説明

構造発色性金属調塗膜

【課題】金属調の意匠性と、光を再起反射する光源感を備えた構造発色性金属調塗膜と、このような塗膜を備えた塗装物としての自動車用部品を提供する。
【解決手段】被塗装物の表面に塗装されて成る塗膜において、バインダー樹脂2の中に、1000nm以下の厚さの金属薄片3と、同じく1000nm以下の厚さの回折格子チップ4を、望ましくは20〜90質量%の範囲で含有させ、これら金属薄片3と回折格子チップ4を塗装面10aに対して略平行に配向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子パターンを有する薄片顔料(回折格子チップ)と金属製の薄片顔料を含有し、金属調の意匠性と、特定波長の光を再起反射する光源感を備えた構造発色性金属調塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属性の外観を備えた金属調塗膜としては、鱗片状の金属フレーク顔料を用いることが知られており、このような顔料を用いることによって金属調の意匠を持つ塗装膜を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−8931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような金属調の塗装は表面が鏡面であるため、暗いところで光を照射しても、光源の方向へ光が戻らず、意匠性が乏しい。
一方、回折格子のパターンを持つ金属で作成した薄片顔料(回折格子チップ)を用いて光源方向に光が戻る金属調塗装を試みた場合、回折格子チップがうまく配列せず、金属調の意匠性を作ることが困難であった。
【0005】
本発明は、金属性の外観を有する従来の金属調塗装における上記のような課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、金属調の意匠性と、光を再起反射する光源感を兼ね備えた構造発色性金属調塗膜と、このような塗膜を備えた塗装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、塗料成分としてのバインダー樹脂中に、顔料として金属調塗装が得られる金属薄片と回折格子チップを混合することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであり、本発明の構造発色性金属調塗膜は、被塗装物の表面に塗装されて成る塗膜であって、1000nm(1μm)以下の厚さの金属薄片と、同じく1000nm以下の厚さの回折格子チップをバインダー樹脂中に含み、当該塗膜中において、上記金属薄片と回折格子チップが塗装面に略平行に配向していることを特徴とする。
また、本発明の自動車部品は、上記塗膜を備えた塗装物を代表するものであって、本発明の上記構造発色性金属調塗膜を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗膜中に、金属薄片と回折格子チップの薄片が塗装面に沿って、略平行に配向していることから、金属調に加えて、特定波長の光を再起反射する光源感を備え、意匠性に優れた塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の構造発色性金属調塗膜の断面構造を示す概略図である。
【図2】本発明の構造発色性金属調塗膜に用いる回折格子チップの形状を示す概略図である。
【図3】本発明に用いる回折格子チップの製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明に用いる回折格子チップの発色原理を示す説明図である。
【図5】本発明に用いる回折格子チップにおける凹凸形状例として断面矩形状(a)、断面正弦波状(b)、錐台形状(c)及び錐形状(d)の凹部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構造発色性金属調塗膜について、さらに詳細にに説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0011】
本発明の構造発色性金属調塗膜は、上記したように、1000nm以下の薄い厚さの金属薄片と、同様の厚さの回折格子チップ薄片をバインダー樹脂中に顔料として含んでおり、当該塗膜中に、これらの薄片状顔料が塗装面に略平行に配向したものである。
図1は、当該構造発色性金属調塗膜の断面形状を示す模式図であって、図に示す構造発色性金属調塗膜1は、例えば、自動車用部品のような被塗装物10の塗装面10a上に塗布されており、塗料成分であるバインダー樹脂2の中に、金属薄片3と回折格子チップ4が分散した状態に含まれている。
【0012】
上記金属薄片3及び回折格子チップ4は、顔料として添加されるものであるが、いずれも1000nm(1μm)以下の薄い厚さのものであって、被塗装物10の塗装面10aに沿って、塗装面10aとほぼ平行に配向している。
【0013】
これらの金属薄片3や回折格子チップ4(以下、両者を「光輝顔料」と総称することがある)は、上記のように極めて薄い厚さのものであるから、塗料に含まれた状態で塗装面10aに塗布され、塗装面上に移行することによって、自ら塗装面10aにほぼ平行に配向することになる。特に、金属薄片3はこのような傾向が顕著であるからして、金属薄片3が混在することによって、回折格子チップ4も金属薄片3に並列して、平行配向し易いものとなる。
【0014】
このとき、全ての光輝顔料粒子が完全な平行状態に配列していることが望ましいことは言うまでもないが、これら粒子の塗装面10aに対する傾斜角度が6°以内であれば、目的とする金属調や光源感がほとんど損なわないことが確認されている。そして、塗装に際して、スプレー塗装などの通常の塗装方法を採用することによって、極端な厚塗りをしない限り、上記のような配向状態にすることができる。
本発明において、金属薄片3及び回折格子チップ4が塗装面10aに略平行(ほぼ平行)に配向しているとは、これら光輝顔料粒子3,4の塗装面10aに対する角度が、上記のように6°以内であることを意味する。
【0015】
なお、本発明において、金属薄片3及び回折格子チップ4の厚さを1000nm以下としているが、これは、これら光輝顔料粒子の厚さがこの値を超えると、塗装面10aに対する角度が6°を超え、略平行でなくなることがないとは言えず、塗膜表面が金属調の光沢にならないことがあることによる。
また、本発明の塗膜を適用する被塗装物には特に限定はなく、木材や金属、樹脂製品などに適用することができる。このとき、これらに予め下塗り塗装を施しておくことも可能である。
【0016】
本発明の構造発色性金属調塗膜1を構成するバインダー樹脂2としては、特に限定されないが、光透過性を有する樹脂系が望ましく、塗膜形成性ポリマーとして一般に知られているものを用いることができ、例えばアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノ樹脂などを挙げることができる。
硬化剤としては、例えばアルコキシメチロールメラミン樹脂、イソシアネート化合物またはブロックイソシアネート化合物、ポリ酸無水物、ポリエポキシ化合物などが挙げられる。
【0017】
また、上記バインダー樹脂や硬化剤を溶解あるいは分散させる溶剤も塗料用として使用されるものを用いることができ、例えばトルエン、キシレン、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ブチルアルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが使用可能である。また、無溶剤系塗料として水を使用することもでき、とくに限定はない。
【0018】
本発明の構造発色性金属調塗膜には、上記した樹脂2や金属薄片3、回折格子チップ4に加えて、パールマイカのような光輝材や、着色用の各種有機顔料,無機顔料などを併用することもできる。また、塗料中には、必要に応じて、さらに分散剤,可塑剤,表面調整剤などの各種添加剤を加えることもでき、塗膜中には、これらに由来する成分が含まれることになる。
なお、有機顔料や無機顔料などを用いると色相に濁りや曇りが生じる場合があることから、塗膜の金属調や光源感をより顕著なものとするには、これらの添加を避ける方がむしろ望ましいと言える。
【0019】
上記金属薄片3は、蒸着金属膜を粉砕することによって得られる鱗片状金属を用いることができる。金属の種類としては、特に限定されないが、代表的には、アルミニウムや銅、錫、チタンなどのスパッタや蒸着により薄膜化できる金属であれば用いることができる。
【0020】
上記回折格子チップ4としては、光の回折現象が生じるものである限り、特に限定はなく、例えば、微細な溝を等間隔の平行や、格子状に刻むことによって、表面に周期的な凹凸を設けて成る回折格子を粉砕して用いることができる。
【0021】
また、回折格子チップ4としては、表面に錐状、錐台状、断面矩形状、半球状あるいは2次元正弦波の数式により規定される3次元形状(市販の卵パックに類似するが、正弦は断面を有する形状。以下、2次元正弦波形状と略す。)など、周期的な凹凸を備えたものを用いることができる。この場合、凹凸形状のピッチをP、構造発色性金属調塗膜1を構成するバインダー樹脂2の屈折率をn1、回折格子チップ4の屈折率をn2としたとき、380nm≦(n2/n1)・P≦780nmの関係となるようなものを用いることが望ましい。
ここで、屈折率の比とピッチとの積(n2/n1)・Pの値が380nmに満たない場合及び780nmを超える場合は、可視光線以外の光が回折するため、目視で発色が見えないという不都合が生じる傾向がある。
【0022】
さらに、回折格子チップ4としては、長さ方向の一端又は両端部に、錐状、錐台状、矩形状、半球状、2次元正弦波形状などの凹凸を備えた同一形状を有する多数の柱状体を周期的に並設した集合体から成るものを用いることができる。このような集合体から成るチップの場合、凹凸形状のピッチをP、構造発色性金属調塗膜1を構成するバインダー樹脂2の屈折率をn1、回折格子チップ4の屈折率をn2としたとき、380nm≦(n2/n1)・P≦500nmの関係を有するようになすことが望ましい。
ここで、屈折率の比とピッチとの積(n2/n1)・Pの値が380nmに満たない場合は、回折光が見えない傾向がある一方、積(n2/n1)・Pの値が500nmを超えると、回折光が単色ではなく不鮮明になるという不都合が生じる可能性がある。
【0023】
図2は、上記したような複数の柱状体から成る回折格子チップ4の形状例を示すものであって、図2(a)はその上面図、図2(b)はその縦断面である。
図に示す回折格子チップ4は、上記したように、柱状(この例では、六角柱)をなし、六角形をなす両端面の一方又は両方(この例では、一方側のみ)に凹凸4r(この例では、円錐状凹部)を有する複数の柱状体4cから成るものであり、これら複数の柱状体4cがピッチPで周期的に配置された構造を有している。
【0024】
このような構造を有する回折格子チップ4は、例えば、回折現象を発現する周期的微細構造を有する基板の上に、真空プロセスによって無機化合物を1000nm以下の厚さに成膜することによって製造することができる。
すなわち、図3に示すように、まず水や有機溶媒などに可溶な材料により形成され、表面に微細突起21がピッチPの周期で配置された基材20を用意し、この凹凸表面上に、金属や金属酸化物のような無機物から成る層を成膜することによって、基材20上に、柱状体4cを形成する。
【0025】
このとき、上記無機物材料は、微細突起21の先端から蒸着して成長を開始することから、隣接する突起21、21から成長した柱状体4c、4cの間に境界が形成され、互いに密着した微細突起21に等しい数の柱状体4cが形成される。
【0026】
そして、この後、上記基材20を水や有機溶媒などを用いて溶解することによって、成膜層が柱状体4cの境界から適度に分離し、一端面に微細突起21の形状に応じた周期的微細構造を備えた薄片状の回折格子チップ4が得られる。
このとき、基材20を効率的に溶解させるために、超音波などを照射するが、その照射エネルギや照射時間を調整することによって、柱状体4cの境目からの分離の頻度を変えることができ、もって柱状体4cの集合体である回折格子チップ4のサイズを調整することができる。
【0027】
上記柱状体4cの形成方法、すなわち無機材料を基材20上に成膜するための真空プロセスとしては、基材20の表面に形成した微細突起21の先端から蒸着が開始され、柱状体に成長するような方法であれば、特に限定はなく、例えば、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVDなどの手法を好適に用いることができる。
【0028】
一方、微細突起21を表面に備えた基材20の材料としては、溶媒に可溶な材料で形成されていることが必要であるが、環境負荷を考慮すると水溶性の材料であることが好ましい。
このような水溶性材料としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、ポリアクリル酸などの完全ケン化物や部分ケン化物を用いることが好ましい。水溶性材料以外でも、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンなど、有機溶剤に可溶な材料を用いることもできる。
【0029】
このような微細突起21から成る微細凹凸表面を備えた基材20の作製方法については、特に限定されない。例えば、回折格子形状が作製できる方法、すなわち電子線描画、2光束干渉露光、機械切削などの方法により、上記のような微細凹凸表面を備えた金型を作製し、この金型を用いて、上記のような基材材料に微細凹凸を転写するようになすことができる。
【0030】
また、柱状体4cを構成する材料としては、上記した真空プロセスに使用できる材料であれば、特に限定されることはなく、例えば、酸化ケイ素、ケイ素、アルミニウム、酸化アルミニウム、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、酸化チタン、ジルコニア、亜鉛、酸化亜鉛、金、銀、プラチナなどを挙げることができる。
特に、塗料に混合した場合に、強い反射光を得たい場合は屈折率が高い酸化チタンや酸化ニオブ、ジルコニアなどを用いることが好ましい。
【0031】
なお、上記柱状体4cを2種以上の異なる材料毎に1組以上、共通する周期にて成膜し、得られた複数組の柱状体をその高さ方向に積層することによって、屈折率の異なる柱状体を含む多層の回折格子チップとすることができる。
そして、このようにして形成された多層の回折格子チップを用いることによって、回折光のみならず、干渉光による発色をも利用することができる。
【0032】
このような構造を備えた回折格子チップ4においては、図4に示すように、隣接する柱状体4cの間のピッチをP、構造発色性金属調塗膜1を構成するバインダー樹脂の屈折率をn1、柱状体4cを構成する材料の屈折率をn2、入射光(電磁波)の角度をα、回折光の角度をβ、回折光の波長をλ、回折次数をmとするとき、次式(1)の関係を有する。
n’P(sinα+sinβ)=mλ ・・・ (1)
ここで、
n’=n2/n1 ・・・ (2)
すなわち、0°入射の可視光線領域の回折光を発生させたい場合は、n’Pが回折波長に一致することとなる。
【0033】
上記回折格子チップ4を構成する柱状体4cの端部に形成される凹凸形状としては、図5(a)〜(d)に例示するように、回折格子として公知な形状を用いることができる。
例えば、凹凸形状例としては、上記したように、錐形状、錐台形状、球状、円柱あるいは角柱形状(断面矩形状)、2次元正弦波形状などが挙げられ、少なくとも柱状体1本につきこれらの凹凸形状が1つ含まれていればよい。
【0034】
なお、凹凸形状を構成する凹部が錐形状や錐台形状、断面矩形状の場合、凹部の開口形状としては、必ずしも円形である必要はなく、三角形や四角形、六角形などの多角形であってもよい。
【0035】
本発明の構造発色性金属調塗膜における光輝顔料の含有量、すなわち金属薄片3及び回折格子チップ4の合計含有量としては、20〜90%とすることが望ましい。
上記光輝顔料の含有量をこの範囲内に制限することによってこれら顔料が塗装面に沿って並び易くなり、金属光沢を備えた塗膜面を容易に得ることができるようになる。
【0036】
また、これら光輝顔料中に占める回折格子チップ4の割合、すなわち上記合計含有量に対する回折格子チップ4の割合としては、5〜70%であることが望ましく、これによって回折光が鮮明なものとなり、光源感のある意匠の塗膜をより容易に得ることができる。
【0037】
本発明の構造発色性金属調塗膜に混合される光輝顔料3,4は、いずれも厚さが1000nm以下の薄片状のものであるが、そのサイズとしては、その最長部の長さ(最長径)が5〜60μmの範囲内のものであることが望ましい。
すなわち、これら顔料の最長径が5μmに満たない場合は、薄片状光輝顔料の塗装面に対する平行配向が損なわれ、逆に60μmを超えると、塗装面の平滑性が損なわれる可能性が高まる傾向があることによる。言い換えると、最長径が5〜60μmの範囲内にあれば、光輝顔料3、4のアスペクト比(最長径/厚さ)が5以上、かつ最長径が60μm以内となるため、光輝顔料3、4が塗装面に対し一層平行配向し易くなると共に、仮に光輝顔料3、4が塗装面に対しわずか(6°以内)に傾いて配向した場合にも塗装面の平滑性を損なう可能性を一層低減できるため、より好ましい。
【0038】
さらに、本発明の構造発色性金属調塗膜の厚さとしては、1〜20μmとすることが望ましく、これによって上記光輝顔料3,4が塗装面に沿って平行に並び易くなり、金属光沢を備えた光源感のある塗膜が得易くなり、塗装外観がより向上することになる。
【0039】
また、本発明の構造発色性金属調塗膜は、下塗り層と光透過性を有する上塗り層、つまりクリヤ層の間に形成されていることが望ましい。
すなわち、被塗装物の塗装面に下塗り塗料層を介して形成された本発明の構造発色性金属調塗膜のさらに表面にクリヤ塗料層を形成することが望ましく、これによって光沢性に一層優れた平滑な塗装膜が得られ、例えば自動車の車体の塗装構造として好適なものとなる。
【0040】
本発明の構造発色性金属調塗膜の適用対象としては、その代表例として自動車用部品を挙げることができるが、特にこれに限定されることはなく、これ以外には、例えば携帯電話やモバイルパソコンなどの携帯機器、バイク、船舶、航空機、電車などの輸送機器、家具、建材、外壁、道路標識など、多岐にわたって適用することができ、新しい意匠性を付与することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
(1)回折格子チップの作製
まず、2光束干渉露光を用いて、2次元正弦波形状の凹凸を備えた金型を作製し、この形状を水溶性のポリビニルアルコールに転写して、図3に示したような(但し、この実施例では凹凸は錐状ではなく、ピッチP=300nm、高さ300nmの正弦波断面を有する形状である。このように正弦波の場合は、振幅を高さとみなす。)柱状体形成用の基材20を得た。
次に、このような凹凸を備えたポリビニルアルコールから成る基材20の表面に、スパッタリングによってアルミニウム(屈折率:2.6)を400nmの厚さに成膜し、それぞれの凹凸上にアルミニウムから成る柱状体4cを形成した。
【0043】
そして、凹凸面上に柱状体4cを形成した状態の基材20を水中に浸漬し、ポリビニルアルコールから成る当該基材20を撹拌しながら溶解させると共に、互いに密着した柱状体4cを水中で所定の大きさに分離させた。次いで、この水を濾過し、残渣を採取することによって、一端側に正弦波形状の凹部4rを備えた柱状体4cが複数個集合してなり、最長部長さが20μmの回折格子チップ4を得た(図2及び図4(b)参照)。
このとき、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX−900)付属の画像処理装置を用いて、得られた回折格子チップ4の最長部長さを計測し、サンプリング数1000〜2000個の算術平均値(個数平均値)をもって当該チップの最長部長さとした。
【0044】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
バインダー樹脂として、ウレタンアクリレート(屈折率n=1.52)を用い、これに、厚さ200nm、最長部長さ5μmのアルミニウムから成る金属薄片3と、上記によって得られた回折格子チップ4を30:30:40の質量比となるように加え、さらに溶媒としての酢酸ブチルを適宜混合して撹拌して塗料化した。
そして、黒色の下塗りを施した鋼板に、上記塗料をスプレー塗装することによって、その表面に10μmの厚さの塗膜を形成し、当該実施例の塗装試験片とした。
【0045】
〔塗膜の評価〕
上記で得られた塗装試験片を変角分光光度計(大塚電子製)を用いて、60°正反射での塗膜の反射率を計測した。そして、この測定値のうち380nm〜780nmの値を平均し、得られた平均反射率を金属光沢の指標とし、平均反射率がアルミニウム鏡面板と比較して90%以上である場合を「3」、30%以上90%未満の場合を「2」、30%未満の場合を「1」と評価した。
また、光源感については、目視によって回折光を確認し、明るい場所でも明確に認識できる場合を「3」、明るい場所でも微かに認識でき、暗い場所では明確に認識できる場合を「2」、暗い場所で微かに認識できる場合を「1」、回折光が全く認められない場合を「0」と評価した。これらの結果を、塗膜の構成と共に表1及び表2に示す。
【0046】
(実施例2)
(1)回折格子チップの作製
電子線描画とエッチングによって、無数の円錐形凹部をピッチ240nmで周期配列したシリコン金型を作製し、この形状を水溶性のポリビニルアルコールに転写して、図3に示したような柱状体形成用の基材20を得た。
そして、このポリビニルアルコール製の基材20の表面に、スパッタリングによって同様にアルミニウムを400nmの厚さに成膜し、それぞれの凹凸上にアルミニウムから成る柱状体4cを形成した。
【0047】
そして、上記同様に、これらを水中に浸漬して撹拌することにより、ポリビニルアルコール製基材20を溶解させると共に、柱状体4cを適宜分離させ、一端面に円錐形の凹部4rを備えた柱状体4cが複数個集合して成る回折格子チップ4を得た(図2及び図4(d)参照)。
なお、各柱状体4cにおける円錐形凹部4rの深さHは200nm、開口幅Dbは240nmとした。
【0048】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップ4と、最長部長さが20μmのアルミニウム金属薄片3を用いたこと以外は、上記同様の操作を繰り返すことによって当該実施例の塗装試験片を得た。
【0049】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0050】
(実施例3)
(1)回折格子チップの作製
回折格子チップ4を構成する個々の柱状体4cの一端面に形成される凹部4rの形状をピッチP=280nmの円錐台形状としたこと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返し、一端に円錐台形の凹部4rを備えた柱状体4cの複数個から成る回折格子チップ4を得た(図2及び図4(c)参照)。
なお、各柱状体4cにおける円錐台形凹部4rの深さHを200nm、開口幅Dbを260nm、開口底部幅Dtを60nmとした。
【0051】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップ4を用いたこと以外は、上記実施例1と同様に調製した塗料を同様にスプレー塗装することによって当該実施例の塗装試験片を得た。
【0052】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0053】
(実施例4)
(1)回折格子チップの作製
280nmのピッチで無数の円錐台形凹部を周期配列したシリコン金型を用いてポリビニルアルコール製基材20を作製し、この表面に、アルミニウムを800nmの厚さに成膜すると共に、チップの最長部長さを40μmとしたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返すことによって、回折格子チップ4を得た。
なお、回折格子チップ4を構成する各柱状体4cにおける円錐台形凹部4rの深さHは300nm、開口幅Dbは280nm、開口底部幅Dtは100nmとした。
【0054】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップ4と、厚みが400nmのアルミニウム金属薄片3を用い、バインダー樹脂と金属薄片3と回折格子チップ4を10:50:40の質量比となるように混合したこと以外は、上記実施例3と同様に塗料を調製した。
そしてこの塗料を同様にスプレー塗装することによって、当該実施例の塗装試験片を得た。
【0055】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0056】
(実施例5)
(1)回折格子チップの作製
330nmのピッチで無数の円錐台形凹部を周期配列したシリコン金型を用いてポリビニルアルコール製基材20を作製すると共に、チップの最長部長さを60μmとしたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返すことによって、回折格子チップ4を得た。
なお、各柱状体4cの円錐台形凹部4rの深さHを200nm、開口幅Dbを280nm、開口底部幅Dtを50nmとした。
【0057】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップ4を用い、バインダー樹脂と金属薄片3と回折格子チップ4を20:76:4の質量比となるように混合したこと以外は、実施例3と同様に調製した塗料を同様にスプレー塗装することによって当該実施例の塗装試験片を得た。
【0058】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0059】
(実施例6)
(1)回折格子チップの作製
ピッチPを400nmとしたこと以外は上記実施例1と同様の方法で作製した金型を用いて、アルミニウムから成り、同様の2次元正弦波形状の凹凸を備えた回折格子を作製し、これを水中で粉砕することによって、厚さ400nm、最長部長さ20μm、深さ300nm、開口幅300nmの回折格子チップを得た。
【0060】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップ4と、最長部長さが60μm、厚みが900nmのアルミニウム金属薄片3を用いたこと以外は、実施例3と同様に調製した塗料を同様にスプレー塗装することによって当該実施例の塗装試験片を得た。
【0061】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0062】
(実施例7)
(1)回折格子チップの作製
ピッチPを240nm、高さを400nmとしたこと以外は、上記実施例1と同様の2次元正弦波形状の凹凸を備えた金型を作製し、この形状を同様にポリビニルアルコールに転写して、柱状体形成用の基材20を得た。
次に、このような正弦波形状凹凸を備えたポリビニルアルコール製基材20の表面に、スパッタリングによってアルミニウム(屈折率:2.6)とシリカ(屈折率:1.45)を交互に3層、合計1000nmの厚さに成膜し、都合6層から成る複合柱状体4cを形成した。(但し、本実施例の複合柱状体4cで実際に回折格子として作用するのは基材20の表面に接するアルミニウム層であるため、表1の屈折率n2は2.62となる。)
【0063】
そして、これらを同様に水中に浸漬して撹拌することにより、ポリビニルアルコール製基材20を溶解させると共に、柱状体4cを適宜分離させたのち、同様に濾過することによって、最長部長さが20μmの回折格子チップ4を得た。
【0064】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
バインダー樹脂としてポリアクリル酸メチル(屈折率n=1.49)を用い、これに、厚さ900nm、最長部長さ5μmのアルミニウム金属薄片3と、上記により得られた回折格子チップ4を30:25:45の質量比となるように加え、さらに溶媒としての酢酸ブチルを適宜混合して撹拌することにより塗料を得た。
そして、上記塗料を同様にスプレー塗装することによって、当該実施例の塗装試験片とした。
【0065】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0066】
(比較例1)
(1)塗料の調製及び塗膜の形成
回折格子チップを用いることなく、バインダー樹脂としてのウレタンアクリレートと、厚さ500nm、最長部長さ5μmのアルミニウム金属薄片3とを30:70の質量比となるように加え、さらに溶媒としての酢酸ブチルを適宜混合して撹拌することにより塗料を得た。
そして、上記塗料を同様にスプレー塗装することによって、当該比較例の塗装試験片とした。
【0067】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0068】
(比較例2)
(1)回折格子チップの作製
ピッチPを300nmとし、実施例1で作製した金型により作製したポリビニルアルコール製基材20の表面に、スパッタリングによってアルミニウムを2000nmの厚さに成膜したこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによって、厚み2000nm、最長部長さ20μmの回折格子チップを得た。
【0069】
(2)塗料の調製及び塗膜の形成
上記により得られた回折格子チップと、最長部長さが5μm、厚みが2000nmのアルミニウム金属薄片を用いたこと以外は、実施例1と同様に調製した塗料を同様にスプレー塗装することによって当該比較例の塗装試験片を得た。
【0070】
〔塗膜の評価〕
塗装試験片の塗膜の金属光沢及び光源感を同様の手法、基準で評価し、その結果を表1及び表2に併せて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
これらの表から明らかなように、回折格子チップを混合しなかったり、厚い回折格子チップや金属片を用いた比較例塗膜においては、光の回折に基づく再起反射による光源感や、金属光沢が得られず、意匠性に乏しいことが判った。
これに対して、薄い厚さの回折格子チップと共に、金属薄片を含む本発明の塗膜においては、上記回折格子チップや金属薄片が、塗膜中において塗装面にほとんど平行に配向しているため、金属光沢に優れると共に、光の再起反射による光源感が得られ、意匠性に優れた塗膜であることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1 構造発色性金属調塗膜
2 バインダー樹脂
3 金属薄片
4 回折格子チップ
4c 柱状体
4r 凹凸(凹部)
10a 塗装面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂中に1000nm以下の厚さの金属薄片と、1000nm以下の厚さの回折格子チップを含有する塗膜であって、当該塗膜中に上記金属薄片と回折格子チップが塗装面に略平行に配向していることを特徴とする構造発色性金属調塗膜。
【請求項2】
上記回折格子チップは、その表面に錐状、錐台状、断面矩形状、半球状及び2次元正弦波の数式により規定される3次元形状から成る群から選ばれた周期的な凹凸を有し、当該凹凸のピッチをP、上記バインダー樹脂の屈折率をn1、上記回折格子チップの屈折率をn2としたとき、380nm≦(n2/n1)・P≦780nmであることを特徴とする請求項1に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項3】
上記回折格子チップは、少なくとも一端部に凹凸を備えた同一形状をなす柱状体を周期的に並設した集合体からなり、当該集合体における凹凸のピッチをP、上記バインダー樹脂の屈折率をn1、上記回折格子チップの屈折率をn2としたとき、380nm≦(n2/n1)・P≦500nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項4】
塗膜中における金属薄片と回折格子チップの合計含有量が質量比で20〜90%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項5】
塗膜中における金属薄片と回折格子チップの合計含有量に対する回折格子チップの割合が質量比で5〜70%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項6】
上記金属薄片と回折格子チップの最長部の長さが5〜60μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項7】
厚さが1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項8】
下塗り層と光透過性を有する上塗り層の間に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の構造発色性金属調塗膜を備えたことを特徴とする自動車用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20030(P2011−20030A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165724(P2009−165724)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】