説明

構造物

【課題】構成部材を柔構造化することにより、安全性、耐久性及び施工性を確保しつつ、経済性及び耐震性に優れる構造物を提供する。
【解決課題】構造物Aの一部をなす構成部材3、4(側壁3及び中壁4)を、当該構成部材3、4の上下方向にそれぞれの4個ブロック31、41により構成し、前記隣り合うブロック31、31、ブロック41、41を緊張材6により緊張して、地震時の周辺地盤のせん断変形に追随するように水平方向に相対移動可能に接合したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボックスカルバート、トンネル覆工、杭やケーソンその他の地中構造物、若しくは橋脚等の地上構造物又は水中構造物に係り、特に構造部の一部をなす構成部材自体が自らのせん断変形に基づく減震や免震機能を備えた構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の耐震性の向上が求められ中で、安全性、耐久性、経済性及び施工性を確保しつつ耐震性に優れた構造物の設計、施工が切望されている。最近では大規模地震に対する耐震性能を確保するため、構造物はより剛構造になる傾向があり、そのため断面積はより大きく、鉄筋量は増加し、道路橋示方書などの配筋細目の改訂その他の原因で構造物の設計、施工に厳しい条件が課せられるようになった結果、構造物がコスト高になるという不具合がある。
【0003】
一方、地盤と構造物との間、あるいは下部工と上部工との接続部等の構造の変化点に免震装置を介在させることにより両者間を遮断して、或る値を超える地震動が免震装置の上の構造物や部材に伝達されることを防止する技術も周知になっている。
しかし、この免震装置は地盤と構造物の間、又は構造物の構造の変化部位(例えば基礎梁と柱の間)に介在される物であるため、構造物に対して設置できる免震装置の数に制約があって充分な免震機能を得ることが困難であり、そのため構造物あるいはその部材に発生する断面力は十分に低下しないためその強度を上げて剛性を高めることが余儀なくされるという不具合がある。
また、免震装置の数に制約があるため、前記剛性の向上による荷重の増加とも相まって個別の免震装置の負荷が大となるから、免震装置自体の規模も大きくならざるを得ず、その結果としてコスト高になるという不具合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、構造物を構成する部材を剛構造から柔構造に変更することにより、安全性、耐久性及び施工性を確保しつつ前記の不具合を解消して経済性及び耐震性にも優れる構造物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、構造物の一部をなす構成部材のうち、必要な部材を、当該構成部材の軸方向に連続する2個以上のブロックにより構成し、連続する各ブロックを緊張材により前記軸方向に緊張して、隣り合うブロックを前記構成部材のせん断変形が卓越するように相対移動可能に接合したことを特徴としている。
前記構成部材としては、柱、梁、壁、版、アーチ及びシェルのうちの少なくとも一つであり、柱、梁及びアーチの軸は部材軸方向に形成され、壁の軸は上下方向に形成され、版とシェルの軸は、これらの主軸方向に形成されている。
【0006】
前記隣り合うブロックの間に、ゴム状の弾性材又は低摩擦の摺動材を介在させて前記ブロックの間を前記相対移動可能に接合することが好適である。ゴム状の弾性材はせん断変形をしつつ隣接するブロック間の接合部にせん断変形を許容し、低摩擦の摺動材はこれと両ブロックの少なくともいずれかの間で滑りを生じて両ブロック間にせん断変形を生じさせる。各ブロックは軸方向に緊張材によって緊張することでブロック間に発生する曲げ変形は所定の許容値以下に制御できる。
【0007】
また、隣りあうブロック間の対向面を予測される前記せん断方向に平行に形成して、これをブロックの相対移動の案内面とすると、前記せん断変形が容易になる。前記対向面は多くの場合、水平面であることが好ましい。さらに前記隣り合うブロックの間に、前記相対移動の距離が所定値内になるように規制するストッパを形成するとよい。
【0008】
かくして、構成部材を構成する各ブロックは構成部材のせん断変形が卓越するように相対移動可能に接合しているという意味で、構成部材には軸方向の複数箇所にせん断変形の弾性接合部が形成されている。このため、かかる構成部材を備えてなる構造物は、柔構造化され、以てこの構造物が地中構造物であれば、地震による周辺地盤のせん断変形に追随して変形することにより免震構造物とすることができる。また、この構造物が地上構造物又は水中構造物であれば、前記柔構造化により、地震動の入力に対して固有周期の長周期化を図ると共に、構造物全体のより高い免震化を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地中構造物又は基礎構造物にあっては、地震時の周辺地盤のせん断変形に対して平行方向に設置する複数の弾性接合部を地盤のせん断変形に追随させることにより、構造物に発生する断面力を大幅に低減すると同時に、構造物の減震化や免震化を図ることができる。従って、従来の剛構造からより合理的な柔構造物として設計・施工することができ、安全性が向上しつつ、大きなコスト縮減が期待できる。
また、地上構造物にあっては、複数の弾性接合部を設置することで構造物全体の免震化が容易となるので、大規模地震時においても十分な耐震性能を確保することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の構造物は、地震時に必要とされる耐震性能の確保が困難な構造物に、所定の構成部材を設置することで構造物の耐震性の向上を図るものである。
ここで、構成部材とは、当該構成部材の軸方向に連続する2個以上のブロックにより構成し、連続するブロックを緊張材により前記軸方向に緊張して、隣り合う前記各ブロック間において、軸変位・曲げ変形に対してせん断変形が卓越し、せん断力が伝達されるようにせん断方向への相対移動が可能に接合した部材であり、この接合部は弾性接合部と称する。
【0011】
そして、柱、梁及びアーチ部材、若しくは壁又は版及びシェルを構成する場合には、部材軸方向、若しくは壁の上下方向又は版及びシェルの少なくとも互いに直交する2方向に沿って複数箇所にせん断変形の前記弾性接合部を形成することが好適である。
また、前記構成部材における軸方向の緊張力は、地震荷重作用時に弾性接合部におけるせん断変形を卓越させ、軸変位(開口)、折れ角を抑制すると同時に、必要に応じて部材の耐力を向上させるためにアンボンド方式により負荷することが好ましい。この緊張方式には、部材内部を貫通する方式に加えてアウトケーブル方式、アウトベルト方式及びアウトメンブレン方式も考えられる。
以下、本発明の好ましい実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の構造物の第1実施例を示すもので、頂版1と、底版2と、これらを支持する側壁3と中壁4とによって、地中に構築されたボックスカルバートAの全体を示す概略斜視図である。図2は、該ボックスカルバートAの一部をなす構成部材である側壁3における弾性接合部5の要部を示す拡大図である。
このボックスカルバートA(地中構造物)は、それぞれ分割されたプレキャストコンクリート製の頂版1、底版2、側壁3及び中壁4を接合することにより構築されている。この場合には、頂版1及び底版2と、側壁3及び中壁4との接合部には、弾性接合部5を設置する。これにより、ボックスカルバートAの横断方向の柔構造化が可能となる。
【0013】
さらに、地震時の周辺地盤のせん断変形に追随しやすくするために、前記側壁3及び中壁4は、それぞれの四つのブロック31、ブロック41に分割され、前記隣接するブロック31、31、ブロック41、41の間には、ボックスカルバートAの縦断方向に沿って、弾性接合部5を設置する。また、側壁3及び中壁4には、頂版1〜底版2にわたって緊張材6を貫通させて、アンボンド方式等(図示せず)により該緊張材6の両端を定着する。また、必要の強度に応じて、前記中壁4の代わりに、所定間隔をおいて中柱4(図示せず)を採用してもよい。そして、該中柱4には、その部材軸方向に、前記弾性接合部5を所定間隔に設置する。
【0014】
一方、弾性接合部5においては、図2(a)のように、前記ブロック31、31の対向面の中央部には、嵌合する一対の凹部51と凸部52がそれぞれ形成され、前記対向面の平坦部32、32の間には、ゴム状の弾性材53が介在される。この場合、前記凹部51と凸部52の間には、前記弾性材53のせん断変形を所定値内に規制する隙間54が形成されると共に、この隙間54を挟む左右の面がストッパとして機能する。なお、前記対向面の平坦部32、32は、周辺地盤のせん断方向に対して平行に形成すると共に、前記ブロックのせん断変位を案内する。この実施例では平坦部32、32は水平面である。
【0015】
また、図2(b)のように、ゴム状の弾性材53の代りに、前記ブロック31より低摩擦のシート状の摺動材55を介在しても良い。また、前記摺動材55の摩擦特性を変更することにより、前記ブロック間のせん断変形性能を制御することができる。摺動材55としては、ステンレス等の金属プレートが好適である。
図3は、本発明に係る地中構造物の減震・免震効果を示す説明図である。図3(a)、(b)、(c)にはそれぞれ、前記ボックスカルバートAの一部(側壁3)、地震時における周辺地盤の深度別の水平変位分布g、及びこれに対応する側壁3の水平変位w、w'を示す。なお、図3(b)、(c)における符号w及びw'は、弾性接合部5を設置した側壁3の場合及び通常の剛接合を有する側壁の水平変位のそれぞれを示すものである。
【0016】
同図に示すように、側壁3(又は中壁4)の水平変位wは、地震時における周辺地盤の水平変位(せん断変形)gに対し、複数の弾性接合部5により区分的せん断変形が発生して地盤変位に追随するので、両者の相対変位rを低減することが可能となる。これに対して、弾性接合部5を設置しない通常の剛接合の場合における側壁の水平変位w'は、周辺地盤のせん断変形に追随せず、周辺地盤との相対変位r'が大きいことは明らかである。
【0017】
以上のような弾性接合部5を設置することにより、前記ボックスカルバートAの横断方向の柔構造化が可能となり、側壁3や中壁4に作用する断面力を大幅に低減できる。また、弾性接合部5のせん断変形によって、地震エネルギー吸収能力を向上させて、従来技術より、優れる減震、免震性能を得ることが可能となる。
【実施例2】
【0018】
図4は、本発明の第2実施例に係るアーチトンネル覆工体Bを示すものである。このアーチトンネル覆工体Bは、開削トンネル工法を用いてコンクリート製のアーチ7と底版8とによって構成される。前記アーチ7は、複数のブロック71を緊張材72によりアーチの軸方向に緊張すると共に、前記隣り合うブロック71間に弾性接合部73を水平方向に介在する点を特徴とするものである。なお、前記弾性接合部73は、水平方向だけでなく、アーチ7の曲率や入力地震動の特性等に応じて、最適な方向に配置すればよい。また、この実施例では、第1実施例と同様な構成を有する弾性接合部を採用する。
【0019】
以上のように、アーチ7の軸方向に所定の間隔をおいて弾性接合部73を設置することにより、地震時の大きな水平荷重の作用時に、前記ブロック71間に曲げやせん断力の伝達を適切な範囲に抑制し、軸力を伝達すると同時に、緊張材の緊張力を制御することにより、アーチ7における座屈の発生が生じないという効果が期待できる。
【実施例3】
【0020】
図5は、本発明の第3実施例に係る3連アーチトンネル覆工体Cを示すものである。該3連アーチトンネル覆工体Cは、第2実施例のアーチトンネル覆工体Bを横方向に3個連結して構成されたものである。この場合には、アーチ7と底版8は、第2実施例と同様な構造を有するが、隣接するアーチトンネル間に内壁9がそれぞれ設けられる。この内壁9には、ブロック91を緊張材92により上下方向に緊張して、隣り合うブロック91の間に弾性接合部93が設置される。なお、前記緊張材92の端部はアンボンド方式等により定着されている。なお、弾性接合部73、93の構造も第1実施例の弾性接合部と同様の構造である。
以上の構成により、第1、2実施例の効果に加えて、構造物全体が地震時の周辺地盤の水平変形に追随しやすくなり、大規模地震時においても十分な耐震性能を確保することが可能となる。
【実施例4】
【0021】
図6は、本発明の第4実施例に係る橋梁Dを示すもので、上部構造11を支持する橋脚10として使用する場合を例示する概念図である。この実施例では、橋脚10は、PCウェル工法によって、場所打ち鉄筋コンクリート又はプレキャストコンクリートブロック10aによって円形断面に構築される。
ここで、前記ブロック10aを組立てる際に、隣接するブロック10a、10a間には、前述した第1〜第3実施例の弾性接合部と同一の構造を有する弾性接合部10bを水平方向に複数段設置している。この場合には、地中のみならず、水中又は地上の部分においても、弾性接合部10bを設置している。さらに鉛直方向にアンボンド方式緊張材10cを橋脚10の周方向に所定間隔おきに挿通してプレストレスを導入する。
以上のようにして弾性接合部10bを設置することにより、上部構造11の耐震性能を考慮しつつ、構造物体全体の柔構造化を図ることが容易となるので、構造物全体の耐震性能をより向上することができる。しかも、施工性やコストの縮減に有利である。
【実施例5】
【0022】
図7は、本発明の第5実施例に係る地下構造物Eを示すもので、シールドトンネル等の発進及び到達の立坑12として使用する場合を例示する概念図である。ここで、立坑12は、前記地下構造物Eの一部をなす構造部材であり、一種のシェルである。
前記立坑12は、セグメント12a(ブロック)を地上で組立、円周方向及び垂直方向にPC鋼より線等の緊張材12b、12cを挿入し、プレトレスを導入することにより一体化しつつ、圧入しながら内部の土を掘削し、所定の深さまで沈設して構築される。この場合、前記セグメント12aの組立てにおいては、円周方向及び垂直方向に隣接するセグメント12aの間には、弾性接合部12d、12eを設置する。なお、この弾性接合部12d、12eとしては、第1〜第4実施例における弾性接合部と同一の構造を採用すればよい。なお、前記立坑12の開口部13近傍には、前記弾性接合部を設置しても良い。
【0023】
以上のようにして弾性接合部12d、12eを設置することにより、立坑12が地震時の周辺地盤の水平方向変形のみならず、垂直方向変形にも追随しやすくなるので、構造物全体の減震化や免震化をより効果的に図ることができる。しかも、従来の工法で施工ができるので、安全性及び経済性に有利である。
なお、本発明は、上記の実施例に係る構造物に限ることなく、他の構造形式、例えば、杭、ケーソン等の基礎構造物、タンク等のシェル状構造物にも適用できる。また、上記実施例において示した弾性接合部の配置、数や構造等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例に係るプレキャストボックスカルバートの全体を示す概略斜視図である
【図2】図1の弾性接合部を示す拡大図である。
【図3】地中構造物の減震・免震効果を示す説明図である。
【図4】本発明の第2実施例に係るアーチトンネル覆工体を示す概略横断面図である。
【図5】本発明の第3実施例に係る3連アーチトンネル覆工体を示す概略横断面図である。
【図6】本発明の第4実施例に係る橋脚を示す概略横断面図である。
【図7】本発明の第5実施例に係る立坑を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 頂版
2 底版
3 側壁
31 ブロック
4 中壁
41 ブロック
5 弾性接合部
6 緊張材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の一部をなす構成部材を、当該構成部材の軸方向に連続する複数のブロックにより構成し、連続する各ブロックを緊張材により前記軸方向に緊張して、隣り合うブロックを前記構成部材のせん断変形が卓越するように相対移動可能に接合したことを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記構成部材は、柱、梁、壁、版、アーチ及びシェルのうちの少なくとも一つであり、柱、梁及びアーチの軸は部材軸方向に形成され、壁の軸は上下方向に形成され、版とシェルの軸はこれらの面に沿って主軸方向に形成されるものである請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記隣り合うブロックの間に、ゴム状の弾性材又は低摩擦の摺動材を介在させて前記ブロックの間を前記相対移動可能に接合した請求項1に記載の構造物。
【請求項4】
前記隣り合うブロックの対向面を予測される前記せん断方向に平行に形成すると共に、これを前記ブロックの相対移動の案内面とした請求項1又は請求項3に記載の構造物。
【請求項5】
前記隣り合うブロックの間に、前記相対移動の距離が所定値内になるように規制するストッパを形成した請求項1、請求項3、請求項4の何れかの1項に記載の構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−97429(P2006−97429A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287767(P2004−287767)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(591091087)株式会社建設技術研究所 (18)
【出願人】(504338829)財団法人建設技術研究所 (7)
【Fターム(参考)】