説明

構造物用ゴム支承表面の現場補修工法とそれに用いる補修材塗布具

【課題】狭い作業現場でゴム支承表面に均一厚さでゴム系補修材を容易に塗布して構造物用ゴム支承表面の劣化部分を補修することが可能な現場補修工法とそれに用いる補修材塗布具を提供することを目的とする。
【解決手段】構造物用ゴム支承表面の劣化度を調査し、劣化度に応じた補修材を設定する工程と、ゴム支承表面に高さ調節され一定間隔で複数配置された櫛歯状部材で補修材供給量が調節される補修材塗布具を用いて均一厚で劣化度に応じて設定された補修材を塗布する工程と、塗布された補修材を乾燥させ均一膜厚の保護膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造との間に設置される構造物ゴム支承表面の現場での補修工法とそれに用いる補修材塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や橋梁の構造物の上部構造と下部構造との間に、上部構造を支持する構造物用ゴム支承が使用されている。構造物用ゴム支承は、通常ゴムと複数の補強鋼板を積層し加硫一体成形した積層ゴム支承が用いられる。
【0003】
このような構造物用ゴム支承は、使用される周囲の環境、使用方法、ゴム製品の形状等により、雰囲気中の酸素、オゾン、光などが複合的に作用し、ゴムが劣化し亀裂が発生する。そのため、劣化したゴム支承表面の補修を目的としてム系補修材を劣化したゴム支承表面に塗布することが実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−101616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゴム支承の補修工法においては、狭い作業現場でゴム支承表面に均一厚さでゴム系補修材を塗布するのが困難で、塗布されたゴム系補修材の膜厚が不均一になってしまうという問題が発生する。ゴム系補修材の膜厚が不均一であると、ゴム系補修材の膜厚の薄い部分に応力が集中してゴム系補修材の被膜に早期に亀裂等が発生し、ゴム系補修材の寿命が短くなるという問題が発生する。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであって、狭い作業現場でゴム支承表面に均一厚さでゴム系補修材を容易に塗布して構造物用ゴム支承表面の劣化部分を補修することが可能な現場補修工法とそれに用いる補修材塗布具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法は、前記課題を解決するために、構造物用ゴム支承表面の劣化度を調査し、劣化度に応じた補修材を設定する工程と、ゴム支承表面に高さ調節され一定間隔で複数配置された櫛歯状部材で補修材供給量が調節される補修材塗布具を用いて均一厚で劣化度に応じて設定された補修材を塗布する工程と、塗布された補修材を乾燥させ均一膜厚の保護膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法は、前記構造物用ゴム支承表面の劣化度が小さい場合、前記補修材として粘度1,000〜2,000mPa・sの低粘度ゴム系補修材を用いることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法は、前記構造物用ゴム支承表面の劣化度が大きい場合、前記補修材として粘度200,000〜300,000mPa・sの高粘度ゴム系補修材を用いることを特徴とする。
【0010】

また、本発明の補修材塗布具は、構造物用ゴム支承表面の劣化した部分に補修材を均一厚で塗布するための補修材塗布具であって、供給される補修材を収容する補修材収容部と、補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布する開口部と、前記開口部に高さ調節されて一定間隔で平行に配置される櫛歯状部材と、を備え、前記開口部に配置された複数の高さ調節され一定間隔で配置された櫛歯状部材間の空隙から所定量の補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布し均一膜厚の保護膜を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の補修材塗布具は、前記櫛歯状部材が、前記開口部から前方に先端が狭くなるテーパ状に突き出すように形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
構造物用ゴム支承表面の劣化度を調査し、劣化度に応じた補修材を設定する工程と、ゴム支承表面に高さ調節され一定間隔で複数配置された櫛歯状部材で補修材供給量が調節される補修材塗布具を用いて均一厚で劣化度に応じて設定された補修材を塗布する工程と、塗布された補修材を乾燥させ均一膜厚の保護膜を形成する工程と、を有することで、低コストで作業時間の短いゴム支承表面の補修が可能となる。また、均一膜厚の保護膜を形成することで、ゴム支承表面に付加される応力に対してもひび割れ等の損傷発生の少ない長寿命の保護膜とすることが可能となる。
構造物用ゴム支承表面の劣化度が小さい場合、補修材として粘度1,000〜2,000mPa・sの低粘度ゴム系補修材を用いることで、ゴム支承表面に薄い膜厚の保護膜を均一厚さに塗布することができ、乾燥時間を短縮することが可能となる。
構造物用ゴム支承表面の劣化度が大きい場合、補修材として粘度200,000〜300,000mPa・sの高粘度ゴム系補修材を用いることで、ゴム支承表明に形成された凹部にゴム系補修材を充填して保護膜を均一厚さで塗布することで、ゴム支承表面の保護性能を向上することが可能となる。
構造物用ゴム支承表面の劣化した部分に補修材を均一厚で塗布するための補修材塗布具であって、供給される補修材を収容する補修材収容部と、補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布する開口部と、前記開口部に高さ調節されて一定間隔で平行に配置される櫛歯状部材と、を備え、前記開口部に配置された複数の高さ調節され一定間隔で配置された櫛歯状部材間の空隙から所定量の補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布し均一膜厚の保護膜を形成することで、狭い作業空間で塗布厚が均一な補修材の塗布作業が容易に実施することが可能となる。
櫛歯状部材が、開口部から前方に先端が狭くなるテーパ状に突き出すように形成されることで、高さ調節された複数の櫛歯状部材間の空隙から流出する保護材を横方向に広がるようにゴム支承表面に塗布して塗布厚を均一にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1は、構造物用ゴム支承1の一実施形態の概略図である。
【0015】
構造物用ゴム支承1は、建築物や橋梁等の構造物の下部構造2と上部構造3の間に配置される。下部構造2に固定ボルト6により下鋼板4が固定される。上部構造3には、セットボルト11を介して上鋼板5ガ固定される。上鋼板5と下鋼板4との間に積層ゴム支承7が配置される。積層ゴム支承7は、ゴム8と補強鋼板9を積層して形成される。積層ゴム支承7の上部に上部連結鋼板10が配置される。上部連結鋼板10を含む積層ゴム支承7と下鋼板4を加硫一体成形により一体化しても良い。セットボルト11を積層ゴム支承7の上部連結鋼板10まで延長し、積層ゴム支承7と上部構造3を固定しても良い。
【0016】
このような構造物用ゴム支承1は、使用される周囲の環境、使用方法、ゴム製品の形状等により、雰囲気中の酸素、オゾン、光などが複合的に作用し、ゴムが劣化し亀裂が発生する。ゴム支承の劣化は、ゴムが外気に露出している部分から進行し長期間使用したゴム支承の側面等の外気への露出部分の劣化は避けられない。しかし、ゴム支承の露出部以外の大部分の品質は保持されている。このような状態の構造物用ゴム支承1を新しいものに交換することも考えられるが、そのためには施工時間と施工費用がかかり、低コスト化が要求される構造物用支承の技術分野においては、安価で作業時間が短くて済む補修により長寿命化を図ることが重要な課題となっている。
【0017】
本発明は、表面が劣化した構造物用ゴム支承1の安価な補修方法は、ゴム支承の表表面をクリーニングした後、補修材塗布具を用いて、ゴム支承表面に補修材を塗布して乾燥させて構造物用ゴム支承に保護膜を形成する。補修材の一例として、ゴムに溶剤を加えたゴム糊等のゴム系補修材を用いる。
【0018】
構造物用ゴム支承1の表面に補修材を塗布する際、注意すべき点は、補修材の塗布厚を均一厚にすることが重要である。ゴム支承表面に塗布された補修材は乾燥され保護膜12が形成される。塗布された補修材の塗布厚が不均一であると保護膜12の膜厚も不均一になる。構造物用ゴム支承1の表面は、上部荷重や水平方向の変位による応力で歪変形する。保護膜12の膜厚が不均一であると、膜厚の薄い箇所に応力が集中し、その部分から亀裂等の損傷が発生する。
【0019】
そのため、本発明においては、構造物用ゴム支承1の表面に補修材を均一厚で塗布するための補修材塗布具13を使用する。図2、図3、図4により本発明の補修材塗布具13の実施形態を説明する。
【0020】
補修材塗布具13は、全体が樹脂等で形成されるボディを備えている。補修材塗布具13のボディには、補修材チューブ14から供給される補修材を収容する補修材収容部15が形成される。補修材収容部15の前端に開口部16が形成される。開口部16には、複数の樹脂で形成される櫛歯状部材17が取付部材17、固定部材19を介して設置される。
【0021】
櫛歯状部材17の高さHと櫛歯状部材17間の間隔Lは、ゴム支承表面に塗布される補修材の厚み均一となる補修材の供給量となるように調節される。櫛歯状部材17は、開口部16から前方に延び、先端部が狭くなるテーパ状に形成される。櫛歯状部材17の先端をテーパ状とすることで開口部16から供給される補修材が横方向に均一に広がり、ゴム支承表面に塗布される補修材の厚みを均一する機能を有する。補修材の塗布作業は作業員が補修材塗布具13を手に持ち、補修材塗布具13の開口部16が重力方向の下向きになるようにして補修材を重力落下によりゴム支承表面に塗布する。
【0022】
構造物用ゴム支承1の表面に均一厚で塗布された補修材は、溶剤が気化して乾燥し均一膜厚の保護膜12が形成される。
【0023】
本発明の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法の手順を説明する。
【0024】
第一工程は、ゴム支承表面の劣化度を調査し、劣化度に応じた補修材を設定する。補修材として、ゴム支承表面の劣化度に応じて、粘度の異なるゴム糊を用いる。ゴム支承表面の劣化度が小さい場合、補修材として粘度1,000〜2,000mPa・sの低粘度ゴム系補修材を用いる。低粘度のゴム系補修材を用いることで、ゴム支承表面に薄い膜厚の保護膜を均一厚さに塗布することができ、乾燥時間を短縮することが可能となる。
【0025】
ゴム支承表面の劣化度が大きい場合、補修材として粘度200,000〜300,000mPa・sの高粘度ゴム系補修材を用いる。補修材として高粘度ゴム系補修材を用いることで、ゴム支承表明に形成された凹部にゴム系補修材を充填して保護膜を均一厚さで塗布することで、ゴム支承表面の保護性能を向上することが可能となる。
【0026】
第一工程において、ゴム支承表面の劣化度が大きい場合には、ゴム支承表明をクリーニングしたり、劣化部分を除去することもある。第一工程において、ゴム支承表面の劣化度が小さい場合には、クリーニング等の処理をせず次の工程に進む。
【0027】
第二工程は、ゴム支承表面に、図2〜図4に示される高さ調節され一定間隔で複数配置された櫛歯状部材17で補修材供給量が調節される補修材塗布具13を用いて均一厚で劣化度に応じて設定された補修材を塗布する工程である。
【0028】
第三工程は、ゴム支承表面に均一厚さで塗布された補修材を乾燥させ、均一膜厚の保護膜12を形成する。
【0029】
以上のように本発明の構造物用ゴム支承の補修工法によれば、低コストで作業時間の短いゴム支承表面の補修が可能となり、均一膜厚の保護膜を形成することで、ゴム支承表面に付加される応力に対してもひび割れ等の損傷発生の少ない長寿命の保護膜とすることが可能となる。また、本発明の補修材塗布具によれば、狭い作業空間で塗布厚が均一な補修材の塗布作業が容易に実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1:構造物用ゴム支承、2:下部構造、3:上部構造、4:下鋼板、5:上鋼板、6:固定ボルト、7:積層ゴム支承、8:ゴム、9:補強鋼板、10:上部連結鋼板、11:セットボルト、12:保護膜、13:補修材塗布具、14:補修材チューブ、15:補修材収容部、16:開口部、17:櫛歯状部材、18:取付部材、19固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物用ゴム支承表面の劣化度を調査し、劣化度に応じた補修材を設定する工程と、
ゴム支承表面に高さ調節され一定間隔で複数配置された櫛歯状部材で補修材供給量が調節される補修材塗布具を用いて均一厚で劣化度に応じて設定された補修材を塗布する工程と、
塗布された補修材を乾燥させ均一膜厚の保護膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする構造物用ゴム支承表面の現場補修工法。
【請求項2】
前記構造物用ゴム支承表面の劣化度が小さい場合、前記補修材として粘度1,000〜2,000mPa・sの低粘度ゴム系補修材を用いることを特徴とする請求項1に記載の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法。
【請求項3】
前記構造物用ゴム支承表面の劣化度が大きい場合、前記補修材として粘度200,000〜300,000mPa・sの高粘度ゴム系補修材を用いることを特徴とする請求項1に記載の構造物用ゴム支承表面の現場補修工法。
【請求項4】
構造物用ゴム支承表面の劣化した部分に補修材を均一厚で塗布するための補修材塗布具であって、
供給される補修材を収容する補修材収容部と、
補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布する開口部と、
前記開口部に高さ調節されて一定間隔で平行に配置される櫛歯状部材と、
を備え、
前記開口部に配置された複数の高さ調節され一定間隔で配置された櫛歯状部材間の空隙から所定量の補修材を前記構造物用ゴム支承表面に塗布し均一膜厚の保護膜を形成することを特徴とする補修材塗布具。
【請求項5】
前記櫛歯状部材が、前記開口部から前方に先端が狭くなるテーパ状に突き出すように形成されることを特徴とする請求項4に記載の補修材塗布具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−19176(P2013−19176A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153534(P2011−153534)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【特許番号】特許第4883658号(P4883658)
【特許公報発行日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【出願人】(391051256)株式会社美和テック (29)
【Fターム(参考)】