説明

構造物

【課題】構造物表面の温度上昇を効率よく抑えることができる構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】
建物1は、当該建物1の屋上の屋上床面5に設置され、通気性と保水性とを有するコンクリート板11を備えている。このコンクリート板11は、屋上床面5にスペーサ13を介して設置されている。コンクリート板11と屋上床面5との間には隙間があり、当該隙間に空気層21が形成される。この空気層21の空気は、夜間に温度が低下し、昼間においてはコンクリート板11の日陰となるので、昼間においても比較的温度が上昇しにくく、空気層21は比較的低い温度に維持され、その結果、屋上床面5の温度も比較的低くなる。また、コンクリート板11と屋上床面5との間に空気層21が存在することから、コンクリート板11から屋上床面5への熱伝導も少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、建物に適用される構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、都市部におけるヒートアイランド現象を低減させるべく、構造物の温度上昇を抑えるための技術が求められている。従来、このような分野の関連技術として、下記特許文献1に記載の建物が知られている。この建物では、空冷チラーが設置された屋上において、空冷チラーの周囲に保水性セラミック建材マットを敷設している。そして、保水性セラミック建材マットに給水することにより、「庭の水打ち」効果によって空冷チラーの外気取り込み温度を低下させ、冷房効率を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−221547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、構造物の温度を低下させるにあたっては、更なる効率化が求められている。このような要求に鑑み、本発明は、構造物表面の温度上昇を効率よく抑えることができる構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の構造物は、構造物本体と、当該構造物本体の表面に設置され通気性と保水性とを有するコンクリート板とを備え、コンクリート板は、構造物本体の表面にスペーサを介して設置されていることを特徴とする。
【0006】
この構造物では、コンクリート板が構造物本体の表面にスペーサを介して設置されているので、コンクリート板と構造物本体の表面(例えば、直射日光を受ける屋上床面、ベランダ床面、バルコニー床面などの略平坦な外部床面)との間に隙間があり、当該隙間に空気層が形成される。この空気層の空気の温度は夜間の気温の低下に伴って低下し、昼間においても当該空気層はコンクリート板の日陰となるので、比較的温度が上昇しにくい。従って、空気層は昼間においても比較的低い温度に維持される。また、コンクリート板と構造物本体の表面との間に空気層が存在することから、昼間において温度が上昇するコンクリート板から構造物本体の表面への熱伝導も少ない。
【0007】
更に、コンクリート板は保水性を有しているので、コンクリート板内部には水を含んだ保水層が形成される。この保水層に水分が含まれ、その水分の熱伝導率が低いので、コンクリート板の裏面へ、さらには構造物本体の表面への熱が伝導する時間が遅化されることで、構造物本体の表面の急速な高温下が防止される。以上の結果、昼間における構造物本体の表面の温度上昇を低く抑えることができる。
【0008】
また、本発明の構造物は、コンクリート板の面のうち構造物本体の表面に対面する面の反対側の面に、遮熱塗料が塗布されていることとしてもよい。この場合、遮熱塗料によって昼間におけるコンクリート板の温度上昇が低減されるので、その結果、構造物本体の表面の温度上昇を更に抑えることができる。
【0009】
また、本発明の構造物は、コンクリート板に水を撒布するための撒水手段を更に備えてもよい。この撒水手段により、気温よりも低温の水を撒布すれば、コンクリート板が冷却され、構造物本体の表面の温度上昇を更に抑えることができる。
【0010】
また、本発明の構造物では、構造物本体は、建物であり、構造物本体の表面は、建物の屋上床面であり、建物の屋上においてコンクリート板よりも上方に設けられた空調室外機を更に備えており、空調室外機は、吸気口を通じて下方から冷却風を吸気することとしてもよい。
【0011】
この構造物では、空調室外機は、下方から冷却風を吸気している。この冷却風は、比較的低温の上記空気層から、通気性を有するコンクリート板の内部を厚み方向に貫通して空調室外機の下方に送られる。この場合、上記空気層が比較的低温とされていることから、空調室外機の下方に送られる冷却風も比較的低温である。従って、空調室外機に吸気される冷却風が比較的低温であり、空調室外機の冷却効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構造物によれば、構造物表面の温度上昇を効率よく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の構造物の第1実施形態である建物の屋上部分を示す斜視図である。
【図2】図1の屋上部分の一部を示す断面図である。
【図3】コンクリート板を拡大して示す断面図である。
【図4】実験3,4の対象の建物の屋上部分の一部を示す断面図である。
【図5】実験の結果の温度推移を示すグラフであり、横軸は時刻、縦軸は温度を示している。
【図6】本発明の構造物の第2実施形態である建物の屋上部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る構造物の好適な実施形態としての建物について詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1及び図2に示すように、建物1においては、昼間の直射日光を受ける建物本体3のコンクリートの屋上床面5上に、矩形板状をなす多数のコンクリート板11が縦横に敷き詰められている。コンクリート板11は、2列3行で隙間無く並べられた6枚を1ブロックとし、コンクリート板11の6枚組ブロック同士が間隙15を空けて縦横に配列されている。図2に示すように、コンクリート板11の下面11bには、スペーサとして4つのゴム製のスペーサ13が取り付けられており、コンクリート板11は当該スペーサ13を介して屋上床面5に設置されている。
【0016】
このスペーサ13の存在により、コンクリート板11の下面11bと屋上床面5との間には隙間があり、この隙間部分に空気層21が形成されている。空気層21の厚さ(すなわち、スペーサ13の高さ)は、コンクリート板11の板厚の1/10〜1/5であることが好ましい。スペーサ13の高さがこれよりも高すぎると、コンクリート板11上に荷重がかかった場合に破損し易いという問題がある。例えばここでは、コンクリート板11の板厚が50mmであり、スペーサ13の高さは10mmとされる。更にこの建物1の屋上には、敷き詰められたコンクリート板11の上面11aに水道水を散布するための撒水装置17が設けられている。一般的な水道水の温度は、昼間でも約28℃である。
【0017】
コンクリート板11の上面11aには、断熱効果を発揮する遮熱塗料が塗布され遮熱塗料層12が形成されている。このような遮熱塗料としては、例えば、特開2002−105385公報に記載されたアルミノ珪素ソーダガラス含有の塗布式断熱材が採用できる。また、これに相当する断熱塗料は、商品名ガイナとして市場で入手できる。
【0018】
以下、コンクリート板11について更に説明する。コンクリート板11は、保水性と通気性とを有しており、「ウエットポーラスコンクリート」などとも呼ばれる多孔性のコンクリート板である。具体的には、コンクリート板11は、セメント30%、貝殻片20%、パーライト15%、水30%、綿2%、及び接着剤3%を配合し矩形板状に成型したものである。そして、コンクリート板11は、気乾比重0.85、重量保水率30%、空隙率20%、曲げ強度1.8N/mm、通気係数0.6m/s/cmといった特性を示すように調製されている。ここでは、貝殻片やパーライトといった軽量な材料を使用することで、コンクリート板11の軽量化を図ることができる。また、これに代えて、特開2003−238224号公報に記載のウエットポーラスコンクリートをコンクリート板11の材料として採用してもよい。
【0019】
本発明の作用効果を適切に奏するために、コンクリート板11の重量保水率は、10%〜30%であることが好ましく、特に、15%〜25%であることが更に好ましい。また、コンクリート板11の通気係数は、0.4〜3.0m/s/cmであることが好ましく、特に、0.6〜2.0m/s/cmであることが更に好ましい。コンクリート板11に配合された貝殻片やパーライトの粒径等を適宜調整することで、コンクリート板11の重量保水率及び透気係数が所望の値になるように調整可能である。
【0020】
続いて、このような建物1の構成による作用効果について説明する。
【0021】
この建物1では、コンクリート板11が屋上床面5にスペーサ13を介して設置されているので、コンクリート板11と屋上床面5との間に隙間があり、当該隙間に空気層21が形成される。この空気層21の空気の温度は夜間の気温低下に伴って低下し、昼間においても空気層21はコンクリート板11の日陰となるので、比較的温度が上昇しにくい。従って、空気層21は昼間においても比較的低い温度に維持される。また、コンクリート板11と屋上床面5との間に空気層21が存在することから、昼間に温度が上昇するコンクリート板11から屋上床面5への熱伝導も少ない。
【0022】
また、コンクリート板11は保水性を有しているので、コンクリート板11内部には水を含んだ保水層が形成される。この保水層に水分が含まれ、その水分の熱伝導率が低いので、コンクリート板11の下面11bへ、さらには屋上床面5への熱が伝導する時間が遅化されることで、屋上床面5の急速な高温下が防止される。以上の結果、建物1の構成によれば、昼間における屋上床面5の温度上昇を低く抑えることができる。
【0023】
また、昼間に直射日光を受けるコンクリート板11の上面11aには遮熱塗料層12が形成されているので、遮熱塗料によって昼間におけるコンクリート板11の温度上昇が低減される。その結果、屋上床面5の温度上昇を更に抑えることができる。また、気温が水道水の温度(一般的には28℃)よりも高くなった場合には、撒水装置17によりコンクリート板11に水道水を撒布することで、コンクリート板11が冷却され、その結果、屋上床面5の温度上昇を更に抑えることができる。
【0024】
この建物1の屋上においては、昼間に、以下のような現象が起こっていると考えることができる。仮に、夜間の気温を26℃、昼間の気温36℃とすると、夜間に26℃まで冷却された空気層21は、図3に示すように、昼間においても、コンクリート板11の日陰であるので、空気層21の温度は約28℃までしか上昇しない。このとき、コンクリート板11の下面11bも約28℃である。また、コンクリート板11の上面11aの温度は、仮に遮熱塗料層12がない場合には、直射日光により約60℃になってしまうところ、遮熱塗料層12の作用により約50℃に抑えられる。
【0025】
コンクリート板11の上面11a(温度50℃)と下面11b(温度28℃)との間には、温度差があり、コンクリート板11が通気性を有するので、空気層21から上面11aに向けてコンクリート板11を厚み方向に貫通する上昇通気Yが生じる。なお、空気層21には、間隙15を通じて空気が供給される。このとき、下面11bにおいて28℃の上昇通気Yは、コンクリート板11内部の温度勾配により温度上昇しながら、約40℃となって上面11aに到達する。上昇通気は、下面11b付近において温度28℃、湿度60%であるが、吸水性をもつコンクリート板11内部において上昇通気Y中に含まれる水蒸気が凝縮し、上面11a付近では温度40℃、湿度50%となる。このように、コンクリート板11の直ぐ上方における気温も比較的低く、約40℃に抑えられる。
【0026】
本発明者らは、上記建物1における屋上床面5の温度上昇の低減効果を検証すべく、実験を行った。この実験では2日間に亘って、建物1におけるコンクリート板11の下面11bの温度を測定した(実験1)。また、撒水装置17を用いてコンクリート板11上に定期的に撒水することによりコンクリート板11が重量比で10%保水した状態で、他の条件を実験1と同じにして、同様に下面11bの温度を測定した(実験2)。
【0027】
また、比較のため、図4に示すように、スペーサ13を用いずに屋上床面5に直接コンクリート板11を設置した場合についても、同様にコンクリート板11の下面11bの温度を測定した(実験3)。また撒水装置17を用いてコンクリート板11上に定期的に撒水することによりコンクリート板11が重量比で10%保水した状態で、他の条件を実験3と同じにして、同様に下面11bの温度を測定した(実験4)。実験1〜4で測定したコンクリート板11の下面11bの温度は、屋上床面5の温度にほぼ等しいと考えられる。
【0028】
実験1〜4による2日間の温度の推移を、図5に示している。なお、比較のために、コンクリート板11を設置しない場合における屋上床面5の温度の推移(グラフ5)を図3に重ねて表示している。
【0029】
ここで、実験1の結果と実験3の結果とを比較すると、実験3では、昼間における下面11bの最高温度は約34℃に達しているのに対して、実験1では下面11bの最高温度が約30℃に抑えられている。従って、コンクリート板11を屋上床面5に直接設置するのではなく、スペーサ13を介して設置することにより、屋上床面5の温度上昇を抑制できることが判明した。
【0030】
更に、実験2の結果に注目すると、昼間における下面11bの最高温度は、実験1よりも更に低い約28〜29℃に抑えられていることが判る。従って、散水装置17を用いてコンクリート板11に撒水することにより、更に屋上床面5の温度上昇を抑制できることが判明した。なお、このようなコンクリート板11を屋上床面5上に全く設置しない場合には、屋上床面5の温度は、約46℃に達している(グラフ5)。
【0031】
(第2実施形態)
図6に示すように、この建物201は、建物1に加えて、更に空調室外機207を備えている。すなわちこの建物201の屋上には、当該建物201の室内で利用される空調設備の室外機207が設置されている。この空調室外機207は、土台脚部209を介して屋上床面5に固定され、コンクリート板11の上方に位置している。空調室外機207の筐体207aの内部には、空調設備の冷媒の放熱を行う放熱器207bが内蔵されている。そして、筐体207aの底面には下方に開口された吸気口207cが設けられ、筐体207の上面には、上方に開口された排気口207dが設けられている。この空調室外機207は、内蔵されたファン装置(図示せず)により吸気口207cから冷却風Aを吸気すると共に排気口207から排気することで、筐体207a内に空気を流通させ放熱器207bの冷却を行う。
【0032】
この空調室外機207の冷却風Aは、比較的低温の上記空気層21から、通気性を有するコンクリート板11の内部を厚み方向に貫通して空調室外機207の下方に送られるものである。そして、前述したように、昼間における屋上床面5の温度上昇、及びコンクリート板11の直ぐ上方の気温上昇が抑えられていることから、空調室外機207の下方に送られる冷却風Aも比較的低温である。従って、空調室外機207には比較的低温の冷却風Aが吸気され放熱器207bが効率よく冷却されるので、その結果、空調室外機207の冷却効率を高めることができる。
【0033】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、建物の屋上に限らず、建物の壁面にも適用が可能である。また、本発明は、建物に限らず、ヒートアイランド現象の原因となるコンクリート製の建築構造物(例えば、橋桁など)にも適用可能である。また、実施形態では、コンクリート板11と屋上床面5との間にスペーサ13を挟んで設置しているが、本発明においては、この構造に代えて、コンクリート板とスペーサ部とを一体に成型してもよい。すなわち、スペーサ13と同様の形状の脚部をコンクリート板の下面から下方に突出するように一体に成型してもよい。このような構造によれば、スペーサの作製が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の構造物は、特にヒートアイランド現象の原因となるコンクリート建物に好適に利用され、屋上床面の温度上昇を効率よく抑えることを可能にするものである
【符号の説明】
【0035】
1…建物(構造物)、3…建物本体(構造物本体)、5…屋上床面(構造物本体の表面)、11…コンクリート板、12…遮熱塗料層、13…スペーサ、17…散水装置、207…空調室外機、207c…吸気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物本体と、当該構造物本体の表面に設置され通気性と保水性とを有するコンクリート板とを備え、
前記コンクリート板は、前記構造物本体の表面にスペーサを介して設置されていることを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記コンクリート板の面のうち前記構造物本体の表面に対面する面の反対側の面に、遮熱塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記コンクリート板に水を撒布するための撒水手段を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物。
【請求項4】
前記構造物本体は、建物であり、
前記構造物本体の表面は、前記建物の屋上床面であり、
前記建物の屋上において前記コンクリート板よりも上方に設けられた空調室外機を更に備えており、
前記空調室外機は、
吸気口を通じて下方から冷却風を吸気することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の構造物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate