説明

構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法

【課題】 自動計測によって得られる膨大なデータを的確に処理することができる、構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法を提供する。
【解決手段】 構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなしてローパスフィルタをかけ、温度変化に起因する変動を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物や軌道等に計測機器を設置して自動計測を行う場合の、適切な計測頻度の設定方法と、蓄積される膨大なデータを温度変化等に起因する変動や誤差の影響を考慮して処理する方法に係り、特に、構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物にひび割れなどの変状が見られ進行することが懸念される場合や、近接施工が行われる場合などにおいて、構造物や軌道等の状況を監視することがある。このような監視に自動計測技術を用いた場合、データそのものは1〜数分間隔で取れることから、膨大な計測データが蓄積される。
また、従来、構造物や軌道等の状況を監視するための計測技術やこれを自動計測する方法は既に開発されている。例えば、光ファイバを用いたひずみ計測や、導電性の塗料を用いたひび割れ計測などが提案されている。
【0003】
また、地震時のトンネルの覆工挙動のデータをリアルタイムに把握するようにした、地震時のトンネル覆工挙動の計測システムが提案されている(下記特許文献1参照)。
一方、自動計測によって得られる膨大なデータを処理する技術は、十分に確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−300323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような計測データは、温度変化等に起因する変動や誤差の影響を受けるが、これを適切に処理する技術が提案されておらず、多くの場合1〜数時間の平均値を取って動向を見るなど、膨大な計測データを有効に活用できていないのが現状である。
特に、構造物のひび割れの変状監視においては、一般的に管理基準値を設けて計測データとの比較を行っているが、計測データそのものが温度変化等に起因して変動することから、一時的に管理基準値を超えてもそれが変状の進行によるものかが瞬時に判断できず、対応が遅れることもある。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、自動計測によって得られる膨大なデータを的確に処理することができる、構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなしてローパスフィルタをかけ、温度変化に起因する変動を除去することを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなして周波数分析を行い、周波数領域でフィルタをかけ、時刻歴のデータに戻すことを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔2〕記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記周波数分析はフーリエ変換によることを特徴とする。
〔4〕上記〔2〕記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法について、前記時刻歴のデータに戻すときは、フーリエ逆変換によることを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法について、計測データを間引くことによりサンプリング間隔を大きくしたデータを作成して周波数分析を行い、スペクトルを比較することにより、合理的なサンプリング間隔を決定することを特徴とする。
【0009】
〔6〕上記〔1〕記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記フィルタは2日あるいは1週間のローパスフィルタであり、このローパスフィルタをかけることによって前記計測データにおける温度の日変化を除去するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造物のひび割れの変状監視において、自動計測によって得られる膨大なデータを的確に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る無線センサを用いた自動計測の状況を示す図面代用写真である。
【図2】本発明に係るひび割れ幅変化の自動計測結果の例(坑口付近)を示す図である。
【図3】本発明に係るフーリエ変換の結果を示す図である。
【図4】本発明に係る計測データの間引きを示す図である。
【図5】本発明に係るサンプリング間隔を変えた場合のフーリエスペクトルを示す図である。
【図6】本発明に係る変動の誤差の影響を考慮したデータ処理フローチャートである。
【図7】本発明に係る温度変化処理の例(その1)を示す図である。
【図8】本発明に係る温度変化処理の例(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなしてローパスフィルタをかけ、温度変化に起因する変動を除去する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
トンネルのひび割れの変状監視に自動計測技術を用いた場合、膨大な計測データが蓄積されるが、温度変化等に起因する変動や誤差の影響を受けて十分に活用することができない。そこで、温度変化等に起因する変動や誤差を考慮した実務的なデータ処理方法について検討した。
【0014】
まず、トンネルのひび割れの変状監視における自動計測について説明する。
図1は本発明に係る無線センサを用いた自動計測の状況を示す図面代用写真である。
図1(a)は鉄道トンネル内のひび割れにひずみ式ひび割れ幅計1と子機2が取り付けられた様子を示しており、図1(b)は鉄道トンネルの坑口に配置される親機3と、この親機3に接続されパソコン(図示なし)に接続される配線4とを示している。
【0015】
このように、ひずみ式ひび割れ幅計1を鉄道トンネル5のひび割れに取り付け、それにより自動計測されたデータを無線を用いて坑口まで伝送するようにしている。
図2は本発明に係るひび割れ幅変化の自動計測結果の例(坑口付近)を示す図である。
この図において、aはひび割れ幅、bは温度を示している。
図2に示すように、自動計測データは温度変化に起因する変動や誤差を含んでいる。したがって、このようなデータを有効に活用するには、適当なサンプリング間隔を選択し、温度変化の影響を除去するための適切な処理が必要となる。
【0016】
次に、計測データの周波数分析について説明する。
サンプルデータの概要を表1に示す。
【0017】
【表1】

図3は本発明に係るフーリエ変換の結果を示す図であり、図3(a)はひび割れ幅計(1)(ID7,坑口近傍,10分間隔)の特性図、図3(b)はひび割れ幅計(2)(ID5,坑口より15m,1分間隔)の特性図、図3(c)はひび割れ幅計(3)(ID6,坑口より87m,1分間隔)の特性図を示す。
【0018】
図3に示すように、サンプルデータを時刻歴の波形とみなし、フーリエ変換による周波数分析を行った。
その結果、24時間にピークを持ち、また、坑口に近いほど温度の日変化の影響を受けやすく、24時間のピークが大きい傾向にあることがわかった。
次に、ひび割れ幅変化の計測間隔について検討した。
【0019】
表1及び図3に示すサンプルデータでは、計測間隔を1分あるいは10分としているが、図4のようにサンプリングを間引いたデータをつくり、同様にフーリエ変換による周波数分析を行った。
図5は本発明に係るサンプリング間隔を変えた場合のフーリエスペクトルを示す図である。
【0020】
図5(a)は10分間隔と1分間隔との比較を示す図、図5(b)は1時間間隔と1分間隔との比較を示す図、図5(c)は4時間間隔と1分間隔との比較を示す図、図5(d)は12時間間隔と1分間隔との比較を示す図である。
これらの図から、10分間隔あるいは1時間間隔データのスペクトルは、1分間隔データとほとんど同一であるが、4時間あるいは12時間間隔のデータでは差が見られる。
【0021】
上記からして、計測データのサンプリング間隔は1時間間隔程度とするのが合理的であると考えられる。
次に、温度日変化の対処方法について検討した。
図6は本発明に係る変動の誤差の影響を考慮したデータ処理フローチャートである。温度の日変化による影響を除去するため、
(1)ひび割れ幅の経時変化のデータをフーリエ変換し(ステップS1)、
(2)周波数領域でフィルタをかけ(単純化のため矩形のフィルタとする)(ステップS2)、
(3)フーリエ逆変換により時刻歴のデータに戻す(ステップS3)、という処理を行った。
【0022】
図7は本発明に係る温度変化処理の例(その1)を示す図であり、図7(a)はひび割れ幅計(1)(ID7)による計測データに2日あるいは1週間のローパスフィルタをかけて処理した例を示す図、図7(b)はひび割れ幅計(2)(ID5)による2日あるいは1週間のローパスフィルタをかけて処理した例を示す図である。
図7からも明らかなように、2日あるいは1週間のローパスフィルタをかけたところ、温度の日変化による影響を除去することができた。
【0023】
図8は本発明に係る温度変化処理の例(その2)を示す図であり、図7(a)における6000〜8000データからなる2000データを抜粋した図である。
この図8から明らかなように、生データaと2日のローパスフィルタをかけたデータbと1週間のローパスフィルタをかけたデータcとが明確に示されており、温度の日変化による影響を除去できていることが分かる。
【0024】
上記したように、本発明によれば、適当なサンプリング間隔を決定して自動計測を行い、さらにそのデータから温度日変化による影響を除去することによって、膨大な自動計測データを的確に処理し活用することができる。
なお、上記実施例では、トンネルのひび割れの変状監視における計測データの処理方法として記述したが、この処理方法は、構造物や軌道などの計測データの処理方法として広範に利用可能である。
【0025】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法は、自動計測によって得られる膨大なデータを的確に処理することができる、構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 ひずみ式ひび割れ幅計
2 子機
3 親機
4 配線
5 鉄道トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなしてローパスフィルタをかけ、温度変化に起因する変動を除去することを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記構造物のひび割れ幅の経時変化データを時刻歴の波形とみなして周波数分析を行い、周波数領域でフィルタをかけ、時刻歴のデータに戻すことを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。
【請求項3】
請求項2記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記周波数分析はフーリエ変換によることを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。
【請求項4】
請求項2記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記時刻歴のデータに戻すときは、フーリエ逆変換によることを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、計測データを間引くことによりサンプリング間隔を大きくしたデータを作成して周波数分析を行い、スペクトルを比較することにより、合理的なサンプリング間隔を決定することを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。
【請求項6】
請求項1記載の構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法において、前記フィルタは2日あるいは1週間のローパスフィルタであり、該ローパスフィルタをかけることによって前記計測データにおける温度の日変化を除去するようにしたことを特徴とする構造物のひび割れの変状監視における計測データの処理方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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