55℃で30分間、電流密度40A/dmによって析出させる。
【0038】
得られる製品は、図1に示すように、従来の光沢のある均一に形成されたクロム層を有する。
【0039】
(実施例2)
本発明による構造化硬質クロム層を形成するために、以下のものを含む本発明による電解質を用いる。
無水クロム酸 CrO 200g/L
硫酸 HSO 3g/L
メタンスルホン酸 CHSOH(70%) 9mL/L
温度70℃、カソード電流効率10%、および露出時間30分にて、本発明の構造化硬質クロム層を被加工物上に析出させる。図2〜図6に示す写真に関して、電流密度を以下のように変更している。図2:30A/dm、図3:40A/dm、図4:50A/dm、図5:60A/dm、図6:70A/dm。構造の最小部、すなわち写真中で暗く見えている凹部を有した典型的な表面構造が得られる。
【0040】
上記に代えて、電流密度を一定に保ちつつ、電解質成分を変更しても構造形成に影響を与えることができるが、この影響は、図2〜図6と同様の構造を与える。
【0041】
(実施例3)
酸化アルミニウム混在物を含む従来の硬質クロム層を、本発明による構造化硬質クロム層と交互に、被加工物上に析出させる。本発明による構造化硬質クロム層については、以下を含む電解質を用いる。
無水クロム酸 CrO 100g/L
硫酸 HSO 3.5g/L
メタンスルホン酸 CHSOH(70%) 6mL/L
構造化硬質クロム層を30分間、温度60℃、カソード電流効率10%および電流密度80A/dmで析出させる。混在物を有する層と有しない層を交互に全部で6層を析出させる。図7および図8は、これらの段階的な構造化硬質クロム層の典型的な板目方向の断面図を異なる倍率で示したものである。従来の硬質クロム層によって腐食が防護され、本発明による構造化硬質クロム層から望ましい摩擦学特性が得られる。酸化アルミニウムの代わりに、ダイアモンド、六方晶窒化ホウ素を組み込んでもよい。
【0042】
得られる段階的、構造化硬質クロム層は、表面の自己潤滑特性を支持するために、実施例4に記載のようにさらに処理してもよい。
【0043】
(実施例4)
実施例2によって被加工物上に製造された本発明の構造化硬質クロム層において、表面の構造の最小部または凹部を、エポキシ樹脂と六方晶窒化ホウ素の混合物によって充填する。図9および図10の写真は、硬質クロム層の凹部の充填を示したものである。このように形成されたコーティングは優れた自己潤滑性を有する。さらに、用途によっては、さらなる潤滑剤の使用する必要がなくなる。
【0044】
(実施例5)
実施例2によって製造された構造化硬質クロム層でコーティングされた被加工物を、クロム層内の凹部が混合物によって充填されるように、エポキシ樹脂およびMoSの混合物で処理する。エポキシ樹脂は、MoSを凹部および凸部に固定するための結着剤として機能する。これにより、被加工物の潤滑性が不十分になった場合の優れた非常時走行特性とともに、良好な摩耗特性が得られる。さらに、未処理の構造化硬質クロム層に比べて、腐食に対する性質が改善される。
【0045】
(実施例6)
実施例2によって製品上に形成された構造化硬質クロム層の凹部は、エポキシ樹脂と微小ダイアモンド、すなわちμm単位の大きさを有するダイアモンド粒子との混合物によって充填する。このことによっても摩耗特性が著しく改善され、未充填の構造化硬質クロム層に比べて実質的に好ましい腐食に対する性質が得られる。
【0046】
(実施例7)
実施例5によって製造された被加工物はをさらに、実施例6の混合物で処理する。得られるコーティングは、実施例5および実施例6に勝る優れた自己潤滑性など、摩擦学特性が大幅に改善されているとともに、未処理の構造化硬質クロム層に比べて良好な腐食に対する性質を有する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図2】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図3】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図4】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図5】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図6】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図7】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図8】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図9】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。
【図10】実施例1〜4の硬質クロム層の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)50g/L〜300g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物と、
(b)0.5g/L〜10g/Lの硫酸と、
(c)5g/L〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸とを含有する電解質から被加工物上にクロムを析出させる、構造化硬質クロム層の生成方法であって、
前記電解質は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩より選択される化合物のいずれも実質的に含まず、12%以下のカソード電流効率が用いられることを特徴とする方法。
【請求項2】
Cr(VI)化合物は、CrOであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪族スルホン酸は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メタンジスルホン酸およびエタンジスルホン酸から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解質は実質的にフッ化物を含まないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
20A/dm〜200A/dmの電流密度を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記構造化硬質クロム層の析出前および析出後の少なくともいずれかにおいて、第2の層を析出させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記構造化硬質クロム層および第2の層は、異なる材料からなることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
均一な層厚を有する硬質クロム層を第2の層として析出させることを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
構造化硬質クロム層を形成するクロムを被加工物上にを析出させることと、エポキシ樹脂と、固体潤滑剤、硬質物質、およびそれらの混合物のいずれかとを含む組成物を前記構造化硬質クロム層上に被着させることとを特徴とするコーティングの生成方法。
【請求項10】
前記構造化硬質クロム層は、請求項1乃至8のいずれか1に記載の方法によって製造されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固体潤滑剤として、MoS、窒化ホウ素、テフロン、およびそれらの混合物のうちの少なくともいずれかを用いることを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記硬質物質として、微小ダイアモンド、酸化アルミニウム、Si,BC,SiCまたはそれらの混合物を用いることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法によって得られる構造化硬質クロム層。
【請求項14】
請求項9乃至12のいずれか1項に記載の方法によって得られるコーティング。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法を実施するための電解質であって、
(a)50g/L〜300g/Lの無水クロム酸に相当する量のCr(VI)化合物と、
(b)0.5g/L〜10g/Lの硫酸と、
(c)5g/L〜15g/Lの、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸とを含有し、
前記電解質は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸のアルカリ金属塩、バナジウム酸のアルカリ土類金属塩、ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸のアルカリ金属塩およびジルコン酸のアルカリ土類金属塩より選択される化合物のいずれも実質的に含まないことを特徴とする電解質。
【請求項16】
Cr(VI)化合物はCrOであることを特徴とする請求項15に記載の電解質。
【請求項17】
前記脂肪族スルホン酸が、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メタンジスルホン酸またはエタンジスルホン酸から選ばれることを特徴とする請求項15または16に記載の電解質。
【請求項18】
電解質は実質的にフッ化物を含まないことを特徴とする請求項15乃至17のいずれか1項に記載の電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−533852(P2007−533852A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508737(P2007−508737)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000037
【国際公開番号】WO2005/108648
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(398071439)フェデラル−モーグル ブルシャイト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (28)
【Fターム(参考)】