説明

構造材の製造方法、構造材

【課題】複合材からなる構造材において3次元的に湾曲する部分においても、複合材シートにシワが生じるのを抑えつつ、構造材の強度を十分に確保し、その製造を効率よく行うことのできる構造材の製造方法、構造材を提供することを目的とする。
【解決手段】稜線部Cに沿って狭幅プリプレグシート20Nを貼り、他の部分に広幅プリプレグシート20Wを貼ることで、稜線部Cの両側の部分においては、切れ目のない広幅プリプレグシート20Wを貼り込む。
また、狭幅プリプレグシート20Nは、スパー10が湾曲する部分において、その軸線方向に複数に分割して貼り込み、スパー10の軸線方向における湾曲部分の曲率半径に応じて狭幅プリプレグシート20Nの長さを調整することで、様々な曲率半径にも容易に対応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料からなる構造材の製造方法、構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の翼を、炭素繊維やガラス繊維を含む複合材料によって形成する場合、断面コ字状のスパー(桁材)が、翼の構造材の一部として設けられる。
図3に示すように、このようなスパー1は、ウェブ2と、ウェブ2の両端に設けられたフランジ3、3とが、断面コ字状に形成されたものである。
このようなスパー1を複合材料により形成する場合、予め、炭素繊維やガラス繊維に樹脂を含浸させてシート状とされたプリプレグシートを用いることがある。このようなプリプレグシートによりスパー1を形成する場合、プリプレグシートを複数層にわたって積層する。このとき、各層においては、炭素繊維やガラス繊維の繊維方向が予め定めた角度となるよう、所定幅を有した帯状のプリプレグシート5を貼っていく。互いに上下に積層されるプリプレグシート5においては、その繊維方向が互いに異なるよう、スパー1の軸線方向を0°としたとき、貼り付け方向を例えば0°、45°、90°というようにして積層していく。これによって、スパー1の多方向に対する強度を向上させている。
【0003】
さて、このようにしてスパー1を形成するに際し、スパー1が、その軸線方向において湾曲している場合、ウェブ2とフランジ3との境界部分である稜線部4において、プリプレグシート5にシワが形成されやすい。特に、スパー1の軸線方向に対するプリプレグシート5の貼り付け方向の角度が0°等と小さい場合に顕著である。これは、プリプレグシート5が繊維方向の伸縮性に乏しいためであり、稜線部4に直交する面内におけるウェブ2とフランジ3による湾曲に加え、稜線部4が連続した方向における湾曲により、プリプレグシート5が3次元的に湾曲する部分においては、特に湾曲が厳しい場合において、プリプレグシート5にシワが形成されやすい。
【0004】
そこで従来、プリプレグシート5を積層する際に、稜線部4およびその周囲において、帯状のプリプレグシート5に、繊維方向にほぼ直交する方向の切れ込み6を入れている。そして、稜線部4の湾曲方向外周側においては、切れ込み6の両側で短冊状とされたプリプレグシート5の間隔を広げ、湾曲方向内周側においては、切れ込み6の両側のプリプレグシート5を互いに重ね合わせるようにし、重なった部分は除去するようにしている(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−178863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プリプレグシート5に切れ込み6を入れると、切れ込み6の両側において、プリプレグシート5の補強要素である繊維(炭素繊維やガラス繊維)が分断されてしまうことになる。
また、図3(a)に示すように、一枚の大きなプリプレグシート5に切れ込み6を入れるのは、特にウェブ2の幅が広い場合に困難である。
【0007】
また、図3(b)に示すように、互いに隣接する稜線部4の間に、スパー1の軸線方向に対する0度方向に平行な切れ込み4Xを入れる場合、切れ目が無用に大きくなって強度低下を大きくするデメリットが存在する。また、プリプレグシート5の幅方向中央部5cを稜線部4に沿わせた場合、稜線部4に切れ込み6を入れることになる。その結果、プリプレグシート5の稜線部4においては、プリプレグシート5の繊維が、複数箇所において分断されることになり、その補強効果を十分に発揮できないという問題がある。
【0008】
また、スパー1の製造現場において、プリプレグシート5を積層していくときに、プリプレグシート5に切れ込み6を順次入れていかなければならず、言うまでもなく手間がかかる。また、プリプレグシート5を機械により自動的に貼り込んでいくような場合、切れ込み6をその場で入れることは困難であり、手作業で行っているのが実情である。
【0009】
このような問題は、航空機の翼のスパー1に限らず、複合材の積層構造によって形成される様々な構造材において同様に生じる問題である。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、複合材からなる構造材において3次元的に湾曲する部分においても、複合材シートにシワが生じるのを抑えつつ、構造材の強度を十分に確保し、その製造を効率よく行うことのできる構造材の製造方法、構造材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもとになされた本発明は、強化繊維と樹脂とを含むシート状の複合材料を用いた構造材の製造方法であって、構造材において断面凸状の稜線部または断面凹状の谷部に沿って、第一の幅を有した帯状の第一の複合材シートを貼り込むとともに、稜線部または谷部の側方に、第一の幅よりも大きな第二の幅を有した帯状の第二の複合材シートを、第一の複合材シートとほぼ平行に貼り込むことを特徴とする。
ここで、第一の複合材シートと第二の複合材シートの張り込み順序については、何ら限定するものではない。
このように、稜線部または谷部に、第二の複合材シートよりも幅の狭い第一の幅を有した第一の複合材シートを貼り込むことで、稜線部または谷部の側方において、第二の複合材シートに切れ目を入れる必要がない。
さらに、第一の複合材シートは、構造材がその軸線方向において湾曲している部分にて、あらかじめ定められた長さに切断されたものを、軸線方向に複数枚連続して貼り込んでも良い。これにより、構造材が軸線方向において湾曲している部分において、その曲率に応じて第一の複合材シートの長さを調整することができる。
【0011】
このような第一の複合材シート幅は、稜線部または谷部の湾曲面の周長程度とするのが好ましい。
【0012】
本発明は、強化繊維と樹脂とを含むシート状の複合材料を複数層に積層して形成された構造材であって、断面凸状の稜線部または断面凹状の谷部に沿って、第一の幅を有した帯状の第一の複合材シートが貼り込まれるとともに、稜線部または谷部の側方に、第一の幅よりも大きな第二の幅を有した帯状の第二の複合材シートが貼り込まれていることを特徴とする構造材とすることもできる。
そして、第一の複合材シートは、当該構造材の軸線方向において湾曲している部分にて、定められた長さに切断されたものが、軸線方向に複数枚連続して貼り込まれていても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、稜線部または谷部に、第二の複合材シートよりも幅の狭い第一の幅を有した第一の複合材シートを貼り込むことで、稜線部または谷部の両側において、第二の複合材シートに切れ目を入れる必要がなく、構造材の全体強度が落ちるのを抑えることができる。
また、第一の複合材シートは、構造材がその軸線方向において湾曲している部分にて、あらかじめ定められた長さに切断されたものを、軸線方向に複数枚連続して貼り込むようにした場合は、その長さを調整することで、様々な曲率半径にも容易に対応することができる。
したがって、構造材を構成する複合材シートにシワが生じるのを抑えつつ、構造材の強度を十分に確保し、その製造を効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態における複合材からなる構造材の製造方法を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用できる構造材の他の例を示す断面図である。
【図3】従来の複合材からなる構造材の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における航空機の翼に備えられるスパー(構造材)10について説明するための図である。
この図1(a)に示すように、航空機の翼の構造材として用いられるスパー10は、ウェブ11と、ウェブ11の両端から、ウェブ11に対してほぼ直交するように延びるフランジ12、12とが、その軸線方向に直交する断面がコ字状となるよう形成されたものである。
このようなスパー10は、炭素繊維やガラス繊維と、樹脂とからなる複合材料により形成されている。本実施形態においては、予め、炭素繊維やガラス繊維に樹脂が含浸されてシート状とされたプリプレグシート20を用いる。
このようなプリプレグシート20によりスパー10を形成する場合、プリプレグシート20を複数層にわたって積層する。このとき、各層においては、炭素繊維やガラス繊維の繊維方向が予め定めた角度となるよう、所定幅を有した帯状のプリプレグシート20を貼っていく。互いに上下に積層されるプリプレグシート20においては、その繊維方向が互いに異なるよう、貼り付け方向を、スパー10の軸線方向を0°としたとき、例えば0°、45°、90°というようにして順次積層していく。これによって、スパー10の多方向に対する強度を向上させている。
【0016】
さて、このようにしてスパー10を形成するに際し、本実施形態においては、スパー10が、その軸線方向において湾曲している場合、スパー10の軸線方向に沿った方向にプリプレグシート20を貼るときには、ウェブ11とフランジ12との境界部分である稜線部Cには、幅の狭い狭幅プリプレグシート(第一の複合材シート)20Nを貼り付ける。そして、稜線部Cの両側のウェブ11およびフランジ12の表面においては、狭幅プリプレグシート20Nに対して幅の広い広幅プリプレグシート(第二の複合材シート)20Wを貼り付ける。
ここで、広幅プリプレグシート20Wの幅は、例えば6インチ(150mm)、12インチ(300mm)、24インチ(600mm)等とし、これらを並べて貼り付けることができる。もちろん、スパー10が小さい場合、広幅プリプレグシート20Wとして、一枚のみを貼り付けることもできる。
【0017】
一方、狭幅プリプレグシート20Nの幅は、図2(b)に示す稜線部Cの湾曲面の周長(湾曲部分の弧の長さ)L程度、あるいはそれより若干広めとし、広幅プリプレグシート20Wが稜線部Cの湾曲部分にかからないようにするのが好ましい。
狭幅プリプレグシート20Nの幅は、例えば、5〜20mm、より具体的には、例えば10mmとすることができる。狭幅プリプレグシート20Nの幅は小さいほど、その両側にシワが生じにくい。しかし、狭幅プリプレグシート20Nの幅を小さくしすぎると、稜線部Cに複数本の狭幅プリプレグシート20Nを横に並べて貼り込む必要があり、手間がかかってしまう。
【0018】
また、狭幅プリプレグシート20Nは、その長さ方向において、あらかじめ定められた所定長さごとに切断しても良い。そのような場合、稜線部Cにおいては、この稜線部Cが連続する方向に、複数の狭幅プリプレグシート20Nが、前後方向に互いに重なり合わないよう貼り付ける。
狭幅プリプレグシート20Nが切断される場合、その長さは、スパー10の軸線方向における湾曲部分の曲率半径に応じて設定される。すなわち、湾曲部分の曲率半径が大きければ、狭幅プリプレグシート20Nの長さは長く設定され、湾曲部分の曲率半径が小さければ、狭幅プリプレグシート20Nの長さは短く設定される。このようにして、様々な曲率半径にも容易に対応することができる。
【0019】
上記のように、稜線部Cに沿って狭幅プリプレグシート20Nを貼り、他の部分に広幅プリプレグシート20Wを貼るのは、基本的にスパー10の軸線方向に対して0°方向にプリプレグシート20を貼り込む場合であるが、スパー10の軸線方向に対し、プリプレグシート20を貼り込む方向が、概ね10°前後の場合にも有効である。
【0020】
上記のようにして、スパー10の軸線方向に対して0°方向に、稜線部Cに沿って狭幅プリプレグシート20Nを貼るとともに、他の部分に広幅プリプレグシート20Wを貼った後は、スパー10の軸線方向に対して、前記とは異なる所定の角度方向、例えば45°、90°、−45°といった具合に、広幅プリプレグシート20Wのみを貼っていく。このときは、広幅プリプレグシート20Wは、稜線部Cに沿ってではなく、稜線部Cを乗り越えるように貼り付けられるため、スパー10の軸線方向に対して0°方向にプリプレグシート20を貼り付ける場合に比較して、シワが生じにくい。
なお、スパー10の軸線方向に対する0°以外の所定の角度方向に貼り付けるプリプレグシート20については、稜線部Cの近傍に切れ込みを入れる必要が無い。
【0021】
上記したようにして、プリプレグシート20を所定の層数だけ積層していき、しかるのち、積層したプリプレグシート20をフィルムで覆ってフィルム内を真空引きし、図示しないヒータによりフィルム内を所定の温度プロファイルで加圧しながら加熱することにより、スパー10が形成される。
【0022】
上述したように、稜線部Cに沿って狭幅プリプレグシート20Nを貼り、他の部分に広幅プリプレグシート20Wを貼ることで、稜線部Cの両側の部分においては、切れ目のない広幅プリプレグシート20Wを貼り込むことができるので、スパー10の全体強度が落ちるのを抑えることができる。
また、狭幅プリプレグシート20Nは、スパー10が湾曲する部分において、その軸線方向に複数に分割して貼り込んでも良い。スパー10の軸線方向における湾曲部分の曲率半径に応じて狭幅プリプレグシート20Nの長さを調整することで、様々な曲率半径にも容易に対応することができる。事前に、様々な曲率半径に応じた適切な狭幅プリプレグシート20Nの長さを設定しておけば、機械を用いてプリプレグシート20(狭幅プリプレグシート20N、広幅プリプレグシート20W)を自動的に貼り込むことも容易に可能である。
したがって、プリプレグシート20にシワが生じるのを抑えつつ、スパー10の強度を十分に確保し、その製造を効率よく行うことが可能となる。
なお、狭幅プリプレグシート20Nを長さ方向に切断する場合、複数層に積層した際に、狭幅プリプレグシート20Nの切断位置が厚さ方向に並んでしまうことによって強度低下が問題になる可能性もある。そのような場合は、複数層に積層する各層で、切断位置を少しずつずらすことも、強度低下を抑えるのに有効である。
【0023】
なお、上記実施の形態では、断面コ字状のスパー10において、凸状の稜線部4に沿ってプリプレグシート20を貼り込む場合を例に挙げたが、これに限らず、断面凹状となる湾曲部(谷部)に本発明を適用することもできる。例えば、図2(a)に示すように、ウェブ31の一端部に、ウェブ31に直交するフランジ32が設けられた断面L型の構造材30A、図2(b)に示すように、ウェブ31の両端部に、ウェブ31に直交するフランジ32、32が設けられた断面I型の構造材30B、その他断面T型等の構造材(図示無し)においても、ウェブ31とフランジ32との間における稜線部Cや谷部Sにおいても、稜線部Cや谷部Sが、その連続する方向に湾曲している場合には本発明を適用できる。すなわち、上記実施形態のように、図1の場合と同様にして、稜線部Cや谷部Sに沿った部分に、狭幅プリプレグシート20Nを貼り付け、稜線部Cや谷部Sの両側には、広幅プリプレグシート20Wを貼り付けるようにする。このようにして、稜線部Cや谷部Sの両側でシワが生じるのを抑え、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。これ以外にも、他の断面形状に対しても同様に本発明を適用することができる。
また、本発明を適用する対象は、航空機の翼の構造材に限られるものではなく、他の様々な目的の構造材に対して同様に適用できることはいうまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
10…スパー(構造材)、11…ウェブ、12…フランジ、20…プリプレグシート、20N…狭幅プリプレグシート(第一の複合材シート)、20W…広幅プリプレグシート(第二の複合材シート)、30A…構造材、30B…構造材、31…ウェブ、32…フランジ、C…稜線部、S…谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と樹脂とを含むシート状の複合材料を用いた構造材の製造方法であって、
前記構造材において断面凸状の稜線部または断面凹状の谷部に沿って、第一の幅を有した帯状の第一の複合材シートを貼り込むとともに、
前記稜線部または前記谷部の側方に、前記第一の幅よりも大きな第二の幅を有した帯状の第二の複合材シートを、前記第一の複合材シートとほぼ平行に貼り込むことを特徴とする構造材の製造方法。
【請求項2】
前記第一の複合材シートは、前記構造材が、当該構造材の軸線方向において湾曲している部分にて、あらかじめ定められた長さに切断されたものを、前記軸線方向に複数枚連続して貼り込むことを特徴とする請求項1に記載の構造材の製造方法。
【請求項3】
強化繊維と樹脂とを含むシート状の複合材料を複数層に積層して形成された構造材であって、
前記構造材の断面凸状の稜線部または断面凹状の谷部に沿って、第一の幅を有した帯状の第一の複合材シートが貼り込まれるとともに、
前記稜線部または前記谷部の側方に、前記第一の幅よりも大きな第二の幅を有した帯状の第二の複合材シートが貼り込まれていることを特徴とする構造材。
【請求項4】
前記第一の複合材シートは、当該構造材の軸線方向において湾曲している部分にて、定められた長さに切断されたものが、前記軸線方向に複数枚連続して貼り込まれていることを特徴とする請求項3に記載の構造材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−161808(P2011−161808A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27673(P2010−27673)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】