説明

構造物表面の塩分測定装置

【課題】 測定精度の高い構造物表面の塩分測定装置を提供する。
【解決手段】 演算処理装置と共に操作パネル30a及び表示部30bを備えた装置本体30と、装置本体30に接続され鋼構造物表面Sに当接させて検出を行う検出部11とからなる塩分測定装置であり、検出部11は、一端に開口部12aを有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室12と、純水を液保持室12に供給する液供給流路13と、液保持室12内の液を撹拌する撹拌子14と、液保持室12内に検出端を露出させた塩分測定用センサー15と、鋼構造物表面Sに密着して液保持室12の液密状態を保つシール部材18と、検出部11を鋼構造物表面Sに吸着させる磁石19と、シール部材18の一部分を磁石19の磁力に抗して鋼構造物表面Sから離間させる離間手段20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種構造物の表面に付着した塩分を抽出採取すると同時に、その塩分測定を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用や道路用の橋梁、船舶、プラントの大型タンク等のような鋼を用いた構造物は、腐蝕を防止するため、新しく建造する時あるいはメンテナンス時に表面塗装を行う必要がある。
【0003】
しかし、これら鋼構造物の表面に海塩粒子等の塩分が付着したまま表面塗装を行うと、塗膜に膨れや層間剥離が生じたり、鋼構造物の素地表面に錆が発生したりして防食効果が得られなくなる。そのため、表面塗装を行う前に、鋼構造物表面の塩分濃度を測定し、鋼構造物表面の清浄度を管理することが従来から行われている。
【0004】
鋼構造物表面に付着する塩分の濃度は、鋼構造物の種類や環境等により異なるが、海岸付近では1000mg/mを超えることがある。この塩分を洗浄やサンドブラスト等によって取り除き、表面塗装を行う前の段階で、通常50〜300mg/m程度に設定される管理濃度以下にする必要がある。
【0005】
このような場合に、鋼構造物表面の塩分濃度を測定する装置として、特許文献1〜3には図1に示すように、検出部1を鋼構造物表面Sに当接させ、検出部1に設けられた液保持室2にシリンジ等の純水供給源Wから液供給流路3を経て塩分抽出用の純水を供給し、液保持室2に設けられた撹拌子4を用いて純水を撹拌して鋼構造物表面Sから塩分を溶解抽出した後、その液の電気伝導率をセンサー5で測定することにより、鋼構造物表面Sの塩分濃度を測定する装置が知られている。
【0006】
【特許文献1】特許第3912776号公報
【特許文献2】実公平4−5003号公報
【特許文献3】実公平6−13475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記測定装置は、精度の高い測定を行うためには、液保持室2に受入れて保持する純水の量が常に一定であることが望ましい。そのため、従来、純水を受入れる際に液保持室2内の空気を排気するエア抜き流路が複数本設けられていた。
【0008】
例えば、図1に示す装置では、液保持室2の開口部2a側と上底面2b側にそれぞれ第1のエア抜き流路6及び第2のエア抜き流路7が設けられている。これにより、真下(天井面)や斜め下を向く鋼構造物表面Sの塩分濃度を測定する場合は、開口部2a側に設けられた第1のエア抜き流路6から空気を抜き、真上や斜め上を向く鋼構造物表面Sの塩分濃度を測定する場合は、液保持室2の上底面2b側に設けられた第2のエア抜き流路7から空気を抜くことによって、液保持室2に常にほぼ一定量の純水を受入れて測定を行うことができる。尚、垂直な鋼構造物表面Sの塩分濃度を測定する場合は、第1のエア抜き流路6又は第2のエア抜き流路7のいずれの流路を使用してもよい。
【0009】
しかしながら、図2に示すように、液保持室2の開口部2aの周囲には、液保持室2内を液密状態に保つため、シリコーンゴム等からなるO−リング等のシール部材8が設けられている。第1のエア抜き流路6の排気口6aはこのシール部材8よりも液保持室2側に設けなければならないので、真下や斜め下を向く鋼構造物表面Sの塩分濃度を測定する場合は少なくともシール部材8の厚み分だけ空気Aを排気することができず、測定値に誤差が含まれる原因になっていた。
【0010】
本発明は、かかる従来の事情に鑑みてなされたものであり、真下や斜め下を向く鋼等の構造物表面の塩分濃度を測定する場合であっても、液保持室がほぼ満液になるまで純水を受入れることが可能な測定精度の高い塩分測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供する請求項1に記載の構造物表面の塩分測定装置は、演算処理装置と共に操作パネル及び表示部を備えた装置本体と、該装置本体に接続され構造物表面に当接させて検出を行う検出部とからなり、該検出部は、一端に開口部を有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室と、純水を液保持室に供給する液供給流路と、液保持室内の液を撹拌する撹拌子と、液保持室内に検出端を露出させた塩分測定用センサーと、構造物表面に密着して液保持室の液密状態を保つシール部材と、検出部を構造物表面に吸着させる磁石と、シール部材の一部分を磁石の磁力に抗して構造物表面から離間させる離間手段とを備えていることを特徴としている。
【0012】
上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、上記離間手段は、構造物表面とこれに当接する検出部の当接面との間に挟み込まれる介在部材であることを特徴としている。
【0013】
上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、上記離間手段は、構造物表面に当接する検出部の当接面から出没する可動部材であることを特徴としている。
【0014】
上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、上記可動部材は、当接面から突出した位置と退避した位置との間で回転自在又は出入自在であることを特徴としている。
【0015】
上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、上記可動部材は、構造物表面に当接する当接具を有しており、構造物表面とこれに当接した当接具との位置関係を変化させることなく上記可動部材は当接面から出没可能であることを特徴としている。
【0016】
また、上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、上記可動部材は、検出部に穿設された貫通孔に貫入された棒状部材であり、磁石の磁力に抗して突出した状態を維持する係止機構を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液保持室がほぼ満液になるまで純水を受入れることができるので、精度の高い塩分測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図3を参照しながら本発明に係る構造物表面の塩分測定装置の一具体例を説明する。この塩分測定装置は、図示しない演算処理装置と共に操作パネル30a及び表示部30bなどを備えた装置本体30と、装置本体30にコードを介して接続された検出部11とからなり、軽量小型で持ち運びできる簡易な装置である。検出部11は、略円柱状部分11aと、その先端部に形成されたフランジ部11bとからなる外形を有しており、このフランジ部の当接面11sが鋼構造物表面Sに当接するようになっている。
【0019】
検出部11は、塩分抽出用の純水を受入れて保持する2〜20ml程度の容量の液保持室12を有している。液保持室12は、受入れた純水を鋼構造物表面Sに接触させてそこに付着している塩分を抽出採取できるように、所定の開口面積を有する好適には円形の開口部12aを有している。液保持室12は、開口部12aに対向する上底面12bと、これを囲む側面12cによって画定されており、これらの面は好適にはABS、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(アクリル)、PA(ポリアミド)、PTFE(フッ素樹脂)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、エポキシ等の樹脂から形成されている。
【0020】
開口部12aの周縁にはシリコーンゴム等からなるO−リング等のシール部材18が設けられている。このシール部材18は、当接面11sが鋼構造物表面Sに当接した時にそこに密着して液保持室12の液密状態を保つ。シール部材18の外側には永久磁石19が設けられている。これにより当接面11sを鋼構造物表面Sに吸着させることができる。
【0021】
塩分を抽出採取する純水は、図3に例示するシリンジや軟質プラスチック容器等の純水供給源Wから液供給流路13を介して液保持室12に供給される。液供給流路13の一端部には、かかる純水供給源Wが着脱自在に取り付けられるように接続部13aが設けられている。
【0022】
検出部11は、更に液保持室12内の液を約500〜3000rpmの回転数で撹拌する撹拌子14を有している。この撹拌子14はモーター14aによって駆動される。モーター14aの駆動開始及び停止はスイッチ14bで行われ、モーター14aの電源は電池14cから供給される。
【0023】
液保持室12内の液体の電気伝導度は、塩分測定用センサー15により測定される。この塩分測定用センサー15は、上底面12b又は側面12cから露出するように設けるのが望ましい。塩分測定用センサー15で測定した電気伝導率は液体の温度変化によって変動するため、これを補償する温度センサー(図示せず)が設けられても良い。これら塩分測定用センサー15や温度センサーは、リード線によって装置本体30の演算処理装置に接続されている。
【0024】
液保持室12の上底面12b側には、外部に連通するエア抜き流路17が設けられていることが望ましい。これにより、真上や斜め上を向いている鋼構造物表面Sを測定する場合は、純水を受入れる際に、エア抜き流路17から液保持室12内の空気を抜き出すことができる。エア抜き流路17の出口部には、純水の受入れ完了後に液保持室12内を液密状態に保つため、開閉可能なエア抜き栓17aが設けられている。尚、操作性を良くするため、エア抜き流路17は液供給流路13に対向する位置に設けられるのが好ましい。
【0025】
真下や斜め下を向いている鋼構造物表面Sや垂直な鋼構造物表面Sを測定する場合は、後述する離間手段を用いてエア抜きが行われるため、液保持室12の開口部12a側にエア抜き流路を設けなくてもよい。また、エア抜き流路17を設けた場合は、図1に示すように、上底面12bの形状を、その中央部に向かうに従って開口部12a側に徐々に隆起するような逆錐状に形成してもよい。これにより、液保持室12に純水を供給する際、純水の流れに伴って液保持室12の空気は上底面12bのテーパー面に沿ってその周縁部に向けてスムースに移動し、そこに位置するエア抜き流路17から外部に排気される。
【0026】
検出部11は、純水の供給時にシール部材18の一部分を永久磁石19の磁力に抗して鋼構造物表面Sから離間させる離間手段20を備えている。これにより、真下や斜め下を向いている鋼構造物表面Sや垂直(鉛直下方向)な鋼構造物表面Sを測定する場合は、純水を受入れる際に、シール部材18の一部分と鋼構造物表面Sとの間を離間させ、その隙間から液保持室12内の空気を抜き出すことができる。
【0027】
離間手段20によって離間させる距離は、開口部12aの形状及び開口面積、シール部材18の厚み、検出部11の当接面11sの大きさに応じて適宜定められる。具体的には、下記の数式から離間させる距離Tを求めることができる。
【0028】
[数1]
T=(tanθ×L)+h
【0029】
ここで、距離Lは、図4(a)に示すように、位置P1と位置P2との間の距離であり、位置P1は、離間手段20によって最も鋼構造物表面Sから離れている当接面11sの端部が、離間手段20を引き抜いた時又は退避させた時に当接する鋼構造物表面S上の位置であり、位置P2は、離間手段20によって離間している時に鋼構造物表面Sに密着しているシール部材18の一部分の内の中央部である。また、角度θは、図4(b)に示すように、離間手段20によって離間した状態を真横から見た時の鋼構造物表面Sと当接面11sとがつくる角度である。更に、高さhは、図4(c)に示すように、シール部材18が鋼構造物表面Sに密着したときにシール部材18によって生じる隙間(距離)である。尚、上記数式からも分るように、距離Tは角度θだけ傾けたことにより離間した距離に、上記シール部材18によって生じる隙間を合算した値となる。
【0030】
角度θは、0.1〜3.0°であることが好ましい。0.1°未満では離間している時のシール部材18の一部分と鋼構造物表面Sとの間の隙間が狭すぎて効率良く空気を抜き出すことができなくなる。一方、3.0°より大きくなれば、永久磁石19の磁力が鋼構造物に届きにくくなり、検出部11が鋼構造物表面Sから外れて落下するおそれがある。尚、鋼構造物表面Sと当接面11sとを離間した状態で液保持室12にその容量を超える純水が若干供給された場合は、水面が当接面11sから盛り上がるが、上記角度範囲内では水の表面張力の影響により漏れることはない。
【0031】
離間手段20の一具体例としては、図5の(a)に示すような、鋼構造物表面Sとこれに当接する検出部11の当接面11sとの間に挟み込まれる介在部材120を用いることができる。この介在部材120は例えば丸棒や板状部材からなり、長手方向に差し込むようにして挟み込まれる。板状部材の場合は、その幅は20mm以下であることが好ましい。20mmを超えると、挟み込んだ時にシール部材18の一部分が鋼構造物表面Sから離間する距離が広がりすぎ、前述したように、検出部11が鋼構造物表面Sから外れて落下するおそれがある。
【0032】
上記介在部材120の材質は、永久磁石19の磁力の影響を受けにくい材質であることが好ましい。具体的には、アルミニウム、チタン、ステンレス等の非磁性金属や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、ポリスチレン、ポリカーボネイト等のプラスチック素材や、これらの複合材料を挙げることができる。
【0033】
尚、液保持室12内への純水の受入れが完了した後は、図5の(b)に示すように当接面11sを鋼構造物表面Sに当接させるべく、永久磁石19の磁力に抗して簡単に介在部材120を引き抜くことができるのが好ましいので、介在部材120の端部には屈曲部や凹凸部等が設けられていたり、ひも等が結び付けられていたりすることが好ましい。また、介在部材120の不使用時に紛失することのないように、検出部11に取り付けることができるような構造になっていることがより好ましい。
【0034】
離間手段20の他の具体例として、鋼構造物表面Sに当接する検出部11の当接面11sから出没する可動部材を用いることができる。例えば、図6に示すように、当接面11sから突出した位置と退避した位置との間で回転自在なレバー220を用いることができる。このレバー220は、検出部11の不使用時や塩分測定時は、図6の(b)に示すように、当接面11sから突出しないように当接面11sに対して垂直に起こしておき、液保持室12内に純水を受入れる時は、図6の(a)に示すように、当接面11sに対して所定の角度だけ傾けてレバー220の端部を当接面11sから突出させる。これにより、永久磁石19の磁力に抗してシール部材18の一部分を鋼構造物表面Sから離間させることができる。
【0035】
この離間状態においても、永久磁石19の磁力は鋼構造物に強く及んでいるので、検出部11が鋼構造物表面Sから外れて落下することがない上、液保持室12内への純水の受入れが完了した後は、当接面11sに対して垂直な方向にレバー220を起こすだけで、この磁力によって検出部11は鋼構造物表面Sに引きつけられてシール部材18の全周が鋼構造物表面Sに密着する。
【0036】
レバー220は図6に示す形状に限定されるものではなく、図7の(a)に示すように、当接面11sに対して垂直な方向に起こした時に突出するように、突出側端部を凸状にしたレバー220aを用いてもよいし、図7の(b)に示すように、当接面11sに対して垂直な方向に起こした位置から左右どちらの方向に傾けても突出するように、突出側端部を矩形形状にしたレバー220bを用いてもよい。
【0037】
鋼構造物表面Sに当接する検出部11の当接面11sから出没する可動部材の他の具体例としては、当接面11sから突出した位置と退避した位置との間で出入自在な部材を用いることができる。例えば、図8に示すように、検出部11の当接面11sに交差するねじ孔21をフランジ部11bに設け、このねじ孔21にねじ状部材320を螺合させて、ねじ状部材320の螺合の度合いに応じてねじ状部材320の先端部を当接面11sから出没させてもよい。これにより、シール部材18の一部分を鋼構造物表面Sから離間させる際のねじ状部材320の突出位置を、図8の(a)に示す最大突出位置と図8の(b)に示す退避位置との間の任意の位置にすることができる。この場合、ねじ状部材320には突出させようとする力とともに回転力も加わることになり、結果的にこの先端と接する鋼構造物表面Sにはこれらの力が加わることになる。
【0038】
上記ねじ状部材320の先端部には、図9に示すように、鋼構造物表面Sに当接する当接具320aを別部材として有してもよい。別部材とすることにより、当接具320aを鋼構造物表面Sから突出させたい場合には、ねじ状部材320を上方へ螺合させつつ回転させることになるが、当接具320aはこれに従って回転することはなく、突出させようとする力のみが加わる。これにより、当接具320aと鋼構造物表面Sとの当接した時の位置関係を保ったまま、ねじ状部材320を図9の(a)に示す最大突出位置と図9の(b)に示す退避位置との間で出没させることができる。その結果、鋼構造物表面Sの当接部分に傷を付けるおそれがなくなる。
【0039】
当接面11sから突出した位置と退避した位置との間で出入自在な部材は、図8や図9に示すようなねじ孔に螺合するねじ状部材に限定されるものではなく、図10に示すように、フランジ部11bに穿設されたねじ溝のない貫通孔121に、ねじ溝のない棒状部材420を貫入したものを用いてもよい。これにより、ノック式ボールペンの如く棒状部材420の末端部を押すだけで簡易に先端部を突出させることができる。
【0040】
但し、この棒状部材420の場合は、永久磁石19の磁力に抗して突出した状態を維持する係止機構を備えていることが望ましい。例えば、図10に示すように、貫通孔121の内壁に対向する棒状部材420の側面に小孔420aを穿設し、ここを出没する係合具420b及び該係合具420bを突出する方向に付勢するばね等の付勢手段420cを収納する。棒状部材420の先端部が当接面11sから退避している時は、この係合具420bは貫通孔121の内壁に押圧されて小孔420a内に退避せしめられている。
【0041】
一方、貫通孔121の内壁部には、棒状部材420の先端部が所定の突出位置にきたときに係合具420bが嵌り込むような係合孔121aが穿設されている。これにより、棒状部材420の末端部が押されて棒状部材420の先端部が当接面11sから突出する際、係合具420bは、貫通孔121の内壁を摺動し、棒状部材420の先端部が所定の突出位置にきた時に、付勢手段420cの付勢力によって小孔420aから突出して係合孔121aに係合する。これにより、永久磁石19の磁力により棒状部材420を退避させようとする力が働いても、棒状部材420の先端部は当接面11sから突出した位置で固定される。
【0042】
棒状部材420の先端部を当接面11sから退避させる時は、係合孔121aまで延びる押圧棒121bを付勢手段420cの付勢力に抗して押すことによって係合具420bと係合孔121aとの係合が外れ、永久磁石19の磁力によって棒状部材420が退避すると共に、検出部11が鋼構造物表面Sに引きつけられてシール部材18の全周が鋼構造物表面Sに密着する。
【0043】
シール部材18の一部分と鋼構造物表面Sとの間の隙間から液保持室12内の空気を抜き出すには、上記した種々の離間手段20が常に上側に位置するように検出部11を鋼構造物表面Sに取り付けるのが望ましい。このため、図11に示すように、検出部11には鋼構造物表面Sに当接する当接面11sの傾きを示す水準器22が設けられているのが好ましい。水準器22のタイプは棒状や円状等任意のものを用いてもよい。尚、上記レバー220、220a、220b、ねじ状部材320、当接具320a及び棒状部材420の材質としては、上記介在部材120の材質として挙げたもの以外に、磁性金属を用いることもできる。
【0044】
以上説明したように、純水の受入れ時に液保持室12内に空気がほとんど残留しなくなるので、液保持室12内には常に一定量の純水を受入れることができる。その結果、液量の相違による塩分濃度の測定誤差をなくすことができ、精度の高い測定を行うことが可能となる。
【0045】
上記した塩分測定装置を使用して真下又は斜め下を向く鋼構造物表面Sや垂直な鋼構造物表面Sに付着した塩分の濃度を測定する方法を次に説明する。先ず、検出部11の当接面11sを鋼構造物表面Sに近づけて、永久磁石19の磁力によって、検出部11を鋼構造物表面Sに吸着させる。この時、離間手段20によってシール部材18の一部分は鋼構造物表面Sから離間している。この状態で純水供給源Wから液供給流路13を介して所定量の純水を液保持室12に注入する。純水が注入されていくに従って、液保持室12内の空気は、シール部材18の該一部分と鋼構造物表面Sとの隙間から外部に排気される。
【0046】
純水の注入が完了すると、離間手段20を検出部11の当接面11sから退避させるか抜き取ってシール部材18の全周を鋼構造物表面Sに密着させて液保持室12の液密状態を保つ。その後、スイッチ14bをオンにして撹拌子14を回転させて液保持室12内の液体を撹拌し、鋼構造物表面Sに付着している塩分を溶解抽出する。所定時間経過後、スイッチ14bをオフにして撹拌子14の回転を停止する。液保持室12内の液体に溶解抽出された塩分の濃度は、液保持室12内の塩分測定用センサー15で検出され、電気信号に変換されて装置本体30の演算処理部に送られて処理され、表示部30bに鋼構造物表面Sの単位面積当たりの塩分濃度として表示される。
【実施例】
【0047】
図3に示す塩分測定装置用い、以下に具体的に説明するように、離間手段20によって液保持室12の開口部12aの回りに設けられたシール部材18の一部分を鋼構造物表面Sから離間させた状態で液保持室12に純水を注入して漏れの有無を調べた。この塩分測定装置は、検出部11のフランジ部11bの直径が94mmであり、シール部材18には環の直径40mmのO−リングを使用した。このO−リングは、鋼構造物表面Sに密着させたときは、当接面11sと鋼構造物表面Sとの間の隙間が0.6mmであった。
【0048】
離間手段20として、フランジ部11bの縁部から5mm内側の位置に、高さ2mmの板状の介在部材を挟み込んで、真下を向く鋼構造物表面Sに永久磁石19の磁力で検出部11を吸着させて純水を供給した。尚、この時の鋼構造物表面Sと当接面11sとがつくる角度θは1.2°であった。その結果、液保持室12内の空気を良好に抜き出すことができ、液保持室12が満液にならない限り純水が漏れることはなかった。
【0049】
高さ2mmの板状の介在部材はそのままにして、垂直な鋼構造物表面Sに永久磁石19の磁力で検出部11を吸着させて純水を供給した。この時、介在部材のある側(当接面11sの端部が最も鋼構造部表面Sから離れている側)が最上面となるような位置にした。その結果、液保持室12が満液になる前に純水が漏れ出した。そこで、板状の介在部材を高さ1.2mmのものに交換して再度垂直な鋼構造物表面Sに検出部11を吸着させて純水を供給したところ、液保持室12が満液にならない限り純水が漏れることはなかった。尚、この時の鋼構造物表面Sと当接面11sとがつくる角度θは0.4°であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の塩分測定装置の検出部の概略の部分断面側面図である。
【図2】従来の塩分測定装置の液保持室に純水を受入れた時の様子を示した概略の部分断面側面図である。
【図3】本発明の一実施態様に係る塩分測定装置の概略の部分断面側面図である。
【図4】本発明の一実施態様に係る塩分測定装置の検出部を鋼構造物表面から離間させた時の様子を示した概略図である。
【図5】本発明の離間手段の一具体例を示した概略図である。
【図6】本発明の離間手段の他の具体例を示した概略図である。
【図7】図6の離間手段の変形例を示した概略図である。
【図8】本発明の離間手段の更に他の具体例を示した概略図である。
【図9】図8の離間手段の変形例を示した概略図である。
【図10】本発明の離間手段の更に他の具体例を示した概略図である。
【図11】本発明の一実施態様に係る塩分測定装置に水準器を備えた時の様子を示した概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1、11 検出部
2、12 液保持室
3、13 液供給流路
4、14 撹拌子
5、15 塩分測定用センサー
6、7、17 エア抜き流路
8、18 シール部材
19 永久磁石
20 離間手段
30 装置本体
S 鋼構造物表面
A 残留空気
W 純水供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算処理装置と共に操作パネル及び表示部を備えた装置本体と、該装置本体に接続され構造物表面に当接させて検出を行う検出部とからなる構造物表面の塩分測定装置であって、該検出部は、一端に開口部を有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室と、純水を液保持室に供給する液供給流路と、液保持室内の液を撹拌する撹拌子と、液保持室内に検出端を露出させた塩分測定用センサーと、構造物表面に密着して液保持室の液密状態を保つシール部材と、検出部を構造物表面に吸着させる磁石と、シール部材の一部分を磁石の磁力に抗して構造物表面から離間させる離間手段とを備えていることを特徴とする構造物表面の塩分測定装置。
【請求項2】
前記離間手段は、前記構造物表面とこれに当接する検出部の当接面との間に挟み込まれる介在部材であることを特徴とする、請求項1に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項3】
前記離間手段は、前記構造物表面に当接する検出部の当接面から出没する可動部材であることを特徴とする、請求項1に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項4】
前記可動部材は、前記当接面から突出した位置と退避した位置との間で回転自在又は出入自在であることを特徴とする、請求項3に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項5】
前記可動部材は、前記構造物表面に当接する部分に当接具を有しており、構造物表面とこれに当接した当接具との位置関係を変化させることなく前記可動部材は前記当接面から出没可能であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項6】
前記可動部材は、前記検出部に穿設された貫通孔に貫入された棒状部材であり、前記磁石の磁力に抗して突出した状態を維持する係止機構を備えていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の構造物表面の塩分測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−151464(P2010−151464A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327227(P2008−327227)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】