説明

構造物の補修方法

【課題】鋼製部材に接するコンクリートの解体を行うことなく、また、作業環境を悪化させることなく、鋼製部材の腐食を補修できる補修方法を提供する。
【解決手段】橋脚の柱部2の周面と巻立コンクリート3の上端面との近傍に、除錆液を担持させた不織布7を配置する。除錆液はチオグリコール酸アンモニウムを含み、中性を呈する。除錆液により、巻立コンクリート3を劣化させることなく、柱部2の巻立コンクリート3の上端部と接する部分に生じた錆を除去する。柱部2に除錆液を接触させて所定時間をおいた後、除錆液を除去し、柱部2の腐食部に塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁の鋼製橋脚等のような構造物の補修方法に関し、詳しくは、鋼製部材がコンクリート部材と接する部分に生じる腐食の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の鋼製橋脚の地表面の近傍には、鋼製橋脚を保護するため、鋼製部材の表面を巻いた状態でコンクリートを打設してなる巻立コンクリートを設けている。巻立コンクリートは、地中から地表面の所定の高さにわたって形成され、地表面を走行する車両の衝突等に起因する鋼製部材の損傷や劣化を防止している。この鋼製部材の表面と、巻立コンクリートの表面とが段差を形成して接する部分が、地際部と称されている。
【0003】
上記鋼製橋脚の地際部には、鋼製部材と巻立コンクリートとの間に、鋼製橋脚を伝わった雨水が浸透して残留するので、巻立コンクリートの上端に沿って腐食が局所的に進行することがある。このような鋼製部材の地際部の腐食を防止するため、従来、鋼製部材の地際部に、鉄よりもイオン化傾向の高い卑金属で形成した電極リングを設置して電池を形成し、防食電流を流して電気防食を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、電気防食は、腐食の進行を止める効果を奏するので、既に腐食が進行している構造物には適用できない場合がある。
【0005】
鋼製部材の巻立コンクリートの上端近傍に生成された腐食を補修する場合、従来、巻立コンクリートの上端部を解体して除去し、腐食部分を露出させた後、電動砥石等を用いた研削により錆を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−348690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、巻立コンクリートの上端部を解体して除去し、露出した腐食部分の錆を除去する補修方法は、巻立コンクリートの解体に手間がかかると共に、鋼製部材の錆を除去した後に巻立コンクリートの解体部分を補修する必要があるので、工程数が多く、また、費用がかかるという問題がある。また、電動砥石等を用いた研削により錆を除去するので、錆の研削粉が飛散して作業環境が悪化する問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、鋼製部材に接するコンクリートの解体を行うことなく、また、作業環境を悪化させることなく、鋼製部材の腐食を補修できる補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の構造物の補修方法は、
構造物の鋼製部材のコンクリートに接する部分に生じた腐食の補修方法であって、
上記鋼製部材とコンクリートの間に中性の除錆液を注入して、鋼製部材に除錆液を接触させる工程と、
上記除錆液を錆と共に除去する工程と
を備えることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、構造物の鋼製部材とコンクリートの間に中性の除錆液を注入して、鋼製部材に除錆液を接触させ、この除錆液の作用により鋼製部材の錆を除去する。したがって、コンクリートを解体することなく、少ない手間により、鋼製部材の錆を除去することができる。また、鋼製部材に除錆液を接触させて錆を除去するので、錆の研削粉が飛散することが無いから、作業環境の悪化を防止できる。また、中性の除錆液を用いるので、コンクリートを劣化させることなく、鋼製部材の錆を除去することができる。
【0011】
上記構造物としては、例えば、橋梁、鉄塔、電灯及び標識等のように、鋼製部材とコンクリートが接する部分を有する種々の土木構造物が該当する。
【0012】
一実施形態の構造物の補修方法は、上記中性の除錆液は、チオグリコール酸又はチオグリコール酸塩を含む。
【0013】
上記実施形態によれば、チオグリコール酸又はチオグリコール酸塩を含むことにより、中性を呈する除錆液が得られる。ここで、チオグリコール酸塩としては、チオグリコール酸アンモニウム及びジチオジグリコール酸ジアンモニウム等を挙げることができる。
【0014】
一実施形態の構造物の補修方法は、上記鋼製部材とコンクリートとが接する部分の近傍に、上記除錆液を担持させた担持手段を配置して鋼製部材に除錆液を接触させる。
【0015】
上記実施形態によれば、除錆液を担持させた担持手段を、鋼製部材とコンクリートとが接する部分の近傍に配置することにより、容易に除錆液を鋼製部材に接触させることができる。
【0016】
一実施形態の構造物の補修方法は、上記コンクリートは、地表面の近傍で上記鋼製部材の外側を取り囲む巻立コンクリートであり、
上記巻立コンクリートの上端に、上記鋼製部材を取り囲む壁体を形成し、この壁体の内側に上記除錆液を投入して鋼製部材に除錆液を接触させる。
【0017】
上記実施形態によれば、鋼製部材と巻立コンクリートとの間に除錆液を効果的に流入させて、鋼製部材に除錆液を確実に接触させることができる。
【0018】
一実施形態の構造物の補修方法は、上記除錆液が除去された鋼製部材の表面を、塗装により保護する工程を備える。
【0019】
上記実施形態によれば、除錆液を接触させた後に除去して錆を除去した状態の鋼製部材を、塗装により保護することにより、鋼製部材の腐食の進行を抑えることができる。
【0020】
一実施形態の構造物の補修方法は、上記除錆液が除去された鋼製部材に、補強部材を備える工程を備える。
【0021】
上記実施形態によれば、除錆液を接触させた後に除去して錆を除去した状態の鋼製部材に、補強部材を設置することにより、腐食によって強度が減少した鋼製部材を補強して構造物の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の補修方法を適用する橋脚を示す図である。
【図2】橋脚本体の巻立コンクリートと接する部分に生じた腐食部を示す断面図である。
【図3】腐食部に除錆液を担持させた担持手段を配置した様子を示す断面図である。
【図4】巻立コンクリートの上部に壁体を設けて除錆液槽を形成した様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構造物の補修方法の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態の補修方法を適用する構造物としての橋脚を示す図である。この橋脚10は道路橋の下部工であり、橋軸方向視においてT型をなす鋼製の橋脚である。この橋脚10は、橋軸直角方向に延在して床版を支持する梁部1と、梁部1の中央に連なって鉛直方向に延在する柱部2と、柱部2の地表面4の近傍に設けられた巻立コンクリート3で大略構成される。
【0025】
橋脚10の梁部1は、矩形断面の鋼製部材で形成され、橋脚10の柱部2は、矩形断面又は円形断面の鋼管で形成された鋼製部材である。巻立コンクリート3は、柱部2の外周を取り囲むように、地中から所定の高さにわたって設置されている。
【0026】
この橋脚10は、鋼製の柱部2に接する巻立コンクリート3の上端面の周辺に雨水が滞留し、柱部2と巻立コンクリート3との間に雨水が浸透する。これにより、柱部2と巻立コンクリート3との間が湿潤状態になり、柱部2の巻立コンクリート3に接する部分が腐食する。柱部2の腐食は、図2に示すように、雨水が滞留する巻立コンクリート3の上端の近傍で特に進行し、巻立コンクリート3によって一部が隠れた状態となる。
【0027】
本実施形態の補修方法では、中性の除錆液を、柱部2と巻立コンクリート3の間に注入し、柱部2の腐食部の錆を除去する。
【0028】
中性の除錆液としては、チオグリコール酸アンモニウム30.5wt%、希釈材としてメチルメトキシブタノール14.5wt%、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル0.7wt%、金属イオン封鎖剤0.3wt%、及び、水54wt%で形成されたものを採用することができる。なお、除錆液は、チオグリコール酸アンモニウムを25wt%以上35wt%以下、メチルメトキシブタノールを10wt%以上20wt%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを0.1wt%以上5wt%、金属イオン封鎖剤を0.3wt%以上1wt%、水を64.6wt%以上39wt%以下の所望の割合で混合して形成することができる。また、チオグリコール酸アンモニウム以外に、ジチオジグリコール酸ジアンモニウムやチオグリコール酸を用いてもよい。また、希釈材及び界面活性剤は、他の物質を用いてもよい。
【0029】
柱部2と巻立コンクリート3の間への除錆液の注入は、刷毛やローラ等を用いた塗布や、担持体を用いた接触や、液槽を用いた浸漬等により行うことができる。
【0030】
図3は、柱部2と巻立コンクリート3の間への除錆液の注入を、担持体を用いた接触により行う様子を示した図である。図3に示すように、柱部2の周面と巻立コンクリート3の上端面との境界の周辺に、担持体としての合成繊維の不織布7を配置する。除錆液は、柱部2と巻立コンクリート3との境界周辺に配置する前に不織布に担持させてもよく、また、配置した後に不織布に担持させてもよい。
【0031】
不織布7の合成繊維は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及び、アクリル等で形成されたものを用いることができる。また、セルロース等の植物由来の繊維を混合してもよい。さらに、担持体は、不織布に限られず、合成繊維や天然繊維の織物でもよい。また、担持体は、繊維の他に、スポンジ等の多孔体を用いてもよい。
【0032】
除錆液を担持させた不織布7を、柱部2の周面と巻立コンクリート3の上端面との境界の周辺に配置することにより、除錆液を柱部2の腐食部分に安定して供給することができる。したがって、巻立コンクリート3の上端部を解体することなく柱部2の除錆を行うことができるので、除錆作業の手間を削減できる。また、柱部2に除錆液を接触させて錆を除去するので、錆の研削粉が飛散することが無いから、作業環境の悪化を防止できる。また、中性の除錆液を用いるので、巻立コンクリート3を劣化させることなく、柱部2の錆を除去することができる。
【0033】
図4は、柱部2と巻立コンクリート3の間への除錆液の注入を、除錆液槽により行う様子を示した図である。図4に示すように、巻立コンクリート3の上端に、柱部2を取り囲む壁体6を形成し、壁体6の内側に除錆液を投入する。これにより、柱部2の周りに鋼製橋脚の形状に合わせた形状の除錆液槽を形成し、除錆液槽の除錆液を柱部2と巻立コンクリート3の隙間に浸透させて、柱部2の腐食部に除錆液を接触させる。除錆液槽に除錆液を溜めて柱部2と巻立コンクリート3の隙間に浸透させることにより、効果的かつ確実に、除錆液を柱部2の腐食部に接触させることができる。
【0034】
柱部2の腐食部に、不織布7又は除錆液槽により除錆液を接触させ、錆を溶解させるために所定時間をおいた後、柱部2と巻立コンクリート3の間から除錆液を除去する。除錆液の除去は、不織布7の撤去や、壁体6内からの除錆液の排出により行う。柱部2の腐食部に接触した除錆液を除去することにより、除錆液と共に柱部2の腐食部の錆が除去される。
【0035】
この後、錆が除去された柱部2の腐食部に、保護のための塗料を塗布して補修作業が完了する。
【0036】
なお、柱部2の腐食部には、必要に応じて、補強部材としての補強板を固定して補強を行う。また、柱部2の腐食部に、補強部材としての樹脂や金属等の補強材料を充填して柱部2の補強を行ってもよい。柱部2の腐食部に補強材料を充填することによって補強部材を設置し、これにより、腐食によって強度が減少した柱部2を補強して橋脚10の安定性を高めることができる。
【0037】
上記実施形態において、構造物としての橋脚10を補修する例を説明したが、橋脚10に限られず、鉄塔や電灯や標識等のように、鋼製部材とコンクリートが接する部分を有する種々の土木構造物を補修することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 梁部
2 柱部
3 巻立コンクリート
4 地表面
7 不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の鋼製部材のコンクリートに接する部分に生じた腐食の補修方法であって、
上記鋼製部材とコンクリートの間に中性の除錆液を注入して、鋼製部材に除錆液を接触させる工程と、
上記除錆液を錆と共に除去する工程と
を備えることを特徴とする構造物の補修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の補修方法において、
上記中性の除錆液は、チオグリコール酸又はチオグリコール酸塩を含むことを特徴とする構造物の補修方法。
【請求項3】
請求項1に記載の構造物の補修方法において、
上記鋼製部材とコンクリートとが接する部分の近傍に、上記除錆液を担持させた担持手段を配置して鋼製部材に除錆液を接触させることを特徴とする構造物の補修方法。
【請求項4】
請求項1に記載の構造物の補修方法において、
上記コンクリートは、地表面の近傍で上記鋼製部材の外側を取り囲む巻立コンクリートであり、
上記巻立コンクリートの上端に、上記鋼製部材を取り囲む壁体を形成し、この壁体の内側に上記除錆液を投入して鋼製部材に除錆液を接触させることを特徴とする構造物の補修方法。
【請求項5】
請求項1に記載の構造物の補修方法において、
上記除錆液が除去された鋼製部材の表面を、塗装により保護する工程を備えることを特徴とする構造物の補修方法。
【請求項6】
請求項1に記載の構造物の補修方法において、
上記除錆液が除去された鋼製部材に、補強部材を設置する工程を備えることを特徴とする構造物の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19163(P2013−19163A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153083(P2011−153083)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(508061549)阪神高速技術株式会社 (20)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】