説明

構造物の亀裂検査用被覆

構造物の表面に視認性液を封入したマイクロカプセルを分散させた被覆層を形成しておき、該構造物に亀裂が生じた際にその亀裂が該被覆層に伝わって、それに伴って該被覆層中のマイクロカプセルが破壊され、該マイクロカプセルから流出した視認性液が被覆層中の亀裂を伝わって被覆層表面に達することで、該構造物の亀裂発生を検知できるようにした構造物の亀裂検査用被覆において、該マイクロカプセルを分散させた第一被覆上にマイクロカプセルを含まない少なくとも1層の第二被覆層を設けると共に、該第二被覆層が透明であって且つ該第一被覆層に亀裂が生じた場合にも亀裂を生じないだけの十分な柔軟性をもつ最外層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は構造物の亀裂検査用被覆に関し、特に船舶、橋梁、車輌、航空機、工作機械等の各種構造物の疲労亀裂の検査用被覆に関するものである。
【背景技術】
船舶、橋梁、車輌、航空機、工作機械等の構造物は鉄、アルミニウム、マグネシウム等の金属やそれらの合金等で主として構成されているが、これらの金属製構造物に繰り返し荷重が作用すると、金属疲労によって特にその応力集中部に亀裂を生じることがある。このような構造物の疲労亀裂は時間の経過とともに徐々に進展するものであるため、定期的、又は不定期的に構造物の亀裂検査を行なうようにしている。
このような亀裂検査には、一般に目視検査が行われ、特別な場合、超音波探傷等の機器による精密な検査が実施されている。例えば、特開平4−169836号公報には、細線の破断時期から対象構造物の歪変動幅を求めることにより、精度良く疲労損傷発生時期を予知する方法が開示されている。また、実開平1−180757号公報には、構造物の亀裂検出個所にリボン状導電膜を形成し、その両端に導通検出器を接続して、リボン状導電膜が亀裂の発生とともに破断されるのを導通検出器により検出することで、早期に疲労亀裂の発生を検知する方法が開示されている。
しかしながら、前記精密検査方法は、いずれも測定機器の設置が必要となるためコストがかかり、また、測定機器の取扱いが煩雑であるため熟練を要するなど課題も多かった。さらに、狭い場所や部材が入り組んだ個所等を検査する場合には、測定機器を使用することが難しく適用できないということもあった。
このような測定機器を用いた検査方法の問題点を解決するため、特開平10−267866号公報(先行技術1)には、構造物の表面に可視化液を封入したガラスカプセルを分散させた被覆層を形成することで、構造物に生じた亀裂に沿って前記被覆層に亀裂が生じることで被覆層中のガラスカプセルの破壊が起こり、可視化液が被覆層の表面に流出することにより亀裂個所を検知することが開示されている。
また、米国特許第5,534,289号(先行技術2)では、構造物表面に、可視化液を封入したマイクロカプセルを分散させた第一被覆層を形成し、さらにその上に可視化液とは色の異なる第二の被覆層を設け、前記構造物に亀裂が生じた際に、その亀裂が第一及び第二の被覆層に伝播し、それに伴ってマイクロカプセルが破壊し、マイクロカプセルから流出し亀裂を伝わって当該第二被覆層の表面に達した可視化液を感知することで前記構造物の亀裂発生を検知することが開示されている。なお、ここでは可視化液として赤色染料を使用している。
先行技術1及び2に示される可視化液を使用する方法では、構造物に生じた亀裂に沿って被覆層表面に可視化液がしみ出し、これを視認することによって亀裂の有無を確認しているが、被覆層表面にしみ出た可視化液が時間の経過とともに少しずつ退色して次第に視認できなくなるといった問題があった。
また、先行技術2ではアゾ系、アントラキノン系化合物の赤色染料をマイクロカプセル化してこれを可視化液として主に使用し、このマイクロカプセルを分散させた被覆層を構造物表面に塗布形成するようにしている。しかしながら、この可視化液を使用した場合、構造物の亀裂に伴って発生した赤色の可視化液が紫外線などの影響により少しずつ退色して次第に視認できなくなると言った問題があった。
発明の目的
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、必要とされる亀裂検査精度(染料のしみ出しによる視認性)は、次の検査時までに事故につながる危険性のある寸法の亀裂を見落とさない程度の検査精度が好ましいという立場にたって、前記先行技術のような計測機器を使用しなくとも、簡単に亀裂を検査できる構造物の亀裂検査用被覆を提供すること、及び構造物に発生した亀裂に応答して破損マイクロカプセルから流出した視認性液の長期にわたる安定性を確保することができる構造物の亀裂検査用被覆を提供することを目的とするものである。
【発明の開示】
本発明は、第1に、構造物の表面に視認性液を封入したマイクロカプセルを分散させた被覆層を形成しておき、該構造物に亀裂が生じた際にその亀裂が該被覆層に伝わって、それに伴って該被覆層中のマイクロカプセルが破壊され、該マイクロカプセルから流出した視認性液が被覆層中の亀裂を伝わって被覆層表面に達することで、該構造物の亀裂発生を検知できるようにした構造物の亀裂検査用被覆において、該マイクロカプセルを分散させた第一被覆上にマイクロカプセルを含まない少なくとも1層の第二被覆層を設けると共に、該第二被覆層が透明であって且つ該第一被覆層に亀裂が生じた場合にも亀裂を生じないだけの十分な柔軟性をもつ最外層を有することを特徴とする構造物の亀裂検査用被覆である。
本発明は、第2に、該最外層の伸び量が該第一被覆層の伸び量及び該第二被覆層中に最外層以外の層が存在する場合の最外層以外の層の伸び量のそれぞれ17倍以上である上記の構造物の亀裂検査用被覆である。
本発明は、第3に、マイクロカプセルに封入されている視認性液がニグロシン系化合物及び溶媒を主成分とし、その重量比率がニグロシン系化合物:溶媒=1:55〜1:0.37である上記の構造物の亀裂検査用被覆である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の構造物の亀裂検査用被覆を構成する第一被覆層としては基本的には従来公知のマイクロカプセル含有被覆層を用いることができる。この場合、マイクロカプセルに封入する視認性液としては従来公知の染料や顔料を溶解ないし分散させた、液状物が使用できる。その具体例としては、染料としてはアゾ系、アントラキノン系等の染料が挙げられる。また、これらの染料は従来から公知の、例えば鉱油、オレイン酸、リノール酸等の疎水性溶媒に溶解した液状でマイクロカプセル化することが好ましい。
染料と溶媒の混合比については特に規定はないが、色の濃度、溶解度の観点から染料:溶媒=0.5:9.5〜2.5:7.5(重量比)程度の混合比が好適に用いられる。また、視認性液として蛍光染料を併用して使用すると、例えば、構造物が船舶内の暗い環境に構築されている場合には、ブラックライトを照射することによって、亀裂により被覆層から流出した蛍光染料を鮮やかに浮き上がらせることができ、より一層亀裂の確認が容易になる。
本発明者等は本発明の効果を最大限に発現する視認性液についても検討し、ニグロシン系化合物及び溶媒を主成分とし、その重量比率がニグロシン系化合物:溶媒=1:55〜1:0.37であるものがより顕著な効果を示すことを見出した。ニグロシン系化合物はニグロシン又はニグロシンの誘導体であり、その具体例としては、ソルベントブラック5、ソルベントブラック7等が挙げられるが、勿論こられに限定されるものではない。また、この場合の溶媒も亀裂発色時に雨水・海水等の水分に溶解しないという点から、前記したような疎水性溶媒が好ましい。
ニグロシン系化合物と溶媒の混合割合において、ニグロシン系化合物1重量部に対して溶媒を55重量部を超えて配合した場合視認性が十分ではなく、また、溶媒添加量を0.37重量部より少なくすると視認性液の粘性が高くなり、マイクロカプセル化が困難になると共に、マイクロカプセル化された場合でも、亀裂を伝わって表面に達する視認性液量が少なくなる。
第一被覆層の厚さは特に制限されず、最適範囲はマイクロカプセルの粒径によって異なるが、一般的には50〜500μm、特に100〜350μmが好ましい。50μm未満では、これより平均粒径の小さいマイクロカプセルを使用しなければならず、そうするとカプセル内の視認性液の絶対量が不足したり、カプセルが破壊されにくくなり、発色性が劣ることになりやすい。また、500μmを超えると構造物に生じた亀裂が第一被覆層の塗膜に伝播しにくくなる。
本発明で用いるマイクロカプセルの粒径も特に制限されないが、30〜300μm、特に50〜200μmの平均粒径をもつものが好ましい。30μm未満ではカプセル内の視認性液の絶対量が不足したり、カプセルが破壊されにくくなり、発色性が劣ることになりやすい。また、500μmを超えると構造物に生じた亀裂が第一被覆層の塗膜に伝播しにくくなる。
本発明では、視認性液を内包したマイクロカプセルを分散して第一被覆層を形成するが、この被覆層を形成する材料としては、塗料やコーティング剤等に使用される各種の硬化性もしくは固化性の流体状樹脂組成物が好ましく使用できる。これら樹脂組成物としては、例えばエポキシ系、ウレタン系、アクリル系、硝化綿系、シリコーン系、変成シリコーン系の塗料、コーティング剤、被覆剤等を使用することができる。特にビスフェノールA型やビスフェノールF型等のエポキシ樹脂が好ましい。これらの塗料、コーティング剤、被覆剤は、加熱、湿気、光の照射、2液混合等の様々な手段で硬化する反応性の樹脂組成物を主成分としてもよいし、上記の種々の樹脂を溶剤に溶解した形態で被着体に塗布し溶剤の蒸散により固化されてもよく、また両方の手段を併用してもよい。
また、第一被覆層を形成するバインダーは、視認性液を内包したマイクロカプセルや被着体となる構造物の表面色を隠蔽し、かつ、視認性液の流出による視認性を確保するため、非透明性であることが好ましく、特に白色、乳白色などの白色系に着色されていることが望ましい。このような着色に有効な材料としては、例えば、酸化チタン、炭化カルシウム、タルク等の白色系顔料や白色系充填剤を用いることができる。
次に、視認性液内包のマイクロカプセルの製造手法としては、コアセルベーション法、in−situ重合法、界面重合法、液中硬化法など従来公知の方法を用いることができる。それらの中でも被覆層を被着体表面に形成する際のマイクロカプセル膜の安定性を考慮すると、材質としてはゼラチンが適している。
また、第一被覆層を形成するバインダー成分と視認性液内包マイクロカプセルの配合割合は、視認性液の内包量やマイクロカプセルの粒径にもよるが、概ね重量比で樹脂:マイクロカプセル=4:1付近、あるいは容量比で2.5:1付近が適当である。前記基準値よりマイクロカプセル比率が低くなるにつれ亀裂発生時の発色が十分でなくなり、また、比率が高くなるにつれて塗膜の塗布形成時にマイクロカプセルの破壊が起こったり、粘度が高くなり塗布が困難になる。
本発明ではこのようにして形成した第一被覆層の上に第二被覆層を塗布する。第二被覆層は最外層だけで構成されていても、また最外層とは別に1層以上の層(以下「中間層」という)を有する構成となっていてもよい。中間層を塗布する際の中間層としては非透明に着色された層が好ましい。中間層の存在により第一被覆層の外観特性を向上させて発色時の視認性を高めうる。中間層の厚さは特に制限されてないが、50〜500μm、特に100〜350μmが好ましい。50μm未満では中間層の機能を十分には発現しにくく、また500μmを超えると構造物に生じた亀裂が伝播しにくくなる。
中間層の、非透明に着色された被覆層を形成する材料(塗料)としては、第一被覆層と同様に、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂を主成分とした様々な流体状組成物が使用できる。それらの中でも環境汚染や作業環境を考慮すると反応性の樹脂組成物が好ましい。特に第一被覆層で用いたと同種のものが好ましく、エポキシ樹脂が最も好ましい。
視認性液を内包したマイクロカプセルを分散させた第一被覆層と、マイクロカプセルを含まない透明の最外層をもつ第二被覆層からなる二層構造とすることにより、本発明の目的は達成可能である。したがって、必ずしも第二被覆層を複数層構造とする必要はないが、第二被覆層を複数層とする場合には、最外層を透明層としてその他の中間層は亀裂により流出した視認性液を層内に留め発色を保持する層として活用することが好ましい。その意味において前述の中間層は、視認性液の種類にもよるが、白色や乳白色などの色相を持つ中間層とすることが好ましい。また、飛び石など外部からの衝撃により第一被覆層のマイクロカプセルが破壊されるのを防ぐため保護層としての役目も果たす。さらに、マイクロカプセルを分散させた第一被覆層及び透明の第二被覆層の二層構造では、視認性液の色を完全に隠蔽することができないため、発色時の色のコントラストが弱い傾向にある。
第二被覆層の全体又は一部を形成する透明の最外層は、構造物の亀裂に追従して亀裂を生じないよう柔軟性を持つことが必要である。この柔軟性の目安としては、透明最外層とそれと積層される他の層(第一被覆層、第二被覆層の中間層)との密着性にも影響されるが、層(塗膜)としての伸びが大きいことが必要であり、好ましくは最外層の伸び量がその他の被覆層の伸びに対して17倍以上である必要がある。一方、最外被覆層の伸び量がその他の被覆層に対して5倍程度未満であると、最外被覆層は他の層の亀裂発生とほぼ同時に亀裂が発生し、この亀裂から視認性液が流出してしまうため、水中・海水中での使用や雨水のかかる部位への適用等に際して、長期に亘る視認性の確保が困難になる。なお、マイクロカプセルを含む第一被覆層は、構造物基体との密着性が高く、かつ、伸びが低い方が望ましい。第一被覆層の伸びは3mm以下、特に1mm以下が好ましい。
また、第二被覆層の最外層は、その直下の被覆層との間のせん断接着力が1MPa以下であることが望ましい。接着力が高く、直下の層に密着していると、構造物及び直下層の変位の影響を受けやすく、亀裂を生じやすくなる。一方接着力が低いと、直下の被覆層との間に間隙ができやすく、変位の影響を受けにくくなる。なお、第二被覆層の最外層を形成するための材料としては、例えば、ポリイソブチレンゴムやスチレン−ブチレン共重合体ゴム等の溶剤希釈型ゴム塗料、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂等を主成分とした様々な流体状組成物から前記した柔軟性を満足するものが適宜選択される。
最外層の厚さは通常10〜500μm、特に20〜200μmが好ましい。10μm未満では第一被覆層さらには中間層に伝播した亀裂が最外層にも生じてしまうおそれが生ずる。500μmを超えると外観不良を生じやすくなる。
最外層は透明であることを要するが、ここで透明とは少なくともその直下の層の状態を視認しうる程度に透明であることをいう。透明性を維持している限り着色されていてもよいが、無色透明であることが最も好ましい。透明性は可視光領域の光透過率が50%以上であることが好ましい。
第一被覆層、所望により設ける中間層、及び透明最外層の好ましい材料の組合せとしては、エポキシ樹脂(第一被覆層)、エポキシ樹脂(中間層)及びポリイソブチレン系ゴム(透明最外層)の組合せを挙げることができる。
次に、本発明の亀裂検査用被覆を構造物に適用する工程について説明する。まず、第一被覆層を形成する樹脂組成物に視認性液を内包したマイクロカプセルを混合して塗料組成物を調製する。次いで、亀裂検査を必要とする構造物の表面にこの液状の組成物を刷毛などにより塗布形成する。なお、前記液状組成物の被着体構造物への塗布は、配合されたマイクロカプセルが破壊されないような塗布方法であれば特に限定されない。
次に、第二被覆層を形成する樹脂組成物を予め調製し、この組成物を前記のようにして形成した第一被覆層に重ねて塗布し第二被覆層を形成する。この時第一被覆層を含めそれぞれの被覆層の塗布方法は、刷毛塗り、ロール塗布、スプレー塗布等従来公知の方法を用いることができる。また、第二被覆層を複数層とする場合は、上記の方法を用いて繰り返し積層塗布すればよい。
本発明の第一及び第二被覆層を形成するバインダーとしての樹脂組成物には、本来の性能を損なわない限り、他に必要に応じて従来から公知の添加剤を配合することもできる。例えば、構造物が鉄などの錆びやすい材料で構成される場合は、防錆剤等を添加してもよい。
本発明における構造物としては、金属疲労により亀裂を生じやすい金属製の構造物、例えば船舶、橋梁、車輌、航空機、工作機械などの金属構造物が挙げられるが、例えば、特許第3329029号に記載されるように、視認性液の封入マイクロカプセルの粒径を適宜選択することによりコンクリート構造物に応用することも可能であるし、同様にして各種の強化プラスチック製構造物への応用も可能である。
【発明の効果】
本発明では、視認性液を内包したマイクロカプセルを分散させた第一被覆層の表面に、最外層が透明で柔軟性のある第二被覆層を積層したので、被着体(金属製構造物やコンクリート構造物)の表面に亀裂が発生しても、最外層に柔軟性があるため最外層までは亀裂が伝播せず、したがって、第一被覆層のマイクロカプセルから流出した視認性液が被覆層の外部へ流出せず、第二被覆層の透明層により被覆層内に滞留保護されるため、視認性液の耐水性・防水性が向上し、視認性液による亀裂個所の識別が長期に亘って確保される。
【実施例】
実施例1〜5及び比較例1
カプセルの製造:アゾ系染料(オリエント化学社製)100重量部にオレイン酸5500重量部を加え撹拌し、視認性液を作製した。(アゾ系染料:溶媒=1:55)また、450重量部のゼラチン(宮城化学製 ブルーム強度320)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解した。この溶液を撹拌しながら前記視認性液を投入、視認性液を分散した。次に、450重量部のアラビアゴム(和光純薬製)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解、濾過し不溶物を除去した後、前記分散液に投入した。ついで、45℃に加熱した水9000重量部を前記分散液に加えた。その後、15%酢酸を用い分散液pHを4.9に調整した。分散液を10℃まで冷却した後、25%グルタルアルデヒド溶液(和光純薬製)200重量部を加え、室温で約8時間撹拌し、マイクロカプセルスラリーを得た。これを濾過乾燥し、マイクロカプセルを得た。平均粒径は約115μmであった。
塗料化:乾燥し得られたマイクロカプセル100重量部に対し、本剤硬化剤混合済みの2液性エポキシ塗料(中国塗料社製 エピコンT−500 白色塗料)400重量部を混合した。尚、本剤と硬化剤は340重量部と60重量部ずつ加え、予め混合した(第一被覆層用塗料 以下マイクロカプセル含有エポキシ塗料という)。
【実施例1】
評価試験用試験片作製:上記のとおり混合したマイクロカプセル混合塗料を、刷毛を用いてアルミニウム−マグネシウム系合金(JIS−A5083P−O)製平板試験片(図1参照)に塗布し硬化させて第一被覆層を形成した。次に、この第一被覆層上に、上記マイクロカプセルを含まない2液性エポキシ塗料(中国塗料社製 エピコンT−500 白色塗料)を刷毛を用いて上塗りし硬化させた(第二被覆層の中間層)。乾燥後の塗膜厚は100〜150μm(第一被覆層と第二被覆層の中間層の合計)であった。さらに、透明の最外被覆層(第二被覆層の透明層)として、イソブチレン系ゴム塗料(株式会社スリーボンド製TB1171)を刷毛を用いて塗布し、乾燥固化した。固化後の塗膜厚は30〜100μm(透明層のみ)であった。
【実施例2】
第二被覆層の中間層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【実施例3】
最外被覆層(第二被覆層の透明層)として、スチレン−ブチレン系ゴム塗料(株式会社スリーボンド製TB2903B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【実施例4】
第二被覆層の中間層を設けず、かつ最外被覆層(第二被覆層の透明層)としてスチレン−ブチレン系ゴム塗料(株式会社スリーボンド製TB2903B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【実施例5】
カプセルの製造:ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)100重量部にオレイン酸5500重量部を加え撹拌し、視認性液を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:55)また、450重量部のゼラチン(宮城化学製 ブルーム強度320)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解した。この溶解を撹拌しながら前記視認性液を投入、視認性液を分散した。次に、450重量部のアラビアゴム(和光純薬製)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解、濾過し不溶物を除去した後、前記分散液に投入した。ついで、45℃に加熱した水9000重量部を前記分散液に加えた。その後、15%酢酸を用い分散液pHを4.9に調整した。分散液を10℃まで冷却した後、25%グルタルアルデヒド溶液(和光純薬製)200重量部を加え、室温で約8時間撹拌し、マイクロカプセルスラリーを得た。これを濾過乾燥し、マイクロカプセルを得た。平均粒径は約115μmであった。このマイクロカプセルを用いる以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
(比較例1)
最外被覆層として、透明の反応性ウレタン系塗料(株式会社スリーボンド製スリーロンジーA−850)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
評価試験 疲労亀裂進展試験:図1に示す寸法(mm)をもつ上記試験片を3%人工海水(八洲薬品製アクアマリン使用)に浸漬した状態で電気−油圧サーボ式疲労試験機(島津サーボパルサー、動的容量10tonf)に取り付け、荷重0〜1.6tonf、周波数4Hzの完全片振り繰り返し引張り荷重により、疲労亀裂進展試験を行った。試験片に亀裂が発生し、20mm程度の長さに成長するまで試験を続け(繰り返し回数は約20〜45万回)、試験部の外観を目視にて観察した。その結果を表1に示す。
最外被覆層の物性試験1 伸びの試験方法:
試験片作製;図2に示したように、2枚のアルミニウム板(試験片2)(0.3×25×100mm)を並べた上に、最外被覆層を形成する各塗料及び2液性エポキシ塗料を刷毛で塗布、乾燥して被覆層1を得た。最外被覆層を形成する各塗料の乾燥膜厚は約150μmであった。室温で約7日間乾燥後、引張試験機にて試験片を引張り、塗膜が破断するまでの伸び量を測定した。また下記式にて伸び量の比を算出した。
伸び量の比=(最外被膜層を形成する各塗料の伸び量)÷(2液性エポキシ塗料の伸び量)
結果を合わせて表1に示す。
最外被覆層の物性試験2 接着強度の試験方法:
試験片作製;アルミニウム(JIS A1040P)製の板(100×25×2mm)2枚に、所定の混合比で本剤と硬化剤を混合した上記2液性エポキシ塗料を刷毛で塗布し乾燥した。このうち一方の板に最外被覆層を形成する各塗料を刷毛で塗布、その後直ちに他方の板と貼り合わせ、試験片とした。その他方法についてはJIS K6850接着剤の引張せん断接着強さ試験方法に準じて試験。

実験例1〜5の結果から、基材に生じた亀裂によりマイクロカプセルが破壊されて視認性液が流出しても、最外層の透明被覆層が亀裂に追従伸縮して流出した視認性液を被覆層内に留めるため、水中・海中での使用や雨水のかかる部位への使用を可能ならしめ、経時による視認性液の退色を制御することができる。また、第二被覆層として有色の中間被覆層を設けた場合は、第一被覆層内のマイクロカプセルを隠蔽するため視覚上の美点を改善できたり、視認性液の色と中間層の色を適宜組み合わせることにより、より発色を強調させて視認性を向上させることができる。
さらに、使用する第一被覆層と第二被覆層(中間層も含め)に使用する樹脂組成物の種類にもよるが、概ね最外層の透明被覆層の伸びは5mm以上(好ましくは10mm以上)であることが好ましく、また、透明被覆層とその下の層との接着力は比較的低い(2MPa以下)方が望ましいことが分かる。
実施例6〜10及び参考例1〜7
【実施例6】
ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)100重量部にオレイン酸5500重量部を加え撹拌し、視認性液を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:55)また、450重量部のゼラチン(宮城化学製 ブルーム強度320)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解した。この溶液を撹拌しながら前記視認性液を投入、視認性液を分散した。次に、450重量部のアラビアゴム(和光純薬製)を3600重量部の水に投入、45℃で撹拌溶解、濾過し不溶物を除去した後、前記分散液に投入した。ついで、45℃に加熱した水9000重量部を前記分散液に加えた。その後、15%酢酸を用い分散液pHを4.9に調整した。分散液を10℃まで冷却した後、25%グルタルアルデヒド溶液(和光純薬製)200重量部を加え、室温で約8時間撹拌し、マイクロカプセルスラリーを得た。これを濾過乾燥し、マイクロカプセルを得た。平均粒径は約115μmであった。乾燥し得られたマイクロカプセル100重量部に対し、本剤硬化剤混合済みの2液性エポキシ塗料(中国塗料社製 エピコンT−500 白色塗料)400重量部を混合した。尚、本剤と硬化剤は340重量部と60重量部ずつ加え、予め混合した。混合した塗料は、刷毛をもちいてアルミ板(A1040P:1×60×100mm)に塗布乾燥し、試験片とした。乾燥後の塗膜厚は、200〜350μmであった。
【実施例7】
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)100重量部に対しオレイン酸460重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:4.6)
【実施例8】
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)410重量部に対しオレイン酸150重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:0.37)
【実施例9】
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)100重量部に対しスピンドル油260重量部及びオレイン酸200重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:4.6)
【実施例10】
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)11重量部に対しオレイン酸549重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:50)
(参考例1)
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)6重量部に対しオレイン酸554重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:91)
(参考例2)
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)450重量部に対しオレイン酸110重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:0.24)
(参考例3)
視認性液として、アントラキノン系化合物(オリエント化学社製1−アミノ−4−ヒドロキシ−2−(4−n−ノニルフェノキシ)アントラキノン 赤色染料)110重量部及び鉱油450重量部を加え作製したこと以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。
(参考例4)
視認性液の混合割合が、ニグロシン系化合物(ソルベントブラック7:中央合成化学社製)9.2重量部に対しオレイン酸550.8重量部であること以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。(ニグロシン系化合物:溶媒=1:60)
(参考例5)
視認性液として、アントラキノン系化合物(有本化学工業社OIL BLUE5502 青色染料)110重量部、トルエン225重量部及び鉱油225重量部を加え作製したこと以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。
(参考例6)
視認性液として、アントラキノン系化合物(有本化学工業社OIL BLUE5502 青色染料)55重量部、アゾ系化合物(有本化学工業社OIL YELLOW5001 黄色染料)55重量部、トルエン225重量部及び鉱油225重量部を加え作製したこと以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。
(参考例7)
視認性液として、アゾ系化合物(オリエント化学社製 SOC−1−0092 橙色染料)110重量部及び鉱油450重量部を加え作製したこと以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。
試験方法1:上記試験片の塗膜表面の一部に、カッターで幅1mm以下、長さ約5cmの切り込みをいれた。切り込み部のマイクロカプセルは破壊され、発色した。
この試験片をウェーザーメーターに投入し、1000時間経過後の状態を観察した。観察方法は下記の通りとした。
昼白色蛍光灯(40W×2)の約1.5m下に試験片を置き、試験片上方約45℃で約1mの距離から試験片を観察した。その結果を表2に示す。

【実施例11】
実施例6で使用したアルミ板(A1040P:1×60×100mm)の中央部に切り込みを入れるなどして、アルミ板を二つ折りに曲げやすいように加工し、実施例6で調整したマイクロカプセルを含むエポキシ系樹脂塗料を、切り込みのない面側に刷毛を用いて乾燥後の塗膜厚を200〜350μmとするように塗布し、乾燥して10枚の試験片を作製した。
この試験片を、塗布面を内側、又は外側にしてそれぞれ5枚ずつ前記切り込み部を中心に約90度折り曲げたところ、何れの試験片もその折り曲げ部付近の塗膜表面に線状の亀裂を生じ、マイクロカプセルの破損に伴うニグロシン系化合物の流出による発色が確認できた。
実施例6〜10の結果からも明らかなように、カプセルに内包された染料としてニグロシン系化合物を使用すると、他の染料と比較して顕著に耐候性が向上しより長期間の目視確認が可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は疲労亀裂進展試験に用いた試験片の平面図である。
図2は物性試験に用いた試験片の側面図である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に視認性液を封入したマイクロカプセルを分散させた被覆層を形成しておき、該構造物に亀裂が生じた際にその亀裂が該被覆層に伝わって、それに伴って該被覆層中のマイクロカプセルが破壊され、該マイクロカプセルから流出した視認性液が被覆層中の亀裂を伝わって被覆層表面に達することで、該構造物の亀裂発生を検知できるようにした構造物の亀裂検査用被覆において、該マイクロカプセルを分散させた第一被覆上にマイクロカプセルを含まない少なくとも1層の第二被覆層を設けると共に、該第二被覆層が透明であって且つ該第一被覆層に亀裂が生じた場合にも亀裂を生じないだけの十分な柔軟性をもつ最外層を有することを特徴とする構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項2】
該最外層の伸び量が該第一被覆層及び該第二被覆層中に最外層以外の層が存在する場合の最外層以外の層の伸び量の17倍以上である請求項1記載の構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項3】
該マイクロカプセルに封入されている視認性液がニグロシン系化合物及び溶媒を主成分とし、その重量比率がニグロシン系化合物:溶媒=1:55〜1:0.37である請求項1又は2記載の構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項4】
第二被覆層の最外層と、その直下の被覆層との間のせん断接着力が1MPa以下である請求項1又は2に記載の構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項5】
該第二被覆層が非透明の着色された中間層と透明最外層から構成されている請求項1〜4のいずれか1項記載の構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項6】
該構造物が金属製構造物である請求項1〜5のいずれか1項記載の構造物の亀裂検査用被覆。
【請求項7】
構造物の表面に視認性液を封入したマイクロカプセルを分散させた被覆層を形成しておき、該構造物に亀裂が生じた際にその亀裂が該被覆層に伝わって、それに伴って該被覆層中のマイクロカプセルが破壊され、マイクロカプセルから流出した視認性液が被覆層中の亀裂を伝わって被覆層表面に達することで、該構造物の亀裂発生を検知できるようにした構造物の亀裂検査用被覆において、該マイクロカプセルに封入されている視認性液がニグロシン系化合物及び溶媒を主成分とし、その重量比率がニグロシン系化合物:溶媒=1:55〜1:0.37であることを特徴とする構造物の亀裂検査被覆。

【国際公開番号】WO2005/001454
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511101(P2005−511101)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009266
【国際出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】