説明

構造物表面のひび割れ検出方法

【課題】 コンクリート等の構造物表面に染みや汚れが付着していても、構造物表面に生じているひび割れを明瞭に把握する。
【解決手段】本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は、コンクリート構造物の表面を撮像した原画像データに対し、ウェーブレット変換を用いて低周波成分を除去する処理を行うことにより、空間変化率が小さい構造物表面の染みや汚れを除去した二値化画像データを作成するとともに、かかる二値化画像データを用いて原画像データを広義の意味で線形補間する、すなわち、ひび割れに該当する画素を隣接する画素の平均輝度値で置換することによって背景画像データを作成し、かかる背景画像データで原画像を除算することにより、染みや汚れあるいは光ムラを確実に除去しながら、ひび割れだけを明瞭に抽出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてコンクリート構造物の表面に生じているひび割れを検出する構造物表面のひび割れ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな原因でコンクリートにひび割れが生じることはよく知られているところであるが、コンクリート表面に発生したひび割れは、地震後における被災度診断、耐震補強の必要性、鉄筋腐食等に関するRC材料の健全性などを知る手がかりとなることが多く、したがって、ひび割れを高い精度で分析していくことは、構造物の健全性を維持する上で重要な事項となる。
【0003】
ここで、コンクリート面に生じているひび割れを分析するにあたっては、旧来、目視によってひび割れの分布状況を観察し、これを紙にスケッチするとともに、必要に応じて該ひび割れの長さや幅をスケール等で計測し、かかるスケッチや計測データに基づいて上述した耐震性の検証や耐震補強の必要性、RC材料の健全性、地震特性の推測などを行うのが一般的であった。
【0004】
ところが、このような方法では、ひび割れの観察や計測に多くの時間と人手がかかるとともに、かかる作業に十分な経験を要するため、作業員の熟練度の違いに起因するばらつきが生じ、信頼性に欠ける面がある。
【0005】
また、精度の高い観察結果や計測データが得られたとしても、それらに基づいて耐震性等に関する分析を行うにあたっては、やはり経験的判断に頼らざるを得ない面もあり、客観性にも欠ける。
【0006】
【特許文献1】特許第3494429号
【特許文献2】特開2003−214827
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題点に鑑み、本出願人は、原画像データの画像領域のうち、特定されたひび割れ探査領域を所定のしきい値で2値化処理し、しかる後に該2値化処理されたデータを用いてひび割れを抽出する第1のステップと、未抽出のひび割れが存在する可能性のある画像領域を新たなひび割れ探査領域として特定する第2のステップと、該新たなひび割れ探査領域を前記しきい値よりも低いしきい値で2値化処理し、しかる後に該2値化処理されたデータを用いて新たなひび割れを抽出する第3のステップとからなり、第2のステップは、第1のステップにおいて2値化処理されたデータから黒画素を抽出するとともに、抽出された各黒画素について該黒画素を含む所定の単位領域をそれぞれ定め、それらの単位領域のうち、未抽出のひび割れが存在する可能性のある単位領域を選び出してそれら選び出された単位領域の包絡線を新たなひび割れ探査領域として特定するあらたなひび割れ検出方法を発明するに至った。
【0008】
かかる発明によれば、撮像された全範囲を最初から高い精度で、言い換えれば低いしきい値で2値化処理した場合に多数のノイズが含まれてしまったり、逆に高いしきい値で2値化処理した場合にノイズは除去できるが細いひび割れも同時に除去されてしまうというといった問題を未然に回避しながら、ひび割れ抽出における効率と精度とを両立させることが可能となる。
【0009】
しかしながら、コンクリート表面に付着しているさまざまな染みや汚れは、二値化処理における閾値の設定によって適切に除去することが困難であるという問題を生じていた。
【0010】
もちろん、染みや汚れも一種のノイズであり、その意味では、二値化処理、特に上述した発明による二値化処理によって、ひび割れをある程度の精度で検出することは可能であるが、染みや汚れとひび割れとは、輝度が互いに類似していることがあり、閾値の設定によって両者を分離することが困難な場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、コンクリート等の構造物表面に染みや汚れが付着していても、構造物表面に生じているひび割れを明瞭に把握することが可能な構造物表面のひび割れ検出方法を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は請求項1に記載したように、構造物表面を撮像して原画像データとし、該原画像データに対してウェーブレット変換を用いることにより前記原画像データから低周波成分が除去された1次画像処理データを作成し、該1次画像処理データを二値化処理して二値化画像データを作成し、該二値化画像データに分布する複数の黒画素で形成される領域をひび割れ領域として特定するとともに該ひび割れ領域内に属する黒画素のうち、所定位置の黒画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素を処理対象画素とし、前記所定位置の黒画素に隣接する隣接画素が白画素である比率を算出し、該比率が基準比率以上であるとき、該白画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素について平均輝度値を算出して該平均輝度値で前記処理対象画素の輝度値を置換処理するとともに前記二値化画像データにおける前記所定位置の黒画素を白画素に変換し、前記ひび割れ領域内のすべての黒画素が白画素に変換されるまで前記置換処理を繰り返し行うことによって、前記原画像データからひび割れが除去されたひび割れ除去画像データを作成してこれを背景画像データとし、前記原画像データを前記背景画像データで除して3次画像処理データを作成し、該3次画像処理データを二値化処理してひび割れ検出画像データを作成するものである。
【0013】
また、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は、前記複数の黒画素で形成される領域を膨張処理し、これを前記ひび割れ領域とするものである。
【0014】
また、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は、前記ひび割れ除去画像データの高周波成分をウェーブレット変換を用いて除去し、これを前記背景画像データとするものである。
【0015】
また、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は、前記構造物をコンクリート構造物としたものである。
【0016】
また、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法は、前記構造物表面にクラックスケールを貼着した上、これを撮像して前記原画像データとするものである。
【0017】
ウェーブレット(Wavelet)変換は、フーリエ変換のように信号の周波数分布を抽出することが可能であるとともに、フーリエ変換と異なり、時間方向の情報も失わずに取り出すことができる信号変換法の一つであり、解析周波数が低い場合には周波数解像度が上がり、逆に高周波領域になればなるほど時間解像度が上がるという特徴があるが、フーリエ変換でいうところの周波数領域とは意味が異なり、周波数の高低は空間変化率の大小と関連している。
【0018】
すなわち、本出願人は、このようなウェーブレット変換の特性に着眼し、鋭意研究を行った結果、構造物の表面を撮像した原画像データに対し、ウェーブレット変換を用いて低周波成分を除去する処理を行うと、空間変化率が小さい構造物表面の染みや汚れは、これらを原画像データから除去することができるとともに、その結果として、空間変化率が大きなひび割れだけを抽出することが可能であるというあらたな知見を得るとともに、かかる知見を利用すれば、構造物表面に染みや汚れがあっても、構造物表面のひび割れを精度よく検出することができるという産業上きわめて有益な新たな知見を得るに至ったものである。
【0019】
すなわち、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法を用いてコンクリート構造物の表面に生じているひび割れを検出するには、まず、構造物の表面を撮像して原画像データとする。原画像データは輝度値をもてば足りるので、カラー画像でもグレースケール画像でもよい。
【0020】
次に、原画像データに対してウェーブレット変換を用いることにより、原画像データから低周波成分が除去された1次画像処理データを作成する。
【0021】
このようにすると、空間変化率が小さい構造物表面の染みや汚れは、原画像データから除去されるとともに、空間変化率が大きいひび割れだけが原画像に残る。
【0022】
次に、1次画像処理データを二値化処理して二値化画像データを作成する。
【0023】
このように1次画像処理データを二値化処理して得られた二値化画像データは、構造物表面の染みや汚れが概ね除去され、ひび割れが主として抽出された画像データとなる。
【0024】
但し、ウェーブレット変換を行う際の周波数設定や二値化を行う際の閾値については、ひび割れ、特に微細なひび割れを見落とすことがなきように設定する。言い換えれば、明らかな染みや汚れだけを確実に除去するにとどめる。
【0025】
したがって、かかる二値化画像データには、ひび割れは確実に含まれている一方、染みや汚れについても多少含まれていることになるが、この点については後述するように何ら問題とはならない。
【0026】
すなわち、上述した手順で二値化画像データを作成した後、該二値化画像データに分布する複数の黒画素で形成される領域をひび割れ領域として特定するとともに、該ひび割れ領域内に属する黒画素のうち、所定位置の黒画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素を処理対象画素とし、前記所定位置の黒画素に隣接する隣接画素が白画素である比率を算出する。
【0027】
つまり、二値化画像データのひび割れ領域に存在する複数の黒画素のうち、まずは一つ定める。そして、その黒画素と同一位置に存在する原画像データ上の画素に注目してこれを処理対象画素とする一方、上述した黒画素に隣接する二値化画像データ上の隣接画素が白画素であるのか黒画素であるのかをそれぞれ判別し、隣接画素数に対する白画素数の比率を算出する。
【0028】
隣接画素の数は、画像データの中央では8画素、縁部では5画素、隅部では3画素となるので、中央で4画素が白画素である場合には、上述した比率は50%となり、縁部で3画素が白画素である場合には60%、隅部で1画素が白画素である場合には33%となる。
【0029】
次に、かかる比率が基準比率、例えば50%以上であるとき、白画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素について平均輝度値を算出して該平均輝度値で前記処理対象画素の輝度値を置換処理する。
【0030】
上述の例でいえば、中央と縁部で基準比率を上まわっているので、中央では4つの白画素と同一位置にある原画像データの画素の輝度を平均して平均輝度値を算出し、該平均輝度値で処理対象画素の輝度値を置換処理する。また、縁部では3つの白画素と同一位置にある原画像データの画素の輝度を平均して平均輝度値を算出し、該平均輝度値で処理対象画素の輝度値を置換処理し、隅部では基準比率を下回っているので、置換処理は行わない。
【0031】
このように隣接画素数に対する白画素数の比率を算出して基準比率を上まわる場合には上述した置換処理を行う一方、置換処理を行った場合には二値化画像データにおける所定位置の黒画素を白画素に変換する。
【0032】
このように、ひび割れ領域内のすべての黒画素が白画素に変換されるまで、上述した置換処理を繰り返し行うことにより、原画像データからひび割れが除去されたひび割れ除去画像データを作成し、これを背景画像データとする。
【0033】
つまり、背景画像データは、ひび割れに該当する画素の輝度が、周囲の画素の輝度に置き換えられ、ひび割れがないがごとき状態、いわば周囲の画素の輝度で塗りつぶされた状態となる。
【0034】
次に、原画像データを背景画像データで除して3次画像処理データを作成する。
【0035】
このようにすると、背景画像データはひび割れが塗りつぶされているので、該背景画像データで原画像データを除算すると、ひび割れだけが残り、他の画像要素、すなわち、染み、汚れ、光ムラといった画像要素はすべて除去される。
【0036】
ただ、かかる画像データは、この段階ではカラー画像又はグレースケール画像であるので、これを二値化処理することにより、ひび割れが明瞭に検出されたひび割れ検出画像データを作成する。
【0037】
ここで、前記複数の黒画素で形成される領域を膨張処理し、これを前記ひび割れ領域とするならば、ひび割れ検出の精度をさらに向上させることが可能となる。
【0038】
また、前記ひび割れ除去画像データの高周波成分をウェーブレット変換を用いて除去し、これを前記背景画像データとするならば、万一、二値化画像データを作成する際にひび割れをすべて検出できず、その結果として、原画像データのひび割れをすべて塗りつぶすことができずにひび割れが残った場合であっても、かかるひび割れを確実に背景画像データから除去しておくことができる。
【0039】
構造物については、ひび割れが生じるものであればその材質は任意であって、鋼材も含まれるが、該構造物をコンクリート構造物とした場合には、ひび割れが生じやすいコンクリートに対して有効な耐震補強対策や健全性管理を行うことが可能となる。
【0040】
また、前記構造物表面にクラックスケールを貼着した上、これを撮像して前記原画像データとするならば、クラックスケールもひび割れとともにひび割れ検出画像データに含まれることとなる。
【0041】
そのため、コンクリート等の構造物表面に生じているひび割れを分析する際、クラックスケールを構造物の表面に貼り付ける場合に有効な構成となる。
【0042】
クラックスケールとは、例えば、0.20, 0.25, 0.30, 0.35, 0.40 ・・・(単位mm)といった幅の黒線や目盛が予め透明板の上に多数描かれたものであって、例えば名刺サイズのものがたくさん市販されているが、このようなクラックスケールを構造物の表面に貼り付けた状態で撮像する場合、クラックスケールもひび割れ検出画像データに含まれることとなるため、ひび割れの幅や長さといった計測を引き続き、画像処理で行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明に係る構造物表面のひび割れ検出方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図1は、本実施形態に係る構造物表面のひび割れ検出方法を示したフローチャートである。同図に示すように本実施形態に係る構造物表面のひび割れ検出方法を用いて構造物としてのコンクリート構造物の表面に生じたひび割れを検出するには、まず、コンクリート構造物の表面を撮像して原画像データを得る(ステップ101)。撮像機器としては、CCDやCMOSセンサーを撮像素子としたデジタルカメラを適宜使用すればよい。
【0045】
ここで、原画像データは輝度値をもてば足りるので、カラー画像でもグレースケール画像のいずれでもかまわないが、以下、説明の便宜上、例えば8ビット(256階調)のグレースケール画像として説明する。
【0046】
コンクリート構造物の表面を撮像して原画像データを得たならば、次に、該原画像データに対してウェーブレット変換を用いることにより、原画像データから低周波成分が除去された1次画像処理データを作成する(ステップ102)。
【0047】
このようにすると、空間変化率が小さいコンクリート構造物表面の染みや汚れは、原画像データから除去されるとともに、空間変化率が大きいひび割れだけが原画像に残る。
【0048】
次に、1次画像処理データを二値化処理して二値化画像データを作成する(ステップ103)。
【0049】
このように1次画像処理データを二値化処理して得られた二値化画像データは、構造物表面の染みや汚れが概ね除去され、ひび割れが主として抽出された画像データとなる。
【0050】
但し、ウェーブレット変換を行う際の周波数設定や二値化を行う際の閾値については、ひび割れ、特に微細なひび割れを見落とすことがなきように設定する。言い換えれば、明らかな染みや汚れだけを確実に除去するにとどめる。
【0051】
したがって、かかる二値化画像データには、ひび割れは確実に含まれている一方、染みや汚れについても多少含まれていることになるが、この点については後述するように何ら問題とはならない。
【0052】
図2(a)は、上述した二値化画像データを二値化画像データ1として示したものであり、同図(b)は、同じく原画像データを原画像データ2として示したものである。これらの図では、説明の便宜のため、一画素を大きく描いてあるが、現実にはこれよりはるかに小さいことは言うまでもない。
【0053】
かかる二値化画像データ1を作成した後、該二値化画像データに分布する複数の黒画素3で形成される領域を膨張処理し、図2(a)に示すように、これをひび割れ領域4として特定する(ステップ104)。なお、ひび割れ領域4のうち、二値化処理による黒画素3を拡張した外側の黒画素については、黒画素3と区別するため、図面では若干色合いを変えてあるが、二値化画像ゆえ、いずれも黒画素であることは言うまでもない。
【0054】
次に、ひび割れ領域4内に属する黒画素のうち、黒画素5a,5b,5c・・・と同一の箇所に位置する原画像データ2の画素5a′,5b′,5c′・・・(5b′以下は図示せず)を処理対象画素とするとともに、二値化画像データ1において黒画素5a,5b,5c・・・に隣接する隣接画素が白画素である比率を算出する(ステップ105)。すなわち、黒画素5a,5b,5c・・・に隣接する二値化画像データ1上の隣接画素が白画素であるのか黒画素であるのかをそれぞれ判別し、隣接画素数に対する白画素数の比率を算出する。
【0055】
まず、黒画素5aは図3(a)でわかる通り、隣接画素の数は8で、そのうち、白画素の数は4であるので、白画素数の比率(以下、白画素比率)は50%である。また、黒画素5b,5c,5dは、隣接画素の数は8で、そのうち、白画素の数は3であるので、白画素比率は37.5%となる。
【0056】
一方、黒画素5eは、隣接画素の数は5で、そのうち、白画素の数は1であるので、白画素比率は20%となる。
【0057】
ここで、白画素比率が50%以上の場合に白画素と同一の箇所に位置する原画像データ2の画素について平均輝度値を算出し、該平均輝度値で前記処理対象画素の輝度値を置換処理する(ステップ106)。
【0058】
かかる比率を以下、基準比率とよぶ。
【0059】
上述の例でいえば、黒画素5aが基準比率を上まわっているので、該黒画素に対する処理対象画素、すなわち原画像データ2の画素5a′に隣接する4つの白画素の輝度を平均して平均輝度値を算出し、該平均輝度値で処理対象画素5a′の輝度値を置換処理する。他の黒画素5b〜5eに対する処理対象画素については置換処理を行わない。
【0060】
具体的には、図3(b)に示すように原画像データ2の画素5a′に隣接する4つの白画素の輝度を、Li(i=1,2,3,4)とすると、平均輝度値Laは、
【0061】
La=(L1+L2+L3+L4)/4
【0062】
となるので、処理対象画素5a′の輝度値を平均輝度値Laで置換する。
【0063】
このように隣接画素数に対する白画素数の比率を算出して基準比率を上まわる場合には上述した置換処理を行う一方、置換処理を行った場合には二値化画像データ1における所定位置の黒画素5aを白画素に変換する。
【0064】
かかる置換処理の進行に伴って置換処理可能な画素が増えていく。例えば、黒画素5aを白画素に変換した結果、その斜め右上にある画素は、隣接する白画素の数が3から4に増えるので、その画素も上述と同様の置換処理が可能となる。
【0065】
図4は、このような置換処理を二値化画像データ1の左上の画素群について順次行っていく流れを示したものであり、図5は、上述した置換処理を完了した時点での二値化画像データ1と原画像データ2を示したものである。
【0066】
図5を見ればわかるように、原画像データ2では、置換処理によってひび割れが塗りつぶされているのがわかる。
【0067】
画像データの中央に存在する黒画素についてはこのようにすべて置換処理ができるので、次に、画像データの縁部に存在する黒画素の置換処理を行う。
【0068】
考え方は同様であり、処理対象画素に隣接する5つの画素の白画素率を求め、50%以上の黒画素について順次同様の処理を行う。
【0069】
図6は、上述した置換処理を完了した時点での二値化画像データ1と原画像データ2を示したものであり、縁部においても原画像データ2からひび割れが塗りつぶされているのがわかる。
【0070】
画像データの縁部に存在する黒画素についてもこのように置換処理ができるので、最後に、画像データの隅部に存在する黒画素の置換処理を行う。
【0071】
考え方は同様であり、処理対象画素に隣接する3つの画素の白画素率を求め、50%以上の黒画素について順次同様の処理を行う。
【0072】
図7は、上述した置換処理を完了した時点での二値化画像データ1と原画像データ2を示したものであり、隅部においても原画像データ2からひび割れが塗りつぶされているのがわかる。
【0073】
このように、ひび割れ領域4内のすべての黒画素が白画素に変換されるまで、上述した置換処理を繰り返し行うことにより、原画像データ2からひび割れが除去されたひび割れ除去画像データを作成する。ちなみに、図7(b)に示した画像データがひび割れ除去画像データに該当する。
【0074】
なお、置換処理の繰り返し手順は、演算処理においてさまざまな手法が考えられ、例えば画像データの左上から1画素ずつ下げながら画像データの右下に到達するまで順次水平に置換処理を行い、次に、このようなスキャンを再度行い、前回のスキャンで置換処理できなかったものを置換処理するという手順を繰り返し行うことが考えられる。
【0075】
次に、ひび割れ除去画像データの高周波成分をウェーブレット変換を用いて除去し、これを背景画像データとする(ステップ107)。
【0076】
このようにすると、万一、二値化画像データ1を作成する際にひび割れをすべて検出できず、その結果として、原画像データ2のひび割れをすべて塗りつぶすことができずにひび割れが残った場合であっても、かかるひび割れを確実に背景画像データから除去しておくことができる。
【0077】
背景画像データは、ひび割れに該当する画素の輝度が、周囲の画素の輝度に置き換えられ、ひび割れがないがごとき状態、いわば周囲の画素の輝度で塗りつぶされた状態となる。
【0078】
次に、原画像データ2を背景画像データで除して3次画像処理データを作成する(ステップ108)。
【0079】
このようにすると、背景画像データはひび割れが塗りつぶされているので、該背景画像データで原画像データを除算すると、ひび割れだけが残り、他の画像要素、すなわち、染み、汚れ、光ムラといった画像要素はすべて除去される。
【0080】
次に、かかる画像データは、この段階ではグレースケール画像であるので、これを二値化処理することにより、ひび割れが明瞭に検出されたひび割れ検出画像データを作成する(ステップ109)。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る構造物表面のひび割れ検出方法によれば、コンクリート構造物の表面を撮像した原画像データに対し、ウェーブレット変換を用いて低周波成分を除去する処理を行うことにより、空間変化率が小さい構造物表面の染みや汚れを除去した二値化画像データを作成するとともに、かかる二値化画像データを用いて原画像データを広義の意味で線形補間する、すなわち、ひび割れに該当する画素を隣接する画素の平均輝度値で置換することによって背景画像データを作成し、かかる背景画像データで原画像を除算することにより、染みや汚れあるいは光ムラを確実に除去しながら、ひび割れだけを明瞭に抽出することが可能となり、かくして、コンクリート構造物表面に染みや汚れがあっても、構造物表面のひび割れを精度よく検出することができる。
【0082】
本実施形態では特に述べなかったが、構造物表面にクラックスケールを貼着した上、これを撮像して原画像データとしてもよい。
【0083】
かかる場合においては、クラックスケールもひび割れとともにひび割れ検出画像データに含まれることとなり、コンクリート等の構造物表面に生じているひび割れを画像処理で計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本実施形態に係る構造物表面のひび割れ検出方法の実施手順を示したフローチャート。
【図2】本実施形態に係る構造物表面のひび割れ検出方法において二値化画像データ1と原画像データ2とを対比して示した図。
【図3】置換処理の概念を示した図。
【図4】置換処理の流れを示した図。
【図5】画像データの中央に存在する画素の置換処理を終えた時点の二値化画像データ1と原画像データ2とを対比して示した図。
【図6】画像データの縁部に存在する画素の置換処理を終えた時点の二値化画像データ1と原画像データ2とを対比して示した図。
【図7】画像データの隅部に存在する画素の置換処理を終えた時点の二値化画像データ1と原画像データ2とを対比して示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物表面を撮像して原画像データとし、該原画像データに対してウェーブレット変換を用いることにより前記原画像データから低周波成分が除去された1次画像処理データを作成し、該1次画像処理データを二値化処理して二値化画像データを作成し、該二値化画像データに分布する複数の黒画素で形成される領域をひび割れ領域として特定するとともに該ひび割れ領域内に属する黒画素のうち、所定位置の黒画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素を処理対象画素とし、前記所定位置の黒画素に隣接する隣接画素が白画素である比率を算出し、該比率が基準比率以上であるとき、該白画素と同一の箇所に位置する原画像データの画素について平均輝度値を算出して該平均輝度値で前記処理対象画素の輝度値を置換処理するとともに前記二値化画像データにおける前記所定位置の黒画素を白画素に変換し、前記ひび割れ領域内のすべての黒画素が白画素に変換されるまで前記置換処理を繰り返し行うことによって、前記原画像データからひび割れが除去されたひび割れ除去画像データを作成してこれを背景画像データとし、前記原画像データを前記背景画像データで除して3次画像処理データを作成し、該3次画像処理データを二値化処理してひび割れ検出画像データを作成することを特徴とする構造物表面のひび割れ検出方法。
【請求項2】
前記複数の黒画素で形成される領域を膨張処理し、これを前記ひび割れ領域とする請求項1記載の構造物表面のひび割れ検出方法。
【請求項3】
前記ひび割れ除去画像データの高周波成分をウェーブレット変換を用いて除去し、これを前記背景画像データとする請求項1記載の構造物表面のひび割れ検出方法。
【請求項4】
前記構造物をコンクリート構造物とした請求項1記載の構造物表面のひび割れ検出方法。
【請求項5】
前記構造物表面にクラックスケールを貼着した上、これを撮像して前記原画像データとする請求項1記載の構造物表面のひび割れ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−162477(P2006−162477A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355823(P2004−355823)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】