説明

構造物の支持構造、地中構造物の構築方法、基礎荷重の受け替え工法

【課題】地上構造物の基礎の直下においても、地中構造物の構築作業を行うことができる基礎の支持構造を提供する。
【解決手段】高架橋1のフーチング20の下方において、地中構造物200の構築作業を行うための構造物の支持構造100は、地中構造物200の両側に当たる位置に構築された節付き地中壁30と、地中構造物200の両側に当たる位置に構築された節付き地中壁30の上部の間に亘って、フーチング3の側方及び上方を覆い、かつ、地中構造物200と一体になるように構築された耐圧板20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋などの構造物の基礎の下方に地中構造物を構築する方法、及び地中構造物の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高架橋などの構造物の基礎の直下に新たな地中構造物を構築する場合には、高架橋の基礎であるフーチングを支持するように支持構造を構築し、その下方において地中構造物の構築を行っている。図7は、従来の支持構造の一例を示す図である。同図に示すように、従来は、構築すべき地中構造物200の側部に地中壁130を構築し、フーチング3の下方に、フーチング3を支持する杭4と干渉しないように地中壁130の間に仮受桁120を掛け渡し、仮受桁120によりジャッキ140を介してフーチング3からの荷重を杭4から受け替えることでフーチング3を支持し、その後、杭4を除去して地中構造物200を構築していた(例えば、非特許文献1参照)。なお、ジャッキ140は、地中構造物200を構築するために仮受桁120の下方を掘削した際に、フーチング3が沈下しないように、仮受桁120に生じた撓み、及び地中壁130の沈下を吸収するために設けられている。
【非特許文献1】中村信義、川村努 “アンダーピニングの諸形式とその選定”、月刊「基礎工」2001年6月号、総合土木研究所、2001年6月、 VOl.29、 No.6、p.2-p.5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の仮受架構では、フーチングの下方に仮受桁及びジャッキを設けるため、フーチングの直下において地中構造物の構築作業を行うことができないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、フーチングの下方に設けられたジャッキ及び仮受桁を不要にすることにより、地上構造物の基礎の直下においても、地中構造物の構築作業を行うことができる基礎の支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の構造物の支持構造は、構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎の下方において、地中構造物の構築作業を行うための構造物の支持構造であって、前記地中構造物に当たる位置の両側に構築された地中壁又は杭と、前記両側に構築された地中壁又は杭の上部の間に亘って、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体になるように構築された支持部材と、を備えることを特徴とする。
【0006】
上記の構造物の支持構造において、前記支持部材は、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎の側方及び上方を覆うように構築された鉄筋コンクリート部材、鉄骨コンクリート部材又は鉄骨鉄筋コンクリート部材であってもよく、さらに、前記支持部材は、板状に構築されていてもよい。
また、前記地中壁又は杭は、節付き地中壁又は節付き杭であってもよい。
【0007】
また、本発明の地中構造物の構築方法は、構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎の下方において、地中構造物を構築する方法であって、前記地中構造物に当たる位置の両側に地中壁又は杭を構築し、前記両側に構築された地中壁又は杭の上部の間に亘って、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体になるように支持部材を構築し、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎の下方を掘削し、前記掘削することにより形成された空間において前記地中構造物を構築することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の基礎荷重の受け替え工法は、構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎に前記構造物から作用する荷重を別の基礎構造に受け替える受け替え工法であって、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体に支持部材を構築すると共に、前記別の基礎構造を構築し、前記構造物から前記支持部材に作用する荷重を前記別の基礎構造に伝達させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造物の基礎の側方及び上方を覆うように基礎と一体に構築された板状のコンクリート部材により荷重を受け、この荷重を地中壁又は杭により地盤に伝達するため、仮受桁やジャッキをフーチングや直接基礎の下方に設けなくても、基礎の直下において地中構造物の構築作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構造物の支持構造をフーチングを備える高架橋の下方に地中構造物を構築する場合に適用した実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の支持構造100を示す断面図である。本実施形態の支持構造100は、既設の高架橋1のフーチング3の下方に、例えば、地下鉄などの地中構造物200を構築する際に、フーチング3を下方より支持するための構造である。図1に示すように、支持構造100は、構築される地中構造物200の両側に当たる位置に構築された節付き地中壁30と、フーチング3と一体に構築された耐圧板20とを備える。
【0011】
節付き地中壁30は地中壁本体の表面に外側に突出する突出部31が形成された地中壁である。節付き地中壁30に鉛直下方に向かう押し込み荷重が作用した場合には、地中壁本体の表面摩擦力に加えて、突出部31に地盤より作用する支圧力により抵抗することができる。このように、節付き地中壁30は通常の地中壁に比べて押し込み荷重に対する抵抗力を備えている。
【0012】
耐圧板20は、フーチング3の上面及び側面を覆うように構築された鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の板状部材であり、両側の節付き地中壁30の上部に亘って構築されている。フーチング3の表面にはアンカー筋21が打設されており、耐圧板20はこのアンカー筋21を埋設するように構築されており、フーチング3と耐圧板20とは一体の構造体として機能する。
【0013】
以下、上記の支持構造100を構築し、構築した支持構造100を用いて地中構造物200の構築する方法を説明する。図2〜図6は、支持構造100を構築し、構築した支持構造100を用いて地中構造物200の構築する方法を説明するための鉛直方向断面図である。
【0014】
まず、図2に示すように、構築する地中構造物200の両側部にあたる部分に節付き地中壁30を構築する。すなわち、掘削装置で地盤の節付き地中壁30にあたる位置を鉛直方向に掘削するとともに、突出部31にあたる部分を掘削することにより節付き地中壁30の形状に合わせた掘削孔を形成する。そして、掘削孔内に芯材として鉄筋かごを建て込み、コンクリートを打設する。この際、図2に示すように、節付き地中壁30は上端が耐圧板20の下面にあたる高さとなるように構築しておき、その上部より耐圧板20と接続するための鉄筋を突出させておく。
【0015】
次に、図3に示すように、フーチング3の上面及び側面が露出するように耐圧板20にあたる部分の地盤を掘削する。そして、フーチング3の上面及び側面にアンカー21を打設する。
【0016】
次に、図4に示すように、耐圧板20を構築する。すなわち、まず、耐圧板20を鉄筋コンクリート造とする場合には鉄筋の配筋作業を、耐圧板20を鉄骨コンクリート造とする場合には、鉄骨の建て込み作業を、耐圧板20を鉄骨鉄筋コンクリート造とする場合には、鉄骨の建て込み作業及び鉄筋の配筋作業を行う。そして、耐圧板20を構成するコンクリートを打設する。打設したコンクリートが硬化すると、アンカー筋21によりフーチング3と耐圧板20とが一体となる。以上の工程により、支持構造100が構築される。
【0017】
次に、図5に示すように、節付き地中壁30を土留壁として利用して、両側の節付き地中壁30の間に必要に応じて切梁を掛け渡しながら、耐圧板20の下方の地盤を掘削する。この際、フーチング3の下部の地盤を掘削することにより、フーチング3が地盤より受けていた反力及び杭4の周面に作用していた周面摩擦力が作用しなくなり、高架橋1から耐圧板20に伝達された荷重は節付き地中壁30に押し込み荷重として伝達されることになる。これに対して、上記のように節付き地中壁30は通常の地中壁に比べて押し込み荷重に対する抵抗力が向上されているので、フーチング3及び耐圧板20を沈下させることなく支持することができる。このように、支持構造100により高架橋1の荷重を支持することができるので、フーチング3の下部の杭4が構築する地中構造物と干渉する場合には杭4を切除してもよい。
【0018】
次に、図6に示すように、両側の節付き地中壁30の間を掘削して形成した空間内で配筋作業、型枠設置作業、及びコンクリートの打設作業を行うことにより、地中構造物200を構築する。
なお、地中構造物200の構築後は上記の支持構造100により高架橋1を支持することとしてもよいし、新たな基礎構造を構築し、この基礎構造により高架橋1を支持することとしてもよい。
【0019】
以上説明したように、本実施形態の支持構造200によれば、高架橋1の荷重をフーチング3の側面及び上面を覆うように構築された耐圧板20により受け、この耐圧板20が受けた荷重を節付き地中壁30に伝達する構成としたため、フーチング3の直下に仮受桁やジャッキなどの支持構造が存在せず、フーチング3の直下においても地中構造物200の構築作業を行うことができる。このため、地中構造物200を構築する際の施工性を向上することができるとともに、例えば、地中構造物200の上面がフーチング3の直下に位置するように設計することが可能となり、設計の自由度が向上される。
【0020】
また、耐圧板20をフーチング3の側面及び上面を覆うように構築することとしたため、地上において構築できるので、施工性を向上することができる。さらに、このように耐圧板20をフーチング3の上方及び側方を覆うように構築することにより、耐圧板20を厚くしても地中構造物200を構築する際の障害とならないため、耐圧板20を必要に応じて厚くし、耐圧板20に十分な曲げ耐力を持たせることができる。
【0021】
また、従来は、図7に示すように、フーチング3の下方にフーチング3を支持する仮受桁120を構築していた。このように、フーチング3を支持する部材を桁状としたのは、支持構造300を構築する際に、フーチング3の下方の地盤全てを掘削してしまうと沈下の恐れがあるため、フーチング3の下部の地盤を一部しか掘削できないからである。これに対して、本実施形態によれば、耐圧板20をフーチング3の上方及び側方を覆うような形状としたため、上記のようにフーチング3の下方を掘削することなく板状の耐圧板20を構築することができる。このようにフーチング3の荷重を受ける耐圧板20を板状とすることができるため、この耐圧板20の曲げ耐力を向上することができる。
【0022】
また、図7に示す従来の支持構造300では、仮受桁120の下方において地中壁130の間の地盤を掘削すると、杭4に作用していた周面摩擦力がなくなり高架橋1の荷重は仮受桁120を介して地中壁130に伝達されることとなる。しかしながら、地中壁130の間の地盤を掘削した状態で、仮受桁120に高架橋1の荷重が作用すると、仮受桁120の中央部が下方に撓み、これに伴って、地中壁130が内側に変形してしまう。その結果、地中壁130と外側の地盤との間の周面摩擦力が低下し、十分な支持力を得られずに高架橋1及び支持構造300全体が沈下してしまう虞がある。これに対して、本実施形態では、上記のように耐圧板20に十分な曲げ耐力を持たせることにより、耐圧板20に生じる撓みを抑えることができる。さらに、耐圧板20を節付き壁30により下方から支持する構成としたため、耐圧板20に高架橋1の荷重が下向きに作用しても、節付き壁30が内側に向かって変形するのを抑え、これにより節付き壁30が地盤から受ける周面摩擦力が低下するのを抑えることができる。さらに、節付き壁30が突出部31を備えることにより、押込荷重に対する抵抗力が向上されているので、高架橋1が沈下するのをより効果的に抑制できる。
【0023】
また、従来は、上記のように仮受桁130に撓みが生じた際に、高架橋1が沈下しないように、高架橋1のフーチング3と荷重を支持する仮受桁120との間にジャッキ140を介在させ、このジャッキ140を伸長させることにより、この撓みを吸収させていた。これに対して、本実施形態では、上記のように、耐圧板20の変形を抑えることができるため、撓みを吸収するためのジャッキが不要となる。これにより、ジャッキを設けるためのスペースが不要となり、また、ジャッキの設置等の作業を省くことができ、施工性を向上することができる。
【0024】
なお、上記の実施形態では、節付き地中壁30により地盤反力を得て、耐圧板20を支持するものとしたが、これに限らず、節付き地中壁30に変えて節付き杭を用いることもでき、さらに、十分な地盤反力を得ることができれば、通常の地中壁及び杭を用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、下方に杭を備えたフーチングを備えた高架橋の下方に地中構造物を構築する場合を例として説明したが、これに限らず、杭を備えていないフーチング、又はべた基礎などの基礎構造を有する構造物の下方に地中構造物を構築する場合にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の支持構造を示す断面図である。
【図2】支持構造を構築する方法を説明するための図であり、地中構造物の両側部にあたる部分に節付き地中壁を構築した状態を示す。
【図3】支持構造を構築する方法を説明するための図であり、地盤の耐圧板にあたる部分を掘削し、アンカーを打設した状態を示す。
【図4】支持構造を構築する方法を説明するための図であり、耐圧板を構成するコンクリートを打設した状態を示す。
【図5】地中構造物を構築する方法を説明するための図であり、下方の地盤を掘削している状態を示す図である。
【図6】地中構造物の構築が完了した状態を示す図である。
【図7】従来の支持構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 高架橋
2 橋脚
3 フーチング
4 杭
20 耐圧板
21 アンカー
30 節付き地中壁
31 突出部
100 支持構造
200 地中構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎の下方において、地中構造物の構築作業を行うための構造物の支持構造であって、
前記地中構造物に当たる位置の両側に構築された地中壁又は杭と、
前記両側に構築された地中壁又は杭の上部の間に亘って、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体になるように構築された支持部材と、を備えることを特徴とする構造物の支持構造。
【請求項2】
前記支持部材は、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎の側方及び上方を覆うように構築された鉄筋コンクリート部材、鉄骨コンクリート部材又は鉄骨鉄筋コンクリート部材であることを特徴とする請求項1記載の構造物の支持構造。
【請求項3】
前記支持部材は、板状に構築されていることを特徴とする1又は2記載の構造物の支持構造。
【請求項4】
前記地中壁又は杭は、節付き地中壁又は節付き杭であることを特徴とする請求項1から3のうち何れかに記載の構造物の支持構造。
【請求項5】
構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎の下方において、地中構造物を構築する方法であって、
前記地中構造物に当たる位置の両側に地中壁又は杭を構築し、
前記両側に構築された地中壁又は杭の上部の間に亘って、前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体になるように支持部材を構築し、
前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎の下方を掘削し、
前記掘削することにより形成された空間において前記地中構造物を構築することを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項6】
構造物の基礎である杭基礎又は直接基礎に前記構造物から作用する荷重を別の基礎構造に受け替える受け替え工法であって、
前記杭基礎のフーチング又は前記直接基礎と一体に支持部材を構築すると共に、前記別の基礎構造を構築し、前記構造物から前記支持部材に作用する荷重を前記別の基礎構造に伝達させることを特徴とする基礎荷重の受け替え工法。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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