説明

構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定を最適化するための携帯用装置および仮想現実方法

構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定を最適化するための携帯用装置および方法。この装置は:病理の異なる進行段階における視覚的参考の搭載型データベースと;材料および構造物の物理的予報的シミュレーションの結果のデータベースから得られたデータを補間することにより劣化インジケータおよび老化キーパラメータを計算し、生涯の異なる瞬間における前記構造物の一要素の複数の可能な視覚的外観を視覚的参考画像を用いて表し、かつ、現実の外観を比較することにより前記構造物の状態を分類するためのソフトウェア手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定(専門的評価)を最適化するための携帯用装置に関する。本発明は、また、この装置で実施される仮想現実(ヴァーチャル・リアリティー)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の劣化をシミュレートするための計算コードは既に存在する。しかし、これらの計算コードは専門家又は技師によって使用されることを目的としていると共に、大きな演算パワーを必要としている。従って、それらは現場で容易に使用することができない。登山家や潜水夫によって検査されるようなアクセス困難な構造物の場合は特にそうである。
【0003】
他方、ポケットコンピュータ(手持ちコンピュータ)で作動する幾つかの視覚的検査ソフトウェアが存在し、このコンピュータは次いでデータベースを提供することが可能である。しかし、これらのソフトウェアは単なる情報入力ツールである。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、老化をモデル化したノウハウにより視覚的検査を豊富化することの可能な携帯用装置を提供することにある。
【0005】
上記目的は、構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定(専門的評価)を最適化するための携帯用情報処理装置によって達成されるもので、この装置は:
−病理の異なる進行段階における視覚的な参考(目に見える参照資料)の搭載型(オンボード型)データベースと;
−材料および構造物の物理的予報的シミュレーションの結果のデータベースから得られたデータを補間することにより、劣化インジケータおよび老化のキーパラメータを計算し、
−前記構造物の生涯の異なる瞬間における前記構造物の一要素の可能な複数の視覚的外観を、前記視覚的参考のデータベースから得られた参考画像(参照用画像)を用いて表し、かつ、
−前記構造物の現実の外観を前記参考画像と比較することにより前記構造物の状態を分類(類型化)する、
−ためのソフトウェア手段、
とを有する。
【0006】
従って、本発明の装置は、現場において、構造物の状態を、予め計算されたシミュレーションの結果と比較するのを可能にする。
【0007】
好ましくは、このソフトウェア手段は、更に、検査の視覚的データを用いて構造物の予報的シミュレーションをアップデートすることにより、シミュレーションの結果のデータベース上の不確定性を補正するべく構成されている。
【0008】
好ましくは、視覚的参考が集積された搭載型データベースは、所定の複数の瞬間における構造物の複数の劣化状況に対応する一組の参考劣化カーブ(参照用の劣化カーブ)を有する。
【0009】
視覚的参考の搭載型データベースは、更に、構造物の劣化をモデル化するために用いる物理的モデルに関する情報を有することができる。
【0010】
本発明の装置は、また、鑑定の際にユーザが入力したデータを格納するためのデータベースを有することができる。
【0011】
本発明の他の観点においては、本発明は、本発明の携帯用情報処理装置で実施される、構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定を最適化するための方法を提供するもので、この方法は:
−シミュレーションの結果のデータベースから得られたデータを補間することにより、前記構造物の劣化インジケータおよび老化のキーパラメータを計算することと、
−前記構造物の生涯の異なる瞬間における前記構造物の一要素の可能な複数の視覚的外観を、視覚的参考のデータベースから得られた参考画像を用いて表すこととと、
−前記構造物の現実の外観を前記参考画像と比較することにより前記構造物の状態を分類すること、
とを包含する。
【0012】
この方法は、更に、検査の視覚的データを用いて構造物の挙動の予報的シミュレーションをアップデートすることにより、シミュレーションの結果のデータベース上の不確定性を補正することを包含することができる。
【0013】
好ましくは、本発明の方法は、更に、所与の瞬間に鑑定される前記構造物の状態を、視覚的な参考画像を用いて計算することを包含する。
【0014】
予報的シミュレーションのアップデートは、好ましくは、構造物の観察された現実の状態に最も近いものとしてユーザが選んだ参考画像に確率を結びつけることを包含する。
【0015】
本発明は、また、劣化現象を迅速にシミュレートするために外挿法の法則を利用することからなる。
【0016】
本発明の他の利点は、現実の状態におけるだけでなく将来における構造物の病理を可視化する装置をユーザに提供することである。
【0017】
かくして、本発明の方法は、視覚的検査およびそれに関連する判定を最適化するために、材料劣化の物理法則を考慮する。
【0018】
本発明が提案する解決手段は以下のことを可能にする:
−コンピュータ(例えばPDA)上で参考画像のカタログを提供することにより、観察の不確定性を低減すること(このカタログは、現場がアクセス困難な場合でも、現場で使用可能である)、
−観察すべき現象に対して視覚的検査をより良くターゲットすること、
−当初ソフトウェア内に集積した劣化の動力学をアップデートするのを可能にする情報を回収すること、
−観察すべき現象およびその経時的動力学に関する現場での最初の解釈を可能にすることにより検査機能に価値を付与すること、
−教育学的に強力なツールにより現場で検査員の知識を進歩させること。
【0019】
本発明の方法は、モデル化の結果のデータベースを用いた劣化インジケータの値の外挿法、および、画像のデータベースを用いたその視覚的表示に立脚している。
【0020】
現象のモデル化は劣化インジケータの経時的進展を得るのを可能にする。
【0021】
経験の変遷から得られる画像を現実の造作物に利用すれば、画像を1つの劣化レベル、従って、或る時間に結びつけることが可能である。
【0022】
本発明の更に他の利点や特徴は非限定的な実施例の詳細な説明および添付図面から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の仮想現実方法を実施する仮想現実装置の実施例を説明する。図1を参照するに、究明すべき現象が鉄筋コンクリート内の鉄筋の腐蝕であり、かつ、欠陥インジケータがコンクリートの亀裂であるとすると、t0における画像は錆のしみのないコンクリートの画像に対応し、t1は幾つかの小さな錆のしみのある画像に対応し、t2は多数のしみのある画像に対応し、t3は亀裂のしたコンクリートの画像を示し、t4はあらゆる鉄筋が非常に劣化して現れているコンクリートを示す。
【0024】
搭載型データベースは、異なる複数の状況に対応するこれら一組のカーブからなる。
【0025】
鉄筋の腐蝕に関する前記の例に戻るに、腐蝕は、温度、コンクリートの厚さ、相対湿度、塩素の存在、・・・のような種々のパラメータに依存している。従って、データベースはすべてのパラメータ(温度、コンクリートの厚さ、相対湿度、塩素の存在、・・・)について参考劣化カーブ(参照用の劣化カーブ)を格納している。
【0026】
より詳しくは、この搭載型データベースには次のものが格納されている:
−当初は典型的事例である物理的モデルの概略的記載:
モデルの使用分野の記載、
モデルの出所(経験的、計算されたもの)、
モデルの作者、
モデルの作成日、
−入力されたパラメータのリスト:
パラメータの名称、
単位、
予め計算されたシミュレーションにおいて使用した最大値に対応する使用可能な最大値、
使用可能な最小値;
−予め計算された結果のセット。入力パラメータの各セット毎に:
−異なる瞬間に対応する一連の画像、
−各画像に関連する状態(例えば、新しい、良好、中間、劣化している、非常に劣化している、の中から選ばれる)のインジケータ。
【0027】
本発明の携帯用装置の形でユーザに利用される検査ツールは:
−コンピュータ(例えば、PC又はPDA)、
−前述した形式の参考画像(参照用画像)のデータベース、
−このデータベースを活用するためのソフトウェア、
を有する。
【0028】
このソフトウェアは以下の機能を提供する:
−場合により入力されるパラメータの制御された入力、
−必要な場合、時間パラメータの入力、
−特定の時間における造作物の状態の計算(参考のデータベースから出力される典型的事例の補間による)、
−関連する画像の表示、
−必要な場合、真の構造物に最も良く対応する画像を特定するために時間パラメータ(又は他の入力パラメータ)を修正すること、
−必要な場合、構造物の劣化の動力学の再調整。
【0029】
2つの使用モードを想定することができる。第1の使用モードにおいては、ユーザは所定数の入力数値を入力し又は選択する。この装置は出力数値を計算し、最も近い典型的事例からの外挿法により、装置の状態に対応する画像を表示する。年数を修正することにより、この装置は過去だけでなく将来における病理的出来事の年代記にアクセスする。
【0030】
第2の使用モードにおいては、ユーザはその作品を観察し、構造物に最も良く対応する画像を探す。ユーザはパラメータの推定値を入力することから開始し、次に、装置の真の状態に最も近い画像を見出すまでパラメータを順次に修正する。
【0031】
それからシミュレーションの結果をアップデートすることができる。アップデート方法の非限定的な例として、視覚的参考のデータベースは選ばれた画像を所与の確率に結びつける。
【0032】
この確率は、シミュレーションの結果のデータベースにおいては、図5のカーブAが示すように、時間t1に対応する。しかし、もしもこの現象が現実には時間t2で起こるのならば、アップデート・アルゴリズムは、劣化の動力学は図5のカーブBによって与えられる(カーブAではない)ことを考慮するであろう。その結果、構造物の劣化の予想は修正される。
【0033】
本発明の方法を実施する検査ツールの主要構成要素を図6に示す。この検査ツールはJavaで実行することができる。
【0034】
視覚的参考のデータベースのコードの抜粋を次に掲げる:
ストリング モデル =“鉄筋の腐蝕”
ストリング 作者 =“Kefei Li, PhD”
ストリング 出所 =“ETU/2003/003/A内で計算”
int [] ケース0 = {0、15、25、30、40、45、50、60}
int [] ケース1 = 新規 int [8]
int [] ケース2 = 新規 int [8]
int [] ケース3 = 新規 int [8]
(int i = 0;i < 状態数;i++)につき、{
ケース1[i] = ケース0[i]*2;
ケース2[i] = ケース0[i]*4;
ケース3[i] = ケース0[i]*30/50;

【0035】
画像選択コードの抜粋を次に掲げる:
プライベート 無効 アップデート画像(補間 数値)
スイッチ(状態 現在){
ケース0:
(int i = 1;i < 状態数;i++)につき、{
もし( 値<ケース0[i])ならば{
画像 パネル.現在画像(i−1)設定
復帰;

画像 パネル.現在画像(7)設定
中断;
ケース1:
(int i = 1;i < 状態数;i++)につき、{
もし( 値<ケース1[i])ならば{
画像 パネル.現在画像(i−1)設定
復帰;

画像 パネル.現在画像(7)設定
中断;
ケース2:
(int i = 1;i < 状態数;i++)につき、{
もし( 値<ケース2[i])ならば{
画像 パネル.現在画像(i−1)設定
復帰;

画像 パネル.現在画像(7)設定
中断;
ケース3:
(int i = 1;i < 状態数;i++)につき、{
もし( 値<ケース3[i])ならば{
画像 パネル.現在画像(i−1)設定
復帰;

画像 パネル.現在画像(7)設定
中断;


【0036】
このツールの主たる用途は土木工学、機械工学、航空、海運、鉄道、自動車、化学工業、および農業の分野である。
上記最後の分野においては、本発明の装置および方法は植物の成長を検査するために使用することができる。
【0037】
勿論、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく上記実施例に種々の修正を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は視覚的参考のデータベースに入っている劣化インジケータの経時的進展カーブの一例を示す。
【図2】図2、図3、および図4は、コンクリート製造作物の鉄筋の夫々13年、31年、51年目の腐蝕状態を追跡するための本発明の仮想現実方法を実施するツールの応用例を示す。
【図5】図5は本発明の方法で実施するシミュレーションの結果をアップデートする方法を示す。
【図6】図6は本発明の仮想現実方法を実施する仮想現実装置の主たる構成要素を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定を最適化するための携帯用情報処理装置であって:
−病理の異なる進行段階における視覚的な参考の搭載型データベースと;
−材料および構造物の物理的予報的シミュレーションの結果のデータベースから得られたデータを補間することにより、劣化インジケータおよび老化のキーパラメータを計算し、
−前記構造物の生涯の異なる瞬間における前記構造物の一要素の可能な複数の視覚的外観を、前記視覚的参考のデータベースから得られた参考画像を用いて表し、かつ、
−前記構造物の現実の外観を前記参考画像と比較することにより前記構造物の状態を分類する、
−ためのソフトウェア手段、
とを有することからなる携帯用情報処理装置。
【請求項2】
前記視覚的参考の搭載型データベースは、所定の複数の瞬間における構造物の複数の劣化状況に対応する一組の参考劣化カーブを有することを特徴とする請求項1に基づく装置。
【請求項3】
前記視覚的参考の搭載型データベースは、更に、構造物の劣化をモデル化するために用いる物理的モデルに関する情報を有することを特徴とする請求項1又は2に基づく装置。
【請求項4】
前記ソフトウェア手段は、更に、シミュレーションの結果のデータベース上の不確定性を補正するべく構成されていることを特徴とする前記請求項のいづれかに基づく装置。
【請求項5】
前記請求項のいづれかに基づく携帯用情報処理装置で実施される、構造物(特に土木構造物)の視覚的検査および鑑定を最適化するための方法であって:
−シミュレーションの結果のデータベースから得られたデータを補間することにより、前記構造物の劣化インジケータおよび老化のキーパラメータを計算することと、
−前記構造物の生涯の異なる瞬間における前記構造物の一要素の可能な複数の視覚的外観を、視覚的参考のデータベースから得られた参考画像を用いて表すこととと、
−前記構造物の現実の外観を前記参考画像と比較することにより前記構造物の状態を分類すること、
とを包含することからなる方法。
【請求項6】
シミュレーションの結果のデータベース上の不確定性を補正することを更に包含することを特徴とする請求項5に基づく方法。
【請求項7】
所与の瞬間に鑑定される前記構造物の状態を、視覚的な参考画像を用いて計算することを更に包含することを特徴とする請求項5又は6に基づく方法。
【請求項8】
コンクリート製造作物の鉄筋の腐蝕過程を追跡するために前記請求項のいづれかに基づく携帯用情報処理装置および方法を応用すること。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−526980(P2007−526980A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505717(P2006−505717)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000595
【国際公開番号】WO2004/084118
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(505339760)
【Fターム(参考)】