構造物の品質種別の判別方法
【目的】 構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部との判別、更に異常部の異常種別を感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく、しかも様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い判別方法を提供する。
【構成】被測定対象の構造物に、衝撃を加えることで得られる応答信号を加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いる方法であり、
規準化応答の後期応答乃至は全時間応答を用い、信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを特定の式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別する。
【構成】被測定対象の構造物に、衝撃を加えることで得られる応答信号を加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いる方法であり、
規準化応答の後期応答乃至は全時間応答を用い、信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを特定の式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の品質種別の判別方法に関し、詳しくはトンネルや建築物等の構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)の判別、更には異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を外部からの非破壊検査で判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや建築物等の構造物の躯体内部に発生している亀裂・空隙・剥離等の異常部の存在を外部からの非破壊検査で判別する技術はこれまで多数提案乃至は種々実用化されており、例えば、本出願人も特許文献1〜6に示すように複数提案している。
【0003】
本出願人による先提案技術を含めて多数提案されている従来技術はいずれも、ハンマー等による構造物表面への打撃音を人の聴覚によって感覚的に判断していた旧来の方法に替えて、各種センサー等の測定器を用いて解析することで感覚に頼らずに且つ熟練を必要とすることなく定量的に判別できるようにすることを目的としたものである。
【0004】
本出願人は当該技術について更に研究を続けたところ、人の聴覚によって構造物の品質種別を判別する旧来の方法は打撃音の音色を聞き分けることで判別していることが判り、測定器による解析によって構造物の品質種別を判別する従来技術は、打撃音の音の大きさによって判別している方法と、音色に相当する量によって判別している方法とに分類されることが判った。
【0005】
従来技術による打撃音の音圧応答の初期応答部分の規準化した音圧の大きさを用いた判別では、被測定物である構造物の各部位が健全部であるか異常部(欠陥部或いは損傷部)であるかの判別が可能である。特に、本出願人の先提案技術である特許文献1、3、4及び6では打撃音の測定を受音方向を解放したフード付きのマイクによって行っているため、打撃音の伝播音をより鋭敏に測定することができ、構造物の異常部(欠陥部或いは損傷部)の有無及びその大きさを判別できるものである。
【0006】
しかし、打撃音の音の大きさを基に解析を行うことで構造物の品質種別を判別する従来技術では、健全部であるか異常部であるかの判別は高い精度で可能となったが、異常部がどのような異常であるか、例えば、亀裂であるのか、剥離であるのか、空隙であるのか等のように異常種別まで判別することは困難であり、かかる異常種別の判別については熟練者の勘に頼らざるを得ない状況となっている。
【0007】
また、打撃音の音色に相当する量を用いた判別では、測定対象毎(現場毎)に異なる音色を物理量として定量化し、判別に用いることが著しく困難であり、測定条件等の制約が大きく実用的ではないというものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−311724
【特許文献2】特開2001−343369
【特許文献3】特開2002−303610
【特許文献4】特開2002−303611
【特許文献5】特開2002−340869
【特許文献6】特開2005−121586
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)を判別できるだけでなく、異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく、しかも様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い構造物の品質種別の判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
【0011】
1.被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別する方法であって、
前記品質種別の判別が、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別であると共に、前記異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)の判別であり、
前記規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを下記式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することを特徴とする構造物の品質種別の判別方法。
【数2】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【0012】
2.前記各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数が複数個であり、抽出した複数個の値を加算し、加算による複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の向上乃至は低下を定量的に確認することで品質種別の判別性能の向上を図ることを特徴とする上記1に記載の構造物の品質種別の判別方法。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【0013】
3. 前記衝撃を加える手段がインパルスハンマーであり、
前記応答信号の測定が、前記インパルスハンマーの打撃点に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定であること、
を特徴とする上記1又は2に記載の構造物の品質種別の判別方法。
【0014】
4.前記応答信号が、音圧応答又は振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の構造物の品質種別の判別方法。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に示す発明によれば、構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)を判別できるだけでなく、異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく、しかも様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い構造物の品質種別の判別方法を提供することができる。
【0016】
特に、打撃音の音色による判別を定量的に行うことができるので、パラメーター・判別用の式・判別境界値等を適宜選定することで種々の品質種別の判別に適用することができる。
【0017】
請求項2に示す発明によれば、判別精度の向上や低下を定量的に確認することができるので、判別性能を適宜向上させることができる。
【0018】
請求項3に示す発明によれば、構造物中であって且つ構造物事態を伝播した伝播打撃音(振動)をフード部材により周囲の雑音が遮音された状態で測定することができるので、応答信号の応答波形が暗振動又は暗騒音以下に減衰するまでの応答をより鮮明に採取することができる。
【0019】
請求項4に示す発明によれば、音圧応答、振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)のいずれの値を用いても判別することができるので、判別用の式や判別境界値を測定対象に合わせて柔軟に作成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る構造物の品質種別の判別方法は、トンネル、コンクリート建築物及びその他の建築物や、その他の構築物等の構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)の判別、更には異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を外部からの非破壊検査で判別する方法であり、被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別するものである。
【0022】
構造物の品質種別の判別は、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別のみならず、異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)まで判別するものである。しかも、かかる判別は、感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく可能であると共に、様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い判別方法である。
【0023】
品質種別の判別を行うには、前記得られた規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することによって行われる。規準化距離δを求めるには、下記式(1)を用いる。
【0024】
【数3】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【0025】
尚、本発明においては、規準化応答の「後期応答」とは全時間応答から初期応答を引いたものを言い、「全時間応答」とは応答波形が暗振動または暗騒音以下に減衰する時間に対する応答を言い、「初期応答」とは衝撃源の衝撃時間(衝撃力波形が正弦半波で仮定できる場合の衝撃源が衝撃を加えた被測定対象面に接触している間の時間)内での応答(強制応答とも言う。)を言う。
【0026】
本発明は、規準化応答の後期応答乃至は全時間応答、即ち、全時間応答の内の少なくとも後期応答を含む部分の周波数特性に着目し、かかる部分の周波数特性を分析することで、健全部と異常部との判別のみならず、異常部の種別まで判別するものである。
【0027】
応答信号を得るための衝撃手段としては、この種の打音検査技術分野に用いられる公知公用の手段であって概ね一定の条件での衝撃を付与する手段を特別の制限無く用いることができ、例えば、好ましい衝撃手段としては、衝撃波が得られるような概ね一定の加振力で構造物表面に対して打撃を加えることができるインパルスハンマーによる衝撃を挙げることができる。
【0028】
また、応答信号の測定手段としては、前記衝撃を加える手段によって衝撃を付与された衝撃点(例えば、インパルスハンマーの打撃点)に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定を挙げることができる。
【0029】
前記1/Nオクターブバンド分析は、例えば、500Hzバンド、4kHzバンドの如き1オクターブバンドや、5000Hzバンド、400Hzバンド、160Hzバンドの如き1/3オクターブバンド等を用いることができるが、バンド幅については判別すべき測定対象に応じて適宜好ましいバンド幅を選択する。例えば、1/3オクターブバンドで判別が困難である場合には、1/6オクターブバンド、1/12オクターブバンドというようにバンド幅を細かくしていくことで様々な条件に対応することができる。
【0030】
各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数は1個又は複数の任意の数であり、好ましくは複数個である。複数個の規準化距離δの値を加算して、該加算した複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率(=1−正答率)が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の上下動を定量的に確認することで品質種別の判別性能を適宜向上させることができる。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【実施例】
【0031】
次に、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法を実施例に従って詳細に説明する。
【0032】
構造物の品質種別の判別実験を行うため、2007年3月25日の能登半島地震により損傷を受けた2階床スラブ(デッキ床スラブ)を実験材料として用い、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法(以下、単に「本発明の方法」ということもある。)について検証した。
【0033】
対象とする床スラブについて表面の目視及び下階から床スラブ下面の打検棒(パルハンマー)による聴覚テストにより、健全部・亀裂部・剥離部(デッキ鋼材部分と鉄筋コンクリート部分との剥離)の3種類の品質種別を有する部分を予め検出し、当該3種類の品質種別を有する部分が含まれる特定区域を検出資料区域とした。
【0034】
次に、本発明の方法によって前記3種類の品質種別を検証するため、床スラブ上面から前記検出資料区域についてインパルスハンマーによる打撃を加えて、床スラブ内を伝播する打撃音をフード部材付きマイクによって採取し、当該検出資料区域における応答信号を得、得られた音圧応答信号を前記インパルスハンマーによる衝撃力の大きさで除することで規準化音圧応答を得た。打撃は、前記検出資料区域内を任意の間隔毎に3回/1箇所で行った。
【0035】
図1は本発明の方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図である。尚、図1において、1はインパルスハンマの如き打撃手段、2は力検出器・アンプ、3はマイク31とフード32とを有して構成される受音手段、4は音圧検出器・アンプ、5はAD変換機、6は打撃手段1による打撃情報や受音手段3による受音情報・測定結果を記録すると共に得られた測定値から判別結果を算定するためのパソコン、7はRC部71とデッキ鋼材部72とから構成される床スラブ、を各々示す。
【0036】
上記の打撃によって得られた複数の測定情報の一部を図2〜図10に示す。
図2〜図4は加振力と音圧応答の波形を示すものであり、図2は複数の健全部の中の任意の一箇所、図3は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図4は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。尚、音圧応答は、第一波の最大値が加振力の最大値と同じ値になるように規準化して表示している。
図5〜図7は加振力と音圧応答の初期波形を示すものであり、図5は複数の健全部の中の任意の一箇所、図6は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図7は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。
図8〜図10は初期応答のインピーダンスレベル(この場合、音圧応答から振動速度応答が得られることに基いて算出したインピーダンスレベルを言う。)と全時間応答のインピーダンスレベルを示すものであり、図8は複数の健全部の中の任意の一箇所、図9は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図10は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。尚、3回の打撃を1枚のグラフに重ねて表示している。
【0037】
測定した結果の内、先ず、インパルスハンマーの加振力と打撃音の大きさ(音圧応答の最大値)からコンクリート等価厚さを算定(前記加振力と前記音圧応答の最大値との比から算定)することで品質種別の判別する従来方法を行ってみたところ、被測定対象を無限大コンクリート板と仮定した時の厚さに相当する量Ts(等価厚さ)を求めてヒストグラム表示した結果、ヒストグラム分布は健全部と異常部の2峰性を示した。健全部の値は、実際の床スラブの厚みと同等の値(デッキスラブの凹凸を平均化した値)であり、異常部(亀裂部と剥離部)は実際の床スラブの厚みより小さな値を示した。即ち、健全部と異常部の判別を行うことはできた。しかし、異常部については、亀裂部と剥離部の2種類について明確に区別できる値を示すことはできず、異常部の異常が亀裂であるか剥離であるかの判別はできないことがわかった。
【0038】
次に本発明の方法、即ち、測定した音圧応答信号及びインパルスハンマーによる衝撃力の大きさから得られた基準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき亀裂部及び剥離部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の前記異常部の異常種別を判別してみた。規準化距離δは前述した前記式(1)を用い、1/Nオクターブバンドは1/3オクターブバンドとし、各基準化距離δの値は大であるものから3個を抽出して用いた。
【0039】
図11に、品質種別毎、即ち、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別について品質種別ごとに1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示す。
【0040】
図11の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との間に差があることが判る。更に2種類の異常部についても、亀裂部と剥離部との間に差がある部分があることが判る。
【0041】
更に図12に、図11の亀裂部と剥離部の結果と、この2種類の異常部の規準化距離δを前述の式(1)で求めた結果を示す。
【0042】
図12の結果から、亀裂部と剥離部との間で5000Hz、400Hz、160Hzの部分で差が大きいことが判る。5000Hz、400Hz、160Hzはいずれも1/3オクターブバンドである。
【0043】
次に図13に、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0044】
更に図14に、160Hz、400Hz、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて、図13と同様に、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。尚、160Hzのバンドでは、亀裂部と剥離部との大小関係が他の2バンドとは逆転しているので、当該160Hzの値に負号を掛けてから加算することで前記複合パラメータを求めた。
【0045】
図13及び図14の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との分布に差があることが判り、更に異常部についても亀裂部と剥離部との分布に差があることが判る。特に、基準化距離δの値について大であるものから3個を抽出して加算して複合パラメータとして用いた図14では、亀裂部と剥離部との分布の差がより顕著となることが判る。
【0046】
更に、図13と図14の各々データを用いて、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを前記式(2)より求めた。結果は表1と表2に各々示す。
【0047】
標準境界点Mは、各々2種類の異常種別を母集団として、判別すべき品質種別(ここでは「剥離部」である。)に入ると判別すべきデータを見逃す確率(見逃し率)と、「剥離部」とは判別されてはならないものを判別してしまう確率(誤答率)を同じくする境界点を示す。或いは、μ1、μ2をσ1、σ2で内分する点でもある。図15に概念図を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1、表2には、見逃し率を0.1とするための境界点の計算結果も示している。更に、この時の誤答率(=1−正答率)も示している。尚、以上の計算はいずれも正規分布を仮定したもので、例えば、境界点の値をMとした時の見逃し率Er(M)は、正規分布の確率分布関数をF(x)とすると下記式で計算される。
【数4】
【0051】
更に、表1及び表2に示すように、標準境界点における見逃し率は、5000Hzのデータのみを用いたときに0.31、160Hz、400Hz、5000Hzの複数のデータを用いたときに0.24となり、後者の方が判別性能が向上していることが確認できる。
【0052】
次に、音圧応答を応答信号として用いた上記実施例に替えて、振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)を用いて規準化応答を得、得られた基準化応答を基に上記実施例と同様に前記3種類の品質種別の判別を検証した。規準化した打撃を加える手段・位置・回数等の諸条件は前記と同様にした。振動として用いる値は、加速度振動ピックアップによって得られた波形を用いた。
【0053】
得られた規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/3オクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と異常部(亀裂部と剥離部)のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は3個)の値を抽出し、抽出した値から構造物の前記異常部の異常種別を判別してみた。規準化距離δは前述した前記式(1)を用いた。
【0054】
図16に、品質種別毎、即ち、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別について品質種別ごとに1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示す。
【0055】
図16の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との間に差があること判る。更に2種類の異常部についても、亀裂部と剥離部との間に差がある部分があることが判る。
【0056】
更に図17に、図16の亀裂部と剥離部の結果と、この2種類の異常部の規準化距離δを前述の式(1)で求めた結果を示す。
【0057】
図17の結果から、亀裂部と剥離部との間で5000Hz、16000Hz、400Hzの部分で差が大きいことが判る。
【0058】
次に図18に、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0059】
更に図19に、400Hz、5000Hz、16000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて、図18と同様に、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0060】
図18及び図19の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との分布に差があることが判り、更に異常部についても亀裂部と剥離部との分布に差があることが判る。特に、基準化距離δの値について大であるものから3個を抽出して加算して複合パラメータとして用いた図14では、亀裂部と剥離部との分布の差がより顕著となることが判る。
【0061】
更に、表3及び表4に示すように、振動応答(振動加速度)を用いた判別における標準境界点での見逃し率を求めたところ、図18の5000Hzのデータを用いた場合は0.33、図19の複合パラメータのデータを用いた場合は0.23となり、データを用いるバンド数が多い方が判別性能が向上することも、音圧応答を用いた判別の場合と同様に確認できた。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
以上の実施例から、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法によって、損傷を受けた床スラブの健全部と異常部を判別できるだけでなく、異常部の異常種別が亀裂部であるか剥離部であるかを感覚に頼らずに且つ熟練を必要とすることなく定量的に判別することができることが判った。
【0065】
特に、床スラブ下面が下階部分の天井構成等の影響によって作業性が著しく低く困難な場合であっても、床スラブ上面からの作業で判別を行うことができることが判った。
【0066】
上記実施例では、異常部が亀裂部と剥離部の2種類であったが、他の異常部(例えば、空隙部等)であっても判別することができる。また、判別可能な異常部の種別数も2種類に限らず、選定するパラメータ等のデータを適宜選択設定することで3以上の種別の判別も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の構造物の品質種別の判別方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図
【図2】複数の健全部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図3】複数の剥離部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図4】複数の亀裂部中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図5】複数の健全部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図6】複数の剥離部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図7】複数の亀裂部中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図8】複数の健全部の中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図9】複数の剥離部の中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図10】複数の亀裂部中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図11】3種類の品質種別の1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示すグラフ
【図12】図11の亀裂部と剥離部の結果及びこの2種類の異常部の規準化距離δを式(1)で求めた結果を示すグラフ
【図13】5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図14】160Hz、400Hz、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図15】標準境界点Mの概念を示すグラフ
【図16】3種類の品質種別の1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示すグラフ
【図17】図16の亀裂部と剥離部の結果及びこの2種類の異常部の規準化距離δを式(1)で求めた結果を示すグラフ
【図18】5000Hzの1/3オクターブバンドLzを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図19】400Hz、5000Hz、16000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【符号の説明】
【0068】
1 打撃手段
2 力検出器・アンプ
3 受音手段
31 マイク
32 フード
4 音圧検出器・アンプ
5 AD変換器
6 パソコン
7 床スラブ
71 RC部
72 デッキ鋼材部
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の品質種別の判別方法に関し、詳しくはトンネルや建築物等の構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)の判別、更には異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を外部からの非破壊検査で判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや建築物等の構造物の躯体内部に発生している亀裂・空隙・剥離等の異常部の存在を外部からの非破壊検査で判別する技術はこれまで多数提案乃至は種々実用化されており、例えば、本出願人も特許文献1〜6に示すように複数提案している。
【0003】
本出願人による先提案技術を含めて多数提案されている従来技術はいずれも、ハンマー等による構造物表面への打撃音を人の聴覚によって感覚的に判断していた旧来の方法に替えて、各種センサー等の測定器を用いて解析することで感覚に頼らずに且つ熟練を必要とすることなく定量的に判別できるようにすることを目的としたものである。
【0004】
本出願人は当該技術について更に研究を続けたところ、人の聴覚によって構造物の品質種別を判別する旧来の方法は打撃音の音色を聞き分けることで判別していることが判り、測定器による解析によって構造物の品質種別を判別する従来技術は、打撃音の音の大きさによって判別している方法と、音色に相当する量によって判別している方法とに分類されることが判った。
【0005】
従来技術による打撃音の音圧応答の初期応答部分の規準化した音圧の大きさを用いた判別では、被測定物である構造物の各部位が健全部であるか異常部(欠陥部或いは損傷部)であるかの判別が可能である。特に、本出願人の先提案技術である特許文献1、3、4及び6では打撃音の測定を受音方向を解放したフード付きのマイクによって行っているため、打撃音の伝播音をより鋭敏に測定することができ、構造物の異常部(欠陥部或いは損傷部)の有無及びその大きさを判別できるものである。
【0006】
しかし、打撃音の音の大きさを基に解析を行うことで構造物の品質種別を判別する従来技術では、健全部であるか異常部であるかの判別は高い精度で可能となったが、異常部がどのような異常であるか、例えば、亀裂であるのか、剥離であるのか、空隙であるのか等のように異常種別まで判別することは困難であり、かかる異常種別の判別については熟練者の勘に頼らざるを得ない状況となっている。
【0007】
また、打撃音の音色に相当する量を用いた判別では、測定対象毎(現場毎)に異なる音色を物理量として定量化し、判別に用いることが著しく困難であり、測定条件等の制約が大きく実用的ではないというものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−311724
【特許文献2】特開2001−343369
【特許文献3】特開2002−303610
【特許文献4】特開2002−303611
【特許文献5】特開2002−340869
【特許文献6】特開2005−121586
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)を判別できるだけでなく、異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく、しかも様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い構造物の品質種別の判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
【0011】
1.被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別する方法であって、
前記品質種別の判別が、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別であると共に、前記異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)の判別であり、
前記規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを下記式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することを特徴とする構造物の品質種別の判別方法。
【数2】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【0012】
2.前記各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数が複数個であり、抽出した複数個の値を加算し、加算による複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の向上乃至は低下を定量的に確認することで品質種別の判別性能の向上を図ることを特徴とする上記1に記載の構造物の品質種別の判別方法。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【0013】
3. 前記衝撃を加える手段がインパルスハンマーであり、
前記応答信号の測定が、前記インパルスハンマーの打撃点に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定であること、
を特徴とする上記1又は2に記載の構造物の品質種別の判別方法。
【0014】
4.前記応答信号が、音圧応答又は振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の構造物の品質種別の判別方法。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に示す発明によれば、構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)を判別できるだけでなく、異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく、しかも様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い構造物の品質種別の判別方法を提供することができる。
【0016】
特に、打撃音の音色による判別を定量的に行うことができるので、パラメーター・判別用の式・判別境界値等を適宜選定することで種々の品質種別の判別に適用することができる。
【0017】
請求項2に示す発明によれば、判別精度の向上や低下を定量的に確認することができるので、判別性能を適宜向上させることができる。
【0018】
請求項3に示す発明によれば、構造物中であって且つ構造物事態を伝播した伝播打撃音(振動)をフード部材により周囲の雑音が遮音された状態で測定することができるので、応答信号の応答波形が暗振動又は暗騒音以下に減衰するまでの応答をより鮮明に採取することができる。
【0019】
請求項4に示す発明によれば、音圧応答、振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)のいずれの値を用いても判別することができるので、判別用の式や判別境界値を測定対象に合わせて柔軟に作成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る構造物の品質種別の判別方法は、トンネル、コンクリート建築物及びその他の建築物や、その他の構築物等の構造物の躯体内部に発生している健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)の判別、更には異常部(欠陥部或いは損傷部)の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)を外部からの非破壊検査で判別する方法であり、被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別するものである。
【0022】
構造物の品質種別の判別は、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別のみならず、異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)まで判別するものである。しかも、かかる判別は、感覚に頼らずに定量的に判別することで熟練を必要とすることなく可能であると共に、様々な現場にも柔軟に対応することができる適用範囲の広い判別方法である。
【0023】
品質種別の判別を行うには、前記得られた規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することによって行われる。規準化距離δを求めるには、下記式(1)を用いる。
【0024】
【数3】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【0025】
尚、本発明においては、規準化応答の「後期応答」とは全時間応答から初期応答を引いたものを言い、「全時間応答」とは応答波形が暗振動または暗騒音以下に減衰する時間に対する応答を言い、「初期応答」とは衝撃源の衝撃時間(衝撃力波形が正弦半波で仮定できる場合の衝撃源が衝撃を加えた被測定対象面に接触している間の時間)内での応答(強制応答とも言う。)を言う。
【0026】
本発明は、規準化応答の後期応答乃至は全時間応答、即ち、全時間応答の内の少なくとも後期応答を含む部分の周波数特性に着目し、かかる部分の周波数特性を分析することで、健全部と異常部との判別のみならず、異常部の種別まで判別するものである。
【0027】
応答信号を得るための衝撃手段としては、この種の打音検査技術分野に用いられる公知公用の手段であって概ね一定の条件での衝撃を付与する手段を特別の制限無く用いることができ、例えば、好ましい衝撃手段としては、衝撃波が得られるような概ね一定の加振力で構造物表面に対して打撃を加えることができるインパルスハンマーによる衝撃を挙げることができる。
【0028】
また、応答信号の測定手段としては、前記衝撃を加える手段によって衝撃を付与された衝撃点(例えば、インパルスハンマーの打撃点)に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定を挙げることができる。
【0029】
前記1/Nオクターブバンド分析は、例えば、500Hzバンド、4kHzバンドの如き1オクターブバンドや、5000Hzバンド、400Hzバンド、160Hzバンドの如き1/3オクターブバンド等を用いることができるが、バンド幅については判別すべき測定対象に応じて適宜好ましいバンド幅を選択する。例えば、1/3オクターブバンドで判別が困難である場合には、1/6オクターブバンド、1/12オクターブバンドというようにバンド幅を細かくしていくことで様々な条件に対応することができる。
【0030】
各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数は1個又は複数の任意の数であり、好ましくは複数個である。複数個の規準化距離δの値を加算して、該加算した複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率(=1−正答率)が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の上下動を定量的に確認することで品質種別の判別性能を適宜向上させることができる。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【実施例】
【0031】
次に、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法を実施例に従って詳細に説明する。
【0032】
構造物の品質種別の判別実験を行うため、2007年3月25日の能登半島地震により損傷を受けた2階床スラブ(デッキ床スラブ)を実験材料として用い、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法(以下、単に「本発明の方法」ということもある。)について検証した。
【0033】
対象とする床スラブについて表面の目視及び下階から床スラブ下面の打検棒(パルハンマー)による聴覚テストにより、健全部・亀裂部・剥離部(デッキ鋼材部分と鉄筋コンクリート部分との剥離)の3種類の品質種別を有する部分を予め検出し、当該3種類の品質種別を有する部分が含まれる特定区域を検出資料区域とした。
【0034】
次に、本発明の方法によって前記3種類の品質種別を検証するため、床スラブ上面から前記検出資料区域についてインパルスハンマーによる打撃を加えて、床スラブ内を伝播する打撃音をフード部材付きマイクによって採取し、当該検出資料区域における応答信号を得、得られた音圧応答信号を前記インパルスハンマーによる衝撃力の大きさで除することで規準化音圧応答を得た。打撃は、前記検出資料区域内を任意の間隔毎に3回/1箇所で行った。
【0035】
図1は本発明の方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図である。尚、図1において、1はインパルスハンマの如き打撃手段、2は力検出器・アンプ、3はマイク31とフード32とを有して構成される受音手段、4は音圧検出器・アンプ、5はAD変換機、6は打撃手段1による打撃情報や受音手段3による受音情報・測定結果を記録すると共に得られた測定値から判別結果を算定するためのパソコン、7はRC部71とデッキ鋼材部72とから構成される床スラブ、を各々示す。
【0036】
上記の打撃によって得られた複数の測定情報の一部を図2〜図10に示す。
図2〜図4は加振力と音圧応答の波形を示すものであり、図2は複数の健全部の中の任意の一箇所、図3は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図4は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。尚、音圧応答は、第一波の最大値が加振力の最大値と同じ値になるように規準化して表示している。
図5〜図7は加振力と音圧応答の初期波形を示すものであり、図5は複数の健全部の中の任意の一箇所、図6は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図7は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。
図8〜図10は初期応答のインピーダンスレベル(この場合、音圧応答から振動速度応答が得られることに基いて算出したインピーダンスレベルを言う。)と全時間応答のインピーダンスレベルを示すものであり、図8は複数の健全部の中の任意の一箇所、図9は複数の剥離部の中の任意の一箇所、図10は複数の亀裂部中の任意の一箇所を各々示す。尚、3回の打撃を1枚のグラフに重ねて表示している。
【0037】
測定した結果の内、先ず、インパルスハンマーの加振力と打撃音の大きさ(音圧応答の最大値)からコンクリート等価厚さを算定(前記加振力と前記音圧応答の最大値との比から算定)することで品質種別の判別する従来方法を行ってみたところ、被測定対象を無限大コンクリート板と仮定した時の厚さに相当する量Ts(等価厚さ)を求めてヒストグラム表示した結果、ヒストグラム分布は健全部と異常部の2峰性を示した。健全部の値は、実際の床スラブの厚みと同等の値(デッキスラブの凹凸を平均化した値)であり、異常部(亀裂部と剥離部)は実際の床スラブの厚みより小さな値を示した。即ち、健全部と異常部の判別を行うことはできた。しかし、異常部については、亀裂部と剥離部の2種類について明確に区別できる値を示すことはできず、異常部の異常が亀裂であるか剥離であるかの判別はできないことがわかった。
【0038】
次に本発明の方法、即ち、測定した音圧応答信号及びインパルスハンマーによる衝撃力の大きさから得られた基準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき亀裂部及び剥離部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の前記異常部の異常種別を判別してみた。規準化距離δは前述した前記式(1)を用い、1/Nオクターブバンドは1/3オクターブバンドとし、各基準化距離δの値は大であるものから3個を抽出して用いた。
【0039】
図11に、品質種別毎、即ち、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別について品質種別ごとに1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示す。
【0040】
図11の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との間に差があることが判る。更に2種類の異常部についても、亀裂部と剥離部との間に差がある部分があることが判る。
【0041】
更に図12に、図11の亀裂部と剥離部の結果と、この2種類の異常部の規準化距離δを前述の式(1)で求めた結果を示す。
【0042】
図12の結果から、亀裂部と剥離部との間で5000Hz、400Hz、160Hzの部分で差が大きいことが判る。5000Hz、400Hz、160Hzはいずれも1/3オクターブバンドである。
【0043】
次に図13に、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0044】
更に図14に、160Hz、400Hz、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて、図13と同様に、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。尚、160Hzのバンドでは、亀裂部と剥離部との大小関係が他の2バンドとは逆転しているので、当該160Hzの値に負号を掛けてから加算することで前記複合パラメータを求めた。
【0045】
図13及び図14の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との分布に差があることが判り、更に異常部についても亀裂部と剥離部との分布に差があることが判る。特に、基準化距離δの値について大であるものから3個を抽出して加算して複合パラメータとして用いた図14では、亀裂部と剥離部との分布の差がより顕著となることが判る。
【0046】
更に、図13と図14の各々データを用いて、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを前記式(2)より求めた。結果は表1と表2に各々示す。
【0047】
標準境界点Mは、各々2種類の異常種別を母集団として、判別すべき品質種別(ここでは「剥離部」である。)に入ると判別すべきデータを見逃す確率(見逃し率)と、「剥離部」とは判別されてはならないものを判別してしまう確率(誤答率)を同じくする境界点を示す。或いは、μ1、μ2をσ1、σ2で内分する点でもある。図15に概念図を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1、表2には、見逃し率を0.1とするための境界点の計算結果も示している。更に、この時の誤答率(=1−正答率)も示している。尚、以上の計算はいずれも正規分布を仮定したもので、例えば、境界点の値をMとした時の見逃し率Er(M)は、正規分布の確率分布関数をF(x)とすると下記式で計算される。
【数4】
【0051】
更に、表1及び表2に示すように、標準境界点における見逃し率は、5000Hzのデータのみを用いたときに0.31、160Hz、400Hz、5000Hzの複数のデータを用いたときに0.24となり、後者の方が判別性能が向上していることが確認できる。
【0052】
次に、音圧応答を応答信号として用いた上記実施例に替えて、振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)を用いて規準化応答を得、得られた基準化応答を基に上記実施例と同様に前記3種類の品質種別の判別を検証した。規準化した打撃を加える手段・位置・回数等の諸条件は前記と同様にした。振動として用いる値は、加速度振動ピックアップによって得られた波形を用いた。
【0053】
得られた規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/3オクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と異常部(亀裂部と剥離部)のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は3個)の値を抽出し、抽出した値から構造物の前記異常部の異常種別を判別してみた。規準化距離δは前述した前記式(1)を用いた。
【0054】
図16に、品質種別毎、即ち、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別について品質種別ごとに1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示す。
【0055】
図16の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との間に差があること判る。更に2種類の異常部についても、亀裂部と剥離部との間に差がある部分があることが判る。
【0056】
更に図17に、図16の亀裂部と剥離部の結果と、この2種類の異常部の規準化距離δを前述の式(1)で求めた結果を示す。
【0057】
図17の結果から、亀裂部と剥離部との間で5000Hz、16000Hz、400Hzの部分で差が大きいことが判る。
【0058】
次に図18に、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0059】
更に図19に、400Hz、5000Hz、16000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて、図18と同様に、健全部、亀裂部、剥離部の3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示す。
【0060】
図18及び図19の結果から、健全部と異常部(亀裂部と剥離部の2種類)との分布に差があることが判り、更に異常部についても亀裂部と剥離部との分布に差があることが判る。特に、基準化距離δの値について大であるものから3個を抽出して加算して複合パラメータとして用いた図14では、亀裂部と剥離部との分布の差がより顕著となることが判る。
【0061】
更に、表3及び表4に示すように、振動応答(振動加速度)を用いた判別における標準境界点での見逃し率を求めたところ、図18の5000Hzのデータを用いた場合は0.33、図19の複合パラメータのデータを用いた場合は0.23となり、データを用いるバンド数が多い方が判別性能が向上することも、音圧応答を用いた判別の場合と同様に確認できた。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
以上の実施例から、本発明に係る構造物の品質種別の判別方法によって、損傷を受けた床スラブの健全部と異常部を判別できるだけでなく、異常部の異常種別が亀裂部であるか剥離部であるかを感覚に頼らずに且つ熟練を必要とすることなく定量的に判別することができることが判った。
【0065】
特に、床スラブ下面が下階部分の天井構成等の影響によって作業性が著しく低く困難な場合であっても、床スラブ上面からの作業で判別を行うことができることが判った。
【0066】
上記実施例では、異常部が亀裂部と剥離部の2種類であったが、他の異常部(例えば、空隙部等)であっても判別することができる。また、判別可能な異常部の種別数も2種類に限らず、選定するパラメータ等のデータを適宜選択設定することで3以上の種別の判別も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の構造物の品質種別の判別方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図
【図2】複数の健全部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図3】複数の剥離部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図4】複数の亀裂部中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の波形を示すグラフ
【図5】複数の健全部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図6】複数の剥離部の中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図7】複数の亀裂部中の任意の一箇所の加振力と音圧応答の初期波形を示すグラフ
【図8】複数の健全部の中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図9】複数の剥離部の中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図10】複数の亀裂部中の任意の一箇所の初期応答のインピーダンスレベルと全時間応答のインピーダンスレベルを示すグラフ
【図11】3種類の品質種別の1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示すグラフ
【図12】図11の亀裂部と剥離部の結果及びこの2種類の異常部の規準化距離δを式(1)で求めた結果を示すグラフ
【図13】5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図14】160Hz、400Hz、5000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図15】標準境界点Mの概念を示すグラフ
【図16】3種類の品質種別の1/3オクターブバンドの平均値(算術平均)μmと標準偏差σmを求めた結果を示すグラフ
【図17】図16の亀裂部と剥離部の結果及びこの2種類の異常部の規準化距離δを式(1)で求めた結果を示すグラフ
【図18】5000Hzの1/3オクターブバンドLzを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【図19】400Hz、5000Hz、16000Hzの1/3オクターブバンドを用いて加算した複合パラメータを用いて3種類の品質種別のデータ(層別程度)を示すグラフ
【符号の説明】
【0068】
1 打撃手段
2 力検出器・アンプ
3 受音手段
31 マイク
32 フード
4 音圧検出器・アンプ
5 AD変換器
6 パソコン
7 床スラブ
71 RC部
72 デッキ鋼材部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別する方法であって、
前記品質種別の判別が、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別であると共に、前記異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)の判別であり、
前記規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを下記式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することを特徴とする構造物の品質種別の判別方法。
【数1】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【請求項2】
前記各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数が複数個であり、抽出した複数個の値を加算し、加算による複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の向上乃至は低下を定量的に確認することで品質種別の判別性能の向上を図ることを特徴とする請求項1に記載の構造物の品質種別の判別方法。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【請求項3】
前記衝撃を加える手段がインパルスハンマーであり、
前記応答信号の測定が、前記インパルスハンマーの打撃点に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の品質種別の判別方法。
【請求項4】
前記応答信号が、音圧応答又は振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の構造物の品質種別の判別方法。
【請求項1】
被測定対象である構造物に、インパルスハンマーの如き任意の手段により衝撃を加えることで得られる応答信号を、前記加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いて構造物の品質種別を判別する方法であって、
前記品質種別の判別が、健全部と異常部(欠陥部或いは損傷部)との判別であると共に、前記異常部の異常種別(亀裂・空隙・剥離等)の判別であり、
前記規準化応答の後期応答(全時間応答から初期応答を引いたもの)乃至は全時間応答を用い、該後期応答乃至は全時間応答の信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と判別すべき異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを下記式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数(1個又は複数)の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別することを特徴とする構造物の品質種別の判別方法。
【数1】
δ:規準化距離
μm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの平均(算術平均)
σm:品質種別毎の各1/Nオクターブバンドの標準偏差
【請求項2】
前記各規準化距離δの値の内、大であるものから抽出する個数が複数個であり、抽出した複数個の値を加算し、加算による複合パラメータを用い、見逃し率と誤答率が同じとなる標準境界点Mを下記式(2)より求めて設定し、設定した標準境界点Mにおける見逃し率を比較することにより判別精度の向上乃至は低下を定量的に確認することで品質種別の判別性能の向上を図ることを特徴とする請求項1に記載の構造物の品質種別の判別方法。
式(2)
M=(σ1μ2+σ2μ1)/(σ1+σ2)
【請求項3】
前記衝撃を加える手段がインパルスハンマーであり、
前記応答信号の測定が、前記インパルスハンマーの打撃点に近接した位置で構造物自体を伝播した伝播打撃音(振動)を空気振動として採取するマイクと、該マイクを内装すると共に、受音方向が解放されているフード部材とで構成された受音手段を構造物表面に近接ないし密接した状態での測定であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の品質種別の判別方法。
【請求項4】
前記応答信号が、音圧応答又は振動応答(振動変位、振動速度、或いは振動加速度)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の構造物の品質種別の判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−60286(P2010−60286A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222989(P2008−222989)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]