説明

構造用鋼材の接合構造

【課題】溶接時の施工性に優れ、かつ脆性的破断を防ぐことができる構造用鋼材の接合構造を提供する。
【解決手段】端部に第1の開先面2a、第2の開先面2bが形成された梁1を、柱5と溶接してなる構造用鋼材の接合構造において、ルートR側の第1の開先面2aと柱5の接合面5aとの間に形成された開先角度αよりも、表面側の第2の開先面2bと柱5の接合面5aとの間に形成された開先角度βの方が大きい。これにより、溶接時の施工性に優れ、かつ脆性的破断を防ぐ構造用鋼材の接合構造を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用鋼材同士を溶接により接合する構造用鋼材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造用鋼材の接合には溶接が多用されている。例えば、角形鋼管やH形鋼からなる柱に対して、H形鋼からなる梁を接合する場合、梁のウェブ部を隅肉溶接または高力ボルト接合し、フランジ部を突合せ溶接する柱梁接合構造が一般的に知られている。
図5に、従来の構造用鋼材の接合構造を例示する。図5は、角形鋼管またはH形鋼からなる柱25の側面に、H形鋼からなる梁21のフランジを溶接により接合したものである。
梁21のフランジの端部には、溶接時の施工性を確保するため、幅方向に沿って、斜面からなる開先21aが予め形成されている。開先21aの両端には、開先21aとほぼ同様に形成された斜面を有するエンドタブ26が固定されている(図5では一方のみ図示)。また、溶接時の溶接金属の漏れを防ぐため、ルートR側には裏当金24が固定されている。
溶接は、所定の金属からなる溶接棒と母材(梁21、柱25)とを溶融し、開先21aと柱25とにより形成される溝に溶接金属23を満たしながら、一方のエンドタブ26側から始まり他方のエンドタブ26側で終了する。
【0003】
このような接合構造を有する鋼構造体に対して、地震や風等の水平方向の外力が作用した際に、接合構造部分において大きな内部応力が発生する。例えば、兵庫県南部地震において、梁端の溶接接合部分の脆性的破断現象が発生し、建築物の損壊が起きている。
図6には、図5の接合構造についての構造実験で確認されている、脆性的破断の発生状況の概略を示した。
まず、梁21とエンドタブ26との接触部Eに歪が集中し、ここを起点として延性亀裂が発生し、梁21と溶接金属23の界面に沿って、溶接金属23内部または梁1に生じる熱影響部に延性亀裂が拡大進展し、脆性的破断の要因となる。また、ルートR近傍の柱25と裏当金24が接している入隅部Dにも歪集中が生じ、延性亀裂ひいては脆性的破断が生じやすい。
そこで、構造用鋼材の接合構造の脆性的破断を防止することが求められており、特許文献1および特許文献2に記載の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、開先を有する部材の表面側の開先端から、開先を有する部材の材軸方向に5mm以上の距離の範囲まで化粧盛溶接を施し、母材と溶接金属との界面表層付近の応力集中部で生じる延性亀裂の伝播方向を化粧盛溶接により制御し、この付近を基点とする脆性的破断を防止するものである。
特許文献2に記載の技術は、開先の形成された溶接構造において、ルート側の初層または複数層を、母材より低強度で高延性の溶接金属で形成し、その余の層を母材と同様またはそれ以上の強度を有する溶接金属で形成し、脆性的破断を防止するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−172462号公報
【特許文献2】特開平11−277227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の化粧盛溶接は、オーバーラップ等の溶接欠陥を生じやすく、さらに、所定量オーバーラップするということは、溶接時の施工が煩雑で溶接工程の品質管理が難しく、施工性の点で問題がある。
また、前記特許文献2に記載の技術では、溶接金属を2種類必要とすることから、溶接時の工程が多くなり、やはり施工性の点で劣る。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、溶接時の施工性に優れ、かつ脆性的破断を防ぐことができる構造用鋼材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、端部に開先面が形成された構造用鋼材が、前記開先面において他の構造用鋼材と溶接により接合される構造用鋼材の接合構造において、前記開先面と前記他の構造用鋼材の接合面との間に形成される開先角度は、ルート側よりも表面側の方が大きいことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明においては、ルート側の開先角度より表面側の開先角度が大きいことから、溶接金属と構造用鋼材との接触部分の応力が緩和され、例えば、梁と柱の接合構造に本発明を適用する場合、エンドタブと梁近傍の歪集中や、裏当金と柱との入隅部の歪集中が軽減される。
このように歪集中が軽減することで、歪集中箇所を原因とする延性亀裂が発生しにくい。その結果、延性亀裂を要因とする脆性的破断を防ぐことができる。
また、本発明の接合構造では、ルート側より表面側の開先角度が大きいことから、溶接の際には、溶接棒の運棒が容易であり、操作性が向上し、施工性に優れる。また、操作性が向上することで、ルート底に形成される溶接初めの層の施工がしやすく、溶接欠陥が生じにくい。
【0010】
請求項1に記載の発明において、開先の形状は、開先角度がルート側より表面側が大きくなるように、ルート側から表面側にかけて断面形状が円弧を描くような形状であってもよい。あるいは、請求項2に記載の発明のように、前記開先面は、前記他の構造用鋼材の接合面に対する角度が、ルート側から表面側に向かって段階的に大きくなる複数の面から構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接時の施工性に優れ、かつ脆性的破断を防ぐことができる構造用鋼材の接合構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る構造用鋼材の接合構造を示す断面図である。この構造用鋼材の接合構造は、柱(他の構造用鋼材)5の側面に対して、梁(構造用鋼材)1のフランジ1aを溶接金属3を介してT字状に接合したものである。柱5は角形鋼管またはH形鋼からなり、梁1はH形鋼からなる。符号6はエンドタブ、4は裏当金である。エンドタブ6は、接合後切りとって捨てるスチールタブでもよいし、接合後に残すセラミックスなどからなる固形タブでもよい。エンドタブ6は図1では破線で一方のみ示した。
梁1のフランジ1aの端部には、幅方向に開先2が形成されている。開先2は、溶接の際に底となるルートR側に形成された第1の開先面2aと、この第1の開先面2aに連続し、より表面側に設けられた第2の開先面2bとからなる。図1では、第1の開先面2aはフランジ1aのフランジ面に対して約55度、第2の開先面2bは約20度に設定されている。なお、本発明では、第1の開先面2aの角度の方が第2の開先面2bの角度より大きいことが特徴であり、具体的な角度はこれらに限定されるものではない。
これにより、開先2の柱5の接合面5aに対する角度は、ルートR側から表面側に向かって段階的に大きくなるように形成されているので、第1の開先面2aと柱5の接合面5aとの間に形成された開先角度αよりも、第2の開先面2bと柱5の接合面5aとの間に形成された開先角度βの方が大きい。
【0013】
施工の際には工場などで梁1に開先2を形成する加工を施し、さらには、エンドタブ6を開先2の両端に取り付ける。
次いで、現場において、柱5の側面に梁1の開先2を、所定のルート幅をもたせた状態で突き合わせ、裏当金4を固定する。そして、開先2と柱5との間に形成される溝の中で、所定の金属からなる溶接棒と母材(柱5、梁1)とを溶融させながら、アーク溶接していく。梁1と柱5が完全に接合するように、ここでは、完全溶け込み溶接を行う。
【0014】
図2には、本実施の形態と同様に、T字状に構造用鋼材を突き合わせ、完全溶け込み溶接して得られる接合構造のモデルについて解析した結果得られた相等塑性歪分布を、斜視図で示した。図2では、図1と同じ部材について同符号を付している。ここでは、梁1のフランジ1aに設けられた開先2のうち、開先面2aは梁1のフランジ1aのフランジ面に対して60度、開先面2bは同じく35度とし、ルートRのルートギャップを7mmに設定している。また、エンドタブ6としてスチール製を用いたものとしている。エンドタブ6は溶接の始終端部に取り付けられるが、図2では一方のみ図示している。
また、図2の比較として、従来の構造用鋼材の接合構造のモデルについて、同様に得られた相等塑性歪分布を、図3に示した。図3では、前述の図5と同じ部材について同符号を付している。ここでは、図2との比較のため、梁21の開先面22は、フランジのフランジ面に対して35度の角度で形成されているものとした。
【0015】
図3の解析結果では、構造用鋼材である梁21に作用する引張応力によって、梁21とエンドタブ26との接触面近傍の表層付近のエリアBに歪が集中している。さらに、ルート底の裏当金24と柱25との間の入隅部Cに歪集中が発生している。
一方、図2では、梁1とエンドタブ6との接触面近傍の表層付近の歪集中は、エリアAに示すように、図3の解析結果と比較して2/3程度に減少している。さらに、裏当金4と柱5との間の入隅部には歪集中が発生していない。
以上のように、本実施の形態の構造用鋼材の接合構造にあっては、開先2が角度の異なる2つの面から構成され、ルートR側の開先角度より表面側の開先角度が大きいことから、従来と比較して、梁1とエンドタブ6との接触面近傍の歪集中、及び裏当金4と柱5近傍の入隅部の歪集中が軽減され、その結果、歪集中箇所を原因とする、延性亀裂が発生しにくいし、発生したとしても亀裂が拡大しにくくなる。その結果、延性亀裂を要因とする脆性的破断を防ぐことができる。これは、開先2の斜面が一定であるよりも、応力が緩和されるためではないかと思われる。
【0016】
また、本実施の形態の構造用鋼材は、開先角度がルート側より表面側の方が大きいことから、溶接時に、溶接棒の運棒が容易であるので、操作性が向上し、施工性の点で優れている。また、ルートR底に形成される溶接初めの複数の層の溶接施工がしやすく、結果的に、溶接欠陥が生じにくい。
【0017】
(第2の実施の形態)
図4は本発明の第2の実施の形態に係る構造用鋼材の接合構造を示す断面図である。ここで、前記第1の実施の形態の接合構造と異なる点は、柱7の途中に水平方向に固定されたダイアフラムなどの水平板鋼材8の端面8aと、梁1の開先2とを突き合わせて溶接したことである。その他の構成は第1の実施の形態と共通であるので、共通部分には同一符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態においても、開先2を第1の実施の形態と同様に第1の開先面2a、第2の開先面2bから構成した。よって、ルートR側の第1の開先面2aと端面8aとの間に形成された開先角度αよりも、表面側の第2の開先面2bと端面8aとの間に形成された開先角度βの方が大きくなることから、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0018】
なお、前述の第1、第2の実施の形態では、突き合わせる構造用鋼材の一方のみに開先を形成したレ形開先のみ示したが、両方に開先を形成するV形開先などであってもよい。
また、第1、第2の実施の形態では、完全溶け込み溶接を例示したが、部分溶け込み溶接に本発明を適用してもよい。
さらに、溶接材料は、用途に応じて各種用いることができるが、母材として用いる構造用鋼材よりも高強度の溶接材料を用いて溶接してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る構造用鋼材の接合構造を示す断面図である。
【図2】本発明の構造用鋼材の接合構造の相等塑性歪分布を示す図である。
【図3】従来の構造用鋼材の接合構造の相等塑性歪分布を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る構造用鋼材の接合構造を示す図であって、断面図である。
【図5】従来の構造用鋼材の接合構造を示す図であって、側面図である。
【図6】図5に示す従来の構造用鋼材の接合構造における脆性的破断の発生箇所を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 梁(構造用鋼材)
2 開先
2a 第1の開先面
2b 第2の開先面
3 溶接金属
4 裏当金
5 柱(構造用鋼材)
5a 接合面
8 水平板鋼材(構造用鋼材)
8a 端面(接合面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部に開先面が形成された構造用鋼材が、前記開先面において他の構造用鋼材と溶接により接合される構造用鋼材の接合構造において、
前記開先面と前記他の構造用鋼材の接合面との間に形成される開先角度は、ルート側よりも表面側の方が大きいことを特徴とする構造用鋼材の接合構造。
【請求項2】
前記開先面は、前記他の構造用鋼材の接合面に対する角度が、ルート側から表面側に向かって段階的に大きくなる複数の面から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の構造用鋼材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−23565(P2008−23565A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199822(P2006−199822)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)