構造物の移動工法
【課題】大型の構造物であっても、滑らかにかつ精度良く移動することができ、特に既存の構造物についても、その外方の回転中心廻りに高い精度で回転移動させることが可能になる構造物の移動工法を提供する。
【解決手段】構造物1を支持する複数本の柱3を移動体によって支持した後に、推進装置21、22によって構造物1を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、複数本の柱3のうちの一部の柱3群をコロ装置11によって支持し、他部の柱3群を滑り装置10によって支持したことを特徴とする。
【解決手段】構造物1を支持する複数本の柱3を移動体によって支持した後に、推進装置21、22によって構造物1を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、複数本の柱3のうちの一部の柱3群をコロ装置11によって支持し、他部の柱3群を滑り装置10によって支持したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の構造物を移動体上に支持して、推進装置により地盤に沿って近接地に移動する際に用いられる構造物の移動工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、既存建物の一部あるいは全部を近接地に移動した上で保存等をする際には、当該既存建物を支持する柱を切断して、当該柱の切断部に移動体を介装した後に、油圧ジャッキ等によって上記既存建物を地盤に沿って水平方向に移動させる工法が採用されている。
【0003】
ところで、このような移動工法の一種として、移動する既存建物の下部から移動先まで複数本のレールを敷設し、上記既存建物の基礎下に支持荷台を設置するとともに、上記レールと支持荷台との間に多数のコロ棒を配置して、当該コロ棒の転動によって上記既存建物を水平方向に移動させるコロ装置を用いたものが知られている。ここで、上記レールは、強固に押し固められた地盤や、当該地盤上に構築されたコンクリート版等からなるレール用基礎や荷台上に固定されている。
【0004】
上記コロ装置(移動体)を用いた移動工法によれば、固定したレール上をコロ棒が転動するために、移動面の凹凸に影響され難く、しかもコロ棒は直進性に優れるために移動精度も高く、比較的長距離移動に好適である。
しかしながら、当該移動工法にあっては、耐圧板の設置作業、レールの敷設作業あるいはコロ棒などの盛り替え作業等に多大の労力と時間を要するという問題点があった。
【0005】
また、既存建物が鉄筋コンクリート造等の大型の建物である場合には、1本の柱における受け荷重も大きくなるが、1本のコロ棒がレール等と接する面積は小さく、よってコロ装置における面積当たりの耐荷重が小さいために、各柱に対して多数のコロ装置が必要になる。この結果、上記コロ装置を設置するために、柱廻りの基礎部分の拡大や補強を行う必要が生じるとともに、コロ棒の盛り替え作業も困難になるという問題点があった。
【0006】
これに対して、高荷重の大型の建物を移動させるための工法として、上記建物の基礎下に滑り装置(移動体)を設置する方法があり、新築鉄骨造の構造物におけるトラベリング工法やスライディング工法などで使用されている。これらの移動工法に使用される滑り装置において、1つの滑り材の滑り面に接する面積は大きく、よって滑り装置における面積当たりの耐荷重が大きいために、滑り装置を小さくすることができるとともに、滑り装置を支える基礎の補強も少なくて済み、しかもコロ棒を移動させる作業も不要となるために、特に重量物の移動に適している。
【0007】
しかしながら、上記移動工法においては、構造物の基礎下に、全面に亘って所定の平滑面を確保する必要があるために、一般に、既存の構造物の曳家に使用することは困難であるという欠点があった。
また、滑り装置は、コロ装置に比べて摩擦係数が大きいために、移動させるための推進装置が大型化するとともに、静摩擦係数と動摩擦係数の差が大きいために、動き始めの制御が極めて難しいという問題点があった。
【0008】
さらに、上記滑り装置は、直進性に劣るために、別途ワイヤ等によってバランスを取ったり、あるいはガイドレールを設けたりする必要もあった。特に、上記構造物を回転中心廻りに回転移動させる場合には、多数の上記ガイドレールを設置して上記構造物を案内したり、別途回転中心方向を修正するためのジャッキを設置したりして、移動精度を上げるために細かな制御を行う必要があり、作業が複雑化するという問題点があった。
【0009】
これを解決するために、回転中心において構造物を回転自在に支持する方法があれば、移動精度の確保も容易になって好ましいと考えられるが、現実的には、移動時に作用する水平力に耐え得るような回転軸を保持することが困難であるとともに、上記回転中心が上記構造物の外方に位置する場合には、対応することが出来ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大型の構造物であっても、滑らかにかつ精度良く移動することができるとともに、作業を簡易化して工期を縮減し、かつ移動コストを低廉にすることが可能になり、さらに既存の構造物についても、その外方の回転中心廻りに高い精度で回転移動させることが可能になる構造物の移動工法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、構造物を支持する複数本の柱を移動体によって支持した後に、推進装置によって上記構造物を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、複数本の上記柱のうちの一部の柱群を、直進性を有する第1の移動体によって支持し、他部の上記柱群を上記第1の移動体よりも移動体面積当たりの耐荷重が大きい第2の移動体によって支持したことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、請求項2に記載の発明は、上記第1の移動体が、コロ装置であり、かつ上記第2の移動体が、滑り装置であることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記構造物が既存の構造物であり、かつ上記構造物を支持する複数本の柱を切断して、当該柱の切断部に上記第1または第2の移動体を介装した後に、推進装置によって上記柱によって支持されていた上記既存構造物を地盤に沿って移動させることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記第1の移動体によって支持された上記柱群と、上記第2の移動体によって支持された上記柱群とが、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の発明において、上記構造物を、回転中心廻りに回転移動させるとともに、上記コロ装置をそのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置したことを特徴とするものであり、請求項6に記載の発明は、上記回転中心が、上記構造物の外方に位置していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜6のいずれかに記載の発明においては、複数本の柱のうちの一部の柱群を支持する第1の移動体(例えば、コロ装置)によって、移動時の直進性を確保するとともに、他部の柱群を支持する第2の移動体(例えば、滑り装置)によって、耐荷重性を向上させることができる。このため、重量が嵩む大型の構造物に対しても、簡易な施工によって、滑らかにかつ精度良く移動させることが可能になる。また、請求項3に記載の発明のように、上記構造物が既存の構造物である場合には、当該構造物を支持する複数本の柱を切断して、これら柱の切断部に、上記第1または第2の移動体を介装することにより、容易に適用させることができる。
【0017】
この際に、請求項4に記載の発明のように、第1の移動体によって支持された柱群と、第2の移動体によって支持された柱群とを、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置すれば、上記構造物の移動方向と直交する方向に、その直進性および支持荷重が偏ることなく、より均等に分布させることができるために、一層移動精度を向上させることができて好適である。
【0018】
また、特に請求項5に記載の発明にように、上記構造物を回転中心廻りに回転移動させる際には、コロ装置を、そのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置することにより、別途実現が困難な回転軸の設置等の方策を採ることなく、容易に対応することができる。このため、特に請求項6に記載の発明のように、上記回転中心が上記構造物の外方に位置している場合に適用して、顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態において移動する既存建物の配置および回転中心の位置を示す平面配置図である。
【図2】本実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図3】作業開始前の状態を示す要部の縦断面図である。
【図4】既存建物を仮受けして柱を切断する状態を示す要部の縦断面図である。
【図5】図4の柱の切断部分に滑り装置またはコロ装置を設置した状態を示す要部の縦断面図である。
【図6】図5の滑り装置の設置部分を拡大して示す正面図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】図5のコロ装置の設置部分を拡大して示す正面図である。
【図9】仮設鉛直ブレースを設置した状態を示す図5の側面図である。
【図10】滑り装置、コロ装置および推進装置の配置を示す平面図である。
【図11】図9の仮設鉛直ブレースを解除した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図11に基づいて、本発明に係る構造物の移動工法の一実施形態について説明する。
本実施形態は、図1に示すように、保存する既存建物(構造物)1を、その壁面後退ラインを満足させるとともに、外部の山留施工を可能にするために、当該既存建物1の外方に位置する回転中心廻りに、最大円弧長さで約1m回転移動させる際に適用したものである。
【0021】
この既存建物の移動工法を、図2に示すフローチャートおよびその各工程に関連する図3〜図11に基づいて順次説明すると、先ず図3に示すように、既存建物1の1階の梁に補強2を施工するとともに、柱3の下部の基礎4上に移動体設置用の仮設躯体5を構築する。次いで、図4に示すように、基礎4上に仮受ジャッキ6を設置し、この仮受ジャッキ6上に仮受鋼材7を設置してボルトで接続する。
【0022】
そして、この仮受ジャッキ6を効かせて、柱3に作用する躯体荷重を仮受鋼材7を介して仮受けした後に、既存建物1を支持していた全ての柱3のうちの1本〜数本の柱3に対して、その所定部分をワイヤーソーによって切断する。この際に、変位計8によって変位の測定を行う。なお、図4の左側に示す柱3は、後工程において滑り装置が設置されるために、当該柱3の中間から下方が切断除去部分3aとなっている。これに対して、図中右方に示す柱3は、後工程においてコロ装置が設置されるために、梁下のほぼ全長が切断除去部分3bとなっている。
【0023】
このようにして、既存建物1の柱3の所定箇所を切断除去した後に、図5に示すように、上記柱3の切断部分に滑り装置(第2の移動体)10またはコロ装置(第1の移動体)11を設置する。
ここで、滑り装置10は、図6および図7に示すように、仮設躯体5の上面にプレート12が無収縮モルタル13を介して平坦に固定され、このプレート12上に、当接面に滑動性に優れたナイロンが貼設されて柱3側に固定されたプレート14が移動自在に設けられたものである。なお、図中符号15は、柱3から作用する荷重に抗するためのジャッキである。
【0024】
また、コロ装置11は、図8に示すように、仮設躯体5の上面に、H形鋼を組み合わせた荷台16が固定され、この荷台16の上面に、複数本のレール17が紙面の表裏方向に等間隔をおいて左右方向に敷設されるとともに、これらのレール17上に複数本のコロ棒18が転動自在に設けられ、さらにコロ棒18上に、柱3の切断下面側に設置された荷台19が設置されたものである。ここで、コロ装置11においては、コロ棒18の回転軸線の延長線が図1または図10に示した回転中心を通るように配置されている。
【0025】
そして次に、上述した上記滑り装置10あるいはコロ装置11を設置した1本〜数本の柱3に対して、仮受ジャッキ6および仮受鋼材7を撤去することにより、当該柱3の荷重を滑り装置10あるいはコロ装置11に移す。この際に、滑り装置10およびコロ装置11を設置した部分については、水平荷重に対して脆弱となっているために、図9に示すように、既存建物1と基礎4との間に、上記水平荷重に対する補強となる仮設鉛直ブレース20を設置する。
【0026】
この仮設鉛直ブレース20は、H形鋼20aにジャッキ20bが一体化されたもので、H形鋼20aの端部を既存建物1の柱2および梁に調製材20cを介して接合するとともに、ジャッキ20bと基礎4との間に無収縮モルタル20dを充填硬化させることにより、既存建物1と基礎4との間に設置する。
【0027】
次いで、上記滑り装置10またはコロ装置11が設置されていない他の柱3に対して、同様にして図3〜図9に示した工程を順次繰り返すことにより、移動すべき既存建物1を支持していた全ての柱3について、滑り装置10またはコロ装置11を設置する。
【0028】
そして、所定箇所の滑り装置10およびコロ装置11に、推進装置となるジャッキ21、22を配置する。
すなわち、図6および図7に示すように、所定箇所の滑り装置10については、確実にプレート12、14間に反力を作用させてプレート14に滑りを生じさせるべく、仮設躯体5上のプレート12に固定されたH形鋼23と、柱3側のプレート14上に固定されたH形鋼24との間に、ジャッキ(推進装置)21を介装することにより、ジャッキ21によって既存建物1を移動方向である図中矢印方向に押圧可能にする。
【0029】
また、図8に示すように、所定箇所のコロ装置11については、仮設躯体5側に固定された荷台16と、柱3の切断下面側に設置された荷台19との間に、ジャッキ(推進装置)22を介装することにより、ジャッキ22によって既存建物1を移動方向である図中矢印方向に押圧可能にする。
【0030】
図10は、既存建物1の柱3に設置した滑り装置10およびコロ装置11の配置および推進装置21、22の設置位置を示すものである。
同図に見られるように、本実施形態においては、回転中心から最も離れた回転半径の大きい5本の柱3群が滑り装置10によって支持され、これら柱3群の回転半径内方の3本の柱3群がコロ装置11によって支持されるとともに、当該柱3群から回転中心側に向けて、順次滑り装置10によって支持された柱3群と、コロ装置11によって支持された柱3群とが、概ね交互に配置されている。
【0031】
これにより、滑り装置10によって支持された柱3群と、コロ装置11によって支持された柱3群とが、既存建物1の回転移動方向と直交する方向、すなわち回転移動の半径方向に、概ね交互に配置されている。また、本実施形態においては、平面視において縦横比が大きな既存建物1を、その長手方向と直交する方向に回転移動するために、当該既存建物1の外周部の移動方向を確実に制御すれば、全体として所望の回転移動を円滑に行えるとの考えから、その長手方向両端部近傍および中央部に、直進性に優れるコロ装置11が配置されている。
【0032】
そして、以上の工程が完了した後に、図11に示すように、全ての仮設鉛直ブレース20について、そのジャッキ20bを後退させ、無収縮モルタル20dを除去して解除するとともに、ワイヤ24によって既存建物1側に吊持させておく。そして次に、ジャッキ21、22を段階的に作動させて、既存建物1を回転中心廻りに所定の位置まで回転移動させることにより、当該既存建物1の移動作業が完了する。
【0033】
このように、上記構成からなる既存建物1の移動工法によれば、移動時に、既存建物1の複数本の柱3のうちの一部の柱3群をコロ装置11によって支持するとともに、コロ棒18の回転軸線の延長線が回転中心を通るように配置することにより、回転移動の直進性を確保するとともに、他部の柱3群を滑り装置10によって支持することにより、耐荷重性を向上させることができる。
【0034】
このため、重量が嵩む大型の既存建物1を、当該既存建物1の外方に位置する回転中心廻りに回転移動させる場合においても、実現が困難な回転軸の設置や大掛かりなガイド手段等の方策を要することなく、簡易な施工によって、滑らかにかつ精度良く移動させることが可能になる。
【0035】
この際に、特に直進性に優れるコロ装置11によって支持された柱3群を、既存建物1の回転移動方向と直交する方向の両端部近傍と中央部に配置しているために、既存建物1の回転移動の半径方向に、その直進性および耐荷重性が偏ることなく、より均等に分布させることができるとともに、一層既存建物1の全体としての移動精度を向上させることができる。
【0036】
なお、上記実施の形態においては、本発明に係る構造物の移動工法を、既存建物1をその外方に位置する回転中心廻りに回転移動させる場合に適用した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、新築の構造物を回転移動させる場合や、新築あるいは既存の構造物を直線的に移動させる場合にも、同様に適用させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
既存建物等の構造物を移動体上に支持して、推進装置により地盤に沿って近接地に移動する際に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 既存建物(構造物)
3 柱
3a、3b 柱の切断除去部分
4 基礎
6 仮受ジャッキ
10 滑り装置(第2の移動体)
11 コロ装置(第1の移動体)
18 コロ棒
20 仮設鉛直ブレース
21、22 ジャッキ(推進装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の構造物を移動体上に支持して、推進装置により地盤に沿って近接地に移動する際に用いられる構造物の移動工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、既存建物の一部あるいは全部を近接地に移動した上で保存等をする際には、当該既存建物を支持する柱を切断して、当該柱の切断部に移動体を介装した後に、油圧ジャッキ等によって上記既存建物を地盤に沿って水平方向に移動させる工法が採用されている。
【0003】
ところで、このような移動工法の一種として、移動する既存建物の下部から移動先まで複数本のレールを敷設し、上記既存建物の基礎下に支持荷台を設置するとともに、上記レールと支持荷台との間に多数のコロ棒を配置して、当該コロ棒の転動によって上記既存建物を水平方向に移動させるコロ装置を用いたものが知られている。ここで、上記レールは、強固に押し固められた地盤や、当該地盤上に構築されたコンクリート版等からなるレール用基礎や荷台上に固定されている。
【0004】
上記コロ装置(移動体)を用いた移動工法によれば、固定したレール上をコロ棒が転動するために、移動面の凹凸に影響され難く、しかもコロ棒は直進性に優れるために移動精度も高く、比較的長距離移動に好適である。
しかしながら、当該移動工法にあっては、耐圧板の設置作業、レールの敷設作業あるいはコロ棒などの盛り替え作業等に多大の労力と時間を要するという問題点があった。
【0005】
また、既存建物が鉄筋コンクリート造等の大型の建物である場合には、1本の柱における受け荷重も大きくなるが、1本のコロ棒がレール等と接する面積は小さく、よってコロ装置における面積当たりの耐荷重が小さいために、各柱に対して多数のコロ装置が必要になる。この結果、上記コロ装置を設置するために、柱廻りの基礎部分の拡大や補強を行う必要が生じるとともに、コロ棒の盛り替え作業も困難になるという問題点があった。
【0006】
これに対して、高荷重の大型の建物を移動させるための工法として、上記建物の基礎下に滑り装置(移動体)を設置する方法があり、新築鉄骨造の構造物におけるトラベリング工法やスライディング工法などで使用されている。これらの移動工法に使用される滑り装置において、1つの滑り材の滑り面に接する面積は大きく、よって滑り装置における面積当たりの耐荷重が大きいために、滑り装置を小さくすることができるとともに、滑り装置を支える基礎の補強も少なくて済み、しかもコロ棒を移動させる作業も不要となるために、特に重量物の移動に適している。
【0007】
しかしながら、上記移動工法においては、構造物の基礎下に、全面に亘って所定の平滑面を確保する必要があるために、一般に、既存の構造物の曳家に使用することは困難であるという欠点があった。
また、滑り装置は、コロ装置に比べて摩擦係数が大きいために、移動させるための推進装置が大型化するとともに、静摩擦係数と動摩擦係数の差が大きいために、動き始めの制御が極めて難しいという問題点があった。
【0008】
さらに、上記滑り装置は、直進性に劣るために、別途ワイヤ等によってバランスを取ったり、あるいはガイドレールを設けたりする必要もあった。特に、上記構造物を回転中心廻りに回転移動させる場合には、多数の上記ガイドレールを設置して上記構造物を案内したり、別途回転中心方向を修正するためのジャッキを設置したりして、移動精度を上げるために細かな制御を行う必要があり、作業が複雑化するという問題点があった。
【0009】
これを解決するために、回転中心において構造物を回転自在に支持する方法があれば、移動精度の確保も容易になって好ましいと考えられるが、現実的には、移動時に作用する水平力に耐え得るような回転軸を保持することが困難であるとともに、上記回転中心が上記構造物の外方に位置する場合には、対応することが出来ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大型の構造物であっても、滑らかにかつ精度良く移動することができるとともに、作業を簡易化して工期を縮減し、かつ移動コストを低廉にすることが可能になり、さらに既存の構造物についても、その外方の回転中心廻りに高い精度で回転移動させることが可能になる構造物の移動工法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、構造物を支持する複数本の柱を移動体によって支持した後に、推進装置によって上記構造物を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、複数本の上記柱のうちの一部の柱群を、直進性を有する第1の移動体によって支持し、他部の上記柱群を上記第1の移動体よりも移動体面積当たりの耐荷重が大きい第2の移動体によって支持したことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、請求項2に記載の発明は、上記第1の移動体が、コロ装置であり、かつ上記第2の移動体が、滑り装置であることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記構造物が既存の構造物であり、かつ上記構造物を支持する複数本の柱を切断して、当該柱の切断部に上記第1または第2の移動体を介装した後に、推進装置によって上記柱によって支持されていた上記既存構造物を地盤に沿って移動させることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記第1の移動体によって支持された上記柱群と、上記第2の移動体によって支持された上記柱群とが、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の発明において、上記構造物を、回転中心廻りに回転移動させるとともに、上記コロ装置をそのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置したことを特徴とするものであり、請求項6に記載の発明は、上記回転中心が、上記構造物の外方に位置していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜6のいずれかに記載の発明においては、複数本の柱のうちの一部の柱群を支持する第1の移動体(例えば、コロ装置)によって、移動時の直進性を確保するとともに、他部の柱群を支持する第2の移動体(例えば、滑り装置)によって、耐荷重性を向上させることができる。このため、重量が嵩む大型の構造物に対しても、簡易な施工によって、滑らかにかつ精度良く移動させることが可能になる。また、請求項3に記載の発明のように、上記構造物が既存の構造物である場合には、当該構造物を支持する複数本の柱を切断して、これら柱の切断部に、上記第1または第2の移動体を介装することにより、容易に適用させることができる。
【0017】
この際に、請求項4に記載の発明のように、第1の移動体によって支持された柱群と、第2の移動体によって支持された柱群とを、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置すれば、上記構造物の移動方向と直交する方向に、その直進性および支持荷重が偏ることなく、より均等に分布させることができるために、一層移動精度を向上させることができて好適である。
【0018】
また、特に請求項5に記載の発明にように、上記構造物を回転中心廻りに回転移動させる際には、コロ装置を、そのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置することにより、別途実現が困難な回転軸の設置等の方策を採ることなく、容易に対応することができる。このため、特に請求項6に記載の発明のように、上記回転中心が上記構造物の外方に位置している場合に適用して、顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態において移動する既存建物の配置および回転中心の位置を示す平面配置図である。
【図2】本実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図3】作業開始前の状態を示す要部の縦断面図である。
【図4】既存建物を仮受けして柱を切断する状態を示す要部の縦断面図である。
【図5】図4の柱の切断部分に滑り装置またはコロ装置を設置した状態を示す要部の縦断面図である。
【図6】図5の滑り装置の設置部分を拡大して示す正面図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】図5のコロ装置の設置部分を拡大して示す正面図である。
【図9】仮設鉛直ブレースを設置した状態を示す図5の側面図である。
【図10】滑り装置、コロ装置および推進装置の配置を示す平面図である。
【図11】図9の仮設鉛直ブレースを解除した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図11に基づいて、本発明に係る構造物の移動工法の一実施形態について説明する。
本実施形態は、図1に示すように、保存する既存建物(構造物)1を、その壁面後退ラインを満足させるとともに、外部の山留施工を可能にするために、当該既存建物1の外方に位置する回転中心廻りに、最大円弧長さで約1m回転移動させる際に適用したものである。
【0021】
この既存建物の移動工法を、図2に示すフローチャートおよびその各工程に関連する図3〜図11に基づいて順次説明すると、先ず図3に示すように、既存建物1の1階の梁に補強2を施工するとともに、柱3の下部の基礎4上に移動体設置用の仮設躯体5を構築する。次いで、図4に示すように、基礎4上に仮受ジャッキ6を設置し、この仮受ジャッキ6上に仮受鋼材7を設置してボルトで接続する。
【0022】
そして、この仮受ジャッキ6を効かせて、柱3に作用する躯体荷重を仮受鋼材7を介して仮受けした後に、既存建物1を支持していた全ての柱3のうちの1本〜数本の柱3に対して、その所定部分をワイヤーソーによって切断する。この際に、変位計8によって変位の測定を行う。なお、図4の左側に示す柱3は、後工程において滑り装置が設置されるために、当該柱3の中間から下方が切断除去部分3aとなっている。これに対して、図中右方に示す柱3は、後工程においてコロ装置が設置されるために、梁下のほぼ全長が切断除去部分3bとなっている。
【0023】
このようにして、既存建物1の柱3の所定箇所を切断除去した後に、図5に示すように、上記柱3の切断部分に滑り装置(第2の移動体)10またはコロ装置(第1の移動体)11を設置する。
ここで、滑り装置10は、図6および図7に示すように、仮設躯体5の上面にプレート12が無収縮モルタル13を介して平坦に固定され、このプレート12上に、当接面に滑動性に優れたナイロンが貼設されて柱3側に固定されたプレート14が移動自在に設けられたものである。なお、図中符号15は、柱3から作用する荷重に抗するためのジャッキである。
【0024】
また、コロ装置11は、図8に示すように、仮設躯体5の上面に、H形鋼を組み合わせた荷台16が固定され、この荷台16の上面に、複数本のレール17が紙面の表裏方向に等間隔をおいて左右方向に敷設されるとともに、これらのレール17上に複数本のコロ棒18が転動自在に設けられ、さらにコロ棒18上に、柱3の切断下面側に設置された荷台19が設置されたものである。ここで、コロ装置11においては、コロ棒18の回転軸線の延長線が図1または図10に示した回転中心を通るように配置されている。
【0025】
そして次に、上述した上記滑り装置10あるいはコロ装置11を設置した1本〜数本の柱3に対して、仮受ジャッキ6および仮受鋼材7を撤去することにより、当該柱3の荷重を滑り装置10あるいはコロ装置11に移す。この際に、滑り装置10およびコロ装置11を設置した部分については、水平荷重に対して脆弱となっているために、図9に示すように、既存建物1と基礎4との間に、上記水平荷重に対する補強となる仮設鉛直ブレース20を設置する。
【0026】
この仮設鉛直ブレース20は、H形鋼20aにジャッキ20bが一体化されたもので、H形鋼20aの端部を既存建物1の柱2および梁に調製材20cを介して接合するとともに、ジャッキ20bと基礎4との間に無収縮モルタル20dを充填硬化させることにより、既存建物1と基礎4との間に設置する。
【0027】
次いで、上記滑り装置10またはコロ装置11が設置されていない他の柱3に対して、同様にして図3〜図9に示した工程を順次繰り返すことにより、移動すべき既存建物1を支持していた全ての柱3について、滑り装置10またはコロ装置11を設置する。
【0028】
そして、所定箇所の滑り装置10およびコロ装置11に、推進装置となるジャッキ21、22を配置する。
すなわち、図6および図7に示すように、所定箇所の滑り装置10については、確実にプレート12、14間に反力を作用させてプレート14に滑りを生じさせるべく、仮設躯体5上のプレート12に固定されたH形鋼23と、柱3側のプレート14上に固定されたH形鋼24との間に、ジャッキ(推進装置)21を介装することにより、ジャッキ21によって既存建物1を移動方向である図中矢印方向に押圧可能にする。
【0029】
また、図8に示すように、所定箇所のコロ装置11については、仮設躯体5側に固定された荷台16と、柱3の切断下面側に設置された荷台19との間に、ジャッキ(推進装置)22を介装することにより、ジャッキ22によって既存建物1を移動方向である図中矢印方向に押圧可能にする。
【0030】
図10は、既存建物1の柱3に設置した滑り装置10およびコロ装置11の配置および推進装置21、22の設置位置を示すものである。
同図に見られるように、本実施形態においては、回転中心から最も離れた回転半径の大きい5本の柱3群が滑り装置10によって支持され、これら柱3群の回転半径内方の3本の柱3群がコロ装置11によって支持されるとともに、当該柱3群から回転中心側に向けて、順次滑り装置10によって支持された柱3群と、コロ装置11によって支持された柱3群とが、概ね交互に配置されている。
【0031】
これにより、滑り装置10によって支持された柱3群と、コロ装置11によって支持された柱3群とが、既存建物1の回転移動方向と直交する方向、すなわち回転移動の半径方向に、概ね交互に配置されている。また、本実施形態においては、平面視において縦横比が大きな既存建物1を、その長手方向と直交する方向に回転移動するために、当該既存建物1の外周部の移動方向を確実に制御すれば、全体として所望の回転移動を円滑に行えるとの考えから、その長手方向両端部近傍および中央部に、直進性に優れるコロ装置11が配置されている。
【0032】
そして、以上の工程が完了した後に、図11に示すように、全ての仮設鉛直ブレース20について、そのジャッキ20bを後退させ、無収縮モルタル20dを除去して解除するとともに、ワイヤ24によって既存建物1側に吊持させておく。そして次に、ジャッキ21、22を段階的に作動させて、既存建物1を回転中心廻りに所定の位置まで回転移動させることにより、当該既存建物1の移動作業が完了する。
【0033】
このように、上記構成からなる既存建物1の移動工法によれば、移動時に、既存建物1の複数本の柱3のうちの一部の柱3群をコロ装置11によって支持するとともに、コロ棒18の回転軸線の延長線が回転中心を通るように配置することにより、回転移動の直進性を確保するとともに、他部の柱3群を滑り装置10によって支持することにより、耐荷重性を向上させることができる。
【0034】
このため、重量が嵩む大型の既存建物1を、当該既存建物1の外方に位置する回転中心廻りに回転移動させる場合においても、実現が困難な回転軸の設置や大掛かりなガイド手段等の方策を要することなく、簡易な施工によって、滑らかにかつ精度良く移動させることが可能になる。
【0035】
この際に、特に直進性に優れるコロ装置11によって支持された柱3群を、既存建物1の回転移動方向と直交する方向の両端部近傍と中央部に配置しているために、既存建物1の回転移動の半径方向に、その直進性および耐荷重性が偏ることなく、より均等に分布させることができるとともに、一層既存建物1の全体としての移動精度を向上させることができる。
【0036】
なお、上記実施の形態においては、本発明に係る構造物の移動工法を、既存建物1をその外方に位置する回転中心廻りに回転移動させる場合に適用した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、新築の構造物を回転移動させる場合や、新築あるいは既存の構造物を直線的に移動させる場合にも、同様に適用させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
既存建物等の構造物を移動体上に支持して、推進装置により地盤に沿って近接地に移動する際に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 既存建物(構造物)
3 柱
3a、3b 柱の切断除去部分
4 基礎
6 仮受ジャッキ
10 滑り装置(第2の移動体)
11 コロ装置(第1の移動体)
18 コロ棒
20 仮設鉛直ブレース
21、22 ジャッキ(推進装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する複数本の柱を移動体によって支持した後に、推進装置によって上記構造物を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、
複数本の上記柱のうちの一部の柱群を、直進性を有する第1の移動体によって支持し、他部の上記柱群を上記第1の移動体よりも移動体面積当たりの耐荷重が大きい第2の移動体によって支持したことを特徴とする構造物の移動工法。
【請求項2】
上記第1の移動体は、コロ装置であり、かつ上記第2の移動体は、滑り装置であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の移動工法。
【請求項3】
上記構造物は既存の構造物であり、かつ上記構造物を支持する複数本の柱を切断して、当該柱の切断部に上記第1または第2の移動体を介装した後に、推進装置によって上記柱によって支持されていた上記既存構造物を地盤に沿って移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の移動工法。
【請求項4】
上記第1の移動体によって支持された上記柱群と、上記第2の移動体によって支持された上記柱群とが、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の構造物の移動工法。
【請求項5】
上記構造物を、回転中心廻りに回転移動させるとともに、上記コロ装置をそのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置したことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の構造物の移動工法。
【請求項6】
上記回転中心が、上記構造物の外方に位置していることを特徴とする請求項5に記載の構造物の移動工法。
【請求項1】
構造物を支持する複数本の柱を移動体によって支持した後に、推進装置によって上記構造物を地盤に沿って移動させる構造物の移動工法において、
複数本の上記柱のうちの一部の柱群を、直進性を有する第1の移動体によって支持し、他部の上記柱群を上記第1の移動体よりも移動体面積当たりの耐荷重が大きい第2の移動体によって支持したことを特徴とする構造物の移動工法。
【請求項2】
上記第1の移動体は、コロ装置であり、かつ上記第2の移動体は、滑り装置であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の移動工法。
【請求項3】
上記構造物は既存の構造物であり、かつ上記構造物を支持する複数本の柱を切断して、当該柱の切断部に上記第1または第2の移動体を介装した後に、推進装置によって上記柱によって支持されていた上記既存構造物を地盤に沿って移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の移動工法。
【請求項4】
上記第1の移動体によって支持された上記柱群と、上記第2の移動体によって支持された上記柱群とが、上記構造物の移動方向と直交する方向に交互に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の構造物の移動工法。
【請求項5】
上記構造物を、回転中心廻りに回転移動させるとともに、上記コロ装置をそのコロ棒の回転軸線の延長線が上記回転中心を通るように配置したことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の構造物の移動工法。
【請求項6】
上記回転中心が、上記構造物の外方に位置していることを特徴とする請求項5に記載の構造物の移動工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−117242(P2011−117242A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277460(P2009−277460)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000156640)間瀬建設株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000156640)間瀬建設株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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